帯状疱疹
最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)
✦ 結論から言うと
帯状疱疹は、子どものころにかかった水痘(水ぼうそう)のウイルスが体内の神経節に潜み続け、加齢や疲労、病気などで免疫が落ちたときに再び活動し、神経に沿って痛みと水ぶくれを起こす病気です[1]。国立感染症研究所の調査では50歳代から発症率が急上昇し、70歳代でピークを迎えます[1]。国立感染症研究所は、顔や目のまわりに発疹が出た場合、視力障害や顔面麻痺につながる合併症のリスクがあるため様子を見ずに速やかな受診が必要だとしています[1]。
| 原因 | 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化[1] |
|---|---|
| 主な症状 | 神経の走行に沿った片側性の痛みと水ぶくれ(帯状の発疹)[1] |
| 治療の要 | 皮疹出現後72時間(3日)以内、遅くとも5日以内の抗ウイルス薬開始[3] |
| 受診の目安 | 顔・目のまわりの発疹、目の痛みや視力異常、顔のゆがみや耳の症状は「すぐ」眼科・耳鼻科へ[1] |
| 予防 | 2025年4月から帯状疱疹ワクチンが定期接種化(65歳以上など)[2] |
帯状疱疹とは?原因と発疹が出る仕組み
帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)というヘルペスウイルス科のウイルスによって起こる病気です[1]。国立感染症研究所のファクトシートによれば、VZVは初感染(多くは子どものころの水痘)の後、生涯にわたって脊髄後根神経節などの神経節に潜伏し続けます[1]。ふだんは体の免疫がウイルスの働きを抑え込んでいますが、加齢や疲労、ストレス、悪性腫瘍・臓器移植・HIV感染などによる免疫の低下があると、潜んでいたウイルスが再活性化し、その神経が支配する皮膚の領域(デルマトーム)に沿って発疹が生じます[1]。
同研究所は、水痘の罹患歴がある人のうち約10〜30%が生涯に一度は帯状疱疹を発症し、85歳になるまでには約半数の人が発症すると報告しています[1]。また同研究所は、日本の成人の抗体保有率は90%以上とされ、多くの成人がすでにVZVに感染済みで、帯状疱疹を発症するリスクを潜在的に持っていると説明しています[1]。
発疹が出やすい部位にも特徴があります。国立感染症研究所によれば、頭部の帯状疱疹の場合、多くは第5脳神経(三叉神経)領域に生じ、なかでも第一枝(眼神経)領域に生じることが多いとされています[1]。体幹では胸髄領域の神経(肋間神経など)に沿って帯状の発疹が出ることが多く、これが「帯状」という病名の由来にもなっています。国立感染症研究所によれば、皮疹は基本的に体の左右どちらか一方だけに出るのが特徴で、神経の走行を越えて反対側まで広がることは通常ありません[1]。同研究所は、まれに痛みだけがあって皮疹が出ない「無疱疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)」という病型も存在すると報告しています[1]。
出典:国立感染症研究所「帯状疱疹ワクチンファクトシート」第2版[1]
症状の現れ方と経過:前駆痛から治癒まで
日本皮膚科学会の診療ガイドライン2025によると、多くの帯状疱疹症例では皮疹が出現する1週間以内に痛み(前駆痛)を感じることがあり、この時点ではまだ帯状疱疹と診断することは困難です[3]。国立感染症研究所も、成人患者の70〜80%で、皮疹の出現より典型的には3〜4日、時に1週間以上前から痛みが先行すると報告しています[1]。神経支配領域に一致した紅斑(赤み)と、中心がくぼんだ水疱の集まりが片側性に生じ、強い痛みを伴うのが典型的な経過です[3]。
| 時期の目安 | 皮膚・症状の変化 | 備考 |
|---|---|---|
| 発疹の1週間以内前 | 神経に沿ったピリピリ・チクチクした痛み(前駆痛) | 皮疹がまだなく診断が難しい時期[1] |
| 発症初期 | 片側性の紅斑、中心が陥凹した水疱が神経の走行に沿って集簇 | 単純ヘルペスとの鑑別が必要な場合がある[3] |
| 数日〜1週間 | 新しい水疱の出現が続く/膿疱化 | この間の抗ウイルス薬投与が最も効果的[3] |
| 1〜2週間 | 水疱がかさぶた(痂皮)化していく | 痂皮化するまで感染性があるとされる[3] |
| 皮膚症状の改善後 | 通常4〜6週間で痛みも消失していく | 一部は痛みだけが長引く(PHNへ移行)[1] |
出典:国立感染症研究所「帯状疱疹ワクチンファクトシート」[1]/日本皮膚科学会「帯状疱疹診療ガイドライン2025」[3]
国立感染症研究所によれば、帯状疱疹の再発率はシステマティックレビューで1〜6%と報告されており、長期観察研究では5〜6%とやや高い傾向が見られます[3]。同じ場所に痛みが繰り返し出る場合は、再発を繰り返しやすい単純ヘルペスとの見分けが問題になることがあり、日本皮膚科学会は、同じような皮疹の既往がないかを詳しく問診することを勧めています[3]。
皮疹の分布にも特徴があります。日本皮膚科学会のガイドラインによれば、帯状疱疹の疼痛は侵害受容性疼痛を伴い、皮疹はデルマトーム(脊髄の神経根が支配する体表の帯状領域)に一致して現れるとされています[3]。国立感染症研究所も、帯状疱疹の特徴は片側性の神経支配領域(デルマトーム)に、時に疼痛を伴う集簇した水疱を形成することにあると説明しており、この神経支配領域の広がりに沿って帯状に皮疹が生じることが、他の皮膚病と区別する際の重要な手がかりになります[1]。ウイルスの排出時期についても、日本皮膚科学会のガイドラインは、水疱からのウイルス分離培養は水疱出現後4日目までみられることがあると報告しており、この時期までは特に感染性が高いと考えられます[3]。
かかりやすい人と発症率:なぜ50歳を過ぎると増えるのか
国立感染症研究所が実施した宮崎県での大規模疫学調査(宮崎スタディ、1997〜2020年)によると、帯状疱疹の罹患率は全体で1,000人あたり年間3.61〜6.50人であり、年齢別に見ると50歳未満では1,000人あたり0.37〜4.80人であるのに対し、50歳代から上昇し、70歳代(1,000人あたり10.45人)でピークを示しました[1]。国立感染症研究所が紹介する、50歳以上を対象とした別の調査(SHEZスタディ、2009〜2012年)でも、罹患率は1,000人あたり年間10.9人という高い水準が報告されています[1]。
同研究所は、性差についても言及しており、SHEZスタディでは男性の罹患率が1,000人あたり年間8.5人であったのに対し、女性は12.8人と高い傾向が見られたとしています[1]。国立感染症研究所は、加齢とともに免疫の力(細胞性免疫)が低下していくことが、高齢者で帯状疱疹が増える主な理由と考えられるとしています[1]。
| 年代 | 罹患率(1,000人あたり・年間) | 出典 |
|---|---|---|
| 50歳未満 | 0.37〜4.80人 | 宮崎スタディ[1] |
| 50歳代以上全体 | 10.9人 | SHEZスタディ[1] |
| 70歳代(ピーク) | 10.45人 | 宮崎スタディ[1] |
| 男性(50歳以上) | 8.5人 | SHEZスタディ[1] |
| 女性(50歳以上) | 12.8人 | SHEZスタディ[1] |
出典:国立感染症研究所「帯状疱疹ワクチンファクトシート」第2版[1]
加齢のほかにも、悪性腫瘍やその治療、臓器移植後の免疫抑制薬の使用、HIV感染症、糖尿病などの基礎疾患、強いストレスや過労は、いずれも免疫の働きを弱め帯状疱疹の発症リスクを高める要因として知られています[1]。国立感染症研究所が引用する、日本のDPCデータに基づく入院患者の調査では、入院中に死亡した人のうち基礎疾患がなかった人はわずか5.5%(17人)にとどまり、亡くなった人の多くが何らかの基礎疾患を有していたことも報告されています[1]。
国立感染症研究所は、諸外国の状況についても紹介しています。国立感染症研究所によれば、韓国では2006年から2015年の10年間で調整後罹患率が1,000人あたり年間4.23人から9.22人へと増加し、入院率も約2倍に増加したと報告されています[1]。同研究所が紹介するイタリアの調査では、人口10万人あたりの入院率が50歳未満で1.31、50歳代で3.83〜5.28、60歳代で7.19〜10.31、70歳代で14.07〜16.99、80歳以上で20.48〜21.55と、年代が上がるほど段階的に高くなることが示されています[1]。同研究所が紹介するスペインの全国調査でも、15歳以上の罹患率が人口10万人あたり351.6であるのに対し、50歳以上では625.5と大きく上昇しており、年齢とともに罹患率が増加する傾向は世界共通であることがうかがえます[1]。
単純ヘルペスや他の皮膚病との見分け方
日本皮膚科学会のガイドラインでは、臨床症状が最も類似する疾患として単純ヘルペスが挙げられていますが、水疱や紅色丘疹が少数で皮疹が限局している症例では診断に迷うことがあるとされています[3]。同学会は、両疾患の見分け方として再発頻度の違いに注目しており、帯状疱疹の再発は数%程度と稀であるのに対し、単純ヘルペスは再発を繰り返すという特徴があるため、同様の皮疹の既往を確認することが鑑別の手がかりになるとしています[3]。同ガイドラインは、そのほかにも丹毒のように片側に皮疹が生じる疾患や、毛包炎、毛虫(ドクガ)による皮膚炎、異汗性湿疹など水疱を生じる疾患も鑑別の対象になるとしています[3]。
| 項目 | 帯状疱疹 | 単純ヘルペス |
|---|---|---|
| 皮疹の分布 | 神経の走行に沿った片側性・帯状 | 口唇や性器周囲など限局した部位に多い[3] |
| 再発のしやすさ | 稀(数%程度)[3] | 繰り返しやすい[3] |
| 既往歴の確認 | 同様の皮疹の既往が乏しいことが多い | 同じ場所に繰り返す既往があることが多い[3] |
見分けるカギ:同じ場所・同じような皮疹が過去に繰り返し出ていたかどうかが、日本皮膚科学会が挙げる帯状疱疹と単純ヘルペスを区別する重要な手がかりです[3]。自己判断が難しい場合は、いずれにしても早めに皮膚科を受診することが勧められます。
診断は多くの場合、片側性・帯状の皮疹の分布や水疱の性状といった特徴的な臨床症状から医師が判断します。国立感染症研究所が紹介する調査では、抗VZV抗体(液性免疫の指標)が陽性と判明している成人でも、血液検査のIgM値の解釈には注意が必要とされ、再活性化の病態であるにもかかわらずIgMの上昇が一部の症例にとどまることも報告されています[1]。そのため、皮疹が典型的でない場合や無疱疹性帯状疱疹が疑われる場合を除き、血液検査の結果を待つよりも、皮疹の見た目や分布から早期に治療を開始することが優先されます。
治療:抗ウイルス薬は「できるだけ早く」が原則
日本皮膚科学会の診療ガイドライン2025は、急性期の帯状疱疹に対する抗ウイルス薬の全身投与を「強く推奨する」(推奨度A)としています[3]。同ガイドラインの解説では、抗ウイルス薬はウイルスDNA合成が盛んな発症早期に最も効果を発揮するため、皮疹出現後72時間(3日)以内が最も適した投与開始時期であるとされています[3]。国立感染症研究所も同様に、抗ウイルス薬は皮疹出現後3日以内に投与がなされることが望ましく、遅くとも5日以内に投与を開始するべきだとしています[1]。同ガイドラインによれば、いずれの抗ウイルス薬の添付文書にも「皮疹出現後5日以内に開始することが望ましい」と記載されており、免疫機能が正常な患者には7日間投与するのが原則とされています[3]。
日本で使用できる抗ウイルス薬について、日本皮膚科学会のガイドラインは、内服薬としてアシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルの4剤を挙げています[3]。同ガイドラインでは用法の目安として、アシクロビルは1回800mgを1日5回7日間、バラシクロビルは1回1,000mgを1日3回7日間、ファムシクロビルは1回500mgを1日3回7日間、アメナメビルは1回400mgを1日1回7日間の内服が示されています[3]。同ガイドラインは、重症の帯状疱疹や、癌・膠原病などの原疾患があり免疫が低下している場合には、入院のうえアシクロビルの点滴静注(1回5mg/kgを1日3回、8時間ごとに7日間)による治療が選択されるとしています[3]。
同ガイドラインは、アシクロビルやバラシクロビルが腎排泄型の薬剤であるため、高齢者や腎機能が低下している患者では血中濃度が上昇し、急性腎不全や中枢神経障害(脳症)を起こす危険があると注意を促しています[3]。一方、同ガイドラインはアメナメビルについて、肝臓で代謝され糞便中から排泄されるため、腎機能の影響を受けにくいとしています[3]。実際にどの薬をどの用量で使うかは、腎機能や併用薬なども踏まえて医師が判断するため、自己判断で薬を選んだり中断したりせず、必ず処方どおりに服用することが重要です。
痛みについては、ガイドラインが抗ウイルス薬の投与に加えて鎮痛治療を並行して行う流れを示しており、急性期の疼痛が強い場合はステロイドの全身投与を併用することで症状を軽減できる場合があるとされています[3]。皮膚症状が治まったあとも痛みだけが残る帯状疱疹後神経痛(PHN)に対しては、三環系抗うつ薬や神経ブロックなどの専門的な痛み治療が行われることがあり、日本皮膚科学会のガイドラインは、激しいPHNには神経ブロックによる治療で症状が軽減されるとして、ペインクリニックの受診も選択肢に挙げています[3]。
合併症が疑われる場合は投与量が変わることもあります。日本皮膚科学会のガイドラインでは、ラムゼイ・ハント症候群の治療の基本も抗ウイルス薬であるとし、経口投与の場合はアシクロビルで1日4,000mg、バラシクロビルで1日3,000mg、ファムシクロビルで1日1,500mgと、通常の帯状疱疹より高用量が示されています[3]。同ガイドラインは、ラムゼイ・ハント症候群の治癒率は自然経過で30%程度、治療を行っても70%前後の報告が多く、同じウイルス性の顔面神経麻痺であるベル麻痺に比べて予後が不良であるとも述べています[3]。同ガイドラインは、眼合併症についても、急性期はアシクロビル眼軟膏の併用が意見の分かれるところとしつつ、眼所見を認める場合は併用が望ましいとし、遷延化した場合はステロイド点眼薬を症状を見ながら漸減する治療が必要になるとしています[3]。
家庭内や職場での感染対策も気になるところです。日本皮膚科学会のガイドラインによれば、帯状疱疹患者の小水疱内には高濃度のVZV粒子が含まれ、痂皮化するまで感染性があり、VZVに対して感受性のある人(水痘にかかったことがなくワクチンも未接種の人)に接触すると水痘として感染を広げるリスクがあり、家族への感染リスクは8.1%とする報告があるとされています[3]。同ガイドラインによれば、免疫が正常な人の限局した帯状疱疹であれば、患部を適切に覆うなどの接触感染対策を行うことで、通常の勤務や通学は可能とされています[3]。ただし同ガイドラインは、保育所や幼稚園では、すべての発疹が痂皮化するまでは免疫のない子どもとの接触を避けるべきだとも注意を促しています[3]。
⚠ 危険なサイン:眼・耳・脳にかかわる合併症と受診の目安
次のような症状があるときは、様子を見ずに、すぐに専門の診療科を受診してください。顔や目のまわりに発疹が出ている、目の痛みや見え方の異常がある、顔のゆがみ(顔面麻痺)や耳の症状(難聴・めまい)がある——これらはいずれも、放置すると視力や聴力に影響が残りかねない合併症のサインです[1]。日本皮膚科学会のガイドラインも、結膜の充血があれば眼科へ、外耳道の水疱や顔面神経麻痺があれば耳鼻科へ、速やかにコンサルテーションを行うことを推奨しています[3]。
| 合併症 | 症状・頻度 | 受診の目安 |
|---|---|---|
| 眼部帯状疱疹(三叉神経第一枝領域) | 結膜炎・角膜炎など。帯状疱疹発症者の1.5〜4%に眼合併症[1]。まれに急性網膜壊死で失明に至ることも[1] | 鼻の頭や鼻すじに発疹がある場合は特に速やかな眼科受診[3] |
| ラムゼイ・ハント症候群 | 耳介・外耳道の帯状疱疹+片側の顔面神経麻痺、難聴やめまい。国内の後方視的検討では顔面神経麻痺症例の成人18.1%がこの症候群と診断[1] | 耳の症状・顔のゆがみがあれば速やかな耳鼻科受診[3] |
| 帯状疱疹後神経痛(PHN) | 皮疹消失後3か月以上痛みが持続。帯状疱疹症例の10〜50%で発症[1] | 痛みが長引く場合は皮膚科・ペインクリニックへ相談[3] |
| 髄膜炎・脳炎、脳梗塞 | 帯状疱疹発症直後1週間の虚血性脳梗塞リスクは2.4倍、心筋梗塞リスクは1.7倍に上昇[1] | 激しい頭痛・意識障害・手足の麻痺があれば直ちに受診 |
出典:国立感染症研究所「帯状疱疹ワクチンファクトシート」第2版[1]/日本皮膚科学会「帯状疱疹診療ガイドライン2025」[3]
国立感染症研究所は、50歳以上の帯状疱疹患者を対象にした英国のコホート研究を引用し、帯状疱疹と診断されてから3か月間のハザード比が、神経合併症(ラムゼイ・ハント症候群を除く)で3.13倍、眼合併症で1.91倍、皮膚合併症で1.55倍に上ると報告しています[1]。また国立感染症研究所は、北海道釧路市で行われた前向き観察研究では、60歳以上の帯状疱疹患者のうち3.4%(27人/800人)が入院を要したとされ、日本のDPCデータに基づく調査では入院患者の入院中死亡率が1.1%であったことも報告しています[1]。帯状疱疹は「痛いだけの皮膚病」ではなく、命や感覚器の機能にかかわる合併症を伴いうる病気であることが、これらの数字からわかります。
国立感染症研究所は、合併症・後遺症として、皮膚病変からの細菌による二次感染、急性期の様々な合併症、長期に持続するPHNなどを挙げています[1]。PHNのなりやすさにも個人差があり、同研究所は、年齢のほかに帯状疱疹発症時の疼痛の程度もPHNの発症に関わるリスク因子であるとしています[1]。実際、SHEZスタディでは帯状疱疹患者の19.7%がPHNを発症し、年齢別では80歳代で32.9%、60歳代で13.6%と、高齢になるほどPHNを発症しやすい傾向が示されています[1]。つまり、痛みが強い急性期をできるだけ早く・確実に治療することが、将来のPHNを防ぐことにもつながると考えられます。
帯状疱疹後神経痛(PHN)——皮膚が治ったあとも続く痛み
国立感染症研究所によれば、PHNは帯状疱疹の代表的な合併症で、皮膚病変が治癒したあとに残存する神経障害性の痛みであり、発症頻度は年齢や症例定義、報告によって異なるものの、帯状疱疹患者の10〜50%で生じるとされています[1]。同研究所は、加齢がPHNの重要なリスク因子であり、年齢のほか帯状疱疹発症時の疼痛の程度もPHNの発症に関わるとしています[1]。また同研究所は、PHNの罹患率(1,000人あたり年間)が全体で2.1(男性1.7、女性2.4)であったと報告する調査も紹介しています[1]。同研究所によれば、PHNは帯状疱疹発症後期の知覚神経の損傷により起こると考えられており、抗ウイルス薬をより早期に投与開始することがPHNの発症予防につながるとされています[1]。
PHNに対する薬物療法について、日本皮膚科学会のガイドラインは、慢性疼痛診療のガイドラインでカルシウムチャネルα2δリガンドであるプレガバリン、ガバペンチン、ミロガバリンが神経障害性疼痛の治療薬として推奨されているとしています[3]。同ガイドラインが紹介する報告では、急性期帯状疱疹に対してアシクロビルとプレガバリンを併用した群は、アシクロビル単独群より有意差をもって疼痛が改善したとされています[3]。同ガイドラインはまた、一部の三環系抗うつ薬の投与によってもPHNの軽減効果が認められているとし、激しいPHNには神経ブロックによる治療で症状が軽減される場合があるとしています[3]。これらの薬剤はいずれも医師の判断で用量や併用が調整されるものであり、市販薬などで自己対応せず、痛みが長引く場合は皮膚科やペインクリニックに相談することが重要です。
眼部帯状疱疹——三叉神経第一枝領域と失明リスク
日本皮膚科学会のガイドラインによれば、帯状疱疹の合併症は発症部位の近傍にある臓器に生じやすく、三叉神経第一枝(眼神経)領域に生じた眼部帯状疱疹では眼合併症に注意が必要とされています[3]。同ガイドラインは、鼻背部・鼻尖部に皮疹が及ぶと結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎など高率に眼合併症を生じるとしており、これは鼻毛様体神経が侵されているサイン(Hutchinson徴候)として知られています[3]。国立感染症研究所も、帯状疱疹発症者の1.5〜4%に眼合併症が生じ、結膜炎や角膜炎が多いものの、まれに急性網膜壊死を生じて失明に至ることもあると報告しています[1]。
眼部帯状疱疹の治療について、日本皮膚科学会のガイドラインは、急性期のアシクロビル眼軟膏の併用については意見が分かれるとしつつ、眼局所でアシクロビル眼軟膏は非常に高い濃度を保つことができるため、眼所見を認める場合は併用が望ましいとしています[3]。同ガイドラインは、急性期帯状疱疹痛を緩和させる目的や皮疹の早期改善のためにステロイド点眼・外用が一般的に行われているとする一方、眼局所でのアシクロビル眼軟膏とステロイド点眼薬の併用により年余にわたる治療が必要となることもあるとしています[3]。眼のまわりの発疹や目の痛み・見え方の異常に気づいたら、自己判断で様子を見ず、速やかに眼科を受診することが視力を守るうえで欠かせません。
ラムゼイ・ハント症候群——顔面神経麻痺と難聴・めまい
日本皮膚科学会のガイドラインによると、耳介部の帯状疱疹から膝神経節に及ぶ再活性化により顔面神経麻痺が発現すると、耳介部の帯状疱疹・顔面神経麻痺・内耳障害(めまい、難聴、耳鳴)を三主徴とするラムゼイ・ハント(Ramsay Hunt)症候群となり、口腔粘膜や口蓋などに粘膜疹を伴うこともあるとされています[3]。同ガイドラインは、顔面神経麻痺・第VIII脳神経症状・耳介帯状疱疹の三主徴がそろうのは58%にとどまり、耳介の帯状疱疹は19%が顔面神経麻痺に先行し、34%が後発すると報告する調査を紹介しています[3]。国立感染症研究所も、国内の後方視的検討で顔面神経麻痺症例の成人18.1%がこの症候群と診断されたと報告しています[1]。
日本皮膚科学会のガイドラインは、ラムゼイ・ハント症候群の治癒率が自然経過ではおよそ30%程度であるのに対し、治療を行うとおよそ70%前後まで改善するとする報告が多いとしており、同じウイルス性の顔面神経麻痺であるベル麻痺に比べて予後が不良であるとも述べています[3]。同ガイドラインは、治療の主体は耳鼻咽喉科であり、顔面神経麻痺の改善を目的にステロイドの全身投与が行われるとしています[3]。神経障害が高度になると、顔面神経麻痺の後遺症だけでなく聴力の低下が残ることもあるため、耳の症状や顔のゆがみに気づいたら様子を見ずすぐに受診することが治療成績を左右します。
予防:帯状疱疹ワクチンと2025年度からの定期接種
厚生労働省は、2025年度(令和7年度)から、帯状疱疹ワクチンを予防接種法に基づく定期接種(B類疾病)として実施すると発表しています[2]。厚生労働省によれば、定期接種の対象者は、①その年度内に65歳を迎える方、②60〜64歳でヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能の障害があり日常生活がほとんど不可能な方、の2区分です[2]。さらに厚生労働省は、令和7年度から5年間の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳になる方も対象に含まれ、令和7年度に限っては100歳以上の方は全員が対象になるとしています[2]。
厚生労働省のリーフレットによると、日本で使用できる帯状疱疹ワクチンには「生ワクチン(阪大微研)」と「組換えワクチン(GSK社)」の2種類があり、接種方法・回数・効果の持続期間・副反応の特徴がそれぞれ異なりますが、いずれも帯状疱疹やその合併症に対する予防効果が認められているとされています[2]。同省の資料によれば、生ワクチンは皮下に1回接種するのに対し、組換えワクチンは筋肉内に2回(2か月以上の間隔)接種する必要があり、免疫の低下している方には生ワクチンは接種できないが、組換えワクチンは免疫の状態に関わらず接種可能という違いがあります[2]。
| 比較項目 | 生ワクチン(阪大微研) | 組換えワクチン(GSK社) |
|---|---|---|
| 接種方法 | 皮下に接種 | 筋肉内に接種[2] |
| 接種回数 | 1回 | 2回(2か月以上の間隔)[2] |
| 接種条件 | 免疫の低下している方は接種不可 | 免疫の状態に関わらず接種可能[2] |
| 予防効果(接種後1年時点) | 6割程度 | 9割以上[2] |
| 予防効果(接種後5年時点) | 4割程度 | 9割程度[2] |
| 予防効果(接種後10年時点) | データなし | 7割程度[2] |
| PHNへの効果(接種後3年時点) | 6割程度 | 9割以上[2] |
出典:厚生労働省「帯状疱疹ワクチンの定期接種を実施します」(2025年11月)[2]
副反応については、厚生労働省が各社添付文書をもとに整理した資料によると、組換えワクチンでは疼痛が70%以上の頻度で見られるほか、発赤・筋肉痛・疲労・頭痛・腫脹・悪寒などが30%以上の頻度で報告されており、生ワクチンでは発赤やそう痒感、熱感が30%以上の頻度で見られるとされています[2]。厚生労働省は、頻度は不明であるものの、生ワクチンではアナフィラキシーや血小板減少性紫斑病、無菌性髄膜炎が、組換えワクチンではショックやアナフィラキシー、ギラン・バレー症候群が報告されていることも明記しています[2]。厚生労働省は、極めてまれではあるものの副反応による健康被害をなくすことはできないとして、予防接種健康被害救済制度が設けられていると案内しています[2]。
ワクチンの安全性について、厚生労働省は同時接種にも言及しています。厚生労働省によれば、医師が特に必要と認めた場合には、インフルエンザワクチンや新型コロナワクチンなどとの同時接種が可能であり、生ワクチンについては、他の生ワクチンとは27日以上の間隔を置いて接種するよう案内されています[2]。費用や接種できる医療機関、申し込み方法は市町村ごとに異なるため、厚生労働省は「お住まいの市町村にお問い合わせください」としています[2]。定期接種の対象年齢を過ぎたあとに任意接種として受ける場合の自己負担額の目安は、次の章でまとめています。
妊娠中や授乳中の方への対応について、今回参照した厚生労働省・国立感染症研究所の資料には、帯状疱疹ワクチン接種そのものの可否に関する具体的な記載は見当たりませんでした。一方、帯状疱疹そのものにかかった場合の治療薬については、日本皮膚科学会のガイドラインが、妊婦・授乳婦への抗ウイルス薬投与に大きな問題はなく、安全に使用可能であるとしています[3]。同ガイドラインが紹介するデンマークの大規模調査でも、妊娠中に抗ウイルス薬を内服した母親から生まれた児で先天異常のリスクが有意に増加したという結果は示されていません[3]。ただし、実際の投薬や接種の判断は個々の状態によって異なるため、妊娠中・授乳中の方や持病のある方は、自己判断せず必ず産科医・かかりつけ医に相談してください。
生活上の注意:うつさない工夫と受診・休養の目安
帯状疱疹は、水痘にかかったことがある人からほかの帯状疱疹患者や水痘患者にうつることは基本的にありませんが、水痘にかかったことがない人や水痘ワクチン未接種の人には水痘としてうつる可能性があります。日本皮膚科学会のガイドラインによれば、帯状疱疹患者の小水疱内には高濃度のVZV粒子が含まれ、痂皮化するまで感染性があり、家族への感染リスクは8.1%であるとする報告があるとされています[3]。同ガイドラインは、帯状疱疹患者は発症部位に関わらず唾液中にもVZV-DNAが検出されることがあるとし、水疱が完全にかさぶたになるまでは接触感染対策を講じる必要があるとしています[3]。
感染対策の基本は、患部を清潔なガーゼや衣服で覆い、水疱を触ったり潰したりしないことです。国立感染症研究所は、感染のリスクが高い者として、妊娠中の女性、VZVに対する免疫を持たない母親から生まれた新生児、免疫不全者を挙げています[1]。同研究所は、妊娠中に妊婦が水痘を発症すると経胎盤経路で胎児がVZVに感染する場合があると説明しており、帯状疱疹患者の家庭に妊婦や新生児、免疫不全者がいる場合は特に接触を避ける配慮が必要です[1]。
入浴や仕事・通学については、日本皮膚科学会のガイドラインによれば、免疫が正常な人の限局した帯状疱疹であれば、患部を適切に覆うなどの接触感染対策を行うことで通常の勤務や通学は可能とされています[3]。入浴時にはシャワーで患部を清潔に保ちつつ、水疱を強くこすらないようにし、湯船を共有する家族がいる場合はタオルを別にするなどの配慮をするとよいでしょう。ただし同ガイドラインは、保育所や幼稚園では、すべての発疹が痂皮化するまでは免疫のない子どもとの接触を避けるべきだとも注意を促しています[3]。学校においても、帯状疱疹は学校感染症第三種に位置づけられ、症状に応じて出席停止の判断がなされる場合があります[3]。
体を休めることも回復を後押しします。帯状疱疹は疲労やストレスによる免疫低下がきっかけで再活性化することが知られているため、発症中はできるだけ十分な睡眠と休養をとり、無理な仕事や運動は控えることが望まれます。強い痛みがある間は、処方された鎮痛薬を医師の指示どおりに使い、痛みを我慢し続けないことも大切です。
日本と米国のワクチン接種基準の違い
帯状疱疹ワクチンの接種対象年齢は、国によって基準が異なります。厚生労働省の定期接種は、原則として「その年度内に65歳を迎える方」を対象としており、令和7年度からの経過措置を含めても対象は60歳以上の一部の方に限られています[2]。一方、米国疾病予防管理センター(CDC)は、2024年7月に改訂した勧告の中で、「CDCは50歳以上の成人に対し、帯状疱疹とその関連合併症を予防するため組換え帯状疱疹ワクチン(RZV)の2回接種を推奨する」とし、免疫不全・免疫抑制状態にある19歳以上の成人に対しても2回接種を推奨しています[4]。
| 比較項目 | 日本(厚生労働省 2025年度〜) | 米国(CDC/ACIP 2024年7月) |
|---|---|---|
| 定期接種の対象年齢 | 原則65歳以上(経過措置で60〜64歳の一部も対象)[2] | 50歳以上のすべての成人に接種を推奨[4] |
| 免疫不全者への対応 | 60〜64歳のHIVによる免疫機能障害者のみ定期接種の対象[2] | 19歳以上の免疫不全・免疫抑制状態にある成人に2回接種を推奨[4] |
日本と米国の間には、対象年齢の下限に15年の開きがあります。この違いが生じる背景には、対象人口の規模や医療財政、費用対効果の評価方法など複数の要因が関係していると考えられますが、今回参照した一次資料の範囲では、両国の基準の違いが生じた理由そのものについての詳しい記載は見当たりませんでした。50歳代・60歳代前半の方で帯状疱疹の既往やリスク因子が気になる場合は、定期接種の対象年齢を待たずに、任意接種として医師に相談することも選択肢になります。
医療費の目安
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
よくある質問(FAQ)
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帯状疱疹の重症度や治療への反応には個人差があり、基礎疾患の有無や免疫状態によっても経過は大きく異なります。今回参照した資料の範囲では、すべての患者に共通する「治るまでの正確な日数」を一律に示すことはできず、症状が長引く場合や再発を繰り返す場合の見通しについても、現時点で確定的な結論が出ているわけではありません。気になる症状がある場合は、この記事の内容を参考にしつつ、必ず医師の診察を受けてください。
参考文献
- 国立感染症研究所「帯状疱疹ワクチンファクトシート」第2版(令和6年6月20日改訂、令和6年11月1日一部修正) mhlw.go.jp/content/10900000/001328135.pdf ↩
- 厚生労働省「帯状疱疹ワクチンの定期接種を実施します。」(2025年11月) mhlw.go.jp/content/10900000/001601105.pdf ↩
- 日本皮膚科学会「帯状疱疹診療ガイドライン2025」日本皮膚科学会雑誌135巻3号 527-556頁(2025年) dermatol.or.jp/uploads/…/Taijouhoushin2025.pdf ↩
- 米国疾病予防管理センター(CDC)「Shingles Vaccine Recommendations」(2024年7月26日改訂) cdc.gov/shingles/hcp/vaccine-considerations ↩
- 厚生労働省「帯状疱疹ワクチン」政策ページ mhlw.go.jp(帯状疱疹ワクチン)
