この記事の科学的根拠
この記事は、引用元として明記された、最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいて作成されています。以下は、本記事で提示される医学的指針に直接関連する、主要な情報源のリストです。
- 米国精神医学会 (American Psychiatric Association): 本記事における「限局性恐怖症」の診断基準に関する記述は、同学会が発行する『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』に基づいています3。
- 日本の内閣官房: 日本における孤独・孤立の社会的背景、および「あなたはひとりじゃない」相談窓口などの公的支援に関する記述は、内閣官房 孤独・孤立対策担当室が公表する公式データおよびウェブサイトに基づいています45。
- 国立精神・神経医療研究センター (NCNP): 不安症の分類や定義に関する解説は、日本における精神医学研究の最高権威機関であるNCNPの公式見解に基づいています6。
- The Lancet誌の論文: 不安症の生物学的要因に関する解説は、世界的に権威のある医学雑誌『The Lancet』に掲載された2021年のレビュー論文など、トップティアの学術研究に基づいています7。
- コクラン・ライブラリー等のメタアナリシス: 認知行動療法(CBT)の有効性に関する記述は、複数の質の高い研究を統合・分析したメタアナリシスやシステマティック・レビューといった、最も信頼性の高い科学的根拠に基づいています8。
要点まとめ
- 一人恐怖症は、単なる孤独感とは異なり、一人でいる状況に対して極度の恐怖と不安を引き起こす医学的な状態です。
- 正式な診断名ではなく、多くは米国精神医学会の診断基準(DSM-5)における「限局性恐怖症」や、分離不安症などの症状として現れます。
- 原因は一つではなく、遺伝的素因や脳の機能といった生物学的要因と、過去のトラウマ体験などの環境的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
- 最も科学的根拠のある治療法は認知行動療法(CBT)であり、特に暴露療法は高い効果が証明されています。日本では特定の条件下で保険適用となります。
- 日本政府も「孤独・孤立対策推進法」を施行し、公的な相談窓口を設けるなど、医療以外の支援体制も整備されています。専門家への相談が回復への第一歩です。
第1章:一人恐怖症(孤独恐怖症)とは何か?
一人恐怖症は、その名の通り「一人でいること」に対して、理屈では説明できないほどの強い恐怖を感じる状態を指します。しかし、医学の世界では、これがどのように位置づけられているかを正確に理解することが、適切な対処への第一歩となります。
1.1. 医学的定義:Monophobia, Autophobia, Isolophobia
世界的に信頼される医療機関であるクリーブランド・クリニックによると、一人恐怖症(医学用語ではMonophobiaやAutophobiaとも呼ばれる)は、一人でいる状況やその可能性に対して、非合理的かつ極度の恐怖を感じる不安症の一種と定義されています9。重要なのは、これが単なる「孤独感(Loneliness)」とは明確に区別される点です。孤独感が「他者とのつながりが欠けている」と感じることから生じる、持続的な悲しみや寂しさであるのに対し、一人恐怖症は、一人になった瞬間に引き起こされる、急性の強い不安やパニック発作を特徴とします9。
1.2. 不安症の中での位置づけ:関連する疾患との鑑別
「一人恐怖症」は、実はそれ自体が独立した公式な診断名としてDSM-5に記載されているわけではありません10。多くの場合、他の不安症の特定の症状として現れるため、どのタイプの不安症に由来するものなのかを見極める「鑑別診断」が極めて重要になります。日本の国立精神・神経医療研究センター(NCNP)などの権威ある機関の見解に基づくと、主に以下の疾患との関連が考えられます6。
- 限局性恐怖症(Specific Phobia): これが最も典型的な分類です。「一人でいる状況」そのものが恐怖の対象となる場合、状況型の限局性恐怖症に該当します。高所恐怖症や閉所恐怖症と同じように、特定の状況が引き金となって強い恐怖反応が起こります6。
- 分離不安症(Separation Anxiety Disorder): 特定の愛着対象(親、配偶者、子どもなど)から離れることに対して強い恐怖を感じる状態です。かつては子どもの疾患と考えられていましたが、大人にも見られることが分かっています。この場合、一人でいること自体が怖いのではなく、「大切な人から引き離されること」が恐怖の核心です11。
- 広場恐怖症(Agoraphobia): パニック発作が起きた際に「助けが得られない」「逃げ出せない」と感じる状況への恐怖が本質です。その結果として、一人で外出することや、家に一人でいることを避けるようになる場合があります1112。
- 社交不安症(Social Anxiety Disorder): 他者からのネガティブな評価を恐れるあまり、人との交流を避けるようになります。その結果として社会的に孤立し、一人で過ごす時間が増え、その孤独な状況に対して二次的に不安や抑うつを感じることがあります13。
- パーソナリティ障害との関連: 特に境界性パーソナリティ障害(BPD)に見られる「見捨てられ不安」は、一人恐怖症と似た症状を示すことがあります。これは、他者に見捨てられることへの強い恐怖が根底にあり、一人でいることがその恐怖を誘発するためです9。
第2章:症状と診断基準
一人恐怖症の症状は、精神的な苦痛だけでなく、身体的な反応や特定の行動パターンとしても現れます。ご自身の状態を客観的に把握するために、具体的な症状と、専門家が用いる診断基準について見ていきましょう。
2.1. 主な症状:精神的・身体的・行動的サイン
症状は多岐にわたりますが、主に以下の3つの側面に分けられます91415。
- 精神的症状:
- 一人になると、何か恐ろしいことが起こるのではないかという差し迫った感覚
- 自分をコントロールできなくなることへの恐怖
- 強い不安感、パニック発作
- 現実感がなくなる、自分自身から切り離されたような感覚
- 死への恐怖
- 身体的症状:
- 心臓がドキドキする、または心拍数が上がる(動悸)
- 息切れ、息苦しさ
- めまい、ふらつき、気が遠くなる感じ
- 発汗、震え
- 吐き気、腹部の不快感
- 胸の痛みや圧迫感
- 行動的症状:
- 一人になる可能性のある状況を極端に避ける(回避行動)
- 常に誰かと一緒にいようとし、一人になることを拒む
- 誰かがそばにいないと、家から出られない、または特定の活動ができない
2.2. 正式な診断基準:DSM-5に基づくセルフチェック
専門家による正確な診断は不可欠ですが、ここでは米国精神医学会が発行する『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』に基づき、一人恐怖症が最も関連深い「限局性恐怖症」の診断基準を、ご自身で確認できるよう分かりやすく解説します310。
以下の項目に多く当てはまる場合、専門家への相談を検討することをお勧めします。
- A. 特定の状況への恐怖: 「一人でいること」という特定の状況に対して、著しい恐怖または不安を感じますか?
- B. 即時の恐怖反応: その状況に直面すると、ほとんど常に、すぐに恐怖や不安を感じますか?
- C. 積極的な回避: 一人でいる状況を意識的に、また積極的に避けていますか?あるいは、避けられない場合は、強い恐怖や不安を感じながら耐え忍んでいますか?
- D. 不釣り合いな恐怖: あなたが感じる恐怖や不安は、一人でいるという状況の実際の危険性や、社会文化的な常識と比べて、明らかに不釣り合いなほど大きいものですか?
- E. 持続性: その恐怖、不安、または回避行動は、一過性のものではなく、典型的には6ヶ月以上続いていますか?
- F. 機能障害: その恐怖や不安、回避行動によって、仕事や学業、家庭生活、友人関係といった社会的な活動に、臨床的に意味のあるほどの苦痛や重大な支障が生じていますか?
- G. 他の疾患では説明不能: その症状は、広場恐怖症、分離不安症、社交不安症など、他の精神疾患の症状だけではうまく説明できないものですか?
注意: これはあくまで診断基準を理解するための参考情報です。自己判断はせず、正確な診断と適切な治療を受けるために、必ず精神科や心療内科の専門医に相談してください。
第3章:一人恐怖症の科学的背景(原因)
一人恐怖症は、単一の原因で発症するわけではありません。最新の研究では、生まれ持った生物学的な要因と、その後の人生における環境的・心理的要因が複雑に相互作用することで発症すると考えられています。
3.1. 生物学的要因:脳と遺伝子の働き
- 神経伝達物質の不均衡: 世界的に権威のある医学雑誌『The Lancet』に2021年に掲載されたレビュー論文によると、不安症全般において、脳内の気分や感情を調整するセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の機能不全が関与していることが指摘されています7。これらの物質のバランスが崩れることで、不安や恐怖を感じやすくなる可能性があります。
- 脳の機能的関連: 人間の脳で恐怖や不安といった情動を処理する中心的な役割を担うのは「扁桃体」と呼ばれる部分です。EMDR(後述)に関する研究では、トラウマ体験を持つ人々では扁桃体が過活動になっていることが示唆されており、これが恐怖反応の引き金になっていると考えられています16。
- 遺伝的素因: 家族や血縁者に不安症を持つ人がいる場合、自身も不安症を発症する危険性が高まることが知られています9。これは、不安を感じやすい気質が遺伝的に受け継がれる可能性があることを示唆しています。
3.2. 環境的・心理的要因
- トラウマ体験: 幼少期に親から育児放棄(ネグレクト)や虐待を受けたり、一人でいる時に強盗に遭うなどの危険な経験をしたりすることが、深刻な心の傷(トラウマ)となり、一人でいる状況と危険を結びつけてしまうことがあります15。
- 愛着(アタッチメント)の問題: 心理学では、幼少期に親などの養育者との間に築かれる安定した信頼関係を「愛着」と呼びます。この愛着が不安定であったり、安全な基地として機能しなかったりした場合、成長してからも他者との分離に対して強い不安を感じやすくなることがあります15。
- 社会的・文化的影響: 近年では、COVID-19パンデミックによる長期的な社会的孤立が、世界的に不安症やうつ病を増加させたことが、世界保健機関(WHO)によって報告されています17。これは、社会的なつながりが絶たれるという環境が、人々の精神的健康に大きな影響を与えることを示しています。
第4章:エビデンスに基づく治療法
一人恐怖症は、適切な治療によって克服することが可能です。ここでは、科学的な証拠(エビデンス)によって有効性が証明されている主要な治療法について解説します。
4.1. 心理療法:考えと行動を変えるアプローチ
心理療法は、薬に頼らず、専門家との対話を通じて考え方や行動のパターンを変えていく治療法です。
4.1.1. 認知行動療法(CBT):最も確立された治療法
有効性の根拠: 認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)、特にその中の一技法である「暴露療法」は、限局性恐怖症に対して最も強力な科学的根拠を持つ治療法です。2008年に行われた複数の研究を統合したメタアナリシス(質の高い研究結果を統計的に分析する手法)では、暴露療法が他の心理療法や偽薬(プラセボ)と比較して、統計的に有意に高い治療効果を持つことが結論づけられています8。また、CBTの効果は治療後も持続することが、2020年のシステマティック・レビューで示されています18。
治療の仕組み: CBTでは、まず「一人でいること=危険だ」というような、恐怖を引き起こす非合理的な考え方(認知の歪み)を特定し、それをより現実的な考え方に修正していきます。その上で、暴露療法を通じて、専門家のサポートのもと、安全な環境で恐怖の対象である「一人でいる状況」に段階的に直面します。最初は5分だけ一人で過ごす、次は10分、というように徐々に慣れていくことで、「一人でいても何も危険なことは起こらない」という新しい安全な体験を脳に学習させ、恐怖反応を消していくのです。近年の脳画像研究では、CBTの治療後に恐怖を司る扁桃体の活動が実際に変化することも報告されています19。
日本における保険適用について
日本では、うつ病、社交不安障害、パニック障害、強迫性障害などの診断がつき、国が定めた研修を修了した医師や専門家によって行われる場合、認知行動療法は健康保険の適用対象となります20。一人恐怖症がこれらの疾患の症状として現れている場合、保険診療でCBTを受けられる可能性がありますので、医療機関に確認することが重要です。
4.1.2. EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法):トラウマが背景にある場合に
適応とメカニズム: EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)は、過去のトラウマ体験が恐怖の根本原因となっている場合に特に有効な治療法です。治療者が指を左右に振るのを眼で追いながら、トラウマ記憶を思い出すという手続きを通じて、脳が持つ本来の情報処理プロセスを再活性化させ、苦痛な記憶の影響を和らげます16。
有効性の根拠: EMDRは、特にPTSD(心的外傷後ストレス障害)に対して高い効果が認められており、世界保健機関(WHO)を含む多くの国際機関が有効な治療法として認知しています16。近年では、恐怖症やパニック障害への有効性を示唆する研究も報告されています21。
4.2. 薬物療法:症状を和らげる補助的手段
位置づけ: 薬物療法は、一人恐怖症そのものを根治するものではなく、心理療法と並行して、耐え難い不安やパニック発作といった症状を緩和するための補助的な手段として用いられるのが一般的です22。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬): 不安症治療の第一選択薬として広く用いられる抗うつ薬の一種です。脳内のセロトニン濃度を調整し、不安感を和らげる効果があります。効果が現れるまでに数週間かかります。
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬: 速効性があり、強い不安やパニック発作を速やかに抑える効果がありますが、長期使用による依存や耐性のリスクがあるため、頓服や短期間の使用に留めるのが原則です。
- β遮断薬: 本来は高血圧の治療薬ですが、動悸や震えといった身体症状を抑える効果があるため、特定の状況で不安が強まる場合に用いられることがあります。
薬物療法は、必ず医師の正確な診断と処方に基づいて行われる必要があります。自己判断での服用や中断は非常に危険ですので、絶対に避けてください。
第5章:日常生活でできるセルフケアと克服へのステップ
専門的な治療と並行して、日常生活の中で自分自身で取り組めるセルフケアも、恐怖を管理し、克服していく上で非常に重要です。
5.1. 行動的アプローチ:小さな成功体験を積み重ねる
恐怖を克服するための最も効果的な方法は、安全な範囲でそれに少しずつ直面することです。これを「スモールステップ法」と呼びます。例えば、「まずは5分だけ、家の別の部屋で一人で過ごしてみる」「慣れたら10分に延ばす」「次は一人で近所のコンビニまで行ってみる」といったように、達成可能な小さな目標を設定し、クリアしていくことで、「一人でも大丈夫だった」という成功体験を積み重ね、自信を取り戻していきます23。
5.2. 認知的・身体的アプローチ:不安を管理する技術
不安の波が押し寄せてきたときに、それに飲み込まれずに対処する技術を身につけることも大切です。
- 深呼吸・リラクゼーション法: 不安になると呼吸が浅く速くなります。意識的にゆっくりと深く息を吸い、長く吐き出す腹式呼吸は、心身をリラックスさせる効果があります24。
- マインドフルネス: 「今、ここ」の瞬間に意識を集中させる瞑想法です。不安な考えが浮かんでも、それを評価したり追い払ったりせず、ただ「そういう考えが浮かんでいるな」と観察することで、感情の渦から距離を置くことができます15。
- ジャーナリング(日記): 自分の感情や考えを紙に書き出すことで、頭の中を整理し、恐怖を客観的に見つめ直すきっかけになります。
5.3. 生活習慣の改善:心と体を支える基盤
心と体の健康は密接に関連しています。日々の生活習慣を見直すことは、ストレスへの抵抗力を高め、精神的な安定の土台を築きます。
- バランスの取れた食事: 血糖値の急激な変動は気分の不安定につながることがあります。規則正しい時間に、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。
- カフェイン・アルコールの制限: カフェインやアルコールは、不安症状を悪化させることが知られています。摂取を控えるか、量を減らすことを検討しましょう11。
- 質の良い睡眠と適度な運動: 睡眠不足は不安を増大させます。規則正しい睡眠習慣を心がけましょう。また、ウォーキングなどの有酸素運動は、ストレスを軽減し、気分を改善する効果が科学的に証明されています。
第6章:医療だけではない日本のセーフティネット:孤独・孤立対策と公的支援
一人でいることへの恐怖に悩むとき、頼れるのは医療機関だけではありません。現代の日本では、「孤独・孤立」は社会全体で取り組むべき重要な課題として認識されており、国や地方自治体による支援の輪が広がっています。
6.1. 日本政府の取り組み:「孤独・孤立対策推進法」
2024年4月1日に「孤独・孤立対策推進法」が施行されました。これは、国が孤独・孤立の問題に総合的に取り組むことを法律で定めたものであり、あなたが抱える苦しみが個人的な問題ではなく、社会的な支援を受けるべき課題であることの証です25。この法律の存在を知るだけでも、一人で悩みを抱え込む必要はないのだという安心感につながるでしょう。
6.2. あなたが利用できる公的な相談窓口
具体的な支援策として、政府は様々な相談窓口を設けています。これらは匿名で、無料で利用できるものがほとんどです。
- 内閣官房「あなたはひとりじゃない」相談窓口: このウェブサイトでは、いくつかの簡単な質問に答えるだけで、あなたの状況に合った支援制度や相談窓口をチャットボットが探してくれます。24時間365日いつでも利用でき、「誰に相談していいか分からない」という場合に最適な第一歩となります5。
- 厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」: 電話で専門家に相談できる窓口です。お住まいの地域の公的な相談機関につながります4。
- 地方自治体の相談窓口: 各都道府県や市区町村でも、精神保健福祉センターなどで専門の相談員による面談や電話相談を行っています。
6.3. NPOや民間団体の役割
政府は、孤独・孤立の問題に取り組むNPO法人や民間団体の活動も支援しています。これらの団体は、同じような悩みを持つ人々が集まる居場所(コミュニティスペース)の提供や、ピアサポート(当事者同士の支え合い)活動など、公的機関とは異なる、より身近な支援を提供しています26。
よくある質問
一人恐怖症は、単に「寂しがり屋」な性格とは違うのですか?
はい、明確に異なります。「寂しがり屋」は他者との交流を好む性格的な傾向を指しますが、日常生活に大きな支障をきたすことは稀です。一方、一人恐怖症は、一人でいる状況に対して、パニック発作や極度の回避行動など、生活に重大な障害をもたらすほどの強烈な恐怖反応が生じる医学的な状態です。その恐怖は、実際の危険とは不釣り合いなほど大きいのが特徴です9。
治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
治療期間は、症状の重さ、原因の複雑さ、選択する治療法、そして個人の取り組み方によって大きく異なります。例えば、認知行動療法(CBT)の場合、一般的には週1回、3〜6ヶ月程度のセッションが行われることが多いですが、より短期間で効果が見られる場合も、より長い期間が必要な場合もあります。重要なのは、焦らずに専門家と相談しながら、自分に合ったペースで治療を進めることです18。
治療は健康保険の適用になりますか?
はい、条件によっては適用されます。一人恐怖症が、うつ病、社交不安障害、パニック障害などの保険適用が認められている疾患の症状として医師に診断され、指定の研修を受けた専門家が認知行動療法(CBT)を行う場合、健康保険が利用できます。薬物療法も、医師の処方に基づけば保険適用となります。ただし、カウンセリングやEMDRなど、自由診療となる治療法も多いため、事前に医療機関に確認することが不可欠です20。
子どもや家族として、どのようにサポートすればよいですか?
最も大切なのは、本人の恐怖を「気のせい」「甘え」などと否定せず、その苦しみを理解し、受け入れる姿勢を示すことです。無理に一人にさせようとしたり、叱咤激励したりすることは逆効果です。専門家による治療を受けることを優しく勧め、医療機関への付き添いや、治療の目標(スモールステップ)への協力を申し出るなど、具体的なサポートが助けになります。また、サポートする家族自身も疲弊しないよう、公的な相談窓口などを利用して自身のケアをすることも重要です。
結論
一人でいることへの耐え難い恐怖は、あなたの弱さや性格のせいではありません。それは「一人恐怖症」という、明確な原因と対処法が存在する医学的な状態です。本記事で解説したように、その背景には脳の働きや過去の経験が複雑に関わっており、認知行動療法(CBT)をはじめとする科学的根拠に基づいた治療法によって、症状を改善し、克服することが十分に可能です。さらに、現代の日本では、この問題は社会全体の課題として認識され、国や自治体による公的な支援体制も整っています。最も重要な第一歩は、一人で抱え込まず、専門家や信頼できる窓口に助けを求めることです。適切な知識とサポートを得ることで、あなたは恐怖から解放され、穏やかな心で過ごせる日常と、他者との健全なつながりを再び取り戻すことができるのです。
参考文献
- 内閣官房. 孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年). 2024. Available from: https://www.city.toshima.lg.jp/documents/48267/sankousiryou2.pdf
- 福祉新聞Web. 「孤独感ある」4割 孤独・孤立に関する実態調査〈内閣府〉. 2024. Available from: https://fukushishimbun.com/jinzai/40430
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed. Arlington, VA: American Psychiatric Association; 2013.
- 厚生労働省. 孤独・孤立対策について. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001309353.pdf
- 内閣府孤独・孤立対策推進室. あなたはひとりじゃない. Available from: https://www.notalone-cao.go.jp/
- 国立精神・神経医療研究センター. 不安症|こころの情報サイト. Available from: https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=BLA9JV0KhiWPIMzX
- Stein DJ, et al. Anxiety disorders. Lancet. 2021;397(10274):630-640. doi:10.1016/S0140-6736(21)00359-7. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33581801/
- Wolitzky-Taylor KB, Horowitz JD, Powers MB, Telch MJ. Psychological approaches in the treatment of specific phobias: a meta-analysis. Clin Psychol Rev. 2008;28(6):1021-37. doi:10.1016/j.cpr.2008.02.007. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18410984/
- Cleveland Clinic. Autophobia (Fear of Being Alone): Causes & Treatment. 2022. Available from: https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22578-autophobia-monophobia-fear-of-being-alone
- National Center for Biotechnology Information. Table 3.11, DSM-IV to DSM-5 Specific Phobia Comparison. In: DSM-5 Changes: Implications for Child Serious Emotional Disturbance. 2016. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK519704/table/ch3.t11/
- あしたのクリニック. 「一人が怖い」などの症状は不安障害かも|不安なときの対処法を紹介. 2023. Available from: https://ashitano.clinic/im-scared-of-being-alone/
- MSDマニュアル家庭版. 広場恐怖症. Available from: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/10-%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E4%B8%8D%E5%AE%89%E7%97%87%E3%81%A8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E5%9B%A0%E9%96%A2%E9%80%A3%E7%97%87%E7%BE%A4/%E5%BA%83%E5%A0%B4%E6%81%90%E6%80%96%E7%97%87
- 国立精神・神経医療研究センター病院. 社交不安障害. Available from: https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease34.html
- Verywell Mind. Monophobia: Definition, Symptoms, Traits, Causes, Treatment. 2023. Available from: https://www.verywellmind.com/what-is-the-fear-of-being-alone-2671883
- Charlie Health. The Fear of Being Alone: Monophobia and How to Cope. 2023. Available from: https://www.charliehealth.com/post/the-fear-of-being-alone-monophobia-and-how-to-cope
- EMDRIA. About EMDR Therapy. Available from: https://www.emdria.org/about-emdr-therapy/
- World Health Organization (WHO). Child and adolescent mental disorders module – evidence profile CAMH4. 2023. Available from: https://cdn.who.int/media/docs/default-source/mental-health/mhgap/child-and-adolescent-mental-disorders/camh4_evidence_profilev3_0(17022023).pdf?sfvrsn=556f3ad5_3
- van Dis EAM, et al. Long-term Outcomes of Cognitive Behavioral Therapy for Anxiety-Related Disorders: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Psychiatry. 2020;77(3):265-273. doi:10.1001/jamapsychiatry.2019.3986. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31758858/
- Paquette V, et al. “Change the mind and you change the brain”: effects of cognitive-behavioral therapy on the neural correlates of spider phobia. Neuroimage. 2003;18(2):401-9. doi:10.1016/s1053-8119(02)00030-7. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24142091/
- mindbuddy. 【条件や料金は?】認知行動療法は保険適用可能!3つの注意点も解説. 2024. Available from: https://mindbuddy.co.jp/column/cbt/insurance-coverage/
- Faretta, E. Efficacy of EMDR Therapy for Anxiety Disorders. Journal of EMDR Practice and Research. 2019;13(4):325-332. doi:10.1891/1933-3196.13.4.325. Available from: https://www.researchgate.net/publication/337565768_Efficacy_of_EMDR_Therapy_for_Anxiety_Disorders
- MSDマニュアル家庭版. 不安症の概要. Available from: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/10-%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E4%B8%8D%E5%AE%89%E7%97%87%E3%81%A8%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E5%9B%A0%E9%96%A2%E9%80%A3%E7%97%87%E7%BE%A4/%E4%B8%8D%E5%AE%89%E7%97%87%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81
- Mayo Clinic. Specific phobias – Diagnosis and treatment. Available from: https://www.mayoclinic.org/zh-hans/diseases-conditions/specific-phobias/diagnosis-treatment/drc-20355162
- New Vision Psychology. How to Stop a Panic Attack in 3 Minutes. Available from: https://newvisionpsychology.com.au/general-counselling/how-to-stop-a-panic-attack/?lang=zh-hans
- 内閣官房. 孤独・孤立対策推進法. Available from: https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/suisinhou/suisinhou.html
- 内閣官房. 孤独・孤立対策の重点計画. Available from: https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/juten_keikaku/dai4/sankou1.pdf