ピロリ菌
最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)
✦ 結論から言うと
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は胃の粘膜に感染する細菌で、日本人の感染率はおよそ35〜40%と推察されています[1]。感染すると慢性胃炎を経て胃・十二指腸潰瘍や胃がんなどのリスクが上がるため、原則として感染者全員が除菌治療の対象とされています[1]。検査で陽性となった場合は、自己判断で市販薬やヨーグルトに頼らず、医師の診断のもとで除菌治療を検討してください[1]。体重減少や黒い便(血便)、貧血などが出ている場合は、検診を待たずに消化器内科をすぐに受診しましょう[2]。
| 原因 | ヘリコバクター・ピロリ菌の胃粘膜への持続感染[1] |
|---|---|
| 日本人の感染率 | およそ35〜40%(低下傾向だが感染人口は依然多い)[1] |
| 主なリスク | 慢性胃炎・胃十二指腸潰瘍・萎縮性胃炎・胃がん・胃MALTリンパ腫[1] |
| 受診の目安 | 体重減少・黒い便・貧血などがあれば消化器内科へ[2] |
| 除菌治療の基本 | 胃酸を抑える薬+抗菌薬2種を7日間内服(医師の処方が必要)[1] |
ピロリ菌とは?感染経路と胃に棲みつく仕組み
胃は、みぞおちのあたりにある袋状の臓器で、食道からつながる入り口を噴門、十二指腸へつながる出口を幽門といいます[2]。胃の壁は内側から順に、粘膜、粘膜下組織、固有筋層、漿膜下組織、漿膜に分けられ、主な役割は食べ物をため、消化し、少しずつ腸に送り出すことです[2]。胃に入った食べ物は、胃の壁が動くことによってくだかれ、消化酵素や胃酸を含む胃液と混ざり合いながら消化されます[2]。ピロリ菌が棲みつくのは、この胃の壁の最も内側にある粘膜の表面です[2]。
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、胃の粘膜に生息する細菌の一種で、「ピロリ菌」とも呼ばれます[3]。胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因になることがあり、胃がんや一部の悪性リンパ腫の発生に関連していると考えられています[3]。ピロリ菌は胃酸という強い酸性環境の中でも、自ら分泌する酵素(ウレアーゼ)で尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、自分の周りの胃酸を中和しながら、胃の粘膜表面をおおう粘液の層の中に棲みつくことができると考えられています[1]。この性質のため、胃という本来は細菌が生きにくい強酸性の環境の中でも、長期間にわたり生存し続けることができると考えられています[1]。
感染は主に乳幼児期に、井戸水などの衛生環境や、口移しなど家庭内の経路を通じて起こると考えられており、大人になってから新たに感染することはまれとされています[1]。いったん胃粘膜に感染が成立すると、除菌治療を行わない限り生涯にわたって持続することが多く、胃粘膜の慢性的な炎症状態(慢性胃炎)を背景として、萎縮性胃炎をはじめとする様々な上部消化管疾患の併発を引き起こします[1]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、本邦におけるH. pylori感染率はおよそ35〜40%と推察され、以前と比べて低下傾向にあるものの、感染人口はいまだ多いのが現状だと述べられています[1]。感染率が世代によって異なるのは、上下水道など衛生環境が整備される以前に育った世代ほど、乳幼児期に感染する機会が多かったためと考えられています[1]。
このページで紹介している「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」は、日本ヘリコバクター学会が作成しているもので、2024年版は2016年の前回改訂から8年ぶりの改訂です[7]。改訂にあたっては日本消化器病学会の会員向けにもパブリックコメントの募集が行われるなど、関連する複数の学会が確認に関わっています[6]。
出典:日本ヘリコバクター学会「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版」[1]
診断の目安となる数値・基準
| 項目 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 日本人の感染率 | 約35〜40% | 世代により差があり、若年層ほど低い傾向[1] |
| 除菌が保険適用になった年(胃・十二指腸潰瘍の一次除菌) | 2000年11月 | その後2007年8月に二次除菌、2013年2月にH. pylori感染胃炎まで拡大[1] |
| 一次除菌の標準的な投与期間 | 7日間 | 本邦のランダム化比較試験で7日間投与が5日間より有意に良好[1] |
| 一次除菌の除菌率(VPZ+アモキシシリン+クラリスロマイシン、7日間) | 87.4〜98.3% | 海外の無作為化比較試験2編の報告[1] |
| 一次除菌の除菌率(本邦、VPZ含有レジメン vs PPI含有レジメン) | 87.6% vs 70.8%(ITT解析) | 本邦のRCT・NRCT計18編を統合した解析[1] |
| クラリスロマイシン耐性株での一次除菌率 | VPZ含有75% vs PPI含有38% | 耐性菌に対してもVPZ含有レジメンが優位[1] |
| 一次除菌時のクラリスロマイシン推奨量 | 400mg/日(1回200mgを1日2回) | 800mg/日と除菌率に有意差はないが、副作用は800mg/日で有意に増加[1] |
| 除菌による胃がんリスクの低下(メタ解析) | 罹患率比0.62〜リスク比0.67 | 2016年・2017年のメタ解析[1] |
| 除菌年齢別の胃がん予防効果 | 29歳まで99.9%〜70歳以上44.5% | 除菌年齢が若いほど予防効果が高い[1] |
出典:日本ヘリコバクター学会「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版」[1]
ピロリ菌感染が引き起こす病気
H. pylori感染は胃粘膜への持続的な炎症を背景に、複数の消化器疾患と関連しています。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、慢性的な炎症状態を背景として萎縮性胃炎を発症するのみならず、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープなど様々な上部消化管疾患の併発を引き起こすと説明されています[1]。また、免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病)や鉄欠乏性貧血など、消化管以外の疾患との関連も指摘されています[1]。
| 疾患 | 関連の強さ | 備考 |
|---|---|---|
| H. pylori感染胃炎 | ほぼ全員が発症 | 感染者はほぼ全員が組織学的な胃炎を発症する[1] |
| 胃・十二指腸潰瘍(瘢痕を含む) | 除菌が強く勧められる疾患 | 2000年に一次除菌が保険適用[1] |
| 早期胃がんの内視鏡的治療後 | 除菌が強く勧められる疾患 | 2010年6月に適応拡大[1] |
| 胃MALTリンパ腫 | 除菌が強く勧められる疾患 | 2010年6月に適応拡大[1] |
| 免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病) | 除菌が強く勧められる疾患 | 2010年6月に適応拡大[1] |
| 胃過形成性ポリープ/機能性ディスペプシア/胃食道逆流症/鉄欠乏性貧血 | 除菌が強く勧められる疾患 | 保険適用対象の疾患群に含まれる[1] |
| 胃がん | 発生要因の一つ | 喫煙とともに発生要因として挙げられている[2] |
| 慢性蕁麻疹・パーキンソン病・アルツハイマー病・糖尿病・骨粗鬆症・動脈硬化症など | 関連が推測されている段階 | 十分なエビデンスは確立されていない[1] |
日本ヘリコバクター学会のガイドラインは、H. pylori感染胃炎が保険適用となって以降は、これらの関連疾患を個別に挙げる必要がなくなったとし、感染している以上はH. pylori感染胃炎として除菌治療を行うべきだとしています[1]。つまり、上記のどの病名がついているかにかかわらず、感染が確認されれば除菌治療の対象になり得るということです[1]。
なお、胃MALTリンパ腫や免疫性血小板減少症の中には、H. pylori感染が確認されないのに除菌療法が効果を示す例も報告されています[1]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、H. pylori陰性の胃MALTリンパ腫でも除菌療法が有効な例があり、その多くにH. pylori以外のヘリコバクター属(NHPH)が存在していたと報告されているとしています[1]。一方、H. pylori陰性の免疫性血小板減少症では、除菌療法を行っても血小板数の増加が見られないことが報告されており、まず除菌を試みるという対応は推奨されないとされています[1]。このように、同じ「陰性」でも疾患によって意味合いが異なるため[1]、検査結果の解釈は自己判断せず、担当医の説明を受けることが重要です。
ピロリ菌の検査方法:何科で受けられるか
ピロリ菌感染の有無を調べる検査は、大きく内視鏡を使う方法と使わない方法に分かれます。厚生労働省の通知では、ヘリコバクター・ピロリ感染症に係る検査について、対象となる患者や検査の実施条件が定められています[5]。健康保険でこれらの検査・除菌治療を受けるには、内視鏡検査などでH. pylori感染胃炎であることが確認されている必要があります[5]。検査や治療を希望する場合は消化器内科を受診してください。健診・人間ドックの結果で「ピロリ菌陽性」「要精密検査」などと記載されていた場合も、自己判断で放置せず、まず消化器内科を受診することをおすすめします[5]。
| 検査法 | 内視鏡の要否 | 特徴 |
|---|---|---|
| 迅速ウレアーゼ試験 | 要(生検) | 採取した胃粘膜組織のウレアーゼ活性を利用しその場で判定 |
| 鏡検法(組織診断) | 要(生検) | 病理医が顕微鏡で胃粘膜組織を確認[4] |
| 培養法 | 要(生検) | 菌を培養して同定し、抗菌薬の感受性検査にも利用できる |
| 尿素呼気試験 | 不要 | 診断薬を服用後の呼気を採取して判定する非侵襲的検査 |
| 便中抗原検査 | 不要 | 便を採取して抗原の有無を判定 |
| 抗体検査(血液・尿) | 不要 | 感染歴の有無を血液・尿で判定 |
出典:厚生労働省「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」[5]/国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 検査」[4]
内視鏡を使う検査(迅速ウレアーゼ試験・鏡検法・培養法)は、生検で組織を採取する必要があるため、内視鏡検査を受けたついでに調べることが多い検査です[4]。一方、尿素呼気試験・便中抗原検査・抗体検査は内視鏡を使わないため体への負担が少なく、除菌治療後に「除菌が成功したかどうか」を確認する検査としてもよく用いられます[5]。どの検査法を選ぶかは、症状や内視鏡検査の必要性、費用などを踏まえて医師が判断します。
何科に行けばよいか:ピロリ菌の検査・除菌治療は消化器内科(胃腸科)で受けられます[5]。健診・人間ドックなどで陽性を指摘された場合も、まずは消化器内科を受診し、内視鏡検査の要否を含めて相談してください。
検査前に注意すること:厚生労働省の通知では、ランソプラゾールなどピロリ菌に対する静菌作用があるとされる薬剤を服用している場合、感染診断の結果が偽陰性(実際は感染しているのに陰性と出ること)になるおそれがあるため、除菌前・除菌後いずれの感染診断でも、その薬剤の服用を中止または終了してから2週間以上経過している必要があるとされています[5]。また、除菌判定に抗体検査を用いる場合は、除菌終了から6か月以上経過してから実施し、除菌前の抗体測定結果と比較できることが条件とされています[5]。胃薬を飲んでいる場合は検査の前に必ず医師に伝えてください[5]。
除菌治療:薬・期間・除菌率・保険適用
H. pylori除菌治療は、原則として感染者全員が対象とされています[1]。ただし、除菌療法は薬剤耐性などの理由で除菌率が100%ではないこと、また様々な副作用発現の可能性もあることから、治療を受ける前に医師から十分な説明を受け、同意したうえで開始することが前提です[1]。除菌薬は自己判断で開始したり、途中でやめたりせず、必ず医師の指示に従ってください[1]。
| 項目 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 一次除菌 | 酸分泌抑制薬(ボノプラザン等)+アモキシシリン+クラリスロマイシンを7日間内服 | 本邦では7日間投与が標準[1] |
| 一次除菌に使う酸分泌抑制薬 | ボノプラザン(VPZ)をプロトンポンプ阻害薬(PPI)より推奨 | 合意率90.0%の強い推奨、エビデンスの確実性A[1] |
| 二次除菌 | 一次除菌が不成功の場合、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更して再度7日間 | 酸分泌抑制薬はPPI・VPZのいずれも推奨[1] |
| 保険適用の条件 | 内視鏡検査等でH. pylori感染胃炎(またはその他の適応疾患)であることの確認が必要 | 2013年2月にH. pylori感染胃炎まで適用拡大[1][5] |
出典:日本ヘリコバクター学会「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版」[1]/厚生労働省 通知[5]
なぜボノプラザンが標準になったのか
日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、本邦で報告されたランダム化比較試験・非ランダム化比較試験を統合した解析で、ボノプラザン(VPZ)を含む一次除菌レジメンの除菌成功率はITT解析で87.6%、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を含むレジメンでは70.8%であったと報告されています[1]。クラリスロマイシン耐性菌に感染している場合でも、VPZ含有レジメンの除菌成功率は75%であったのに対し、PPI含有レジメンでは38%にとどまったとされ、耐性菌に対してもVPZ含有レジメンの優位性が報告されています[1]。一方で、副作用の頻度についてはPPI含有レジメンとVPZ含有レジメンで大きな差はないとされています[1]。これらを踏まえ、本邦の一次除菌では、クラリスロマイシンの感受性にかかわらずVPZが推奨されています[1]。
主な副作用
日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、除菌治療に伴う代表的な短期的副作用として、下痢、軟便、味覚異常、皮疹、口内炎、舌炎、出血性腸炎が挙げられています[1]。一次除菌では下痢を7.5〜38.7%、軟便を10.1〜16.4%、味覚異常を1.4〜20.9%、皮疹(皮膚・皮下組織障害)を1.3〜5.6%に認めるとされ、二次除菌ではメトロニダゾールを含む治療で下痢を4.0〜11.0%、味覚異常を4.5%、皮疹を5.4%に認めると報告されています[1]。まれに一次除菌による出血性腸炎(発症頻度0.35〜0.6%)が起こることも報告されており、腹痛・下痢・粘液便・血便・発熱がみられた場合は速やかに除菌薬を中止し受診が必要とされています[1]。
症状の程度が軽度であれば、症状の変化に注意しながら内服を継続してよいとされていますが、重度の下痢をきたした場合は除菌薬の内服を中止し、医師へ連絡してください[1]。また、内服開始後数日以内、あるいは内服終了後に皮疹が出現することがあり、内服後数時間以内に全身の皮膚紅潮・喘鳴・腹痛・嘔吐といった症状が出現して重症化することもあるとされています[1]。このような症状が出た場合は、ただちに医師に相談してください[1]。
二次除菌に用いるメトロニダゾール(MNZ)はアルコールの代謝を抑制するため、内服中に飲酒するとジスルフィラム様のアルコール反応(腹痛など)が起きることがあるとされています[1]。除菌治療中の飲酒については、必ず処方した医師の指示に従ってください[1]。
日本と国際的なコンセンサスの投与期間の違い
| 項目 | 日本(日本ヘリコバクター学会 2024) | 欧米(Maastricht Ⅵ/Florence consensus) |
|---|---|---|
| PPI+アモキシシリン+クラリスロマイシンの推奨投与期間 | 7日間[1] | 14日間を推奨[1] |
| 根拠 | 本邦の無作為化比較試験で7日間と14日間に有意差なし。VPZベースなら7日間で高い除菌率[1] | 34件のランダム化試験の統合解析で14日間の方が除菌率が有意に高い(74.9%→83.5%)[1] |
日本ヘリコバクター学会は、ボノプラザンを含む治療なら7日間で十分な除菌率が得られること、14日間投与では副作用の頻度が増加すること(16.0%→19.6%)を踏まえ、本邦では7日間投与を推奨しています[1]。国際的な標準とは推奨期間が異なる点であり、どちらが正しいと単純には言えず、使用する薬剤の種類や地域ごとの耐性菌の状況によって最適な治療内容は変わり得ます[1]。日本で使われている薬や投与期間が海外の情報サイトの記載と違っていても、それ自体は誤りではなく、地域や薬剤の違いによるものです。
他の薬を飲んでいる場合の注意点(薬物間相互作用)
除菌治療で使う酸分泌抑制薬や抗菌薬は、他の薬と一緒に飲むと、お互いの効き目や血中濃度に影響することがあります[1]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、除菌治療時に使用される酸分泌抑制薬や抗菌薬には、併用薬との薬物間相互作用によって薬物動態に影響を及ぼし、有害事象を生じることがあるため注意が必要だとしています[1]。たとえば、HIVの治療薬であるアタザナビル硫酸塩やリルピビリン塩酸塩は、胃酸分泌抑制作用によって溶解性が低下し血中濃度が下がるため、酸分泌抑制薬との併用が禁忌とされています[1]。また、ジギタリス製剤や経口血糖降下薬(スルホニルウレア)は、酸分泌抑制薬との併用で吸収が増加し、血中濃度の上昇により不整脈や低血糖症状が現れる可能性があるとされています[1]。
抗菌薬のクラリスロマイシンは強力なCYP3A4阻害薬であり、多くの併用禁忌薬・併用注意薬があるとされています[1]。ワルファリンを内服している場合は、抗凝固作用が増強される可能性があるため、必要に応じて血液凝固の検査によるモニタリングを考慮すべきだとされ、抗血小板薬のクロピドグレルは、プロトンポンプ阻害薬との併用で作用が弱まることが報告されています[1]。除菌治療を始める前には、現在飲んでいる薬(市販薬やサプリメントを含む)をすべて医師に伝えることが大切です[1]。
二次除菌でも不成功だった場合(三次除菌)
一次除菌・二次除菌ともに不成功だった場合の治療についても、日本ヘリコバクター学会のガイドラインで検討されています[1]。ガイドラインは、ボノプラザン+アモキシシリン+シタフロキサシンの3剤7日間治療を提案しており(弱い推奨、合意率は強い推奨36.8%・弱い推奨63.2%)、他の選択肢としてプロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン+シタフロキサシン、あるいはプロトンポンプ阻害薬+メトロニダゾール+シタフロキサシンも挙げられるとしています[1]。17論文を対象としたネットワークメタアナリシスでは、比較した中でボノプラザン+アモキシシリン+シタフロキサシンの組み合わせが最も高い除菌率を示す可能性が示唆されていますが、エビデンスの質は中等度の確信にとどまるとされています[1]。三次除菌まで必要になるケースは、通常の一次・二次除菌よりも専門的な判断が求められるため[1]、消化器内科の医師とよく相談しながら進めることが大切です。
2種類の薬だけで行う治療法もあるのか
クラリスロマイシン耐性菌が増えていることを背景に、ボノプラザンとアモキシシリンの2剤だけを使う治療法(VA療法)についても検討されています[1]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインによると、ボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤療法(除菌率83.9%)と、クラリスロマイシンを含まない2剤療法(除菌率75.5%)を比較したメタアナリシスでは、両者に有意差は認められず、副作用の発生率も同等であったとされています[1]。ガイドラインは、感受性試験ができない場合には標準的な3剤レジメンが推奨されるとしつつ、クラリスロマイシン耐性菌率が高い状況を踏まえ、2剤療法の位置づけについても今後さらに検討が必要だとしています[1]。どのレジメンが適しているかは、地域の耐性菌の状況や個々の患者の状態によって医師が判断します[1]。
薬剤感受性検査(オーダーメイド治療)は受けたほうがよいか
クラリスロマイシンには耐性を持つ菌が一定数存在し、それが除菌率を下げる要因の一つになっています[1]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、一次除菌治療において感受性試験に応じた個別化治療は、通常の保険診療での除菌治療よりも高い除菌率が得られるため有用であり、強く推奨すると結論づけています(合意率100%の強い推奨、エビデンスの確実性A)[1]。ボノプラザンを使用しても、クラリスロマイシン耐性菌に対する除菌率は有意に低いことが示されており、高い除菌率を得るには一次除菌の段階から感受性試験に応じた治療を行うことが必要だとされています[1]。
本邦の多施設研究では、ボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシンの除菌率は、クラリスロマイシン感受性菌では96.3%であったのに対し、クラリスロマイシン耐性菌では82.9%に低下したと報告されています[1]。一方、耐性菌に対してクラリスロマイシンの代わりにメトロニダゾールを使う個別化療法では98.0%という高い除菌率が得られたとされ、別の単施設の報告でも同様の傾向が示されています[1]。感受性検査を受けるかどうかは、初回の除菌率をできるだけ高めたいかどうかによって医師と相談して決めることになります[1]。すべての医療機関で検査可能というわけではないため、希望する場合は担当医に相談してください。
ペニシリンアレルギーがある場合
アモキシシリン(ペニシリン系抗菌薬)にアレルギーがある場合は、通常の一次除菌レジメンをそのまま使うことができません[1]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、本邦におけるペニシリンアレルギー症例に対する除菌治療法として、できるだけ事前に薬剤感受性検査を行ったうえで、ボノプラザン+クラリスロマイシン+メトロニダゾール、あるいはボノプラザン+メトロニダゾール+シタフロキサシンといった組み合わせが考慮されるとしています[1]。国内の観察研究では、ペニシリンアレルギー症例20例にボノプラザン・クラリスロマイシン・メトロニダゾールを7日間投与した一次除菌の除菌率が100.0%であったのに対し、従来のプロトンポンプ阻害薬を用いた対照群では83.3%にとどまったとする報告があり、ここでもボノプラザンを使ったレジメンの優位性が示唆されています[1]。ただし、本邦からのこの分野の大規模な比較試験はまだ少なく、ガイドラインも現時点で明確な推奨を示すにはエビデンスが不足しているとしています[1]。薬剤アレルギーがある方は、必ず事前に医師に申告し、感受性検査を含めた個別の治療方針を相談してください[1]。
高齢者の除菌について
高齢者の除菌に年齢の上限は定められていません[1]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、高齢者における3剤併用除菌療法の有害事象発生率は約10%以下であり、比較的安全で忍容性が高いことが報告されているとしています[1]。また、7万人以上の除菌患者を追跡したコホート研究では、60歳以上で除菌後の胃がん発症リスクが有意に低下しており、除菌から10年以上経過した場合はさらに低下していたとされています[1]。腎機能障害などの基礎疾患がない限り、高齢者でも胃がん発症リスクを下げるために除菌することが推奨されています[1]。
腎機能が低下している場合・透析中の場合
腎機能が低下している方の除菌治療では、薬の選び方や量に注意が必要です[1]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、腎機能低下例では抗菌薬の用量を腎機能に応じて適宜減らしたうえで、ボノプラザン+クラリスロマイシン+メトロニダゾールの組み合わせを推奨するとしています(合意率84.2%の強い推奨)[1]。血清クレアチニンが2〜4mg/dl程度の腎機能低下症例を対象とした比較試験では、アモキシシリンを含むレジメンで急性腎不全の発症が18%(8/44)と、メトロニダゾールを使ったレジメンの2%(1/44)より有意に高かったと報告されています[1]。このため、腎機能に応じてクラリスロマイシンやメトロニダゾール、アモキシシリンの投与量を調整する必要があり、必要に応じて腎臓内科専門医にも相談することが望ましいとされています[1]。なお、酸分泌抑制薬(PPI・ボノプラザン)自体は、一般的に腎機能に応じた用量調節は不要とされています[1]。腎機能に不安がある方は、除菌治療を始める前に必ず主治医に腎臓の状態を伝えてください[1]。
肝臓の病気がある場合
肝臓の病気がある方についても、除菌治療で使う薬の多くが肝臓で代謝されるため注意が必要です[1]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、肝障害の症例に対してアモキシシリン+クラリスロマイシン、またはアモキシシリン+メトロニダゾールを用いた除菌治療を提案していますが、肝代謝能の低下や除菌の適応疾患を十分に考慮したうえで治療方針を決定し、有害事象に注意する必要があるとしています(弱い推奨)[1]。海外・国内の観察研究では、B型・C型肝炎や肝硬変がある患者と健常者との間で除菌率に大きな差はなく、有害事象も明らかな問題はなかったと報告されていますが、肝障害がある患者と健常者を直接比較した質の高い研究はまだ少ないとされています[1]。肝臓の病気で通院している方は、除菌治療を検討する際に肝臓の状態を必ず医師に伝えてください[1]。
⚠ 胃がんとの関係・除菌後のフォローアップ
国立がん研究センターのがん情報サービスでは、胃がんの発生要因としてヘリコバクター・ピロリの感染と喫煙が挙げられています[2]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでも、2016年のメタ解析で罹患率比0.62(95%信頼区間0.49〜0.79)、2017年のメタ解析でリスク比0.67(95%信頼区間0.48〜0.95)と、除菌によって胃がんの発症が有意に減少することが報告されています[1]。2022年に1630人を26.5年追跡したランダム化試験でも、ハザード比0.57(95%信頼区間0.33〜0.98)と有意な減少が示されています[1]。
ただし、除菌後もリスクがゼロになるわけではありません。国立がん研究センターは「ピロリ菌の除菌によって確実に発生リスクが低下すると明らかになっています。ただし、ピロリ菌を除菌しても、胃がんになる可能性がゼロにはなりません」と明記しています[2]。これは、除菌前にすでに萎縮性胃炎などの変化が進んでいた胃粘膜は、菌がいなくなった後もがんが発生する土台として残り得るためと考えられています[1]。したがって、除菌に成功した後も自己判断で通院をやめず、医師の指示に沿って定期的な胃内視鏡検査を受け続けることが重要です[2]。
また、除菌による胃がん予防効果は、除菌する年齢が若いほど高いことも報告されています[1]。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、29歳までに除菌をした場合の予防効果は99.9%である一方、40〜49歳では92.7%、50〜59歳では76.2%、60〜69歳では49.8%、70歳以上では44.5%と、年齢とともに低下していくとされています[1]。理想的には20〜30代まで、できれば50歳までに感染の有無を確認し、陽性であれば除菌治療を受けておくことが推奨されています[1]。
すぐに消化器内科を受診すべき危険サイン
国立がん研究センターのがん情報サービスでは、胃がんは早期の段階では自覚症状がほとんどなく、かなり進行しても症状がない場合があると説明されています[2]。そのうえで「食事がつかえる、体重が減る、といった症状がある場合は、進行胃がんの可能性もあります」とし、このような症状がある場合は検診を待たずに内科や消化器内科などの身近な医療機関を受診するよう勧めています[2]。また、がんから出血することによって貧血が起こることや、黒い便(血便)が出ることもあると説明されています[2]。
- 体重減少・食事がつかえる感じ → 検診を待たずに消化器内科を受診[2]
- 黒い便(血便)・貧血 → 出血の可能性があるため速やかに受診[2]
- 除菌薬内服中の重い下痢 → 内服を中止し医師に連絡[1]
- 除菌薬内服後の全身の皮膚紅潮・喘鳴・嘔吐 → ただちに医療機関を受診[1]
なお、胃の不快感や胸やけなど、胃がんと似たような症状は胃炎や胃潰瘍でも起こります[2]。症状だけで胃がんかどうかを自己判断することはできないため[2]、気になる症状があれば医療機関で検査を受けてください。がん情報サービスも、これらの症状がある場合は検診の予定を待たずに、身近な医療機関の受診を勧めています[2]。
生活・食事・家族の検査・再発予防
H. pylori除菌にて組織学的に胃の炎症が改善することが、胃粘膜生検を10年間追跡した調査で報告されています[1]。除菌成功直後に多形核白血球や単核球の浸潤が著明に改善し、残存する炎症も除菌後4〜5年にわたって徐々に改善するとされています[1]。内視鏡的にも、胃炎の京都分類で示されているような胃底腺粘膜のびまん性発赤や胃体部の白濁粘液付着などが、除菌成功群と除菌不成功群の間で有意差が認められています[1]。
次世代への感染予防:日本ヘリコバクター学会は、子育てを通じた家庭内感染を予防するためにも、親になる前にH. pylori感染者は除菌治療を受けておくことが推奨されるとしています[1]。感染経路は主に乳幼児期の家庭内での接触とされているため[1]、家族内に感染者がいる場合は、他の家族の検査についても医師に相談するとよいでしょう。また、慢性胃粘膜炎症が胃がんの発生母地としてリスクであることを踏まえると、感染期間が短いほど胃がんの予防効果は高くなると考えられています[1]。
食事・生活習慣について:国立がん研究センターのがん情報サービスでは、胃がんの発生要因として塩分・高塩分食品の摂取が胃がんの発生リスクを高めることも報告されているとし、禁煙することや、塩分・高塩分食品の摂りすぎに注意することも大切だと述べています[2]。ピロリ菌そのものを食品で除去できるという医学的な効能は確立されていません[2]。除菌を検討する場合は、まず医師に相談してください。
ヨーグルト・プロバイオティクスと除菌の関係(中立的な整理)
「ヨーグルトでピロリ菌が除菌できる」という単純な話ではありませんが、除菌治療の副作用対策として、酪酸菌製剤や耐性乳酸菌製剤などのプロバイオティクスを併用することについては、日本ヘリコバクター学会のガイドラインで検討されています[1]。ガイドラインは、除菌治療の際に副作用の予防のためにプロバイオティクスを併用することを弱く提案するとしており、合意率は強い推奨20.0%・弱い推奨75.0%、エビデンスの確実性はC(弱い)とされています[1]。海外の17件のランダム化比較試験のレビューでは、腹痛や下痢などの副作用がプロバイオティクス併用により予防できたとする報告が多くみられた一方、除菌成功率そのものが有意に向上したのは17論文中3論文にとどまっています[1]。
本邦からの報告では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)に酪酸菌製剤を併用した群で除菌率87.1%、PPI単独群で70.1%、ボノプラザン(VPZ)単独群で84.9%という結果が示された研究がある一方、VPZをベースとした除菌治療では、耐性乳酸菌プロバイオティクスの併用がかえって除菌率を低下させる可能性を示唆する報告もあります[1]。ガイドラインは、クラリスロマイシン耐性が増加している地域ではPPIベースの除菌治療にプロバイオティクスを追加することが、除菌成功率の向上と副作用予防に寄与する可能性があるとまとめています[1]。市販のヨーグルトや乳酸菌飲料が、ここで検討されているプロバイオティクス製剤と同じ効果を持つかどうかは明らかではなく[1]、いずれにしても除菌薬による治療そのものの代わりにはなりません。プロバイオティクスの併用を考える場合も、必ず処方医に相談してください。
医療費の目安
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
よくある質問(FAQ)
ピロリ菌を除菌すれば胃がんにならないと言えますか?
ピロリ菌の検査は痛いですか?
検査・除菌治療の費用や保険は使えますか?
ピロリ菌は家族にうつりますか?
除菌に成功した後、また感染することはありますか?
ヨーグルトや乳酸菌飲料で除菌できますか?
除菌薬を飲んでいる間、お酒を飲んでもいいですか?
高齢でも除菌治療を受けられますか?
除菌が成功したかどうかは、いつ・どうやって確認しますか?
ピロリ菌に関する記事一覧
記事一覧 5件
検査・数値 1
治療・薬 4
H. pylori感染との関連が推測されている一部の疾患(慢性蕁麻疹やパーキンソン病、アルツハイマー病などとの関連)については、十分なエビデンスが確立されているとまでは言えず、今回参照した資料には確定的な結論の記載が見当たりませんでした[1]。
参考文献
- 日本ヘリコバクター学会「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版」第2章 治療 2024年 jshr.jp/medical/committee/guideline
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 予防・検診」2026年 ganjoho.jp/public/cancer/stomach
- 国立がん研究センター がん情報サービス「用語集:ヘリコバクター・ピロリ」2026年 ganjoho.jp/public/qa_links
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 検査」2026年 ganjoho.jp/public/cancer/stomach
- 厚生労働省「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」保医発第0618001号 mhlw.go.jp/web/t_doc
- 日本消化器病学会「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版パブリックコメント募集のお知らせ」2024年 jsge.or.jp/news
- 日本ヘリコバクター学会「ガイドライン|ピロリ菌関連情報」 jshr.jp/citizen/info/guideline
