胃潰瘍
最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)
✦ 結論から言うと
胃潰瘍は、胃酸や消化酵素が胃の壁を深く傷つけてできる病気で、多くはヘリコバクター・ピロリ菌の除菌に成功すれば治ります[1]。日本消化器病学会のガイドによると、内服薬による治療では通常6〜8週間で潰瘍は治癒します[1]。日本消化器病学会によると、出血や穿孔を起こすと命に関わり、2017年には全国で約2,513人が消化性潰瘍で亡くなっています[1]。吐血・黒色便・突然の激しい腹痛があれば、様子を見ずに119番してください。
| 主な原因 | ヘリコバクター・ピロリ菌感染、痛み止め(NSAIDs)の使用が2大原因[1] |
|---|---|
| 主な症状 | みぞおちの鈍い痛み、食後や空腹時の胃痛、胸やけ、吐き気[1] |
| 受診の目安 | 吐血・黒色便・激しい腹痛は直ちに救急、鈍い痛みが続くなら消化器内科へ[1] |
胃潰瘍とは?原因と症状が出る仕組み
胃潰瘍は、食物を分解するはたらきをもつ胃酸や消化酵素が胃の壁を深く傷つけてしまうことによって起こる病気です。胃の粘膜が削れて穴が開きそうな状態になったものが潰瘍で、日本消化器病学会は「粘膜が削れてしまい、穴が開きそうな状態になったのが潰瘍です」と説明しています[1]。日本消化器病学会のガイドでは、国内の患者数は年々減少していますが、出血などの合併症で命に関わることもあると述べられています[1]。
私たちの胃の中では、食べたものを消化し侵入した細菌を殺すために胃酸や消化酵素を含んだ胃液が分泌されます。同時に、胃酸から自分の胃粘膜を守るための粘液も分泌されており、この「攻撃因子」と「防御因子」のバランスが崩れると潰瘍ができやすくなると日本消化器病学会は説明しています[1]。日本消化器病学会は、ピロリ菌に感染すると胃粘膜に炎症が起こり、粘膜を守る粘液の分泌が低下するため胃酸に対して弱くなり、そこから潰瘍が進んでいくと説明しています[1]。同ガイドによれば、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)も粘膜を保護する物質(プロスタグランジン)のはたらきを抑えるため、粘膜を守る力を弱めてしまいます[1]。MSDマニュアル家庭版によると、潰瘍は乳児期や小児期を含めあらゆる年齢で発生しますが中年の成人に最も多くみられ、十二指腸潰瘍がある小児の約50〜60%では家族に消化性潰瘍の患者がいるとされています[2]。胃炎(胃の炎症)が進行して潰瘍になることもあるとMSDマニュアル家庭版は補足しています[2]。潰瘍の大きさは数ミリメートルから数センチメートルまでさまざまで、胃の一部を手術で切除した後につなぎ直した部分にできる吻合部潰瘍や、重度の病気・皮膚の熱傷(やけど)・損傷などの強いストレスの結果として生じるストレス性潰瘍のように、できる状況によって固有の名前で呼ばれる潰瘍もあるとMSDマニュアル家庭版は説明しています[2]。
MSDマニュアル家庭版も同様に、潰瘍が生じるのは胃の粘膜がもつ正常な防御・修復のしくみが弱まり、粘膜が胃酸による損傷を受けやすくなった場合であると説明しており、日本のガイドラインの考え方と一致しています[2]。
患者数の推移をみると、厚生労働省の2017年度調査では、胃潰瘍の患者数はおよそ2万人、十二指腸潰瘍の患者数はおよそ3,300人と推定されています[1]。日本消化器病学会によれば、いずれも年々減少しており、胃潰瘍は最も患者数が多かった1984年ごろの約5分の1、十二指腸潰瘍は約10分の1にまで減っています[1]。日本消化器病学会は、この背景としてピロリ菌の感染者数が減ってきたことと、除菌治療が普及して消化性潰瘍の発症や再発が抑えられるようになったことを挙げています[1]。その一方で、高齢化により脳心血管疾患の予防などでNSAIDsを服用する患者が増え、薬剤性潰瘍の割合が高まっていること、薬剤もピロリ菌も伴わない特発性潰瘍が約1割に増えていると考えられていることも報告されています[1]。
胃潰瘍の症状:痛みのパターンと危険サイン
胃潰瘍ができると、お腹の上やみぞおちのあたりに鈍い痛みや嘔吐、吐き気を感じることが多いと日本消化器病学会は報告しています[1]。日本消化器病学会によると、潰瘍ができる部位によっても症状は異なり、胃潰瘍では食後に痛みを感じることがある一方、十二指腸潰瘍では夜間や空腹時に痛みを感じることがあります[1]。MSDマニュアル家庭版も、胃潰瘍の痛みには十二指腸潰瘍のような一定のパターンがなく、食事をすると痛みが和らぐこともあれば逆に強まることもあると述べています[2]。
日本消化器病学会のガイドでは、潰瘍から出血すると血液が混じった黒い便(黒色便・タール便)が出たり、出血が多量の場合には血液をそのまま嘔吐する吐血が起こることがあると説明されています[1]。同ガイドは、出血が長引くと、めまいや動悸といった貧血の症状があらわれることもあると注意を促しています[1]。なお、日本消化器病学会は、小児・高齢者やNSAIDsが原因の潰瘍がある人では自覚症状が全くない場合もあると注意を促しています[1]。MSDマニュアル家庭版によれば、典型的な潰瘍は治癒と再発を繰り返す傾向があり、痛みが数日または数週間続いてから徐々に弱まったり消えたりした後、再び潰瘍が現れて痛みが再発することがあるとされています[2]。特に十二指腸潰瘍では、目覚めたときには痛みがなく午前中に症状が現れる、食事や制酸薬でいったん軽減しても2〜3時間後に再び痛み出すといったパターンがみられやすく、しばしば経験から再発しやすい時期がわかるようになるとMSDマニュアル家庭版は説明しています[2]。
| 項目 | 胃潰瘍 | 十二指腸潰瘍 |
|---|---|---|
| 痛みが出やすい時間 | 食後[1] | 夜間・空腹時[1] |
| 食事との関係 | 食後に痛みが強まることもあれば軽くなることもある(一定のパターンなし)[2] | 食事や制酸薬でいったん軽減し、2〜3時間後に再び痛むパターンが多い[2] |
| 好発年齢 | 中年以降に多い[2] | 消化性潰瘍の中で最も一般的[2] |
| ピロリ菌陽性率 | 30〜50%[2] | 50%以上[2] |
出典:日本消化器病学会「患者さんとご家族のための消化性潰瘍ガイド2023」[1]/MSDマニュアル家庭版「消化性潰瘍」[2]
原因:ピロリ菌・NSAIDs・喫煙とストレスの関係
日本消化器病学会は、消化性潰瘍の原因は「その多くがピロリ菌の感染によるもので、次に多いのが痛み止めの薬(非ステロイド性抗炎症薬)によるもの」と説明しています[1]。喫煙やストレスが直接の原因になると思われがちですが、日本消化器病学会は一般的な生活でのストレスや喫煙そのものが潰瘍の原因になるという根拠はないとしています[1]。ただし、ピロリ菌に感染している人では、喫煙やストレスにより潰瘍になりやすくなることがわかっています[1]。
MSDマニュアル家庭版も、ピロリ菌感染は十二指腸潰瘍の人の50%以上、胃潰瘍の人の30〜50%にみられ、NSAIDsの使用は消化性潰瘍の50%以上で原因となっていると報告しています[2]。喫煙者は非喫煙者より潰瘍ができやすく、治癒も遅く、再発しやすいとされる一方、飲酒量がそれほど多くなければアルコールが潰瘍の発生や治癒の遅れに関係するという証拠はないとMSDマニュアル家庭版は述べています[2]。この点については、今回参照した資料の間で「大量飲酒の影響」についての明確な数値基準は示されていませんでした。
| 原因 | 体に起こること | 対策 |
|---|---|---|
| ヘリコバクター・ピロリ菌 | 粘膜に炎症を起こし、粘液の分泌を低下させ酸に弱くする[1] | 除菌治療(保険適用)[1] |
| NSAIDs(痛み止め・アスピリン含む) | 粘膜保護物質プロスタグランジンのはたらきを抑える[1] | 主治医に相談し酸分泌抑制薬を併用[1] |
| 喫煙 | ピロリ菌感染者では潰瘍になりやすくなる[1] | 禁煙[1] |
| 強いストレス | 大規模災害時など強いストレスでの潰瘍報告あり[1] | ストレス解消・体調管理[1] |
出典:日本消化器病学会「患者さんとご家族のための消化性潰瘍ガイド2023」[1]
診断の目安となる数値・検査
胃痛や腹痛から消化性潰瘍が疑われたら、日本消化器病学会のガイドではまず内視鏡検査やバリウム検査(X線造影検査)によって潰瘍の有無を確認するとされています[1]。日本消化器病学会によれば、最近は内視鏡検査を行うことが多く、とくに出血が疑われる場合は緊急に内視鏡検査を行い、必要に応じて止血処置を行います[1]。同ガイドでは、内視鏡検査には口から入れる経口内視鏡のほか、嘔吐反射が少なく負担が軽いとされる経鼻内視鏡がありますが、経鼻内視鏡では止血処置はできないと説明されています[1]。検査前は12時間以上絶食(水・お茶は可)とし、問診の後にのどまたは鼻の局所麻酔をして内視鏡を挿入します。内視鏡検査では病変部位から組織を採取し、顕微鏡による病理診断で良性・悪性(がん)の確認を行うこともできると日本消化器病学会は説明しています[1]。バリウム(造影剤)を飲んで体を動かし、胃壁の凹凸をX線で描き出すバリウム検査(X線造影検査)では、潰瘍で粘膜が欠損してくぼんだ部位にバリウムが入り込むことで確認できますが、異常が指摘されたときは後日改めて内視鏡検査で詳しく調べる必要があるとされています[1]。
MSDマニュアル家庭版は、特に数週間治療をしても症状が消えない場合や、60歳以上の人・体重減少などの他の症状がある人に初めて潰瘍症状が生じた場合は、胃がんでも同様の症状が起こり得るため検査が必要になると述べています[2]。ゾリンジャー・エリソン症候群のように、胃酸の過剰分泌を引き起こすホルモン(ガストリン)を放出するまれな腫瘍が原因となることもあり、この場合は血液検査でガストリン量を測定します[2]。
日本消化器病学会によると、ピロリ菌感染の診断には、患者の負担が軽い非侵襲的検査法と、内視鏡検査時に行う侵襲的検査法の2つがあります[1]。
| 区分 | 検査方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 非侵襲的検査(内視鏡不要) | 抗体検査(血液・尿) | 簡便[1] |
| 非侵襲的検査 | 尿素呼気試験 | 除菌治療後の評価に有用、精度が高い[1] |
| 非侵襲的検査 | 便中抗原検査 | 除菌治療後の評価に有用、精度が高い[1] |
| 侵襲的検査(内視鏡時) | 迅速ウレアーゼ試験 | 簡便、迅速な診断が可能[1] |
| 侵襲的検査 | 培養検査 | 抗菌薬の効果予測が可能、判定に時間がかかる[1] |
| 侵襲的検査 | 組織鏡検法・核酸増幅法 | 直接的な確認、クラリスロマイシン感受性の確認が可能[1] |
出典:日本消化器病学会「患者さんとご家族のための消化性潰瘍ガイド2023」[1]
除菌治療後の評価は、正確性が高いことから尿素呼気試験や便中抗原検査が推奨されており、除菌治療から4週間以上経ってから行います[1]。同ガイドでは、血液の抗体検査でも確認できますが、こちらは除菌治療から6ヵ月以上経ってから、除菌前の数値と比較して判定するとされています[1]。日本消化器病学会は、酸分泌抑制薬や抗菌薬を検査の2週間以内に内服していると検査方法によっては正しい診断ができないため、主治医に内服薬を確認してもらうことが重要だとしています[1]。
治療:除菌療法と酸分泌抑制薬(PPI/P-CAB)
日本消化器病学会によると、消化性潰瘍の基本的な治療は内服薬による治療で、胃酸の分泌を抑えたり胃粘膜の防御機能を高める薬が用いられます[1]。通常、薬を飲み始めてから6〜8週間で潰瘍は治癒しますが、暴飲暴食を避ける、喫煙やアルコールを控える、ストレス解消に努めるなど日常生活全般の改善も重要だと日本消化器病学会は述べています[1]。
ピロリ菌が見つかった場合には、適切なタイミングで除菌治療を受けることが勧められます。日本消化器病学会は、除菌に成功すると潰瘍の再発が防止されるためだと説明しています[1]。同ガイドでは、最初の除菌治療(一次除菌)はプロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)と2種類の抗生物質(アモキシシリン、クラリスロマイシン)を7日間内服し、成功率は70〜90%程度と報告されています[1]。日本消化器病学会によれば、1回目で除菌できない場合は薬を変更した二次除菌(PPI/P-CAB・アモキシシリン・メトロニダゾール7日間)を行い、成功率は約90%で、2回の治療により97〜99%程度の人が除菌に成功するとされています[1]。同ガイドでは、二次除菌でメトロニダゾールを服用する期間は、副作用が出やすくなるため飲酒が禁じられていると注意されています[1]。日本消化器病学会によると、除菌後にピロリ菌が再陽性となる再感染はまれで、年間2%以下とされています[1]。
MSDマニュアル家庭版によると、米国では2つの抗菌薬に次サリチル酸ビスマスとプロトンポンプ阻害薬を併用する4剤併用療法、または次サリチル酸ビスマスを用いない3剤併用療法が用いられており、使用する抗菌薬にはアモキシシリン、クラリスロマイシン、メトロニダゾール、テトラサイクリンなどが挙げられています[2]。日本では一次除菌にPPI/P-CAB+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤併用療法(7日間)が標準として使われており[1]、次サリチル酸ビスマスを含む4剤併用療法は、日本の一次除菌の標準治療としては用いられていません。どちらの国でも抗菌薬2種と酸分泌抑制薬を組み合わせる考え方は共通していますが、使用する薬剤の組み合わせ方に違いがあります。
酸分泌抑制薬にはプロトンポンプ阻害薬(PPI)とヒスタミンH2受容体拮抗薬があり、MSDマニュアル家庭版によれば、プロトンポンプ阻害薬はH2受容体拮抗薬と比較してより多くの人でより短期間に潰瘍の治癒を促進するため、通常はH2受容体拮抗薬よりもよく使用されるとされています[2]。また、胃酸の生産を妨げるのではなく中和する制酸薬(炭酸カルシウムなどを含む液体や錠剤)を使うこともあり、大半の患者では治療が4〜8週間続けられます[2]。手術が潰瘍そのものに対して必要になることは現在ではまれですが、これは消化性潰瘍を薬剤で効果的に治療でき、活動性の出血も内視鏡による処置で効果的に止血できるためです[2]。MSDマニュアル家庭版は、手術が主に必要となる場面として、穿孔が生じた場合、閉塞で薬剤の効果がみられない場合や再発した場合、潰瘍からの大出血が2回以上発生した場合、がんが疑われる胃潰瘍、消化性潰瘍が重度でしばしば再発する場合を挙げています[2]。
胃潰瘍は治る病気なのかという疑問について、日本消化器病学会は、消化性潰瘍の原因はピロリ菌感染によるものと薬剤によるものが2大原因であり、ピロリ菌感染によるものではピロリ菌の除菌に成功すれば治ることがほとんどだと説明しています[1]。薬剤性消化性潰瘍の場合には、原因となっている薬剤を休薬できれば治りますが、休薬できない場合もあり、そのような場合には胃酸を抑制する薬などにより潰瘍ができにくくなるようにする治療を行うとされています[1]。近年は薬剤もピロリ菌も伴わない特発性潰瘍も増加傾向にあり、この場合も酸分泌抑制薬による治療が中心となります[1]。
| 段階 | 薬剤 | 期間 | 成功率 |
|---|---|---|---|
| 一次除菌 | PPI/P-CAB+アモキシシリン+クラリスロマイシン | 7日間 | 70〜90%[1] |
| 二次除菌 | PPI/P-CAB+アモキシシリン+メトロニダゾール | 7日間 | 約90%(累積97〜99%)[1] |
| 三次除菌以降 | 保険診療の対象外(自費診療)[1] | ― | ― |
出典:日本消化器病学会「患者さんとご家族のための消化性潰瘍ガイド2023」[1]
除菌治療による副作用の多くは軽い軟便程度ですが、薬疹や重い下痢がみられた場合は速やかに主治医に相談するよう日本消化器病学会は呼びかけています[1]。日本消化器病学会は、腹痛が良くなったからといって自己判断で薬をやめるのは危険で、非ステロイド性抗炎症薬やアスピリンを服用する場合はPPIまたはP-CABの服用継続が必要だとしています[1]。
出血・穿孔:命に関わる危険サイン
消化性潰瘍の合併症には、潰瘍からの出血や、潰瘍が深くなって胃や十二指腸の壁に穴があく穿孔があり、これらはいずれも命に関わるため早急な処置が必要だと日本消化器病学会は警告しています[1]。実際、日本消化器病学会の集計では、主として出血や穿孔に伴い2017年でも2,513人が消化性潰瘍で亡くなっています[1]。
日本消化器病学会によると、出血が起こると吐血や黒色便(タール便)が出現し、高度の出血の場合には内視鏡で止血治療を行います[1]。同ガイドでは、潰瘍が進行して穿孔すると、胃や十二指腸の中の胃酸や消化液がお腹にもれ、強い腹痛とともに腹膜炎を発症すると説明されています[1]。日本消化器病学会は、この場合、入院して絶食・点滴による治療や、穴をふさぐ緊急手術が必要になるとしています[1]。MSDマニュアル家庭版も、穿孔では急に強い痛みが生じて持続し、痛みが腹部全体に広がり、片方または両方の肩に痛みを感じることがあると説明しており、治療しないとショック状態になることがあるとしています[2]。高齢者やコルチコステロイド・免疫抑制薬を服用している人、重い病気がある人では、穿孔の症状が軽い場合があるとも述べられています[2]。
これら以外にも、MSDマニュアル家庭版は潰瘍が胃や十二指腸の筋層を通過して肝臓や膵臓などの隣接臓器に及ぶ「穿通」、潰瘍周囲の炎症で胃の出口や十二指腸が狭くなる「閉塞」を、命を脅かす可能性がある合併症として挙げています[2]。穿通では刺すような強い持続性の痛みが、穿通した部位と異なる場所(例えば十二指腸潰瘍が膵臓に及んだ場合は背部)に感じられることがあり、閉塞では繰り返す嘔吐や食後の異常な満腹感、腹部膨満が起こり、時間の経過とともに体重減少や脱水を招くことがあるとされています[2]。さらに、ヘリコバクター・ピロリによる潰瘍がある人では、後に胃がんを発症する可能性が3〜6倍高くなるとMSDマニュアル家庭版は報告しており、他の原因で生じた潰瘍ではこのリスクの上昇はみられないとされています[2]。日本消化器病学会も、潰瘍を繰り返すと胃や十二指腸が狭くなる合併症が生じ、その場合にも手術が必要となることがあると述べています[1]。
🚦受診の目安:吐血・コーヒーかす様の嘔吐・黒色便・突然の激しい腹痛・冷や汗・意識がもうろうとする場合は直ちに119番してください[1]。同ガイドでは、黒っぽい便が続く、立ちくらみや動悸があるなど貧血が疑われる場合、または食後の腹痛が数日〜数週間続き薬で治まらない場合は、早めに消化器内科を受診するよう勧められています[1]。受診科は消化器内科・消化器外科が目安で、夜間や休日の緊急時は救急外来を利用するようにしてください[1]。
医療費の目安
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
ヘリコバクター・ピロリ感染症に係る検査は、内視鏡検査または造影検査で胃潰瘍・十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者など、感染が疑われる患者に限り保険適用となります[4]。厚生労働省の通知により、2013年2月21日以降は胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者に加え、内視鏡検査で胃炎の確定診断がなされた患者にも除菌治療の保険適用が拡大されています[4]。
| 対象 | 条件 |
|---|---|
| ① | 内視鏡検査または造影検査で胃潰瘍・十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者[4] |
| ② | 胃MALTリンパ腫の患者[4] |
| ③ | 特発性血小板減少性紫斑病の患者[4] |
| ④ | 早期胃癌に対する内視鏡的治療後の患者[4] |
| ⑤ | 内視鏡検査で胃炎の確定診断がなされた患者[4] |
出典:厚生労働省保険局医療課長通知「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」の一部改正について(保医発0221第31号)[4]
食事・生活の注意点と再発予防
消化性潰瘍と診断されたら、日本消化器病学会は次の3つに気をつけることを勧めています[1]。①処方された薬をきちんと服用する:日本消化器病学会によれば、治癒までに通常6〜8週間かかるため、自覚症状が改善しても一定期間服用を続ける必要があります[1]。②悪化する要因を取り除く:同ガイドは、喫煙、過度の飲酒、睡眠不足、強いストレスは消化性潰瘍が悪化する原因になるため、禁煙や体調管理が大切だとしています[1]。③合併症(出血や穿孔)に注意する:日本消化器病学会は、多量の出血による吐血や下血、めまいや動悸といった貧血症状、激しい腹痛が出た場合は昼夜を問わずすぐに受診することが必要だとしています[1]。
MSDマニュアル家庭版は、刺激の少ない食事が胃酸の分泌を抑えるのに役立つことはあるものの、そうした食事で胃潰瘍の治癒が早まったり再発を予防できるという証拠はないとしています[2]。とはいえ、痛みや膨満を悪化させると考えられる食べ物を避けることは妥当であり、NSAIDsやアルコール、ニコチンなど胃を刺激する可能性のある物質を避けることも大切だとされています[2]。
再発予防のポイント:もしピロリ菌が陽性であれば、除菌治療を受けることで、その後は長期にわたる潰瘍治療が不要になると考えられています[1]。もしNSAIDsの服用を続ける必要があれば、酸分泌抑制薬(PPI・P-CAB)の併用やプロスタグランジン製剤による粘膜保護、あるいはCOX-2選択的阻害薬への変更が潰瘍の予防に有効とされています[1]。もし脳卒中や心筋梗塞の再発予防で少量のアスピリンを長期に服用しており、以前に消化性潰瘍になったことがあれば、アスピリンによる潰瘍再発のリスクが高いとされ、PPIまたはP-CABの併用が再発予防に有効とされています[1]。
ピロリ菌除菌による胃がん予防効果について、国立がん研究センターの研究班が日本人を対象とした19件の疫学研究を統合したメタ分析を行った結果、除菌群では非除菌群に比べて胃がん罹患リスクが0.42(95%信頼区間:0.35〜0.51)と有意に低下したと報告されています[3]。胃がんに罹患したことのない健常人を対象とした10件の研究に限定した分析でも、除菌群の胃がん罹患リスクは0.34(95%信頼区間:0.25〜0.46)と有意に低下しており、国立がん研究センターはこの科学的根拠を「確実」と結論づけています[3]。一方、MSDマニュアル家庭版は、ヘリコバクター・ピロリによる潰瘍がある人では後に胃がんを発症する可能性が3〜6倍高くなると述べています[2]。ただし国立がん研究センターは、ピロリ菌を除菌しても胃がんになる可能性がゼロにはならず、除菌をしても胃がんになる人は一定数いるため、除菌後も胃内視鏡検査を受けることが大切だとしています[5]。
国立がん研究センターによると、胃がんのがん検診(住民検診)の対象者は男女ともに50歳以上で、検診の間隔は2年に1回とされ、内容は問診と胃部X線検査(バリウム検査)または胃内視鏡検査(胃カメラ)です[5]。検査結果が「要精密検査」となった場合は必ず精密検査(胃内視鏡検査)を受けることが勧められています[5]。なお、当分の間、胃部X線検査は40歳以上の人を対象に1年に一度実施してもよいとされています[5]。気になる症状があるときは、検診の時期を待たずに医療機関を受診するよう案内されています[5]。
よくある質問(FAQ)
胃潰瘍は自然に治りますか?薬をやめてもいいですか?
ピロリ菌の除菌治療は何日で終わりますか?
一次除菌に失敗したらどうなりますか?
黒い便が出たらすぐ病院に行くべきですか?
胃潰瘍と十二指腸潰瘍はどう違いますか?
ピロリ菌の検査や除菌治療は保険が使えますか?
お酒やタバコは胃潰瘍に影響しますか?
ピロリ菌を除菌すると胃がんのリスクは下がりますか?
胃潰瘍を放置するとどうなりますか?
胃潰瘍に関する記事一覧
記事一覧 9件
治療・薬 8
合併症・リスク 1
大量飲酒が消化性潰瘍の発症や治癒にどの程度影響するかについて、今回参照した資料には明確な数値基準の記載が見当たりませんでした。この点は今後のガイドライン改訂で明確化される可能性があります。
参考文献
- 日本消化器病学会「患者さんとご家族のための消化性潰瘍ガイド2023」2023年10月20日発行 jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/kaiyou_2023.pdf
- MSDマニュアル家庭版「消化性潰瘍」2025年1月執筆・最終更新 msdmanuals.com/ja-jp/home(消化性潰瘍)
- 国立がん研究センター がん対策研究所「ヘリコバクター・ピロリ菌除菌と胃がんリスク」(Jpn J Clin Oncol 2021 に基づく評価) epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/8790.html
- 厚生労働省保険局医療課長通知「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」の一部改正について(保医発0221第31号、平成25年2月21日) mhlw.go.jp(保医発0221第31号)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 予防・検診」 ganjoho.jp/public/cancer/stomach/prevention_screening.html
