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三叉神経痛

最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)

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✦ 結論から言うと

三叉神経痛(さんさしんけいつう)は、顔の感覚を脳へ伝える三叉神経の根元が血管に圧迫されることなどで起こる、「電気が走るような」「焼け火箸を押し込まれたような」一瞬の激痛が繰り返す病気です[1]。50歳代以降の発症が多く、日本神経治療学会の指針では男性より女性にやや多い(男女比およそ1:1.5〜2)と報告されています[1]。歯を磨く・顔を洗う・食事をするなど日常のわずかな刺激で痛みが誘発されるのが最大の特徴で、まず歯科を受診してしまう人が少なくありませんが、原因は歯ではなく脳神経です。

原因 多くは小脳橋角部で三叉神経の根元(root entry zone)が血管に圧迫されて起こる「特発性三叉神経痛」[1]。まれに腫瘍など他の病気が原因の「症候性三叉神経痛」もある
主な症状 顔の片側に、数秒〜2分続く電撃様の激痛発作が繰り返す。顔の第2枝(上顎)・第3枝(下顎)領域に多い[1]
受診の目安 片側の顔に繰り返す激痛があれば早めに脳神経内科・脳神経外科・ペインクリニックへ。片側の感覚まひや他の神経症状を伴う場合はより早い受診が必要[1]

三叉神経痛とは?原因と激痛が出る仕組み

三叉神経は、顔の皮膚や鼻腔・口腔の粘膜、歯の感覚を脳に伝える最大の脳神経で、額を担当する第1枝(眼神経)、頰から上あごを担当する第2枝(上顎神経)、下あごを担当する第3枝(下顎神経)の3本に分かれています[1]。日本神経治療学会の指針によると、痛みの部位は第2枝領域が38.1%と最も多く、次いで第3枝が35.2%、第2・3枝の合併が14.9%で、第1枝だけに痛みが出るのはまれ(4.7%)とされています[1]。

痛みが起こる仕組みについては、脳の奥(小脳橋角部)で三叉神経が脳幹から出てすぐの部分は、神経を包む鞘(さや)の性質が中枢性から末梢性に切り替わる境目(junction zone/root entry zone)にあたり、この部分は圧迫による損傷を受けやすいと考えられています[1]。この境目を蛇行した血管(多くは上小脳動脈)が持続的に圧迫すると、神経の鞘(髄鞘)の一部が欠け、本来は伝わらないはずの信号どうしが混線(ショートサーキット)を起こし、触れただけの刺激が激痛として伝わってしまう、というのが現在最も有力な発生機序です[1]。50歳代以降に発症しやすいのは、この年代で動脈硬化により血管の蛇行が強くなり、神経の圧迫が起こりやすくなるためと考えられています[1]。

三叉神経痛は原因によって大きく2つに分けられます。血管の圧迫が原因と考えられる「特発性(古典的)三叉神経痛」と、腫瘍や多発性硬化症など血管圧迫以外のはっきりした病気が原因となる「症候性三叉神経痛」です[1]。日本神経治療学会が引用する報告では、1,533例のうち147例(9.6%)が脳腫瘍によるもので、その内訳は類上皮腫が最も多く79例、次いで髄膜腫38例、聴神経鞘腫23例などとされています[1]。若くして三叉神経痛の症状が出た場合や、角膜反射(まばたきの反射)が弱くなっている場合は、腫瘍が原因である可能性が高いため、MRIなどの画像検査による確認が特に重要です[1]。

出典:日本神経治療学会治療指針作成委員会「標準的神経治療:三叉神経痛」神経治療学27巻1号(2010年)[1]/JHO編集部が作図

3本の枝それぞれが担当する範囲

日本神経治療学会の指針に基づくと、三叉神経の3本の枝は次のような範囲の感覚を担当しています。第1枝(眼神経)は額から頭頂部、上まぶた、鼻の付け根の皮膚を担当し、第2枝(上顎神経)は下まぶたから鼻翼・上唇にかけての皮膚と、頰の粘膜、上の歯・歯肉を担当します[1]。第3枝(下顎神経)は運動根と合流しており、頰の粘膜と皮膚、咬む力を生む咬筋、側頭部の皮膚、口腔底・舌の前2/3の粘膜、下あごの歯・歯肉・下唇の皮膚と粘膜、おとがい付近の皮膚まで幅広く担当しています[1]。三叉神経痛の痛みが第2枝・第3枝に集中しやすいのは、これらの領域が食事や会話、歯磨きなど日常的に刺激を受けやすい部位だからだと考えられます。

診断の目安となる数値・基準

三叉神経痛は問診と痛みの特徴から診断されます。国際頭痛学会の国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、「classical trigeminal neuralgia(古典的三叉神経痛)」について、三叉神経の1つ以上の枝が支配する領域に生じる、片側性で反復する発作性の痛みであり、痛みは一瞬から2分間持続し、無害な刺激によって誘発されると定義しています[2]。日本神経治療学会が引用する国際頭痛分類第2版の診断基準(Table 1)も同様に、「発作性の痛みが数分の1秒〜2分間持続」し、「激痛,鋭い痛み,表在痛または刺痛」であり「トリガー域から発生するか,またはトリガー因子により発生する」ことを条件としています[1]。

項目 目安となる数値・基準 備考
発作1回の持続時間 数分の1秒〜2分 重症例では断続的に長く続くこともある[1]/[2]
痛みの好発部位 第2枝(上顎)38.1%/第3枝(下顎)35.2%/第2・3枝合併14.9%/第1枝のみ4.7% 日本神経治療学会の指針より[1]
有病率(特発性三叉神経痛) 男性 10万人あたり2.7〜10.8人/女性 10万人あたり5.0〜20.2人 報告によって差がある[1]
発症年齢の平均 男性51.3歳/女性52.9歳 50歳代以降が多い[1]
トリガーゾーンを有する割合 75〜80% 口の周囲・鼻翼・頰に多い[1]
腫瘍が原因である割合(症候性) 三叉神経痛全体の約9.6% 類上皮腫・髄膜腫・聴神経鞘腫が主体[1]

出典:日本神経治療学会治療指針作成委員会「標準的神経治療:三叉神経痛」神経治療学27巻1号(2010年)[1]/International Headache Society「ICHD-3:13.1.1.1 Classical trigeminal neuralgia」[2]

画像診断ではMRIが標準的な検査です。海外の実践的ガイドラインをまとめた総説では、「MR of the brain is the gold-standard investigation(脳MRIが標準的な検査である)」とした上で、血管による圧迫を確認するために3D-CISS(3次元constructive interference in steady-state)法などの高解像度シーケンスと、MRアンギオグラフィー、ガドリニウム造影T1強調画像を組み合わせることが推奨されています[5]。日本神経治療学会の指針でも、最低でも1テスラ以上のMRI装置による撮影が必要であり、3次元MR脳槽撮影とMRAの合成画像や3次元CISS法が圧迫血管の同定に有効と報告されています[1]。MRIは圧迫血管を確認するだけでなく、腫瘍や多発性硬化症など症候性三叉神経痛の原因を除外するためにも欠かせません。

歯痛・帯状疱疹後神経痛との見分け方

三叉神経痛は、痛む場所が歯やあごに近いため歯科を最初に受診する患者が少なくありません。しかし歯の痛みは、虫歯や歯周病といった原因がある限り持続的または咬んだときに悪化する痛みであるのに対し、三叉神経痛は誘因のない瞬間に一瞬の激痛が走り、発作と発作の間はうそのように痛みがない「発作間欠期」があるという決定的な違いがあります。

項目 三叉神経痛 歯の痛み(虫歯・歯周病など) 帯状疱疹後神経痛
痛みの性質 電気が走るような一瞬の激痛[1] ズキズキ・ジンジンと持続する鈍痛〜強い痛み 「constant dull, aching, burning and/or throbbing pain(持続する鈍い・うずくような・焼けるような痛み)」[5]
持続時間 数分の1秒〜2分の発作[2] 刺激があるかぎり持続 常時持続
誘発刺激(トリガー) 顔に触れる・歯磨き・食事などで誘発[1] 冷たいもの・甘いもの・咬合で悪化 「lacks the characteristic stimulus-evoked pain by innocuous mechanical stimuli(無害な刺激による誘発痛という特徴を欠く)」[5]
皮疹・水疱の既往 なし なし 片側に带状の水疱(帯状疱疹)が先行することが多い

見分けるカギ:「痛みが一瞬で終わり、また何もなかったように過ごせる発作間欠期があるか」が最大の手がかりです。歯の痛みや帯状疱疹後神経痛は基本的に持続する痛みであるのに対し、三叉神経痛は発作性で、その間はほぼ無症状という特徴があります。日本神経治療学会の指針でも、消炎鎮痛剤が効かず、抗てんかん薬であるカルバマゼピンが効く場合には三叉神経痛である可能性が高くなるとされ、局所麻酔薬による三叉神経末梢枝ブロックで痛みが消える場合は確定診断になり得るとされています[1]。なお、食事の際にのどの動きで誘発される痛みは舌咽神経痛との鑑別が必要になり、痛みの部位が移動したり抗てんかん薬が効かなかったりする場合は非定型顔面痛が疑われるなど、専門的な鑑別が必要な場合もあります[1]。

副鼻腔炎や片頭痛、頸部神経痛なども顔や頭の痛みを起こしますが、これらは痛む場所や持続的な痛みである点から鑑別できる場合が多いとされています[1]。医療機関では、消炎鎮痛薬が効かずカルバマゼピンなどの抗てんかん薬が効くかどうかを確かめる「治療的診断」や、局所麻酔薬を使った三叉神経末梢枝ブロックで痛みが一時的に消えるかどうかを確認する方法が、鑑別診断の助けとして使われることがあります[1]。歯科で「異常なし」と言われた顔の激痛が繰り返す場合は、抜歯など不可逆的な処置を受ける前に、脳神経内科・脳神経外科・ペインクリニックでの評価を受けることが勧められます。

経過と治療:段階別のケア

三叉神経痛の治療は、痛みの強さや薬の効き方に応じて段階的に検討されます。日本神経治療学会の指針は、「様々な治療法のなかでも,第一選択となるのは,他の治療法に比べ侵襲の少ない薬物療法である」としつつ、薬でコントロールできない場合や副作用が強い場合には神経ブロックや手術療法を検討するという方針を示しています[1]。

第一段階:薬物療法(カルバマゼピンなど)

日本神経治療学会・日本ペインクリニック学会のいずれのガイドラインでも、カルバマゼピンが三叉神経痛の第一選択薬とされています[1][3]。日本神経治療学会の指針によれば、一般的な用法は初回投与量100mg/dayを1日2回分服または就寝前投与から開始し、2〜3日ごとに100mgずつ増量しながら痛みが治まる量を維持量とし、通常維持量は200〜400mg/day、最大投与量は1,200mg/dayを超えないとされています[1]。有効率は報告によって差があるものの60〜90%と高く、治療必要数(NNT)も2.2〜3.3と効果の高さが示されています[1]。日本ペインクリニック学会誌に掲載された長沼芳和氏の報告でも、「治療開始時カルバマゼピンに良い反応を示す三叉神経痛患者は98%」と、初期反応の良さが示されています[4]。

一方でカルバマゼピンは副作用の頻度が高い薬としても知られています。同じ報告では「カルバマゼピンの副作用を認めたものは263名(NNH:2.11)」と、約2人に1人が何らかの副作用を経験し、めまい(骨折を伴った例を含む)、薬疹、肝機能異常などが記録されているほか、「休薬しても生命に危険を及ぼす可能性のある重篤な副作用を生じたものは13名(NNH:41.6)」とされ、薬剤過敏症症候群や中毒性表皮壊死症などの重い薬疹、血液障害、重篤な徐脈などの循環器障害が重篤な副作用として挙げられています[4]。日本神経治療学会の指針も、重大な副作用として骨髄抑制(白血球減少、巨赤芽球性貧血)を挙げ、投与初期の定期的な血液検査の必要性を指摘しています[1]。カルバマゼピン単独で効果が弱い場合や副作用で使用できない場合には、フェニトインやバルプロ酸ナトリウム、クロナゼパム、ガバペンチン、ラモトリギンなどが選択肢になります[1]。海外の実践ガイドラインでも、「Carbamazepine and oxcarbazepine are the first-line treatment options(カルバマゼピンとオクスカルバゼピンが第一選択薬)」とされ、「meaningful initial pain control in almost 90% of patients(ほぼ90%の患者で初期の痛みが有意にコントロールできる)」と、日本の報告と近い有効率が示されています[5]。

第二段階:神経ブロック療法

薬物療法だけでは痛みが十分に抑えられない場合や、副作用のため薬を増やせない場合には、神経ブロックが選択肢になります。日本神経治療学会の指針では、三叉神経痛に用いられる神経ブロックとして、Gasser神経節ブロック、眼窩上神経ブロック、上顎神経ブロック、眼窩下神経ブロック、下顎神経ブロック、おとがい神経ブロックが紹介されており、三叉神経痛では第2枝・第3枝の障害が全体の85%を占めるため、眼窩下神経ブロックと下顎神経ブロックが行われる頻度が最も高いとされています[1]。従来はエタノールなどの神経を破壊する薬剤が使われてきましたが、感覚低下などの合併症が少なくないため、現在は高周波熱凝固法が多く用いられており、Gasser神経節への高周波熱凝固の効果持続時間は40か月前後と報告されています[1]。

第三段階:外科的治療(微小血管減圧術)

薬物療法や神経ブロックでも痛みが抑えられない場合や、薬の副作用で生活に支障が出る場合には、手術が検討されます。日本の多くの脳神経外科施設で行われている主な手術は微小血管減圧術(MVD)で、日本神経治療学会の指針は「微小血管減圧術は唯一の根治的原因除去療法」としています[1]。これは、脳幹の近くで三叉神経を圧迫している血管を神経から遊離し、間にテフロン綿などを挟んで再圧迫を防ぐ手術です。同指針によれば、手術直後の疼痛消失率は約80〜95%、部分的な改善が2〜20%、無効例は0〜5%とされ、長期成績としては術後5年で70〜85%、10年で60〜70%、15年で70%の疼痛消失率が維持されると報告されています[1]。再発率は年間2〜3.5%で、多くは術後2年以内に起こるとされています[1]。海外の総説でも、「Microvascular decompression is the surgery of first choice in classical TN(微小血管減圧術は古典的三叉神経痛における第一選択の手術)」とされ、「pain-free rate of 62%–89% after 3–10 years of follow-up(術後3〜10年で62〜89%が無痛)」と報告されており、日本の報告と近い水準です[5]。

手術に伴う合併症としては、日本神経治療学会の指針によれば、微小血管減圧術における死亡率は0〜3%(多くは1%以下)、髄液漏が5.1〜7.9%、髄膜炎が2.2〜5.1%、聴神経障害などの脳神経障害が一時的に4.4〜8.9%、永続的なものは0〜1.9%程度と報告されています[1]。同指針は、全米305施設の調査で三叉神経痛・顔面けいれん・舌咽神経痛の微小血管減圧術を含めた死亡率は0.3%であり、そのうち75%は年間1例しかこの手術を行わない術者に起こっていたと紹介し、症例数の多い術者・施設ほど合併症が少ない傾向を指摘しています[1]。血管が確認できず開頭手術のリスクを負いたくない場合や高齢で全身麻酔が難しい場合には、経皮的にGasser神経節を高周波熱凝固やバルーン圧迫で処置する方法も選択肢になります。日本神経治療学会の指針によれば、高周波熱凝固法は早期の疼痛消失率が95〜100%と高いものの再発率も高く、1年後には80%、5年後には55%にまで疼痛消失率が低下するとされています[1]。バルーン圧迫法は早期疼痛消失率がほぼ100%である一方、こちらも1年後には85%、3年後には70%にまで低下し、合併症として高度な顔面感覚障害が10%、髄膜炎が2.6%とやや高いものの、その他の合併症は高周波熱凝固やグリセロールによるブロックより少ないとされ、同指針は「合併症の少なさから,バルーン圧迫法が第1選択と考えられており,疼痛が重症の場合には高周波熱凝固が選択されるべきである」としています[1]。海外の総説でも、経皮的な破壊的手技は「on average 3–4 years of pain relief(平均3〜4年の除痛効果)」で、繰り返しの処置が必要になることが多いとされ、微小血管減圧術より効果の持続期間が短い傾向が指摘されています[5]。

第四の選択肢:ガンマナイフ治療

高齢で全身麻酔のリスクが高い患者や、これまでの治療で十分な効果が得られなかった患者に対しては、開頭も穿刺も行わないガンマナイフ治療(定位放射線治療)が選択されることがあります。日本神経治療学会の指針が引用するRegisらの110症例の臨床研究では、1年以上のフォローアップで97.2%(104/107)に初期除痛効果が得られ、平均26.2日(1日〜6か月)で効果が現れたと報告されています[1]。その後5年間観察した除痛率は83%で、薬をまったく使わずに済む「完全medication free」の状態になったのは69.9%であったとされています[1]。治療後の合併症としては、顔面の感覚低下などの三叉神経障害が4.7%(5/107)にみられたにすぎず、その後ほかの治療を要するような真の再発率は14.4%(15/104)であったと報告されています[1]。同指針は、他のガンマナイフ以外の経皮的破壊的治療(glycerol rhizotomy、高周波凝固、バルーン圧迫など)全体の治療成績として、74〜94%に完全除痛が得られる一方、再発率は16〜45%と報告されている点も紹介しています[1]。ガンマナイフは開頭を伴わないため入院期間が短く体への負担が少ない一方、効果が出るまでに数週間〜数か月かかること、微小血管減圧術に比べて再発率がやや高いことを理解した上で、担当医と相談して選ぶことが大切です。

漢方薬という選択肢

日本神経治療学会の指針では、症例数は少ないものの漢方薬が有効であったという報告も紹介されています。具体的には五苓散、柴胡桂枝湯、小柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂皮加芍薬湯、芍薬甘草湯などが用いられ、なかでも利水薬として使われる五苓散の有効例が多いとされています[1]。同指針は、その作用機序について「三叉神経の root entry zone における圧迫部位において生じている三叉神経の浮腫を軽減することによって鎮痛効果を発現する機序が考えられている」と説明しています[1]。ただし、これらはあくまで西洋医学的な治療で十分な効果が得られない場合の補助的な選択肢として紹介されているものであり、カルバマゼピンなど第一選択薬の代わりとして自己判断で使うものではありません。

受診の目安:どの診療科に行けばよいか

片側の顔に、繰り返す電気が走るような一瞬の激痛があり、歯科で異常がないと言われた場合は、脳神経内科・脳神経外科・ペインクリニックのいずれかを受診することが勧められます。日本神経治療学会の指針は、三叉神経痛の患者が最初に受診するのは「脳疾患を専門としない一般医家である場合も少なくない」と述べており、まずかかりつけ医やペインクリニックに相談し、必要に応じて脳神経内科・脳神経外科に紹介してもらう流れでも問題ありません[1]。

特に速やかな受診が必要なサインとして、①片側の顔の感覚が鈍い・まひがある、②発作の合間にも鈍い痛みが続く、③両側性の痛みがある(多発性硬化症など中枢性疾患の関与を考慮すべきとされています[1])、④若年での発症、⑤角膜反射(まばたきの反射)が弱い——といった、症候性三叉神経痛(腫瘍などが原因)を疑わせる所見が挙げられます[1]。これらに当てはまる場合は、MRIなどの画像検査が可能な脳神経内科・脳神経外科への受診を急ぐべきです。保険診療の範囲内で、初診時の自己負担はおおむね3割です(高額療養費制度の詳細は次の見出しを参照)。

三叉神経痛は他の脳神経の病気と症状が紛らわしいこともあります。より広く脳神経の病気全般について知りたい場合は12対の脳神経のすべて|三叉神経痛・顔面神経麻痺などの症状・原因・最新治療法で、三叉神経痛と顔面神経麻痺など他の脳神経疾患との位置づけを整理しています。歯が原因ではない顔面の痛みについてさらに詳しく知りたい場合は三叉神経痛のすべて:その耐え難い痛みは歯のせいではないかもしれませんも参考になります。

日本と海外(AAN/EAN)のガイドライン比較

三叉神経痛の治療方針は、日本の学会と海外の学会でおおむね一致していますが、記載の重点にはやや違いがあります。海外の実践ガイドラインをまとめた総説(Practical Neurology誌、2021年)では、国際頭痛分類(ICHD-3)に基づき、三叉神経痛を血管圧迫による構造的変化がみられる「classical(75%)」、多発性硬化症や腫瘍などが原因の「secondary(約15%)」、原因不明の「idiopathic(約10%)」に明確に区分しています[5]。日本神経治療学会の指針も血管圧迫による「特発性」と、器質的疾患による「症候性」の2分類を用いており[1]、大枠の考え方は共通しています。

項目 日本(日本神経治療学会 2010年) 海外(Practical Neurology誌の実践ガイド 2021年)
第一選択薬 カルバマゼピン(最大1,200mg/day)[1] カルバマゼピンまたはオクスカルバゼピン(カルバマゼピン200〜1200mg/day、オクスカルバゼピン300〜1800mg/day)[5]
手術の第一選択 微小血管減圧術(唯一の根治的原因除去療法)[1] 「the surgery of first choice in classical TN」(微小血管減圧術が第一選択の手術)[5]
MRIの推奨シーケンス 3次元MR脳槽撮影+MRA合成画像、3次元CISS法など[1] 3D-CISS、time-of-flight MRA、3D T1強調ガドリニウム造影の組み合わせ[5]

両者で目立った矛盾は見当たりませんが、日本の指針はオクスカルバゼピンへの言及が薄く、フェニトインやバルプロ酸ナトリウム、漢方薬(五苓散など)まで幅広い選択肢を紹介しているのに対し[1]、海外の実践ガイドは第一選択薬をカルバマゼピンとオクスカルバゼピンの2剤に絞って推奨している点が異なります[5]。オクスカルバゼピンは日本でもてんかん治療薬として承認されていますが、三叉神経痛への保険適用は薬剤・処方状況によって異なるため、使用を検討する場合は主治医に相談してください。

医療費の目安

薬物療法は通常の保険診療の範囲内で、自己負担は3割が基本です。神経ブロックや微小血管減圧術などの手術は入院を伴い医療費が高額になりやすいため、高額療養費制度の対象になります。

💰 高額療養費制度の自己負担限度額(医療費100万円の例)
自己負担限度額(70歳未満・区分別)— 適用時期に注意
適用時期年収の目安計算式100万円の場合
~2026年7月診療分
現行
年収約370万~770万円(区分ウ) 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 87,430円
2026年8月診療分から
見直し後(第1段階)
年収約370万~770万円(区分ウ) 85,800円+1%(PDF原文の表記) 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small>
+ 年間上限 53万円(新設)

※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は 厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF) |JHO確認日:2026-07-16


よくある質問(FAQ)

三叉神経痛は歯の痛みとどう違いますか?
歯の痛みは虫歯や歯周病などの原因があるかぎり持続する痛みですが、三叉神経痛は誘因なく一瞬(数分の1秒〜2分)だけ電気が走るような激痛が起こり、その後は発作間欠期といって症状がない時間が続く点が大きく異なります[1][2]。歯科で異常が見つからないのに顔の激痛が繰り返す場合は、脳神経内科・脳神経外科・ペインクリニックへの受診を検討してください。
三叉神経痛の痛みはどれくらい続きますか?
1回の発作は数分の1秒から2分程度で終わりますが、重症例では断続的な発作が続けて起こり、体を動かせなくなるほどの痛みが持続することもあります[1]。発作と発作の間は痛みのない発作間欠期があるのが特徴です。
カルバマゼピンはどのくらいで効果が出ますか?また副作用は心配ですか?
日本ペインクリニック学会誌に掲載された報告では、治療開始時にカルバマゼピンへ良い反応を示す患者は98%とされ、比較的早く効果が実感できる薬です[4]。一方で同じ報告では約2人に1人(NNH:2.11)が何らかの副作用を経験し、めまいや薬疹、肝機能異常などが報告されているほか、まれに重篤な薬疹や血液障害が起こることもあるため、服用中は定期的な血液検査と自己判断での中止をしないことが大切です[4]。
薬が効かなくなったらどうすればいいですか?
カルバマゼピン単独で効果が弱い場合や副作用が強い場合には、フェニトインやバルプロ酸ナトリウム、クロナゼパム、ガバペンチンなど他の薬への変更・併用が検討されます[1]。それでも痛みが十分に抑えられない場合は、神経ブロックや微小血管減圧術などの手術療法が選択肢になります[1]。
微小血管減圧術(MVD)はどのくらい効果がありますか?
日本神経治療学会の指針では、手術直後の疼痛消失率は約80〜95%、術後5年で70〜85%、10年で60〜70%の疼痛消失率が維持されると報告されています[1]。海外の総説でも術後3〜10年で62〜89%が無痛とされ、日本の報告とおおむね一致した水準です[5]。微小血管減圧術は原因となっている血管の圧迫そのものを取り除く唯一の根治的な治療法とされています[1]。
手術のリスクはどのくらいですか?
日本神経治療学会の指針によれば、微小血管減圧術の死亡率は0〜3%(多くは1%以下)で、髄液漏が5.1〜7.9%、髄膜炎が2.2〜5.1%、聴神経など脳神経の一時的な障害が4.4〜8.9%、永続的な障害は0〜1.9%程度とされています[1]。手術を受ける病院の症例数が多いほど合併症が少ない傾向も報告されています[1]。
なぜ50歳以降に多いのですか?
50歳代以降は動脈硬化により血管の蛇行や屈曲が強くなり、脳幹近くで三叉神経の根元を圧迫しやすくなるためと考えられています[1]。日本神経治療学会の指針では、発症年齢の平均は男性51.3歳、女性52.9歳と報告されています[1]。
妊娠中や高齢でも治療できますか?
カルバマゼピンなどの抗てんかん薬は、妊娠中の使用について慎重な判断が必要な薬剤があるため、妊娠を考えている場合や妊娠中の場合は必ず主治医・産婦人科医に相談してください。高齢者の微小血管減圧術については、日本神経治療学会の指針で60歳以上の高齢群と59歳以下の若年群を比較した場合、疼痛消失率や重症合併症、入院期間に有意差はなく、死亡例もなかったと報告されており、全身麻酔に問題がなければ治療法として考慮されるべきとされています[1]。
放置するとどうなりますか?
三叉神経痛そのものが命に関わることは多くありませんが、痛みが強く食事や会話、歯磨きなどの日常動作が妨げられ、生活の質が大きく損なわれます[1]。また、症候性三叉神経痛の場合は腫瘍など背景にある病気の治療が遅れる可能性があるため、自己判断で市販の鎮痛薬だけに頼らず、早めに医療機関でMRIなどの検査を受けることが勧められます。
診療ガイドラインに基づいた治療の全体像をもっと詳しく知りたいのですが?
日本の診療ガイドラインに基づいた症状・原因・治療法の詳しい解説は三叉神経痛の全貌|日本の診療ガイドラインに基づく症状・原因・治療法でも取り上げています。あわせて確認すると理解が深まります。

三叉神経痛に関する記事一覧

三叉神経痛と多発性硬化症など中枢性疾患との関連の詳しい頻度については、今回参照した資料には日本国内データとしての記載が見当たりませんでした。両側性の三叉神経痛がある場合に中枢性疾患を考慮すべきという記載にとどめ、断定的な数値は記載していません[1]。

参考文献

  1. 日本神経治療学会治療指針作成委員会「標準的神経治療:三叉神経痛」神経治療学 27巻1号(2010年) jsnt.gr.jp/guideline/img/sansa.pdf
  2. International Headache Society「ICHD-3:13.1.1.1 Classical trigeminal neuralgia, purely paroxysmal」 ichd-3.org
  3. 日本ペインクリニック学会「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版」(Minds診療ガイドラインライブラリ掲載) minds.jcqhc.or.jp/summary/c00338
  4. 長沼芳和「三叉神経痛におけるカルバマゼピン療法の現状」日本ペインクリニック学会誌 26巻1号(2019年) jstage.jst.go.jp/article/jjspc/26/1/26_17-0032
  5. Lambru G, Zakrzewska J, Matharu M. “Trigeminal neuralgia: a practical guide.” Practical Neurology. 2021;21(5):392-402. pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8461413