まつげパーマの完全ガイド:日本の規制、医学的リスク、安全な施術の選び方
皮膚科疾患

まつげパーマの完全ガイド:日本の規制、医学的リスク、安全な施術の選び方

まつげパーマは、日々のメイク時間を短縮し、素顔の印象を高める美容施術として絶大な人気を誇ります。しかし、その魅力的な効果の裏には、化学物質の使用に伴う危険性と、日本の厳格な法的規制が存在します。この施術を安全に受けるためには、その科学的原理と法的背景を正確に理解することが不可欠です。本稿では、まつげパーマの基本的な仕組みから、消費者が知っておくべき日本の法律上の位置づけ、具体的な健康被害、そして信頼できる施術を選択するための実践的な指針まで、最新の研究と公的機関の報告に基づいて包括的に解説します。

本稿の科学的根拠

この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的証拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性を示すものです。

  • 厚生労働省・地方自治体保健所: 本稿における美容師法に基づく規制、頭髪用パーマ液の目的外使用の禁止、および日本国内で「まつげパーマ専用」として承認された薬剤が存在しないという事実に関する記述は、厚生労働省および渋谷区保健所などが公表する公式通知・資料に基づいています101114
  • 学術研究論文 (例: PMC, PubMed掲載論文): パーマ液の主成分であるチオグリコール酸とシステアミンの細胞毒性に関する比較データ (細胞生存率5.76%対87.34%) や、眼瞼炎、角結膜炎、化学熱傷などの具体的な眼科的合併症に関する記述は、査読済みの科学論文で報告された研究結果に基づいています15617
  • 国民生活センター: まつげ美容施術に関連する健康被害の報告事例や消費者への警告に関する記述は、独立行政法人国民生活センターが公表した報告書に基づいています1221
  • 日本皮膚科学会: アレルギー性接触皮膚炎の診断(パッチテスト)と治療に関する記述は、日本皮膚科学会が発行する診療指針に基づいています24

要点まとめ

  • 法的要件: まつげパーマは美容師法で定められた「美容行為」であり、国家資格を持つ美容師のみが施術を許可されています。
  • 薬剤の真実: 日本国内で「まつげ専用」として薬機法に基づき承認されたパーマ液は一つも存在せず、現在使用されているのは「化粧品」扱いの製品です。
  • 成分の危険性: 主成分のチオグリコール酸は非常に高い細胞毒性を示し、システアミンはそれに比べて穏やかであることが科学的に示されています。
  • 医学的危険性: アレルギー性皮膚炎、目の化学熱傷、さらには長期的な眼瞼下垂(まぶたのたるみ)やまつげ脱毛に至る可能性があります。
  • 自己防衛の重要性: 安全な施術を受けるためには、消費者が自ら知識を身につけ、施術前のカウンセリングとパッチテストを徹底することが不可欠です。

第1部 まつげパーマ入門:その魅力と現実

まつげパーマは、その手軽さと効果から多くの支持を得ていますが、安全に楽しむためには、まずその仕組みと法的な位置づけを理解することが第一歩となります。

1.1 まつげパーマとは?カールが生まれる科学

まつげパーマ(ラッシュリフトとも呼ばれる)は、単にまつげを物理的に曲げるのではなく、化学反応を利用してまつげの内部構造を変化させる施術です。この過程は、頭髪にかけるパーマネントウェーブと原理的に同一であり、主に2つの段階で構成されます1

  1. 第1段階(還元): まつげの主成分であるケラチンタンパク質は、「ジスルフィド結合(S-S結合)」という強固な化学結合で形状が保たれています。まず、チオグリコール酸やシステアミンといった還元剤を含む薬剤(1剤)を塗布し、この結合を切断します2。これにより、まつげは柔軟で形を変えやすい状態になります。
  2. 第2段階(酸化): 次に、ロッドやシリコン製の型を使い、まつげを希望のカール形状に整えます。その状態で、過酸化水素などを含む酸化剤(2剤)を塗布します2。この酸化剤が、切断されていたジスルフィド結合を新しい形のまま再結合させ、カールを固定します。

ここで、しばしば混同されがちな「まつげエクステンション」との違いを明確にしておく必要があります。まつげパーマは自まつげそのものをカールさせるのに対し、まつげエクステンションは、シアノアクリレート系の接着剤を用いて人工まつげを自まつげに装着する施術です4。本稿はまつげパーマに焦点を当てますが、エクステンションで使用される接着剤が引き起こす健康被害(例:ホルムアルデヒドの放散によるアレルギー反応など)は、目元全体の安全性を考える上で重要な参考情報となります5。また、「パリジェンヌラッシュリフト」のような特定のサービス名も、基本的には同様の化学的原理に基づいた施術であり、本稿で解説する危険性と安全対策が等しく適用されます8

1.2 日本の法的枠組み:厳格に定められた「美容行為」

日本において、まつげパーマの施術は厳格な法的規制の下に置かれています。消費者の安全を守るためのこれらの規制を理解することは、信頼できるサービスを選択する上での第一歩です。

美容師法に基づく「美容行為」

まつげパーマは、美容師法第2条第1項で定義される「美容」に該当します。なぜなら、同法は「美容」を「パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすること」と定めており、まつげパーマはこの「パーマネントウエーブ」に含まれると解釈されているためです10。この法的定義の直接的な帰結として、まつげパーマを業として行うことができるのは、国家資格を持つ美容師のみに限られます10。無免許の者が施術を行うことは違法行為であり、罰則の対象となります。

薬機法と「目的外使用」の禁止

さらに重要なのが、使用される薬剤に関する規制です。厚生労働省は通知により、頭髪用に承認されたパーマ液(医薬部外品)をまつげに使用することを明確に禁止しています10。これは「目的外使用」と呼ばれ、禁止される理由は、目の周辺の皮膚が非常に薄くデリケートであり、薬剤が目に入った場合に視力障害を含む深刻な健康被害を引き起こす危険性が高いためです15

そして、ここで消費者が知るべき最も重要な事実があります。それは、現時点において、日本国内で「まつげ用」として薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づき正式に承認されたパーマ液は一つも存在しないという点です15

この事実は、一見すると矛盾した状況を生み出しています。法律は危険性の高い頭髪用パーマ液の使用を禁じていますが、同時に安全性が確認された「まつげ専用」の代替品を公的に承認していません。その結果、美容業界では、薬機法上の承認が不要な「化粧品」に分類される薬剤を使用して施術を行っているのが実情です。これらの「化粧品」扱いの製品は、医薬部外品や医薬品のような厳格な審査を経ていないため、その安全性は製造メーカーの自主基準と、施術を行う美容師の専門知識および技術に大きく依存することになります。この「規制上の安全の空白地帯」こそが、消費者が自ら知識を身につけ、施術者やサロンを慎重に選ばなければならない根本的な理由なのです。

表1:まつげパーマに関する日本の主な法的要件
法律/規制 要点 消費者への意味 根拠
美容師法 施術は国家資格を持つ美容師のみ可能。美容所以外の場所での施術は原則禁止。 施術者の美容師免許の有無を確認することが最も重要。届出のある美容所での施術か確認が必要。 美容師法第2条、第7条10
薬機法 / 厚生労働省通知 頭髪用パーマ液(医薬部外品)のまつげへの「目的外使用」は明確に禁止。 サロンが頭髪用の薬剤を流用していないか注意が必要。薬剤の種類について質問することが望ましい。 厚生労働省通知14
薬機法 / 現状 「まつげパーマ用」として薬機法上の承認を受けたパーマ液は存在しない。 現在使用されている薬剤は「化粧品」。その安全性は国の承認ではなく、メーカーの基準と施術者の技術に委ねられていることを理解する。 渋谷区保健所等の公表資料10

第2部 化学的現実:パーマ液に含まれる成分

まつげパーマの安全性を評価する上で、使用される薬剤の化学的性質を理解することは避けて通れません。どのような成分がカールを形成し、人体にどのような影響を及ぼす可能性があるのかを科学的に見ていきましょう。

2.1 主な有効成分:安全性の比較分析

まつげパーマの1剤(還元剤)に含まれる有効成分は、主に2つの系統に大別され、その安全性には大きな違いがあります。

  • チオグリコール酸(Thioglycolic Acid)およびその誘導体: 伝統的なパーマ液の主成分で、強力な還元作用を持ちます。しかし、腐食性を持ち、細胞毒性(細胞を殺す性質)が非常に高いことが知られています1。皮膚や目に付着した場合、化学熱傷や重篤な損傷を引き起こす危険性があります。
  • システアミン(Cysteamine)およびその誘導体: チオグリコール酸に代わる「より穏やかな」選択肢として登場した成分です。まつげのタンパク質へのダメージが比較的少ないとされています3

近年、これらの違いを科学的に検証した研究が登場しています。ヒトの皮膚細胞を用いて各種パーマ剤成分の細胞毒性を比較した研究では、驚くほど明確な結果が示されました17

  • チオグリコール酸に暴露された後、生存していた細胞はわずか5.76%でした。これは極めて高い細胞毒性を示します。
  • 対照的に、純システアミンに暴露された後の細胞生存率は87.34%と高く、炎症誘発性も最小限でした。

この研究結果は、システアミン系薬剤が「優しい」という謳い文句が、単なる感覚的なものではなく、細胞レベルで実証可能な科学的根拠に基づいていることを示唆しています。また、薬剤のpH(ペーハー)値も安全性に関わり、アルカリ性が高いほど刺激は強くなる傾向があります2

2.2 2024年の規制変更:「システアミン塩酸塩」問題

2024年3月26日、厚生労働省は、「システアミン塩酸塩(Cysteamine Hydrochloride)」を、洗い流さない製品(まつげパーマ液などが該当)において、化粧品成分から医薬品にしか使用できない成分へと区分変更する通知を出しました16。これは、システアミン系の全ての成分が禁止されたわけではなく、「純システアミン」など塩酸塩ではない形態は引き続き化粧品として使用可能ですが16、規制が常に進化していることを示す好例です。当局が化学物質への監視を強めていることを示唆しており、消費者は最新の規制動向に準拠した信頼性の高いサロンを選ぶことがこれまで以上に重要になっています18

表2:まつげパーマ有効成分の比較分析
有効成分 作用機序 細胞毒性・安全性プロファイル 日本での規制状況 根拠
チオグリコール酸 強力な還元力でS-S結合を切断。 非常に高い細胞毒性(細胞生存率 5.76%)。腐食性があり、皮膚や目への刺激が強い。 化粧品としての使用は可能だが、目的外使用に注意。 117
システアミン 比較的穏やかな還元力でS-S結合を切断。 低い細胞毒性(純システアミンで細胞生存率 87.34%)。チオグリコール酸より穏やかとされる。 システアミン塩酸塩は医薬品成分に移行。純システアミンは化粧品として使用可能(2024年3月時点)。 1617

第3部 医学的深掘り:報告されている健康リスクと合併症

まつげパーマの化学的な危険性が、実際にどのような健康問題として現れるのか。ここでは、臨床データや公的機関の報告に基づき、具体的な健康被害を詳細に解説します。

3.1 問題が発生したとき:眼および皮膚の疾患

まつげパーマの施術中または施術後に発生しうる健康被害は多岐にわたります。

  • アレルギー性接触皮膚炎・眼瞼炎: 施術後、数時間から数日経ってから現れる、まぶたのかゆみ、赤み、腫れ、ただれが主な症状です5。原因はパーマ液、接着剤、保護テープなどに含まれる化学物質へのアレルギー反応です。日本皮膚科学会の指針によれば、診断にはパッチテストが有効で、治療は原因物質との接触を断ち、ステロイド外用薬などが用いられます24
  • 角結膜炎・化学熱傷: 目の激しい痛み、充血、涙、視力のかすみが現れます5。施術者の手技ミスなどでパーマ液が眼球に直接接触することで発生し、特に腐食性のあるチオグリコール酸が目に入ると、視力に恒久的な障害を残す化学熱傷を引き起こす危険性があります1。日本の医学論文でも、まつげエクステンション関連の眼障害の多くが薬剤の侵入による角結膜炎であったと報告されています6
  • まつげおよびまぶたへの長期的ダメージ:
    • まつげの損傷・脱毛(Madarosis): 薬剤の化学的ストレスによりまつげが脆くなり、切れたり抜けたりします。「チリチリになった」という状態は、まつげの化学熱傷です26
    • 眼瞼下垂(Eyelid Ptosis): 慢性的な炎症やまぶたへの刺激が繰り返されると、まぶたの皮膚がたるみ、まぶたを持ち上げる筋肉の機能が弱まることで、目が開きにくくなる眼瞼下垂を誘発・悪化させる可能性が眼科医から指摘されています23

3.2 最前線からのエビデンス:日本の消費者レポート

個々の臨床例だけでなく、公的機関に寄せられる相談件数も、まつげパーマのリスクを客観的に示しています。

国民生活センターの警告

日本の独立行政法人国民生活センターは、長年にわたり、まつげ美容に関する健康被害(危害情報)の増加について警告を発しています。報告される事例には、まぶたのかぶれや目の炎症、化学熱傷といった深刻なものが含まれています12

よくある「失敗例」の医学的解釈

消費者が報告する「失敗例」は、多くの場合、施術上の問題や化学的損傷の兆候です。

  • 「まつげがチリチリになる」: 薬剤の作用が強すぎるか、放置時間が長すぎたことによる「過剰軟化」が原因です。化学的な火傷と言えます26
  • 「カールにばらつきがある」「かからない」: 施術者の技術不足を直接的に示しています。ロッド選定のミスや薬剤塗布の不均一などが原因です27
  • 「根元から折れる」: ロッドの選定や固定が不適切で、まつげの根元に不自然な圧力がかかった場合に起こる典型的な失敗例です27

これらの消費者からの報告は、単なる個人の感想ではなく、臨床症状の前段階、あるいはそのものであると理解することが重要です。この知識を持つことで、消費者は自身のまつげの変化が、治療を必要とする可能性のある健康問題であると認識できます。

第4部 アクションプラン:消費者のための安全ガイド

これまでに明らかになった知識を基に、消費者が自らの安全を守るための具体的な行動計画を提示します。

4.1 サロンと施術者の選び方:あなたの安全確認リスト

安全な施術は、信頼できる専門家を選ぶことから始まります。以下のリストを用いて、サロンと施術者を厳格に評価してください。

  1. 美容師免許の確認(必須条件): 店内に美容師免許証が掲示されているかを確認しましょう。明確に提示できないサロンは法律を遵守しておらず、選択肢から外すべきです12
  2. 徹底したカウンセリングの実施: 質の高いサロンは施術前に必ず詳細なカウンセリングを行います。以下の質問を投げかけ、その回答を注意深く吟味してください。
    • 薬剤について: 「使用するパーマ液の主成分は何ですか?チオグリコール酸系ですか、システアミン系ですか?」明確に答えられない施術者は、薬剤への理解が不足している可能性があります。
    • アレルギー対策について: 「パッチテストは可能ですか?」パッチテストを推奨するサロンは、アレルギーリスクを真摯に受け止めている証拠です22
    • 安全・衛生管理について: 「薬剤が目に入るのを防ぐ対策は?」「器具の消毒方法は?」具体的な説明を求め、納得できる回答が得られるかを確認しましょう4
  3. 危険なサロンの兆候(避けるべきサイン): 極端に低価格、カウンセリングの省略、施術の急かし、質問への曖昧な回答、免許の不提示といった特徴が見られるサロンは避けるべきです。

4.2 セルフまつげパーマの危険性:科学的・法的警告

市販のセルフまつげパーマキットの使用は、専門家の視点から見れば極めて危険な行為です。

  • 法的な問題: キットの多くは薬機法の規制が及ばない「雑貨品」として販売され、安全性や有効性が国によって一切保証されていません10
  • 化学的・技術的危険性: 薬剤の成分や濃度が不明瞭で、専門的な施術を自分自身に行うことは事実上不可能です。片目を閉じたまま精密に薬剤を塗布し、反応時間を見極めることは至難の業です32。その結果、「まつげが焼けた」「根元から切れた」といった深刻なダメージを負ったという消費者からの報告が後を絶ちません28

4.3 トラブル発生時の緊急対応ガイド

万が一、異常を感じた場合は、迅速かつ適切に対応することが被害を最小限に食い止める鍵となります。

  1. 直ちに行うべき応急処置: 違和感を覚えたらすぐに施術を中断してもらいます。薬剤が目に入った可能性がある場合は、こすらずに、すぐに大量の清潔な流水で15分以上洗い流してください22
  2. 専門医の受診: 症状に応じて、ためらわずに専門医を受診してください。皮膚の異常は皮膚科医、目の異常は眼科医を直ちに受診することが重要です422
  3. 関係機関への報告: まずは施術を受けたサロンに連絡し、対応に納得できない場合は、国民生活センターや最寄りの消費生活センターに相談しましょう12。あなたの報告が、将来の同様の被害を防ぐための貴重なデータとなります。

第5部 結論:エビデンスに基づく意思決定

まつげパーマは魅力的な美容法ですが、その裏には無視できない危険性が潜んでいます。本稿で得た知識を基に、自らの価値観と健康を最優先した、証拠に基づく意思決定を下す必要があります。

5.1 リスクと便益の統合

まつげパーマの最大の便益は、日々のメイク時間を大幅に短縮し、すっぴんでも自信が持てるという審美的な利便性にあります9。しかし、この便益は、法的、化学的、医学的、そして技術的な危険性と天秤にかける必要があります。ここでの最終的なメッセージは、単純な否定ではありません。むしろ、「まつげパーマは、消費者が規制の空白地帯を乗り越えるための知識で武装し、最高水準の安全性をサロンに要求する場合にのみ、危険性を最小化して受けることができる施術である」ということです。

5.2 安全な美しさへの道

美しさを追求する権利は誰にでもありますが、それは健康を犠牲にしてまで得るべきものではありません。まつげパーマを検討する、あるいは続けるにあたり、以下の3つの柱を常に心に留めておくことが、安全な美しさへの唯一の道です。

  1. 資格を持つ専門家: 美容師免許の確認は、安全のスタートラインです。
  2. 徹底した対話と事前テスト: カウンセリングはあなたの権利であり、パッチテストはアレルギーから身を守るための重要な防御策です。
  3. 知識を持つ消費者: あなた自身が危険性を理解し、何が安全で何が危険かを知っていること。これこそが、あなたを守る最強の武器です。

短期的な美しさの流行に流されることなく、長期的な目の健康を最優先する選択をすることが賢明です。そして、この情報を周囲と共有することで、より安全な美容文化の醸成に貢献することができるでしょう。

よくある質問

パッチテストは必ず受けるべきですか?

はい、強く推奨します。アレルギー反応は、ある日突然発症することがあります。以前に問題がなかったからといって、今後も安全であるとは限りません。特に、アレルギー体質の方や肌が敏感な方は、施術を受ける48時間以上前にパッチテストを受けることが、アレルギー性接触皮膚炎などの重篤な反応を防ぐために極めて重要です22

「化粧品登録」のパーマ液なら安全ですか?

「安全」とは断言できません。「化粧品登録」とは、その製品が医薬品や医薬部外品に該当しないという法的な区分であり、国が「まつげへの使用」に対して個別に安全性や有効性を承認したものではありません10。安全性はあくまで製造メーカーの基準に委ねられており、成分(例:チオグリコール酸)によっては強い刺激性や細胞毒性を持つものもあります。したがって、「化粧品だから安心」と考えるのではなく、成分や施術者の技術が安全性を左右すると理解することが重要です。

セルフキットを使うのはなぜ危険なのですか?

セルフキットは法的に安全性が保証されていない「雑貨品」であることが多く、どのような成分が含まれているか不明瞭です10。また、専門家でなければ、薬剤が皮膚や粘膜に付着するのを防ぎながら精密に塗布することは不可能に近いです32。その結果、目の化学熱傷やまつけの深刻な損傷(断毛など)を引き起こす危険性が非常に高くなります28

もし施術後にトラブルが起きたら、まず何をすべきですか?

まず、かゆみや痛みなどの異常を感じたら、すぐに専門医を受診してください。皮膚の異常であれば皮膚科、目の痛みや充血であれば眼科です422。自己判断で放置すると症状が悪化する可能性があります。同時に、施術を受けたサロンに状況を報告し、対応を求めることも重要です。解決しない場合は、国民生活センターなどの公的機関に相談しましょう12

まつげパーマでまつげは傷みますか?

はい、程度の差はあれ、化学的な損傷は避けられません。まつげパーマは、まつげ内部のタンパク質結合を一度切断し、再結合させる化学プロセスです2。不適切な薬剤や技術、頻繁すぎる施術は、キューティクルを破壊し、「チリチリになる」「切れる」といった修復困難なダメージにつながる可能性があります26。適切なケアと施術間隔を守ることが、ダメージを最小限に抑える鍵となります。

結論

まつげパーマは、正しく理解し、賢明に選択すれば、生活の質を高める素晴らしい美容法となり得ます。しかし、その手軽さの裏には、法的、化学的、医学的な危険性が存在することを決して忘れてはなりません。本稿で提示した証拠に基づき、消費者はもはや単なる受け手ではありません。自らの健康を守るための知識で武装し、安全性を最優先する「賢い消費者」として、施術者やサロンと対等にコミュニケーションをとることが求められます。美しさの追求が、決して健康を損なうものであってはならないのです。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  18. 「まつ毛パーマ」にシステアミン系は使えなくなる? 基準改正ホントのところ | ボブログ. Available from: https://boblog.tv/post/17502/
  19. 化粧品の取扱い変更後も使える!システアミン塩酸塩不使用ラッシュリフト剤8選 – Beauté(ボーテ). Available from: https://www.beaute-p.com/item/8-183/
  20. システアミン塩酸塩不使用のラッシュリフト剤で化粧品の取扱い変更に対応 | Foula Magazine. Available from: https://www.foula-store.jp/column/452/
  21. 後を絶たない、まつ毛エクステンションの危害(発表情報)_国民生活センター. Available from: https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20150604_1.html
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  26. まつ毛パーマはやめたほうがいい?3つの理由と後悔しないための… – note. Available from: https://note.com/kirei_life/n/n2031f687d3c6
  27. まつげパーマの失敗について – best trip【ベストトリップ】. Available from: https://soplash.jp/67/
  28. まつ毛パーマで起こる失敗例10選と原因や直し方を徹底解説 – 【公式】BONDZSALON|ボンズサロン|表参道・麻布十番の美容室. Available from: https://bondzsalon.jp/blog/eyelashperm-failure/
  29. こんなお店は気をつけて!まつ毛パーマの失敗例&対処法. Available from: https://dame-de-rose.com/%E3%81%93%E3%82%93%E3%81%AA%E3%81%8A%E5%BA%97%E3%81%AF%E6%B0%97%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%91%E3%81%A6%EF%BC%81%E3%81%BE%E3%81%A4%E6%AF%9B%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%81%AE%E5%A4%B1%E6%95%97%E4%BE%8B/
  30. 安心してまつ毛パーマを楽しむための安全ガイドライン. Available from: https://browtasu.com/column/detail/20250311165927/
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