はじめに
女性が生涯を通じて遭遇し得る健康問題の中でも、炎症性骨盤疾患は特に注意を要する疾患の一つです。本疾患は日本国内でも比較的多くの女性に見られ、とりわけ生殖年齢にある方が影響を受けやすい傾向にあります。早期に正しい知識を得て適切にケアを行うことは、将来の健康リスクを予防するうえで非常に重要です。本稿では、炎症性骨盤疾患の基礎知識から原因、症状、合併症、診断と治療、そして予防法に至るまで、できるだけ多面的に詳述していきます。女性の身体を守り、心身ともに健康的な生活を送るための指針としてお役立ていただければ幸いです。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本稿で取り上げる内容は、あくまで一般的な情報提供を目的としてまとめています。万が一、下腹部の痛みや発熱、月経異常など気になる症状がある場合には、自己判断で様子を見たり市販薬で対処したりするのではなく、必ず産婦人科などの専門医へ相談し、正確な診断と必要な治療を受けるようにしてください。さらに、感染症や生殖器に関する問題は複雑かつ個別性が高いため、一人ひとりの状況に合わせたカウンセリングや治療プランが求められます。早期に適切な対応をとることで合併症リスクを下げ、将来の妊娠や健康面への悪影響を最小限にとどめることが可能になります。
炎症性骨盤疾患とは?
炎症性骨盤疾患(Pelvic Inflammatory Disease:PID)とは、女性の生殖器官である卵管や卵巣、さらにそれらを支える靭帯や周囲組織に炎症が生じる疾患です。初期には卵管から始まり、隣接組織に炎症が波及しやすいのが特徴となります。発症の形態としては、急速に症状が進む急性期と、症状が軽減しながらも長期間にわたって再発を繰り返す慢性期に大別されます。いずれの段階でも適切な治療が行われない場合、将来的に重大な合併症を引き起こす可能性があります。
女性の生殖機能には、卵管・卵巣・子宮などの器官が相互に連携して働く繊細なメカニズムがあります。これらは妊娠や月経をはじめ、女性が心身ともに健康に生活を営むうえで欠かせない役割を担っています。このため、炎症がひとたび広がると不妊症や子宮外妊娠といった重篤な問題に直結しやすく、身体的負担だけでなく精神的なストレスとも深く結びついてしまうことが多いのです。
炎症性骨盤疾患の原因
1. 主たる要因は性感染症
炎症性骨盤疾患の最も代表的な原因は、性感染症をもたらす細菌感染です。具体的にはクラミジア(Chlamydia trachomatis)や淋菌(Neisseria gonorrhoeae)などが知られており、これらの病原菌が膣や子宮頸部から卵管、卵巣へと上行感染することで炎症が広がっていきます。この性感染症は、無防備な性交渉や複数パートナーとの頻繁な性行為、あるいはコンドームを使用しない性行動などによってリスクが高まります。
2. 安全でない性的行動
避妊具を使わない性交渉は、性感染症のリスクを格段に増加させる要因です。特に複数のパートナーとの性交渉がある場合、性感染症が拡大しやすく、結果として炎症性骨盤疾患を引き起こす可能性が高まります。実際に、性感染症の拡大を抑制するためにはコンドームの使用が有効であることが国内外の多くの研究で示唆されています。安全な性行動を徹底することで、疾病リスクを大幅に抑えられます。
3. 持続する婦人科的な炎症
膣や子宮頸部の軽微な炎症であっても、適切に治療を受けず長引かせると周囲組織に波及してしまう恐れがあります。自己判断での対症療法や市販薬の使用は症状の一時的な緩和にとどまり、根本原因を解決できないケースが多いため注意が必要です。専門医の診察・検査を受けて炎症の原因となる病原菌を突き止め、完全に治療することが重要です。
4. 不適切な個人衛生
陰部のケアを誤った方法や製品で行うと、膣内や周辺の細菌バランスが乱され、感染症を誘発しやすくなります。特に月経中は膣内が湿潤状態になり、細菌が繁殖しやすい環境です。ナプキンの交換頻度が低い、あるいは十分な洗浄が行われないケースでは、病原菌の増殖を助長し、炎症を悪化させるリスクが高まります。
5. 医療処置の不備
人工中絶や不適切な避妊手術など、女性の生殖器官を扱う医療行為が不衛生な環境や十分な滅菌が施されていない医療機関で行われると、感染を起こしやすくなります。処置の質が低いほど感染リスクは高まり、術後の炎症や癒着によって炎症性骨盤疾患を発症する確率が増すのです。安心できる施設・医療スタッフを選び、術後も定期的に検診を受けることで、こうした合併症を回避することが期待できます。
強調文:
炎症性骨盤疾患の原因は多岐にわたりますが、性感染症を防ぐ意識や衛生管理の徹底、そして疑わしい症状がある場合の早期受診がもっとも基本的な予防策です。特に若年層から正しい性の知識を身につけることが、将来的な健康リスク低減につながります。
炎症性骨盤疾患の症状
炎症性骨盤疾患の症状は、急性期と慢性期で特徴が大きく異なります。急性期には発熱や強い下腹部痛などはっきりとした体調変化がみられる一方、慢性期は症状がやや落ち着くものの再発を繰り返し、長期にわたり生活の質を下げることがあります。
急性期の症状
- 下腹部の痛み:突然の激痛が起こることがあり、ときに歩行や日常動作が困難になるほど強い場合もあります。
- 発熱(38度以上):身体の防御反応として発熱が起こり、高熱が続くことも珍しくありません。
- 悪寒や寒気:急激な体温の変化に伴い、全身が震えるような寒気を覚えることがあります。
- 触診時の腹部痛:片側に強い圧痛がある場合、局所的な炎症が疑われます。
慢性期の症状
- 不定期な下腹部痛:鈍い痛みが持続したり、運動やストレスで痛みが増したりすることがあります。
- 微熱や発熱なし:大きな発熱はなくとも、37度台の微熱が長引く場合があります。
- 膣分泌物の異常:膿を含むような黄色〜緑色の帯下、あるいは不快な臭いを伴う分泌物が続くことがあります。
- 月経異常:強い月経痛や不正出血、月経周期の乱れなどが起こりやすく、月経過多または過少になる場合があります。
強調文:
これらの症状は他の婦人科疾患とも類似することが多いため、自己流の判断で鎮痛剤や市販薬に頼るのではなく、早めに産婦人科などを受診して原因を特定することが大切です。特に急性期は進行が早く、慢性期に移行すると繰り返し症状が続き、のちのちの生活にも影響を及ぼす可能性があります。
炎症性骨盤疾患の合併症
適切な治療を受けずに炎症性骨盤疾患を放置したり、不十分なケアにとどめたりした場合、さまざまな合併症が起こる可能性があります。これらの合併症は身体面だけでなく精神面の負担にもつながります。
1. 子宮外妊娠
卵管などが炎症により損傷・癒着すると、受精卵がスムーズに子宮まで移動できず、子宮外(卵管など)で着床してしまう危険性があります。子宮外妊娠は母体にとって生命を脅かすリスクの高い状態であり、緊急手術が必要になるケースも少なくありません。早期に適切な治療が行われなかった場合、大量出血などの重篤なリスクがあります。
2. 不妊症・妊娠困難
卵管の閉塞や著しい癒着が起こると、卵子と精子の出会い自体が妨げられ、自然妊娠が難しくなる場合があります。一度ダメージを受けた卵管は、元の状態に完全に戻すのが難しいケースも多いため、将来的に不妊治療が必要となる可能性が高まります。年齢が高くなるほど生殖力が低下する一方で、卵管ダメージが残ったままでは治療の難度も上がるため、早期の対応が極めて重要です。
3. 付属器膿瘍
炎症が長期間続くと、卵巣や卵管周辺に膿瘍(膿のかたまり)が形成されることがあります。膿瘍が大きくなると、臓器の機能を圧迫したり、破裂して腹腔内に感染が広がったりして重篤な腹膜炎を引き起こす危険性があります。こうした緊急状態では、外科的な排膿手術や、場合によっては患部の切除を伴う大掛かりな手術を要することがあるため、患者の身体的負担も大きくなります。
4. 深刻な感染症リスク
炎症が広範囲に及ぶと、腹膜炎や敗血症など全身性の重い感染症につながる可能性があります。特に敗血症は早期に強力な抗生物質治療と集中治療が必要な重篤状態で、一刻を争う場面も多々あります。見逃しや放置を続けると、生命の危機に直結することがあるため注意が必要です。
5. 生活の質の低下
慢性的な下腹部の違和感や痛み、微熱などが続くことで、日常生活だけでなく心理的健康にも悪影響を及ぼします。睡眠不足や仕事のパフォーマンス低下、人間関係へのストレスなど、生活の質(QOL)が大幅に下がる要因となります。とくに再発を繰り返す場合は「また痛みが来るのではないか」という不安が常にあり、気持ちの面でも大きな負担となるでしょう。
強調文:
合併症を未然に防ぐためにも、異常を感じた段階で専門医の診察を受けることが重要です。炎症性骨盤疾患を軽視せず、痛みや発熱などのサインを見逃さないようにする姿勢が、将来の健康維持には欠かせません。
診断と治療
診断方法
- 問診・症状の聴取
病院やクリニックでは、まず患者の既往歴や現在の症状の有無、性感染症のリスク要因(避妊法、性交渉の頻度など)について詳しく聞かれます。 - 血液検査
炎症マーカー(白血球数、CRPなど)が上昇しているかどうか、感染の有無や程度を確認します。 - 尿検査
泌尿器系の感染や他の病気との鑑別を行うために実施されます。 - 膣分泌物の検査
分泌物を採取し、細菌培養検査やPCR法などで病原菌(クラミジアや淋菌など)の有無を特定します。 - 画像検査(超音波・CT・MRIなど)
卵巣や卵管、骨盤内の炎症広がり、膿瘍の有無をチェックします。必要に応じて造影剤を用いることで病変部位をより詳細に把握することが可能です。
これらの結果を総合して診断が行われ、適切な治療方針が立てられます。炎症の度合いと原因微生物を正確に把握することが、合併症予防や早期治療に直結すると考えられています。
治療法
- 抗生物質療法
もっとも一般的な治療アプローチは、炎症や感染の原因となっている細菌を抑えるための抗生物質投与です。病原菌の種類に合わせて選択された適切な抗菌薬を規定の期間、しっかり服用します。症状が緩和しても途中で服用を中断すると完治せず、再発リスクが高まるため指示通りに服用し続けることが重要です。 - 点滴治療・入院管理
急性期で重症化しているケースや、経口薬の効果が得られにくい場合には、医療機関で点滴による抗生物質投与を実施します。全身状態の管理が必要なほど重症の場合は入院治療が考慮されます。 - 手術
膿瘍が形成され、抗生物質だけでは十分な改善が期待できないケースでは、外科的に排膿したり、組織の切除を行う必要があります。腹腔鏡下手術など侵襲の少ない方法がとられることもありますが、症状の進行度や炎症の広がりによっては開腹手術が選択されることもあります。 - 疼痛管理・対症療法
強い腹痛や発熱などの症状がある場合、鎮痛薬や解熱剤を用いて症状を和らげ、患者の負担を軽減します。しかし、対症療法はあくまで症状の緩和を目的とするものであり、根本原因を取り除く治療を並行して進めることが不可欠です。
強調文:
診断が早い段階で行われれば、抗生物質による治療で充分に回復が見込めることがほとんどです。合併症が進行してしまうと治療の難易度が一気に上がり、長期間の入院や手術が必要になるリスクが高まります。したがって、少しでも異常を感じたら速やかに受診することが望まれます。
予防方法
炎症性骨盤疾患を防ぐには、日頃の生活習慣や衛生管理、そして性行動に関する意識が大切になります。以下の点を押さえておくことで、大部分のリスクを低減することが可能です。
- 安全な性行為の実施
代表的な性感染症を防ぐうえで、コンドームの使用は最も基本かつ有効な方法の一つです。特に若年層では無防備な性交渉によるクラミジア感染などが問題視されており、学校教育でも啓発が進んでいます。 - 適切な陰部の清潔管理
月経中や性行為後は陰部を清潔に保つ必要があります。ただし、過度な洗浄剤の使用やゴシゴシ洗いは膣内の正常な細菌バランスを崩し、逆に感染リスクを高める場合があるため注意が必要です。適温の流水でやさしく洗う、あるいは専門医の推奨する方法でケアすることが大切です。 - 婦人科疾患の確実な治療
膣炎や子宮頸部炎などの軽度な婦人科疾患も放置すると、炎症が上行して骨盤内に波及する恐れがあります。早期診断・治療により重症化を防ぐことができます。もし異常な帯下や出血が続く場合は、速やかに受診しましょう。 - 定期的な婦人科検診
自覚症状がない段階であっても、定期検診によって小さな異常や感染を早期に発見できることがあります。年齢や既往歴によって検診の頻度は異なりますが、一般には年に1回程度の検診が推奨されます。 - 健康的なライフスタイルの維持
バランスの良い食事や十分な睡眠、過度なストレスを避ける生活習慣は免疫機能の維持・向上につながります。免疫力が高いと感染症にかかりにくいだけでなく、感染しても重症化を防ぎやすくなることが報告されています。
強調文:
予防は将来の大きな治療負担を減らすうえで極めて重要です。特に安全な性行動の徹底や定期検診の受診は、公的機関や産婦人科医からも強く推奨されている基本項目となります。軽視しがちな日常のケアを見直すだけでも、大幅にリスクを下げることが期待できます。
生活とセルフケアのポイント
炎症性骨盤疾患を未然に防ぎ、あるいは再発を防ぐためには、単に治療や外部からのケアを受けるだけでなく、日常生活の中で自己管理を徹底することも欠かせません。
- 下着の選択と着用法
通気性の良い綿素材の下着を選ぶ、きつすぎる服装を避けるなど、陰部の通気や衛生に配慮した選択を意識しましょう。 - 適切な洗浄と乾燥
入浴後は陰部をきちんと乾かし、湿潤状態を長引かせないようにすることがポイントです。膣内洗浄などを独断で多用するのは、かえって常在菌のバランスを崩すリスクがあります。 - 性行為後のケア
性行為後は可能な限り早めに排尿し、陰部を清潔に保つよう心掛けます。細菌や病原体が尿道や膣内に留まらないようにすることが重要です。 - ストレスマネジメント
ストレスが慢性的に続くと免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなる可能性があります。適度な運動や趣味の時間を確保して気分転換を図り、ストレス軽減に努めましょう。 - パートナーとのコミュニケーション
性感染症のリスクを減らすためには、パートナー間での情報共有や理解が不可欠です。もし自分が炎症性骨盤疾患や性感染症に罹患した場合も、パートナーへきちんと伝え、必要に応じて検査や治療を受けてもらう必要があります。
心理的影響とサポート
炎症性骨盤疾患は身体的な痛みや不安定な体調をもたらすだけでなく、妊娠への不安やパートナーとの関係への懸念など、精神面にも大きなプレッシャーをかける可能性があります。特に慢性化し再発を繰り返す場合は、「また痛みや発熱が起きるのではないか」「将来、妊娠が難しくなってしまうのではないか」といった不安が常に頭をよぎることが考えられます。
- カウンセリングの活用
必要に応じて医療機関でのカウンセリングを受けたり、専門の心理カウンセラーと話をしたりすることで、精神的な負担を軽減できる場合があります。 - 家族・友人との情報共有
妊娠や出産に対する悩みは、一人で抱え込むとストレスがさらに大きくなることがあります。信頼できる家族や友人に相談し、適切なサポートを得ることが大切です。 - 患者会・サポートグループ
同様の経験を持つ人々と交流できる場があれば、情報交換や感情の共有を通じて心のケアにつながる場合があります。孤立感を軽減し、前向きに治療や予防策を実践するモチベーションとなるでしょう。
最新の知見と研究動向
炎症性骨盤疾患に対する治療と予防策は、近年の研究でも活発に議論されています。特に性感染症に関する分子生物学的な解析や、膣内マイクロバイオーム(膣内細菌叢)の研究が進んでおり、より効果的な予防法・治療法の開発が期待されています。
- クラミジア感染症との関連
2021年にアメリカで行われたTaylor BD, Haggerty CLらによる研究(Curr Opin Infect Dis, 2021 Feb;34(1):49–55, doi:10.1097/QCO.0000000000000708)では、クラミジア感染と炎症性骨盤疾患の関連が再度強調されています。この研究は特に若年女性の間でのクラミジア感染拡大を問題視しており、性教育と定期検査の重要性を訴えています。日本国内でも、若年層でのクラミジア感染が増加傾向にあるため、早期診断と治療が重視される背景となっています。 - ガイドラインのアップデート
2021年に公表されたWorkowski KA, Bachmann LHらによる性感染症治療ガイドライン(MMWR Recomm Rep. 2021;70(4):1–187, doi:10.15585/mmwr.rr7004a1)では、炎症性骨盤疾患を含む性感染症に対する新たな治療薬や投与期間の見直しなど、最新の推奨事項が整理されています。抗生物質耐性菌の増加が懸念されている現状では、正しい抗菌薬の選択と治療期間を守ることが何より重要とされています。
こうした国際的な研究の成果は、日本の医療現場にも影響を与えており、診療ガイドラインの見直しや公的啓発活動の改善に反映されるケースが増えています。各研究の多くは欧米などの海外データが中心ですが、近年は国内の研究も進展しており、日本人特有の生活習慣や医療体制に配慮したエビデンスが蓄積されつつあります。
炎症性骨盤疾患とライフステージ
女性のライフステージによって、炎症性骨盤疾患のリスクや対応法には多少の違いがあります。たとえば10〜20代は性感染症のリスクが高まる時期でもある一方で、30〜40代は妊娠・出産を検討する方が増えるため、不妊や子宮外妊娠のリスクが切実な問題となることがあります。
- 思春期・若年層
正しい性の知識が普及していないと、クラミジアなどの感染症にかかりやすくなります。保健体育の授業や自治体の啓発活動などで安全な性行動を学ぶ機会を生かし、性感染症の予防意識を高めることが重要です。 - 妊娠・出産を考える時期
炎症による卵管のダメージが残ると、妊娠しにくくなるだけでなく子宮外妊娠リスクが上昇するため、早い段階でのケアが大切です。もし妊娠を望む場合は、産婦人科でブライダルチェックや感染症検査を受けることが推奨されます。 - 閉経前後
閉経期に近づくとホルモンバランスの変化で膣内環境が変わり、感染に弱くなる可能性があります。症状が不明瞭になりやすい年代でもあるため、自己判断に頼らず年齢に応じた検診や専門医の指導を仰ぐことが重要です。
炎症性骨盤疾患を防ぐための公的支援と情報源
日本国内では、各自治体や公的機関が定期健診や性教育の普及活動を行うなど、炎症性骨盤疾患を含む婦人科系疾患の予防と早期発見に取り組んでいます。保健所や市町村の検診センターで実施される無料・低料金の検査は、若年層や経済的負担を考慮する必要のある人にとって大きな助けとなる場合があります。
- 定期健診の利用
子宮頸がん検診や性感染症検査は自治体によって補助が出たり、無料クーポンが配布されたりすることがあります。特に若年層向けの施策として活用できる可能性があります。 - 公的機関のウェブサイト
厚生労働省や各都道府県の公式サイトでは、性感染症や婦人科検診に関する情報が掲載されており、最新の制度・補助情報を得ることができます。 - 電話相談やオンライン相談
感染症や婦人科疾患について、匿名・無料で相談できる電話窓口やオンライン相談サービスを実施している自治体もあります。人に言えない悩みがある場合に利用すると、最初の一歩として役立ちます。
総合的な注意点とまとめ
炎症性骨盤疾患は、性感染症と深く関わるため「自分は大丈夫」と思い込みがちなところがあります。しかし、実際には無症状のまま進行するクラミジア感染などもあり、気づいたときには卵管損傷や深刻な合併症を発症している可能性もゼロではありません。以下の点を改めて押さえておきましょう。
- 症状がなくても検診を怠らない
自覚症状の有無にかかわらず、定期的な婦人科検診と性感染症検査を受けておくことが大切です。早期発見こそが合併症を防ぐ鍵といえます。 - 異常を感じたらすぐ専門医へ
発熱、下腹部痛、不正出血、膣分泌物の異常など何らかの症状がある場合、可能な限り早期に受診することで、重症化を防ぎ治療期間を短縮できます。 - 安全な性行動の徹底
コンドームの適切な使用やパートナーとのオープンなコミュニケーションにより、性感染症のリスクは大きく低減されます。 - 生活習慣の改善
免疫力を下げる喫煙や過度の飲酒、ストレスの蓄積などは避け、規則正しい生活と栄養バランスの取れた食事に心掛けることが、感染リスクを下げる土台となります。 - 自分とパートナーの健康を守る意識
一人ひとりが性感染症への正しい理解とリスク回避の意識を持つことで、結果的にコミュニティ全体の感染拡大を防ぎ、健康的な社会を形成できます。
医療の専門家からのアドバイス
- 治療を途中でやめない
抗生物質の服用期間を自己判断で短縮してしまうと、細菌の耐性化や再発のリスクが高まります。医師の指示に従って最後まできちんと飲み切ることが必須です。 - パートナー検査の重要性
炎症性骨盤疾患が性感染症に起因すると判明した場合、パートナーも感染の有無を調べる必要があります。片方が治療をしても、もう片方が未治療であれば再感染の可能性が残ります。 - 複数回のフォローアップ
治療後も炎症や感染が完全に治癒したことを確認するため、医師のすすめに応じて再検査を行いましょう。慢性化や再発を防止するためには複数回のフォローアップが有効です。
今後の展望と研究課題
炎症性骨盤疾患は一度治療しても再発する可能性があり、妊娠や出産にも影響を及ぼすことから、女性のライフプラン全体に深く関係する問題です。医療現場では、以下のような課題や展望が議論されています。
- 早期検知技術の向上
膣内細菌叢の変化をリアルタイムでモニタリングできる技術や、遺伝子検査による性感染症の迅速診断などが開発されつつあり、より早期に正確な診断が可能になると期待されています。 - 予防接種の可能性
一部の性感染症では、ワクチン開発の検討も進んでいます。たとえばヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチンが子宮頸がん予防に寄与しているように、クラミジアや淋菌に対するワクチン研究も将来的に進む可能性があります。 - デジタルヘルスによるセルフモニタリング
月経管理アプリやライフログデバイスを活用して、自分の体調変化や基礎体温などを把握・管理しやすくなっています。こうしたデータを医師と共有することで、軽微な異常を早期に発見しやすくなる仕組みづくりが進むでしょう。
医療従事者への期待
炎症性骨盤疾患は性感染症やその他の婦人科疾患と複合的にからみ合うため、産婦人科医だけでなく、内科医や看護師、助産師、臨床検査技師など多くの医療従事者が関与しています。医療従事者には、正確で最新の情報を患者や地域住民に伝え、迅速に対応できる体制を整備することが求められています。
- 情報提供の強化
外来での説明時間を十分に確保し、パンフレットやウェブを通じてセルフケアや予防の具体的方法を周知する。 - チーム医療の推進
産婦人科医と感染症専門医、泌尿器科医などが連携して治療計画を立案し、合併症リスクを最小限に抑える。 - 地域連携と検診体制
住民検診や学校保健活動とも連携し、若年層に対する適切な性教育や早期検査の機会を拡充する。
最後に:健康を守るための心構え
炎症性骨盤疾患は、軽症のうちに適切な治療を受ければ回復が期待できる一方、放置や不十分な治療によって深刻な合併症を引き起こすリスクが高まる疾患です。女性が自分の身体を大切にし、時にはパートナーや家族、そして医療専門家と連携することで大半のトラブルは未然に防ぐことができます。
- 痛みや発熱などの症状を無視しない
- 定期的な検診を受ける
- 安全な性行為を心がける
- 生活習慣を整えて免疫力を維持する
- 不安があれば早めに相談する
こうした基本的なケアを怠らず、専門医の指示を守ることが、将来の健康と心の平穏につながる第一歩となります。健康は失って初めてその大切さに気付くことが多いものです。炎症性骨盤疾患やその他の婦人科疾患に関する知識を深め、日々の習慣を見直しながら、より健やかな毎日を過ごしましょう。
参考文献
- Adnexitis and pelvic inflammatory disease(アクセス日: 2023年10月20日)
- Pelvic inflammatory disease (PID)(アクセス日: 2023年10月20日)
- Pelvic inflammatory disease(アクセス日: 2023年10月20日)
- Ectopic pregnancy(アクセス日: 2023年10月20日)
- Taylor BD, Haggerty CL. “Management of Pelvic Inflammatory Disease: Gaps in Evidence and Recommendations for Future Research.” Curr Opin Infect Dis. 2021 Feb;34(1):49–55. doi: 10.1097/QCO.0000000000000708
免責事項:本稿は医療専門家の診断・治療に代わるものではありません。記載されている情報は一般的な参考情報であり、個々の症状や状況によって最適な対応は異なります。必ず医師や専門家と相談のうえ、適切な医療サービスを受けてください。