【科学的根拠に基づく】インスリンアナログ完全ガイド:最新の種類から効果的な使い方、費用のすべてまで
糖尿病

【科学的根拠に基づく】インスリンアナログ完全ガイド:最新の種類から効果的な使い方、費用のすべてまで

インスリン治療と聞くと、「糖尿病の最終段階」「痛くて面倒」といった不安や抵抗感を抱かれる方が少なくありません。実際に、多くの患者さんが治療の開始をためらい、その結果、血糖コントロールが不十分な状態が続いてしまうという現実があります1。しかし、その認識はもはや過去のものです。現代のインスリンアナログ製剤は、科学技術の進歩によって生み出された、非常に優れた治療選択肢です。それは罰ではなく、より良い健康と、より自由な生活を取り戻すための強力なツールなのです2。この記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、日本国内外の最新かつ信頼性の高い科学的根拠に基づき、インスリンアナログに関するあらゆる情報を網羅した、日本で最も包括的なガイドです。患者さんとそのご家族が、糖尿病という病気を主体的に管理し、より質の高い人生を歩むための一助となることを心から願っています。

この記事の科学的根拠

この記事は、ご提供いただいた研究報告書で明示的に引用されている、最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源の一部と、それらが本記事の医学的指導にどのように関連しているかの概要です。

  • 日本糖尿病学会 (JDS): 本記事における血糖管理目標、薬剤選択、治療戦略に関する推奨は、主に「糖尿病診療ガイドライン2024」に基づいています3
  • 米国糖尿病協会 (ADA): グローバルな視点と最先端の治療標準を提供するため、「Standards of Care in Diabetes—2025」を参照し、日本の状況に合わせて情報を統合しています4
  • ONWARDS臨床試験プログラム: 週1回投与のインスリン イコデク(アウィクリ®)の有効性と安全性に関する記述は、この大規模臨床試験の結果に基づいています5
  • 医薬品医療機器総合機構 (PMDA): 日本で承認されている各インスリン製剤の具体的な製品情報(作用時間、使用法、保管方法など)は、PMDAが公開する添付文書に基づいています6

要点まとめ

  • インスリンアナログは、健康な人の自然なインスリン分泌を科学的に再現した高機能な薬剤であり、「治療の最終手段」ではありません。
  • 「超速効型」「持効型溶解」「混合型」など多様な種類があり、患者一人ひとりの生活様式に合わせてきめ細やかな治療が可能です。
  • 週1回投与の新しいインスリン(アウィクリ®)が登場し、毎日の注射の負担を大幅に軽減できるようになりました。
  • 正しい注射手技と低血糖への対処法を学ぶことで、安全かつ効果的に治療を続けることができます。
  • 費用は公的医療保険の対象となり、自己負担額は月々数千円程度から可能ですが、個々の状況により異なります。

インスリンアナログとは? ― 自然なインスリン分泌を科学で再現する

インスリンアナログとは、遺伝子組換え技術を用いて、人のインスリンの構造を部分的に変更(アミノ酸配列を置換)することで、体内での吸収速度や作用時間を調整したインスリン製剤です7。その最大の目的は、健康な人の体内で起こる、二つの主要なインスリン分泌パターンを可能な限り忠実に模倣することにあります。

健康な人の膵臓は、一日を通して常に少量のインスリンを分泌し続けています。これを「基礎分泌(Basal)」と呼び、食事をしていない時や睡眠中でも血糖値が安定するように保つ役割があります3。一方、食事を摂ると血糖値が上昇するため、それを速やかに正常範囲に戻すために、まとまった量のインスリンが追加で分泌されます。これが「追加分泌(Bolus/Prandial)」です3

かつて使用されていた旧来のヒトインスリン製剤では、この自然なリズムを再現することが難しく、例えば食事の30分前に注射する必要があったり、作用のピークが予測しにくく低血糖のリスクが高まったりするなどの課題がありました。インスリンアナログはこれらの課題を克服するために開発され、より柔軟な生活様式を可能にし、血糖コントロールを向上させる画期的な進歩をもたらしたのです2

日本で使えるインスリンアナログ製剤の完全リスト

現在、日本の医療現場では多種多様なインスリンアナログ製剤が使用可能です。ここでは、その種類と特徴を網羅的に解説します。この情報は、患者さんと医師が共同で最適な治療法を決定するための重要な基盤となります。

追加インスリン:超速効型

食事による血糖値の急上昇を抑える目的で使用されます。その名の通り、非常に速やかに効果が現れるため、食事の直前や食事開始時の注射が可能です。これにより、「食事の時間を厳密に守らなければならない」という制約から解放され、生活の自由度が高まります3

  • 主な製品: ノボラピッド® (インスリン アスパルト)、ヒューマログ® (インスリン リスプロ)、アピドラ® (インスリン グルリジン) など8
  • 最新の製剤: さらに作用発現を速めたフィアスプ®やルムジェブ®といった新しい世代の製剤も登場しており、食事開始後20分以内の投与も可能になるなど、柔軟性がさらに向上しています8
  • 特徴: 注射後10~20分(最新型ではさらに短い)で効果が現れ始め、1~3時間で作用が最大となり、3~5時間で効果が消失します3

基礎インスリン:持効型溶解

一日一回(または二回)の注射で、24時間以上にわたり安定したインスリン基礎分泌を補う目的で使用されます。作用のピークがほとんどないため、特に夜間の低血糖リスクを旧来のインスリン製剤(NPHインスリンなど)と比較して大幅に低減できるのが大きな利点です3

  • 主な製品: ランタス® (インスリン グラルギン U100)、レベミル® (インスリン デテミル)、トレシーバ® (インスリン デグルデク) など8
  • 最新の製剤: ランタス®の作用時間をさらに延長し安定させたランタス®XR (U300)や、そして画期的な週1回投与を実現したアウィクリ® (インスリン イコデク)があります8。バイオシミラー(後続品)も利用可能です9
  • 特徴: 長時間にわたり、平坦で安定した効果が持続します。

混合型・配合溶解インスリン

超速効型(または速効型)インスリンと、その効果を長く持続させるためのインスリン(中間型など)を、あらかじめ一定の割合で混合した製剤です。1回の注射で追加分泌と基礎分泌の一部を補うことができるため、注射回数を減らせるという利便性があります。多くは1日2回、朝夕の食前に注射します3

  • 主な製品: ノボラピッド®30ミックス/50ミックス、ヒューマログ®ミックス25/50など10
  • 配合溶解製剤: 持効型溶解インスリンと超速効型インスリンを配合したライゾデグ®などもあります8
  • 特徴: 利便性が高い一方で、インスリンの割合が固定されているため、食事の内容や量、活動量に応じた細かな調整が難しいという側面もあります。懸濁製剤の場合は、使用前に均一に混ぜる操作が必要です6

表1: 日本で利用可能なインスリンアナログ製剤マスター比較表

この表は、日本で承認されている主要なインスリンアナログ製剤の情報を、PMDAの添付文書11や臨床ガイドライン3、製品リスト8に基づいてまとめたものです。最適な治療選択のための参考情報としてご活用ください。

タイプ 一般名 製品名 製造販売元 作用発現時間 最大作用時間 作用持続時間 主な特徴・用途
超速効型 インスリン アスパルト (Faster) フィアスプ® ノボ ノルディスク ファーマ ノボラピッド®より速い 1~3時間 3~5時間 作用が極めて速く、食事開始時または食事開始後20分以内の投与が可能8
超速効型 インスリン アスパルト ノボラピッド® ノボ ノルディスク ファーマ 10~20分 1~3時間 3~5時間 速やかに作用し、食後の血糖上昇を抑制。食事の直前に注射8
超速効型 インスリン リスプロ (Ultra Rapid) ルムジェブ® 日本イーライリリー ヒューマログ®より速い 作用が極めて速く、食事時間とのタイミングの柔軟性が高い8
超速効型 インスリン リスプロ ヒューマログ® 日本イーライリリー 15分以内 0.5~1.5時間 3~5時間 速やかに作用し、食事の直前(15分以内)に注射8
超速効型 インスリン グルリジン アピドラ® サノフィ 15分以内 0.5~1.5時間 3~5時間 速やかに作用し、食事の直前(15分以内)に注射8
持効型(基礎) インスリン イコデク アウィクリ® ノボ ノルディスク ファーマ 定常状態に到達 明瞭なピークなし 1週間以上 週に1回の注射で済む基礎インスリン。注射の負担を劇的に軽減8
持効型(基礎) インスリン デグルデク トレシーバ® ノボ ノルディスク ファーマ 定常状態に到達 明瞭なピークなし 42時間以上 超長時間作用。作用が安定しており夜間低血糖のリスクが低い8
持効型(基礎) インスリン グラルギン (U300) ランタス®XR サノフィ 1~2時間 明瞭なピークなし 24時間超 高濃度製剤。U100よりさらに持続的で安定した作用を示す8
持効型(基礎) インスリン グラルギン (U100) ランタス® サノフィ 1~2時間 明瞭なピークなし 約24時間 標準的な基礎インスリン。1日1回の注射で広く使用されている8
持効型(基礎) インスリン デテミル レベミル® ノボ ノルディスク ファーマ 約1時間 3~14時間 約24時間 基礎インスリン。患者の状態により1日1~2回の注射で使用される8
混合型/配合溶解 インスリン デグルデク/アスパルト ライゾデグ® ノボ ノルディスク ファーマ 10~20分 複数のピーク 約24時間 基礎(デグルデク)と追加(アスパルト)を7:3の比率で配合8
混合型 インスリン リスプロ プロタミン/リスプロ ヒューマログ®ミックス25/50 日本イーライリリー 15分以内 複数のピーク 18~24時間 超速効型(リスプロ)と中間型(リスプロプロタミン)の混合製剤8
混合型 インスリン アスパルト プロタミン/アスパルト ノボラピッド®ミックス30/50 ノボ ノルディスク ファーマ 10~20分 複数のピーク 約24時間 超速効型(アスパルト)と中間型(アスパルトプロタミン)の混合製剤8

最前線:インスリン治療における最新のブレークスルー

インスリン治療は絶えず進化しています。ここでは、患者さんの生活の質を劇的に改善する可能性を秘めた、最新の治療法を紹介します。

週1回注射革命:インスリン イコデク (アウィクリ®)

2024年に日本で承認されたアウィクリ®(一般名:インスリン イコデク)は、基礎インスリン療法における画期的な進歩です。毎日必要だった注射が週に1回で済むようになり、患者さんの身体的・精神的負担を大幅に軽減します5。大規模な臨床試験(ONWARDSプログラム)において、従来の1日1回投与の基礎インスリンと比較して、HbA1c(過去1~2ヶ月の血糖コントロール指標)の低下において同等以上の効果が示されました5。特に、高齢の患者さんにおいては、日本糖尿病学会と日本老年医学会が共同で、低血糖に注意しながら慎重に使用することで大きな恩恵が期待できるとの見解(Recommendation)を発表しており、介護負担の軽減にも繋がる可能性があります12

より速く、より良く:新世代の超速効型アナログ

フィアスプ®やルムジェブ®といった新しい世代の超速効型インスリンは、従来品よりもさらに速く作用が始まります。これにより、食後の血糖コントロールがより良好になるだけでなく、食事のタイミングに関する柔軟性が増し、「食事の直前に打ち忘れた」といった場面でも食事開始後(最大20分後まで)の投与が可能になるなど、生活の質を具体的に向上させます3。ただし、日本糖尿病学会は、フィアスプ®をインスリンポンプで使用する際にゲル化する可能性があるとの注意喚起もしており、安全な使用のためには専門医との連携が不可欠です3

配合剤の力:基礎インスリン+GLP-1受容体作動薬

ゾルトファイ®やソリクア®といった配合剤は、基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬という、作用機序の異なる2つの強力な血糖降下薬を1本の注射器にまとめたものです。この組み合わせにより、インスリン単独よりも少ないインスリン量で、体重増加を抑えながら、より良好な血糖コントロールを達成できることが多くの研究で示されています3

効果的かつ安全な使用法 ― 実践ガイド

インスリン治療の成否は、薬剤そのものの性能だけでなく、それをいかに正しく、安全に使うかにかかっています。ここでは、治療を成功に導くための実践的な知識を解説します。

治療の基礎を築く:Basal-Bolus療法とBOT

インスリン治療の基本的な考え方には、主に二つの戦略があります。

  • BOT (Basal Supported Oral Therapy): 経口血糖降下薬を継続しながら、1日1回の持効型溶解インスリン(基礎インスリン)注射を追加する方法です。インスリン治療を始める際の、比較的簡便な第一歩として選択されることが多いです13
  • Basal-Bolus療法(強化インスリン療法): 健康な人のインスリン分泌に最も近い形を再現する、より本格的な治療法です。1日1~2回の持効型溶解インスリン(基礎分泌)に加え、毎食前に超速効型インスリン(追加分泌)を注射します3。きめ細やかな血糖コントロールが可能ですが、注射回数が多くなります。

注射手技のマスター

正しい手技は、インスリンの効果を最大限に引き出し、合併症を防ぐために極めて重要です。

  • 注射部位: 主に腹部、太もも、臀部、上腕の後ろ側が用いられます。腹部は吸収が速く安定しているため、多くの場面で推奨されます14
  • 部位のローテーション: 毎回同じ場所に注射を続けると、皮下組織が硬くなる「リポハイパートロフィー(脂肪織硬結)」という状態になり、インスリンの吸収が悪くなる原因となります。これを防ぐため、前回の注射部位から2~3cmずらすなど、体系的に場所を変える「ローテーション」が不可欠です14
  • 保管方法: 未使用のインスリンは冷蔵庫(2~8℃)で保管します。現在使用中のペン型製剤は、室温(30℃以下)で、光を避けて保管します。凍結させたり、高温の場所に放置したりすると品質が劣化するため、絶対に避けてください15

低血糖の予防と対策

低血糖はインスリン治療で最も注意すべき副作用ですが、インスリンアナログの登場により、そのリスクは旧来の製剤より低減しています3。しかし、知識を持って備えることが重要です。

  • 症状: 冷や汗、動悸、手の震え、強い空腹感などが初期症状です。重症化すると意識障害や痙攣に至ることもあります。
  • 対処法: 症状を感じたら、すぐにブドウ糖10gまたはブドウ糖を含むジュースなどを約150-200mL摂取します。15分経っても回復しない場合は、再度同じ量を摂取します。
  • 予防: 食事時間や量を守る、インスリンの量を間違えない、空腹時の運動を避けるなどが基本です。特に高齢者では、重症低血糖が転倒や骨折の引き金になることもあるため、より慎重な管理が求められます16

治療と生活の融合

インスリン治療は、日常生活の中にうまく組み込むことで、その効果を最大限に発揮します。

  • シックデイ(病気の日)の対応: 風邪や胃腸炎などで体調を崩した際は、食事量が減ってもストレスホルモンの影響で血糖値が上昇することがあります。自己判断でインスリンを中断せず、必ず主治医に連絡し、指示を仰いでください15
  • 運動との両立: 運動は血糖コントロールに有益ですが、低血糖を引き起こす可能性もあります。運動の種類や強度に応じて、インスリンの量を調整したり、補食を摂ったりするなどの工夫が必要です。事前に医師と相談することが重要です2
  • カーボカウント: 食事中の炭水化物(カーボハイドレート)の量を計算し、それに見合った量の超速効型インスリンを注射する方法です。食事の自由度を高めるための高度な手法で、JDSやADAのガイドラインでも推奨されています4

日本における治療:費用、サポート、そして患者さんの声

治療を続ける上で、経済的な側面や精神的なサポート、そして同じ経験を持つ人々の声は大きな支えとなります。

インスリン治療の経済的現実

「インスリン治療は高額」というイメージがあるかもしれませんが、日本では公的医療保険が適用されるため、多くの患者さんは医療費の3割負担(年齢や所得により異なる)で治療を受けることができます17。費用は、インスリン製剤自体の薬剤費に加え、診察料や「在宅自己注射指導管理料」などが含まれます18

表2: インスリン治療の月間自己負担額(目安)

以下は、一般的な治療レジメンにおける薬剤費の月間自己負担額(3割負担と仮定)の目安です。実際の費用は、処方される薬剤の種類、用量、保険の種類、薬局などによって変動します。

治療レジメン インスリン製剤例 1日使用量目安 薬剤費/月 (薬価ベース) 自己負担額/月 (3割負担・目安) 備考
BOT (経口薬 + 基礎インスリン) ランタス® ソロスター® (1本300単位) 20単位/日 2,378円 (2本/月) 約 713円 薬価1,189円/本を基に計算9
BOT (経口薬 + 基礎インスリン) トレシーバ® フレックスタッチ® (1本300単位) 20単位/日 3,356円 (2本/月) 約 1,007円 参考薬価に基づく。
Basal-Bolus (基礎 + 追加) ランタス®(20単位) + ヒューマログ®(10単位x3) 合計50単位/日 約 7,000~8,000円 約 2,100~2,400円 平均的な用量での概算19
週1回基礎インスリン アウィクリ® フレックスタッチ® (1本700単位) 70単位/週 5,593円 (1本/月) 約 1,678円 参考薬価に基づく。
インスリンポンプ (CSII) 約 9,000~16,000円 ポンプ管理料や消耗品費を含むため高額になる20
注: 上記は薬剤費のみの概算です。診察料、在宅自己注射指導管理料、その他の薬剤費、医療消耗品(注射針、血糖測定器関連)の費用は含まれていません。

私たちは一人じゃない:経験者の声

理論やデータだけでなく、実際に治療を経験した人々の声は、これから治療を始める方々にとって大きな勇気となります。

  • 「始める前はすごく怖かったけれど、実際にやってみたら注射の痛みもほとんどなくて。何より、頻尿や倦怠感といった高血糖のつらい症状がなくなったのが嬉しいです」1
  • 「もっと早く始めていれば、こんなに楽になれたのかと思いました。食事の自由も増えて、前向きな気持ちになれました」13

このような声は、決して特別なものではありません。日本糖尿病協会などの患者支援団体では、さまざまな情報提供や交流の場を設けており、孤独を感じずに治療を続けるためのサポートを受けることができます21

よくある質問

インスリン注射は痛いですか?

現在の注射針は、技術の進歩により極めて細く(髪の毛ほど)、先端のカットも工夫されているため、痛みはほとんど感じないか、感じてもごくわずかです1。多くの方が「思ったよりずっと痛くなかった」と感じています。痛みが心配な場合は、医師や看護師に相談することで、より痛みの少ない注射方法についてアドバイスをもらえます。

インスリン治療は一度始めたら、一生やめられないのですか?

必ずしもそうとは限りません。1型糖尿病の場合は、体内でインスリンをほとんど作れないため、生涯にわたるインスリン補充が必要です。しかし、2型糖尿病の場合は、インスリン治療によって膵臓の負担が軽減され、インスリン分泌能力が回復することがあります。その結果、食事療法や運動療法、他の薬剤への切り替えによって、インスリン注射が不要になるケースもあります13。治療の目標は、医師と相談しながら個別に設定されます。

インスリンを使うと太るというのは本当ですか?

インスリンには、ブドウ糖をエネルギーとして細胞に取り込ませる働きがあります。治療によって血糖コントロールが改善すると、それまで尿中に排泄されていた余分な糖が効率よく利用されるようになるため、体重が増加することがあります。しかし、これは治療が効果を上げている証拠でもあります。適切な食事療法と運動療法を組み合わせることで、体重増加は最小限に抑えることが可能です3。GLP-1受容体作動薬との配合剤など、体重増加を抑える選択肢もあります。

結論

インスリンアナログは、「最終手段」などではなく、糖尿病と共に豊かに生きるための、安全で効果的な「最良のパートナー」の一つです。最新の製剤は、かつてないほどの柔軟性と利便性をもたらし、毎日の注射の負担を軽減し、より優れた血糖コントロールと高い生活の質を実現する可能性を秘めています。重要なのは、不安や誤解にとらわれず、正しい知識を持つことです。そして、主治医、看護師、薬剤師、管理栄養士といった医療チームとオープンに対話し、協働していくことです。この記事が、あなた自身がご自身の治療の主役となり、糖尿病管理において最善の決断を下すための一助となることを、JHO編集委員会一同、心より願っております。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  2. 神戸きしだ内科クリニック. インスリンアナログ製剤の特徴と効果|持続型と超速効型の使い分け [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://kobe-kishida-clinic.com/diabetes/insulin-analog-features-effect/
  3. 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2024. 6章 インスリンによる治療 [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/06.pdf
  4. American Diabetes Association. 9. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2025. Diabetes Care. 2025;48(Supplement_1):S181-S204. doi:10.2337/dc25-S009. Available from: https://diabetesjournals.org/care/article/48/Supplement_1/S181/157569/9-Pharmacologic-Approaches-to-Glycemic-Treatment
  5. ノボ ノルディスク ファーマ株式会社. アウィクリ® | 週1回持効型溶解インスリンアナログ注射液 | 糖尿病製品 [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://pro.novonordisk.co.jp/products/awiqli.html
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