【医師・理学療法士が解説】スモウデッドリフト完全ガイド:腰痛予防と科学的トレーニング法
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【医師・理学療法士が解説】スモウデッドリフト完全ガイド:腰痛予防と科学的トレーニング法

腰痛は、多くの日本人にとって「国民病」とも呼べるほど身近な症状です。厚生労働省が実施した2022年の国民生活基礎調査によると、病気やけが等で自覚症状のある人のうち、腰痛は男性で最も多く、女性でも肩こりに次いで2番目に多い訴えとなっています1。日常生活や労働に支障をきたすこの普遍的な問題に対し、科学的根拠に基づいた正しい筋力トレーニングが、有効な予防・改善策となり得ます。同時に、加齢に伴う筋力低下(サルコペニア)は、転倒や骨折のリスクを高め、健康寿命を縮める大きな要因です2

このような背景の中、専門家の間で近年特に注目されているのが「スモウデッドリフト」です。このトレーニングは、正しいフォームで行うことで、腰への負担を比較的低く抑えながら、下半身全体、特にお尻(大殿筋)や太ももの内側(内転筋)を効率的に強化できるという、優れた特性を持っています。しかし、その効果を最大限に引き出し、安全に行うためには、科学的な知見に基づいた正確な知識が不可欠です。

本記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、最新の研究論文、理学療法士やトップトレーナーといった専門家の見解を徹底的に分析・統合しました。読者の皆様が抱える「怪我への不安」「効果への疑問」「情報の不確かさ」といった全ての障壁を取り除き、スモウデッドリフトという優れたトレーニングの価値を、科学的根拠に基づいて深く理解し、自信を持って安全に実践できるよう、包括的かつ詳細な情報を提供します。この記事が、あなたのトレーニングを次のレベルへと引き上げ、健康的な未来を築くための一助となることを願っています。

この記事の科学的根拠

この記事は、インプットされた研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性を示したリストです。

  • Hanen NC, et al. (2025): この記事におけるスモウデッドリフトとコンベンショナルデッドリフトの生体力学的比較、特に腰椎への負荷に関するガイダンスは、この最新の査読付き論文に基づいています。
  • Escamilla RF, et al. (2002): 大腿四頭筋や内転筋など、スモウデッドリフトで主に活動する筋肉群に関する記述は、この筋電図(EMG)分析研究によって裏付けられています。
  • 山本義徳氏の見解: デッドリフトにおける骨盤後傾のリスクと安全なフォームの重要性に関する指導は、日本の著名なトレーニング指導者である山本氏の見識を引用しています。
  • 厚生労働省(MHLW): 日本における腰痛の現状や骨粗鬆症の予防に関する記述は、国民生活基礎調査や公式ガイドラインといった日本の公的機関が発表したデータに基づいています。
  • 複数のメタアナリシスおよびシステマティックレビュー: 特に閉経後女性の骨密度に対するレジスタンストレーニングの効果に関する推奨は、複数の高品質なレビュー研究の結果を統合したものです。

要点まとめ

  • スモウデッドリフトは、広い足幅(ワイドスタンス)で行うデッドリフトの一種で、上体がより直立するため、腰部への負担がコンベンショナルデッドリフトに比べて低いとされています3
  • 主な効果として、お尻(大殿筋)、太ももの内側(内転筋群)、太ももの前側(大腿四頭筋)の筋力・筋肥大に特に有効であることが、筋電図を用いた研究で示されています4
  • 特に閉経後の女性にとって、骨に適切な負荷をかけるレジスタンストレーニングは骨密度の維持・向上に寄与する可能性があり、複数のメタアナリシスでその有効性が支持されています5
  • 怪我を防ぎ効果を最大化するためには、背中を真っすぐに保ち、「バーを引く」のではなく「脚で地面を押す」意識で動作を行うなど、正しいフォームの習得が極めて重要です6
  • 初心者や女性でも、ダンベルやケトルベルを使ったバリエーションから安全に始めることができ、個々の目的や体力レベルに合わせたプログラムを組むことが可能です7

第1章:スモウデッドリフトとは?基本を理解する

スモウデッドリフトは、筋力トレーニングの王道であるデッドリフトの一つのバリエーションです。その名の通り、相撲の四股を踏むような広い足幅(ワイドスタンス)で構えるのが最大の特徴です。このスタンスの違いが、単なる見た目の変化だけでなく、力学的な特性や筋肉への刺激を大きく変える要因となります。

1.1. スモウデッドリフトの定義と特徴

スモウデッドリフトは、バーベルを床から持ち上げるという点ではコンベンショナルデッドリフトと同じですが、その動作は力学的に大きく異なります。広い足幅で構えることにより、体の重心が低くなり、股関節がバーベルに近くなります。その結果、バーベルを持ち上げるために必要な垂直方向の移動距離が短くなります3。物理学の観点から言えば、「仕事量(力 × 距離)」が減るため、理論上はより重い重量を扱える可能性があります。この特性から、パワーリフティングの競技会では多くの選手がスモウデッドリフトを選択します。

1.2. コンベンショナルデッドリフトとの決定的違い

スモウデッドリフトと、より一般的に知られているコンベンショナルデッドリフト(足幅を肩幅程度にするスタイル)のどちらを選択すべきか、という問いは多くのトレーニーが抱く疑問です。答えは、個々の体型、目的、そして柔軟性によって異なります。科学的なデータに基づき、両者の決定的な違いを理解することが、あなたにとって最適な種目を選択するための鍵となります。

以下の表は、近年の生体力学的研究や筋電図(EMG)を用いた研究から得られた知見をまとめたものです3489。これは、あなたのトレーニング選択をデータに基づいて行うための重要な羅針盤となります。

表1:スモウ vs. コンベンショナルデッドリフト:筋活動(EMG)と生体力学の比較
比較項目 スモウデッドリフト (Sumo Deadlift) コンベンショナルデッドリフト (Conventional)
主な活動筋 大腿四頭筋 (太もも前側)、内転筋群 (太もも内側) の活動が高い傾向にある34。大殿筋(お尻)への刺激も強い。 脊柱起立筋 (背中)、大腿二頭筋 (ハムストリングス) の活動が高い傾向にある3
腰部(腰椎)への負荷 上体がより直立するため、モーメントアーム(てこの原理における支点からの距離)が短くなり、腰椎への負荷が比較的低い810 上体の前傾が深くなるため、モーメントアームが長くなり、腰椎への負荷が比較的高い8
股関節への要求 より大きな股関節の外旋(つま先を外に向ける動き)と、それに対応する内転筋群の柔軟性が必要8 より大きな股関節の屈曲・伸展(深くかがみ、立ち上がる動き)の可動域が必要3
膝関節への負荷 膝を伸ばす力(膝伸展トルク)がより大きく要求される傾向がある11 膝を曲げる力(膝屈曲トルク)がより大きく要求される傾向がある11
バーの移動距離 短い。力学的には有利とされる3 長い3
体型との相性 腕が比較的短く、胴体が長い人に有利な可能性があると示唆されている9 腕が比較的長く、胴体が短い人に有利な可能性があると示唆されている9

どちらを選ぶべきか? この問いに絶対的な正解はありません。しかし、上記の科学的データは明確な指針を与えてくれます。

  • 腰に不安がある、または腰痛を予防したい方:上体が直立し、腰への負担が少ないスモウデッドリフトが第一候補となり得ます。
  • お尻や内ももを集中的に鍛え、引き締めたい方:大殿筋と内転筋への刺激が強いスモウデッドリフトが効果的です。
  • 背中やハムストリングスを総合的に強化したい方:脊柱起立筋や大腿二頭筋への負荷が高いコンベンショナルデッドリフトが適しているでしょう。

最終的には、ご自身の体の声を聞き、痛みや違和感がないかを確認しながら、両方のスタイルを試してみることが最も重要です。

第2章:科学が証明するスモウデッドリフトの7大効果

スモウデッドリフトは、単に重いものを持ち上げるだけの運動ではありません。正しく実践することで、私たちの体に多岐にわたる有益な効果をもたらすことが、数多くの科学的研究によって証明されています。ここでは、その代表的な7つの効果を、科学的根拠と共に詳しく解説します。

2.1. 【最大のメリット】腰部への負担軽減と腰痛予防

スモウデッドリフトが持つ最大の利点の一つは、腰への負担がコンベンショナルスタイルに比べて少ないことです。これは感覚的なものではなく、生体力学的な原理に基づいています。2025年に行われたHanenらの研究を含む複数の分析によると、スモウデッドリフトは広いスタンスのために上体をより直立に近い角度に保つことができます。これにより、腰椎にかかる剪断力(せんだんりょく、骨を前後にずらそうとする力)とモーメント(回転力)が有意に小さくなる可能性が示唆されています310

日本の著名なトレーニング指導者である山本義徳氏も、デッドリフトで腰を痛める最大の原因は動作中の「骨盤の後傾」(骨盤が後ろに倒れ、背中が丸まってしまう状態)であると指摘しています12。スモウデッドリフトの直立した姿勢は、この骨盤後傾のリスクを構造的に軽減するのに役立つと考えられ、腰痛経験者や予防を重視する方にとって、より安全な選択肢となり得るのです。

2.2. ターゲットを絞った筋力・筋肥大

スモウデッドリフトは、特定の筋肉群に集中的な刺激を与えるのに非常に効果的です。Escamillaらが行った筋電図(EMG)を用いた研究では、コンベンショナルデッドリフトと比較して、スモウデッドリフトは大腿四頭筋(太ももの前側)と内転筋群(太ももの内側)の筋活動が有意に高いことが示されました4。また、股関節の動きが大きいため、大殿筋(お尻の筋肉)にも強い負荷がかかります。このため、ヒップラインを整えたい、脚全体をバランス良く鍛えたい、という目的に対して非常に高い効果が期待できます。

2.3. 女性に嬉しいヒップアップと美脚効果

前述の筋活動データは、特に女性にとって魅力的な効果に直結します。大殿筋への集中的な刺激は、丸みのある引き締まったヒップライン、いわゆる「ヒップアップ」に直接貢献します。さらに、日常生活や他のトレーニングでは意識しにくい内転筋群を強力に鍛えることで、太ももの内側が引き締まり、すっきりとした美しい脚のラインを作り出す助けとなります3

2.4. 【特に閉経後女性】骨密度の維持・向上

骨の健康は、特に年齢を重ねる女性にとって極めて重要な課題です。骨粗鬆症は骨折のリスクを著しく高めます。この問題に対し、レジスタンストレーニングは非常に有効な手段であることが科学的に証明されています。

2023年に行われたネットワークメタアナリシス(複数の研究を統合・比較する質の高い分析手法)では、閉経後女性において、中強度のレジスタンストレーニングが腰椎と大腿骨頸部の骨密度(BMD)を改善するのに最も効果的であったと結論付けられています13。また、デッドリフトやスクワットのような高抵抗運動が骨密度改善に有効であることを示したシステマティックレビューも複数存在します514

日本の厚生労働省も「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」の中で、骨に負荷のかかる運動を推奨しており15、スモウデッドリフトは、その条件を満たす効果的なトレーニングと言えます。適切な負荷設定のもとで行うことで、将来の骨折リスクを低減し、健康寿命を延ばすための強力な投資となるでしょう。

2.5. パフォーマンス向上のためのホルモン分泌促進

デッドリフトのような多関節・高強度のトレーニングは、体内のホルモン環境にも良い影響を与える可能性があります。高強度のレジスタンストレーニングが、筋肉の成長や修復に不可欠なテストステロンや成長ホルモンといったアナボリックホルモン(筋肉の合成を促すホルモン)の分泌を一時的に高めることが、複数の研究で示唆されています16。これは、筋力向上や身体能力の向上を目指すすべての人にとって有益な効果です。

2.6. 全身の連動性と握力の強化

スモウデッドリフトは、単一の筋肉だけでなく、下半身から体幹、上半身に至るまで、全身の筋肉を協調させて動かす「全身運動」です。この動作を繰り返すことで、スポーツや日常生活における体の連動性、つまり効率的な力の伝え方を向上させることができます。また、高重量のバーベルを保持すること自体が、非常に優れた握力トレーニングになります。

2.7. メンタルヘルスへの好影響(エンドルフィン効果など)

高強度の運動は、幸福感をもたらし痛みを和らげる効果のある神経伝達物質「エンドルフィン」の分泌を促すことが知られています。目標重量を達成した時の達成感や自己効力感の高まりは、精神的な強さや自信にも繋がり、ストレスの軽減などメンタルヘルスにも良い影響をもたらします。

第3章:【最重要】怪我をしないための正しいフォームとテクニック

スモウデッドリフトの数々の恩恵を享受するためには、何よりもまず「正しいフォーム」を習得することが絶対条件です。誤ったフォームは効果を半減させるだけでなく、腰や膝に深刻な怪我を引き起こす危険性があります。この章では、専門家の知見と科学的根拠に基づき、安全かつ効果的なフォームを段階的に解説します。

3.1. 準備:セットアップの5つのチェックポイント

リフトを始める前の準備(セットアップ)が、成功の9割を決定すると言っても過言ではありません。以下の5つのポイントを、鏡で確認しながら丁寧に行いましょう。

  1. 足幅とつま先の向き: 足幅は肩幅よりもかなり広く取ります。目安としては、バーベルを握った時に腕が脚の内側にくる程度です。つま先は45度程度、自然に外側へ向けます。この角度は個人の股関節の柔軟性によって調整してください17
  2. グリップ(握り方): 足の内側でバーベルを握ります。握り幅は肩幅程度が基本です。両手を順手で握る「オーバーハンドグリップ」、片手を順手、もう片方を逆手で握る「オルタネイトグリップ」がありますが、初心者はまずオーバーハンドグリップで始めましょう。
  3. 背中のアライメント: 最も重要なポイントです。お尻を下げて構えた際、背中は頭からお尻までが一直線になる「自然なS字カーブ」を維持します。決して背中を丸めてはいけません。胸を張り、肩甲骨を寄せる意識を持つと、正しい姿勢を作りやすくなります。
  4. お尻の位置: お尻の位置は、高すぎても低すぎてもいけません。低すぎるとスクワットのようになり、高すぎると背中が丸まりやすくなります。バーベルがすねのすぐ近くにあり、肩がバーの真上か少し前にくる位置が適切です。
  5. 視線: 視線は、数メートル先の床、または正面やや下方に固定します。上を向きすぎると首を痛め、下を向きすぎると背中が丸まる原因になります。

3.2. 挙上(リフト):地面を押す感覚と体幹の固定

セットアップが完了したら、いよいよ挙上動作に入ります。ここでの意識が、腰への負担を大きく左右します。

最重要ポイント:バーを「腕で引く」のではなく、「脚で地面を強く押す」意識を持つこと。

この意識により、動作の主動筋が腕や背中ではなく、強力な下半身の筋肉群になります。これが、安全でパワフルなリフトの秘訣です6

また、リフトを開始する直前に大きく息を吸い込み、お腹を固めて腹圧を高めます(バルサルバ法)。この腹圧が、天然のトレーニングベルトのように体幹を内側から支え、腰椎を安定させます18。バーベルが膝を通過するあたりで息を吐き始め、立ち上がった時に完全に吐き切るのが一般的な呼吸法です。

3.3. 下降(ネガティブ):コントロールが効果を高める

バーベルを持ち上げること(ポジティブ動作)だけでなく、下ろすこと(ネガティブ動作)もトレーニングの重要な一部です。バーベルをドンと落としてしまうのではなく、挙上時と逆の軌道を通りながら、ゆっくりとコントロールして下ろします。このネガティブ動作は、筋肉に持続的な刺激を与え、筋肥大の効果を高める上で非常に重要です17

3.4. よくある間違いとその科学的修正法

オンラインのQ&Aサイトなどでは、多くの初心者が同じような間違いを経験していることがわかります。ここでは、代表的なエラーとその科学的な原因、そして専門家が推奨する修正法を解説します。

  • 間違い1:背中が丸まる(特に挙上開始時)
    原因: 腹圧の不足、背筋の筋力不足、または「腕で引こう」とする意識が強すぎることが原因です。背中が丸まると、腰椎に負荷が集中し、椎間板ヘルニアなどの重篤な怪我のリスクが激増します19
    修正法: まずは重量を下げ、正しいフォームを徹底します。「脚で床を押す」意識を再確認し、腹圧をしっかりかける練習をしましょう。
  • 間違い2:腰で引いてしまう(お尻が先に上がる)
    原因: 脚で押す力よりも、背中を反らす力で上げようとすると起こります。これも腰への負担を増大させます。
    修正法: 肩と股関節が同時に同じ速度で上がるように意識します。誰かに横から動画を撮ってもらうと、フォームを確認しやすくなります。
  • 間違い3:膝が内側に入る(ニーイン)
    原因: 内転筋や大殿筋の筋力不足、または股関節の柔軟性不足が考えられます。膝関節に不自然なストレスをかけ、靭帯損傷のリスクを高めます。
    修正法: 挙上中は常につま先と同じ方向に膝を向けるように意識します。「膝で外側の壁を押す」ようなイメージを持つと効果的です。
  • 間違い4:バーが体から離れる
    原因: バーが体から離れると、モーメントアームが長くなり、腰への負担が急激に増大します。
    修正法: バーを常にすねと太ももに沿わせるように、体に引きつけながら動作を行います。

第4章:目的別トレーニングプログラム

スモウデッドリフトは、個々の目的や体力レベルに応じて様々な形でプログラムに組み込むことができます。ここでは、初心者、女性、そして筋力向上を目指す中〜上級者向けの具体的なプログラム例を紹介します。

4.1. 初心者向けスタートガイド

初心者が最も優先すべきは、重量よりもフォームの習得です。焦らず、安全に始めることが長期的な成功に繋がります。

  • 重量設定: まずはバーベルのバーのみ(通常20kg)、あるいはさらに軽い重量から始めましょう。自重でのフォーム練習も非常に有効です20
  • 漸進的過負荷の原則: 正しいフォームで設定した回数をこなせるようになったら、少しずつ(例:2.5kgずつ)重量を増やしていきます。これが筋力を伸ばすための基本原則です。
  • 推奨レップ数とセット数: 筋肥大と基本的な筋力向上を目的とする場合、6〜8回を1セットとし、2〜3セット行うのが一般的です3。セット間の休憩は2〜3分程度取りましょう。

4.2. 女性向けバリエーション

「バーベルはハードルが高い」と感じる女性や、ジムに通えない方でも、スモウデッドリフトの恩恵を受けることは可能です。ダンベルやケトルベルを使えば、自宅でも安全に始めることができます。

  • ダンベル・スモウデッドリフト: 両手に一つずつダンベルを持ち、脚の間に垂らすようにして構えます。基本的な動作はバーベルと同じです。バランスを取りやすく、初心者にもおすすめです721
  • ケトルベル・スモウデッドリフト: 両手で一つのケトルベルのハンドルを持ち、体の中心で構えます。スイング動作と組み合わせることもでき、心肺機能の向上にも役立ちます。
  • 抵抗バンドを使った方法: 抵抗バンドを両足で踏み、両手でバンドの端を持つことでも、同様の動作を行うことができます。負荷は軽いですが、フォームの学習やウォームアップに適しています。

4.3. 筋力向上を目指す中〜上級者向けプログラム

最大筋力の向上を主な目的とする場合、プログラムの組み方が変わってきます。

  • 高負荷・低回数: 最大挙上重量(1RM)の85%以上の高重量を用い、1〜5回を1セットとし、3〜5セット行うのが一般的です3
  • 十分な休息: 高負荷トレーニングでは神経系への負担も大きいため、セット間の休息は3〜5分と長めに取ります。また、スモウデッドリフトのような高強度トレーニングは週に1〜2回程度にとどめ、十分な回復期間を設けることが重要です。

4.4. アスリート向け:パフォーマンス向上のための応用

柔道、レスリング、アメリカンフットボールなど、爆発的なパワーを必要とするスポーツのアスリートにとって、スモウデッドリフトは競技力向上に直結するトレーニングです。国立スポーツ科学センター(JISS)などでも、トップアスリートの能力向上のために、科学的根拠に基づいた筋力トレーニングが活用されています22。アスリートは、挙上速度を意識した「スピードデッドリフト」や、可動域を制限して特定の筋群を狙う「ブロックプル」などをプログラムに組み込むことがあります。

第5章:専門家からのアドバイスとQ&A

ここでは、本記事の作成にあたり参照した専門家や権威機関からの提言をまとめるとともに、読者の皆様からよく寄せられる質問に対して、科学的根拠に基づき回答します。

5.1. 引用・監修した専門家からの提言

本記事の信頼性は、第一線で活躍する専門家たちの知見に支えられています。

表2:引用した日本の専門家・権威機関
氏名/機関名 専門分野/資格 要約された提言
山本 義徳 筋力トレーニング指導者, VALX監修12 デッドリフトにおける腰痛の主原因は「骨盤の後傾」であると強調。安全なフォームの徹底が、怪我を防ぎ効果を最大化する鍵であると指摘。
鈴木 智 理学療法士(PT), 東京スポーツ&整形外科クリニック23 トップアスリート(プロ野球、柔道等)のリハビリ経験から、スポーツ傷害の予防とリハビリテーションにおける正しい筋力強化の重要性を説く。
小川 靖之 理学療法士(PT), 元広島東洋カープトレーナー24 プロ野球選手のトレーナーとしての現場経験に基づき、実践的なコンディショニングと、個々の身体特性に合わせたトレーニングの必要性を提言。
厚生労働省 (MHLW) 日本の公的機関1525 骨粗鬆症予防のための運動療法や、腰痛などの国民的な健康課題に関するデータを提供し、予防医学の観点から運動の重要性を示している。

5.2. よくある質問(FAQ)

Q: 全くの初心者でも安全にできますか?

はい、正しい指導のもとで、非常に軽い重量から始めれば安全に行うことができます。最初は専門知識を持つパーソナルトレーナーの指導を受けることを強くお勧めします。トレーナーはあなたのフォームをチェックし、個々の体力レベルに合わせた適切なプログラムを提案してくれます。自己流で始める前に、まずは自重や非常に軽いダンベルでフォームを完璧にすることを目指してください。

Q: どのくらいの頻度でやるべきですか?

スモウデッドリフトは全身に高い負荷をかけるトレーニングのため、十分な回復期間が必要です。初心者の場合は週に1回、他のトレーニングとの兼ね合いを見ながら行うのが良いでしょう。中〜上級者であっても、高強度で行う場合は週に1〜2回が一般的です。筋肉は休息中に成長するため、「やりすぎ」は逆効果になることを覚えておいてください。

Q: 体重は何kgから始めるべきですか?

重量設定に「正解」はありません。重要なのは、正しいフォームを維持できる最も重い重量を見つけることです。女性であればダンベル(2〜5kg程度)から、男性であればバーベルのバーのみ(20kg)から始めて、フォームが安定していることを確認しながら少しずつ増やしていくのが安全なアプローチです。見栄を張らず、自分の体と対話することが大切です。

Q: トレーニングベルトは必要ですか?その効果と注意点は?

トレーニングベルトは、腹圧を高めて体幹を安定させ、腰椎を保護する効果があります26。最大挙上重量に近い高重量を扱う際には、怪我の予防に役立ちます。しかし、初心者のうちはベルトに頼るのではなく、自力で腹圧を高める技術(ブレーシング)を習得することが優先です。ベルトはあくまで補助的なツールであり、ベルトをすればフォームが崩れても良いというわけでは決してありません。

Q: トレーニング前後の食事や栄養で気をつけることは何ですか?

トレーニングのエネルギー源として、トレーニングの1〜2時間前にバナナやおにぎりなどの炭水化物を摂取すると良いでしょう。トレーニング後は、筋肉の修復と成長を促すために、30分〜1時間以内にタンパク質(プロテインシェイク、鶏胸肉、卵など)と炭水化物を摂取することが推奨されます。十分な水分補給も忘れないでください。

結論:あなたのトレーニングを次のレベルへ

本記事を通じて、スモウデッドリフトが単なる筋力トレーニングではなく、科学的根拠に裏打ちされた、安全性と効果を両立する極めて優れたエクササイズであることをご理解いただけたかと思います。腰部への負担を軽減しながら下半身を強力に鍛え、さらには骨の健康にも貢献する可能性を秘めたスモウデッドリフトは、初心者からアスリート、そして特に健康に関心のある女性や中高年に至るまで、幅広い層に恩恵をもたらします。

重要なのは、この記事で得た知識を実践に移すことです。しかし、焦る必要はありません。あなたのトレーニングを次のレベルへと安全に導くために、最後に以下のチェックリストを確認してください。

  • フォームが第一、重量は第二:常に正しいフォームを最優先してください。
  • 自分の体と対話する:痛みや違和感は体が発する重要なサインです。決して無視しないでください。
  • 専門家を活用する:可能であれば、一度は資格を持つ専門家の指導を受け、客観的なフィードバックをもらいましょう。
  • 継続こそが力:短期的な結果を求めるのではなく、長期的な視点で、安全にトレーニングを継続することが最も重要です。

この記事で提供した科学的根拠と専門家の知見は、あなたのトレーニングをより安全で効果的なものにするための強力なツールです。しかし、個人の体力レベル、柔軟性、既往歴に合わせた最適なプログラムは、専門家との対話によってのみ完成します。ぜひ、信頼できる医師や理学療法士、あるいは資格を持つパーソナルトレーナーに相談し、あなただけのトレーニングプランを立てる第一歩として、本記事をご活用ください。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医療アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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