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JHO 病気ペディア

動脈瘤

最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)

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✦ 結論から言うと

「動脈瘤」は脳にできる脳動脈瘤と、胸・おなかの太い血管にできる大動脈瘤で、原因の共通点はあっても危険なサイズの基準・検査の間隔・治療法がまったく別です[1][2]。未破裂脳動脈瘤は多くが無症状で見つかり、5〜7mm以上や特定の場所・形にあてはまる場合に治療を検討します[4]。大動脈瘤は腹部で最大短径55mm以上(女性は45〜50mm以上)、胸部で55mm以上になると手術を検討するのが日本のガイドラインの目安です[2]。破裂すると、脳ではくも膜下出血、大動脈では大出血となり、いずれも命に関わる緊急事態になります[1][2]。

原因 脳の血管の枝分かれ部分に血流の負荷がかかり血管壁が弱くなって風船状にふくらむ(脳動脈瘤)/大動脈の壁が正常径の1.5倍を超えて拡大する、動脈硬化・高血圧・喫煙などが背景にある(大動脈瘤)[1][2]
主な症状 未破裂・未破裂の状態ではほとんど無症状。大動脈瘤では圧迫による咳・嗄声・嚥下障害が出ることもある[2]
受診の目安 経験したことのない激しい突然の頭痛(脳)、突然の胸痛・背部痛・腹痛(大動脈)はいずれも今すぐ救急要請[5][2]

動脈瘤とは?「脳動脈瘤」と「大動脈瘤」はどう違うのか

動脈瘤(どうみゃくりゅう)とは、血管の壁の一部が全周性または局所的にふくらんで拡大した状態を指す言葉です。医学的には、血管の直径が正常径の1.5倍を超えて紡錘状またはこぶ状に拡大した場合を「瘤(りゅう)」と呼びます[2]。この「1.5倍」という基準は大動脈瘤の定義であり、日本循環器学会のガイドラインでは、成人の大動脈の正常な太さは胸部で約30mm、腹部で約20mmとされ、胸部で45mm、腹部で30mmを超えて拡大すると「瘤」と診断されます[2]。なお、破裂と紛らわしい言葉に「切迫破裂」があります。血管の外に血液の漏出が確認された状態を「破裂」と呼ぶのに対し、まだ血液の漏出はないものの痛みの位置が瘤のある場所と一致する状態を「切迫破裂」と呼び、これも緊急対応が必要な状態です[2]。大動脈瘤の治療法や費用まで含めた総合的な解説は、動脈瘤のすべて|原因・症状から最新治療、費用まで専門医が徹底解説にまとめています。

「動脈瘤」という名前は共通していますが、脳にできる脳動脈瘤と、胸やおなかの大動脈にできる大動脈瘤は、できる血管の太さも、周囲の組織も、破裂したときに何が起こるかもまったく異なる病気です。同じ記事の中で数値を混同すると命に関わる誤解につながるため、このページでは以降、脳動脈瘤と大動脈瘤(胸部・腹部)を分けて説明します。

脳動脈瘤は、脳の血管が枝分かれする部分に血流の負荷が繰り返しかかることで血管壁の弱い部分が風船のようにふくらんでできると考えられています[1]。原因としては、高血圧や血管壁への持続的なストレス、遺伝的な血管壁のもろさとの関連が指摘されています[4]。多くの未破裂脳動脈瘤は無症状で、脳ドックなどの画像検査で偶然発見されます[1]。

大動脈瘤は、動脈硬化や高血圧、喫煙といった血管に負担をかける要因が積み重なって血管壁の中膜が弱くなり、内圧に耐えられず拡大していくと考えられています。日本循環器学会のガイドラインは、この壁が弱くなる過程に、インターロイキンやインターフェロンγなどの炎症性サイトカイン、マトリックスメタロプロテイナーゼ(血管壁のコラーゲンなど細胞外マトリックスを分解する酵素)の関与が強く示唆されていると説明しています[2]。つまり大動脈瘤は、単に血圧で血管が押し広げられるだけでなく、血管壁そのものが慢性的な炎症によって「弱く分解されていく」過程でもあるということです。日本循環器学会のガイドラインは、大動脈瘤の大半(胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤とも)が無症状であり、画像検査で偶発的に発見されることが多いと述べています[2]。喫煙は大動脈瘤の拡大・破裂の重大な危険因子とされ、破裂による死亡リスクはタバコで6.5倍、葉巻で6.7倍、手巻きタバコでは25倍に上昇するという報告も紹介されています[2]。

下の図は、脳動脈瘤と大動脈瘤(胸部・腹部)ができる場所と、それぞれで治療を検討する目安のサイズをまとめたものです。同じ「動脈瘤」でも、場所によって判断のものさしがまったく異なることが一目でわかります。

図:JHO編集部が作成

血管の壁がどのようにふくらんでいくかについては、次の図をご覧ください。

図:JHO編集部が作成

出典:日本循環器学会「2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」[2]/国立循環器病研究センター「脳動脈瘤」[1]

どんな人がなりやすいか:腹部大動脈瘤の疫学データ

腹部大動脈瘤は、加齢と喫煙の影響を強く受ける病気であることが疫学データからわかっています。日本循環器学会のガイドラインが引用する報告によると、65〜75歳の男性の腹部大動脈瘤の有病率は、喫煙歴がある場合6〜7%であるのに対し、喫煙歴がない場合は2%にとどまります[2]。同じ年代の女性では、非喫煙者の有病率は0.6%未満ですが、喫煙歴があると0.8%、現在も喫煙している場合は2%まで上昇するとされています[2]。この差から、喫煙歴のある65歳以上の男性ではエコー検査やCT検査によるスクリーニングが推奨されています[2]。

大動脈瘤の破裂による死亡リスクへの喫煙の影響はさらに大きく、タバコで6.5倍、葉巻で6.7倍、手巻きタバコでは25倍に上昇するという報告もガイドラインで紹介されています[2]。禁煙は、大動脈瘤の発生・拡大・破裂のいずれの段階でも影響する、数少ない自分で変えられる危険因子です。

【脳動脈瘤】未破裂脳動脈瘤の診断の目安となる数値

未破裂脳動脈瘤が見つかったとき、経過観察でよいか治療を検討すべきかは、大きさ・場所・形の3つで判断されます。日本人を対象とした大規模研究UCAS Japanでは、未破裂脳動脈瘤全体の年間破裂率は0.95%と報告されています[3]。同研究では、瘤が大きいほど、また前交通動脈・後交通動脈・脳の後方循環(椎骨脳底動脈系)にある瘤ほど破裂しやすいことも示されました(後交通動脈のハザード比1.90、前交通動脈のハザード比2.02)[3]。

未破裂脳動脈瘤の治療を検討する目安
項目 目安 備考
大きさ 5〜7mm以上 治療の話し合いの対象になることが多い[4]
5mm未満でも注意する場所 前交通動脈・後交通動脈・椎骨脳底動脈系 破裂しやすい部位とされ慎重な検討が必要[4]
5mm未満でも注意する形 不整形・ブレブ(突出)を伴う瘤 形状によっても破裂リスクが上がるとされる[4]
年間破裂率(全体平均) 0.95% UCAS Japan(日本人5,720人・6,697個の瘤を追跡)[3]
経過観察の間隔 6ヵ月〜1年ごと 治療せず経過を見る場合の画像検査の目安[4]

出典:UCAS Japan Investigators, N Engl J Med 2012;366:2474-2482[3]/京都大学医学部附属病院脳神経外科「未破裂脳動脈瘤」[4]

経過観察を選ぶ場合は、喫煙を避け、大量の飲酒を控え、高血圧をきちんと治療することが推奨されています[4]。「小さいから絶対安全」というわけではなく、定期的な画像検査で瘤のサイズの変化を追い続けることが大切です[4]。

【大動脈瘤】腹部大動脈瘤・胸部大動脈瘤の診断の目安となる数値

大動脈瘤は「大きさ」で手術の要否を判断するのが基本ですが、部位(胸部か腹部か)と性別で基準が異なります。日本循環器学会のガイドラインでは、腹部大動脈瘤(AAA)は瘤径(最大短径)55mm以上を侵襲的治療の絶対的な適応とし、瘤径50mm以上も適応として許容されるとしています[2]。女性は男性より破裂リスクが高いとされ、瘤径45mm以上で侵襲的治療が考慮されることがあります[2]。

腹部大動脈瘤(AAA)の目安
状態 基準 対応
手術の絶対的適応 瘤径55mm以上 侵襲的治療(人工血管置換術・EVAR)を検討[2]
手術が許容される目安 瘤径50mm以上 年齢・体格・拡大速度などを見て判断[2]
女性で早めに検討する目安 瘤径45mm以上 女性は破裂リスクが高いとされるため[2]
経過観察(30〜40mm未満) 1〜2年ごとに画像検査 40mm未満はエコー検査でも可[2]
経過観察(40〜50mm未満) 6〜12ヵ月ごとに画像検査 拡大速度の確認が目的[2]
経過観察(50〜55mm未満) 3〜6ヵ月ごとに画像検査 手術に向けた精査開始の目安でもある[2]
胸部大動脈瘤(TAA)の目安
状態 基準 対応
手術を検討する目安 最大短径55mm以上 一般に胸部大動脈瘤の手術適応とされる[2]
拡大速度が速い場合 6ヵ月で5mm以上拡大 径が基準未満でも侵襲的治療を検討する要素[2]
マルファン症候群がある場合 45〜50mm以上 結合組織の病気で早めの基準が使われる[2]
経過観察(大動脈基部・上行大動脈瘤 35〜45mm未満) 6〜12ヵ月ごとに画像検査 上行大動脈瘤のサーベイランス間隔[2]
経過観察(同 45〜55mm未満) 3〜6ヵ月ごとに画像検査

出典:日本循環器学会「2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」(腹部大動脈瘤・胸部大動脈瘤の診断・治療カスケード)[2]

大動脈瘤は自覚症状のないまま偶然発見されることが大半です。日本循環器学会のガイドラインは、65歳以上の男性、65歳以上の喫煙歴のある女性に対して腹部エコー検査によるスクリーニングを行うことを勧めています[2]。健康診断や他の病気の検査(心エコー検査など)で偶然見つかるケースも少なくありません[2]。

脳動脈瘤・大動脈瘤とまぎらわしい病気の見分け方

「動脈瘤」と名前が似ていても、まったく別の対応が必要な病気があります。代表的なのが仮性動脈瘤(かせいどうみゃくりゅう)です。動脈瘤(真性大動脈瘤)は血管壁の3層構造が保たれたままふくらむのに対し、仮性動脈瘤は血管壁が破れて血液が周囲組織に漏れ出し、線維性の膜だけで血液がとどまっている状態で、「すでに壁が破れたあとの不安定な状態」と位置づけられています[2]。仮性動脈瘤についての詳しい原因・症状・治療法は、仮性動脈瘤(動脈瘤擬似症候群)とは?で解説しています。

項目 真性大動脈瘤(本記事のテーマ) 仮性動脈瘤 大動脈解離
血管壁の状態 3層構造が保たれたまま拡大[2] 壁が破れ、線維性の膜だけで血液がとどまる[2] 壁の中膜が裂けて2層に剥離する[2]
典型的な症状 ほとんど無症状[2] 外傷・カテーテル処置後の腫れや痛みが多い 突然の引き裂かれるような激痛[2]

見分けるカギ:動脈瘤はゆっくり無症状のまま大きくなるのに対し、大動脈解離は「経験したことのない激しい痛みが突然始まる」のが特徴で、対応の緊急度がまったく異なります[2]。

経過と治療:時期別のケア

脳動脈瘤の場合。未破裂で見つかった時点を起点に考えます。5〜7mm未満で危険な部位・形にあてはまらなければ、6ヵ月〜1年ごとの画像検査による経過観察が基本です[4]。治療が必要と判断された場合は、大きく2つの方法があります。開頭クリッピング術は、頭蓋骨を開いて顕微鏡で脳動脈瘤を確認し、瘤の根もと(基部)を金属のクリップで閉じて血流を遮断する方法です[1]。血管内コイル塞栓術は、カテーテルを使って脳動脈瘤の中に金属コイルを詰めて血流を遮断する、開頭しない方法です[1]。いずれの方法でも、術後は定期的な画像検査によるフォローアップが行われます。近年はフローダイバーター、ウェブ、パルスライダーなど新しいデバイスによる治療も導入されています[1]。どちらの方法が適するかは瘤の場所・形・大きさ・患者の状態によって異なり、方法ごとの具体的な再発率の数値は今回参照した資料には明記が見当たりませんでした。

大動脈瘤の場合。発見された時点での大きさを起点に、上記の間隔でサーベイランス(定期的な画像検査)を行い、手術基準(腹部55mm以上・胸部55mm以上、拡大が速い場合はそれ未満でも検討)に達したら侵襲的治療を検討します[2]。治療法は2つに大別されます。人工血管置換術(開胸・開腹手術)は、瘤のある部分の大動脈を人工血管に置き換える方法です。ステントグラフト内挿術(EVAR/TEVAR)は、足の付け根の血管からカテーテルを通して、金属の骨格がついた人工血管(ステントグラフト)を瘤の内側に留置し、血流を瘤の外に逃がす低侵襲な方法です。日本循環器学会のガイドラインは、瘤径55mm未満で人工血管置換術を行っても、55mmに至ってから行っても生命予後は変わらないという海外の比較研究(UK Small Aneurysm Trial等)を紹介しつつ、瘤径55mm以上を侵襲的治療の絶対的な適応とする考え方は合理的だとしています[2]。経過観察の期間中は、禁煙指導、血圧管理(130/80mmHg未満)、心血管疾患の一次予防が行われます[2]。

手術のリスクについて。大動脈瘤の手術は、破裂する前に予定して行う「待機手術」か、破裂してから緊急に行う「緊急手術」かで、危険度が大きく異なります。日本血管外科学会の報告(2014年集計)によると、腹部大動脈瘤(AAA)手術は19,216例実施され、院内死亡率は全体で3.2%でしたが、内訳を見ると非破裂症例の手術(待機手術)に限ると1.2%である一方、破裂症例の手術(緊急手術)では19.7%と大きく上昇していました[2]。同様に、日本胸部外科学会の報告(2016年集計)では、非解離性大動脈手術の院内死亡率は、非破裂例に限ると部位別に上行3.0%・基部4.1%・弓部6.2%・下行5.5%・胸腹部9.6%であったのに対し、破裂例では上行17.0%・基部19.2%・弓部16.9%・下行29.7%・胸腹部28.6%と、いずれも数倍に跳ね上がっています[2]。

この数字が示しているのは、「大きくなって破裂してから治療する」のと「破裂する前の待機手術で治療する」のとでは、命の危険度がまったく違うという事実です。手術基準に達する前の段階で定期的な画像検査を欠かさないことが、結果として最も安全な選択になります[2]。

受診の目安:今すぐ救急要請か、経過観察でよいか

脳動脈瘤(くも膜下出血)の場合。国立循環器病研究センターは、くも膜下出血の症状について「経験したことのない激しい頭痛」が突然起こると説明しています[5]。同センターの解説では、脳動脈瘤が破裂しくも膜下出血を起こすと「残念ながら約半数が死亡し、残り半分が重篤な後遺症」に至るとされています[1]。突然の頭痛や意識障害が出た場合は、様子を見ず直ちに救急要請してください[5]。くも膜下出血の原因・症状・治療の詳しい解説は、脳動脈瘤破裂(くも膜下出血)とは?にまとめています。

大動脈瘤(破裂・切迫破裂)の場合。日本循環器学会のガイドラインは、大動脈瘤の破裂または切迫破裂のときには、胸部・腹部・背部・臀部などに急激な痛みが出ることが多いとしています[2]。破裂していなくても、痛みの位置が瘤のある場所と一致する場合は「切迫破裂」と呼ばれる危険な状態です[2]。血管が裂ける大動脈解離では、多くの場合「経験したことのない強い痛み」が突然発症し、鋭く引き裂かれるような性状で、A型(心臓に近い側)では前胸部痛、B型では背部痛や腹痛が特徴的とされています[2]。ただし急性大動脈解離の6%程度は痛みを伴わないこと、9〜20%は典型的な痛みがなく失神で発症することもガイドラインは指摘しています[2]。突然の胸痛・背部痛・腹痛・失神は、迷わず救急要請の対象です[2]。

大動脈瘤が大きくなり周囲の臓器を圧迫すると、破裂前でも次のような症状が出ることがあります。胸部大動脈瘤では、咳や息切れ、嚥下痛、嚥下困難、嗄声(声のかすれ)が報告されています[2]。腹部大動脈瘤では、持続的または間欠的な腹部の拍動感、腹痛、腹部の不快感が自覚されることがあります[2]。こうした圧迫症状に気づいた場合は、緊急ではなくても早めに医療機関を受診してください。

日本と米国・欧州のガイドライン比較

大動脈瘤の手術基準は、日本と欧米でほぼ同じ数値を採用しています。日本循環器学会のガイドラインは、腹部大動脈瘤の手術基準を男性55mm以上・女性50mm以上を基本としつつ、日本人のデータをふまえて女性45mm以上での早期検討や、瘤径50mm以上を適応として許容する運用も示しています[2]。ヨーロッパ血管外科学会(ESVS)も同様に男性55mm以上・女性50mm以上を手術基準としていますが、ESVSガイドライン原文の詳細な推奨表現までは今回確認できておらず、この一文はESVSの一次資料そのものではなく国内外の学会発表等で紹介されている範囲の情報にとどまります[7]。

脳動脈瘤については、判断の枠組みそのものが異なります。日本の実地医療では5〜7mm以上という具体的なサイズを一つの目安として使うことが多いのに対し[4]、米国心臓協会・米国脳卒中協会(AHA/ASA)の2015年版ガイドラインは、サイズだけに頼らず、部位・形状・経時的な増大の有無・患者の年齢・くも膜下出血の既往・家族歴・多発性など複数の要素を総合して判断する多因子アプローチを重視しており、固定した mm 基準を前面に出していません[6]。

項目 日本(日本循環器学会 2020) 欧州ESVS(2024)
腹部大動脈瘤の手術基準 男性55mm以上・女性50mm以上、女性は45mm以上で考慮[2] 男性55mm以上・女性50mm以上(一次資料の詳細な推奨表現は今回未確認)[7]

数値そのものはほぼ一致していますが、「基準未満でも早めに考慮する」余地の持たせ方が異なる点が、日本と欧州のガイドラインを読み比べたときの実務上のちがいです。ここは診療にあたる医師の判断に委ねられる部分であり、本記事はどちらが正しいかを判定するものではありません。

日常生活で気をつけたいこと

脳動脈瘤・大動脈瘤とも、見つかった時点で治療の対象にならなくても、「何もしなくてよい」わけではありません。両方の病気に共通する生活上の注意点を整理します。

禁煙。大動脈瘤では、喫煙が有病率・拡大速度・破裂リスクのすべてに関わることがガイドラインで繰り返し指摘されています[2]。脳動脈瘤の経過観察でも禁煙が推奨されています[4]。

血圧の管理。大動脈瘤の経過観察では130/80mmHg未満を目標とした血圧管理が行われます[2]。脳動脈瘤の経過観察でも高血圧の治療が推奨されています[4]。

飲酒。脳動脈瘤の経過観察では大量の飲酒を避けることが推奨されています[4]。

決められた間隔での画像検査を欠かさないこと。「症状がないから大丈夫」という自己判断がもっとも危険です。大動脈瘤も脳動脈瘤も、破裂前は無症状であることがほとんどであり[1][2]、サイズの変化は画像検査でしか確認できません。医師から指示された間隔(大動脈瘤なら数ヵ月〜数年ごと、脳動脈瘤なら6ヵ月〜1年ごと)を自己判断で延ばさないことが、破裂を防ぐ最も確実な方法です[2][4]。

運動制限や食事制限について、今回参照した資料には具体的な数値基準の記載が見当たりませんでした。激しい運動やいきみを伴う動作の可否については、瘤の大きさや部位によって個人差が大きいため、自己判断せず主治医に確認してください。

動脈瘤は予防できるか。すでにできてしまった動脈瘤を薬や生活改善だけで消すことはできません[2]。しかし、大動脈瘤については禁煙・血圧管理という2つの対策が、発生率そのものを下げ、できてしまった瘤の拡大速度を遅らせる方向に働くことがガイドラインの疫学データから読み取れます[2]。65歳以上でこれまで動脈瘤を指摘されたことがない方でも、喫煙歴のある男性・女性は一度エコー検査でのスクリーニングを検討する価値があります[2]。

医療費の目安

💰 高額療養費制度の自己負担限度額(医療費100万円の例)
自己負担限度額(70歳未満・区分別)— 適用時期に注意
適用時期年収の目安計算式100万円の場合
~2026年7月診療分
現行
年収約370万~770万円(区分ウ) 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 87,430円
2026年8月診療分から
見直し後(第1段階)
年収約370万~770万円(区分ウ) 85,800円+1%(PDF原文の表記) 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small>
+ 年間上限 53万円(新設)

※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は 厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF) |JHO確認日:2026-07-16

よくある質問(FAQ)

脳動脈瘤は何ミリから手術が必要ですか?
日本の実地医療では、未破裂脳動脈瘤が5〜7mm以上になると治療の話し合いの対象になることが多いとされています[4]。ただし5mm未満でも、前交通動脈・後交通動脈・椎骨脳底動脈系にある瘤や、不整形・ブレブを伴う瘤は破裂しやすいとされ、慎重な検討が必要です[4]。最終的な判断は、瘤の大きさだけでなく、治療の難易度、年齢や健康状態も含めて総合的に行われます[4]。
腹部大動脈瘤は何センチで手術になりますか?
日本循環器学会のガイドラインでは、瘤径(最大短径)55mm以上(5.5cm以上)を侵襲的治療の絶対的な適応とし、50mm以上(5.0cm以上)も適応として許容されるとしています[2]。女性は破裂リスクが高いとされ、45mm以上(4.5cm以上)で早めの検討が行われることもあります[2]。
未破裂脳動脈瘤は経過観察でどれくらいの頻度で検査しますか?
治療をせず経過観察する場合は、6ヵ月〜1年ごとに画像検査でサイズの変化を確認することが推奨されています[4]。あわせて禁煙、過度の飲酒を控えること、高血圧の治療も重要とされています[4]。
大動脈瘤は自覚症状がありますか?
胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤とも、大半は無症状で画像検査により偶然発見されます[2]。ただし瘤が大きくなり周囲を圧迫すると、胸部では咳・息切れ・嚥下痛・嚥下困難・嗄声、腹部では持続的または間欠的な腹部の拍動感・腹痛・腹部の不快感が出ることがあります[2]。
くも膜下出血の前兆はありますか?
国立循環器病研究センターは、くも膜下出血の症状として「経験したことのない激しい頭痛」が突然起こると説明しています[5]。前兆なく突然発症することが多いため、そうした頭痛が起きたら様子を見ず直ちに救急要請してください[5]。
大動脈瘤の破裂ではどんな症状が出ますか?
日本循環器学会のガイドラインは、破裂または切迫破裂のときには胸部・腹部・背部・臀部などに急激な痛みが出ることが多いとしています[2]。血管が裂ける大動脈解離では、経験したことのない引き裂かれるような激痛が突然発症するのが典型的ですが、6%程度は無痛性で、9〜20%は失神で発症することもあるとされています[2]。
脳動脈瘤の治療、クリッピング術とコイル塞栓術はどちらがいいですか?
開頭クリッピング術は顕微鏡下で瘤の基部をクリップで閉じる方法、血管内コイル塞栓術はカテーテルでコイルを詰めて閉塞させる方法です[1]。どちらが適するかは瘤の場所・形・大きさ・患者の状態によって異なるため、担当医との相談が必要です。方法ごとの具体的な再発率の数値は、今回参照した資料には明記が見当たりませんでした。
大動脈瘤の治療、人工血管置換術とステントグラフト内挿術(EVAR)の違いは何ですか?
人工血管置換術は開胸・開腹して瘤のある部分を人工血管に置き換える方法、ステントグラフト内挿術(EVAR/TEVAR)は足の付け根からカテーテルで人工血管を留置する低侵襲な方法です。日本循環器学会のガイドラインは、瘤径55mm未満で手術しても55mmに至ってから手術しても生命予後は変わらないとする海外の比較研究を紹介しています[2]。どちらを選ぶかは瘤の形・場所・全身状態によって異なります。
動脈瘤は薬で治りますか?
現時点で、できてしまった動脈瘤そのものを薬で縮小させる治療法は確立していません。大動脈瘤の経過観察中は、拡大を抑える目的で禁煙指導や血圧管理(130/80mmHg未満)、心血管疾患の一次予防が行われます[2]。脳動脈瘤の経過観察でも、禁煙・節酒・高血圧の治療が推奨されています[4]。
健康診断で「大動脈瘤の疑い」と言われました。どの科を受診すればよいですか?
腹部大動脈瘤は血管外科・心臓血管外科、胸部大動脈瘤は心臓血管外科が主な受診先です。脳動脈瘤の疑いを指摘された場合は脳神経外科の受診が必要です。健診結果の紹介状があれば、それを持参するとスムーズです。
動脈瘤の家族歴があります。検査を受けたほうがいいですか?
日本循環器学会のガイドラインは、腹部大動脈瘤の家族歴がある場合は破裂のリスクが上昇するとし、こうした症例では手術を検討する基準を55mm以下に早める合理性があると述べています[2]。家族に大動脈瘤や脳動脈瘤の診断歴がある方は、一度医療機関で相談することをおすすめします。ただし脳動脈瘤の家族歴に関する検査基準について、今回参照した資料には具体的な記載が見当たりませんでした。
腹部大動脈瘤の手術は待機手術と緊急手術でどのくらい危険度が違いますか?
日本血管外科学会の報告(2014年集計)では、腹部大動脈瘤手術の院内死亡率は、破裂前の待機手術に限ると1.2%であったのに対し、破裂後の緊急手術では19.7%でした[2]。破裂してから治療するのと、破裂する前に計画的に治療するのとでは、危険度が10倍以上異なります。
マルファン症候群があると大動脈瘤になりやすいですか?
日本循環器学会のガイドラインは、マルファン症候群のような結合組織の病気がある場合、胸部大動脈瘤の手術基準を通常より早い45〜50mm以上に設定してよいとしています[2]。結合組織の病気がある方は、通常より早めのフォローアップが必要になる場合があるため、担当医と相談してください。

動脈瘤に関する記事一覧

末梢動脈(足の血管など)にできる末梢動脈瘤や、脳動脈瘤・大動脈瘤以外の部位にできる動脈瘤については、今回参照した資料には詳しい記載が見当たりませんでした。気になる症状がある場合は、血管外科または脳神経外科にご相談ください。

参考文献

  1. 国立循環器病研究センター 病院「脳動脈瘤」 ncvc.go.jp/脳動脈瘤
  2. 日本循環器学会「2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」2020年 j-circ.or.jp/JCS2020_Ogino.pdf
  3. UCAS Japan Investigators.「The Natural Course of Unruptured Cerebral Aneurysms in a Japanese Cohort」N Engl J Med 2012;366:2474-2482(PMID 22738097) pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22738097
  4. 京都大学医学部附属病院 脳神経外科「未破裂脳動脈瘤」 neurosur.kuhp.kyoto-u.ac.jp/未破裂脳動脈瘤
  5. 国立循環器病研究センター 病院「脳卒中」 ncvc.go.jp/脳卒中
  6. American Heart Association/American Stroke Association「Guidelines for the Management of Patients With Unruptured Intracranial Aneurysms」Stroke 2015 ahajournals.org/str.0000000000000070
  7. European Society for Vascular Surgery「2024 Clinical Practice Guidelines on the Management of Abdominal Aorto-Iliac Artery Aneurysms」European Journal of Vascular and Endovascular Surgery 2024 ejves.com/S1078-5884(23)00889-4