多汗症
最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)
✦ 結論から言うと
多汗症は「気にしすぎ」ではなく、局所または全身のエクリン汗腺から日常生活に支障をきたすほど過剰な汗が出る医学的な状態です[1]。汗が出る範囲が体全体か一部かで「全身性」と「局所性」に分かれ、さらに原因がはっきりしない「原発性」と、甲状腺機能亢進症・褐色細胞腫・低血糖・感染症・薬剤性・悪性腫瘍などの病気が背景にある「続発性」に分かれます。とくに睡眠中も止まらない汗、左右非対称の汗、成人になってから急に始まった汗は、続発性を疑って医療機関で原因を確認したほうがよいサインです[1]。
| 原因 | 原発性(原因不明・体質的、若年発症が多い)と続発性(甲状腺機能亢進症・褐色細胞腫・低血糖・感染症・薬剤性・悪性腫瘍などが背景)の2系統がある[1] |
|---|---|
| 主な症状 | 手掌・足底・腋窩(わき)・顔面頭部などに、日常生活の妨げになるほどの発汗が繰り返し起こる[1] |
| 受診の目安 | 睡眠中も汗が止まらない、左右非対称、成人後に急に発症、発熱・体重減少・動悸を伴う場合は続発性の可能性があり早めの受診が望ましい[1] |
多汗症とは?原因と汗が出過ぎる仕組み
エクリン汗腺は本来、体温調節のために汗を出す器官です。ところが何らかの理由で交感神経からの刺激が過剰になったり、汗腺そのものの反応が強くなったりすると、体温調節に必要な量をはるかに超える汗が出るようになります。これが多汗症です[1]。多汗症は大きく「全身性多汗症」と「局所性多汗症」に分かれ、全身性には原因不明の原発性全身性多汗症と、他の病気に合併して起こる続発性全身性多汗症があります。続発性全身性多汗症の原因としては、結核などの感染症、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫などの内分泌代謝異常、神経疾患、薬剤性などが報告されています[1]。
一方、局所性多汗症にも原発性(特発性)と続発性があります。原発性局所多汗症は、体温調節とは別の機序で、手掌・足底・腋窩・頭部顔面など特定の部位に精神的緊張をきっかけとして過剰な発汗が起こる病態です[1]。続発性局所性多汗症の代表例としては、耳下腺の手術や外傷の後に頬や側頭部に汗をかくFrey症候群(味覚性発汗)、脳梗塞や脊髄損傷など中枢・末梢神経障害による無汗部位の代償として別の部位に汗が出る代償性発汗などが知られています[1]。
原発性局所多汗症の頻度については、中国・上海とカナダ・バンクーバーの皮膚科外来患者を対象にした2016年の調査で、上海の患者では原発性多汗症の割合が14.5%(内訳は腋窩2.5%・掌蹠5.8%・全身6.1%)、バンクーバーでは12.3%(腋窩4.4%・掌蹠5.7%・全身2.2%)と報告されています[1]。日本国内の郵送アンケート調査でも、回収できた回答のうち原発性局所多汗症は5.5%であり、そのうちHDSSスコア3または4の重度と申告した人が1.4%いたことが報告されています。しかし医療機関への受診率は6.2%と非常に低く、多くの人が「体質だから」と我慢して受診していない実態がうかがえます[2]。別の国内調査でも、対象者の4.6%が原発性局所多汗症に該当すると答えた一方で、実際に多汗のことで病院にかかったのは27%にとどまったと報告されており、症状を自覚していても受診に結びついていない人が多いことが繰り返し指摘されています[1]。
原発性局所多汗症のうち、とくに腋窩多汗症については、発汗量そのものは多くなくても、しばしば家族歴があることから遺伝的に生じた発汗系交感神経の病的な過活動が関与していると考えられています[1]。汗で長時間湿った皮膚は汗疹(あせも)を起こしやすく、表皮がふやけて剥がれることで、足白癬(水虫)や尋常性疣贅(イボ)などの皮膚トラブルを合併しやすくなる点も、ガイドラインで指摘されています[1]。多汗症は単に「汗が多い」だけでなく、皮膚の感染症リスクや、精神的緊張時に発汗が悪化するという特徴を伴う疾患として理解する必要があります[1]。
出典:日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」(2023年)[1]
診断の目安となる数値・基準
原発性局所多汗症の診断は、症状や経過を確認する問診が中心です。日本皮膚科学会のガイドラインは、Hornbergerらが提唱した以下の診断基準を紹介しています[1]。
| 条件 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 必須条件 | 局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6カ月以上認められる | この上で右の6項目のうち2項目以上を満たすと原発性局所多汗症と診断される[1] |
| 付随条件① | 発症が25歳以下である | 若年発症が多い[1] |
| 付随条件② | 左右対称性に発汗がみられる | 左右差が大きい場合は続発性を疑う[1] |
| 付随条件③ | 睡眠中は発汗が止まっている | 睡眠中も止まらない汗は続発性を疑う重要なサイン[1] |
| 付随条件④ | 1回/週以上の多汗のエピソードがある | 頻度の目安[1] |
| 付随条件⑤ | 家族歴がみられる | 体質的な要因を示唆[1] |
| 付随条件⑥ | それらにより日常生活に支障をきたす | QOL(生活の質)への影響が診断上重視される[1] |
出典:日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」(2023年、Hornbergerらの診断基準を引用)[1]
この基準の要点は「6カ月以上」という持続期間と、「原因がはっきりしない」という点です。逆に言えば、最近になって急に始まった汗や、原因が思い当たる汗(発熱・感染症・薬の副作用など)は、この診断基準にそのまま当てはまらず、続発性を疑って原因を調べる必要があります[1]。
発汗量を客観的に調べる検査
問診だけでなく、発汗量を客観的に測定する方法もガイドラインで紹介されています。定性的な方法としては、ヨウ素を含ませたヨード紙(汗滴プリント法)を皮膚に当て、発汗部位が茶褐色〜黒色に変色することで発汗を視覚化する方法や、専用の試薬を使う「ミノール法」があります[1]。定量的な方法としては、皮膚面を密閉したカプセルで覆い、カプセルを通る前後の空気の湿度差から発汗量を計算する「換気カプセル法」があり、医療機器としての承認を受けた測定装置も存在します[1]。これらの検査は主に治療効果を数値で確認する目的や臨床研究で使われるもので、通常の診療では問診とHDSSによる重症度評価が中心になります[1]。
なお、発汗量には日内変動や季節変動があることも知られています。大脳皮質の活動が高まる日中の覚醒時に発汗が多く、大脳皮質の活動が低下する睡眠中は発汗が止まるとされ、これが原発性局所多汗症の診断基準に「睡眠中は発汗が止まっている」という項目が含まれている医学的な背景になっています[1]。また、皮膚の血流量が低下する冬季には発汗量が減り、血流量が増加する夏季には発汗量が増える傾向があるともされています[1]。
重症度の目安:HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)
多汗症の重症度は、国際的に広く使われているHDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)という4段階の自己評価スケールで判定されます。日本皮膚科学会のガイドラインでも治療方針の判断材料として採用されています[1]。
| スコア | 状態 |
|---|---|
| 1 | 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない[1] |
| 2 | 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある[1] |
| 3 | 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある[1] |
| 4 | 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある[1] |
出典:日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」(2023年)[1]
重要なのは、HDSSスコア3以上(重度)が、ボツリヌス毒素製剤による保険診療の対象基準として使われている点です[1]。2021年に本邦で実施された調査(70,358人を対象)では、原発性腋窩多汗症の診断基準を満たしHDSSスコア3以上と判定された対象者のうち、17.1%が学業や仕事への影響があったと回答しています[1]。多汗症は「見た目の問題」にとどまらず、生産性や心理面にも影響する疾患として扱われています。
原発性と続発性・全身性と局所性の見分け方
多汗症のケアで最初につまずきやすいのが「原発性」と「続発性」の混同です。この2つは治療の入り口がまったく異なります。原発性は制汗剤や外用薬など局所治療から段階的に進めますが、続発性は背景にある病気(甲状腺機能亢進症・褐色細胞腫・低血糖・感染症・薬剤性・悪性腫瘍など)を治療しない限り汗は改善しません[1]。
| 項目 | 原発性多汗症 | 続発性多汗症 |
|---|---|---|
| 発症年齢 | 25歳以下の若年発症が多い[1] | 年齢を問わず、成人後の急な発症もある[1] |
| 汗の範囲 | 手掌・足底・腋窩・頭部顔面など局所に、左右対称に出ることが多い[1] | 全身性のことが多く、左右非対称や片側性のこともある[1] |
| 睡眠中の汗 | 止まっていることが多い[1] | 睡眠中も汗が続くことがある(続発性を疑う所見)[1] |
| 背景の病気 | 明らかな原因なし[1] | 甲状腺機能亢進症・褐色細胞腫・低血糖・悪性腫瘍・感染症・神経疾患・薬剤性など[1] |
| 随伴症状 | 基本的になし | 体重減少・動悸・発熱・ほてりなど背景疾患の症状を伴うことがある[1] |
見分けるカギ:睡眠中も汗が止まらない、左右非対称、体重減少や動悸などの随伴症状がある——このいずれかがあれば、自己判断で制汗剤を試す前に医療機関で背景疾患の有無を確認することが勧められます[1]。
経過と治療:段階を追ったケア(治療のステップ)
原発性局所多汗症の治療は、副作用の少ない方法から段階的に進める「ステップアップ方式」が基本です。日本皮膚科学会のガイドラインが示す診療アルゴリズムでは、部位ごとに推奨される治療の順序と保険適用の有無が整理されています[1]。
ステップ1:制汗剤(塩化アルミニウム外用)
原発性局所多汗症においては、塩化アルミニウム外用療法がまず行ってよい治療とされています[1]。腋窩には10〜20%、手掌・足底には20〜50%の濃度が目安として使われ、重症度に応じて単純外用から密封療法(ODT)まで強度を上げます[1]。塩化アルミニウムは表皮内の汗管をふさぐことで発汗を抑えると考えられていますが、現在のところ保険診療で使える市販の外用薬はなく、医療機関が独自に調製する院内製剤として処方されるのが一般的です[1]。2020年11月には、腋窩多汗症に対する外用抗コリン薬が新たに保険適用になりました[1]。
ステップ2:内服抗コリン薬・イオントフォレーシス
外用薬で効果が不十分な場合、内服抗コリン薬や、水道水を使ったイオントフォレーシス療法が選択肢になります。イオントフォレーシス療法は、掌蹠(手のひら・足の裏)の多汗症に対しては推奨度Bとされていますが、腋窩は推奨度C1、頭部顔面については有効性を裏付ける質の高い研究がなく推奨されていません[1]。
内服・外用いずれの抗コリン薬にも、口渇・かすみ目(霧視)・散瞳・排尿困難・便秘・鼻腔の乾燥・ドライアイなどの抗コリン作用に関連した副作用が一定の頻度で報告されています。国内の外用抗コリン薬の試験では、口渇1.4%、便秘と散瞳がそれぞれ0.7%と比較的低い頻度であった一方、海外の試験では口渇16.9%、霧視6.7%、散瞳5.3%、排尿障害4.2%、鼻腔の乾燥3.6%など、薬剤や用量によって副作用の出方に幅があることが示されています[1]。これらの副作用は休薬によって回復・軽快することが多いとされていますが、自己判断で量を増やしたりせず、副作用が強く出た場合は処方した医療機関に相談することが大切です[1]。
ステップ3:ボツリヌス毒素(ボトックス)注射
A型ボツリヌス毒素製剤(BT-A)は、精製度が高く、コリン作動性神経の接合部からのアセチルコリン放出を抑える作用によって発汗を抑制します[1]。日本では2012年11月から、重症の原発性腋窩多汗症に限り保険診療の適用が認められています[1]。厚生労働省の通知でも、重度の原発性腋窩多汗症へのボツリヌス毒素製剤投与は、講習を受け安全性・有効性を十分理解し施注手技に関する知識・経験のある医師が行うこととされています[3]。腋窩へは50〜100単位を局所注射するのが目安で、効果は個人差がありますが、報告では約80%の症例で効果が5カ月程度持続するとされています[1]。手掌・足底・頭部顔面へのBT-A注射は、現時点では保険適用外治療です[1]。
ステップ4:手術(ETS:内視鏡下胸部交感神経遮断術)
外用薬・内服薬・BT-A注射など既存の治療に抵抗性があり、生活の質を大きく損なう重症の手掌多汗症では、内視鏡下胸部交感神経遮断術(ETS)が選択肢になります。手掌多汗症に対するETSの発汗抑制の有効率はほぼ100%と非常に高い一方、術後に別の部位(背中・胸・大腿部など)で汗が増える「代償性発汗」を高率に合併することが、ガイドラインでも明記されています[1]。代償性発汗の出現率は報告によって幅があり、8〜95.4%とされていますが、多くの報告では90%以上の患者に何らかの代償性発汗が認められています。ただし程度の感じ方は個人差が非常に大きく、軽く増えたと感じる程度から日常生活に支障を来すほどの発汗まで幅広いことが特徴です[1]。
交感神経の切断レベル(T2・T3・T4など)によっても代償性発汗の出方は異なるとされ、孤立性の腋窩多汗症に対してはT3レベルよりもT4レベルで遮断するほうが代償性発汗が少ないという報告があります。またT4レベルの遮断はT2・T3レベルと比較して治療効果は同程度で、中等度以上の代償性発汗の出現率が少なく、患者満足度が高いとする報告もあります[1]。術後の再発については、2,000例を5年間経過観察した検討で、手掌多汗症の再発率が1%、腋窩多汗症の再発率が17%であったと報告されており、部位によって長期的な効果の持続に差があることが示されています[1]。このように、ETSは発汗を止める効果は非常に高い一方で、代償性発汗という不可逆的な副作用を伴う可能性があるため、ガイドラインでも十分なインフォームドコンセント(説明と同意)を得たうえで実施すべき治療と位置づけられています[1]。ETSの詳しい内容は、当サイトの内視鏡的交感神経切除術とは?その目的と効果を解説した記事でも取り上げています。
セルフケア・生活の中での対策
治療と並行して、多くの原発性腋窩多汗症の患者が実践している対策として、衣類の工夫、タオルでのこまめな拭き取り、わき汗パッドなどの市販の衛生用品の利用が挙げられます。ガイドラインが引用する研究では、原発性腋窩多汗症患者が発汗対策として何らかの市販品や工夫を行っている割合は95.8%と非常に高く、心理面への配慮(91.5%)、社会生活面での工夫(90.1%)、職場での対策(該当データあり)など、生活のさまざまな場面で対応を迫られていることが示されています[1]。一方で、症状を自覚しながらも「満足のいく治療選択肢がない」と感じて医療機関を受診せず、市販品だけで自己対処を続けている人が多いという課題も指摘されています[1]。汗じみが気になる場面が多い、皮膚トラブルを繰り返す、といった状態であれば、セルフケアだけで抱え込まず、一度皮膚科で治療の選択肢を相談することが勧められます。
受診の目安:今すぐ医療機関を受診すべきか、自宅で様子見でよいか
以下のいずれかに当てはまる場合は、自己判断で制汗剤を試すだけで済ませず、早めに皮膚科(または内科)を受診することが勧められます[1]。
- 【赤】すぐ受診:体重減少・動悸・発熱・強いだるさを伴う汗、成人になってから急に始まった全身の汗——甲状腺機能亢進症や感染症、悪性腫瘍などの背景疾患を疑うサインです[1]。
- 【黄】早めに相談:睡眠中も止まらない汗、左右非対称の汗、家族歴のない急な発症——原発性の診断基準(6カ月以上・左右対称・睡眠中は止まる、など)に当てはまらない場合は、続発性の可能性を確認したほうがよい状態です[1]。
- 【緑】経過観察でよい:若年から左右対称に手足やわきに汗をかき、睡眠中は止まっている、家族にも同様の体質の人がいる——原発性局所多汗症の典型的なパターンで、まずは制汗剤などのセルフケアから試してよいケースです[1]。
日本と国際基準(HDSS・国際皮膚科領域)のガイドライン比較
多汗症の重症度評価であるHDSSは、もともと海外(Allergan社の研究チームら)によって開発・検証された国際的な4段階スケールであり、その妥当性と信頼性は米国皮膚科学会誌(Journal of the American Academy of Dermatology)に掲載された研究で報告されています[4]。日本皮膚科学会のガイドラインも、このHDSSをそのまま重症度判定・治療適応の基準として採用しており、日本と国際的な基準の間でスケール自体に大きな差はありません[1]。
| 項目 | 日本(日本皮膚科学会 2023年) | スケールの出典(国際) |
|---|---|---|
| 重症度評価 | HDSS(1〜4点)を採用し、治療アルゴリズムの判定に使用[1] | HDSSはAllerganの研究チームにより開発・検証された尺度[4] |
| BT-A保険適用の重症度基準 | HDSS3以上の重症例で保険診療が認められる(2012年11月〜、原発性腋窩多汗症のみ)[1] | 国際的な臨床試験でも同様にHDSS3以上を重症例の組み入れ基準に用いる例が多い[4] |
両者が示すHDSSの意味そのものに大きな相違はありませんが、日本ではHDSS3以上かつ原発性腋窩多汗症であることが保険適用の必須条件という点は、日本の保険診療制度に特有のルールです。海外の臨床試験ではHDSSスコアは研究の組み入れ基準や効果判定の指標として使われる一方、保険適用の可否は各国の医療制度によって異なります[1]。
QOL(生活の質)への影響
多汗症は「命に関わらないから」と軽視されがちですが、ガイドラインが引用する研究では、原発性局所多汗症と診断された患者にDLQI(皮膚疾患特異的QOL指標)やSAS(不安の指標)などのアンケートを用いた検討が行われ、治療によってDLQIスコアが有意に改善したことが報告されています[1]。また、腋窩多汗症の生産性損失(仕事や学業への影響)についても検討が行われており、多汗症が就労や学業のパフォーマンスに実際に影響を及ぼしうることが示されています[1]。2021年に本邦で実施された調査(70,358人対象)でも、原発性腋窩多汗症でHDSSスコア3以上と判定された対象者のうち17.1%が学業・仕事への影響を報告しており、多汗症が社会生活・心理面に及ぼす影響の大きさがうかがえます[1]。
不安障害やうつ傾向との関連についても、ガイドラインは複数の研究を紹介しています。皮膚科外来を受診した患者を対象にした検討では、腋窩多汗症がある患者は不安障害の有病率が23.1%、うつ病の有病率が27.2%であったのに対し、腋窩多汗症のない患者ではそれぞれ7.5%、9.7%であり、腋窩多汗症がある群のほうが不安障害・うつ病の有病率が有意に高かったと報告されています[1]。ボツリヌス毒素治療の前後で重度・中等度の抑うつ患者の割合を調べた検討では、治療前31.8%だった割合が治療後21.2%まで減少した一方、個人単位でみると治療後にスコアが悪化した患者も31%程度存在したとされ、発汗の改善が必ずしも精神症状の改善に直結するとは限らないことも示されています[1]。
経済的な影響についても、ガイドラインは日本国内での多汗症に関連する社会的コストの推計を紹介しており、その額は3,129億円と推定されたと報告されています[1]。多汗症が「見た目だけの問題」ではなく、医療・社会全体で無視できないコストと生活への影響を伴う疾患であることが、これらのデータから読み取れます。
多汗症とうつ病・不安障害の因果関係の詳細(どちらが先に生じるか、治療でどこまで改善するかなど)については、今回参照した資料には明確な結論の記載は見当たりませんでした。ただし、精神的な緊張・不安が発汗を悪化させ、発汗の増悪がさらに社会的な場面での不安を強めるという悪循環が示唆されている点は、ガイドラインの記述からも読み取れます[1]。
医療費の目安
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
よくある質問(FAQ)
多汗症は病院に行くべきレベルなのか、体質なのか自分では判断できません
ワキの多汗症でボトックス注射は保険が使えますか
手のひらの汗(手掌多汗症)にはどんな治療がありますか
ETS手術を受けると代償性発汗は必ず起こりますか
多汗症の重症度はどうやって判定するのですか
汗が急に増えた、左右で汗の量が違う場合は何が疑われますか
足の裏の多汗症(足底多汗症)にも保険適用の治療はありますか
制汗剤を毎日使っても汗が減りません。次に何を試せばいいですか
多汗症は年齢とともに自然に治りますか
多汗症の原因や治療の細かな薬剤名・海外との詳細な比較については、今回参照した資料だけでは判断しきれない部分があります。個々の症状に応じた最終的な治療方針は、必ず医療機関で相談してください。
多汗症に関する記事一覧
記事一覧 3件
治療・薬 2
その他 1
参考文献
- 日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版(2023年12月一部改訂)」2023年 dermatol.or.jp/guideline/takansho2023
- 日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」(国内アンケート調査に基づく有病率・受診率のデータ)2023年 dermatol.or.jp/guideline/takansho2023
- 厚生労働省保険局医療課「疑義解釈資料(ボツリヌス毒素製剤の算定要件等)保医発0624第1号」2024年 mhlw.go.jp/content/12404000/001365212.pdf
- Hyperhidrosis Disease Severity Scale(HDSS)の妥当性・信頼性検証研究「Validity and reliability of the hyperhidrosis disease severity scale (HDSS)」Journal of the American Academy of Dermatology jaad.org/HDSS
