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JHO 病気ペディア

乾皮症

最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)

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✦ 結論から言うと

乾皮症(皮脂欠乏症)は、角層の水分保持機能と皮脂による表皮被覆機能の両方が崩れて肌が乾燥する状態の総称です[1]。加齢による皮膚生理機能の低下が最大の要因で、日本皮膚科学会の調査では高齢者の7割以上に皮膚の乾燥がみられると報告されています[1]。軽い乾燥・粉ふきの段階なら医療用保湿剤の外用と入浴の工夫でよくなりますが、かゆみで搔破を繰り返し赤みや湿疹(皮脂欠乏性湿疹)に進んだ場合は皮膚科での治療が必要です[1]。

主な原因 加齢による皮膚機能低下(生理的要因)、冬季の乾燥・暖房(環境要因)、アトピー性皮膚炎や糖尿病・慢性腎臓病などの病気や治療(非生理的要因)[1]
主な症状 皮膚の乾燥、細かい鱗屑、粉をふいたような落屑。進行すると粗糙化・亀裂、さらに搔破で炎症を伴う皮脂欠乏性湿疹へ[1]
受診の目安 保湿剤を使っても改善しない、赤みや湿疹・浸出液を伴う、亀裂から出血する、かゆみで眠れない場合は皮膚科を受診[1]

乾皮症とは?肌がカサつく仕組み

乾皮症は皮脂欠乏症と同義の疾患で、水分保持機能や表皮被覆機能の破綻により皮膚乾燥を呈する疾患の総称です[1]。「乾燥肌」という一般的な呼び方とほぼ同じ状態を指す、医学的な名称と考えて差し支えありません。健康な皮膚は、角層細胞間脂質や天然保湿因子による水分保持機能と、皮脂(皮表脂質)や汗のエマルジョンによって作られる表皮被覆機能の両方によって乾燥から守られています[1]。乾皮症ではこの両方、あるいは一方が崩れることで水分が失われ、進行すると皮膚バリア機能の指標である経表皮水分蒸散量(TEWL)が上昇し、外界の刺激や微生物が侵入しやすい状態になります[1]。

肌が乾燥する要因は大きく3つに分けられます。①生理的要因:加齢による皮脂腺・汗腺など皮膚機能の低下(高齢者)、あるいは皮膚生理機能が未成熟な乳幼児・小児。②環境要因:冬季の外気の乾燥や室内暖房による低湿度、過度な入浴や脱脂力の強い洗浄料、強くこする洗い方などの不適切なスキンケア。③非生理的要因:アトピー性皮膚炎・尋常性乾癬などの皮膚疾患、糖尿病・慢性腎臓病などの全身性疾患、抗がん剤や放射線治療といった医療行為(医原性)です[1]。この3つは重なって起こることも珍しくなく、たとえば高齢の糖尿病患者が冬に暖房の効いた部屋で過ごすと、3つの要因が同時に働いて乾燥がより強く出ることがあります。

日本皮膚科学会が高齢者を対象とした複数の報告を踏まえてまとめたところでは、高齢者の7割以上で皮膚の乾燥が認められています[1]。高齢者の乾皮症は加齢という生理的要因に加え、糖尿病や慢性腎不全、抗がん剤治療などの非生理的要因が重なって起きることもあります[1]。

手引きは、乾皮症が今後さらに増える背景となる人口統計にも触れています。総務省の統計によれば65歳以上の高齢者人口は3,617万人(2020年9月15日現在推計)で、総人口に占める割合は28.7%、前年より30万人増えており、高齢者の割合は人口の3割に近づく勢いです[1]。また、乾皮症が多くみられる糖尿病患者は1,000万人、糖尿病予備群も1,000万人(平成29年国民健康・栄養調査)、透析患者は34万人(2019年日本透析医学会統計)、がん患者の罹患数は年間約98万人とされ、高齢者ほど罹患率が高くなっています[1]。これらの数値を踏まえると、潜在的な患者も含め、高齢者を中心に乾皮症の患者は今後も増加すると推察されています[1]。

手引き作成にあたって行われた医師アンケート調査では、皮膚科医だけでなく小児科医・内科医・放射線科医など幅広い診療科の医師が、糖尿病や慢性腎臓病、抗がん剤治療、放射線治療などさまざまな病気や治療で乾皮症が起こりうると認識していることが分かりました[1]。とくに糖尿病や慢性腎臓病といった全身性疾患については、皮膚科医よりも、その病気を専門的に診ている医師のほうが乾皮症との関連を認識している割合が高いという結果も報告されています[1]。つまり乾皮症は皮膚科だけの問題ではなく、持病の治療にあたる医師と情報を共有する価値がある症状だといえます。

出典:日本皮膚科学会「皮脂欠乏症診療の手引き2021」(日皮会誌 131巻10号、2021年)[1]

症状の進み方を見分ける目安となる数値・基準

日本皮膚科学会の手引きでは、皮脂欠乏症の重症度を肉眼的に評価する基準として、海外の化粧品評価学会(EEMCO)が定めた overall dry skin score(ODS)などが紹介されています[1]。自分の肌が今どの段階かの目安として使えます。

肉眼でみる乾燥の重症度スコア(Overall Dry Skin Score)
スコア 皮膚の状態
0 乾燥所見なし
1 わずかな鱗屑、わずかな粗さ、くすんだ見た目
2 細かい鱗屑と一部大きめの鱗屑が混在、軽い粗さ、白っぽい見た目
3 大小の鱗屑が全体に分布、明らかな粗さ、わずかな赤みや浅い亀裂を伴うことがある
4 大きな鱗屑が目立ち、粗さが進行、赤み・湿疹化・亀裂を伴う

出典:日本皮膚科学会「皮脂欠乏症診療の手引き2021」(Serup J, EEMCO guidance for the assessment of dry skin, 1995 を引用)[1]

保湿剤をどれだけ塗るかの目安として、手引きでは finger-tip unit(FTU)という実用的な塗布量の考え方が紹介されています。1FTUは、チューブから成人の人差し指の先端から第一関節まで押し出した量(約0.5g)で、これを手のひら2枚分(体表面積のおよそ2%)に塗り広げる目安です[1]。片側の腕なら3FTU、背中なら7FTU、片側の脚なら6FTU、片足なら2FTUが概算の目安として示されています[1]。実際には「少しテカテカする程度」に塗るという指導も有用とされています[1]。ローションタイプの場合は、手のひらに1円玉大にとった量が約0.6gに相当するとされています[1]。

Overall Dry Skin Scoreのほかにも、手引きは鱗屑・粗糙(ざらつき)・発赤・亀裂の4項目をそれぞれ点数化して合算する specified symptom sum score system(SRRC)や、身体部位ごとの罹患面積を加味して全身の重症度を評価する dry skin/ichthyosis area and severity index(DASI)を紹介しています[1]。これらは海外の化粧品評価学会(EEMCO)が定めた基準で、国内だけでなく海外の評価でも用いられていることから、皮脂欠乏症の重症度を評価する際の基本にすべき評価基準と位置づけられています[1]。また近年は、皮溝(皮膚のきめの溝)に沿った鱗屑か、皮溝を超えて板状に広がる鱗屑かを見るダーモスコピー(拡大鏡による観察)の有用性も報告されています[1]。

単なる乾燥・皮脂欠乏性湿疹・アトピー性皮膚炎の見分け方

「肌が乾燥している」といっても段階があり、原因になる病気も異なります。手引きが挙げる皮脂欠乏症をきたしうる代表的な皮膚症状には、老人性乾皮症、皮脂欠乏性湿疹、冬期乾皮症のほか、アトピー性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾癬、慢性腎臓病に伴う皮膚症状などがあります[1]。

乾皮症・皮脂欠乏性湿疹・アトピー性皮膚炎の主な違い
項目 乾皮症(単純な皮脂欠乏) 皮脂欠乏性湿疹 アトピー性皮膚炎
皮膚の見た目 乾燥・細かい鱗屑・軽い粗さ[1] 乾皮症に赤み・湿疹・亀裂が加わる。搔破の反復で炎症が起こり湿疹化したもの[1] 湿疹に加えて強いかゆみ、慢性・反復する経過が特徴的とされる[1]
典型的な発症要因 加齢・冬季の乾燥・過度な洗浄など[1] 乾皮症を放置し搔破を繰り返した結果[1] アトピー性皮膚炎という基礎疾患そのものに伴う皮膚症状[1]
好発部位(生理的要因の場合) 両下肢伸側が中心。背部や上肢にみられることもある[1] 乾皮症の好発部位に一致することが多い[1] 顔・首・関節の内側など部位が異なることが多い(本手引きの主眼ではない)
対応の基本 医療用保湿剤、またはセルフメディケーションでの保湿[1] 保湿剤に加えステロイド外用薬などの抗炎症薬を併用[1] 皮膚科での継続的な治療が必要(本手引きの対象外)

見分けるカギ:単なる乾燥は鱗屑と粗さが中心ですが、赤み・湿疹・亀裂からの浸出液が出てきたら「皮脂欠乏性湿疹」に進んでいるサインで、保湿剤だけでなく抗炎症薬の併用を要する段階です[1]。

手引きが実施した医師アンケート調査では、アトピー性皮膚炎、貨幣状湿疹、脂漏性皮膚炎、乳児湿疹、手湿疹、進行性指掌角皮症、乾癬、掌蹠角化症、魚鱗癬、毛孔性苔癬、口囲皮膚炎、放射線皮膚炎、老人性乾皮症、皮脂欠乏性湿疹、冬期乾皮症、日光皮膚炎、強皮症、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、皮膚リンパ腫など、非常に幅広い皮膚疾患や全身性疾患が「乾皮症をきたしうる病態」として医師に認識されていることが分かりました[1]。自己判断で「ただの乾燥肌」と決めつけず、思い当たる持病や治療歴があれば、受診時に皮膚科医へ伝えることが正確な見分けにつながります。

経過と治療:段階に応じたケア

手引きでは、症状の重さに応じて対応を分けています。軽微な鱗屑や粗造のみで、かゆみを伴わない一過性・軽度の乾皮症では、環境要因の除去や患者指導、市販の保湿剤によるセルフメディケーションで対処するとされています[1]。一方、明らかな鱗屑や搔破痕があり悪化が予測される場合は、かゆみがなくても医療用保湿剤による治療介入を考慮するとされています[1]。保湿剤による治療にもかかわらず悪化して湿疹化した場合は、ステロイド外用薬などの抗炎症薬を併用します[1]。

医療用保湿剤は、吸湿性の高い水溶性成分を含み角層水分を直接増加させる「モイスチャライザー」(ヘパリン類似物質や尿素など)と、皮膚を被覆して水分蒸散を防ぐ「エモリエント」(ワセリンなど)に分類されます[1]。ヘパリン類似物質については、1回あたりの塗布量が多い群のほうが少ない群より角層水分含有量が高かったという報告や、1日1回より1日2回塗るほうが高い保湿効果を期待できるという報告が紹介されています[1]。保湿剤を塗るタイミングについては、入浴後1分で塗った群と1時間後に塗った群を比較しても、角層水分含有量に有意差はなかったという報告があり、入浴直後にこだわりすぎる必要はないとされています[1]。

保湿剤による治療反応性は高く、一般に予後は良好です。ただし対症療法であるため、治療を中止・中断したり、季節が変わったりすると再発することがあります[1]。

入浴・洗浄・生活での工夫

石鹸・洗浄剤の主成分は界面活性剤であり、過度な使用やすすぎ残しは皮膚の乾燥を悪化させる可能性があります[1]。ナイロンタオルやブラシによる強い清拭は角層からの水分蒸散を増やし、乾燥を助長するため避け、石鹸・洗浄剤はよく泡立てて手のひらで優しく洗うよう指導されています。とくに乾燥の強い部位への使用は最小限にとどめるのが望ましいとされています[1]。

保湿剤を塗るタイミングについては、入浴直後でなくてもよいものの、角層は入浴後に水分が蒸散しやすいため、入浴後には保湿剤を塗るのが望ましいとされています[1]。本人やご家族、介護スタッフの都合に合わせて塗布のタイミングを決めてよい、という指導も紹介されています[1]。

冬場は暖房で室内の相対湿度が下がるため、加湿器などでの対策が必要とされています。羊毛素材やごわごわした衣類の刺激でもかゆみが出ることがあるため、刺激の少ない衣類を選ぶことも勧められています[1]。また、長期間の日光曝露は角層からの水分蒸散量を増やすとの報告があり、紫外線の強い5月〜8月、とくに10時〜14時頃の外出では帽子や日陰の利用、日焼け止めの使用が勧められています[1]。

米国国立衛生研究所(NIH)が運営する患者向け医療情報サイトMedlinePlusでも、乾燥肌のセルフケアとして同様の考え方が案内されています。「必要以上に頻繁に肌を水に触れさせないこと」「ぬるめのお湯で入浴し、その後はタオルでこすらずに優しく押さえるように水分をふき取ること」「染料や香料を含まない、肌にやさしい洗浄剤を選ぶこと」が挙げられています[3]。熱い湯に長く浸かる習慣がある方は、日本側の手引きが指摘する「過度の入浴」を避けるという注意点とあわせて、湯温とお湯につかる時間を見直す目安にできます[1][3]。

保湿剤はどれだけ効果が実証されているか:推奨度でみる根拠の強さ

日本皮膚科学会の手引きは、臨床現場で判断に迷いやすい6つの重要な問い(クリニカル・クエスチョン)について、報告されている臨床研究を吟味したうえで推奨度とエビデンスレベルを示しています[1]。推奨度は「1:強い推奨」と「2:弱い推奨」の2段階、エビデンスレベルは「A(高い)」「B(低い)」「C(とても低い)」の3段階で表されます[1]。

代表的なクリニカル・クエスチョンと推奨度
クリニカル・クエスチョン 推奨文の要旨 推奨度/エビデンスレベル
加齢による皮脂欠乏症に保湿剤は有用か 加齢による皮脂欠乏症に保湿剤を外用することを強くすすめる[1] 推奨度1/エビデンスレベルA[1]
アトピー性皮膚炎に伴う皮脂欠乏症に保湿剤は有用か 皮膚に炎症症状がみられる場合はステロイド外用薬など抗炎症外用薬と併用して保湿剤を外用することをすすめる。急性期の炎症が沈静化した後も保湿剤の外用継続をすすめる[1] 推奨度1/エビデンスレベルA[1]
分子標的薬(EGFR阻害薬等)による皮脂欠乏症に保湿剤は有用か 薬剤の薬理作用として非常に高率に出現しうるため、早期から保湿剤を使用することで発症頻度を下げ症状を軽減しうるとして使用をすすめる[1] 推奨度1/エビデンスレベルB[1]

とくに「加齢による皮脂欠乏症」への保湿剤は、エビデンスレベルA(結果がほぼ確実で、今後研究が新しく行われても大きく変わる可能性は少ない)で強く推奨されており、高齢者の乾皮症に保湿剤を使うことの根拠は強いといえます[1]。一方、分子標的薬による皮脂欠乏症への対応はエビデンスレベルBで、推奨自体は強いものの、根拠となる研究の数はまだ限られていることも手引きは明記しています[1]。なお、保湿剤の種類(ヘパリン類似物質・尿素・セラミド・グリセロールなど)のあいだで、どれが優れているかを直接比較したエビデンスはないとされています[1]。

透析治療・がん治療を受けている方の乾皮症

特定の治療を受けている方では、乾皮症が単なる肌の乾燥ではなく治療に伴う皮膚症状として現れることがあります。手引きが示すクリニカル・クエスチョンでは、こうしたケースへの保湿剤の効果も検討されています[1]。

透析治療を受けている方:透析患者の皮膚では汗腺や皮脂腺が萎縮し、角層水分含有量や皮脂量も低下しており、皮脂欠乏症は透析患者の90%以上で認められるとされています[1]。保湿剤の外用により、皮膚症状の改善だけでなく瘙痒(かゆみ)の軽減も報告されており、手引きは継続的な保湿剤の外用をすすめています(推奨度1・エビデンスレベルA)[1]。ある研究では、保湿剤の外用を2週間続けた後に中止した群では4週間後に角層水分含有量とかゆみの改善が失われた一方、外用を継続した群では改善が維持されており、続けることの大切さが示唆されています[1]。

放射線治療を受けている方:放射線皮膚炎は照射部位の皮脂腺が非可逆的に障害されることで生じ、色素沈着を伴う乾燥した落屑性の局面となり、瘙痒や突っ張り感を伴うことがあります[1]。乳がんの放射線治療を受けた患者を対象とした研究では、治療開始時から保湿剤を外用することで乾燥・落屑のスコアが対照群より有意に低かったと報告されており、手引きは保湿剤の外用をすすめています(推奨度1・エビデンスレベルA)[1]。ただし、放射線皮膚炎に伴う赤み(紅斑)そのものへの効果は保湿剤単独では実証されていない点には注意が必要です[1]。

分子標的薬(EGFR阻害薬など)でがん治療中の方:分子標的薬は薬剤そのものの作用として皮脂欠乏症を高率に引き起こすことが知られています[1]。治療開始の非常に早い段階から角層水分含有量が低下することが報告されており、早期から保湿剤を使うことで発症頻度を下げ、症状を軽減できる可能性があるとされています[1]。

これらはいずれも背景に別の病気や治療があるケースです。保湿剤だけで様子を見るのではなく、透析・がん治療を担当する主治医や皮膚科医に皮膚症状を伝え、治療方針の中に保湿剤によるケアを組み込んでもらうことが大切です[1]。

受診の目安:自宅でのケアでよいか、皮膚科に行くべきか

手引きの考え方をもとに整理すると、次のように分けられます。

🔴 早めに皮膚科を受診:亀裂から出血する、赤みや湿疹・浸出液を伴う(皮脂欠乏性湿疹への進行が疑われる)、かゆみが強くて眠れない、搔破痕が広範囲にある場合[1]。
🟡 保湿剤を数日〜数週間続けても改善しなければ受診を検討:明らかな鱗屑や搔破痕があり悪化が予測される場合は、かゆみがなくても医療用保湿剤による治療介入が推奨されています[1]。
🟢 まずはセルフケアで様子を見てよい:軽微な鱗屑や粗造のみで、かゆみを伴わない場合は、環境要因の見直しと市販の保湿剤によるセルフメディケーションで対処するとされています[1]。

糖尿病や慢性腎臓病、抗がん剤治療・放射線治療を受けている場合は、乾皮症が背景にある病気や治療の影響で起きていることがあるため、皮膚症状について主治医や皮膚科医に相談することが勧められます[1]。

手引きの実態調査では、湿疹を伴わない軽度の乾皮症や、治療で寛解した後に再燃する可能性が低いケースでは、医療費を意識してセルフメディケーションで対応する医師が多いという結果も示されています[1]。一方で、美容目的で医療用保湿剤を処方している医師は多くありませんでした[1]。つまり乾皮症の治療は、症状の重さと再燃リスクを見極めたうえで、保険診療の範囲内で必要な人に必要な分だけ行うという考え方が広く共有されているといえます。

日本と米国のガイドライン比較

日本皮膚科学会の手引きは、医師の処方による「医療用保湿剤」(ヘパリン類似物質や尿素製剤など)を中心に据え、保険診療の枠組みの中でどう使うかを重視しています[1]。手引きの実態調査でも、湿疹を伴わない場合は必ずしもステロイド外用薬を併用せず、医療用保湿剤単剤で治療している医師が多いことが報告されています[1]。

日本と米国のガイドライン・患者向け情報の比較
項目 日本(日本皮膚科学会 2021) 米国(米国皮膚科学会 AAD)
治療の中心 医師が処方する医療用保湿剤(ヘパリン類似物質・尿素製剤)[1] 皮膚科医が選ぶ、尿素・セラミド・乳酸・グリセロールなどを含む保湿剤の使用を推奨[2]
入手方法の位置づけ 保険診療での処方が中心。軽症は市販品でのセルフメディケーションも推奨[1] 市販薬に加え、重症の場合は処方の強い保湿剤も案内[2]
塗布の考え方 FTU(フィンガーチップユニット)で塗布量を具体的に示す[1] 「処方どおりの頻度で塗る」ことを重視し、重い乾燥にはクリームや軟膏を推奨[2]

両者とも保湿剤による治療が中心という結論は共通していますが、日本は「医療用医薬品としての保湿剤」を保険診療の中でどう適正に使うかに重点を置き、米国側の患者向け情報は市販で入手できる保湿成分(尿素・セラミド・乳酸・グリセロール)の使い分けに重点を置いている点が異なります[1][2]。

よくある質問(FAQ)

乾皮症と皮脂欠乏症は違う病気ですか?
同じ病気を指す言葉です。日本皮膚科学会の手引きでも「皮脂欠乏症は乾皮症と同義である」と説明されています[1]。
高齢になると誰でも肌が乾燥するのですか?
高齢者では皮脂腺や汗腺などの皮膚機能が低下しやすく、日本皮膚科学会が引用する報告では高齢者の7割以上に皮膚の乾燥がみられるとされています[1]。ただし程度には個人差があります。
お風呂上がりにすぐ保湿しないとダメですか?
入浴後1分で保湿剤を塗った場合と1時間後に塗った場合を比較しても、角層水分含有量に有意差はなかったという報告があります。直後にこだわりすぎず、ご自身やご家族の都合に合わせて塗って構いません[1]。
保湿剤は1日何回塗ればよいですか?
ヘパリン類似物質を1日2回塗った群は1日1回だけ塗った群より高い保湿効果(皮膚の電導度)を示したとの報告があり、1日2回のほうが高い効果を期待できるとされています[1]。
ヘパリン類似物質と尿素製剤はどちらがよいですか?
手引きでは両者を比較したエビデンスがないため効果面での優劣は判断が難しいとされています。剤形や価格の幅が大きいため、使用感に満足しながら継続して使える製品を選ぶことが重要とされています[1]。
ナイロンタオルでゴシゴシ洗うのはよくないですか?
ナイロンタオルやブラシによる清拭は角層からの水分蒸散を増加させ、乾燥を助長するとされており、使用は避けるよう指導されています[1]。
かゆくて搔いてしまいます。どうなりますか?
搔破を繰り返すと炎症が起こり、皮脂欠乏性湿疹に進むことがあります。湿疹が広がると局面を作って貨幣状湿疹になり、さらに進むと丘疹や膿疱、苔癬化、色素沈着がみられることもあるとされています[1]。
糖尿病がありますが乾皮症と関係ありますか?
高齢者の乾皮症は、加齢という生理的要因に加え、糖尿病や慢性腎不全、抗がん剤の投与などの非生理的要因が重なって起きることがあるとされています[1]。
市販の保湿クリームだけで様子を見てよい場合はありますか?
軽微な鱗屑や粗造のみで、かゆみを伴わない場合は、環境要因の除去や患者指導、セルフメディケーションで対処するとされています。ただし明らかな鱗屑や搔破痕があり悪化が予測される場合は、かゆみがなくても医療用保湿剤による治療を検討するとされています[1]。
お湯の温度や入浴時間で気をつけることはありますか?
過度の入浴は乾燥を悪化させる要因の一つとされています[1]。米国の患者向け医療情報サイトMedlinePlusでも、ぬるめのお湯を使い、入浴後はタオルでこすらずに優しく押さえるように水分をふき取ることが勧められています[3]。熱い長風呂は避け、湯温と入浴時間を見直すことが乾燥対策の基本です。
がん治療で使う薬でも乾皮症になりますか?
分子標的薬(EGFR阻害薬など)は薬剤そのものの作用として皮脂欠乏症を非常に高率に引き起こすことが知られています[1]。治療開始の早い段階から角層水分含有量が低下するため、早期からの保湿剤使用が症状の軽減につながる可能性があるとされています[1]。担当医にがん治療中であることを伝えたうえで保湿剤の使用について相談してください。

乾皮症に関する記事一覧

角層水分含有量やTEWLを測定する理化学的評価については、皮脂欠乏症と判断するための明確な基準がまだ確立されておらず、機器も高価であることから、現時点では診断に用いるまでには至っていないと手引き自体が述べています[1]。また、ヘパリン類似物質・尿素・セラミドなど保湿剤の成分同士を直接比較して優劣を検証した研究についても、今回参照した資料には記載が見当たりませんでした[1]。どの保湿剤が最適かは体質や好みによる部分も大きく、現時点で確定的な結論はありません。手引き自体も、今後さらに客観的な評価方法を取り入れ、治療が必要な患者をより正確に診断できる指標を確立していく必要があると結んでいます[1]。

参考文献

  1. 日本皮膚科学会「皮脂欠乏症診療の手引き2021」皮脂欠乏症診療の手引き作成委員会、日本皮膚科学会雑誌 131巻10号 2255-2270頁(2021年) dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/131_2255.pdf
  2. American Academy of Dermatology「Dry skin: Diagnosis and treatment」 aad.org/public/diseases/dry-sweaty-skin/dry-skin
  3. MedlinePlus(米国国立医学図書館/米国国立衛生研究所)「Dry skin」 medlineplus.gov/ency/article/000835.htm