【科学的根拠に基づく】精巣超音波（エコー）検査のすべて：痛み・しこりの原因から費用まで専門医が徹底解説

第1章：精巣超音波検査とは？痛みがなく効果的な第一歩

精巣超音波検査（しばしば「エコー検査」とも呼ばれます）は、陰嚢内の精巣、精巣上体、精索などの状態を画像化するための非侵襲的な診断方法です⁸。この検査は、患者さんにとって多くの利点があり、泌尿器科領域で広く用いられています。

どのように機能するのか？

この検査では、人間の耳には聞こえない高周波数の音波（超音波）を利用します。まず、皮膚の上に専用のゼリーを塗り、その上から「探触子（プローブ）」と呼ばれる小さな装置を当てます⁹。この探触子から体内に向けて超音波が発信され、臓器や組織に当たって跳ね返ってきた波を、再び探触子が受信します。コンピューターがこの跳ね返ってきた信号を解析し、モニター上に精巣内部のリアルタイムの白黒画像として映し出します¹⁰。

検査の流れと患者が知っておくべきこと

検査は通常、以下の手順で進められます。米国医学超音波研究所（AIUM）や米国泌尿器科学会（AUA）などの国際的なガイドラインでは、正確な診断のために標準化された手順が推奨されています³。

1. 準備: 検査室で下着を脱いでいただき、検査台に仰向けに寝ます。陰茎を腹部のほうに持ち上げてタオルで覆い、陰嚢の下にもタオルを敷いて安定させ、検査しやすい状態にします⁶。
2. 検査: 技師または医師が、人肌に温めたゼリーを陰嚢に塗り、探触子を当てて滑らせながら、様々な角度から観察します。通常、縦方向と横方向の二つの面で全体をくまなくスキャンします⁶。
3. 比較: 痛みや腫れなどの症状がある場合、まず症状のない健常な側を観察し、その後に症状のある側を観察することが推奨されます。左右の精巣を同じ画面に並べて表示し、大きさ、内部の均一性（エコーレベル）、血流を比較することが極めて重要です³。
4. ドップラー法: 多くの検査では、血流を評価するために「ドップラー法」という技術が併用されます。これにより、組織内の血液の流れがカラーで表示され、血流が正常か、増えているか（炎症）、あるいは途絶えているか（捻転）を判断できます⁶。

この検査は通常15分から30分程度で終了し、痛みはほとんどありません。ゼリーの冷たさや、探触子で少し押される感じがする程度です。

なぜ最初の検査として最適なのか？

精巣の異常が疑われる場合、CTやMRIではなく、超音波検査が「最初の検査（第一選択）」として推奨されるのには、明確な理由があります。

• 安全性: 放射線を使用しないため、被ばくの心配が全くありません¹⁰。繰り返し検査を受けても安全です。
• 優れた解像度: 精巣のような体の表面に近い臓器に対して、非常に高精細な画像を提供し、内部の微細な構造まで詳しく観察できます⁶。
• リアルタイム評価: 検査中に画像をリアルタイムで確認できるため、血流の状態などを動的に評価することが可能です¹⁰。
• 費用対効果: CTやMRIといった他の画像診断法に比べて、費用が比較的安価です¹⁰。

第2章：いつ精巣超音波検査が必要か？注意すべき主な症状

医師は、患者が以下の一つまたは複数の症状を訴えた場合に、精巣超音波検査を指示します。これらの症状に気づいたら、ためらわずに泌尿器科を受診することが重要です。

詳細な症状の分析

• 痛み、違和感、圧痛: これは最も一般的で、緊急性を要する場合がある症状です。特に、突然発症する激しい痛みは「急性陰嚢症」と呼ばれ、迅速な対応が必要です¹¹¹²。
• 触知可能な khối u (しこり) や硬い部分: 痛みを伴わない硬いしこりは、精巣がんの典型的な兆候であり、即時の評価が求められます¹¹。
• 腫れ（腫れ）、増大、または非対称性: 陰嚢の大きさや形に何らかの変化が生じた場合は、検査が必要です。片方だけが重く感じる「重量感」も含まれます¹¹。
• 陰嚢部の外傷: ぶつけたり、打ったりした後、精巣の損傷の程度を評価するために超音波が用いられます³¹¹。
• 男性不妊症の評価の一環として: 特に、男性不妊の原因となりうる「精索静脈瘤」の有無や程度を診断するために不可欠です¹³。

第3章：超音波で何がわかるか？一般的な疾患ガイド

精巣超音波検査は、多岐にわたる疾患を特定・鑑別する上で極めて重要な役割を果たします。ここでは、代表的な疾患と、それらが超音波でどのように見えるかを解説します。

3.1 精巣捻転：時間との戦い

病態: 精巣につながる血管や神経の束である「精索」がねじれてしまう状態で、精巣への血流が途絶えてしまいます。血流が再開されない場合、約6時間で精巣は壊死（えし）に至る可能性があり、一刻を争う外科的緊急事態です¹¹。

臨床症状: 片側の陰嚢に突然発症する激しい痛み、吐き気・嘔吐、患側の精巣が正常より高い位置にある（挙上）などが特徴です⁷。

超音波所見:

• グレースケール（白黒画像）: 初期は正常に見えることもありますが、時間が経つと精巣は腫れて大きくなり、内部が不均一になったり、暗く（低エコーに）なったりします⁷。ねじれた精索が「渦巻き状」に見える「whirlpool sign（渦巻き徴候）」は特異的な所見です⁷。
• ドップラー法: これが診断の決め手となります。症状のある側の精巣内で、血流信号が完全に消失しているか、著しく減少しているのが確認されます⁶。複数の研究を統合した大規模な解析（メタアナリシス）によると、カラードップラー超音波は精巣捻転の診断において約95%の感度と約98%の特異度を持つと報告されており、非常に信頼性の高い検査です¹⁵。

3.2 精巣上体炎／精巣炎：精巣捻転との鑑別が重要

病態: 精巣の後ろにある精巣上体や精巣自体に、細菌などが感染して炎症を起こした状態です。尿道からの細菌の逆行や、性感染症（クラミジアなど）が原因となることがあります¹¹。

臨床症状: 通常は徐々に始まる痛み、腫れ、発熱、排尿時の痛みなど、泌尿器系の症状を伴うことがあります¹¹。

超音波所見:

• グレースケール: 炎症を起こしている精巣上体や精巣は腫れて大きくなり、暗く（低エコーに）見えます。反応性の陰嚢水腫（水がたまる）や陰嚢壁の肥厚もよく見られます⁶。
• ドップラー法: 精巣捻転とは対照的に、炎症を起こしている部分では血流が著しく増加（hyperemia）して見えます⁶。これが両者を鑑別する最も重要なポイントです。

3.3 精巣がん：早期発見が鍵

疫学: 15歳から35歳の若年男性で最も頻度の高い固形がんですが、全体としては比較的まれな疾患です。早期に発見されれば生存率は95%以上と非常に高い予後が期待できます¹⁶。停留精巣や家族歴が危険因子として知られています¹⁷。

臨床症状: 典型的には、痛みを伴わない硬いしこりや腫れとして自覚されます¹¹。早期発見のためには、月一度の自己検診（セルフチェック）が非常に重要です¹¹。

超音波の役割: 精巣のしこりを評価するための主要な画像診断法です⁵。超音波検査により、しこりが精巣の「内部」にある充実性（中身が詰まった）の病変かどうかが確認できます。精巣内部の充実性病変は、原則として悪性が強く疑われます。これにより、陰嚢水腫や精巣上体嚢胞といった良性の精巣「外」の病変と明確に区別できます¹⁸。

超音波所見: 多くは精巣内部に境界が比較的明瞭な、暗い（低エコー）充実性の塊として描出され、内部に血流信号を伴います⁶。しかし、その見た目は多様です。

診断後の流れ: 超音波でがんが疑われた場合、血液検査（腫瘍マーカー：AFP, hCG, LDH）、転移の有無を調べるためのCT検査、そして診断と治療を兼ねた鼠径部からの高位精巣摘除術が行われます⁵。

3.4 精索静脈瘤：男性不妊の一般的な原因

病態: 精巣から心臓へ戻る静脈の集まり（つる状静脈叢）が、こぶのように拡張してしまう状態です。男性不妊の原因の中で、治療可能なものとして最も一般的です¹⁹。

臨床症状: 多くは無症状ですが、鈍い痛みや陰嚢の重苦しさ、見た目で「袋の中のミミズのよう」と表現されるような状態がみられることもあります²⁰。

超音波の役割: 精索静脈瘤の検出と重症度分類において、最適な画像診断法です²¹。

超音波所見: 拡張した静脈（直径2.8-3.0mm以上）を確認します²⁰。診断の鍵となるのは、患者に息こらえをしてもらう「バルサルバ法」を併用したドップラー検査です。これにより、静脈血の逆流が確認され、その程度を定量的に評価できます¹⁹。この結果と身体所見を基に、重症度が分類されます²¹。

3.5 その他の疾患

上記以外にも、超音波検査は陰嚢水腫（精巣の周りに水がたまる状態）、精巣上体嚢胞（水を含んだ袋）、外傷による精巣破裂や血腫などを診断するのに役立ちます¹¹。

第4章：日本における医療費：保険適用と経済的支援を理解する

医療機関を受診する際、費用は多くの患者さんにとって大きな関心事です。特に深刻な症状の場合、「高額な請求が来るのではないか」という不安が、受診を遅らせる一因になることもあります。ここでは、日本における精巣超音波検査と関連治療の費用について、具体的に解説します。

保険適用（保険適用）と自費診療（自費診療）

日本においては、医師が医学的に必要と判断して行う検査や治療の多くは、公的医療保険の対象となります。

• 保険適用: 症状があり、医師の診察の結果、診断のために精巣超音波検査が行われた場合、通常は保険が適用されます。この場合、患者さんの自己負担は、総医療費の原則3割（年齢や所得による）となります。例えば、初診料と超音波検査を合わせて、自己負担額は数千円程度になるのが一般的です²²²³。
• 自費診療: 特に症状はないが、人間ドックのオプションとして検査を受けたい場合など、予防的な目的の場合は自費診療となります。この場合、費用は全額自己負担となり、医療機関によって異なりますが、8,000円から10,000円程度が目安です²⁴。

高額療養費制度：万が一のためのセーフティネット

精巣がんのように、手術や化学療法などで治療費が高額になる場合でも、日本には患者の経済的負担を軽減するための優れた制度があります。それが「高額療養費制度」です²⁵。

これは、1ヶ月（月の初日から末日まで）の医療費の自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた金額が払い戻される制度です²⁶。例えば、一般的な所得（年収約370万〜770万円）の方の場合、1ヶ月の自己負担上限額は約8万円強となります²⁵。この制度があるため、重い病気と診断されても、医療費が青天井に増え続ける心配はありません。事前に「限度額適用認定証」を申請しておけば、窓口での支払いを上限額までにとどめることも可能です²⁷。

よくある質問

結論

精巣超音波検査は、陰嚢の痛み、しこり、腫れといった男性特有のデリケートな問題の原因を突き止めるための、非常に強力で安全な診断ツールです。本記事で解説したように、この検査は精巣捻転のような一刻を争う緊急事態から、早期発見が治癒の鍵となる精巣がん、そして男性不妊の原因となる精索静脈瘤まで、様々な疾患を正確に評価することができます。最も重要なメッセージは、症状を無視したり、恥ずかしさから受診をためらったりしないことです。特に突然の激しい痛みや痛みのないしこりは、迅速な対応が将来を大きく左右する可能性があります。幸いなことに、日本の医療制度では、こうした検査や治療は保険適用となる場合が多く、高額な医療費に対するセーフティネットも整備されています。あなた自身の健康を管理することは、まず自分の体の変化に気づき、専門家の助けを求めることから始まります。もし何か少しでも気になることがあれば、どうか勇気を出して、泌尿器科の扉を叩いてください。それが、あなたの健康と安心な未来を守るための、最も重要で確実な一歩となるでしょう。