「子どもの扁平足（偏平足）」完全ガイド：それって大丈夫？病院に行くべき？専門医が教える原因と家庭でできること

子どもの扁平足とは？―正常な発達段階を理解する

まず、扁平足の基本的な概念を理解することが、保護者の皆様の不安を和らげる第一歩です。人間の足には、体重を支え、歩行時の衝撃を吸収する「アーチ」と呼ばれる弓状の構造があります。¹ このアーチが低い、または消失している状態が扁平足です。⁸

ほとんどは「柔らかい」扁平足（柔性扁平足）

子どもの扁平足の大多数を占めるのが「柔性扁平足」です。これは、体重をかけると土踏まずが消えますが、つま先で立ったり、足を浮かせて座ったりするとアーチが再び現れるという特徴があります。¹⁰ これは病気ではなく、むしろ成長過程における生理的な状態です。生まれたばかりの赤ちゃんは、足の骨格がまだ未発達で、靭帯が非常に柔らかく、足裏には脂肪の厚いパッドがあるため、ほぼ全員が扁平足に見えます。⁷
このアーチは、歩行や運動を通じて足の筋肉が発達するにつれて、自然に形成されていきます。権威ある研究の一つであるMorley氏の研究によれば、2歳児のほぼ100%が扁平足であるのに対し、10歳になるとその割合はわずか4%にまで減少することが示されています。¹² この事実は、子どもの扁平足の多くが時間とともに自然に改善することを示す力強い証拠です。日本の医療現場では、かかとが外側に傾く（外反）状態を伴うことが多いため、「外反扁平足（がいはんへんぺいそく）」という用語が一般的に使われます。¹⁴

まれな「硬い」扁平足（硬性扁平足）との違い

一方で、非常にまれですが注意が必要なのが「硬性扁平足」です。これは、体重をかけていなくてもアーチがなく、つま先立ちをしてもアーチが現れないのが特徴です。⁷ 足の動きが硬く、痛みを伴うことが多く、足根骨癒合症（足の骨同士が異常にくっついてしまう状態）など、骨の構造的な問題が原因であることが多いです。¹² この違いを理解することが、適切な対応を見極める上で重要です。

いつ病院へ行くべきか？保護者のための明確なチェックリスト

「様子を見て良い」と言われても、具体的な判断基準がなければ不安は残ります。ここでは、どのような場合に専門家（整形外科、特に小児を専門とする医師）に相談すべきか、明確なガイドラインを示します。

まずは安心を：無症状なら経過観察が基本

日本整形外科学会（JOA）も指摘するように、5〜6歳以下の無症状の子どもに対しては、特別な治療は行わず、成長を見守る「経過観察」が標準的なアプローチです。⁵ 子どもの足の発達には個人差があり、一つの「正しい」足の形という基準は存在しないことが、体系的な医学研究レビューでも確認されています。¹⁹

受診を検討すべきサイン

以下のいずれかのサインが見られる場合は、一度、整形外科（せいけいげか）を受診することをお勧めします。

• 痛みの訴え： お子様が足、足首、またはすねに痛みやけいれん（こむら返り）を訴える場合。特に運動中や運動後に症状が出る場合は注意が必要です。²⁰
• 異常な疲れやすさ： 他の子どもと同じように遊んでいてもすぐに疲れて座り込んでしまったり、スポーツや外遊びを避けたがったりする場合。²⁰
• 硬い足（硬性扁平足の疑い）： つま先で立たせても土踏まずが現れない場合。⁷ また、足首の左右への動きが硬く、制限されているように見える場合も同様です。¹²
• 靴の異常な減り方： 靴の内側だけが極端にすり減るなど、左右非対称または異常な摩耗が見られる場合。²¹
• 片足だけの扁平足： 症状が片方の足にのみ見られる場合。
• 歩行や運動能力への懸念： 歩き方がぎこちない、よく転ぶなど、全体的な運動能力や協調性に心配がある場合。
• 年齢： 10歳を過ぎてもアーチが形成されず、保護者の方が心配に思われる場合。

医師はどのように診断するか？診察プロセスの解明

実際に病院へ行くと何が行われるのかを知っておくことで、親子ともに安心して診察に臨めます。診断プロセスは通常、痛みを伴わない視診と簡単な機能テストが中心です。

1. 問診：いつから気になっているか、痛みなどの症状はあるか、家族に扁平足の人はいるか、といったことを詳しく聞かれます。
2. 視診（見た目のチェック）： 医師は、座った状態、立った状態、そして歩いている状態のお子様の足を注意深く観察します。立った時に土踏まずが消えるか、かかとが外側に傾いていないか、そして後ろから見たときに足の指が外側にはみ出して見える「too many toes sign（トゥー・メニー・トウズ・サイン）」がないかなどを確認します。⁵
3. 機能テスト（動きのチェック）： 最も重要なのが「ジャックテスト」または「つま先立ちテスト」です。¹⁰ お子様につま先立ちをしてもらい、その際に土踏まずがくっきりと現れるかを確認します。これにより、足が柔軟である（柔性扁平足）と判断できます。また、足首の関節の動きも評価します。¹¹
4. アキレス腱の評価： アキレス腱が硬く、短縮していないかも重要なチェックポイントです。アキレス腱が短いタイプの扁平足は、症状が出やすく、治療が必要になる可能性がわずかに高まります。¹⁰
5. 画像診断（レントゲン）： レントゲン撮影は、すべての場合に行われるわけではありません。痛みが強い場合、足が硬い場合、または足根骨癒合症などの骨の異常が疑われる場合に、変形の程度を正確に評価するために用いられます。⁷

医師はこれらの所見を総合的に判断し、扁平足のタイプや重症度、そして他の潜在的な疾患（例えば、エーラス・ダンロス症候群のような全身性の靭帯弛緩を伴う疾患）の可能性がないかを評価します。¹¹

科学的根拠に基づく扁平足の管理法：本当に効果があるのは何か？

子どもの扁平足に対するアプローチは、その大多数が無症状であるという事実に基づき、非常に慎重です。ここでは、科学的証拠のレベルに応じて、どのような介入が推奨されるかを解説します。

レベル1：基本は「経過観察」と「ライフスタイルの工夫」

症状のない柔性扁平足に対しては、積極的な治療は不要であるというのが、日本整形外科学会⁵や米国整形外科学会（AAOS）¹⁰を含む、世界中の専門機関の一致した見解です。最も重要な治療は「待つこと」です。
同時に、足の健全な発達を促すために、ご家庭でできることがあります。それは、裸足での活動を奨励することです。⁶ 芝生、砂浜、畳の上など、安全で多様な地面を裸足で歩いたり走ったりすることは、足裏の感覚神経を刺激し、足の内在筋（足の中にある小さな筋肉）を自然に鍛えるための最良のトレーニングとなります。

レベル2：家庭でできる足育トレーニング（イラスト解説付き）

症状が軽い場合や、足の発達を積極的にサポートしたい場合、特定の運動が有効であることが示されています。2024年に学術誌『Children』に掲載された最新のシステマティック・レビュー（複数の質の高い研究を統合・分析した研究）では、機能的なリハビリテーション、特に足の内在筋を鍛える運動が、足の機能と症状の改善に有効であると結論付けています。²³

運動1：タオルギャザー（Towel Gather）

足指の力と足裏のアーチを支える筋肉を鍛える古典的で効果的な運動です。¹⁸

• 準備：椅子に座り、床に広げたタオルの手前端にかかとを置きます。²⁴
• 方法：かかとは床につけたまま、足の指（5本すべて）を使ってタオルをゆっくりと手繰り寄せます。²⁵
• 専門家のヒント：もし足指でタオルを掴むのが難しい場合は、まず指を大きく開いたり閉じたりする練習から始めると良いでしょう。²⁶ 膝を伸ばし気味に行うと、より足裏の筋肉に集中しやすくなります。²⁷

運動2：足指じゃんけん

楽しみながら足指の巧緻性（器用さ）と筋力を向上させる素晴らしい運動です。²

• グー：足の指をすべて丸め、力強く握りしめます。
• チョキ：親指を上に、他の4本の指を下に向けます（Vサインの形）。
• パー：すべての指を扇のように大きく広げます。

この運動は、足指の筋肉を個別に動かす能力を高め、バランス感覚や血行促進にも繋がるとされています。²⁸²⁹

運動3：その他の簡単な運動

つま先立ちでの歩行や、足の外側の縁を使って歩く練習も、足の筋肉をバランス良く強化するのに役立ちます。¹³ これらをお子様との遊びの中に楽しく取り入れてみてください。

レベル3：装具（インソール）の役割：科学的根拠に基づいた議論

インソール（足底挿板：そくていそうばん）の使用については、多くの議論があり、保護者の皆様が最も混乱しやすい点の一つです。ここでは、科学的根拠に基づいてその役割を冷静に評価します。

• 無症状の足に対して： 痛みや機能的な問題がない子どもに対して、インソールを使用してもアーチが恒久的に形成されるという科学的根拠はありません。⁹ 多くの専門家は、無症状の柔性扁平足にインソールは不要であると考えています。⁵
• 症状のある足に対して： 一方で、痛みや異常な疲れやすさといった症状がある子どもに対しては、インソールは有効な治療選択肢となり得ます。⁵ 複数のランダム化比較試験（RCT）を含むシステマティック・レビューでは、症状のある子どもがインソールを使用することで、痛みが有意に軽減し、機能が改善することが示されています。⁹ インソールはアーチを「治す」ものではなく、足のアライメント（骨の配列）を整え、特定の部位への負担を軽減することで症状を和らげる「サポート役」と考えるのが適切です。

インソールには市販品からオーダーメイドまで様々あり、医師が症状に応じて最適なものを判断します。¹⁰ 非常に実践的な情報として、大阪市など一部の自治体では、医師が必要と判断した子どもの治療用装具に対して、健康保険の療養費支給制度が適用される場合があります。³ お住まいの市区町村役場に確認してみることをお勧めします。これは、JHOが提供する「現場の経験」に基づく貴重な情報です。

レベル4：外科的治療：最後の手段

手術が必要になるケースは極めてまれです。⁵ 通常、他のすべての保存的治療（運動療法や装具療法）に反応しない、持続的で重度の痛みを抱える思春期以降の若者や、骨の構造的な問題を伴う硬性扁平足の症例に限られます。⁷¹⁰

【日本の保護者必見】「上履き」問題と正しい靴選び

日本の学校生活に特有の「上履き（うわばき）」は、子どもの足の健康を考える上で見過ごせない重要な要素です。この独自の視点は、他の多くの医療情報サイトが見落としている、JHOならではの深い専門性を示します。

伝統的な上履きの問題点

多くの子どもたちが毎日長時間履いている伝統的なバレエシューズタイプの上履きは、薄くて柔らかすぎるため、発達途上の足に必要なサポートをほとんど提供できません。³¹ 日本学校体育研究連合会³³や専門家³⁴も、こうした靴が足のアーチ形成を妨げ、さまざまな足のトラブルの一因となり得る可能性を指摘しています。

サポート力のある上履き・通学靴の選び方

では、どのような靴を選べば良いのでしょうか。日本フットケア・足病医学会が発行する「小児靴の手引き書」³⁵³⁶³⁷は、専門家による信頼できる指針を提供しています。良い靴の主な特徴は以下の通りです。

• しっかりしたヒールカウンター： かかと部分を指で押しても簡単には潰れない、硬さのあるものを選びましょう。これにより、かかとの骨が安定します。¹
• 適切な場所で曲がる靴底： 靴底は、硬すぎず柔らかすぎず、指の付け根の関節部分でスムーズに曲がるものが理想的です。
• ねじれにくい構造： 靴の中央部分を雑巾のように絞っても、簡単にはねじれない剛性が必要です。
• 適切なフィット感： つま先に5mm〜10mm程度の余裕があり、足の甲をストラップや紐でしっかりと固定できるデザインを選びましょう。³⁹

最近では、これらの特徴を備えた「足育」をコンセプトにした上履きも市販されています。お子様の足の健康のために、日々の靴選びにぜひ注意を払ってください。

専門家を探すには：日本の小児整形外科へのアクセス

もし専門家の診察が必要だと判断した場合、お住まいの地域で「小児整形外科（しょうにせいけいげか）」を標榜している医療機関を探すのが第一歩です。⁴² 日本小児整形外科学会（JPOA）⁴⁰のウェブサイトは、信頼できる情報源となります。同学会の役員名簿⁴⁵に名を連ねる医師や、専門クリニック（例：東京⁴¹、大阪⁴³）は、より専門的な相談先となり得ますが、まずはかかりつけ医やお近くの整形外科に相談することから始めましょう。

よくある質問

結論：保護者の皆様へ

お子様の扁平足に関するご心配、JHO編集委員会は深く理解しております。本記事を通して、その心配の大部分は、子どもの正常な成長過程を見守る喜びに変えられるものであることをご理解いただけたなら幸いです。重要なのは、正しい知識を持ち、パニックにならず、しかし注意すべきサインを見逃さないことです。足は、お子様が世界を探検するための大切な土台です。ご家庭での楽しい運動や適切な靴選びを通じて、その健やかな成長を温かくサポートしてあげてください。そして、もし少しでも不安や疑問が残るなら、ためらわずに専門家の扉を叩いてください。それが、お子様の未来の健康への最良の投資となるでしょう。