コンテンツへスキップ
お問い合わせ
スポンサーリンク
スポンサーリンク
ホーム › 病気ライブラリ › 健康 › サラセミア
JHO 病気ペディア

サラセミア

最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)

スポンサーリンク
この症状、放置して大丈夫?次に確認すべきこと 関連記事
この記事では答えていない疑問です — 読み終えたら、続けてご確認ください
子供に遺伝する確率は? 記事へ 輸血の頻度は減らせる? 記事へ 鉄過剰症の検査頻度は? 記事へ

✦ 結論から言うと

サラセミア(地中海貧血、thalassemia)は、赤血球のヘモグロビンを作る「グロビン遺伝子」の異常によって起こる遺伝性の貧血の総称です[1]。原因となる遺伝子がα(アルファ)グロビン鎖にあるかβ(ベータ)グロビン鎖にあるかで「αサラセミア」「βサラセミア」に大きく分かれ、この2つは原因遺伝子も重症度の現れ方もまったく別のグループとして区別する必要があります[2]。多くの人は生涯にわたり症状のない保因者(キャリア)にとどまりますが、重症型では生後まもなくから定期的な輸血と、輸血にともなう鉄過剰への対処が生涯必要になります[2]。

原因 α鎖またはβ鎖のグロビン遺伝子の変異・欠失により、鎖どうしのバランスが崩れて無効造血・溶血性貧血が起こる[1]
主な症状 疲労感・顔色不良などの貧血症状、黄疸(溶血による)、脾腫。重症型では骨格の変形や成長障害を伴うことがある[1]
受診の目安 小球性の貧血が続き、鉄剤を服用しても改善しない場合、または家族に同様の貧血の人がいる場合は血液内科・小児科で精査を

サラセミアとは?α型とβ型の違いと貧血が起こる仕組み

ヘモグロビンは、酸素を全身に運ぶ赤血球の中のタンパク質です。正常な成人のヘモグロビン(ヘモグロビンA)は、α鎖とβ鎖と呼ばれる2種類のたんぱく質の鎖が、それぞれ2本ずつ組み合わさってできています[2]。サラセミアは、このどちらかの鎖を作る遺伝子に異常(ナンセンス変異、フレームシフト変異、スプライシング変異や、数塩基から広い範囲にわたる遺伝子欠失など)が起こり、鎖の生産量が不均衡になることで発症する遺伝性疾患群です[1]。

不均衡に作られすぎた側の鎖は赤血球の中で余り、赤血球の細胞膜を傷つけます。その結果、骨髄の中で赤血球のもとになる細胞が十分に育たないまま壊れてしまう「無効造血」や、できあがった赤血球が通常より早く壊れてしまう「溶血」が起こり、小球性低色素性貧血(赤血球が小さく、ヘモグロビン濃度が低い貧血)につながります[1]。

⛔ ここが最も重要なポイントですが、αサラセミアとβサラセミアは、原因となる遺伝子も、重症度が現れる仕組みも異なる別のグループです。「サラセミア」とひとくくりに考えず、まずどちらの型かを分けて理解する必要があります。インターネット上の情報や会話の中で単に「サラセミア」とだけ言われた場合でも、実際にはどちらの型を指しているのかを、血液検査や遺伝子検査の結果で確認することが、自分や家族の状態を正しく理解する第一歩になります。

図:JHO編集部が作成
項目 αサラセミア βサラセミア
原因遺伝子 α-グロビン遺伝子(通常1人4コピー)の欠失[2] β-グロビン遺伝子の変異・欠失[2]
異常の起こり方 失われた遺伝子コピー数(1〜4個)で重症度が段階的に変わる[2] 変異の種類により、β鎖の産生が部分的に低下する型(β+)と、まったく作られなくなる型(β0)がある[2]
代表的な重症型の名称 ヘモグロビンH病、胎児水腫[2] サラセミアメジャー(重症型)[2]
軽症型でよくみられる症状 無症状のサイレント保因者、または軽度の貧血にとどまることが多い[2] マイナー型(保因者)は無症状〜軽度の貧血にとどまることが多い[2]

出典:MSDマニュアル プロフェッショナル版「サラセミア」[2]/国立成育医療研究センター 小児慢性特定疾病情報センター「サラセミア」[1]

αサラセミアは、通常であれば1人あたり4つあるα-グロビン遺伝子のコピーのうち、いくつが失われているかによって重症度が段階的に変わっていく点が特徴です[2]。1つだけが欠けている「サイレント保因者」ではほぼ症状が出ませんが、2つ欠ける「αサラセミアマイナー」、3つ欠ける「ヘモグロビンH病」、4つすべてが欠ける「胎児水腫」へと、失われた遺伝子の数が増えるほど症状は重くなっていきます[2]。特にヘモグロビンH病の患者では、症状をともなう溶血性貧血や脾腫がしばしばみられます[2]。

一方βサラセミアは、β-グロビン遺伝子が2本(父由来・母由来それぞれ1本ずつ)しかないため、α型のような「本数」による段階分けではなく、変異の性質によって重症度が決まります。β鎖の産生量が部分的に低下するにとどまる変異は「β+アレル」、まったく作られなくなる変異は「β0アレル」と呼ばれ、両親から受け継ぐアレルの組み合わせ(β+どうし、β0どうし、あるいはβ+とβ0の組み合わせなど)によって、マイナー(保因者)・中間型・メジャー(重症型)のいずれになるかが変わってきます[2]。

重症度分類:保因者(キャリア)・中間型・重症型

サラセミアはα型・β型それぞれで、失われた(または働かなくなった)遺伝子の数や変異の種類に応じて、症状の重さが大きく異なります。代表的にはおおむね次の3段階に分けて考えられます[2]。

重症度 状態 主な特徴
軽症(保因者・キャリア) 片方の遺伝子のみに異常があるなど、遺伝子異常が軽度な状態 基本的に無症状か、健診で軽度の小球性貧血を指摘される程度。日常生活に支障はほとんどない[1]
中間型(サラセミア インターメディア) 複数の遺伝子異常が重なるが、輸血に依存しない範囲の状態 貧血の程度は軽症〜重度までさまざま。骨格変化や脾腫が出ることがある[3]
重症(サラセミア メジャー) β鎖がほとんど、またはまったく作られない重い遺伝子異常 生後数か月〜1歳前後から高度な貧血が明らかになり、生涯にわたる定期輸血が必要になることが多い[2]

出典:MSDマニュアル プロフェッショナル版「サラセミア」[2]/MSDマニュアル家庭版「サラセミア」[3]/国立成育医療研究センター 小児慢性特定疾病情報センター「サラセミア」[1]

軽症型(保因者)の場合、基本的には治療の必要はなく、本人が自分の体質を正しく理解し、将来の結婚・妊娠にそなえた教育やカウンセリングを受けることが中心になります[1]。一方、重症型(メジャー)では早期から計画的な輸血が必要であり、脾臓の摘出(摘脾)が必要になることも少なくありません[1]。

症状としては、貧血にともなう疲労感や顔色不良、溶血による黄疸のほか、重症型では骨髄が赤血球を過剰に作ろうとして骨が広がることによる骨格の変形(頭蓋骨・顔面骨など)、脾臓が過剰に働くことによる脾腫、成長期の子どもでは身長や体重の増加が遅れる成長障害がみられることがあります[1]。

これらの症状が現れる時期にも段階があります。重症型(メジャー)では、出生直後は胎児期に作られるヘモグロビン(胎児ヘモグロビン)にまだ支えられているため症状が目立たないことが多いものの、生後数か月から1歳前後にかけて胎児ヘモグロビンが成人型ヘモグロビンに置き換わるにつれて、高度な貧血が明らかになっていきます。骨格の変形は、体が足りない赤血球を補おうとして骨髄が過剰に活動し続けることで、頭蓋骨や顔面骨、長管骨(腕や脚の骨)が徐々に広がっていくために起こるとされ、適切な輸血管理が行われないまま経過した場合に目立ちやすい合併症です。中間型では、これらの症状の程度は個人差が大きく、軽症の保因者に近い経過をたどる人から、輸血は必要ないものの骨格変化や脾腫がはっきり現れる人まで幅があります[3]。

鉄欠乏性貧血との見分け方 — 自己判断で鉄剤を飲むのは危険です

サラセミアを考えるうえで、もっとも注意が必要なのがこの違いです。サラセミアも鉄欠乏性貧血(体内の鉄が不足して起こる貧血)も、どちらも赤血球が小さくヘモグロビン濃度が低い「小球性貧血」というかたちで現れるため、血液検査の見た目(MCV・MCHが低い)だけでは非常によく似ています。しかし、この2つは原因がまったく逆です。鉄欠乏性貧血は「鉄が足りない」ために起こるのに対し、サラセミアは鉄の量とは関係なく「グロビン鎖のバランスが崩れる」ために起こります[1]。

項目 サラセミア 鉄欠乏性貧血
原因 グロビン遺伝子の異常(生まれつき)[1] 体内の鉄不足(出血・偏食・妊娠など、後天的な要因が多い)
MCV・MCH(赤血球の大きさ・色) 低下(小球性低色素性)[1] 低下(小球性低色素性)
血清鉄・フェリチン(体内の鉄の量) 基準値内、またはむしろ高めのことが多い 低下していることが多い
鉄剤を服用した場合 貧血は改善せず、必要のない鉄だけが体に蓄積し鉄過剰のリスクが生じうる 鉄が補充され貧血が改善する

見分けるカギ:血清鉄やフェリチンの値を確認せずに「小球性貧血=鉄不足」と自己判断して市販の鉄剤やサプリメントを飲み始めるのは避けてください。サラセミアの人が漫然と鉄剤を摂り続けると、体が必要としていない鉄が蓄積し、鉄過剰の状態を招くおそれがあります。小球性貧血が指摘され、鉄剤を飲んでも改善しない場合や、そもそも鉄剤を始める前の段階では、血清鉄・フェリチンを含む血液検査で原因を確認してから対応を判断することが重要です。

なお、輸血を受けていない軽症〜中間型のサラセミアの人であっても、体内での赤血球の作られ方(無効造血)そのものが、腸からの鉄の吸収を通常より多く促してしまう場合があることが知られています。つまり、鉄剤を飲んでいなくても、体質的に鉄が蓄積しやすい人がいるということです。このため、サラセミアと診断された後も、定期的にフェリチンなどの値を確認しながら、鉄の状態を継続的に把握していくことが望ましいとされています[3]。「貧血だから鉄」という一般的なイメージだけで判断せず、必ず検査値にもとづいて対応することが、サラセミアと付き合ううえでの基本になります。健康食品売り場や薬局で手軽に買える鉄剤・鉄分サプリメントは、鉄欠乏性貧血の人にとっては有用な選択肢ですが、サラセミアの人にとっては役に立たないどころか、長期的な鉄過剰のリスクを高めてしまう可能性がある点を、あらためて強調しておきます。

診断の流れ:血液検査からわかること

サラセミアが疑われた場合、次のような検査を組み合わせて診断が進められます。

検査 サラセミアで見られる傾向 備考
血算(MCV・MCH) MCV・MCHがともに低下(小球性低色素性貧血) 健診の貧血項目で初めて見つかることも多い[1]
血清鉄・フェリチン 基準値内〜高め 鉄欠乏性貧血との鑑別に重要(前項参照)
末梢血塗抹標本 大きさや形がふぞろいな赤血球、標的赤血球などがみられることがある MSDマニュアルで診断の手がかりの一つとして挙げられている[2]
ヘモグロビン電気泳動 異常なヘモグロビンの型やその割合が確認できる βサラセミアの診断で中心的な検査[2]
遺伝子検査 原因となる遺伝子変異・欠失を特定 型の確定や、パートナーとの組み合わせによる次世代への影響を考えるうえで用いられる[2]

出典:MSDマニュアル プロフェッショナル版「サラセミア」[2]/国立成育医療研究センター 小児慢性特定疾病情報センター「サラセミア」[1]

診断の過程では、本人だけでなく家族の血液検査を合わせて確認することがあります。両親や兄弟姉妹の血算やヘモグロビン電気泳動の結果を照らし合わせることで、原因となる遺伝子がどちらの親から受け継がれたのか、家族内に他にも保因者がいるのかを把握しやすくなります。特に、結婚や妊娠を控えている家族がいる場合には、こうした家族単位での検査結果が、その後の遺伝カウンセリングでの説明をより具体的にする助けになります。

また、健診などで偶然「小球性貧血」を指摘されたものの自覚症状がまったくない場合、多くは軽症の保因者であり、緊急に対応が必要な状態ではありません。ただし、原因を確認しないまま放置すると、後になって鉄欠乏性貧血と混同して不要な鉄剤治療を続けてしまったり、次の世代への遺伝の可能性に気づかないままになったりすることがあるため、一度は血液内科で原因をはっきりさせておくことが勧められます。

治療:重症度別のケア

サラセミアの治療は、型(α/β)そのものよりも、重症度に応じて大きく異なります。

重症度 基本方針 備考
軽症(保因者) 治療は基本的に不要。定期的な経過観察と、遺伝についての教育・カウンセリング 自己判断での鉄剤摂取は避ける[1]
中間型 症状や合併症に応じて必要時に輸血。輸血量が増える場合は鉄キレート療法も検討 骨格変化や脾腫の程度により摘脾が検討されることもある[3]
重症(メジャー) 定期輸血(輸血療法)+鉄キレート療法+造血幹細胞移植(可能な場合) 早期からの計画的な輸血、摘脾を要することも多い[1]

重症型では、定期輸血によって貧血そのものを補いますが、輸血を繰り返すこと自体が体内に鉄を蓄積させる原因になります。このため、輸血を重ねる患者では鉄キレート療法(体内に蓄積した過剰な鉄を薬剤で排出させる治療)を並行して行うことが標準的な管理として位置づけられています[1]。輸血と鉄キレート療法を適切に組み合わせることで、重症型サラセミアの予後はかつてに比べて大きく改善してきましたが、管理が不十分な自然経過のままでは20〜30年ほどで生命に関わる合併症に至るとされており、治療の継続が重要です[1]。

造血幹細胞移植(骨髄移植など)は、適切なドナーが見つかった場合に行われる、根治が期待できる治療法として位置づけられています[1]。ただし、移植には合併症のリスクもともなうため、実施の可否は患者ごとの状態やドナーの有無によって専門医が総合的に判断します。

定期輸血を受けている患者では、輸血そのものだけでなく、輸血の頻度・タイミングの管理も重要です。輸血の間隔が空きすぎると体内の赤血球数が下がりすぎて貧血症状が強く出てしまい、逆に頻繁すぎたり量が多すぎたりすると、それだけ鉄の蓄積も早まってしまいます。このバランスを取るために、多くの患者は数週間おきに血液検査と診察を受けながら、輸血のタイミングを主治医と相談して決めています。

鉄キレート療法に用いる薬剤には、注射で投与するタイプと、内服で使えるタイプがあります。どちらを選ぶかは、患者の年齢、鉄の蓄積の程度、体への負担、生活スタイルなどを踏まえて主治医が判断します。治療の効果は、血液検査でのフェリチン値や、心臓・肝臓に蓄積した鉄の量を画像検査(MRIなど)で定期的に確認しながら評価されます。鉄キレート療法を継続することで、かつては鉄の蓄積による心不全や肝障害が生命を脅かす大きな要因でしたが、現在ではこうした合併症による影響は大きく減ってきているとされています[1]。

遺伝と家族計画:常染色体劣性遺伝という仕組み

サラセミアは、常染色体劣性遺伝という形式で受け継がれる病気です[2]。両親のどちらか一方だけが原因遺伝子を持つ保因者(キャリア)の場合、子どもは軽症の保因者になる可能性はあっても、通常は重症のサラセミアを発症しません。しかし、両親がともに同じ型(α型どうし、あるいはβ型どうし)の保因者である場合には、生まれてくる子どもが重症型のサラセミアを発症する可能性が生じます。

結婚や妊娠を控えている保因者、あるいは家族にサラセミアの人がいる場合は、産婦人科や遺伝カウンセリングの専門外来で、遺伝の仕組みや検査の選択肢について事前に相談できます。パートナーの型を調べることで、生まれてくる子どもへの影響をあらかじめ把握し、出産前後の対応を考える助けになります。

今回参照した資料の範囲では、日本国内での保因者の人数や頻度についての最新の統計値は確認できませんでした。正確な頻度を知りたい場合は、血液内科や遺伝カウンセリング外来で個別に相談することをおすすめします。

遺伝カウンセリングでは、遺伝の専門知識を持つ医師や認定遺伝カウンセラーが、次のようなことを一緒に整理していきます。まず、本人やパートナーがどの型(α型・β型)の保因者にあたるのかを、これまでの検査結果や遺伝子検査の結果をもとに確認します。そのうえで、パートナーの型との組み合わせによって、生まれてくる子どもが保因者にとどまるのか、重症型を発症する可能性があるのかを、確率として説明してもらえます。妊娠を考えている、あるいはすでに妊娠している場合には、出生前診断を含めた選択肢についての情報提供も行われますが、検査を受けるかどうか、検査結果を踏まえてどうするかは、最終的に本人・パートナーが十分な説明を受けたうえで決めることになります。

「自分や家族がサラセミアの保因者だとわかったら、結婚や妊娠をあきらめなければいけないのでは」と不安に感じる方もいますが、そうではありません。保因者どうしの組み合わせであっても、実際に重症型が生まれる確率は限られており、事前に正しい情報を得たうえで、家族計画をどう考えるかを主体的に選べるようにすることが、遺伝カウンセリングの目的です。

受診の目安:どんなときに血液内科・小児科を受診すべきか

次のような場合は、自己判断で市販の鉄剤やサプリメントに頼らず、医療機関で血液検査による原因の確認を受けることが勧められます。

目安 状態 対応
🔴 早めに受診 強い倦怠感・動悸・息切れをともなう貧血症状/皮膚や白目が黄色い(黄疸)/おなかの左上(脾臓のあたり)の張りを感じる 血液内科・内科(子どもは小児科)を受診し、血算・血清鉄・フェリチンなどの検査を
🟡 検査を検討 健診で小球性貧血(MCV低下)を指摘された/鉄剤を服用しても貧血が改善しない 血清鉄・フェリチンを含めた原因の精査を医療機関で相談
🟢 相談の目安 家族にサラセミアや原因不明の貧血の人がいる/結婚・妊娠を控えている保因者 遺伝カウンセリング外来・産婦人科で事前に相談

特に、成長期の子どもで顔色不良や成長の遅れが気になる場合、また重症型が疑われる乳幼児で高度な貧血がみられる場合は、早めに小児科・小児血液専門医を受診することが望まれます[1]。

すでにサラセミアと診断され、定期的な通院や輸血を続けている方については、上記の目安に加えて、次のような変化があった場合にも早めに主治医へ連絡することが勧められます。輸血の間隔が以前より早く貧血症状が出るようになった場合、動悸や息切れ、足のむくみなど心臓に負担がかかっているサインが出てきた場合、皮膚の色が以前より黒っぽく変化してきた場合(鉄の蓄積が進んでいる可能性)などです。これらは、輸血の量やタイミング、鉄キレート療法の内容を見直す必要があるサインであることがあり、次回の予約を待たずに相談してよい状況です。子どもの場合は、本人が症状をうまく言葉で説明できないこともあるため、保護者が普段の顔色・食欲・活動量の変化に日頃から気を配り、いつもと違うと感じたら早めに小児科・小児血液専門医へ相談することが大切です。

日本とTIF(国際サラセミア連盟)のガイドライン比較

日本国内では小児慢性特定疾病情報センターやMSDマニュアルの記載を中心に、重症度に応じた輸血・鉄キレート療法・造血幹細胞移植という治療の大枠が示されています[1]。一方、国際的には非政府組織であるThalassaemia International Federation(TIF、国際サラセミア連盟)が、より詳細な数値基準を含むガイドラインを公表しています[4]。

項目 日本(小児慢性特定疾病情報センター・MSDマニュアル) TIF(国際サラセミア連盟、2021年版)
治療の大枠 重症度別に「保因者は経過観察」「重症型は定期輸血+鉄キレート療法+造血幹細胞移植で根治も可能」という枠組みを提示[1] 同様に定期輸血・鉄キレート療法を中心に据えつつ、輸血開始や継続の判断基準を数値で明示[4]
定期輸血を開始する目安 「早期から計画的な輸血が必要」といった記載にとどまり、具体的なヘモグロビン数値の基準は今回参照した資料には明記されていません[1] ヘモグロビン値が2週間以上あけた2回の測定で7.0g/dL未満の場合、または7.0g/dL以上でも成長障害や骨格変化などの症状がある場合に定期輸血を開始するという具体的な基準を示している[4]
輸血中の目標ヘモグロビン値 今回参照した資料には具体的な目標数値の記載は見当たりませんでした 輸血前のヘモグロビン値を9.0〜10.5g/dL(心合併症がある場合は11.0〜12.0g/dLまで)に維持することを目安として示している[4]

ここが日本の情報と国際基準で異なる点です。日本語で広く読まれている資料は「重症度に応じて輸血や鉄キレート療法を行う」という大きな方針の説明にとどまることが多いのに対し、TIFガイドラインは輸血を始める・続ける判断のための具体的な数値基準まで踏み込んで示しています。実際の治療方針は主治医が個々の患者の状態を見て判断するものですが、海外ではこうした数値基準が公表されているという点は、日本国内の情報だけでは気づきにくい部分です。

また、TIFは輸血に依存しない「非輸血依存性サラセミア(NTDT)」についても独立したガイドラインを公表しており、輸血を必要とするTDT(輸血依存性サラセミア)とは異なる管理方針が必要であることを明確にしています[5]。これは、サラセミアが「重症か軽症か」の二択ではなく、輸血の必要性という軸で見ても連続的な幅を持つ病気であることを示すものです。日本国内の説明では、この「輸血依存性かどうか」という分け方そのものがあまり前面に出てこないため、海外の情報にふれる際にはこの分類の違いを念頭に置いておくと理解しやすくなります。

なお、鉄キレート療法の目標値についても、TIFガイドラインは血清フェリチン値をおおむね500〜1,000μg/Lの範囲に維持することを目安として示しています[4]。日本国内の資料では、この具体的な数値までは踏み込まず「鉄キレート療法を行う」という方針の説明にとどまることが多いため、実際に自分や家族の治療がどの程度この目安に近いのかを知りたい場合は、主治医に検査結果の推移を確認しながら説明を受けることをおすすめします。

医療費の目安

💰 高額療養費制度の自己負担限度額(医療費100万円の例)
自己負担限度額(70歳未満・区分別)— 適用時期に注意
適用時期年収の目安計算式100万円の場合
~2026年7月診療分
現行
年収約370万~770万円(区分ウ) 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 87,430円
2026年8月診療分から
見直し後(第1段階)
年収約370万~770万円(区分ウ) 85,800円+1%(PDF原文の表記) 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small>
+ 年間上限 53万円(新設)

※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は 厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF) |JHO確認日:2026-07-16

サラセミアの重症型では長期にわたる定期輸血や薬物治療が必要になるため、医療費の負担が大きくなりやすい病気です。高額療養費制度や、疾病によっては小児慢性特定疾病医療費助成などの公的支援を利用できる場合がありますので、医療機関の医療ソーシャルワーカーや自治体の窓口に相談することをおすすめします。特に、輸血のたびに検査・処置・薬剤費がかかる重症型では、月ごとの自己負担額が積み重なりやすいため、早い段階で医療ソーシャルワーカーに相談し、利用できる制度を漏れなく確認しておくことが、長期的な治療を続けるうえでの安心につながります。

よくある質問(FAQ)

サラセミアとは何ですか?
サラセミアは、赤血球のヘモグロビンを作るグロビン遺伝子(α鎖またはβ鎖)の異常によって起こる遺伝性の貧血の総称です[1]。原因遺伝子の場所によって「αサラセミア」「βサラセミア」に分かれ、重症度は無症状の保因者から生涯輸血が必要な重症型までさまざまです。
サラセミアは治りますか?
軽症の保因者は治療の必要がなく、日常生活に支障はほとんどありません。重症型については、適切なドナーが見つかった場合の造血幹細胞移植が根治を目指せる治療法として位置づけられています[1]。移植が難しい場合は、定期輸血と鉄キレート療法を組み合わせて長期的に管理していく形になります。
鉄剤を飲んでもいいですか?
自己判断での服用は避けてください。サラセミアは鉄不足が原因ではないため、鉄剤を飲んでも貧血は改善せず、必要のない鉄だけが体に蓄積するおそれがあります。小球性貧血が見つかった場合は、まず血清鉄・フェリチンの検査で原因を確認することが重要です。
キャリア(保因者)は結婚・妊娠できますか?
保因者であること自体は結婚や妊娠の妨げにはなりません。ただし、パートナーも同じ型(α型どうし、β型どうし)の保因者である場合は、生まれてくる子どもが重症型を発症する可能性があるため、事前に遺伝カウンセリングで相談しておくことが勧められます。
日本人にサラセミアは多いですか?
今回参照した資料の範囲では、日本国内での正確な頻度についての最新の統計値は確認できませんでした。海外の一部地域(地中海沿岸、東南アジア、中東など)に比べて頻度は低いとされていますが、正確な数値は血液内科や専門機関に相談することをおすすめします。
サラセミアと鉄欠乏性貧血はどう違いますか?
どちらも赤血球が小さくなる小球性貧血ですが、原因は正反対です。鉄欠乏性貧血は体内の鉄が不足して起こるのに対し、サラセミアはグロビン遺伝子の異常によって起こり、鉄の量とは直接関係しません。血清鉄・フェリチンの検査で見分けることができます。
子どもの健診で「貧血」と言われたらサラセミアの可能性がありますか?
サラセミアはその可能性の一つですが、貧血の原因は鉄欠乏性貧血など他にも多くあります。MCV・MCHが低い小球性貧血が続く場合は、血清鉄・フェリチンやヘモグロビン電気泳動などの検査で原因を確認することが勧められます[1]。
輸血を続けると何が問題になりますか?
輸血を繰り返すこと自体が体内に鉄を蓄積させ、心臓や肝臓などの臓器に鉄が沈着する「鉄過剰」を招くことがあります。このため、定期輸血を受けている患者では鉄キレート療法を並行して行うことが標準的な管理とされています[1]。
妊娠中にサラセミアの検査は受けられますか?
パートナーとの組み合わせによって子どもへの影響が心配な場合は、産婦人科や遺伝カウンセリング外来で、出生前の検査を含めた選択肢について相談できます。検査を受けるかどうかは、十分な説明を受けたうえでご本人・ご家族が判断することになります。
サラセミアの保因者は健康診断で必ずわかりますか?
必ずわかるとは限りません。一般的な健康診断のヘモグロビン値だけでは軽度の異常が見過ごされることもあります。MCV・MCHまで確認できる血算や、疑わしい場合のヘモグロビン電気泳動・遺伝子検査を行って初めて確定することが多いため、家族に既往がある場合は、健診の結果だけで安心せず、気になる点を医師に伝えて詳しい検査を相談することをおすすめします[2]。

サラセミアに関する記事一覧

日常生活での過ごし方も、重症度によって注意点が異なります。軽症の保因者は、基本的に食事や運動を特別に制限する必要はありません。ただし前述のとおり、自己判断で鉄剤やレバー・鉄分強化食品などを過剰に摂り続けることは避け、貧血が気になる場合はまず原因を確認することが基本です。中間型・重症型で輸血を受けている方は、鉄分の多い食品を極端に制限する必要は一般的にはありませんが、鉄キレート療法の内容や検査値によって食事面の注意点が変わることがあるため、栄養士や主治医と相談しながら進めることが望ましいとされています。感染症にかかると貧血や脾腫の症状が一時的に強く出ることがあるため、発熱や体調不良が続く場合は早めに医療機関へ相談することも大切です。

サラセミアの国内での正確な保因者頻度や、造血幹細胞移植の最新の成績など、今回参照した資料には数値としての記載が見当たらなかった項目については、断定を避け、専門医への相談を勧める形で記載しています。

参考文献

  1. 国立成育医療研究センター 小児慢性特定疾病情報センター「サラセミア」shouman.jp/disease/details/09_08_015 ↩
  2. MSDマニュアル プロフェッショナル版「サラセミア」msdmanuals.com/ja-jp/professional ↩
  3. MSDマニュアル家庭版「サラセミア」msdmanuals.com/ja-jp/home ↩
  4. Thalassaemia International Federation「2021 Thalassaemia International Federation Guidelines for the Management of Transfusion-dependent Thalassemia」pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9345633 ↩
  5. Thalassaemia International Federation「Guidelines for the Management of Non-Transfusion-Dependent β-Thalassaemia, 3rd edition (2023)」NCBI Bookshelfncbi.nlm.nih.gov/books/NBK599491 ↩