ニキビ跡は治る?皮膚科専門医が徹底解説する原因と最新治療法のすべて【2025年版・科学的根拠と診療ガイドライン準拠】
皮膚科疾患

ニキビ跡は治る?皮膚科専門医が徹底解説する原因と最新治療法のすべて【2025年版・科学的根拠と診療ガイドライン準拠】

ニキビ跡に関する悩みは、単なる美容上の問題にとどまりません。多くの方々が、日々の生活の質(QOL – Quality of Life)に影響を及ぼすほどの、大きな精神的・感情的な負担を抱えています1。ニキビは「青春のシンボル」などではなく、それが残す跡は永続的なコンプレックスや不安の原因となり得るのです。
本稿は、表面的な治療法を羅列するものではありません。これは、2023年の日本皮膚科学会による診療ガイドラインや国際的なシステマティックレビューを含む、最高レベルの医学的根拠に基づいて構築された包括的な手引きです。なぜニキビ跡が形成されるのか、どのような種類があるのか、そして各種類に対してどの治療法が科学的に有効であると証明されているのかを、徹底的に解説します。
この記事のすべての情報は、皮膚科専門医の監修のもと、日本皮膚科学会や医学文献データベースPubMedなどの信頼できる情報源と照合されています。私たちの目標は、皆様が滑らかな肌を取り戻すための道のりにおいて、賢明な判断を下す一助となる、信頼性が高く専門的な情報を提供することです。本稿では、ニキビ跡の種類を理解し、セルフケアから専門的な臨床治療までの選択肢を探り、最終的にはニキビ跡の形成を未然に防ぐ方法について詳述します。

要点まとめ

  • 予防が最善の治療: ニキビ跡を防ぐ最も効果的な方法は、炎症性ニキビを活動段階で積極的に治療することです。
  • 正確な診断が不可欠: 治療効果はニキビ跡の種類(赤み、色素沈着、凹み、盛り上がり)によって大きく異なるため、自身の状態を正確に把握することが重要です。
  • 凹んだニキビ跡には医療介入が必要: クレーター状の凹んだニキビ跡は、真皮層の損傷であり、セルフケアでの改善は不可能です。レーザー治療やサブシジョンなどの専門的な治療が求められます。
  • コンビネーション治療が主流: 最も効果的なアプローチは、個々の肌の状態に合わせて複数の治療法(例:サブシジョンとヒアルロン酸注入、レーザーとPRP療法)を組み合わせることです。
  • 専門家への相談: 科学的根拠に基づいた現実的な治療計画を立てるために、日本皮膚科学会認定専門医などの資格を持つ医師に相談することが成功への鍵となります。

第1部:第一歩は予防から – なぜ炎症性ニキビの治療が最善のニキビ跡治療なのか

ニキビ跡への対処において、最も重要かつ核となるメッセージは「予防」です。ニキビ跡を作らないための最も効果的な戦略は、活動中のニキビ、特に炎症を伴うニキビを、積極的かつ適切に治療しきることです。
世界中の権威ある医学ガイドラインは、この点における重要性を一貫して強調しています。2023年の日本皮膚科学会(JDA)のガイドラインでは、軽度のニキビでさえ瘢痕(はんこん)を残す可能性があり、早期かつ積極的な治療がこの後遺症を防ぐための鍵であると明記しています1。同様に、2024年の米国皮膚科学会(AAD)のガイドラインも、ニキビ治療薬の使用を第一選択肢として強く推奨しています2
多くの方々は、まだ活動中のニキビが肌にあるにもかかわらず、「ニキビ跡の治し方」を検索します。責任ある医療記事は、読者の目標を再設定する必要があります。つまり、「傷跡を修復する」ことだけに焦点を当てるのではなく、「傷跡の原因を断ち切る」ことを優先させるべきです。これは医学的に合理的なアプローチであり、肌の長期的な健康を最優先にすることで、読者との間に確固たる信頼を築きます。
JDAのガイドラインは、過酸化ベンゾイル(BPO)、アダパレン、および配合ゲル(例:クリンダマイシン/BPO、アダパレン/BPO)などの外用薬による炎症性ニキビの治療に対して、最高レベルの推奨度(推奨度A)を与えています。より重症なケースでは、ドキシサイクリンなどの経口抗菌薬も強く推奨されています1。日本の皮膚科クリニックはこれらのガイドラインを厳格に遵守し、ゼビアックス®、ベピオ®、経口抗菌薬などを処方することで、炎症を効果的にコントロールしています3
したがって、ニキビ跡を心配するすべての人にとって、最初に行うべき、そして遅らせてはならない行動は、皮膚科医を受診することです。処方薬を用いて炎症を鎮静化させることは、皮膚構造の破壊を防ぎ、永続的な瘢痕が形成されるリスクを最小限に抑えるための基本的なステップです。ニキビの状態が完全にコントロールされて初めて、残った瘢痕の治療段階へと移行すべきなのです。

第2部:自分のニキビ跡を理解する – ニキビ跡の種類の完全ガイド

すべてのニキビ跡が同じではありません。効果的な治療は、ニキビ跡の種類を正確に特定することから始まります。なぜなら、種類によって最適な治療法が異なるからです。このセクションでは、ご自身の状態を判断できるよう、詳細な説明とイラストを提供します。

2.1. 赤みのあるニキビ跡 – 炎症後紅斑 (Post-Inflammatory Erythema – PIE)

説明: 炎症を起こしたニキビが治った後に残る、赤または紫がかった平らな斑点です。これは、炎症がまだ微弱に残存している状態や、皮膚の下にある毛細血管の拡張や損傷の兆候です4。多くの人がこれを活動中のニキビと誤解しがちですが、触ってみると表面は完全に平らです。
予後: 適切なケアを行えば時間とともに自然に薄れていく可能性がありますが、このプロセスには時間がかかることがあります5。治療的介入によって、回復を大幅に早めることが可能です。この段階は、クレーターのようなより重度の瘢痕への移行を防ぐために、非常に重要な介入時期です6

2.2. 茶色いニキビ跡(色素沈着) – 炎症後色素沈着 (Post-Inflammatory Hyperpigmentation – PIH)

説明: 炎症反応としてメラニンが過剰に生成されることによって形成される、茶色や黒ずんだ斑点です4。色素沈着の色は、メラニンによる茶黒色の場合と、損傷した血管からのヘモグロビンによる紫がかった茶色の場合があります7
予後: 自然に薄くなるまでには数ヶ月、場合によっては数年かかることもあります8。この状態は、紫外線(UV)に無防備にさらされると著しく悪化します4

2.3. 凹み・クレーター状のニキビ跡 – 萎縮性瘢痕 (Atrophic Scars)

説明: これは最も治療が難しいタイプの瘢痕で、重度の炎症過程で真皮層のコラーゲン線維やエラスチン線維が破壊されることによって引き起こされます4。真皮層は表皮層ほど強力な再生能力を持たないため、皮膚表面に永続的な凹みが生じます5。信頼できる医療情報源はすべて、このタイプの瘢痕を自宅でのセルフケアで改善することは不可能であると断言しています6
サブタイプ(治療法選択において極めて重要):

  • アイスピック型 (Ice-Pick Scars): 深く、狭い(直径2mm未満)V字型の凹みで、まるで鋭利なもので刺されたかのように見えます。その深さゆえに治療が最も困難なタイプです5
  • ボックスカー型 (Boxcar Scars): より幅広く、水疱瘡の跡のようにU字型で、縁がはっきりしている凹みです。底は比較的平坦です5
  • ローリング型 (Rolling Scars): 幅が広く(4mm以上)、浅く、縁がなだらかなM字型の凹みで、肌が波打っているような外観を与えます。これは、下にある線維性組織が皮膚表面を引き込んでいることが原因です5

2.4. しこり・ケロイド状のニキビ跡 – 肥厚性瘢痕・ケロイド (Hypertrophic & Keloid Scars)

説明: このタイプの瘢痕は、創傷治愈過程でコラーゲンが過剰に生成されることによって形成されます。

  • 肥厚性瘢痕 (Hypertrophic Scars): 硬く盛り上がった瘢痕ですが、その範囲は元の傷の範囲内に限定されます5
  • ケロイド (Keloids): より強力に増殖し、元の傷の境界を越えて広がる瘢痕です。ケロイドはしばしば痒みや痛みを伴い、遺伝的な傾向があります。このタイプの瘢痕も、セルフケアでの改善は不可能とされています5

読者が全体像を把握し、治療の方向性を定める一助となるよう、以下の表に各瘢痕の主な特徴と治療方針をまとめます。

ニキビ跡の種類 見た目の特徴 主な原因 セルフケアでの改善 主な治療法
赤み (PIE) 赤または紫色の平らな斑点 炎症と毛細血管の損傷 可能(ただし時間はかかる) 光治療(IPL)、色素レーザー(Vビーム)、イオン導入
色素沈着 (PIH) 茶色や黒ずんだ平らな斑点 炎症後のメラニン過剰生成 可能(忍耐と徹底した紫外線対策が必要) ケミカルピーリング、ピコレーザー、レチノイド、ハイドロキノン
凹み – アイスピック型 深く、狭く、口が小さい凹み コラーゲン構造の深い破壊 不可能 TCAクロスピーリング、フラクショナルCO2レーザー(深部モード)
凹み – ボックスカー型 幅広く、縁が垂直な凹み 広範囲のコラーゲン破壊 不可能 フラクショナルレーザー、ニードルRF(ポテンツァ)、サブシジョン
凹み – ローリング型 幅広く、縁がなだらかで、波打つような凹み 線維性組織による皮膚の引き込み 不可能 サブシジョン(核心的治療)、注入剤(フィラー)、フラクショナルレーザー、ニードルRF(ポテンツァ)
肥厚性瘢痕・ケロイド 皮膚表面から硬く盛り上がる コラーゲンの過剰生成 不可能 ステロイド局所注射、レーザー治療、処方内服薬・外用薬

第3部:治療マトリックス – 各ニキビ跡へのエビデンスに基づいたアプローチ

ここが本稿の中心部分です。各サブセクションでは、特定のニキビ跡に対して利用可能な治療法を詳細に分析し、科学的根拠のレベルに基づいてランク付けし、日本における費用、ダウンタイム、期待される結果に関する実践的な情報を提供します。

3.1. 赤みのあるニキビ跡(PIE)の治療 – 炎症と血管へのアプローチ

赤みの治療における主な目標は、残存する炎症を鎮め、拡張した血管を処理することです。

  • 臨床的治療法:
    • IPL(Intense Pulsed Light)/光治療: 複数の波長の光パルスを用いて血管内のヘモグロビンを標的とし、赤みを軽減します。美容クリニックで広く行われている治療法です6
    • 色素レーザー(Dye Lasers、例:Vビーム): 血管性病変の治療における「ゴールドスタンダード」と見なされています9。このレーザーはヘモグロビンに選択的に吸収される波長を放出し、IPLよりも正確に拡張した毛細血管を破壊します6。タカミクリニックなどの一部の高級クリニックでは、赤み専用のレーザー治療を提供しています10
    • イオン導入(Iontophoresis): ビタミンCなどを皮膚深部に導入するためによく用いられます。ビタミンCには抗炎症作用と治癒促進作用があり、肌を落ち着かせ赤みを効果的に軽減します6
  • セルフケア/OTC:
    • 刺激の少ない優しいスキンケア: これが最も重要です6。物理的な強いスクラブや刺激の可能性がある有効成分を含む製品は避けるべきです。
    • 抗炎症成分の活用: 日本の多くのニキビ用化粧水に含まれるグリチルリチン酸などの抗炎症成分を含む製品の使用は、肌を鎮めるのに役立ちます11

3.2. 茶色いニキビ跡(PIH)の治療 – メラニン色素へのアプローチ

目標は、メラニンの生成を抑制し、皮膚のターンオーバーを促進して色素を含む細胞を排出することです。

  • 臨床的治療法:
    • ケミカルピーリング: グリコール酸やサリチル酸などの酸を用いて角質層の剥離を促進し、黒ずんだ皮膚細胞をより速く除去するのに役立ちます6。JDAガイドラインでは凹み瘢痕に対して推奨度C1とされていますが、PIHに対しては広く効果的に用いられています1
    • レーザー治療: Qスイッチレーザーやピコ秒レーザー(ピコレーザー)のような色素を標的とするレーザーは、周囲の組織へのダメージを抑えつつメラニン粒子を効果的に破壊します12
    • エレクトロポレーション: 細胞膜に一時的な通り道を作る非侵襲的な技術で、ビタミンCやトラネキサム酸などの美白有効成分を皮膚のより深くまで浸透させることができます13
  • 処方薬:
    • 外用レチノイド(トレチノイン、アダパレン): 治療の基本です。レチノイドは角化を正常化し、細胞のターンオーバーを促進して色素沈着を薄くします。JDAとAADの両方が、ニキビとその続発症の治療にレチノイドの使用を強く推奨しています114
    • ハイドロキノン: 強力な美白剤で、色素沈着治療の中心的役割を担うと考えられています15
    • アゼライン酸: AADによって黒ずみを薄くするために推奨されており、抗菌作用と抗炎症作用も併せ持ちます216
  • セルフケア/OTC:
    • 徹底した紫外線対策: これは不可欠なステップです。紫外線はメラニンの生成を刺激し、色素沈着をより濃く、長引かせます4
    • 美白化粧品: ビタミンC誘導体、トラネキサム酸、ナイアシンアミドなどを含む製品が、色素沈着を薄くするサポートとして推奨されます6

3.3. 凹み・クレーター状のニキビ跡(Atrophic Scar)の治療 – 真皮層の再生を目指して

これは、高度な美容医療技術の介入が必須となる領域です。強調すべき重要な点は、損傷が真皮深層にあるため、このタイプの瘢痕に自宅でのセルフケアは効果がないということです17
この分野では、公式な医療ガイドラインと先進的な臨床実践との間に一定の隔たりが存在します。JDAやAADのガイドラインは、瘢痕治療手技に対する推奨(多くはC1/C2または「エビデンス不十分」)を出す際に慎重な傾向があります。なぜなら、彼らは大規模なランダム化比較試験(RCT)を要求しますが、これは非常に高額で、手技に対して実施するのが困難だからです1
しかし、臨床現場では、そしてシステマティックレビューやメタアナリシス(RCTに次ぐ高レベルのエビデンス)からの膨大な証拠に基づき、これらの手技は顕著な効果を示しています。複数のメタアナリシスが、レーザーや高周波(RF)が有効であり、「単独療法よりも併用療法が優れた結果をもたらすことが多い」と結論付けています18。2023年のネットワーク・メタアナリシスでは、フラクショナルCO2レーザー(FCL)と多血小板血漿(PRP)の組み合わせがトップクラスの治療法の一つであることが示されました19。したがって、専門的な記事は、公式な推奨を尊重しつつ、最新のエビデンスに基づいた臨床の現実も反映する必要があります。

  • エネルギーベースのデバイス(レーザー・高周波治療):
    • フラクショナルレーザー(例:CO2, Er:YAG): 凹み瘢痕治療の「主力」です。皮膚に数千もの微細な熱損傷を作り出し、瘢痕を埋めるための強力なコラーゲン産生を刺激します。この方法はボックスカー型やローリング型の瘢痕に特に有効ですが、深いアイスピック型には効果が劣ります6。その有効性に関するエビデンスレベルは非常に高いです20。しかし、特にアジア人の肌では、長いダウンタイム(赤み、落屑)と炎症後色素沈着(PIH)のリスクを伴います13
    • 高周波治療(RF治療、例:ポテンツァ): ニードルRFは、マイクロニードルによる機械的な微小損傷と、RFエネルギーを真皮深層に送り届ける熱作用を組み合わせたものです。この方法は、深いクレーターを含む様々なタイプの瘢痕に有効でありながら、侵襲的なフラクショナルレーザーに比べてダウンタイムが短く、PIHのリスクも低いとされています6。ポテンツァには、マックーム(PLLA)やジュベルックなどの薬剤を皮膚深部に導入し、コラーゲン再生効果を高める独自の「ドラッグデリバリーシステム」も搭載されています21
  • 機械的・外科的治療法:
    • ダーマペン(Microneedling): コラーゲン誘導療法とも呼ばれ、微細な針を用いて微小な損傷を作り出し、体の自然治癒プロセスを刺激します。この方法は、PIHのリスクがレーザーよりも低いため、色黒の肌タイプにもより安全です17。システマティックレビューでは「考慮すべき選択肢」と確認されていますが22、重度の瘢痕に対する効果はフラクショナルレーザーに及ばない可能性があります23
    • サブシジョン(Subcision): 特殊な針(ノコア針や鈍針カニューレ)を皮下に挿入し、皮膚表面を引き込んでいる線維性組織を切断して瘢痕を解放する専門的な手技です24。これはローリング型瘢痕に非常に効果的ですが、アイスピック型には効果がありません25。サブシジョンは、線維性組織の再癒着を防ぎ、同時にコラーゲン産生を刺激するために、直後にヒアルロン酸やPRPなどの注入剤を併用することが多いです。研究によると、併用した場合の改善率は単独の場合よりも有意に高いことが示されています(例:HA併用で94.1%に対し、単独では67.3%)24
  • 注入治療(Injectable Fillers):
    • ヒアルロン酸: 凹んだ瘢痕を即座に埋めて持ち上げるために使用されます。JDAのガイドラインは慎重な姿勢(推奨度C2)を示していますが1、臨床現場や研究では、サブシジョンとの併用療法において重要な役割を果たすことが示されています26。AADもこれを標準的な治療法の一つとして挙げています12。充填効果は一時的ですが、注入プロセス自体が長期的なコラーゲン産生を刺激することもあります。

3.4. しこり・ケロイド状のニキビ跡の治療 – 組織の過剰増殖を抑制

このタイプの瘢痕の治療は、日本では一部または全部が健康保険の適用となることがよくあります。

  • 臨床的治療法(保険適用となる可能性あり):
    • ステロイド局所注射: 第一選択の治療法です。ステロイドを瘢痕組織に直接注射し、炎症を抑え、過剰なコラーゲン塊を分解することで、瘢痕を柔らかく平らにします。JDAガイドラインでは、肥厚性瘢痕に対してこの方法を推奨度C1としています1
    • 内服薬: トラニラスト(リザベン)が考慮されることがありますが、JDAでは強く推奨されていません(推奨度C2)1
    • レーザー療法: パルス色素レーザー(PDL)などが赤みを軽減し、瘢痕を平らにするのに役立ちます12
    • ボツリヌストキシン注射(ボトックス): 瘢痕にかかる張力を緩和し、それによって増殖を抑制するために時折使用される適応外の選択肢です6

凹み瘢痕に対する主要な臨床治療法の比較を視覚的に提供するため、以下の表に重要な情報をまとめます。

治療法 主な対象 期待できる効果 費用目安(日本) ダウンタイム 推奨回数 主な根拠
フラクショナルCO2レーザー ボックスカー型、ローリング型 高い。PRP併用で満足度向上。 30,000 – 100,000円/回 5-10日(赤み、かさぶた) 3-6回 JDA-GL(C1)1, メタアナリシス19
ニードルRF(ポテンツァ) 全タイプの凹み、深い瘢痕も 高い。レーザーよりPIHリスクが低い。薬剤併用で効果増。 50,000 – 150,000円/回 1-3日(軽い赤み) 3-5回 システマティックレビュー27
サブシジョン ローリング型 ローリング型に非常に高い効果。 40,000 – 90,000円/部位 7-14日(内出血、腫れ) 1-3回 臨床研究24
ダーマペン 浅い瘢痕、肌質の改善 中程度。色黒の肌にも安全。 20,000 – 40,000円/回 1-3日(赤み) 5-10回 システマティックレビュー2223

第4部:あなたの行動計画 – 日本での治療ナビゲーション

このセクションでは、日本の医療および社会的な背景に合わせて調整された、実践的ですぐに行動に移せるアドバイスを提供します。

4.1. 健康な肌の基盤:日々のセルフケア

セルフケアで凹み瘢痕を治すことはできませんが、新たな瘢痕の予防、治療プロセスのサポート、そして赤みや色素沈着の改善において非常に重要な役割を果たします。

  • 優しく洗浄: 1日2回の洗顔。よく泡立て、強くこすらないようにします3。「ノンコメドジェニック」(ニキビができにくい)と表示された製品を優先しましょう3
  • 保湿: 皮膚のバリア機能を維持するために不可欠です。乾燥した肌は皮脂の分泌を過剰にし、ニキビを悪化させる可能性があります3
  • 日焼け止め: 色素沈着(PIH)の予防・改善、そして他の皮膚ダメージから肌を守るための最も重要なセルフケアです4
  • ニキビを潰さない: 永続的な瘢痕の主な原因です4
  • 食事と生活習慣: JDAガイドライン(CQ46)では画一的な食事制限は推奨していませんが、個人によっては特定の食べ物がニキビの誘因となる可能性があることを認めています28。バランスの取れた食事と十分な睡眠は常に推奨されます29

4.2. 保険適用 vs. 自費診療:日本の医療制度を理解する

日本では、保険が適用される疾患治療の皮膚科と、自費診療の美容皮膚科との境界は明確です。この違いを理解することは、患者が経済的な計画を立て、適切な医療機関を選択する上で役立ちます。

  • 通常、保険が適用される治療:
    • ニキビ(尋常性痤瘡)という疾患に対する皮膚科医の初診・相談料。
    • アダパレン(ディフェリン®)、過酸化ベンゾイル(ベピオ®)、外用抗菌薬(ゼビアックス®、ダラシンT®)など、活動中のニキビを治療するための処方外用薬1
    • 重度の炎症性ニキビを治療するための経口抗菌薬1
    • ケロイドや肥厚性瘢痕に対するステロイド局所注射など、一部の瘢痕治療1
  • 自費診療(保険適用外)となる治療:
    • ニキビ跡、特に凹み瘢痕の治療手技のほとんどは自費診療です。
    • レーザー(フラクショナルCO2、ピコ)、IPL、ニードルRF(ポテンツァ)、ダーマペン、サブシジョン、注入剤(フィラー)、ケミカルピーリングなどが含まれます6
    • 費用は非常に多様で、TCB(東京中央美容外科)のような大手チェーンでの手頃なレーザー治療(2,950円から)や湘南美容クリニック(6,200円から)12から、サブシジョンとヒアルロン酸の組み合わせのようなより専門的な治療では、治療面積に応じて数万円から数十万円になることもあります26

4.3. クリニック・医師の選び方

適切な治療場所の選択が、成功を左右する決定的な要因です。

  • 専門医資格が最も重要: 「日本皮膚科学会認定専門医」または「日本形成外科学会専門医」の認定を持つ医師を探しましょう。これが最も重要な信頼のシグナルです。JDAガイドラインの作成に関与した専門家(例:川島眞先生、赤松浩彦先生など)30は、広範な専門知識を持つトップエキスパートです。
  • 瘢痕治療の経験: 最適な結果を得るためには併用療法が必要となることが多いため、クリニックが多様な技術(レーザー、RFなど)を有しているか確認しましょう。彼らのウェブサイトで治療前後の写真(症例写真)を探し、実際の結果を評価します31
  • 初診カウンセリングが鍵: 質の高いカウンセリングとは、単一の機械を売り込むのではなく、あなたの瘢痕の種類を徹底的に診断し、長期的で個別化された治療計画について話し合う場であるべきです。

第5部:結論と心に留めるべき要点

ニキビ跡の治療という旅路は、忍耐、知識、そして専門家とのパートナーシップを必要とします。以下に、心に留めておくべき核となるメッセージをまとめます。

  • 予防が最優先: 炎症性ニキビをできるだけ早期に積極的に治療することが、瘢痕を防ぐ最善の方法です。
  • 正しい種類の診断: 瘢痕の種類(赤み、色素沈着、凹み、ケロイド)を正確に特定することが、効果的な治療法を選択するための最初の最も重要なステップです。
  • 凹み瘢痕には医療介入が必要: 凹んだクレーター状の瘢痕は真皮層の損傷であり、自宅でのセルフケアでは改善できません。
  • 併用療法がトレンド: 最も現代的で効果的なアプローチは、多くの場合、あなたの肌の状態に合わせて個別に設計された複数の異なる方法(例:サブシジョン+フィラー、レーザー+PRP)の組み合わせです。
  • 専門家を探す: 科学的根拠に基づいた現実的な治療計画を立てるために、認定された皮膚科医または形成外科医の意見を求めてください。

ニキビ跡は困難な挑戦かもしれませんが、現代の皮膚科学はかつてないほど多くの効果的な解決策を提供しています。正しい知識と専門家の指導があれば、肌を大幅に改善し、自信を取り戻すことは十分に可能です。

免責事項

本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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