皮膚科疾患とは(総論)
1. 皮膚科が診る病気の範囲:皮膚・爪・毛・汗腺まで
皮膚科の診療範囲は、私たちが一般的に「肌」と呼ぶ部分だけにとどまりません。体全体を覆う皮膚は、外からの刺激(紫外線、細菌、乾燥など)から体を守る「鎧(よろい)」のような重要な役割を担っています。この皮膚の構造と機能が正常に働かなくなると、さまざまな問題が起こります。
皮膚科専門医は、この皮膚(表皮、真皮、皮下組織)に加え、そこに関連する「付属器(ふぞくき)」と呼ばれる以下の部分も専門的に診療します(日本皮膚科学会資料)。
- 毛髪(もうはつ):抜け毛、薄毛、円形脱毛症など。単なる美容の問題ではなく、髪の健康は全身の状態を反映することもあります。
 - 爪(つめ):巻き爪、爪水虫、爪の変形や変色など。爪は健康のバロメーターとも呼ばれ、内臓の病気のサインが現れることもあります。
 - 汗腺(かんせん)・皮脂腺(ひしせん):多汗症(汗が多い)、無汗症(汗が出ない)、ニキビ、脂漏性皮膚炎など。
 
このように、皮膚科は「目に見える」体の表面に関するトラブルを幅広く扱う専門分野です。
2. 皮膚科疾患の主な分類
皮膚の病気は、その原因によっていくつかの大きなグループに分けられます。世界保健機関(WHO)はICD-11という国際的な基準を定めていますが、日本の臨床現場では、日本皮膚科学会(JDA)のガイドラインに基づき、以下のように分類されることが一般的です。
- 炎症性皮膚疾患:体の免疫反応が関係して炎症が起こるもの。代表例はアトピー性皮膚炎、乾癬(かんせん)、じんましんなどです。
 - 感染症:細菌、真菌(カビ)、ウイルスなどが皮膚に感染して起こるもの。代表例は水虫(白癬)、帯状疱疹、とびひ(伝染性膿痂疹)などです。
 - 腫瘍(しゅよう):皮膚の細胞が異常に増殖するもの。良性(ほくろ、いぼなど)と悪性(皮膚がん)があります。ほくろが急に変化した場合などは注意が必要です。
 - 薬疹・重篤皮膚有害反応:特定の薬剤に対するアレルギー反応や副作用として皮膚に症状が出るものです。
 - 外傷・熱傷:けが、やけど、床ずれ(褥瘡)なども皮膚科の重要な領域です。
 
3. 日本の受診動向と皮膚疾患の社会的負担
皮膚のトラブルは、非常に多くの人が経験する問題です。日本の厚生労働省が実施した最新の「患者調査」(令和5年)によると、「皮膚および皮下組織の疾患」で医療機関を受診した推計患者数は、調査日1日あたり外来で727.5万人、入院で117.5万人にものぼります(厚生労働省 令和5年患者調査)。
これは全診療科の中でも大きな割合を占めており、いかに多くの方が皮膚の問題で悩んでいるかを示しています。特にニキビ(尋常性痤瘡)やじんましんなどは、命に別状はなくても、かゆみや見た目の問題でQOL(生活の質)を大きく低下させる可能性があります。
4. 皮膚は「健康の鏡」:全身とのかかわり
皮膚科疾患の大きな特徴は、「目に見える」ことです。そのため、医師は皮膚の状態(発疹の色、形、分布、触った感じ)を詳しく観察すること(視診・触診)で、多くの情報を得ます。これが皮膚科診断の基本となります。
さらに重要なのは、皮膚が「内臓の鏡」とも呼ばれる点です。一見、皮膚だけの問題に見えても、実は全身の病気が隠れているサインであることがあります。例えば、頑固なかゆみが、腎臓や肝臓の機能低下、あるいは内分泌系の異常によって引き起こされることもあります。日本皮膚科学会のガイドラインでも、内臓疾患に伴う皮膚のかゆみについて専門的な検討がされています。
5. すぐ受診すべき危険なサイン(レッドフラグ)
ほとんどの皮膚疾患は緊急性が低いものですが、中には迅速な対応が必要な、命に関わる可能性のある危険な状態(レッドフラグ)が存在します。以下のような症状が見られた場合は、夜間や休日であっても直ちに医療機関(救急外来または皮膚科)を受診してください。
- 高熱を伴い、口や目の粘膜がただれ、全身に水ぶくれや皮むけが急速に広がった場合:これはスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)といった重篤な薬疹の可能性があります(JDAガイドライン)。
 - 広範囲のやけど(熱傷):特に水ぶくれができる(II度)以上のやけどが手のひら数枚分を超える場合は、専門的な管理が必要です(熱傷診療ガイドライン)。
 - ほくろ(黒いシミ)の形が急に変わった、出血した、急速に大きくなった場合:悪性黒色腫(メラノーマ)など、皮膚がんの可能性があります。ABCDEルール(Asymmetry:非対称, Border:境界不明瞭, Color:色むら, Diameter:直径6mm以上, Evolving:形状変化)が国際的な目安とされています。
 
よくある質問(FAQ)
Q1:皮膚科ではどんな病気を診てもらえますか?
A:皮膚、皮下組織、そして付属器(毛髪、爪、汗腺、皮脂腺)に関するあらゆる疾患を診療します。湿疹、アトピー性皮膚炎などの炎症性疾患、感染症、良性・悪性の腫瘍、薬疹、やけど、脱毛症など、その範囲は非常に広範です(日本皮膚科学会資料)。
Q2:皮膚の病気はどのように分類されますか?
A:原因に基づき、大きく「炎症性」(アトピーなど)、「感染性」(水虫、ウイルス性イボなど)、「腫瘍性」(ほくろ、皮膚がんなど)、「付属器疾患」(ニキビ、脱毛症など)、「外傷性」(やけど、けがなど)に大別されます。診断や統計にはICD-11(国際疾病分類)が、治療方針の決定には日本皮膚科学会の各疾患ガイドラインが用いられます。
Q3:日本で皮膚の病気で受診する人は多いですか?
A:はい、非常に多いです。厚生労働省の令和5年(2023年)の調査では、「皮膚および皮下組織の疾患」で受診した外来患者数は、調査日だけで約727.5万人にのぼると推計されています(厚労省 患者調査)。これは全診療科の中でも上位に入る数字です。
Q4:皮膚の症状が内臓の病気と関係あるというのは本当ですか?
A:本当です。皮膚は「内臓の鏡」とも呼ばれ、全身の健康状態を反映します。例えば、全身の頑固なかゆみが腎機能や肝機能の低下のサインである場合や、特定の皮膚症状が膠原病(自己免疫疾患)の初発症状である場合もあります。
Q5:どんな症状が出たらすぐに病院に行くべきですか?
A:高熱を伴う急速な水ぶくれや粘膜(口、目)のただれ、広範囲のやけど、急激に形や色が変わるほくろは、緊急性が高い危険なサイン(レッドフラグ)です。これらの皮膚の発疹や変化が見られた場合は、すぐに医療機関を受診してください。
皮膚の構造と働き(基礎知識)
前節では皮膚科疾患の全体像について学びました。では、その舞台となる「皮膚」自体は、一体どのような仕組みになっているのでしょうか。皮膚は単なる「体のカバー」ではなく、外部の脅威から私たちを守り、体温を調節し、感覚を伝える、非常に高性能な「臓器」です。
このセクションでは、皮膚の基本的な構造と、その驚くべき働きについて、基礎からわかりやすく解説します。この仕組みを知ることは、次に続く「なぜ症状(かゆみ、乾燥、発疹など)が起こるのか」を理解するための大切な土台となります。
1. 皮膚は三層でできている:表皮・真皮・皮下組織の役割
皮膚は、外側から大きく分けて3つの層が重なってできています。それぞれが異なる役割を担っています。
- 表皮(ひょうひ):一番外側にある層で、厚さは平均約0.2mm(食品用ラップほど)と非常に薄いですが、私たちを守る「最前線のバリア」です。
 - 真皮(しんぴ):表皮の下にある層で、厚さは約2mm。皮膚のハリや弾力(クッション性)を保つ本体とも言える部分です。
 - 皮下組織(ひかそしき):一番内側で、主に脂肪でできています。外からの衝撃を和らげるクッションの役割や、体の熱を逃がさない「断熱材」の役割を果たします。
 
これらの層がどのように連携しているかを知ることは、皮膚の構造と機能を深く理解する第一歩です。国際的な医学情報データベースによれば、これら三層構造が連携して皮膚の多様な機能を支えているとされています(StatPearls)。
2. 最強のバリア「表皮」:角質層と弱酸性の秘密
皮膚の機能で最も重要なのが「バリア機能」であり、これを主に担っているのが表皮の一番外側にある「角質層(かくしつそう)」です。
- レンガとモルタルの構造:角質層は、死んだ皮膚細胞である「角質細胞」(レンガ)と、その隙間を埋める「細胞間脂質(セラミドなど)」(モルタル)で構成されています。日本皮膚科学会が参照する国際コンセンサスでも、この構造が水分蒸発(TEWL)を防ぎ、外部刺激の侵入をブロックする鍵であるとされています。
 - タイトジャンクション:角質層の少し下(顆粒層)には、「タイトジャンクション」と呼ばれる細胞同士の強固な「留め具」があり、バリア機能をさらに強化しています。近年の九州大学の研究により、このバリアが損傷しても素早く再建される仕組みが解明されつつあります。
 - 弱酸性の「酸性被膜」:健康な皮膚の表面は、皮脂と汗が混じり合った「酸性被膜」によって、pH(ペーハー)が約4.5~5.5の弱酸性に保たれています(学術レビュー)。この弱酸性の環境が、悪玉菌の繁殖を抑え、皮膚のバリア機能維持に役立っています。
 
このバリア機能が低下すると、水分が逃げて乾燥肌(乾皮症)になったり、外部からの刺激に過敏に反応する敏感肌の状態になったりします。そのため、肌のpHバランスを保つことがスキンケアの基本となります。
3. ハリと弾力の源「真皮」:コラーゲンと血管
表皮の下にある「真皮」は、皮膚の本体とも言える部分です。ここには、肌のハリを支える「コラーゲン(膠原線維)」と、弾力を与える「エラスチン(弾性線維)」が、まるでベッドのスプリングのように張り巡らされています。このスプリングの間を、水分をたっぷり含んだ「ヒアルロン酸」などが埋めています。
シワやたるみといった肌老化の多くは、この真皮層のコラーゲンやエラスチンが紫外線などによってダメージを受けることで発生します。また、真皮には毛細血管が張り巡らされており、表皮に栄養を届けたり、体温を調節したりする重要な役割も担っています。どうすれば肌のコラーゲンを守れるかは、エイジングケアの重要なテーマです。
4. 皮膚の「付属器」:毛・爪・汗腺・皮脂腺
皮膚には、その働きを助ける「付属器(ふぞくき)」と呼ばれる器官がたくさんあります。これらも皮膚科の重要な診療対象です。
- 汗腺(かんせん):汗を出す管です。主に体温調節を行う「エクリン汗腺」と、脇の下などにあり思春期以降に活発になる「アポクリン汗腺」があります(StatPearls)。
 - 皮脂腺(ひしせん):皮脂(あぶら)を分泌し、毛穴を通じて皮膚表面に出て、汗と混じり「酸性被膜」を作ります。ニキビは、この皮脂腺のトラブルが主な原因です。
 - 毛(け):頭皮や体を保護する役割があります。髪の健康は、皮膚科学の重要な分野の一つです。
 - 爪(つめ):指先を保護する硬い皮膚の一部です。体調の変化が現れやすく、「爪は健康のバロメーター」とも呼ばれます。
 
5. その他の重要な働き:免疫・感覚・ビタミンD合成
皮膚には、これまでに述べた以外にも、生命維持に欠かせない多くの機能が備わっています。
- 免疫機能:皮膚は、体内に侵入しようとする細菌やウイルスと戦う「免疫」の最前線です。表皮には「ランゲルハンス細胞」という見張り役の細胞がおり(StatPearls)、侵入者を見つけると免疫システム全体に警告を送ります。「肌免疫」は、アトピー性皮膚炎などを理解する上で非常に重要です。
 - 感覚機能:皮膚には多くの神経終末や「受容器」があり、触れた感覚(触覚)、圧迫(圧覚)、熱さ・冷たさ(温痛覚)などを脳に伝えます。
 - ビタミンD合成:皮膚は、日光(紫外線UVB)を浴びることで、体内でビタミンD3を作り出す唯一の場所です(NIH資料)。ビタミンDは骨の健康に不可欠です。ただし、過度の日光浴は皮膚がんのリスクを高めるため、正しい日光浴のガイドラインを守ることが推奨されます。
 
よくある質問(FAQ)
Q1: 皮膚はなぜ3つの層に分かれているのですか?
A: それぞれの層が専門的な役割を分担するためです。一番外側の「表皮」は防水とバリア機能、真ん中の「真皮」はクッション性と栄養補給、一番下の「皮下組織」は断熱と衝撃吸収、というように、効率よく体を守るための構造になっています。
Q2: 「肌のバリア機能」とは、具体的に何ですか?
A: 主に表皮の一番外側にある「角質層」のことです。角質層は「レンガ(角質細胞)」と「モルタル(細胞間脂質)」に例えられ、この構造がしっかりしていると、体内の水分が蒸発するのを防ぎ、同時に外部からのアレルゲンや細菌の侵入を防いでくれます。このバリアが乱れると、乾燥や肌荒れを引き起こします。日々のスキンケアは、このバリアを守ることが基本です。
Q3: 「毛穴」とは何ですか?
A: 「毛穴」は、毛(もう)が生えてくる穴であると同時に、「皮脂腺」という皮脂(あぶら)を出す腺の出口でもあります。皮脂は皮膚を守るために必要ですが、過剰になったり詰まったりするとニキビの原因となります。詳しい毛穴ケアについては別の記事で解説しています。
Q4: 日光に当たらないとビタミンDが作れないというのは本当ですか?
A: はい、本当です。皮膚は、食事から摂取する以外に、日光(紫外線UVB)を浴びることでビタミンDを自ら合成できる唯一の臓器です。ビタミンDは骨の健康などに不可欠ですが、日焼けは皮膚老化や皮膚がんのリスクを高めます。そのため、日焼け止めを適切に使用しつつ、適度な日光浴(例えば、夏場なら木陰で数分程度)を心がけるバランスが大切です。
よくある症状一覧(かゆみ・発疹・乾燥・痛み など)
前節では、皮膚がどのように作られ、私たちを守っているか(皮膚の構造と働き)について学びました。では、その皮膚のバリアが壊れたり、何かに反応したりすると、どのような「サイン」が現れるのでしょうか。
このセクションでは、皮膚科を受診するきっかけとして最も多い「かゆみ」「発疹」「乾燥」「痛み」という4つの代表的な症状に焦点を当てます。これらの症状が「なぜ起こるのか」ではなく、「どのように観察すればよいか」を理解することは、ご自身の状態を把握し、次の「受診の目安」を判断するための重要な第一歩となります。
1. かゆみ(掻痒):最もよくある「我慢できない」サイン
「かゆみ(掻痒:そうよう)」は、皮膚のトラブルで最も多く、そして最もつらい症状の一つです。「とにかくかゆくて眠れない」「掻きむしってしまい、朝起きると血が出ている」といった経験は、生活の質(QOL)を大きく低下させます。
この「掻く」という行為が、さらに皮膚のバリアを壊し、炎症を引き起こし、結果としてさらにかゆくなる…この「かゆみと掻破(そうは)の悪循環(Itch-Scratch Cycle)」に陥ることが、問題を長引かせる最大の原因です。特に夜間のかゆみは睡眠を妨げ、心身ともに疲弊させてしまいます。
医学的には、かゆみが6週間以上続く場合を「慢性掻痒症」と呼び、専門的な評価が必要なサインとされています。もし受診する際は、ご自身の「最もひどい時のかゆみ」を0(全くない)から10(想像しうる最悪のかゆみ)までの数値(NRSと呼ばれます)で医師に伝えると、重症度が正確に伝わります。
かゆみの原因は非常に多様で、全身のかゆみが内臓の病気から来ている場合もあれば、特定の部分だけの皮膚の問題である場合もあります。
2. 発疹(皮疹):皮膚が示す「目に見える」サイン
「発疹(ほっしん)」または「皮疹(ひしん)」とは、皮膚の見た目が変化すること全般を指す言葉です。医師は、この発疹の「形」を非常に注意深く観察して、病気の原因を探ります。皆さんも、ご自身の症状を観察する際の参考にしてください。
- 丘疹(きゅうしん):小さな「ブツブツ」とした隆起。
 - 局面(きょくめん):丘疹が集まるなどして、盛り上がった範囲が「面」状に広くなったもの。
 - 水疱(すいほう):「水ぶくれ」のこと。水ぶくれができる原因は様々です。
 - 膿疱(のうほう):「膿(うみ)」を持った白いブツブツ。
 - 膨疹(ぼうしん):蚊に刺されたように盛り上がる「みみずばれ」。英国国民保健サービス(NHS)によれば、通常数時間以内に消えるのが特徴で、蕁麻疹(じんましん)でよく見られます。
 - 鱗屑(りんせつ):皮膚の表面がカサカサして「フケ」のように剥がれ落ちること。
 
例えば、汗をかいた後に小さな水疱や赤いブツブツが出れば「あせも(汗疹)」かもしれません(NHS)。どのような皮膚の発疹であれ、その形を観察することが重要です。ただし、痛みや水疱を伴う多形紅斑のような重篤な反応は緊急評価が必要です。
3. 乾燥(ドライスキン):かゆみを引き起こすバリアの乱れ
「肌がつっぱる」「粉をふいたようにカサカサする」「ひび割れて痛い」。これらは「乾燥(ドライスキン)」の典型的なサインです。
これは、前節で学んだ皮膚の「バリア機能」が低下し、水分がどんどん逃げている状態です。特に高齢の方や、空気が乾燥する冬場には、皮脂(あぶら)の分泌が減る「皮脂欠乏症(ひしけつぼうしょう)」になりやすくなります(日本皮膚科学会)。
乾燥した皮膚は非常にデリケートで、外部からのわずかな刺激にも敏感になり、かゆみを感じやすくなります。つまり、「乾燥」が「かゆみ」を引き起こし、掻くことでさらにバリアが壊れて乾燥が進む、という悪循環の入り口になるのです。適切な乾燥肌対策(保湿ケア)は、かゆみの予防にも直結します。
4. 痛み(疼痛):チクチク、ズキズキ、危険なサイン
皮膚の症状には、かゆみだけでなく「痛み」を伴うこともあります。痛みの種類を区別することが重要です。
- ズキズキする痛み・熱感:炎症や感染が疑われます。例えば、皮膚が赤く腫れ上がり、熱感と強い痛みを伴う場合、「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」などの細菌感染症の可能性があり、早急な治療が必要です。
 - チクチク・ピリピリする痛み:神経が刺激されているサインかもしれません。
 
特に注意が必要なのが「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」です。これは、体の左右どちらか一方に、ピリピリとした痛みや違和感がまず現れ、その数日後に赤い発疹と水ぶくれが帯状に出る病気です(日本皮膚科学会GL)。特に顔面、特に目や鼻の周りに出た場合は、重い合併症のリスクがあるため、緊急の対応が求められます。
他にも、おへそが痛くて膿が出るなど、特定の部位に痛みと膿がある場合も、感染症のサインです。
5. 症状を医師に正しく伝える「観察メモ」のコツ
これらの症状が現れたとき、ただ「かゆい」「痛い」と伝えるだけでなく、もう少し具体的に観察することが、正確な診断への近道です。
- いつから?:6週間以上続いていますか?
 - どこに?:全身ですか? 左右対称ですか? それとも片側だけですか?
 - どんな形?:ただ赤いだけ? ブツブツ? 水ぶくれ? フケのよう?
 - どのくらい?:かゆみや痛みは10段階でどのレベルですか?
 - いつひどくなる?:夜? 汗をかいたとき?
 
スマートフォンで写真を撮っておくことも非常に有効です。これらの情報を整理しておくことが、肌トラブルの科学的解決策を見つけるための第一歩であり、次のセクションで解説する「受診の目安」を判断する上で役立ちます。
受診の目安・危険サイン(今すぐ受診/救急の判断)
前節では、かゆみ、発疹、乾燥、痛みといった「よくある症状」について詳しく見ました。しかし、これらの症状が現れたとき、「これは様子を見ても大丈夫なものか?」「それとも、すぐに病院へ行くべき危険なサインなのか?」と不安になることも多いでしょう。
このセクションは、その判断のための「ものさし」を提供します。皮膚の症状は、そのほとんどが緊急性の低いものですが、ごくまれに生命や重要な機能(視力など)に関わる重大な病気のサインが隠れていることがあります。ここでは、「今すぐ救急車を呼ぶべき(または救急外来へ)」「今日中に受診すべき」「数日以内に受診すべき」という緊急度のレベル分けを、公的なガイドラインに基づき、わかりやすく解説します。
1. 今すぐ救急へ(119番または救急外来)
以下の症状は、生命に関わる、あるいは重篤な後遺症を残す可能性がある「レッドフラグ(危険な旗)」です。一つでも当てはまる、または判断に迷う場合は、ためらわずに救急車(119番)を呼ぶか、すぐに救急外来を受診してください。
- 全身の蕁麻疹(じんましん) + 呼吸困難・息苦しさ・声がれ:これはアナフィラキシーショックという重篤なアレルギー反応の可能性があります。全身の皮膚症状に加え、呼吸器や循環器の症状が出た場合は一刻を争います。
 - 広範囲の水ぶくれ・皮むけ + 高熱 + 粘膜(口、目、陰部)のただれ:スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)といった、重篤な薬疹や感染症が疑われます(日本皮膚科学会GL)。これらは単なる水ぶくれとは異なり、広範囲の皮膚が火傷のように剥がれ落ちる危険な状態です。
 - 急速に広がる赤み + 激しい痛み + 腫れ:特に手足がパンパンに腫れ、耐え難い痛みを伴う場合、「壊死性皮膚感染症(人食いバクテリアなど)」の可能性があります(国立感染症研究所)。進行が非常に速く、緊急手術が必要です。
 - 高熱 + 押しても消えない紫色の点状出血(紫斑):英国NHSなどが推奨する「グラス・テスト」(透明なコップなどで発疹を圧迫しても赤みが消えない)で確認できる紫斑は、髄膜炎菌感染症など敗血症のサインかもしれません(国立感染症研究所)。単なるあざとは異なり、命に関わります。
 
2. 当日中(または24時間以内)に受診すべき症状
今すぐ救急車を呼ぶほどではないかもしれませんが、合併症や重症化のリスクを防ぐために、その日のうちに(夜間であれば翌朝一番に)医療機関を受診すべき症状です。
- 帯状疱疹(たいじょうほうしん)、特に顔半分(特に目や鼻の周り)に現れた場合:帯状疱疹は体の片側にピリピリした痛みを伴う水ぶくれが出ますが、特に顔面、特に目の周りにできた場合、ウイルスが目を攻撃して失明などの重い後遺症を残すリスクがあります。
 - 顔面(特に目の周り)や陰部が赤く腫れて痛む場合:蜂窩織炎(ほうかしきえん)という細菌感染症が疑われます。顔面や陰部は組織が柔らかく、感染が広がりやすいため、早期の抗菌薬治療が必要です(NHS)。
 - 免疫力が低下している方(化学療法中、ステロイド内服中など)の新たな発疹や感染の兆候:健康な人なら問題にならないような感染症でも重症化しやすいため、早めに医師に相談してください。
 - 乳幼児(特に生後3ヶ月未満)の発熱を伴う発疹:国立成育医療研究センターによれば、幼い赤ちゃんの「発熱+発疹」は、重症な感染症を見分けるのが難しいため、早期の受診が原則です。
 
3. 数日以内に受診(様子を見て悪化する場合)
緊急ではありませんが、セルフケアで改善しない、または徐々に悪化している場合は、皮膚科専門医の診断が必要です。
- 市販薬を1〜2週間使っても改善しない、または悪化する湿疹や蕁麻疹。
 - 「ほくろ」の形や色が変化してきた場合:国立がん研究センターが示す「ABCDEルール」(A:形が非対称、B:境界が不鮮明、C:色が不均一、D:直径6mm以上、E:形状が変化)は、悪性黒色腫(メラノーマ)のセルフチェックに役立ちます。かゆみを伴うほくろなど、変化に気づいたら早めに皮膚科を受診してください。
 - 特定の小児や成人の皮膚疾患が、日常生活に支障をきたしている場合。
 
よくある質問(FAQ)
Q1: じんましんが出たら、救急車を呼ぶべきですか?
A: 蕁麻疹だけであれば、多くの場合、数時間で自然に消えます。しかし、厚生労働省の注意喚起にもあるように、もし「呼吸困難」「声がれ」「めまい」「強い腹痛」などを伴う場合は、アナフィラキシーの可能性があり、直ちに救急受診が必要です。全身に急速に広がる蕁麻疹も注意深く観察してください。
Q2: 子供が熱と発疹を出しました。どうすればいいですか?
A: 国立成育医療研究センターによれば、特に生後3ヶ月未満の赤ちゃんの場合は、重症感染症の可能性があるため、すぐに医療機関(小児科)を受診してください。それ以上の年齢でも、ぐったりしている、水分が取れない、または押しても消えない紫斑(あざ)がある場合は、夜間や休日でも救急受診が必要です。
Q3: 顔が赤く腫れて痛みます。
A: 顔面の蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、英国NHSのガイドラインでも、急速に広がる可能性があるため「当日中(または緊急)の受診」が推奨されています。特に目の周りの腫れは、眼球の奥に感染が広がるリスクがあるため、放置しないでください。
このように、症状の緊急度を正しく判断することは、ご自身やご家族の健康を守るために非常に重要です。安全なタイミングで受診の判断ができたら、次に「そもそも、なぜこれらの症状が起きたのか?」という原因が気になってくるかもしれません。次のセクションでは、皮膚疾患の主な原因である「感染」「アレルギー」「自己免疫」といった要因について詳しく見ていきましょう。
主な原因・リスク因子(感染・アレルギー・自己免疫・薬剤・遺伝)
前節では、すぐに病院へ行くべき「危険なサイン」について確認しました。幸い、多くの皮膚トラブルはそこまで緊急ではありませんが、「そもそも、なぜこんな症状が起こるのだろう?」と疑問に思う方も多いでしょう。皮膚のトラブルは、単に「肌が弱い」というだけでなく、様々な要因が引き金となって現れます。
このセクションでは、皮膚疾患を引き起こす主な5つの「原因」や「リスク因子(危険因子)」について、分かりやすく解説していきます。
1. 感染(細菌・ウイルス・真菌)
私たちの皮膚は、普段は体を守る「バリア」のように働いています。しかし、小さな怪我、虫刺され、あるいは水虫(みずむし)などでできた傷口から細菌(ばいきん)や真菌(カビ)が入ると、感染症を引き起こします。
特に「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」は、注意が必要な細菌感染症です。英国国民保健サービス(NHS)によれば、皮膚のバリアが破れている状態(例:水虫や皮膚の亀裂)、むくみ(リンパ浮腫)、肥満、糖尿病などがリスクを高めるとされています(NHS)。
また、スポーツなどで肌を密着させたり、タオルを共有したりすると、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)のような薬剤耐性菌による皮膚感染症のリスクが高まることが知られています(米国CDC)。
2. アレルギー反応(アトピー・接触皮膚炎)
これは、体の「防衛システム(免疫)」が、本来は無害なもの(食べ物、花粉、金属、化学物質など)に対して過剰に反応してしまう状態です。
- アトピー性皮膚炎:代表的なアレルギー関連の皮膚疾患です。日本皮膚科学会によれば、これは皮膚のバリア機能が生まれつき低下している(例:フィラグリン遺伝子の異常)ことに加え、アレルギーを起こしやすい体質(Th2優位)が関わる複雑な病気とされています。このアトピー性皮膚炎の体質は、遺伝的要因と環境要因が組み合わさって発症します。
 - 接触皮膚炎(かぶれ):洗剤、金属(ピアスなど)、香料、ゴム製品、植物(ウルシなど)に触れることでリスクが高まります(NHS)。特にアトピー素因を持つ方は、肌のバリア機能が低下していることが多く、刺激性のかぶれも起こしやすい傾向があります。
 
3. 自己免疫・炎症性(乾癬など)
これは、アレルギーとは少し異なり、体の防衛システム(免疫)が「自分自身の正常な皮膚」を間違って攻撃してしまう状態です。
代表例が「乾癬(かんせん)」です。乾癬は遺伝的な要因を持つ人が、特定の「引き金(トリガー)」によって発症・悪化すると考えられています。米国皮膚科学会(AAD)やNHSによれば、その引き金には、咽頭炎などの感染症、肥満、喫煙、ストレス、そして皮膚への刺激(ケブネル現象と呼ばれる怪我)などが含まれます(AAD)(NHS)。
4. 薬剤性(薬疹・SJS/TEN)
「薬疹(やくしん)」とは、治療のために使用した薬が原因で起こる発疹のことです。多くは軽症ですが、ごくまれに重症化します。
前節の危険サインでも触れたSJS/TEN(スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症)も、多くは薬剤が原因です。厚生労働省やPMDA(医薬品医療機器総合機構)は、特定の薬剤(例:カルバマゼピン、アロプリノールなど)でリスクが上がること、そして日本人では特定の遺伝的背景(例:HLA-A*31:01とカルバマゼピン、HLA-B*58:01とアロプリノール)を持つ人がこれらの薬を使用すると発症しやすいことを指摘しています。
新しい薬を飲み始めてから数週間以内に発疹や発熱が出た場合は、自己判断で薬を続けず、処方した医師に速やかに相談することが極めて重要です。これはアレルギー性接触皮膚炎とは異なる、全身の重大な反応である可能性があります。
5. 遺伝的素因と環境要因(紫外線など)
多くの皮膚疾患は、一つの原因だけで起こるのではなく、生まれ持った「体質(遺伝的素因)」と、外からの「刺激(環境要因)」が組み合わさって発症します。
例えば、アトピー性皮膚炎における「フィラグリン遺伝子」の異常は、皮膚のバリア機能を低下させ、アレルゲンが侵入しやすくなる「リスク因子」の一つです(JDA)。また、その他の自己免疫性皮膚疾患でも、特定の遺伝的背景が発症のしやすさに関与していることが分かっています。
皮膚がんの最大の原因は「紫外線(UV)」ですが、国立がん研究センターの研究では、特定のウイルス(β-HPV)が紫外線と「協力」して発がんリスクを高める可能性が示されています。
このように、皮膚の症状の背後には、感染、アレルギー、自己免疫、薬剤、遺伝、環境といった複雑な要因が絡み合っています。だからこそ、「この発疹は〇〇が原因だ」と自己判断するのは難しく、時には危険です。では、医師はどのようにしてこれらの複雑な原因の中から「本当の答え」を見つけ出すのでしょうか。次のセクションでは、そのための重要なステップである「検査・診断の流れ」について詳しく見ていきましょう。
検査・診断の流れ(問診・視診・ダーモスコピー・血液・培養・病理)
前節では、皮膚のトラブルを引き起こす「主な原因(感染、アレルギー、自己免疫など)」について見てきました。では、医師はどのようにして、あなたの症状がその中のどれに当てはまるのかを突き止めるのでしょうか。皮膚の診断は、まるで探偵の仕事に似ています。
このセクションでは、診察室に入った瞬間から始まる「問診」、そして「確定診断」に至るまでの、標準的な検査・診断の流れを詳しく解説します。どのような情報を医師に伝え、どのような検査が行われるのかを知ることで、受診への不安を和らげる一助となれば幸いです。
1. 問診:診断の第一歩として最も重要な「対話」
皮膚科の診断は、患者さんとの対話である「問診(もんしん)」から始まります。これは、医師が診断を絞り込む上で最も重要な情報源です。発疹の見た目(皮疹)が似ていても、問診の内容によって疑われる病気は全く異なります。
医師は主に以下のようなことを尋ねます:
- いつからですか?(突然か、徐々にか、繰り返しているか)
 - どこから始まりましたか?(顔、手足、体幹など)
 - 症状の変化は?(広がっているか、色は変わったか)
 - かゆみや痛みは?(特にかゆみで夜眠れないか)
 - 何かきっかけは?(新しい化粧品、薬、日光、食べ物、職業上の曝露など)
 - これまでの病気(既往歴)や家族歴は?(アトピー素因、アレルギー、自己免疫疾患など)
 - 全身の症状は?(発熱、関節痛、だるさなど)
 
2. 視診と触診:皮膚科医の「目」と「手」
問診の次は、皮膚科の基本である「視診(ししん)」と「触診(しょくしん)」です。医師は、前節で学んだような皮膚の構造を熟知した上で、発疹の「正体」を観察します。
- 視診:発疹の「形」「色」「大きさ」「分布(左右対称か、片側だけか)」を詳細に観察します。
 - 触診:実際に患部に触れ、「硬さ」「熱っぽさ(熱感)」「腫れ(浮腫)」「痛み」などを確認します。
 
3. ダーモスコピー:皮膚の「中」を照らす拡大鏡
視診だけでは判断が難しい場合、特に「ほくろ」や「シミ」の診断において、強力な武器となるのが「ダーモスコピー検査」です。これは、特殊な光を当てながら皮膚の表面下を拡大して観察できる「高性能な虫眼鏡」のようなものです。
肉眼ではただの黒い点に見えても、ダーモスコピーを使うと、その色素の分布パターンや血管の形が詳細にわかります。これにより、ほくろが悪性(メラノーマ)かどうか、あるいはがんの手前の病変(日光角化症)かどうかの診断精度が飛躍的に向上します。ある系統的レビュー[1]でも、ダーモスコピーの追加がメラノーマ診断の精度を有意に改善させることが示されています。
4. 補助検査①:真菌・細菌の検査(KOH法・培養)
もし感染症が疑われる場合、原因となる病原体を特定するための検査を行います。
- KOH(ケーオーエイチ)直接鏡検法:水虫(白癬)などの真菌(カビ)が疑われる場合、患部の皮膚や爪を少しこすり取り、薬液で溶かして顕微鏡で観察します[5]。
 - 細菌培養検査:膿(うみ)が出ている皮膚の感染症の場合、その膿を採取して「培養」し、原因菌の種類と、どの抗生物質(抗菌薬)が効くかを調べます。
 
5. 補助検査②:血液検査の役割
皮膚の病気で血液検査を行うこともありますが、多くの場合、診断を「確定」させるためではなく、「補助」する目的で行われます。
例えば、アトピー性皮膚炎において、アレルギーの指標(IgEや好酸球)を測ることがありますが、日本皮膚科学会のガイドライン[3]でも、これらは診断の必須項目ではなく、重症度の評価や合併症の確認のために用いられるとされています。
また、皮膚の症状が膠原病などの自己免疫疾患の一部であると疑われる場合は、自己抗体(ANAなど)を調べるために血液検査が非常に有用です。
6. 確定診断:皮膚生検(病理検査)
問診、視診、ダーモスコピー、その他の検査を行っても診断が難しい場合や、悪性腫瘍(がん)を強く疑う場合には、「確定診断」のために皮膚生検(ひふせいけん)[6]が行われます。
これは、局所麻酔をした上で、診断に必要な最小限の皮膚(多くは直径数ミリ程度)を採取し、それを顕微鏡で詳細に調べる「病理検査」に提出する手技です。悪性腫瘍の診断においては、日本皮膚科学会のガイドライン[2]でも、この病理検査による確定診断がゴールドスタンダード(最も信頼できる基準)とされています。
採取した部位は数針縫合することがありますが、その後の傷跡のケアも重要です。この検査により、炎症の種類や、良性・悪性の最終的な判断が下されます。どのような傷跡の治療が必要になるかも、この結果次第です。
よくある質問(FAQ)
Q1:ほくろの診断で、ダーモスコピーは必ず受けるべきですか?
A:必須ではありませんが、強く推奨されます。肉眼だけでは悪性(メラノーマ)との区別が難しい場合でも、ダーモスコピーを用いることで診断の精度が大きく向上するという科学的根拠[1]があります。痛みはなく、数分で終わる簡単な検査です。
Q2:アトピー性皮膚炎の診断に血液検査は必要ですか?
A:日本皮膚科学会のガイドライン[3]によれば、アトピー性皮膚炎の診断は、主に特徴的な症状や経過(問診・視診)に基づいて行われます。血液検査(IgE値など)は、診断の「補助」や重症度の「評価」、食事との関連などを調べるために行われますが、必須ではありません。
Q3:水虫(白癬)の検査(KOH法)は痛いですか?
A:痛みはほとんどありません。検査では、患部のカサカサした皮膚の表面(鱗屑:りんせつ)をピンセットやメスで軽くこするだけです。チクッとしたり出血したりすることは通常ありません[5]。正しい水虫の治療のためにも、正確な診断が重要です。
Q4:皮膚生検(皮膚の一部を採る検査)とは何ですか?
A:診断を確定させるために、皮膚を非常に小さく(直径2~5mm程度)円形に切り取る検査です[6]。局所麻酔の注射をするため、検査中の痛みはありません。検査後は1~2針縫うか、テープで圧迫固定します。悪性腫瘍の診断や、複雑な皮膚炎の鑑別に不可欠です。傷跡の種類や大きさは最小限になるよう配慮されます。
Q5:がんが疑われる場合、すぐに生検になりますか?
A:臨床所見やダーモスコピー検査で悪性の疑いが強い場合、できるだけ早期に皮膚生検を行い、病理検査で確定診断をつけることが日本のガイドラインでも推奨[2]されています。これにより、その後の治療方針(切除範囲など)が正確に決まります。
このように、皮膚科の診断は、丁寧な「問診」から始まり、視診、ダーモスコピー、そして必要に応じた検査を組み合わせて進められます。では、これらの情報を手にした医師は、次に何を行うのでしょうか?それは、似たような症状を示す病気同士をふるいにかける「鑑別診断」というプロセスです。次のセクションでは、その「鑑別診断の考え方」について詳しく見ていきましょう。
鑑別診断の考え方(似た症状を見分けるポイント)
前節では問診や視診、ダーモスコピーなどの基本的な検査・診断の流れについて解説しました。しかし、皮膚の症状は非常に似ているものが多く、正しい治療を行うためには、それらを見分ける「鑑別診断」の考え方が不可欠です。
例えば、同じ「赤い発疹」でも、それが炎症によるものか、出血によるものか、あるいは感染症なのかを見極める必要があります。このセクションでは、皮膚科医がどのようにして似た症状を見分けているのか、その思考の枠組みと具体的なポイントを、日常生活にも役立つ形で分かりやすく解説します。
形態・分布・時間軸:鑑別の「3つの柱」
皮膚の症状を正確に把握するため、専門家は主に「形態(見た目)」「分布(どこに出ているか)」「時間経過」の3つの柱で判断します。
- 形態(見た目):症状が始まったばかりの「原発疹(げんぱつしん)」が重要です。例えば、単なる皮膚の発疹なのか、水ぶくれ(水疱)なのか、膿(膿疱)なのか。また、色調も大切で、指で押して赤みが消えれば「炎症」、消えなければ「紫斑(しはん)」、つまり内出血の可能性を考えます。
 - 分布(どこに):左右対称か、片側だけか(例:帯状疱疹)、日光が当たる場所か、衣服で擦れる場所か、などで原因を絞り込みます。
 - 時間経過:症状がどれくらい続いているかも重要な手がかりです。数時間で消えるか、数日続くかで、鑑別すべき疾患は大きく変わります。
 
「かゆみ」か「痛み」か:症状の性質で見分ける
症状の性質も鑑別の大きなポイントです。「かゆみ」が主な症状であれば、湿疹や蕁麻疹(じんましん)、あるいはアトピー性皮膚炎などを考えます。これはかゆみの原因として非常に一般的です。特に夜間に強くなるかゆみは、特定の疾患(例:疥癬)を強く疑うサインとなります。全身のかゆみが続く場合は、内臓の病気が隠れている可能性も探ります。
一方、「痛み」が優位な場合は注意が必要です。ズキズキとした痛みを伴う赤い腫れは蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの細菌感染症や帯状疱疹を疑います。もし症状の広がりに比べて「不釣り合いなほどの激痛」がある場合は、英国NICEガイドラインでも警告されているように、壊死性軟部組織感染症(人食いバクテリア)などの緊急事態の可能性があり、直ちに医療機関を受診する必要があります。
よくある「似た症状」の見分け方
臨床現場では、特に間違いやすい「ペア」が存在します。ここでは代表的な例をいくつか紹介します。
1. 蜂窩織炎 vs うっ滞性皮膚炎
どちらも足(特にすね)が赤く腫れることが多いですが、見分けのポイントがあります。蜂窩織炎は細菌感染症であり、多くは片足に発症し、熱感、強い圧痛(押すと痛い)を伴い、急速に広がります。一方、うっ滞性皮膚炎は血流の滞りが原因で、両足に対称的に見られることが多く、長期的な色素沈着や浮腫(むくみ)を伴いますが、蜂窩織炎ほどの急激な痛みや熱感は少ないのが特徴です。
2. 湿疹 vs 白癬(たむし・水虫)
どちらも円形でカサカサした赤い発疹(鱗屑性紅斑)を作ることがあります。しかし、白癬(カビの一種)は、症状が外側に向かって広がり、中心部が治ったように見える「環状(わっか状)」の形態をとることが典型です。日本皮膚科学会のガイドラインでも、この辺縁の活動性(盛り上がりやカサカサ)が診断の手がかりとされています。一方、湿疹(皮膚炎)では、このようなはっきりとした中心治癒傾向は見られないことが多いです。
3. 蕁麻疹 vs 薬疹・ウイルス発疹
蕁麻疹(じんましん)の最大の特徴は「一過性」であることです。NICE CKS(英国の臨床知識サマリー)によれば、個々の発疹(膨疹)は通常24時間以内に跡形もなく消え、別の場所に出現します。もし赤い発疹が数日間同じ場所に留まっている場合は、蕁麻疹ではなく、薬疹(薬のアレルギー)やウイルス感染に伴う発疹を疑う必要があります。
4. 帯状疱疹 vs 単純ヘルペス
どちらも痛みを伴う小さな水疱が集まって発生します。最大の違いは「分布」です。帯状疱疹は、体の左右どちらか片側の神経の走行に沿って(皮節性)、帯状に出現します。一方、単純ヘルペス(口唇ヘルペスなど)は、神経の走行とは関係なく、特定の場所(口唇、性器など)に局所的に発生し、再発しやすい特徴があります。
5. メラノーマ vs 良性のほくろ
ほくろやシミが悪性(メラノーマ)かどうかを見分けるためには、「ABCDEルール」が国際的に用いられています。国立がん研究センターも推奨するこのルールは、A(Asymmetry:非対称性)、B(Border:境界が不規則)、C(Color:色むらがある)、D(Diameter:直径6mm以上)、E(Evolving:形や大きさが変化する)の頭文字をとったものです。これらの兆候が見られるほくろは注意が必要です。
押しても消えない紫斑(しはん)の重要性
赤い発疹を見たら、まず指で数秒間圧迫してみることが重要です。もし押しても赤みが消えない場合、それは「紫斑」と呼ばれ、炎症ではなく皮下での出血を示しています。これは単なる「あざ」(外傷)であることもありますが、発熱、関節痛、腹痛などを伴う場合は、血管炎や血小板減少症など、全身性の重篤な病気のサインである可能性があります。このような場合は、速やかに内科や皮膚科の専門医を受診してください。
鑑別診断に関するよくある質問
Q1: 蕁麻疹と薬疹はどう違いますか?
A: 最大の違いは「時間」です。蕁麻疹の個々の発疹(膨疹)は、通常24時間以内に跡形もなく消えます。一方、薬疹やウイルス性発疹は、同じ場所に数日間発疹が持続することが一般的です。
Q2: 足の赤い腫れが蜂窩織炎かどうかわかりません。
A: 蜂窩織炎は細菌感染であり、強い痛み、熱感、圧痛を伴い、急速に広がることが特徴です。もし、長期間続いているむくみや色素沈着がベースにある場合は、うっ滞性皮膚炎の可能性も考えます。いずれにせよ、足が赤く腫れた場合は自己判断せず、早期に受診することが重要です。
このように、症状の見た目、場所、時間経過、性質(かゆみ・痛み)などを組み合わせることで、原因となる疾患を絞り込んでいきます。次節からは、これらの鑑別診断の考え方に基づき、代表的な皮膚科疾患について具体的に解説していきます。
代表的な疾患ガイド
前節では、似た症状を見分けるための鑑別診断の考え方について学びました。このセクションでは、その知識を基に、皮膚科でよく見られる代表的な疾患をカテゴリー別に詳しく掘り下げていきます。ここで紹介するのはあくまで一部ですが、日本の診療ガイドラインに基づいた最新の情報を中心に解説します。
炎症性皮膚疾患(アトピー・接触皮膚炎・乾癬など)
皮膚の「炎症」は、赤み、かゆみ、腫れなどを引き起こす最も一般的な反応の一つです。代表的な疾患には以下のようなものがあります。
- アトピー性皮膚炎: 強いかゆみを伴い、良くなったり(寛解)悪くなったり(増悪)を繰り返す慢性の疾患です。日本皮膚科学会の2024年最新ガイドラインによれば、治療の基本は「保湿」によるスキンケアと「ステロイドやタクロリムスなどの抗炎症外用薬」です。最近では、中等症から重症の場合、生物学的製剤やJAK阻害薬といった全身治療(注射や内服薬)も重要な選択肢となっています。
 - 接触皮膚炎(かぶれ): 特定の物質が肌に触れることで起こる炎症です。ウルシなどのアレルギー性のものと、強い洗剤などの刺激性のものがあります。ガイドラインでは、原因物質を特定する「パッチテスト」を行い、その物質を避けることが治療の基本とされています。
 - 乾癬および関連疾患: 乾癬は、皮膚が赤く盛り上がり、銀白色のフケのようなものが付着する病気です。また、関連する掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は、手のひらや足の裏に膿(うみ)ができます。喫煙や金属アレルギーが関与することもあります。治療は外用薬、光線療法、全身療法を段階的に行います。
 
感染症(ウイルス・真菌・細菌)
皮膚は常に外部の病原体と接しています。バリア機能が低下すると、ウイルス、真菌(カビ)、細菌による感染症を引き起こします。
- 帯状疱疹(ウイルス): 過去に水ぼうそうにかかった人が、加齢や疲労で免疫力が低下したときに、体内に潜んでいたウイルスが再び活性化して発症します。体の片側(左右どちらか)に、神経の走行に沿って(デルマトーム)帯状の痛みを伴う水疱が出るのが特徴です。2025年の最新ガイドラインでは、早期の抗ウイルス薬投与が推奨されています。特に目の周りや耳の帯状疱疹は、視力障害や顔面神経麻痺のリスクがあり緊急性が高いため、直ちに専門医(皮膚科・眼科・耳鼻科)の受診が必要です。
 - 白癬(真菌): いわゆる水虫(足白癬)やたむし(体部白癬)は、白癬菌という真菌(カビ)が原因です。皮膚科では顕微鏡検査(KOH法)で菌を確認して診断します。治療は主に抗真菌薬の塗り薬ですが、爪白癬などでは飲み薬が必要になることもあります。
 - 細菌感染症: 「とびひ」(伝染性膿痂疹)は、あせもや虫刺されを掻き壊した傷から細菌が入り、水疱やかさぶたが広がります。一方、「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」は、皮膚のより深い層での感染症で、赤く腫れて熱を持ち、痛みを伴います。CDC(米国疾病予防管理センター)のガイダンスにもある通り、蜂窩織炎で発熱や悪寒など全身の症状を伴う場合は、速やかな医療機関の受診が必要です。
 
腫瘍(皮膚がん)と前がん病変
皮膚にも「できもの」、すなわち腫瘍ができることがあります。良性のもの(ほくろやイボなど)が多いですが、悪性(皮膚がん)の可能性も常に念頭に置く必要があります。
- 基底細胞癌 (BCC) と 有棘細胞癌 (SCC): 基底細胞癌は日本で最も頻度の高い皮膚がんで、通常、転移は稀です。有棘細胞癌は紫外線のダメージや古い傷跡、やけどの跡から発生することがあります。これらは早期発見と外科的切除が基本となります。
 - メラノーマ(悪性黒色腫): ほくろのがんとも呼ばれ、悪性度が高いがんです。2025年の改訂ガイドラインでも、早期発見の重要性が強調されています。「ABCDEルール」(A: Asymmetry/左右非対称、B: Border/境界がギザギザ、C: Color/色にムラがある、D: Diameter/直径6mm以上、E: Evolving/形や大きさが変化する)は、危険なほくろを見分ける目安となります。
 - 日光角化症 (AK): 長年の紫外線ダメージが蓄積した顔や手の甲などにできる、赤みやカサカサした病変です。以前は「前がん病変」と呼ばれていましたが、米国立がん研究所(NCI)や最新の知見では「SCC in situ(ごく早期の有棘細胞癌)」として、がんの連続体の一部と捉えられることが増えています。放置せずに治療することが推奨されます。
 
脱毛症、爪の異常、その他の疾患
皮膚科は、皮膚本体だけでなく、毛髪や爪の疾患、さらには全身の病気と関連する皮膚症状も扱います。
- 脱毛症: 円形脱毛症は自己免疫が関与するとされ、2024年のガイドラインではJAK阻害薬などの新しい治療法も整理されました。また、男性型・女性型脱毛症(AGA/FAGA)も、ガイドラインに基づいた内服薬や外用薬による治療が行われます。
 - 爪の疾患: 巻き爪(陥入爪)は、不適切な爪の切り方や靴による圧迫が原因となることが多く、痛みを伴います。また、前述の白癬菌が爪に感染する「爪白癬」も、根気強い治療が必要です。
 - 血管炎・膠原病: 皮膚の症状が、体内の免疫システムや血管の異常を反映することもあります。皮膚血管炎では、触れるとしこりのある紫色のあざ(紫斑)や潰瘍が見られ、内臓の病気が隠れていることもあります。
 
代表的な疾患に関するよくある質問
Q1: アトピー性皮膚炎は大人になれば治りますか?
A: かつては小児期に治ることが多いとされていましたが、近年は成人になっても続く方や、成人になってから発症する方も増えています。アトピー性皮膚炎は、症状が落ち着いた「寛解」と、悪化する「再燃」を繰り返す慢性的な疾患です。目標は「完治」よりも、炎症と痒みをコントロールし、再燃を防ぎながらQOL(生活の質)を改善することに置かれます。
Q2: 帯状疱疹は市販薬で様子見しても良いですか?
A: 推奨されません。ガイドラインでも示されている通り、早期(できれば皮疹出現から72時間以内)の抗ウイルス薬投与が、痛みを軽くし、帯状疱疹後神経痛(PHN)という厄介な後遺症を防ぐために非常に重要です。特に顔、目、耳の周辺に症状が出た場合は、合併症のリスクが高いため直ちに受診してください。
Q3: 爪が白く濁って厚いのは、すべて爪水虫ですか?
A: その可能性が高いですが、すべてではありません。乾癬(かんせん)による爪の変化や、爪甲ジストロフィーなど、他の爪の病気との見分けが必要です。自己判断で市販薬を長期間使用する前に、皮膚科で真菌学的検査(顕微鏡検査)を受け、爪白癬と確定診断された上で、適切な外用薬や内服薬の治療を受けることが完治への近道です。
年齢・ライフステージ別の皮膚トラブル(小児・思春期・妊娠・更年期・高齢者)
これまで代表的な皮膚疾患の概要を見てきましたが、皮膚の悩みは年齢やライフステージによって大きく変わるものです。成長、ホルモンバランスの変化、そして加齢という自然なプロセスが、皮膚の状態に深く関わっています。このセクションでは、小児期から高齢期まで、各世代で特に注意が必要な皮膚トラブルと、その科学的根拠に基づいた対処法を解説します。
乳幼児〜学童に多い湿疹と正しいスキンケア
乳幼児から学童期にかけて最も注意が必要なのは、アトピー性皮膚炎(AD)です。日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024によれば、基本はスキンケア(特に保湿)と、炎症を抑えるための外用ステロイドやタクロリムス軟膏の適切な使用です[1]。年齢に応じた標準治療を早期に開始することが、良好な状態を保つ鍵となります。
また、この時期のアトピー性皮膚炎の二次感染を防ぐためにも、皮膚を清潔に保つことは重要ですが、同ガイドライン[1]では沐浴剤の使用は推奨されていません。適切な洗浄と十分な保湿という基本ケアが優先されます。食物アレルギーとの関連については、予防的な食物除去は推奨されておらず、悪化が明確に確認された場合のみ医師の指導のもとで行われます[1]。
中高生のニキビは“期間と組み合わせ”がカギ
思春期に入ると、ホルモンバランスの変化に伴い皮脂分泌が活発になり、尋常性ざ瘡(ニキビ)が主な悩みとなります。日本皮膚科学会の尋常性ざ瘡診療ガイドライン 2023では、病態や重症度に応じて、外用レチノイド、過酸化ベンゾイル(BPO)、外用・内服抗菌薬などを組み合わせる治療が推奨されています[2]。
特に重要なのは、抗菌薬(抗生物質)の単独での長期使用を避けることです[2]。耐性菌のリスクを減らすため、BPOや外用レチノイドとの併用を基本とし、必要な期間のみ使用することが強調されています。ニキビ跡(瘢痕)のリスクを避けるためにも、早期からの適切な介入が重要です。
妊娠中のかゆみ・発疹:何が危険で何が安全?
妊娠期は、ホルモンの急激な変化により、既存の皮膚疾患が悪化したり、特有の皮膚トラブルが現れたりします。米国家皮膚科学会(AAD)によると、妊娠性痒疹・丘疹(PUPPP/PEP)や妊娠期アトピー発疹(AEP)などが代表的です[3]。また、急激な体型の変化により妊娠線(皮膚線条)も多くの人が経験します。
最も重要なのは薬剤の安全性です。日本皮膚科学会のガイドライン[1]では、外用ステロイドや一部の抗ヒスタミン薬は、医師の管理下での通常使用であれば概ね安全とされています。しかし、英国NHS(国民保健サービス)などが警告するように、ニキビ治療に用いられるレチノイド(内服・外用)やテトラサイクリン系の抗菌薬は、胎児への影響のリスクがあるため妊娠中は禁忌または避けるべきです[4]。自己判断せず必ず医師に相談してください。
更年期の乾燥肌・かゆみ対策:保湿と生活習慣の見直し
更年期に入りエストロゲン(女性ホルモン)が減少すると、皮膚の水分保持能力や皮脂の分泌が低下し、乾皮症(乾燥肌)が顕著になります[5, 10]。NHS(英国)も指摘するように、これが皮膚のバリア機能の低下を招き、外部からの刺激に敏感になり、全身のかゆみ(皮膚瘙痒症)を引き起こしやすくなります[6]。
この時期は、保湿剤によるスキンケアを徹底するとともに、色素沈着や毛髪の変化といった加齢に伴う変化にも対応が必要です。また、Mayo Clinicは、閉経後の女性に陰部の皮膚が硬くなる硬化性苔癬などの頻度が上がることも指摘しており[11]、婦人科との連携が必要な場合もあります。
高齢者に多い帯状疱疹と褥瘡:早期対応のポイント
高齢者では、日本皮膚科学会の手引き[5]によると7割以上が皮脂欠乏症(乾皮症)を経験し、強いかゆみの原因となります[6]。皮膚のバリア機能が低下するため、褥瘡(床ずれ)や皮膚感染症のリスクも高まります。
特に注意すべき疾患が帯状疱疹です。帯状疱疹診療ガイドライン 2025[7]では、加齢による免疫低下が発症の最大のリスク因子であると指摘されています。早期の抗ウイルス薬治療と、帯状疱疹後神経痛を予防するための積極的な疼痛管理、そしてワクチンによる予防が重要視されています。
さらに、褥瘡診療ガイドライン[12]に基づく体位変換や圧分散マットレスによる予防、創傷管理も欠かせません。糖尿病などの合併症がある場合は、国立国際医療研究センターの資料[9]が示すように、足部の潰瘍や感染予防のためのフットケア指導が極めて重要になります。
よくある質問
Q1: 乳児の湿疹に沐浴剤は効果がありますか?
推奨されません。日本皮膚科学会のガイドライン[1]では、沐浴剤の使用は推奨されておらず、むしろ保湿と低刺激の洗浄料による適切な洗浄を優先するよう求めています。
Q2: 思春期のニキビで抗生物質はどれくらい使えますか?
薬剤耐性の観点から、長期の単独使用は避けるべきです[2]。ガイドライン[2]では、BPOや外用レチノイドとの併用を基本とし、炎症が改善したら速やかに中止するなど、最短必要期間にとどめることが推奨されています。ホルモン療法(ピル)が選択肢になる場合もあります。
Q3: 妊娠中に使える外用薬はありますか?
医師の管理下であれば、外用ステロイドは通常の使用量・期間で概ね安全とされています[1]。一方で、テトラサイクリン系の抗菌薬やレチノイド(外用・内服)は胎児へのリスクから避けるのが原則です[4]。
Q4: 更年期になって急にかゆくなりました。原因は?
エストロゲンの減少に伴う皮膚の乾燥とバリア機能の低下が大きな原因の一つと考えられます[5, 10]。まずは徹底した保湿ケアと、熱いお風呂や衣類の摩擦といった刺激を避けることが重要です[6]。
Q5: 高齢の親が帯状疱疹になりました。何に気を付けるべきですか?
最も重要なのは、早期の抗ウイルス薬治療と、痛みの管理です[7]。特に痛みは「帯状疱疹後神経痛」という後遺症に残る可能性があるため、我慢せずに医師に伝えることが大切です。特に顔面や眼の周辺に症状が出た場合は、合併症のリスクがあるため速やかに専門医(皮膚科・眼科)を受診してください。
部位別に探す(顔・頭皮・体幹・四肢・爪・外陰部 など)
前のセクションでは年齢やライフステージによる皮膚の変化を見てきましたが、症状が「どこに出ているか」という部位も、疾患を考える上で非常に重要な手がかりとなります。皮膚は場所によって厚さや皮脂腺の密度、外部からの刺激の受けやすさが全く異なるからです。
例えば、顔は皮脂腺が多いためニキビができやすく、足の裏は常に体重がかかり硬くなりやすい、といった特徴があります。このセクションでは、顔、頭皮、体幹、手足、爪、外陰部など、部位ごとに見られやすい代表的な皮膚疾患と、特に注意すべきサインを解説します。
特に日本では、日本皮膚科学会メラノーマ診療ガイドライン2025[4]でも示されている通り、欧米に比べて足の裏や爪の下に発生する悪性黒色腫(皮膚がんの一種)の割合が高いことが知られています。部位ごとの特徴を知ることは、こうした見逃しを防ぐためにも重要です。
顔(頬・Tゾーン・口周り・耳など)
顔は皮脂腺が豊富で、かつ紫外線や化粧品など外部からの刺激に常にさらされるため、多様なトラブルが起こりやすい部位です。特に以下の疾患がよく見られます。
- 脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん): 皮脂の分泌が多い眉間、鼻のわき、口周り、耳の後ろなどに赤みとカサカサしたフケのような鱗屑(りんせつ)が出やすいのが特徴です[10]。顔の脂漏性皮膚炎は、ニキビと混同されることもあります。
 - 尋常性ざ瘡(ニキビ): 主にTゾーン(おでこ、鼻)や頬など、皮脂腺が活発な場所に発生します[14]。毛穴の詰まり(面皰)が見られるのが特徴です。
 - 酒さ(しゅさ): 頬や鼻を中心に、持続する赤みやほてり、ニキビに似たブツブツが現れます。酒さはニキビと異なり、面皰が目立たないことが多いです[16]。
 - 皮膚腫瘍: 顔は日光(紫外線)が最も当たる部位であるため、日光角化症(前がん病変)や基底細胞癌などの皮膚腫瘍が発生しやすい場所でもあります。
 
【顔のレッドフラグ】: 急に大きくなる・形が非対称・色がまだらなホクロやシミ[4]、顔の片側に帯状疱疹(水ぶくれ)が出て目にも違和感がある場合、または顔面の熱傷(やけど)[8]は、機能や整容面(見た目)の問題に直結するため、速やかな専門医の受診が必要です。
頭皮・髪の生え際
頭皮も顔と同様に皮脂腺が多く、髪の毛に覆われているため蒸れやすい環境です。
- 脂漏性皮膚炎・フケ: 頭皮のかゆみやフケの最も一般的な原因の一つです。頭皮全体や髪の生え際、後頭部に見られます[10]。
 - 頭部白癬(しらくも): 主に子供に見られ、フケやカサカサを伴う円形の脱毛斑(髪の毛が抜ける)が特徴です。これは頭部白癬というカビ(皮膚糸状菌)の感染症です[2]。
 - 乾癬(かんせん): 境界がはっきりした赤い盛り上がりと、その上に厚い銀白色のフケのような鱗屑が付着します。頭皮の乾癬は、髪の生え際を超えておでこなどに広がることもあります。
 
【頭皮のレッドフラグ】: 子供の脱毛斑に加えて、赤みや痛み、膿(うみ)を伴う場合(ケルスス禿瘡)、瘢痕(きずあと)が残る可能性があるため、速やかに皮膚科を受診してください[2]。
体幹(胸・背中・わきの下・お腹・腰)
体幹は面積が広く、衣類による摩擦や汗による蒸れの影響を受けやすい部位です。
- アトピー性皮膚炎: 年齢によって症状の出る場所が変わりますが、学童期以降はくび、わきの下、お腹など体幹にも湿疹が広がりやすくなります[1]。
 - 癜風(でんぷう): 汗をかきやすい胸や背中に、淡い茶色や、逆に色が抜けたような白っぽい「まだら模様」が多発することがあります。これは癜風というカビ(マラセチア菌)による感染症です[2]。
 - 毛嚢炎(もうのうえん): 背中や胸のニキビのように見える赤いブツブツは、多くの場合、毛穴の細菌感染である毛嚢炎です。
 - 疥癬(かいせん): CDC(米国疾病予防管理センター)によると、夜間に非常に強いかゆみを伴う小さな赤いブツブツが、肩甲骨の周りや腰、お尻にかけて見られる場合、疥癬の可能性があります[13]。
 
【体幹のレッドフラグ】: 体幹の広い範囲に水ぶくれや皮むけが急速に広がる場合(SJS/TENなどの重症薬疹の疑い)、または体の片側(右半身または左半身)の神経に沿って帯状に痛みを伴う水ぶくれが出る場合(帯状疱疹)は、緊急の対応が必要です。
四肢(手・足・腕・すね)
手足は、外部の物質に最も多く触れ、物理的な刺激(歩行、水仕事)を最も受けやすい部位です。
- 接触皮膚炎(手湿疹): 手のひらや指の皮むけ、赤み、かゆみは、水仕事や消毒、職業上触れる物質による接触皮膚炎(手湿疹)[3]の代表的な症状です。
 - 足白癬(水虫): 足白癬(水虫)は、足の指の間(趾間)がじゅくじゅくしたり、足の裏の皮がむけたり、小さな水ぶくれができたりします[2]。
 - 疥癬(かいせん): 水虫や手湿疹と間違われやすいですが、疥癬は特に手の指の間や手首の曲がる部分に、線状の皮疹(疥癬トンネル)や小さなブツブツを作ることが多く、夜間の激しいかゆみが特徴です[13]。
 - うっ滞性皮膚炎: 高齢者などで足の静脈瘤がある場合、血流の滞りが原因で、すね(特に足首周辺)に湿疹や皮膚の硬化、色素沈着が起こることがあります。
 
【四肢のレッドフラグ】: 足の裏にできたホクロやシミが非対称であったり、色がまだらであったり、大きくなったりする場合[4]。また、腕や足が急速に赤く腫れあがり、熱感や強い痛みを伴う場合(蜂窩織炎や壊死性筋膜炎の疑い)は、直ちに医療機関を受診してください。
爪(手・足)
爪は「健康の鏡」とも呼ばれ、皮膚や内臓の疾患のサインが現れることがあります。
- 爪白癬(爪水虫): 主に足の爪が白く濁ったり、黄色っぽくなったり、厚く変形したりします[2]。爪水虫は足水虫から感染することが多いです。
 - 爪囲炎(そういえん): 指先のささくれや小さな傷から細菌が入り、爪の周りが赤く腫れて痛むことがあります。
 
【爪のレッドフラグ】: 最も注意が必要なのは、爪に現れる「黒い縦線」です。AAD(米国皮膚科学会)も警告していますが[12]、1本の指だけに黒い線が現れ、その幅が太くなる、色の濃淡が不均一になる、または爪の根元や周囲の皮膚にまで色素が染み出してくる場合は、爪下黒色腫(メラノーマ)[4]の可能性を疑い、絶対に放置せず皮膚科を受診してください。
外陰部・肛門周囲
デリケートゾーンは蒸れやすく、また性感染症(STI)に関連した症状が出やすい部位です。相談しにくい場所ですが、重要な病気のサインを見逃さないことが大切です。
- 性感染症(STI): 厚生労働省も注意喚起している梅毒[5](痛みのない潰瘍や、手足を含む全身の発疹)は、国内での報告が過去最多レベルで増加しています[9]。その他、痛みを伴う水疱(性器ヘルペス)やイボ(尖圭コンジローマ)などがあります。
 - 真菌・寄生虫: 足の付け根(鼠径部)に赤くかゆい発疹が広がるのは、いんきんたむし(股部白癬)[2]です。また、疥癬は男性の陰嚢(いんのう)や陰茎にかゆみの強い結節(しこり)を作ることがあります[13][15]。
 - 毛嚢炎(もうのうえん): デリケートゾーンのニキビのように見えるものの多くは、カミソリ負けなどによる毛穴の細菌感染(毛嚢炎)です。
 
【外陰部のレッドフラグ】: 痛みのない潰瘍(梅毒疑い)、激しい痛みと腫れ(壊死性筋膜炎などの重症感染症疑い)がある場合は、直ちに受診が必要です。
このように、症状が出ている部位によって、疑われる疾患は大きく異なります。しかし、同じ部位であっても、季節や環境によって症状が出やすくなったり、悪化したりすることがあります。次のセクションでは、そうした紫外線、湿度、汗などの季節的・環境的な要因について詳しく見ていきましょう。
季節・環境要因(紫外線・湿度・寒冷・汗・摩擦・職業性)
前のセクションでは、症状が出る「部位」別に皮膚トラブルを見てきました。しかし、同じ人でも季節によって肌の調子が変わったり、特定の場所でだけ症状が出たりすることがあります。これは、私たちの皮膚が「環境」から常に影響を受けているためです。
このセクションでは、皮膚疾患の引き金となる主な季節・環境要因(紫外線、湿度、寒冷、汗、摩擦、職業性)を一つずつ掘り下げ、その科学的根拠と対策の基本を解説します。これらの要因を理解し、生活の中でコントロールすることが、治療法を選択する上での第一歩となります。
1. 紫外線(UV):光老化と皮膚がんの最大リスク
紫外線は、皮膚の健康にとって最も大きな環境要因の一つです。紫外線にはUVAとUVBがあり、どちらも皮膚にダメージを与えます。世界保健機関(WHO)は、紫外線の強さを示す指標として「UVI(UVインデックス)」の活用を推奨しており、これが高い日中の屋外活動は特に注意が必要です。
- 光老化: 長期間紫外線を浴び続けると、シミ、シワ、たるみの原因となります。
 - 皮膚がんリスク: 紫外線はDNAを損傷させ、皮膚がん(基底細胞がん、扁平上皮がん、悪性黒色腫)の主要な原因となります。特に光線角化症のような前がん病変を引き起こすこともあります。
 - 日光皮膚炎: いわゆる「日焼け」も、紫外線による皮膚のやけど(炎症)です。
 
予防の基本は、米国皮膚科学会(AAD)が推奨するように、「SPF30以上・広域スペクトラム(Broad-spectrum)・耐水性」の日焼け止め(サンスクリーン)を使用することです。また、衣類、帽子、日陰の利用を組み合わせることが最も効果的です。特に雪山や高地では反射光が強いため、冬でも対策が欠かせません。どのような日焼け止めを選ぶべきかは、肌質や状況によっても異なります。
2. 湿度(乾燥と多湿):皮膚バリア機能の変動
湿度は、高すぎても低すぎても皮膚のバリア機能に影響を与えます。
- 低湿度(乾燥): 日本の冬や、夏場のエアコンが効いた室内は空気が乾燥しています。低湿度の環境では、皮膚の最も外側にある「角層」の水分が奪われやすくなります。これによりTEWL(経皮水分蒸散量:皮膚から水分が逃げていく量)が上昇し、乾皮症(乾燥肌)を引き起こします。皮膚が乾燥するとバリア機能が低下し、外部からの刺激に敏感になり、かゆみが生じやすくなります。
 - 高湿度(多湿): 梅雨時や夏場は湿度が高くなります。高湿度が続くと、角層が水分を含みすぎて「浸軟(しんなん)」(ふやけた状態)になります。ふやけた皮膚は摩擦に弱くなり、少しの刺激でも傷つきやすくなります。
 
特にアトピー性皮膚炎の方は、日本皮膚科学会ガイドラインでも指摘されている通り、冬の乾燥と夏の汗・多湿の両方が悪化要因となるため、季節に応じたきめ細やかな保湿ケアと環境調整(加湿・除湿)が重要です。
3. 寒冷(低温):凍瘡(しもやけ)と血行障害
低温や寒暖差も皮膚に直接的な影響を与えます。代表的なものが「凍瘡(とうそう)」、いわゆる「しもやけ」です。Mayo Clinicの解説によれば、これは皮膚が凍結する「凍傷」とは異なり、寒さによる血管の収縮・拡張の反応がうまくいかなくなることで起こる炎症です。
特に気温が4〜5℃前後で、湿度が高い(濡れた靴下や手袋など)環境で起こりやすくなります。手足の指先や耳たぶが赤紫色に腫れ、かゆみや痛みを伴います。予防は、保温(手袋、厚手の靴下)と防湿(濡れたらすぐ交換)が基本です。手足が冷えると、手の乾燥や皮むけ、足のかかとのひび割れなども悪化しやすくなります。
4. 汗(発汗):汗管の閉塞と刺激
汗は体温調節に不可欠ですが、皮膚トラブルの原因にもなります。最も一般的なのが「汗疹(かんしん)」、いわゆる「あせも」です。英国国民保健サービス(NHS)によると、これは高温多湿などで大量に汗をかいた際、汗を出す管(汗管)が詰まることで発生します。乳幼児に多いですが、大人の汗疹も珍しくありません。
また、アトピー性皮膚炎の方は、汗に含まれる成分そのものが刺激となり、かゆみを強く感じることがあります。予防の基本は、汗をかいたら放置せず、早めにシャワーで洗い流し、通気性の良い衣類を着て皮膚を冷却・乾燥させることです。スポーツなどで器具が密着する部位では、汗と摩擦、閉塞が組み合わさり、ニキビ(機械性ざ瘡)を誘発することもあります。
5. 摩擦:間擦疹(かんさつしん)と機械的刺激
摩擦は、皮膚のバリア機能を物理的に削り取ってしまいます。特に「間擦疹」は、皮膚と皮膚がこすれ合う部位(脇の下、乳房の下、鼠径部、肥満の方の腹部のひだなど)に発生します。日本皮膚科学会によれば、これは摩擦に加えて、汗や湿気がこもることで皮膚が浸軟(ふやける)ことが原因です。
赤くなった皮膚はバリア機能が低下しており、カンジダなどの真菌が二次感染を起こしやすい状態です。予防は、通気性を良くし、皮膚を清潔・乾燥に保ち、摩擦を減らす(ゆったりした衣類など)ことです。
6. 職業性要因:化学物質・Wet Work
特定の職業環境は、皮膚疾患の強力なリスク因子となります。職業性皮膚疾患の中で最も多いのが接触皮膚炎(かぶれ)です。
- 刺激性接触皮膚炎: 洗剤、溶剤、消毒剤など、物質そのものが持つ刺激によって誰にでも起こり得ます。
 - アレルギー性接触皮膚炎: ガイドラインによると、原因物質(アレルゲン)はニッケル(金属)、ゴム(手袋)、香料、消毒剤など多岐にわたります。美容師、医療従事者、製造業などで多く見られます。
 
特に「Wet Work(ウェットワーク)」と呼ばれる、頻回の手洗いや長時間のゴム手袋着用を伴う作業は、日本皮膚科学会の手湿疹ガイドラインでも、手湿疹の最大のリスクとされています。化学物質を扱う場合は、厚生労働省のマニュアル(令和7年版)に基づき、その物質の浸透を防ぐ適切な材質の保護具(PPE)を選ぶことが極めて重要です。
よくある質問
Q1: 冬になると肌が急に乾燥してかゆくなるのはなぜですか?
A: 主に空気の乾燥(低湿度)が原因です。冬は外気も暖房の効いた室内も湿度が低いため、皮膚から水分が蒸発しやすくなります(TEWLの上昇)。これにより皮膚のバリア機能が低下し、外部からのわずかな刺激でもかゆみを感じやすくなります。対策としては、加湿器の使用、熱すぎないお風呂、入浴後すぐの十分な保湿が基本となります。
Q2: 日焼け止めはSPF値が高ければ高いほど良いのですか?
A: 米国皮膚科学会は、日常生活では「SPF30」以上を推奨しています。SPF50とSPF30で防御力に劇的な差はありません。値の高さよりも、シミやシワの原因となるUVAも防ぐ「ブロードスペクトラム」表示があること、そして2時間ごとに十分な量を塗り直すことの方が重要です。
Q3: 汗疹(あせも)や股ずれ(間擦疹)を繰り返します。どうすれば予防できますか?
A: どちらも「湿気」と「通気不良」が共通の原因です。汗をかいたらこまめに拭き取るかシャワーを浴び、皮膚を乾燥させることが基本です。間擦疹の場合は、通気性の良い綿素材の下着を選び、皮膚同士が密着しないよう工夫することも有効です。症状が続く場合は、真菌感染などを合併している可能性があるため皮膚科を受診してください。
Q4: 美容師や看護師で、手荒れ(手湿疹)が治りません。
A: それは「Wet Work」による職業性皮膚疾患の可能性が非常に高いです。頻回の手洗いや消毒、シャンプー剤への接触、ゴム手袋による蒸れがバリア機能を破壊します。手湿疹ガイドラインでは、作業時の綿手袋の使用(ゴム手袋の下に)、こまめな保湿剤の塗布、アレルゲンが特定できればそれを回避することが推奨されます。まずは皮膚科で相談し、必要ならパッチテスト(アレルギー検査)を受けることを検討してください。
Q5: しもやけ(凍瘡)は放っておいても治りますか?
A: 軽いものであれば、その後の保温と乾燥を心がけることで数週間以内に自然に軽快することが多いです。しかし、Mayo Clinicも指摘するように、水疱が破れて潰瘍になったり、強い痛みが続いたり、感染の兆候(膿など)が見られたりする場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。繰り返す場合は、基礎に膠原病などの疾患が隠れている可能性も否定できません。
治療法の基礎(外用薬/内服薬/光線療法/注射・生物学的製剤/手術・レーザー)
前節では、紫外線や乾燥といった季節や環境が肌に与える影響について見てきました。このセクションでは、実際に皮膚の病気が起きてしまった場合に、皮膚科医がどのような治療の「柱」を使い分けるのか、その基本を分かりやすく解説します。治療法は大きく分けて、肌に直接塗る「外用薬」、体の中から効かせる「内服薬」、特殊な光を当てる「光線療法」、そしてより専門的な「注射・手術・レーザー」があります。
外用療法の基本:保湿・ステロイド・抗菌薬
皮膚科治療の基本は、まず「保湿」です。これは美容目的だけでなく、肌のバリア機能を守るための大切な治療行為とされています(日本皮膚科学会 2024年ガイドライン)。適切な保湿剤を選ぶことが、多くの皮膚疾患管理の第一歩となります。
炎症(赤み、かゆみ)が強い場合は、「ステロイド外用薬(TCS)」が中心となります。強さを心配される方もいますが、塗る場所(顔や体)や症状の重さ、時期に合わせて適切な強さを選んで正しく使えば、非常に効果的で安全性の高い薬です。寛解した後も、再燃を防ぐための予防的な使い方(プロアクティブ療法)も推奨されています。
また、ニキビ(尋常性ざ瘡)治療では、抗菌薬の塗り薬も使われますが、耐性菌(薬が効きにくくなること)を防ぐため、単独で長期間使用することは推奨されていません(JDA 2023年GL)。
内服療法の位置づけ:抗ヒスタミン薬からJAK阻害薬まで
耐え難い強いかゆみや、皮疹が広範囲にわたる場合、内服薬(飲み薬)が併用されます。最も一般的なのは、かゆみを抑える「抗ヒスタミン薬」です。ただし、これはあくまで症状を和らげるもので、皮膚の炎症自体を根本的に治す薬ではありません。
重症なアトピー性皮膚炎などでは、短期的に「経口ステロイド」や「免疫抑制薬」(シクロスポリンなど)が用いられることもありますが、副作用の観点から長期管理には向きません。
近年、中等症から重症のアトピー性皮膚炎に対し、「JAK阻害薬」と呼ばれる新しい飲み薬が登場しました。これらは特に顔のかゆみを含む早期の症状改善に高い効果が示されています(NEJM 2021年)。ただし、帯状疱疹などの感染症や血栓症(VTE)のリスク管理のため、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の警告に基づき、導入前のスクリーニングと定期的な検査が不可欠です。
光線療法:NB-UVB、エキシマ、在宅治療
特定の波長の紫外線を照射する治療法です。日焼けサロンとは全く異なります。「ナローバンドUVB(NB-UVB)」が標準的で、乾癬、アトピー性皮膚炎、そして尋常性白斑(白なまず)の色素再生に広く用いられています(JDA 2025年GL)。
週に数回の通院が必要ですが、最近では乾癬患者を対象とした研究で、在宅での光線療法も通院治療と同等の有効性があることが示されています(LITE試験 2024年)。限られた範囲には「エキシマ光線療法(308nm)」がピンポイントで使われます。
注射・生物学的製剤の基礎
塗り薬や光線療法で十分な効果が得られない中等症から重症のアトピー性皮膚炎や乾癬の治療には、「生物学的製剤」(注射薬)が用いられます。これらは、炎症を引き起こす特定の物質(サイトカイン)の働きをピンポイントで抑える薬です。
アトピー性皮膚炎ではデュピルマブ(IL-4/13受容体)やトラロキヌマブ(IL-13)などが使われます。二次感染を繰り返すような重症例の重要な選択肢ですが、運用上のポイントとして「16週時点での効果判定」があり、効果不十分な場合は中止も検討されます(PMDA添付文書)。
手術・レーザー治療の基礎
皮膚科の治療には、外科的なアプローチやレーザーも含まれます。手術療法は、主に「皮膚腫瘍」が対象です。メラノーマ(悪性黒色腫)などの皮膚がんでは、根治を目指した外科的切除が第一選択です(JDA 2025年GL)。また、重度の熱傷(やけど)や治りにくい傷(潰瘍)に対し、壊死組織を取り除く処置(デブリードマン)や植皮術も行われます。
一方、レーザー治療は、特定の色素や組織のみに反応する光の性質を利用します。目的によって使い分けられます。
- 血管腫・赤ら顔(赤み):色素レーザー(PDL)
 - あざ・シミ(茶色・黒):Qスイッチレーザー、ピコレーザー
 - イボ・ほくろ:炭酸ガス(CO2)レーザー(蒸散・切開)
 
よくある質問(FAQ)
Q1: ステロイド外用薬は、長期間使っても大丈夫ですか?
A: 部位と強さのバランスが最も重要です。皮膚科医の指導のもと、症状が強い時はしっかり使い、良くなったら減量・休薬します。症状が落ち着いた後も再燃を防ぐために間欠的に使用する(プロアクティブ療法)ことで、副作用のリスクを最小限に抑えながら良好な状態を維持できます(JDA 2024年GL)。
Q2: 光線療法と、飲み薬(JAK)や注射(生物学的製剤)は、どれが一番良いですか?
A: 一概には言えず、患者さんの重症度、併存疾患、通院のしやすさ、費用負担などを総合的に見て判断します。乾癬の研究では在宅での光線療法も通院と同等の効果が示されており(LITE試験 2024年)、一方でJAK阻害薬はかゆみの速やかな改善が期待されます(NEJM 2021年)。
Q3: 注射薬(デュピルマブやトラロキヌマブ)は、いつ中止を検討しますか?
A: 治療効果の評価が重要です。例えばトラロキヌマブの添付文書では、16週時点で効果が不十分な場合、投与中止を考慮するとされています。個々の薬剤の基準に基づき、医師と相談して継続を判断します。
Q4: 生物学的製剤やJAK阻害薬を始める前に、なぜ多くの検査が必要なのですか?
A: これらの薬は免疫の働きを調整するため、隠れた感染症(特に結核やB型肝炎)を悪化させるリスクがあります。安全に治療を開始・継続するために、導入前のスクリーニング検査(血液検査や胸部X線など)と、治療中の定期的なモニタリングが学会ガイダンスで定められています。
Q5: レーザー治療はどんなシミにも効きますか?
A: いいえ、レーザーは万能ではありません。シミ(色素性病変)といっても、老人性色素斑(日光によるシミ)や肝斑、あざ(太田母斑など)では、適したレーザーの種類(Qスイッチやピコなど)が異なります。自己判断せず、まずは専門医による正確な診断が重要です。
薬の正しい使い方と安全性(ステロイド・保湿剤・抗菌薬・抗ヒスタミン など)
前のセクションでは、光線療法や手術など、皮膚科の様々な治療法の基礎について学びました。このセクションでは、その中でも特に使用頻度の高い「薬物療法」、つまり塗り薬や飲み薬に焦点を当てます。薬は正しく使ってこそ最大の効果を発揮し、副作用を最小限に抑えることができます。ここでは、ステロイド、保湿剤、抗菌薬、抗ヒスタミン薬という4つの主要な薬について、その「正しい使い方」と「安全性」を、誰にでも分かりやすく解説していきます。
外用ステロイドの「強さ」と部位別の選び方
外用ステロイドは、皮膚の「火事」(炎症)を鎮めるための「消防士」のようなものです。火事の大きさによって消防士の数が違うように、ステロイドにも強さがあり、日本では主に5段階(最も強い、非常に強い、強い、中程度、弱い)に分けられます。
最も大切なルールは、「塗る場所によって強さを変える」ことです。日本皮膚科学会(JDA)のガイドラインでも示されている通り、皮膚が薄くデリケートな顔、首、脇の下、陰部などは、薬の吸収が良すぎるため、「中程度」から「弱い」ランクを使います。逆に、皮膚が厚い手のひらや足の裏、またはゴワゴワと硬くなった(苔癬化:たいせんか)湿疹には、「強い」ランク以上のものを短期間使用することがあります。
自己判断で強い薬を顔に塗ったり、弱い薬を足の裏に塗り続けても効果が出なかったりするのは、この原則を守れていないためです。また、ステロイドへの不安から使用を急にやめてしまうと、症状がかえって悪化することもあるため、医師の指示に従うことが重要です。特に急な中断による離脱症状には注意が必要です。
FTUで迷わない塗布量:手のひら2枚=1FTUの実際
薬の強さと同じくらい重要なのが「塗る量」です。量が少なすぎると火事を消しきれず、多すぎると副作用のリスクが上がります。
ここで役立つのが「FTU(フィンガー・ティップ・ユニット)」という簡単な目安です。英国NHS(国民保健サービス)などが推奨する方法で、大人の人差し指の第一関節(指先から最初のシワまで)にチューブから薬を線状に出した量を「1FTU」と呼びます。
この1FTU(約0.5g)で、大人の「手のひら2枚分」の面積に塗るのが適量とされています。ベタベタしすぎず、ティッシュが軽く貼り付く程度が目安です。「もったいないから」と薄く伸ばしすぎると、効果が出ないまま長期間塗り続けることになり、かえって良くありません。
特にアトピー性皮膚炎の管理においては、この適量を守ることが症状改善の鍵となります。
保湿剤はどれが良い?続けられる選択が正解
皮膚科の治療で、ステロイドが「火事を消す」役目なら、保湿剤は「城壁(皮膚バリア)を修復・補強する」役目です。城壁がしっかりしていれば、外部からの刺激(アレルゲンや乾燥)が侵入しにくくなり、そもそも火事が起きにくくなります。
「どの保湿剤が一番効きますか?」という質問をよく頂きますが、国際的な研究(コクランレビュー)によれば、製品間で「これが一番優れている」という明確な証拠は限定的です。大切なのは、ローション、クリーム、軟膏など、ご自身が「心地よい」と感じ、毎日続けられるものを選ぶことです。
使い方のコツは以下の通りです:
- タイミング: 入浴やシャワーの直後、まだ皮膚がしっとりしている5分〜10分以内に塗るのが最も効果的です。
 - 量: FTUと同じく、ケチらずにたっぷりと塗ります。塗った後、皮膚がテカテカ光るくらいが目安です。
 - 回数: 少なくとも1日2回(朝と入浴後など)が推奨されます。特に乾燥肌の対策としては不可欠です。
 - 注意点: 保湿クリームの科学でも解説されていますが、パラフィンなど油性成分を含む保湿剤が衣類に付着すると、火気の近くで燃えやすくなることがあるため、火の元には十分注意してください。
 
抗菌薬の正しい使い方:ざ瘡・とびひ・蜂窩織炎
抗菌薬(抗生物質)は、ステロイドとは全く別物で、「細菌」が原因で起こる皮膚トラブル(感染症)に使います。風邪に抗生物質が効かないのと同じで、細菌がいない湿疹やウイルス性のイボに塗っても効果はありません。
最も注意すべきは「薬剤耐性(やくざいたいせい)」です。これは、薬を中途半端に使うことで細菌が”賢く”なり、その薬が効かなくなってしまうことです。これを防ぐため、以下のルールが重要です。
- ニキビ(尋常性ざ瘡): JDAのニキビガイドラインでは、抗菌薬の塗り薬を単独で長期間使うことは推奨されていません。耐性菌を防ぐため、BPO(過酸化ベンゾイル)など別の作用を持つ薬と併用します。飲み薬の抗菌薬も、必要な最短期間にとどめるのが原則です。
 - とびひ・蜂窩織炎: これらは細菌による明らかな感染性皮膚炎です。SSTI診療ガイドラインに基づき、軽症のとびひは塗り薬で対応可能ですが、蜂窩織炎のように赤みや痛みが広がる場合は、飲み薬や点滴が必須です。
 - 配合薬の注意: ステロイドと抗菌薬が混ざった便利な薬もありますが、これは炎症と感染が同時に起きている場合に短期間だけ使うものです。漫然と使い続けると、かえって接触皮膚炎(かぶれ)を起こしたり、耐性菌を育てたりする原因になります。
 
抗ヒスタミン薬で眠い?運転はしても大丈夫?
抗ヒスタミン薬は、主にアレルギーや蕁麻疹(じんましん)の「かゆみ」を抑えるための飲み薬です。これは、脳に「かゆい!」と伝える神経の伝達物質(ヒスタミン)をブロックする働きをします。
この薬には「第一世代」(昔からあるタイプ)と「第二世代」(新しいタイプ)があります。JDAのガイドラインなどでは、日中の使用は眠気の少ない第二世代を基本としています。
最大の注意点は「眠気と集中力の低下」です。
- 第一世代: 眠気が強く出ます。PMDA(医薬品医療機器総合機構)も警告している通り、この薬を飲んだ後は、絶対に車の運転や危険な機械の操作をしてはいけません。
 - 第二世代: 眠気が出にくいとされていますが、個人差があります。もし眠気を感じた場合は、運転を控えるべきです。
 
これらは皮疹そのものを治す力は限定的ですが、かゆみの対策として、夜間の睡眠を助ける目的などで処方されます。
年齢やライフステージ別の注意点
同じ薬でも、年齢や体の状態によって使い方は変わります。
- お子様の場合: 塗る量はFTUを基本としますが、体が小さいため、大人の基準より少なく調整します。おむつが当たる部分は、薬が密閉されて強く効きすぎる(副作用が出やすい)ことがあるため注意が必要です。子供特有の皮膚トラブルについては、特に慎重な薬剤選択が求められます。
 - 妊娠中・授乳中の場合: JDAガイドラインでは、基本は塗り薬(ステロイドや保湿剤)での管理が原則とされています。飲み薬(特に抗ヒスタミン薬)が必要な場合は、自己判断せず、必ず産婦人科医と皮膚科医の両方に相談してください。
 - ご高齢者の場合: 皮膚が薄く(萎縮して)なっていることが多いため、強すぎるステロイドは副作用が出やすくなります。また、抗ヒスタミン薬の眠気による「ふらつき」や「転倒」のリスクにも十分な注意が必要です。
 
ここまで、皮膚科で使われる主な薬の正しい使い方と安全性を確認してきました。適切な薬を適切な量と期間で使うことは、治療の第一歩です。しかし、薬だけに頼るのではなく、日々の生活習慣を見直すことも同じくらい重要です。
セルフケア・生活の工夫(スキンケア基礎/入浴・衣類/食事・睡眠/ストレス)
薬物治療の効果を最大限に高め、副作用を最小限に抑えるためには、前節で解説した薬の正しい知識が不可欠です。しかし、皮膚疾患の管理は薬だけに頼るものではありません。日常生活におけるセルフケアと生活習慣の工夫は、薬物治療と同じくらい、あるいはそれ以上に重要な「治療の土台」となります。このセクションでは、皮膚の健康を取り戻すために今日から実践できる、科学的根拠に基づいたスキンケア、入浴、食事、睡眠、ストレス管理の具体的な方法を詳しく解説します。
スキンケア基礎:洗浄と「入浴後5分以内」の保湿
皮膚科のセルフケアで最も重要なのは「洗浄」と「保湿」です。皮膚のバリア機能を守るため、洗浄は低刺激で無香料の洗浄剤を選び、熱いお湯を避けてぬるま湯で優しく洗うことが推奨されます。例えば、ナイロンタオルなどでゴシゴシこすることは、皮膚のバリアを物理的に破壊し、症状を悪化させる最大の要因の一つです。正しい洗い方を習慣にすることが第一歩となります。
洗浄後、最も重要なのが「即時保湿」です。多くの専門学会が推奨するのは、入浴やシャワーの後、タオルで軽く水分を押さえるように拭き、まだ皮膚が湿っている「5分以内」に保湿剤を塗ることです。この「ゴールデンタイム」を逃すと、皮膚の水分は急速に蒸発し、入浴前よりも乾燥してしまうこと(過乾燥)があります。米国皮膚科学会(AAD)は、保湿剤として、水分が多いローションタイプよりも油分が多く保護力の高いクリームや軟膏(ワセリンなど)の使用を推奨しています。乾燥が強い場合は、1日に2回以上、適切な保湿剤を乾燥している部分だけでなく、その周囲にも広めに塗布することが効果的です。
入浴の工夫:ぬるめのお湯で5~10分が基本
入浴は皮膚を清潔にし、直後の保湿剤の浸透を高める絶好の機会ですが、方法を間違えると逆効果になります。鍵は「温度」と「時間」です。
- 温度:熱すぎるお湯(42度以上など)は、皮膚の必要な皮脂まで奪い去り、かゆみを誘発する神経を刺激することがあります。38〜40度程度の「ぬるめ」のお湯が理想的です。
 - 時間:長風呂は皮膚のバリア機能をふやけさせ、乾燥を進めます。AADの推奨では、シャワーや入浴は5分から10分程度に留めることが勧められています。乾癬の場合は長くても15分以内が目安とされています。
 - タイミング:就寝前の短時間の入浴は、深部体温が一度上がり、その後に自然に低下する過程で入眠を助ける効果も期待できます。
 
衣類・洗濯の選び方:摩擦・発汗・洗剤の刺激を避ける
皮膚に直接触れる衣類や寝具は、症状に大きな影響を与えます。特にウール(羊毛)や化学繊維、ごわごわした粗い素材は、物理的な刺激(摩擦)となり、かゆみを引き起こすことがあります。チクチクしない、柔らかい綿(コットン)素材が最も推奨されます。
洗濯の際も注意が必要です。香料の強い洗剤や柔軟剤は、その成分が衣服に残り、化学的な刺激となる可能性があります。無香料・低刺激の洗剤を選び、すすぎを十分に行うことが大切です。また、汗は皮膚への刺激となるため、汗をかいたら早めにシャワーで流すか、優しく拭き取り、必ず保湿し直しましょう。
食事と体重管理:自己判断の除去食はNG、乾癬では減量も
「特定の食べ物が皮膚病を悪化させる」と信じ、自己判断で厳格な食事制限を行うケースがありますが、これは推奨されません。日本皮膚科学会は、アトピー性皮膚炎において食物アレルギーが関与する場合でも、食事療法は補助的なものであり、医師の診断に基づかず自己判断で除去食を行うべきではないと明記しています。まずはバランスの取れた食事を心がけることが基本です。
一方で、乾癬(かんせん)などの特定の疾患では、食事が症状管理に役立つことが示されています。例えば、2025年に発表された多施設ランダム化比較試験(RCT)では、野菜、果物、オリーブオイルなどを豊富に摂る「地中海食」パターンが乾癬の症状改善に寄与することが示されました。また、乾癬患者における体重管理(減量)やアルコールの制限も、症状のコントロールに有効であると報告されています。
睡眠衛生:夜間のかゆみの悪循環を断ち切る
皮膚疾患を持つ多くの人が悩むのが、夜間のかゆみです。かゆみで眠れず、睡眠不足になり、日中のQOL(生活の質)が下がるだけでなく、無意識に掻きむしることで症状が悪化し、さらにかゆくなるという「かゆみと掻破の悪循環」に陥りがちです。
この悪循環を断ち切るため、就寝前のルーティンが重要です。前述した「ぬるめの短時間入浴」と「直後の保湿」は、夜間のかゆみを抑えるのに非常に効果的です。さらに、寝室を涼しく保ち(暑すぎないように)、刺激の少ない綿の寝具やパジャマを選ぶことで、快適な睡眠環境を整えることができます。
ストレス対処法:マインドフルネスの有効性
ストレスは皮膚疾患の明確な増悪因子です。ストレスがかかるとかゆみを感じる神経が敏感になり、掻破行動が増えることが知られています。薬物治療やスキンケアと並行して、ストレスを管理することは非常に重要です。
近年、その有効性が科学的に示されているのが「マインドフルネス」や「セルフコンパッション(自分への思いやり)」です。2023年に『JAMA Dermatology』で報告された日本での研究(RCT)では、アトピー性皮膚炎の成人患者がオンラインのマインドフルネス・セルフコンパッション訓練を受けた結果、皮膚疾患に特有のQOL(生活の質)が有意に改善したことが示されました。かゆみや症状と「戦う」のではなく、それらと「共存する」ための心理的アプローチも、セルフケアの重要な柱の一つです。
セルフケアに関するよくある質問
Q1: 入浴は毎日した方が良いですか?温度と時間は?
A: 皮膚を清潔に保つため、基本的には毎日1回の入浴またはシャワーを推奨します。ただし、米国皮膚科学会(AAD)などが推奨するように、38〜40度程度の「ぬるめ」のお湯で、5分から10分程度の短時間で済ませることが重要です。熱いお湯や長風呂は、皮膚のバリア機能を低下させ、かゆみを悪化させる可能性があります。
Q2: 保湿剤はいつ、どのくらい塗れば良いですか?
A: 最も重要なのはタイミングです。入浴やシャワーの直後、皮膚がまだ湿っている「5分以内」に塗布するのが最も効果的です。量は「たっぷり」と。塗った後にティッシュが貼り付く程度が目安とも言われます。乾燥肌がひどい場合は、朝晩の1日2回以上、症状がない部分も含めて広めに塗ることが推奨されます。
Q3: 食べ物で気をつけることはありますか?
A: アトピー性皮膚炎において、特定の食物アレルギーが確認されている場合を除き、自己判断での厳格な除去食は推奨されません。まずは栄養バランスの取れた食事を心がけてください。ただし、乾癬の場合は、体重管理(減量)や飲酒の制限が症状改善に役立つというエビデンスがあります。
このように、日々のスキンケアや生活習慣を見直すことは、現在の症状を和らげるだけでなく、将来の悪化を防ぐ上でも極めて重要です。次節では、これらのセルフケアをさらに一歩進め、積極的な「予防」と「再発予防」の戦略について詳しく見ていきます。
予防と再発予防(接触回避・日光対策・ワクチン・衛生)
前のセクションでは、日々のスキンケアや生活習慣といった「セルフケア」の基本を見てきました。ここでは、さらに一歩進んで、特定の皮膚疾患を「予防」し、一度良くなった症状を「再発させない」ための具体的な戦略について詳しく解説します。原因となる物質を避けること、正しい日光対策、ワクチンによる予防、そして日々の衛生管理は、健康な皮膚を維持するための重要な柱です。
アレルゲン・刺激物を避ける:接触皮膚炎の再発を防ぐ生活管理
特定の物質に触れることで皮膚炎が起こる「接触皮膚炎(かぶれ)」の予防で最も大切なのは、原因と分かっている物質(アレルゲンや刺激物)を徹底的に避けることです。
日本皮膚科学会のガイドラインでも強調されている通り、一度パッチテストなどで原因が特定されたら、その成分を含まない製品を選ぶ生活が再発予防の基本となります。
- 金属アレルギー:ニッケルなどを含むアクセサリーや時計、ベルトのバックルが長時間肌に触れないようにする。
 - 香料・防腐剤:化粧品やスキンケア製品は「無香料」「低刺激性」と表示されたものを選び、成分表示を確認する。
 - 染毛剤:ヘアカラーに含まれるパラフェニレンジアミン(PPD)などでかぶれた経験がある場合、使用を中止し、代替品(例:ヘアマニキュア)を美容師に相談する。
 - 職業性:理美容師、医療従事者、清掃業などで化学物質や消毒液に触れる場合、適切な保護手袋を使用し、こまめに保湿する。
 
UVインデックス3以上で始める日光対策:衣服・日陰・SPF30+の使い分け
紫外線は皮膚の老化、シミ、そして皮膚がんの主な原因です。予防の基本は「紫外線を浴びる量を減らす」ことであり、日焼け止めはその補助手段です。世界保健機関(WHO)は、紫外線の強さを示す「UVインデックス」が3以上になる日は対策を推奨しています。これは「日差しが少し強くなってきたな」と感じるレベルです。
具体的な対策は以下の通りです。
- まず「遮る・覆う」:日中の最も日差しが強い時間帯(午前10時~午後2時頃)はなるべく日陰で過ごす。つばの広い帽子、サングラス、長袖・長ズボンの着用が最も効果的です。
 - 次に「塗る」:最新のWHOの指針では、露出する肌には「SPF30以上」で「UVA・UVB両方(広域)」を防ぐ日焼け止めを選ぶことが推奨されます。
 - 「十分な量」と「再塗布」:日焼け止めは「たっぷり」塗ることが重要です(WHOは成人全身で大さじ3~4杯分を例示)。また、日焼け止めの成分の効果は時間と共に落ちるため、2時間ごと、または汗をかいたり泳いだりした後はすぐに塗り直しましょう。
 
特に子供や屋外で長時間過ごす人は、SPF配合の製品を上手に使い、日焼けを習慣的に防ぐことが将来の健康につながります。
帯状疱疹とHPV:皮膚に関わるワクチンで防げる疾患
一部の皮膚疾患は、ワクチン(予防接種)によって発症や重症化を予防できます。特に皮膚科領域で関連が深いのは「帯状疱疹」と「HPV(ヒトパピローマウイルス)」です。
帯状疱疹ワクチン
帯状疱疹は、過去に水ぼうそうにかかった人が、加齢や疲労で免疫が落ちた時に発症する痛みを伴う発疹です。米国疾病予防管理センター(CDC)は、50歳以上のすべての成人と、19歳以上で免疫機能が低下している人に対し、不活化ワクチン(RZV、製品名:シングリックス)を2回接種することを推奨しています。これは発症予防だけでなく、発症しても症状を軽くし、辛い神経痛(帯状疱疹後神経痛)を防ぐ効果が期待されます。
HPVワクチン
HPVは、子宮頸がんの原因として知られていますが、同時に尋常性疣贅(いわゆるイボ)や尖圭コンジローマなど、多くの皮膚・粘膜疾患の原因にもなります。厚生労働省はHPVワクチンの積極的勧奨を再開しており、特に接種機会を逃した方(1997年度~2007年度生まれの女性)向けのキャッチアップ接種が2025年3月末まで(※)実施されています。(※2025年3月31日までに1回目を開始し、所定の条件を満たせば2026年3月31日まで公費で完了可能)
足白癬を繰り返さない:洗う→乾かす→替える→通気
水虫(足白癬)は、治療して症状がなくなっても、生活習慣を見直さないと簡単に再発します。カビの一種である白癬菌は、高温多湿の環境が大好きです。再発予防の鍵は「清潔」と「乾燥」です。
英国国民保健サービス(NHS)などが推奨する、シンプルで効果的な「4つの習慣」を紹介します。
- 1. 毎日洗う:石鹸をよく泡立て、足、特に指の間を丁寧に洗います。
 - 2. 完全に乾かす:洗った後、タオルで水分を拭き取ります。特に足の指の間は湿気が残りやすいため、タオルやティッシュペーパーでしっかり水分を吸い取ります。
 - 3. 毎日替える:靴下は毎日清潔なものに交換します。
 - 4. 交互に履く:靴は通気性の良いものを選び、毎日同じ靴を履かず、複数の靴をローテーションさせて靴の内部を乾燥させます。
 
また、爪水虫など、他の真菌感染症がある場合は、そこから再感染することもあるため、医師の指示通りに治療を完了させることが重要です。ジムや公衆浴場の床を裸足で歩くことも避けましょう。
家庭・学校・職場での手指衛生:最新WHOガイドのポイント
皮膚のバリア機能が低下している時、手についた細菌やウイルスは感染症の引き金になります。手洗いや手指消毒は、皮膚感染症だけでなく、呼吸器系や消化器系の感染症を防ぐ公衆衛生の基本です。
WHOの最新ガイドライン(2025年版)でも、家庭や学校、職場といった「コミュニティ」での手指衛生の重要性が改めて示されました。
合併症・全身への影響と注意点
前節では皮膚疾患の予防法について見てきましたが、ここでは万が一症状が悪化したり、他の問題を引き起こしたりした場合の「合併症」と「全身への影響」について解説します。皮膚は体全体とつながっており、単なる表面の問題にとどまらないことがあるため、注意すべきサインを知っておくことが非常に重要です。
なぜ皮膚疾患で全身合併症が起こるのか
皮膚は単なる「カバー」ではなく、体最大の臓器です。そのため、皮膚の基本的な構造が広範囲にわたって壊れると、体は様々な影響を受けます。合併症は大きく分けて、以下のようなパターンがあります。
- 局所の問題: 皮膚炎が治った後に傷跡(瘢痕)や色素沈着が残ったり、皮膚が硬くなったりすること。
 - 感染の拡大:皮膚のバリア機能が壊れた場所から細菌が侵入し、蜂窩織炎(ほうかしきえん)のように深部へ広がり、時には敗血症など全身の感染症に至るリスク。
 - 全身性の炎症:乾癬など一部の疾患では、皮膚の炎症が関節や心血管系など、他の臓器に影響を及ぼすことがあります。
 - 重篤な薬疹:薬に対するアレルギー反応が、皮膚だけでなく多臓器に障害を引き起こす場合。
 
帯状疱疹の合併症:PHN・眼合併症を見逃さない
帯状疱疹は、ウイルス感染症の一つですが、特に注意が必要な合併症があります。最も一般的で深刻なものが帯状疱疹後神経痛(PHN)です。これは、米国疾病予防管理センター(CDC)も指摘するように、皮膚の発疹が治った後も、焼けるような、あるいは刺すような激しい痛みが数ヶ月から数年にわたって続く状態です。
さらに危険なのは、日本皮膚科学会ガイドラインでも警告されている眼部帯状疱疹です。ウイルスが顔、特に目の周りに出た場合、角膜障害や視力低下、最悪の場合は失明に至るリスクがあります。顔に帯状疱疹が疑われる症状が出たら、直ちに皮膚科と眼科の連携が取れる医療機関を受診する必要があります。
皮膚がんの進展:局所浸潤と転移のリスク
皮膚がんも重大な合併症(この場合は病気の進行)を伴います。特に悪性黒色腫(メラノーマ)は、メラノーマ診療ガイドラインが示す通り、早期に発見しなければリンパ節や他の臓器へ転移(がん細胞が飛ぶこと)する可能性が高いがんです。ほくろの急な変化や痛み・かゆみは、重要なサインかもしれません。
一方、最も頻度の高い基底細胞癌(BCC)は、ガイドラインによれば転移することは極めて稀ですが、放置すると局所浸潤(周囲の組織を壊しながら深く広がる)を起こします。特に顔面に発生した場合、目・鼻・耳などの機能や整容面(見た目)に大きな問題を残すことがあります。
慢性皮膚疾患とQOL:痛み・瘢痕・メンタルへの影響
乾癬(かんせん)や化膿性汗腺炎(HS)のような慢性的な皮膚疾患は、QOL(生活の質)に長期的な影響を与えます。乾癬では関節炎や心血管系への影響が知られています。また、化膿性汗腺炎(HS)では、痛みを伴うしこりや瘻孔(ろうこう:膿の通り道)、瘢痕化が日常生活を著しく制限します。
より身近な尋常性痤瘡(ニキビ)においても、痤瘡治療ガイドラインが指摘するように、主な合併症は炎症後の瘢痕(クレーター)や色素沈着です。これらはニキビ跡の治療が難しい場合もあり、見た目の問題が心理的なストレスとなり、うつや不安を併発することもあります。
薬疹重症型(SJS/TEN・DIHS)—危険サインと受診目安
特定の薬剤に対するアレルギー反応である「薬疹」の中には、命に関わる重篤なタイプが存在します。これらは皮膚科における最大の緊急事態の一つです。通常の接触皮膚炎とは異なり、全身に影響が及びます。
- SJS/TEN(スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症):ガイドラインによれば、高熱とともに広範囲の皮膚がやけどのように剥がれ(びらん)、口や目の粘膜が激しくただれます。多臓器障害や眼の後遺症(失明など)のリスクが極めて高く、即時の専門医療が必要です。
 - DIHS/DRESS(薬剤性過敏症症候群):ガイドラインでは、発疹に加えて高熱、リンパ節の腫れ、血液異常、そして重篤な肝障害などの内臓障害を特徴とします。原因薬剤の中止後も症状が再燃することがあり、長期の管理が必要です。
 
二次感染と潰瘍化:日常で注意すべきポイント
アトピー性皮膚炎や乾燥肌などで強いかゆみを伴う場合、掻き壊してしまう(掻破)ことが二次感染の最大の引き金となります。皮膚のバリアが壊れたところから細菌が侵入し、とびひ(伝染性膿痂疹)や前述の蜂窩織炎などを起こします。
また、血流障害などが関係する下腿潰瘍(足のすねの潰瘍)などは、治癒が遅れがちです。こうした治りにくい傷は、感染や機能障害の温床となるため、専門的な管理が必要となります。
合併症に関するよくある質問
Q1:帯状疱疹の一番多い合併症は何ですか?
A:帯状疱疹後神経痛(PHN)が最も一般的です。皮膚の発疹が消えた後も痛みが長く続く状態で、CDCによればQOL(生活の質)を大きく損ねる原因となります。
Q2:目の周りに帯状疱疹ができたらどうすればよいですか?
A:失明のリスクを伴う重篤な眼合併症(角膜障害など)の可能性があるため、様子を見ずに直ちに皮膚科と眼科の両方がある医療機関を受診してください。
Q3:ニキビを放置すると、必ず跡が残りますか?
A:必ずではありませんが、炎症が強いニキビ(赤ニキビや膿ニキビ)を放置したり、不適切に潰したりすると、ガイドラインでも示されている通り、クレーターのような瘢痕や茶色い色素沈着が残るリスクが高まります。早期の治療介入が跡を残さないために重要です。
Q4:薬を飲んで発疹が出たら、SJS/TENを疑うべきですか?
A:通常の薬疹はもっと軽度です。SJS/TENを疑うのは、ガイドラインにあるように、高熱を伴い、広範囲の皮膚がやけどのように剥け、口や目の粘膜が激しくただれるといった重い症状が出た場合です。これは命に関わるため、直ちに専門病院を受診してください。
これらの合併症や全身への影響を早期に発見するためにも、日頃のセルフチェックと、次章で解説する「受診準備チェックリスト」を活用した専門医への相談が鍵となります。
受診準備チェックリスト(症状経過・写真・既往歴・服薬歴)
これまで皮膚疾患の様々な側面や合併症のリスクについて見てきました。しかし、いざ皮膚科を受診する際、ご自身の症状を正確に伝えるのは意外と難しいものです。限られた診察時間で最も的確な診断と治療を受けるためには、事前の「準備」が非常に重要になります。このセクションでは、医師に伝えるべき情報を整理するための実務的なチェックリストをご紹介します。
症状経過の整理:いつ、どこで、何をしたら?
医師が最も知りたいのは「症状の物語」です。単に「かゆい」と伝えるだけでなく、以下の点を時系列でメモしておきましょう。
- いつから:最初の症状が出た具体的な日付(例:「〇月〇日頃から」)。
 - どこに:最初に発症した部位と、その後広がった場所。
 - どんな症状:かゆみ、痛み、発疹、乾燥、じくじくしている、など。
 - 強さの変化:症状が一日の中で強まる時間(例:夜、入浴後)や、0(なし)~10(最悪)で点数付けした痛みの度合い。
 - 日常生活への影響:かゆくて眠れない、仕事に集中できない、など。
 
特に日本皮膚科学会が指摘するように、症状が出る前に「何をしていたか」(例:汗をかいた、新しい化粧品を使った、日光を浴びた、仕事で薬剤に触れた)を記録することは、原因特定(特にアレルギー)のために非常に重要です。[3]
失敗しない皮膚写真の撮り方:全体・近接・比較
症状が落ち着いている時に受診すると、口頭説明だけでは診断が困難な場合があります。症状が出た瞬間の写真を残しておくことは、非常に有力な情報源となります。米国皮膚科学会(AAD)や英国民保健サービス(NHS)は、以下のポイントを推奨しています。[5, 6]
- 明るさと場所:自然光の下や、明るく均一な照明の室内で撮影します。背景は無地(白や中間色)が望ましいです。
 - フィルター禁止:スマートフォンの美肌モードや加工フィルターは必ずオフにしてください。症状が正確に伝わらなくなります。
 - 3つのアングル:①症状の場所がわかる「全体像」(例:腕全体)、②症状の範囲がわかる「中景」、③皮膚の状態がわかる「近接(マクロ)」の3枚を撮ります。
 - 大きさがわかる工夫:NHSが推奨するように、症状の横に定規や硬貨を置いて撮影すると、ほくろや発疹の正確な大きさが伝わります。[6]
 - ピントと日付:手ブレに注意し、ピントが合ったことを確認します。撮影日を必ず記録し、可能であれば数日おきに同じ条件(同じ場所、同じ光)で撮影し、変化を比較できるようにしておきます。
 
例えば、赤い輪っか状の発疹が出た場合、その輪郭がはっきりわかる写真と、数日後にそれが広がったかどうかの比較写真があると診断に役立ちます。
既往歴と生活習慣:医師が知りたい背景情報
現在の症状が、過去の病気や日々の生活習慣と関連していることがよくあります。以下の情報を整理しておきましょう。
- 皮膚疾患の既往歴:過去に診断された皮膚疾患(例:アトピー性皮膚炎、じんましん、ケロイド体質、皮膚の手術歴など)。
 - 全身の既往歴:アレルギー(花粉症、食物など)、自己免疫疾患、糖尿病、肝疾患など。
 - 家族歴:血縁者に同様の症状、アトピー素因、自己免疫疾患、皮膚がんの既往があるか。
 - 曝露歴(重要):接触皮膚炎(かぶれ)の診断に不可欠です。仕事や趣味で触れる化学物質、金属、ゴム、消毒薬、洗剤、化粧品、香料、染毛剤、日光(UV)などを思い出せる限り書き出します。[3]
 
「お薬手帳」の活用:サプリやワクチン歴も忘れずに
「薬疹(やくしん)」、つまり薬が原因で起こる皮膚症状を診断するために、服薬歴は非常に重要です。特にDIHS/DRESSといった重症薬疹は、新しい薬を飲み始めてから数週間後に出ることもあります。[8] 最高の情報源は、日本の医療システムで標準化されている「お薬手帳」です。[1, 2]
- お薬手帳を持参:PMDA(医薬品医療機器総合機構)も活用を推奨しており、紙でも電子版でも構いません。複数の医療機関からの処方を一元管理できます。[1]
 - 処方薬以外も記録:医師の処方薬だけでなく、市販薬(風邪薬、痛み止めなど)、漢方薬、サプリメントもすべて書き出します。
 - 外用薬も:現在使用中の塗り薬(ステロイド、保湿剤、貼付薬)も持参するか、名前を控えていきます。
 - ワクチン歴:厚生労働省が管理する情報に基づき、麻疹、水痘、帯状疱疹などの予防接種歴もメモしておくと、発疹の鑑別診断に役立ちます。[9]
 
最終チェック:当日の持ち物リスト
最後に、受診当日に忘れてはいけない持ち物をまとめます。準備万端で臨むことで、医師とのコミュニケーションが格段にスムーズになります。
- 必須の持ち物
- 保険証(またはマイナンバーカード)
 - お薬手帳(紙または電子版)
 - (あれば)紹介状や過去の検査結果(血液検査、病理検査など)
 
 - 症状を伝えるための資料
- 症状の経過をまとめたメモ(本記事のH3-1参照)
 - 日付入りの皮膚の写真(本記事のH3-2参照)
 - 現在使用中の塗り薬、貼り薬、保湿剤(現物またはラベルの写真)
 - 使用中のサプリメントや市販薬(現物またはパッケージ)
 
 - 原因特定のヒント(かぶれ疑いの場合)
- 症状が出る直前に使用した化粧品、スキンケア用品、染毛剤など(成分表の写真または現物)
 - 身につけていた金属アクセサリー
 - 仕事で使用する手袋や化学物質のリスト
 
 
よくある質問(FAQ)
前のセクションでは、皮膚科を受診する際の準備について確認しました。ここでは、患者さんから特によく寄せられる疑問について、Q&A形式で分かりやすくお答えします。
発疹は“いつ病院へ”?危険サインの見分け方
Q1. 発疹や赤みが出たとき、どのような症状なら「すぐ受診」すべきですか?
A. 症状の進行速度と範囲、全身症状(発熱など)の有無が重要な判断基準です。特に以下の場合は、自己判断せずに速やかに医療機関を受診してください。
- 発熱を伴い、急速に赤みや痛みが広がる場合: これは蜂窩織炎(ほうかしきえん)と呼ばれる皮膚の深い部分での細菌感染症の可能性があり、米国疾病予防管理センター(CDC)も指摘するように、迅速な抗生物質による治療が必要です。
 - 広範囲の水ぶくれや皮むけ、口・目・陰部などの粘膜がただれる場合: 英国国民保健サービス(NHS)が警告するように、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)などの重篤な薬疹が疑われ、緊急入院が必要な場合があります。
 - ほくろや黒いシミの形・色が急に変化した場合: 国立がん研究センターのがん情報サービスにもある通り、皮膚がんの兆候(非対称、境界がギザギザ、色のむら、急な拡大など)かもしれません。ほくろの異常を感じたら、早めに皮膚科で相談してください。
 
これら以外でも、原因不明の発疹が続く場合や、かゆみが非常に強い場合は受診を推奨します。
ステロイド外用薬は怖くない?安全な使い方
Q2. 「ステロイド外用薬は怖い」「皮膚が薄くなる」と聞きました。本当ですか?
A. ステロイド外用薬は皮膚の炎症を抑える非常に効果的な薬ですが、「怖い」というイメージは、主に過去の不適切な使用(強すぎるランクの薬を長期間、広範囲に使うなど)による副作用の記憶から来ています。日本皮膚科学会が解説しているように、医師が症状の重さや部位に合わせて強さを選び、使用期間や回数を守れば、安全かつ効果的に治療できます。
確かに、顔や首、陰部など皮膚が薄い場所では、薬の吸収が良すぎるため、副作用(皮膚が薄くなる、毛細血管が浮き出るなど)が出やすい傾向があります。そのため、これらの部位には弱いランクの薬が処方されます。自己判断での中断や長期の漫然使用は避け、必ず医師の指示に従ってください。
Q3. ステロイドはいつ、どれくらい塗るのが良いですか? やめ方は?
A. 塗るタイミングと量、そしてやめ方が重要です。
- 回数とタイミング: 通常、1日1〜2回、入浴後など皮膚が清潔な時に塗るのが一般的です。医師の指示を守ることが最も重要です。
 - 量: 塗る量は「フィンガーチップユニット(FTU)」が目安です。大人の人差し指の第一関節までチューブから出した量(約0.5g)で、大人の手のひら2枚分の面積に塗るのが適量とされます。ベタつくほど多く塗る必要はありませんが、少なすぎると効果が出ません。
 - やめ方: 症状が良くなったからといって、急に塗るのをやめると、炎症が再燃(ぶり返す)ことがあります。症状が改善したら、医師の指示に従い、徐々に弱いランクの薬に変えたり、塗る回数を減らしたり(例:毎日→1日おき)して、ゆっくりと使用を中止していきます(これを「漸減(ぜんげん)」と言います)。
 
保湿と日焼け止めの基本
Q4. 保湿剤はどのくらい・いつ塗るのが良いですか?
A. 保湿剤は、皮膚のバリア機能を保つための基本です。日本皮膚科学会も推奨する最も効果的なタイミングは、入浴やシャワー、手洗い直後です。皮膚が水分を含んでいるうちに塗ることで、水分の蒸発を防ぎます。塗る回数は、1日2回〜4回以上を目安に、乾燥を感じたらこまめに塗り直すことが大切です。
ステロイドなどの治療薬と併用する場合、塗る順番が指示されることがあります。一般的には、塗る面積が広い保湿剤を先に全体に塗り、その後で炎症がある部分にだけ治療薬を塗ります。これにより、治療薬が不要な部分に広がるのを防げます。乾燥肌のケアは、すべての皮膚疾患治療の基本となります。
Q5. 日焼け止めはSPF/PAをどう選べばいい?
A. 紫外線は皮膚の老化や皮膚がんの最大のリスク因子です。米国皮膚科学会(AAD)は、日常使いであっても以下の基準を満たす日焼け止めを推奨しています。
- SPF 30以上: UVB(シミや日焼けの原因)を防ぐ力の指標。
 - 広域(Broad-Spectrum): UVA(シワやたるみの原因)も防げること。日本の「PA」表示(PA+ 〜 PA++++)もUVA防御の指標です。
 - 耐水性(Water Resistant): プールや汗をかく活動時に。
 
最も重要なのは「量」と「塗り直し」です。十分な量をムラなく塗り、屋外では2時間ごとに塗り直すことが推奨されます。
その病気、うつる?うつらない?
Q6. 帯状疱疹(たいじょうほうしん)は人にうつりますか?
A. 「帯状疱疹」そのものがうつることはありません。しかし、帯状疱疹の原因は水ぼうそう(水痘)と同じウイルスです。国立感染症研究所によると、水ぶくれの中にはウイルスが大量に含まれています。そのため、過去に水ぼうそうにかかったことがない人や、ワクチンを未接種の人(特に子供)がこの水ぶくれに触れると、「水ぼうそう」として感染する可能性があります。かさぶたになるまでは、水ぼうそうにかかっていない人との接触を避ける必要があります。なお、50歳以上の方は帯状疱疹予防ワクチンの対象となります。
Q7. 乾癬(かんせん)はうつる病気ですか?
A. うつりません。 日本皮膚科学会も明言している通り、乾癬は感染症ではなく、免疫系の異常などが関与する病気です。したがって、温泉やプール、タオルなどを介して他人にうつることは一切ありません。乾癬に関する正しい理解が重要です。
検査や食事に関する疑問
Q8. かぶれ(接触皮膚炎)の原因を特定するにはどうすればいいですか?
A. 特定の物質に触れることで起きる接触皮膚炎の原因アレルゲンを突き止めるための標準的な検査が「パッチテスト」です。日本皮膚科学会が示すように、原因と疑われる物質(化粧品、金属、植物、薬剤など)を背中に貼り、48時間後、72時間後などの皮膚の反応を見て診断します。原因を特定することが、再発予防の鍵となります。
Q9. 食事でニキビは悪化しますか?
A. ニキビと食事の関係については多くの研究があります。米国皮膚科学会(AAD)やJAMA Dermatology誌の研究などによると、血糖値を急激に上げる高GI/GL食(お菓子、白パン、甘い飲み物など)や、一部の乳製品(特に牛乳)がニキビを悪化させる可能性が示唆されています。
ただし、食事だけでニキビが治るわけではなく、関連性には個人差も大きいです。もし特定の食べ物で悪化すると感じる場合は、それを控えてみる価値はありますが、極端な食事制限はせず、皮膚科での標準治療と正しいスキンケアを併用することが基本です。
これらの質問以外にも、個々の症状や治療には多くの疑問が伴います。不安な点は遠慮せず、診察時に医師に確認することが大切です。
診療ガイドライン・エビデンスの出典(方針の説明)
前節の「よくある質問」に続き、本記事全体の信頼性を担保するため、JapaneseHealth(JHO)編集部が準拠する医療情報の方針と、エビデンス(科学的根拠)の出典についてご説明します。
医療情報は、読者の健康と安全に直結するため、その正確性と信頼性が最も重要です。当サイトでは、あらゆる肌トラブルに関する情報が、最新かつ客観的な科学的根拠に基づいていることを保証するために、厳格な編集ポリシーを設けています。
優先する情報源:日本の公式ガイドライン
JHOのコンテンツは、第一に日本の公的機関が発行する最新の診療ガイドラインを最優先の典拠とします。これには以下が含まれます。
- 日本皮膚科学会(JDA)の各診療ガイドライン:アトピー性皮膚炎、乾癬、ニキビ(尋常性痤瘡)など、各疾患の最新版ガイドラインに準拠します。
 - 厚生労働省(MHLW)および関連機関の資料:「健康・医療情報の見極め方」や統計データ、国立国際医療研究センター(NCGM)などの専門機関が公開する情報を参照します。
 
国際的なエビデンスによる補完
日本のガイドラインでカバーされていない領域や、最新の国際的な知見を補完するために、以下の信頼できる国際機関のエビデンスを参照します。
- 世界保健機関(WHO):ガイドライン作成ハンドブックや公衆衛生に関する指針。
 - 英国国立医療技術評価機構(NICE):厳格なGRADEシステムに基づくガイドライン作成マニュアルと臨床指針。
 - 米国皮膚科学会(AAD):皮膚科領域における専門的な臨床ガイドライン。
 - コクラン(Cochrane):システマティック・レビュー(複数の研究をまとめた質の高いレビュー)の方法論とデータベース。
 
推奨度とエビデンスレベルの定義
記事内で「推奨度A」や「エビデンスレベルI」といった表記を用いる場合、それは主に日本皮膚科学会のガイドライン(例:尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023)で定義された基準に基づいています。
- 推奨度:A(強く推奨)、A*(A相当だが副作用等で劣る)、B(推奨)、C1(推奨する根拠が弱い)、C2(推奨しない根拠が弱い)、D(推奨しない)。
 - エビデンスレベル:I(システマティックレビュー/メタ解析)、II(1つ以上のRCT)、III(非ランダム化比較試験)、IV(症例集積研究など)、V(症例報告)、VI(専門家の意見)。
 
これにより、例えばステロイド外用薬や抗生物質の使用に関する記述が、どの程度の科学的根拠に基づいているかを明確にします。国際的なGRADE基準(推奨の強さ:強い/弱い、エビデンスの確実性:高/中/低/非常)も、透明性のために補足的に参照します。
医薬品と安全性情報の取り扱い
治療薬に関する情報は、その有効性だけでなく安全性(副作用・禁忌)の記述が不可欠です。すべての医薬品情報は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公開する最新の添付文書および医薬品リスク管理計画(RMP)と照合しています。
特に、イソトレチノインやハイドロキノンなど特定の注意が必要な薬剤や、重症多形滲出性紅斑(SJS/TEN)のような重篤な皮膚有害反応(SCARs)に関する情報は、最新の補遺や安全性速報に基づき、特に慎重に取り扱います。
記事の更新ポリシー
医療情報は日々進歩します。JHOでは、原則として**年2回**の定期的な全体点検を実施し、参照するガイドラインやエビデンスの改訂状況を確認しています。
さらに、ガイドラインの重要な補遺(追補)が発表された場合、または重大な安全性情報(例:緊急安全性情報)が出された場合は、定期点検を待たず**随時更新**を行います。これにより、読者が常に最新かつ信頼できる情報に基づいたスキンケアや美肌への判断を行えるよう努めています。
本記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。皮膚の異常、例えばほくろの急な変化や消えない発疹など、気になる症状がある場合は、自己判断せず必ず医療機関を受診してください。
これらのガイドラインや論文で使用される医学用語については、次の「用語集」セクションで詳しく解説しています。
用語集(皮膚科でよく使う言葉)
前節では、本記事が準拠する診療ガイドラインやエビデンス(科学的根拠)についてご説明しました。こうした医学文献や診察室では、少し難しい専門用語が使われることがあります。このセクションでは、皮膚科でよく耳にする基本的な言葉を、できるだけ分かりやすく解説する「用語集」です。
1. 皮疹の「見た目」に関する基本用語
医師は発疹の見た目(形態)を非常に重視します。以下は英国国民保健サービス(NHS)の資料[10]などでも用いられる基本的な分類です。
- 斑(はん):皮膚の盛り上がり(隆起)やへこみがなく、平らなまま色だけが変化している状態。「シミ」や「あざ」の多くがこれにあたります。
 - 丘疹(きゅうしん):直径1cm未満の、小さな「ブツブツ」とした皮膚の盛り上がり。おでこのブツブツなどが代表例です。
 - 局面(きょくめん):丘疹が集まったり、癒合したりして、面状に盛り上がった状態。乾癬などで見られます。
 - 水疱(すいほう):透明な液体(漿液)が溜まった「水ぶくれ」のこと。小さなものを水疱、大きなものを大疱(たいほう)と呼び分けることもあります。
 - 膿疱(のうほう):水疱と似ていますが、内部に膿(うみ)が溜まって白く濁ったもの。膿ニキビなどがこれにあたります。
 - 膨疹(ぼうしん):蚊に刺された後のように、一時的に皮膚が赤く盛り上がる「みみずばれ」。蕁麻疹(じんましん)の典型的な症状で、数時間以内に消えるのが特徴です。
 - 鱗屑(りんせつ):角質層が厚くなり、カサカサして「フケ」のように剥がれ落ちる状態。
 - 苔癬化(たいせんか):長期間掻き続けることで、皮膚がゴワゴワと硬く、厚くなった状態。
 
2. 診察・検査に関する用語
- ダーモスコピー:ほくろやシミを診断する際に使う、特殊な拡大鏡(虫眼鏡)です。偏光フィルターなど[7]を使い、皮膚の表面だけでなく、少し深い層の色素のパターンを観察することで、ほくろが悪性(メラノーマ)かどうかをより正確に診断できます。
 - KOH(ケーオーエイチ)法:水虫やたむしなど、真菌(カビ)が疑われる際に行う顕微鏡検査です。患部のカサカサした部分を少しこすり取り、水酸化カリウム(KOH)という薬液で角質を溶かし、菌糸や胞子[9]がいるかをその場で確認します。
 - パッチテスト(貼付試験):かぶれ(接触皮膚炎)の原因アレルゲンを特定するために行う検査です。厚生労働省の資料[6]にもある通り、金属、香料、薬剤などを背中に48時間貼り付け、その後の皮膚の反応を見ます。
 
3. 重症度・日光に関する用語
- PASI(パシ):Psoriasis Area and Severity Indexの略。乾癬(かんせん)の重症度(赤み・厚み・鱗屑・面積)を評価する国際的なスコアです。
 - DLQI(ディーエルキューアイ):Dermatology Life Quality Indexの略。皮膚疾患が患者さんの生活の質(QOL)にどれほど影響しているかを10項目の質問で評価するスコアです。英国NICE[3]などは、PASIと共に治療選択の基準に用います。
 - SPF:Sun Protection Factorの略。主にUVB[4](短時間で肌を赤くし、日焼けやシミの原因となる紫外線)を防ぐ効果の強さを示す国際的な指標です。
 - PA:Protection Grade of UVAの略。UVA(長時間かけて肌の奥深くに達し、シワやたるみの原因となる紫外線)を防ぐ効果を示す、日本で広く採用されている表示[5]です。「PA+」から「PA++++」までの4段階あります。日焼け止めはSPFとPAの両方を見て選ぶことが重要です。
 
4. 治療・感染症に関する重要用語
- ODT(密封療法):Occlusive Dressing Techniqueの略。ステロイドなどの塗り薬を塗った後、食品用ラップなどでその部分を覆うことで、薬の皮膚への吸収率を高める治療法です。吸収が高まる分、副作用のリスクも上がるため、医師の厳密な指導のもとで行われます。
 - 蜂窩織炎(ほうかしきえん):皮膚の深い層(真皮から皮下組織)で細菌が増殖する感染症です。多くは片足などに起こり、境界がやや不明瞭な赤み、強い腫れ、熱感、痛みを伴います。発熱などの全身症状[12]が出た場合は、抗生物質の点滴などが必要となるため、早期の受診が必要です。
 - SJS/TEN:Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症の略。主に薬剤が原因で起こる、最も重篤な薬疹(アレルギー)です。高熱[9]とともに、全身の皮膚がやけどのように剥がれ落ち、口や目などの粘膜が激しくただれます。命に関わる状態で、直ちに入院管理が必要です。化粧品アレルギーなどとは緊急度が全く異なります。
 
新着記事(最新の公開順)













