【科学的根拠に基づく】紫斑・点状出血の原因と治療のすべて|ITP・血管炎から高齢者のあざまで疾患別に専門医が徹底解説
血液疾患

【科学的根拠に基づく】紫斑・点状出血の原因と治療のすべて|ITP・血管炎から高齢者のあざまで疾患別に専門医が徹底解説

ある日突然、皮膚に現れる赤い点々や、ぶつけた覚えのない青あざ。それは「紫斑(しはん)」と呼ばれる症状かもしれません。単なるあざと軽視されがちですが、その背景には治療が必要な重大な病気が隠れている可能性もあります。この記事は、そのような不安を抱える方々のために、日本の血液内科専門医の監修のもと、最新の診療ガイドラインと科学的エビデンスに基づいて、紫斑に関するあらゆる疑問に答えることを目的としています。紫斑の基本的な知識から、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)やIgA血管炎といった代表的な疾患ごとの原因、症状、最新の治療法、そして日本の公的支援制度に至るまで、網羅的かつ専門的に解説します。この記事を読み終える頃には、ご自身の症状を正しく理解し、適切な次の一歩を踏み出すための知識が身についているはずです。

要点まとめ

  • 紫斑は皮下の毛細血管からの出血であり、指で押しても色が消えないのが特徴です。大きさにより点状出血と斑状出血に分類されます。
  • 原因は大きく分けて、血液を固める「血小板の異常」と「血管の異常」の2つに大別されます。
  • 代表的な原因疾患には、自己免疫疾患である特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や、緊急治療が必要な血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、小児に多いIgA血管炎などがあります。
  • ぶつけた覚えがないのに紫斑が広がる、発熱や関節痛を伴う、出血が止まりにくいなどの症状は危険なサインであり、速やかな医療機関の受診が必要です。
  • 治療法は原因疾患によって大きく異なり、経過観察で済むものから、ステロイド、免疫抑制薬、新規薬剤、血漿交換など専門的な治療を要するものまで様々です。
  • ITPやTTPは日本の指定難病であり、医療費助成などの公的支援が受けられる可能性があります。

紫斑(点状出血)とは何か? 基本的な知識

紫斑とは、医学的には皮膚の下にある毛細血管から血液が漏れ出た状態を指します1。一般的に「あざ」や「内出血」と呼ばれるものと似ていますが、医学的には明確な特徴があります。最も重要な違いは、紫斑はガラスや透明なプラスチック板などで圧迫しても赤紫色が消えない点です。これは、血管の外に漏れ出た赤血球がその場に留まっているためで、「ガラス圧法」と呼ばれる簡単な見分け方です。一方、血管が拡張して赤く見えるだけの「紅斑」は、圧迫すると一時的に色が消えます。

紫斑はその大きさによって、主に2種類に分類されます1

  • 点状出血 (Petechiae): 直径が2mm以下の、小さな点状の紫斑です。皮膚に赤いインクのペン先で点を描いたように見えます。
  • 斑状出血 (Ecchymosis): より大きな、いわゆる一般的な「あざ」に相当する紫斑です。時間経過とともに、赤紫色から青、緑、黄色へと色が変化していくのが特徴です。

【重要】紫斑の種類と原因となる主な疾患

紫斑という一つの症状の裏には、多種多様な原因が隠されています。これから解説する内容を理解しやすくするために、まず全体像を把握しましょう。紫斑の原因は、血液が固まるプロセスにおける異常の所在によって、大きく2つのカテゴリーに分類できます。一つは血液中の成分である「血小板」に問題がある場合、もう一つは血液の通り道である「血管」そのものに問題がある場合です。この分類を理解することが、ご自身の紫斑の原因を探るための最初の地図となります。

1. 血小板の異常による紫斑(血小板性紫斑病)

血小板は、血液中に含まれる細胞成分の一つで、血管が傷ついた際に集合して傷口を塞ぎ、出血を止める「止血」の主役です。この血小板の数が減ってしまったり(血小板減少)、数が十分でも働きが悪かったり(血小板機能異常)すると、わずかな刺激でも皮下に出血しやすくなり、紫斑が生じます。ここでは、血小板の減少が原因で起こる代表的な疾患を詳しく見ていきます。

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)- 最も代表的な原因疾患

定義と日本の疫学

特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura、略してITP)は、明らかな原因がないにもかかわらず血小板が減少する疾患で、厚生労働省の指定難病63に定められています2, 3。日本における成人ITPの罹患率は10万人あたり年間2.6人と報告されており4、患者総数は約2万人から2.7万人と推定されています5。これは決して稀な病気ではなく、誰にでも起こりうる可能性があります。

原因とメカニズム

ITPは、体の免疫システムに異常が生じ、自分自身の血小板を異物と誤認して攻撃・破壊してしまう「自己抗体」が作られることが原因の自己免疫疾患です3。この自己抗体が結合した血小板は、主に脾臓でマクロファージという細胞によって破壊されてしまいます。さらに近年の研究では、血小板が破壊されるだけでなく、骨髄での血小板の産生も抑制されるという二重のメカニズムが関与していることが、「成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド 2019改訂版」(以下、成人ITPガイドライン2019)でも指摘されています6, 7

症状と重症度分類

主な症状は、点状出血や斑状出血といった皮膚症状です。その他、鼻血、歯肉からの出血、抜歯後の止血困難、女性では月経過多などがみられます8。血小板数が極端に低くなると、消化管出血や脳出血といった重篤な出血のリスクが高まりますが、その頻度は高くはありません。特に小児のITPでは、出血症状の程度に基づいて重症度を分類し、治療方針を決定します。この分類は修正Buchananスコアと呼ばれ、日本の小児ITP診療ガイドラインでも採用されています9

診断プロセス

ITPの診断で最も重要なのは、血小板減少をきたす他の病気(例えば、白血病、再生不良性貧血、全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病、薬剤による副作用など)をすべて否定すること、すなわち「除外診断」です2。そのために、まずは血液検査が行われます。血小板数が10万/μL未満であることが診断の基準となります8。他の血球(赤血球、白血球)に異常がないか、肝臓や腎臓の機能は正常かなども同時に調べます。必要に応じて、骨髄の造血状態を直接確認するために骨髄検査(骨髄穿刺・生検)が行われることもあります。

【治療の最前線】日本の診療ガイドラインに基づく治療法

成人ITPガイドライン2019によると、ITP治療の目標は、血小板数を正常値(15万/μL以上)に完全に戻すことではなく、生命を脅かすような危険な出血を予防することにあります10。一般的には、血小板数を3万/μL以上に維持することが一つの目安とされています。

  • 初期治療: 成人ITP患者でヘリコバクター・ピロリ菌に感染している場合、まずその「除菌療法」が推奨されます10。ピロリ菌を除菌するだけで、半数以上の患者さんで血小板数の改善が見られることがわかっています。除菌療法の対象とならない場合や、効果が不十分な場合の第一選択薬は、免疫の働きを抑える「副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)」の内服です10
  • 第二選択治療以降: ステロイド治療で十分な効果が得られない場合、あるいは副作用のために継続が難しい場合には、次の治療が検討されます。
    • 脾臓摘出術(脾摘): 血小板が破壊される主要な場所である脾臓を外科的に摘出する方法です。高い治療効果が期待できますが、感染症のリスクが永続的に高まるなどのデメリットもあります。
    • リツキシマブ(抗CD20抗体): Bリンパ球という自己抗体を作る細胞を標的とする分子標的薬です。
    • 新規薬剤(分子標的薬): 近年、ITP治療は大きく進歩し、新しい作用機序を持つ薬剤が次々と登場しています。
      • トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬: ロミプロスチム(製品名:ロミプレート)やエルトロンボパグ(製品名:レボレード)などがあります。これらは骨髄にある巨核球(血小板の元となる細胞)を刺激し、血小板の産生を強力に促進します11
      • 脾臓チロシンキナーゼ(SYK)阻害薬: ホスタマチニブ(製品名:タバリス)がこれにあたります。脾臓のマクロファージによる血小板の破壊を直接抑制する働きがあります。
      • 抗FcRn抗体: エフガルチギモド アルファ(製品名:ウィフガート)などがあり、自己抗体を分解する作用を持ちます12

小児と成人の違い

小児のITPと成人のITPには大きな違いがあります。小児ITPは、ウイルス感染などをきっかけに突然発症する「急性型」が多く、約8割は半年以内に特別な治療をしなくても自然に治癒します13。そのため、日本小児血液・がん学会のガイドラインでは、重篤な出血がなければ無治療で慎重に経過を観察することが原則とされています9。一方、成人のITPは慢性に経過することが多く、血小板数に応じて治療介入が検討されます10

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)- 緊急対応が必要な重篤疾患

定義と日本の疫学

血栓性血小板減少性紫斑病(Thrombotic Thrombocytopenic Purpura、略してTTP)は、治療しなければ致死率が90%以上にも達する極めて重篤な血液疾患です。しかし、迅速な診断と適切な治療により救命率が劇的に向上するため、この病気を疑い、一刻も早く専門的な治療を開始することが何よりも重要です14。本疾患も日本の指定難病62に定められています。

原因とメカニズム

TTPの原因は、血液中にある「ADAMTS13」という酵素の働きが著しく低下することです15。ADAMTS13は、止血に重要な役割を果たす「フォン・ヴィレブランド因子(vWF)」というタンパク質を、適切な大きさに切断するハサミのような役割を担っています。このハサミの機能が失われると、異常に巨大なvWFが血液中を循環し、血小板を強力に凝集させてしまいます。その結果、全身の細い血管(微小血管)の内部に血小板を主成分とする「血栓」が多発し、様々な臓器障害を引き起こします。

症状と診断

かつては、TTPの診断には「古典的5徴候」と呼ばれる症状((1)血小板減少、(2)破砕赤血球を伴う溶血性貧血、(3)腎機能障害、(4)発熱、(5)動揺性の精神神経症状)が用いられていました。しかし、現在では、血液検査でADAMTS13の活性を測定することが診断のゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)となっています。「血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド2023」(以下、TTPガイドライン2023)では、ADAMTS13活性が10%未満であることが診断の必須項目と明記されています16

治療法

TTPが疑われた場合、ADAMTS13活性の検査結果を待たずに、直ちに緊急治療を開始する必要があります。治療の根幹は「血漿交換療法」です16。これは、患者さんの血液から血漿(血液の液体成分)を取り除き、代わりに健常な人の新鮮凍結血漿(FFP)を補充する治療法です。これにより、患者さんに不足しているADAMTS13酵素を補充し、同時に血栓の原因となる自己抗体や巨大vWFを除去します。この血漿交換に加え、自己抗体の産生を抑えるための副腎皮質ステロイドやリツキシマブ、そして近年、vWFと血小板の結合を直接阻害する新規薬剤カプラシズマブなどが、TTPガイドライン2023に沿って併用されます16

その他の血小板減少をきたす疾患

ITPやTTPの他にも、骨髄で血球が作れなくなる再生不良性貧血や、がん細胞が骨髄を占拠してしまう白血病など、骨髄での血小板産生不全によっても紫斑は生じます。また、様々な薬剤の副作用として血小板減少が起こることもあり、これらの疾患との鑑別が非常に重要です13

2. 血管の異常による紫斑(血管性紫斑病)

血小板の数や機能には全く問題がないにもかかわらず、紫斑が出ることがあります。これは、血液を運ぶパイプである血管壁そのものが脆くなったり、炎症を起こしたりして、血液が漏れやすくなるために起こります。これを血管性紫斑病と呼びます。

IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)- 小児に多い血管炎

定義と疫学

IgA血管炎は、以前はアレルギー性紫斑病やヘノッホ・シェーンライン紫斑病と呼ばれていましたが、現在はこの名称に統一されています。全身の細い血管に炎症が起こる病気(全身性血管炎)で、特に4歳から7歳の小児に最も多く発症します17。多くの場合、風邪などの上気道感染の1〜3週間後に発症することが知られています18

症状

IgA血管炎には特徴的な4つの症状(四徴)があります18, 19

  1. 触知可能な紫斑: わずかに盛り上がりを触れることができる紫斑で、主に体重のかかる下肢(すねや足の甲)やおしりに左右対称に出現します。
  2. 関節痛: 膝や足首の関節に痛みや腫れが起こります。
  3. 腹痛: 強い腹痛や嘔吐、時に血便を伴うことがあります。
  4. 腎障害(紫斑病性腎炎): 血尿や蛋白尿が出ます。IgA血管炎の予後を左右する最も重要な合併症です。

診断と治療

診断は、これらの特徴的な臨床症状に基づいて行われます。治療の基本は安静であり、特別な薬を使わずに自然に軽快することがほとんどです。「小児IgA血管炎診療ガイドライン2023」によると、関節痛や腹痛の症状が強い場合には副腎皮質ステロイドが使用されますが、腎炎の発症を予防する目的でステロイドを投与することは推奨されていません20。腎炎(紫斑病性腎炎)を合併した場合は、症状がなくても定期的な尿検査を長期間続けることが非常に重要です。血尿や蛋白尿が持続したり悪化したりする場合には、腎生検を行い、重症度に応じてステロイドや免疫抑制薬による専門的な治療が必要となります21

老人性紫斑 – 高齢者の腕によく見られるあざ

原因と特徴

老人性紫斑は、主に高齢の方の、日光に長年当たりやすい前腕や手の甲に見られる、境界がはっきりした濃い紫色の斑状出血です。これは、加齢と長年の紫外線曝露によって皮膚のコラーゲン線維が減少し、血管を支える組織が脆くなる(脆弱になる)ことが原因です22。そのため、非常に軽い打撲やこすれた程度の刺激で容易に出血してしまいます。通常、痛みはなく、血小板の数や機能に異常があるわけではないため、病的なものではありません。この点を説明することで、多くの高齢者の過度な不安を和らげることができます22

対処法と予防

特別な治療は必要なく、数週間で自然に消退しますが、色素沈着として茶色い跡が残ることがあります。予防としては、日頃からの保湿剤によるスキンケアで皮膚のバリア機能を保つこと、そして長袖を着用したり日焼け止めを使用したりして紫外線を防ぐことが有効です22

その他の血管性紫斑

上記以外にも、一部の降圧薬などが血管壁に直接作用して紫斑を起こす薬剤性のものや、重篤な感染症(敗血症など)で血管内皮が障害されて起こるもの、さらにはビタミンCが極度に欠乏する壊血病(かいけつびょう)なども血管性紫斑の原因となりえます23

どのような場合に病院へ行くべきか?受診の目安と診療科

皮膚に紫斑を見つけたとき、それが医療機関を受診すべき危険なサインなのかどうかを判断することは非常に重要です。以下にセルフチェックリストを示します。

セルフチェックリスト:危険な紫斑のサイン

  • ぶつけた覚えがないのに、広範囲にあざ(斑状出血)ができた24
  • 皮膚の赤い点々(点状出血)が急に増えてきた25
  • 紫斑だけでなく、発熱、強い倦怠感、関節の痛みなどを伴う。
  • 鼻血や歯ぐきからの出血が頻繁にあり、止まりにくい。
  • 尿に血が混じる(赤色やコーラ色の尿)、体にむくみがある。
  • 激しい頭痛や腹痛を伴う。

これらの症状が一つでも当てはまる場合は、自己判断で様子を見ずに、速やかに医療機関を受診してください。

何科を受診すべきか

まず最初の相談窓口としては、かかりつけの内科や皮膚科が適しています。そこで初期的な診察や検査を受け、疑われる原因疾患に応じて専門の診療科を紹介してもらうのが一般的です。具体的には、お子さんであればまず小児科、成人のITPやTTPなどの血液疾患が疑われる場合は血液内科、腎炎の症状(血尿、蛋白尿、むくみ)があれば腎臓内科、膠原病が疑われる場合はリウマチ・膠原病内科などが専門となります14

診断と検査の流れ

医療機関では、紫斑の原因を突き止めるために、以下のようなプロセスで診断が進められます。

  1. 問診: いつから、どこに、どのような紫斑が出たか、他に症状はないか、最近かかった病気はないか、現在飲んでいる薬は何か、など詳しく聴取します。
  2. 身体診察: 紫斑の性状(形、大きさ、色、分布)を詳しく観察します。リンパ節の腫れや、肝臓・脾臓の腫れがないかなども確認します。
  3. 基本的な検査:
    • 血液検査: 最も重要な検査です。血球数(赤血球、白血球、血小板)を測定し、血小板が減少していないかを確認します。また、血液が固まる能力(凝固機能)も調べます8
    • 尿検査: 腎臓からの出血(血尿)や蛋白尿の有無を確認します。これは特にIgA血管炎における腎炎の評価に不可欠です。
  4. 専門的な検査: 上記の検査で異常が見つかり、特定の疾患が疑われる場合には、さらに詳しい検査が行われます。例えば、ITPや白血病が疑われる場合には骨髄の造血状態を調べる骨髄検査が、IgA血管炎で腹痛が強い場合には腹部超音波検査などの画像検査が行われることがあります13

【日本における支援】指定難病制度と患者会について

日本の読者にとって、公的な支援制度に関する情報は非常に重要です。紫斑の原因となる疾患の中には、国の指定難病に含まれるものがあります。

指定難病制度

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、日本の「指定難病」に定められています2。これは、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判定された場合に、その治療にかかる医療費の一部が国や都道府県から助成される制度です。経済的な負担を大きく軽減できる可能性があるため、該当する疾患と診断された場合は、主治医に相談の上、お住まいの地域を管轄する保健所に申請手続きについて問い合わせることが重要です。

患者会

同じ病気を抱える他の患者さんと情報を交換したり、悩みを分かち合ったりすることは、病気と向き合う上で大きな力になります。日本には、ITP患者さんやそのご家族を支援するNPO法人「血液情報広場・つばさ」のような患者支援団体が存在します26, 27。これらの団体では、疾患に関する情報提供、交流会、相談事業などを行っており、病気に関する理解を深め、社会的・心理的なサポートを得るための貴重な窓口となります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 子どもの足に赤い点々が。様子を見てもいいですか?

A. お子さんの足に赤い点々(点状出血)が見られた場合、IgA血管炎やITPなどの可能性があります。IgA血管炎は腹痛や、後から腎炎を発症することがあり、ITPでは稀ですが重篤な出血のリスクもゼロではありません。自己判断で様子を見ることはせず、まずはかかりつけの小児科を速やかに受診してください18

Q2. ぶつけた覚えがないのに、あざがよくできます。

A. ぶつけた覚えがないのにあざ(斑状出血)が頻繁にできる場合、血小板の減少や機能の異常、あるいは血管の脆弱性など、何らかの医学的な原因が背景にある可能性が考えられます。特に、あざの範囲が広い、数が多い、なかなか消えないといった場合は、一度、内科や皮膚科、血液内科で詳しい検査を受けることをお勧めします28

Q3. 薬の副作用で紫斑が出ることはありますか?

A. はい、あります。特に血液をサラサラにする薬(抗血小板薬のアスピリンやクロピドグレル、抗凝固薬のワーファリンやDOACなど)を服用している場合は、内出血しやすくなります。その他、一部の抗菌薬、抗てんかん薬、降圧薬などが原因で血小板減少や血管炎を起こし、紫斑の原因となることも報告されています15, 29。服用中の薬がある場合は、自己判断で中止せず、必ず処方した医師や薬剤師にご相談ください。

Q4. 紫斑は治りますか?跡は残りますか?

A. 原因疾患の治療によって紫斑は改善します。通常の紫斑は数週間で自然に消えていきますが、炎症が強かった場合などには、色素沈着として茶色っぽい跡がしばらく残ることがあります22, 30。ITPやIgA血管炎などは、慢性化したり再発を繰り返したりすることもありますので、主治医の指示に従って定期的なフォローアップを受けることが大切です。

Q5. 食生活で気をつけることはありますか?

A. 特定の食べ物が直接、紫斑の原因となることは稀です。基本的には、血管壁を丈夫に保つ働きのあるビタミンCや、血液凝固に関わるビタミンKなどをバランス良く摂取することが大切です。ただし、抗凝固薬のワーファリンを服用している方は、ビタミンKを多く含む食品(納豆、青汁、クロレラなど)を摂取すると薬の効果が弱まるため、食事内容については主治医や管理栄養士の指導に従う必要があります31

結論

この記事では、紫斑という症状について、その基本的な定義から、血小板の異常によるもの、血管の異常によるものといった多岐にわたる原因疾患、そしてそれぞれの診断・治療法までを詳しく解説してきました。要点を再確認すると、紫斑は単なるあざではなく、時に重大な病気のサインであること、特に発熱や関節痛、止血困難などの症状を伴う場合は速やかな受診が必要であること、そして原因によって治療法は全く異なるということです。最も重要なメッセージは、原因がわからない紫斑や、この記事で挙げたような気になる症状に気づいた際には、決して自己判断で放置したり、インターネットの情報だけで解決しようとしたりせず、必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断を仰ぐことです。正しい知識を持つことが、ご自身の健康を守るための最も確実な第一歩となります。

免責事項本記事は情報提供を目的とするものであり、医学的診断や治療に代わるものではありません。健康上の懸念や、ご自身の健康・治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  27. 特定非営利活動法人 血液情報広場 つばさ. ITP・特発性血小板減少性紫斑病の方へ. [インターネット]. [引用日: 2025年6月20日]. Available from: http://www.tsubasa-npo.org/itp/index.html
  28. 日本大学医学部附属板橋病院. 免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病. [インターネット]. [引用日: 2025年6月20日]. Available from: https://www.itabashi.med.nihon-u.ac.jp/search/term/173
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