ケロイドケロイド / Keloid
最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)
✦ 結論から言うと
公益社団法人日本皮膚科学会によると、ケロイドは、傷やニキビなどの小さな傷跡が治る過程でコラーゲンが過剰に作られ、もとの傷の範囲を越えて周囲の正常な皮膚にまで盛り上がりが広がっていく状態です[1]。傷の範囲内にとどまる「肥厚性瘢痕」とは見た目も治療方針も異なり、混同すると治療のゴールを見誤ります。同学会は、耳たぶ・前胸部・肩・肩甲骨部・上腕・腹部(臍部)にできやすく、家族にケロイド体質の人がいる場合は要注意としています[1]。急に大きくなる・出血する・強い痛みが続く場合は自己判断せず、早めに皮膚科専門医を受診してください。
| 主な原因 | 日本皮膚科学会によると、傷が治る「再構築期」でコラーゲンなど真皮成分が過剰に作られること。外傷・熱傷・手術創・ニキビ・ピアスの穴など、きっかけは小さな傷でも起こる[1] |
|---|---|
| 主な症状 | 同学会が挙げるのは、傷より広い範囲の盛り上がり、かゆみ、痛み、側圧痛(横からつまむと痛む)、引きつれ感[1] |
| 受診の目安 | 急速な増大・出血・強い自発痛・傷と関係なく生じたしこりは皮膚科専門医へ。日本皮膚科学会は、通常のケロイドも治療後2年以上の経過観察が必要としている[1] |
ケロイドとは?肥厚性瘢痕との違いが生まれる仕組み
日本皮膚科学会によると、皮膚に傷ができてから治るまでには、①血液凝固期→②炎症期→③(細胞)増殖期→④再構築期(成熟期)という4つの段階があります[1]。同学会はすり傷を例に、出血が止まり(①)、傷の周りが赤くなり(②)、傷がだんだん浅くなり(③)、表皮に覆われたあとも内側の真皮ではコラーゲンなどの分解・生成が繰り返されて創部が強固になっていく(④)流れを説明しています[1]。
日本皮膚科学会は、この④再構築期がスムーズに進めば傷痕は目立たなくなる一方、外傷や熱傷、手術による刺激、細菌感染、異物への反応、炎症性疾患、そして創の周囲の皮膚にかかる力(皮膚張力)などの要因で真皮成分が過剰に作られると盛り上がりが生じるとしています[1]。同学会は、この中でも「皮膚にかかる力」を最も大きな要因として挙げています[1]。
日本皮膚科学会の定義では、盛り上がりがもとの傷と同じ範囲にとどまるものが肥厚性瘢痕、傷よりも広い範囲に広がって生じるものがケロイドです[1]。同学会は、多くの場合、肥厚性瘢痕を経てケロイドに至る連続した病変と考えられており、初期には厳密に区別できないケースもあるとしています[1]。なお同学会によると「ケロイド」はギリシア語で「カニや鳥獣の爪に似たもの」を意味し、盛り上がった形がカニの足を広げた形に似ることに由来し、日本語では「蟹足腫(かいそくしゅ)」とも呼ばれます[1]。
出典:公益社団法人日本皮膚科学会「皮膚科Q&A ケロイド」Q1・Q2[1]
診断の目安となる指標:JSW Scar Scale(JSS)
瘢痕・ケロイド治療研究会(Japan Scar Workshop, JSW)は、肥厚性瘢痕・ケロイド・成熟瘢痕(治りきった目立たない傷痕)を客観的に見分けるツールとして「JSW Scar Scale(JSS)」を作成しています[2]。JSWコンセンサス文書によると、垂直方向の盛り上がり、水平方向の広がり、形、周囲の紅斑(赤み)などの臨床所見に、発症年齢の早さなどのリスク因子を加点し、合計点で病変の性質を判定する仕組みです[2]。
| JSS合計点 | 病変の性質 | 治療の目安 |
|---|---|---|
| 5点以下 | 成熟瘢痕(治りきった状態に近い) | JSWコンセンサス文書によると治療の必要性は低い[2] |
| 6〜15点 | 肥厚性瘢痕の性質が強い | 同文書によると治療に反応しやすく、一般の医療機関でも対応可能[2] |
| 16点以上 | ケロイドの性質が強い | 同文書によると治療抵抗性・再発しやすいため、専門的治療を行う医療機関への相談が望ましい[2] |
出典:Ogawa R, et al.「Diagnosis and Treatment of Keloids and Hypertrophic Scars—Japan Scar Workshop Consensus Document 2018」Burns & Trauma 2019[2]
JSWコンセンサス文書は、妊娠中や高血圧の患者ではケロイド・肥厚性瘢痕が悪化することが知られており、血液中の炎症性サイトカイン(IL-6など)の増加もこれらの病変を悪化させる要因として報告していると述べています[2]。同文書によると、逆に子宮筋腫や子宮内膜症の治療で偽閉経療法を行うと症状が改善する経験的な観察もあります[2]。同文書は、皮膚を伸展させる局所的な力も悪化要因であり、同じ動作を反復する肉体労働者やスポーツ選手の病変は治療抵抗性が高く、長期の治療期間を要する傾向があるとしています[2]。
JSSがどこを見ているか
JSWコンセンサス文書によると、JSS 2015は、病変そのものの見た目(垂直方向の盛り上がりの高さ、水平方向への広がり方、輪郭の形、病変表面の赤み、周囲の皮膚に及ぶ紅斑の範囲)を段階的に採点したうえで、発症年齢の早さといった個人のリスク因子を加味して合計点を出す仕組みです[2]。同文書は、生物学的な指標(血液検査などのバイオマーカー)だけでケロイドと肥厚性瘢痕を明確に区別する方法は、多くの研究が試みてきたにもかかわらずいまだ確立されていないと明記しています[2]。そのため、視診・触診を中心にした臨床所見の採点であるJSSが、現時点で最も実用的な判定手段として位置づけられています[2]。
JSWコンセンサス文書によると、病理組織を顕微鏡で見た場合、肥厚性瘢痕は方向がバラバラなコラーゲン線維束からなる真皮の結節が特徴です[2]。同文書は、ケロイドにはこれに加えて「ケロイド様(膠原線維硝子化)コラーゲン」と呼ばれる、太く均一に染まるコラーゲン線維が混在するとしています[2]。ただし同文書は、この線維がどの程度あればケロイドと確定できるかという明確な閾値はなく、臨床診断と病理診断が一致しないこともあると注意を促しています[2]。同文書によると、成長中のケロイドでは、病変が正常皮膚と接する先進部(辺縁)の真皮に強い炎症所見がみられるのも特徴の一つです[2]。
肥厚性瘢痕とケロイドの見分け方
| 項目 | 肥厚性瘢痕 | ケロイド |
|---|---|---|
| 広がる範囲 | もとの傷の範囲内にとどまる[1] | もとの傷を越えて周囲の正常皮膚まで広がる[1] |
| 色調 | 赤みを帯びた盛り上がり[1] | 淡紅色〜皮膚正常色[1] |
| 自然経過 | 数年以内に徐々に平坦化・消退することが多い[1] | 自然に治りにくく、徐々に拡大する難治性の経過をたどりやすい[1] |
| 自覚症状 | かゆみ・痛み・引きつれ[1] | かゆみ・痛み・引きつれに加え、側圧痛(横からつまむと痛む)[1] |
| 好発部位 | 全身どこにでも生じうる(軽度なものを含めれば)[1] | 顔面・前胸部・腹部(臍部)・肩・肩甲骨部・上腕・耳たぶなど、皮膚の直下に骨や軟骨があり伸展力・摩擦力がかかりやすい部位[1] |
見分けるカギ:日本皮膚科学会によれば、盛り上がりが「もとの傷の範囲内」で止まっているか、「傷を越えて」広がっているかが最大の分かれ目です[1]。ただしJSWコンセンサス文書は、臨床の現場ではこの中間的な性質を示し判断が難しい病変も少なくないため、迷う場合は皮膚科専門医の診察を受けることが推奨されるとしています[2]。
JSWコンセンサス文書は、ケロイド・肥厚性瘢痕とよく似た良性腫瘍(偽リンパ腫、皮膚混合腫、黄色肉芽腫、平滑筋腫、皮膚線維腫など)や、急速に増大する場合に鑑別が必要な悪性腫瘍(隆起性皮膚線維肉腫〔DFSP〕、皮膚有棘細胞癌、無色素性悪性黒色腫など)も存在すると指摘しています[2]。同文書によると、良性・悪性腫瘍が疑われる場合は、治療を始める前に生検(組織の一部を採取する検査)が検討されます[2]。同文書は、ケロイド・肥厚性瘢痕は視診・触診で診断できることが多いものの、良性・悪性腫瘍が疑わしい場合は超音波・CT・MRIなどの画像検査を行い、その後の切除生検の参考にすることを推奨しています[2]。同文書によれば、良性・悪性腫瘍が疑われない場合でも、超音波エラストグラフィーや超音波画像で病変の硬さや治療経過を非侵襲的に評価できるとされ、ただし現在の画像検査だけでケロイドと肥厚性瘢痕を明確に区別することはできないという限界も明記されています[2]。
できやすい体質・悪化させる要因
日本皮膚科学会によると、肥厚性瘢痕は程度の差はあれ誰にでも生じうる一方、ケロイドは「できやすい体質」があると考えられています[1]。同学会は、家族内でケロイドが多く発症する家系があることや、メラニン色素量との関連が知られており、黒人はケロイドができやすく白人はできにくいことを特徴として挙げています[1]。JSWコンセンサス文書も、白人に比べてアジア系・アフリカ系の人種はケロイド・肥厚性瘢痕を発症しやすく、症状も重くなりやすい傾向があると報告しています[2]。
日本皮膚科学会は、そのほか高血圧や女性ホルモンが症状を悪化させることが知られているほか、喘息などのアレルギー疾患を持つ人に多く発生する一方、神経障害を伴うハンセン病患者には発生しにくいという興味深い報告もあるとしています[1]。JSWコンセンサス文書も、妊娠中の悪化を報告しています[2]。
日本皮膚科学会によると、「傷と認識しないような些細な外傷」、たとえば虫刺されからケロイドが生じる場合もあり、これは「特発性ケロイド」と呼ばれます[1]。同学会は、ピアスの穴も代表的なきっかけの一つとしています[1]。
経過と治療:段階別のケア
日本皮膚科学会は、肥厚性瘢痕・ケロイドいずれも副腎皮質ステロイドが第一選択としています[1]。同学会によると、軟膏などの外用療法に加えてステロイドを含有するテープ剤を貼付し、病変が高度な場合は局所注射を行うこともあります[1]。同学会は、内服薬としてはトラニラストが用いられ、表面からの圧迫療法(シリコンジェルシートなど)も有用性が高いとしています[1]。同学会によると、ケロイドではこれらに加え、凍結療法、放射線療法、外科手術による切除が症状に応じて単独または併用で検討されます[1]。
JSWコンセンサス文書は、医療機関のレベル別に、より具体的な進め方を示しています[2]。
| 対象 | 治療の流れ |
|---|---|
| 小児 | 弱いステロイドテープをまず3か月試し、効果不十分なら強いステロイドプラスターに切り替えてさらに3か月。重症例には内服薬(トラニラストなど)を追加。効果不十分なら専門的治療を行う医療機関へ紹介[2] |
| 成人(一般の医療機関) | 軽症では弱いステロイドテープも選択肢だが、多くは強いステロイドプラスターから開始して3か月。効果不十分ならトリアムシノロンアセトニド局所注射を追加。関節部など動きの多い部位では安静・固定療法や圧迫療法も併用。効果不十分なら専門的治療を行う医療機関へ紹介[2] |
| 専門的治療を行う医療機関 | ケロイド・肥厚性瘢痕を確定診断したうえで自覚症状と部位を評価し、部位別プロトコルに沿って、外用・内服・安静固定・圧迫・手術・放射線治療・レーザー・メイクアップ療法・心理社会的ケアを組み合わせて選択[2] |
出典:Ogawa R, et al. JSW Consensus Document 2018[2]
日本皮膚科学会によると、手術を選択する場合、傷が再びケロイドにならないよう、Z形成術やW形成術といった皮膚の張力を分散させる形成外科的な手法が選ばれます[1]。同学会は、ケロイドは治療しても再発しやすいため、治療後は最低でも2年間の経過観察が必要としています[1]。
手術単独では再発率が高い——放射線治療との併用が鍵
JSWコンセンサス文書によると、ケロイド切除後、手術単独での再発率は50〜80%にのぼると報告されています[2]。同文書は、これに対し手術から1週間以内に生物学的等価線量(BED)30Gy以上の放射線治療を完了すると、再発率は10%以下まで改善すると報告しています[2]。これが、ケロイド治療で「手術だけで終わらせない」ことが重視される理由です。
JSWコンセンサス文書は、放射線量は部位によって異なり、前胸部・肩甲骨部・恥骨上部は再発しやすいため20Gy/4回/4日間、耳たぶは再発しにくいため10Gy/2回/2日間、その他の部位は15Gy/3回/3日間が目安として示されるとしています[2]。同文書によると、甲状腺や乳腺が直下にある部位への照射は発がんリスクを避けるため行わず、代わりにステロイドテープや注射で対応します[2]。また同文書は、放射線感受性が高い成長期にあるため、小児には放射線治療を行わないとしています[2]。
手術以外の治療法がどう働くか
JSWコンセンサス文書によると、ステロイド注射は症状を比較的速く改善させる一方で、注射時の痛みが欠点とされ、痛みを和らげる工夫を併用することが推奨されています[2]。同文書は、注射の際に病変の硬い線維の中心部に打つと薬剤が組織に十分浸透せず、内圧が上がってかえって痛みを招くため、正常皮膚との境界や、炎症が強い病変の深部・辺縁を狙って注射することを推奨しています[2]。
JSWコンセンサス文書は、圧迫療法(包帯・サポーター・専用ガーメントなど)について、病変とその周囲の血管に圧力をかけて血流を減らし、炎症を抑えて瘢痕の成熟を促す働きがあるとしています[2]。同文書によると、安静・固定療法(固定テープやジェルシートを6か月〜1年程度貼付)も、瘢痕にかかる張力を減らして成熟を促す目的で行われます[2]。同文書は、トラニラストなどの内服薬は、病変が大きい・多発しているなど全身的なリスク因子が疑われる場合に用いることを推奨しています[2]。
JSWコンセンサス文書によると、レーザー治療は特に平坦な瘢痕の色調改善に向いており、レーザー光を瘢痕表面に対して垂直に当てることが基本とされます[2]。同文書は、メイクアップ療法はケロイド・肥厚性瘢痕・成熟瘢痕いずれの見た目も一時的に改善でき、患者の心理面の改善につながるとしています[2]。傷痕は外見の変化として心理的な負担になりやすいため、同文書は心理社会的ケアも治療の選択肢の一つとして位置づけています[2]。
JSWコンセンサス文書は、そのほか凍結療法(液体窒素)、5-フルオロウラシル(5-FU)局所注射、ボツリヌストキシン注射、自家脂肪注入療法なども報告されているとしつつ、凍結療法は効果がおだやかで、皮膚の一部が完全に治りにくく色素が抜ける(脱色素)副作用があり、瘢痕を完全に除去するのは難しく再発しやすい点に注意を促しています[2]。
受診の目安:今すぐ皮膚科へ行くべきサイン
ケロイド・肥厚性瘢痕そのものは緊急性の高い病気ではありませんが、次のような場合は自己判断でのケアを続けず、早めに皮膚科専門医(できれば形成外科・皮膚科でケロイド治療の経験がある医療機関)を受診してください。
| サイン | 目安 |
|---|---|
| 🔴 急速に増大している/出血する/強い自発痛が続く | JSWコンセンサス文書によると、良性・悪性腫瘍との鑑別のため生検が必要な場合があります[2]。自己判断せず速やかに受診してください |
| 🟡 傷やニキビ跡が、もとの傷の範囲を越えて広がってきた | 日本皮膚科学会の基準では、ケロイドへ移行しつつある可能性。ステロイドテープなど早期治療で反応しやすい段階です[1] |
| 🟢 傷の範囲内での軽い赤み・盛り上がりのみ | 日本皮膚科学会によると、肥厚性瘢痕の可能性が高く、数年以内に自然に目立たなくなることが多い段階です[1]。ただし悪化しないか経過は見ておきましょう |
日本皮膚科学会によると、専門医の診断は視診・触診による外見の詳細な観察に加え、病歴や傷の治る経過などから総合的に行われます[1]。同学会は、症状が典型的でない場合は、皮膚悪性腫瘍などとの鑑別のため病変部の皮膚を一部採取して顕微鏡で確認する検査(生検)が行われることもあるとしています[1]。JSWコンセンサス文書によると、良性・悪性腫瘍が疑われない場合は、超音波エラストグラフィーなど非侵襲的な画像検査で病変の硬さを評価することもあります[2]。
できやすい部位ごとの治療の考え方
JSWコンセンサス文書は、部位ごとに異なる治療プロトコルを提示しています。同文書によると、皮膚の直下に軟骨や骨があり、伸展力・摩擦力がかかりやすい部位ほど、手術の方法や術後ケアが工夫されています[2]。
| 部位 | 治療の考え方 |
|---|---|
| 耳介軟骨部 | 耳の形を保つため「コア切除法」(線維の芯だけを取り除く方法)が適している[2] |
| 耳たぶ | 多くはピアスの穴が原因。くさび状に切除して単純縫合する方法で、耳たぶの形を保ちながら治療できる[2]。術後放射線は10Gy/2回/2日間が目安[2] |
| 下顎 | 手術と術後の放射線治療・ステロイドテープ/注射により、線状の目立たない瘢痕に変えていくことができる[2] |
| 前胸部(正中切開由来) | 正中の手術創から広がるケロイド・肥厚性瘢痕には、手術と術後放射線治療が推奨される[2] |
| 前胸部(ニキビ・毛包炎由来) | Z形成術で創にかかる水平方向の張力を分散させることが推奨される[2] |
| 肩・肩甲骨部 | Z形成術で創部の張力を分散。小さな病変はステロイドテープ・注射でも対応可能[2] |
| 上腕 | 切除後にZ形成術を追加し、創にかかる皮膚張力を分散させる[2] |
| 関節部(手・肘・膝・足) | 関節が伸びる方向に沿った薄い病変であれば、完全切除とZ形成術が推奨される[2] |
| 腹部(正中切開由来) | 保存的治療でも対応できるが、瘢痕の形は残る。手術を選ぶ場合はZ形成術を併用[2] |
| 腹部(非正中切開由来) | 比較的皮膚に余裕があるため、完全に切除して一次縫合できることが多い[2] |
| 恥骨上部 | 感染を伴う場合は手術が第一選択となる[2] |
出典:Ogawa R, et al. JSW Consensus Document 2018(部位別治療プロトコル)[2]
JSWコンセンサス文書によると、頻度は高くないものの顔面・外陰部・足底にもケロイド・肥厚性瘢痕が生じることがあります。同文書は、小さく肥厚性瘢痕の性質が強い病変はステロイドテープ・注射で、大きい病変や多発する病変、またはケロイドの性質が強い病変は手術で対応し、術後は放射線治療かステロイド治療を組み合わせるのが基本方針としています[2]。
ケロイド予防:傷ができたときにできること
日本皮膚科学会によると、ケロイド体質(傷痕が残りやすい体質)の人は、傷ができた際に早期から適切な治療を受けることが何より重要です[1]。同学会は、物理的な圧迫も有用性の高い方法であり、皮膚科専門医の指示のもとで適切に行うことが推奨されるとしています[1]。同学会は、当然ながらそもそも創を作らないことが重要で、熱傷などには十分注意し、ピアスなども可能であれば控えたほうがよいとしています[1]。
JSWコンセンサス文書によると、一般的な創傷ケアとしては、傷を丁寧に洗浄・消毒し、必要に応じて外用抗菌薬を使用したうえで、局所の伸展を防ぐ固定材で創を保護することが推奨されています。同文書は、これは小さく軽い傷であっても、肥厚性瘢痕やケロイドは一見ささいな傷からも生じうるため当てはまるとしています[2]。また同文書は、どの治療も「最も侵襲の少ない方法から始める」ことが原則としています[2]。
JSWコンセンサス文書によると、ケロイド・肥厚性瘢痕のある人は、瘢痕を悪化させる可能性がある生活習慣、たとえば瘢痕部に繰り返し張力がかかるような肉体労働や過度な運動を見直すことも勧められています[2]。市販の保湿剤やシリコンジェルシート単体で確実に予防できるかどうかについては、今回参照した資料の範囲では明確な数値までは示されていませんでした。気になる傷がある場合は自己判断で市販品だけに頼らず、早めに皮膚科専門医に相談することが推奨されます。
日本の指標と国際的な視点
瘢痕・ケロイド治療研究会(JSW)が作成した「JSW Scar Scale」および治療コンセンサス文書は、日本国内で広く使われている指標です[2]。JSWによれば、この文書は英語論文としても発表されており、世界中の臨床医がケロイド・肥厚性瘢痕を診断・治療する際の参考になることを目的としています[2]。
JSWコンセンサス文書自身が明記している通り、ケロイド・肥厚性瘢痕の発症しやすさには人種差があり、白人に比べてアジア系・アフリカ系の人はこれらの病変を発症しやすく、発症した場合の重症度も高くなる傾向があります[2]。同文書は、この人種差が、国によって鑑別診断のアルゴリズムが異なる一因になっていると指摘しています[2]。
国際的な視点では、米国・韓国・欧州の研究者が2026年に発表した総説「Comprehensive Update on Keloid Management」(Archives of Plastic Surgery誌)も、日本のJSWコンセンサス文書と同じ方向性を示しています。同総説は、ケロイドには世界的に統一された標準治療(universally accepted standard of care)がまだ確立されていないとしたうえで、トリアムシノロンなどの副腎皮質ステロイド局所注射を第一選択とし、難治例には5-フルオロウラシルやビンクリスチンといった化学療法薬、大きい病変や再発病変には術後放射線治療を組み合わせる外科切除など、複数の治療法を組み合わせる「多モダリティ治療」を基本方針とすべきだとしています[4]。これは日本のJSWコンセンサス文書が示す「侵襲の少ない方法から始め、症状・部位に応じて手術+術後放射線治療を組み合わせる」という考え方と一致しており、日本の治療方針は国際的な潮流からも大きく外れていないことがわかります。
一方で、市販品としても広く使われるシリコンジェルシート(圧迫療法の一種)については、国際的な評価はまだ定まっていません。Cochraneが2023年に発表した系統的レビューは、シリコンジェルシートの効果を検証した無治療対照・非シリコン製品対照・トリアムシノロン局所注射対照のランダム化比較試験(RCT)を精査した結果、いずれの比較でも「シリコンジェルシートに効果があるかどうか判断するには証拠が不十分」とし、既存のエビデンスはすべて「確実性が非常に低い(very low-certainty)」と評価しています[3]。同レビューは、対象となった試験がいずれも参加者16〜20人程度と小規模で、報告方法にも偏りがあったことを理由に挙げ、質の高い大規模研究が今後必要だと結論づけています[3]。日本国内でもシリコンジェルシートは圧迫療法の選択肢の一つとして使われていますが[1]、国際的なエビデンスとしては「効果を否定するものではないが、まだ証明されたとは言えない」段階にあることは知っておく価値があります。
※米国皮膚科学会など個々の海外学会が発行する独自ガイドラインの原文については、今回の執筆時点でJHO編集部が一次資料を直接確認できていません。本記事では、国際誌に英語で発表され世界の臨床医に向けて書かれたJSWコンセンサス文書、および査読付き国際誌(Archives of Plastic Surgery・Cochrane Database of Systematic Reviews)に掲載された論文を中心に、国際的な視点を紹介しています。個別の学会ガイドライン原文との詳細な異同については、今後の追加取材課題とします。
医療費の目安
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
ケロイド・肥厚性瘢痕の治療(ステロイドテープ・注射、圧迫療法、手術、術後放射線治療など)は、皮膚科専門医による診断のもとで行われる場合、公的医療保険の対象となるのが一般的です。自己負担割合や高額療養費制度の詳細は上記のとおりです。美容目的の色調改善(レーザー治療の一部やメイクアップ療法など)は保険適用外となる場合があるため、事前に医療機関へ確認することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
ケロイドと肥厚性瘢痕はどう違うのですか?
ケロイドはどうしてできるのですか?
ケロイドができやすい部位はどこですか?
ケロイドができやすい体質はありますか?
ケロイドの治療にはどんな方法がありますか?
手術だけでケロイドを治せますか?
子どもにも放射線治療を行いますか?
ピアスの穴からケロイドができました。予防できましたか?
治療後、どのくらいの期間、通院が必要ですか?
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治療・薬 7
その他 1
放射線治療の詳しい線量プロトコルや、個々の海外学会が発行する独自のガイドライン原文との詳細な異同については、今回参照した資料には記載が見当たりませんでした。今後の追加取材課題とし、確認でき次第この記事を更新します。
参考文献
- 公益社団法人日本皮膚科学会「皮膚科Q&A ケロイド」(監修:安部正敏) dermatol.or.jp/qa/qa26 ↩
- Ogawa R, Akita S, Akaishi S, et al.「Diagnosis and Treatment of Keloids and Hypertrophic Scars—Japan Scar Workshop Consensus Document 2018」Burns & Trauma. 2019;7:39. pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6933735 (doi.org/10.1186/s41038-019-0175-y) ↩
- Tian F, Jiang Q, Chen J, Liu Z.「Silicone gel sheeting for treating keloid scars」Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023;1:CD013878. pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9808890 (doi.org/10.1002/14651858.CD013878.pub2) ↩
- Tirgan MH, Yin Q, Wolkerstorfer A, Gociman B, Park TH.「Comprehensive Update on Keloid Management」Archives of Plastic Surgery. 2026. pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12858323 ↩
