この記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、耳鼻咽喉科の専門医の監修のもと、最新の科学的根拠と日本の診療ガイドラインに基づき、中耳炎に関する皆様のあらゆる疑問や不安を解消するために作成しました。急性の痛みを伴う中耳炎と、静かに進行する気づきにくい中耳炎の違いから、それぞれの原因、そして最新の治療法、家庭でできるケアまで、包括的かつ分かりやすく解説します。この記事が、あなたやあなたの大切なご家族が中耳炎と正しく向き合い、適切な一歩を踏み出すための信頼できる羅針盤となることを願っています。
この記事の要点まとめ
- 中耳炎には、急な耳の痛みと発熱を伴う「急性中耳炎」と、痛みはないが聞こえにくくなる「滲出性中耳炎」の2つの主要なタイプがあります。
- 子供に中耳炎が多いのは、耳と鼻をつなぐ耳管が未発達なためです。日本のデータでは1歳児が発症のピークです1。
- 急性中耳炎の治療は、日本の最新ガイドラインに基づき重症度をスコアで判定し、「経過観察」か「抗菌薬(抗生物質)の使用」かを慎重に決定します2。自己判断での抗菌薬の中断は絶対にしてはいけません。
- 滲出性中耳炎の治療は、自然に治ることが多いため、基本的には3ヶ月程度の「経過観察」が推奨されます3。抗菌薬やステロイドは推奨されていません。
- 家庭でのケアとして最も重要なのは、解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン等)による痛みのコントロールです。必ず専門医の診断を受け、適切な治療方針を決めることが重要です。
中耳炎とは?- 知っておくべき2つの主なタイプ
中耳炎とは、鼓膜の奥にある「中耳」という空間に炎症が起きたり、液体が溜まったりする病気の総称です。一口に中耳炎と言っても、症状や原因、治療法が大きく異なる2つの主要なタイプを理解することが、適切な対処への第一歩となります。
急性中耳炎(AOM):急な「痛み」と「発熱」がサイン
急性中耳炎(Acute Otitis Media)は、風邪などをきっかけに細菌やウイルスが鼻の奥から耳管を通って中耳に侵入し、急性の感染と炎症を引き起こす病態です。中耳に膿が溜まることで鼓膜が強く圧迫され、激しい症状が現れます。
- 主な症状: 強い耳の痛み(特に夜間に悪化しやすい)、発熱、耳だれ(膿が鼓膜を破って外に出てくる状態)、耳が詰まった感じ。言葉で症状を訴えられない乳幼児では、機嫌が悪くなる、頻繁に耳を触る、泣き止まないといった様子が見られます。
- 主な原因: ほとんどが風邪やインフルエンザなどの上気道感染症に続発します。肺炎球菌やインフルエンザ菌が二大起炎菌として知られています2。
専門医は、鼓膜が真っ赤に腫れ、中等度以上に膨らんでいる状態(中等度以上の鼓膜膨隆)を確認することで、急性中耳炎の確定診断を行います。これは、米国小児科学会(AAP)のガイドラインでも重視される非常に重要な所見です4。
滲出性中耳炎(OME):気づきにくい「聞こえにくさ」
滲出性中耳炎(Otitis Media with Effusion)は、急性の炎症症状(痛みや発熱)を伴わずに、中耳に滲出液と呼ばれる液体が溜まる病態です。急性中耳炎が治りきらずに滲出液だけが残る場合や、鼻炎などで耳管の働きが悪い状態が続いて発症する場合があります。痛みがないため発見が遅れがちで、特に子供の言語発達に影響を与える可能性があるため注意が必要です。
- 主な症状: 難聴(聞こえにくさ)が唯一の症状であることが多いです。具体的には、呼びかけへの反応が鈍い、聞き返しが多い、テレビの音を大きくする、耳が詰まった感じ(耳閉感)などを訴えます。日本では、就学前の子供の90%が一度は罹患すると言われるほど一般的な状態です3。
- 診断: 鼓膜の視診で液体が透けて見えたり、鼓膜が奥に引っ込んでいたりする所見を確認します。また、ティンパノメトリーという検査で中耳の状態を客観的に評価します。米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会(AAO-HNS)も、急性症状を伴わない中耳貯留液の存在を診断の核としています5。
その他の特殊な中耳炎
頻度は低いですが、以下のような特殊なタイプの中耳炎も存在します。これらは一般的な中耳炎とは異なり、より専門的な診断と治療が必要となるため、耳鼻咽喉科専門医による継続的な管理が不可欠です。
- 慢性中耳炎: 鼓膜に穴が開いたままになり、耳だれを繰り返す状態。
- 好酸球性中耳炎: 気管支喘息などを合併することが多く、粘り気の強い滲出液が特徴の難治性の中耳炎6。
- 真珠腫性中耳炎: 鼓膜の一部が内側に窪み、そこに耳垢が溜まって塊(真珠腫)を形成し、周囲の骨を破壊しながら進行する病気7。
なぜ子供は中耳炎になりやすいのか?- 日本のデータで見る原因とリスク
「どうしてうちの子ばかり中耳炎を繰り返すのだろう」と悩む保護者の方は少なくありません。子供が大人に比べて圧倒的に中耳炎になりやすいのには、科学的な理由があります。日本の研究では、中耳炎の発症は1歳児で最も多く、0歳児でかかると難治化しやすい傾向があることが報告されています1。
- 解剖学的な理由: 子供の耳管は、大人に比べて太く、短く、そして傾きが水平に近いため、鼻や喉の細菌・ウイルスが中耳に到達しやすい構造になっています。
- 免疫機能の未熟さ: 子供はまだ様々な病原体に対する免疫が十分に発達していないため、感染症にかかりやすく、それが中耳炎に繋がりやすくなります。
- 生活環境: 保育園や幼稚園などの集団生活は、風邪などの感染症に罹患する機会を増やし、結果的に中耳炎のリスクを高めます。
これらに加え、アデノイド(鼻の奥にあるリンパ組織)の肥大、アレルギー性鼻炎、そして家族の喫煙による受動喫煙なども、耳管の機能を妨げ、中耳炎の重要なリスク因子となることが知られています8。
中耳炎の診断:専門医は鼓膜の何を見ているのか?
中耳炎の診断において最も重要なのは、耳鏡や内視鏡を用いた「鼓膜の視診」です。専門医は、鼓膜の状態を詳細に観察することで、中耳炎の有無や種類、重症度を判断しています。日本の診療ガイドラインでも、鼓膜所見は診断の根幹とされています2。
- 確認するポイント: 正常な鼓膜は半透明で真珠のような色をしていますが、中耳炎になると以下のような変化が見られます。
- 発赤・腫脹: 鼓膜が赤く腫れている(急性炎症のサイン)。
- 膨隆: 膿や液体に圧迫されて、鼓膜が外側に膨らんでいる(急性中耳炎の典型的な所見)。
- 混濁・陥凹: 鼓膜の透明感がなくなり、奥に引っ込んでいる(滲出性中耳炎を示唆)。
- 貯留液の確認: 鼓膜を通して、気泡や液体の水位線(ニボー)が見えることがある(滲出性中耳炎の直接的な証拠)。
- 補助的な検査:
- ティンパノメトリー: 耳に栓をして圧力をかけることで、鼓膜の動きやすさを測定し、中耳に液体が溜まっているかどうかを客観的に評価する検査です。特に滲出性中耳炎の診断に有用です。
- 細菌検査: 耳だれが出ている場合や、鼓膜切開を行った際に、原因となっている菌を特定し、効果のある抗菌薬を選択するために検査を行うことがあります。日本の研究では、鼻の奥(上咽頭)の菌と中耳の菌は94%以上一致することが分かっており、鼻から菌を採取して推定することもあります9。
【最重要】急性中耳炎の治療 – 2024年版最新ガイドラインに基づく全知識
急性中耳炎の治療は、近年大きく変化しました。かつてはすぐに抗菌薬(抗生物質)が処方されていましたが、薬剤耐性菌(薬が効きにくい菌)の増加が世界的な問題となり、現在はより慎重なアプローチが取られています。ここでは、日本の専門学会が策定した『小児急性中耳炎診療ガイドライン 2024年版』2に完全準拠した、最新かつ最も信頼できる治療法をステップごとに解説します。
ステップ1:治療方針を決める「重症度スコア」
現在の日本では、医師の主観だけでなく、「鼓膜所見」「臨床症状」などを点数化する「急性中耳炎診療スコアシート」を用いて重症度を客観的に評価します。このスコアリングは、不要な抗菌薬の使用を避け、本当に必要な場合にのみ適切な薬剤を投与するために極めて重要です。背景には、日本の髄液由来肺炎球菌の61%(2021年)がペニシリン耐性であるという深刻な薬剤耐性問題があります10。
評価項目 | 0点 | 1点 | 2点 |
---|---|---|---|
鼓膜の発赤 | なし/軽度 | 中等度 | 高度 |
鼓膜の膨隆 | なし | あり | 著明 |
耳痛 | なし | あり | 激しい |
発熱(38.5℃以上) | なし | あり | |
機嫌 | 良い | 悪い |
合計点数による重症度分類: 0-5点: 軽症 / 6-8点: 中等症 / 9点以上: 重症
ステップ2:重症度に応じた治療法の選択
スコアリングに基づき、以下のように治療方針が決定されます。
軽症の場合:抗菌薬を”使わない”「経過観察」という選択肢
合計スコアが5点以下の「軽症」の場合、多くのケースで抗菌薬を使わずに自然に治癒することが期待できます。そのため、ガイドラインでは原則として最初の3日間は解熱鎮痛剤で痛みなどの症状を和らげながら注意深く様子を見る「経過観察(Watchful Waiting)」が推奨されます2。これは、安易な抗菌薬の使用を避けるための世界的な標準治療であり、米国小児科学会(AAP)のガイドラインでも同様のアプローチが推奨されています4。3日経っても改善しない場合や、途中で悪化した場合は、抗菌薬治療へ移行します。
中等症・重症の場合:抗菌薬による治療
スコアが6点以上の「中等症」または「重症」と判断された場合、あるいは2歳未満で両耳が中等症以上の場合など、特定の条件下では抗菌薬による治療が開始されます。
- 第一選択薬 (アモキシシリン): 急性中耳炎の二大起炎菌である肺炎球菌とインフルエンザ菌に対して効果が高く、安全性の実績も豊富なペニシリン系の抗菌薬「アモキシシリン」が第一選択となります11。ガイドラインでは、耐性菌にも効果が期待できるよう、十分な量(高用量)を投与することが推奨されています。
- 第二選択薬 (アモキシシリン・クラブラン酸など): 2歳未満、集団保育に通っている、最近抗菌薬を使用したことがあるなど、薬剤耐性菌のリスクが高いと考えられる場合には、より効果の範囲が広い「アモキシシリン・クラブラン酸(商品名:クラバモックスなど)」が最初から、あるいは第一選択薬の効果が見られない場合に選択されます11。
- 治療期間 (原則5日間): 抗菌薬は、原則として5日間服用します。途中で症状が良くなったからといって自己判断で服用を中止すると、生き残った菌が再び増殖して再発したり、薬が効かない「耐性菌」を生み出す原因となったりします。必ず処方された日数分を最後まで飲み切ることが極めて重要です。
痛みを和らげる対症療法:鎮痛剤の正しい使い方
急性中耳炎の治療において、抗菌薬以上に重要とも言えるのが「痛みのコントロール」です。特に夜間の激しい痛みは、子供にとっても保護者にとっても大きな苦痛となります。AAPガイドラインでも、痛みの評価と管理が強く推奨されています12。市販もされている以下の解熱鎮痛剤を、体重に合わせて適切に使用することが推奨されます。
成分名 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
アセトアミノフェン | 作用が穏やかで、乳幼児にも比較的安全に使用できる。 | 過剰摂取は肝臓に負担をかける可能性があるため、用量を厳守する。 |
イブプロフェン | アセトアミノフェンより解熱・鎮痛作用が強い。 | インフルエンザや水痘の疑いがある場合は使用を避けるべきとされることがある。空腹時を避けて使用する。 |
注意: 必ず製品の用法・用量を守り、不明な点があれば医師または薬剤師に相談してください。
鼓膜切開:どのような時に必要か?
鼓膜切開は、中耳に溜まった膿を排出させるために鼓膜を少しだけ切る処置です。現在は以前ほど頻繁には行われませんが、以下のような特定の状況で検討されます13。
- 痛みが非常に激しく、鎮痛剤でコントロールできない場合
- 高熱が続き、全身状態が悪い場合
- 重症例で、抗菌薬の効果が乏しいと予測される場合
- 乳突洞炎や顔面神経麻痺などの合併症が疑われる場合
切開によって中耳の圧力が下がるため、痛みは劇的に改善します。切開した穴は、通常数日から1週間程度で自然に閉じます。
滲出性中耳炎の治療 – 「待つこと」と「見守ること」が基本
急性中耳炎とは対照的に、痛みや熱のない滲出性中耳炎の治療は、「焦らず、正しく見守る」ことが基本戦略となります。多くの場合は自然に治癒するため、過剰な治療は避けるべきとされています。
基本方針:3ヶ月の「経過観察」
滲出性中耳炎と診断された場合、日本および米国のガイドライン35は、特別な問題がなければまず3ヶ月間、定期的に通院しながら注意深く様子を見る「経過観察(Watchful Waiting)」を推奨しています。これは、多くの子供たちがこの期間内に自然に治癒するためです。この間、保護者の方には、お子さんの聞こえの状態に注意を払い、言葉の発達などに変化がないかを見守っていただくことが大切です。特に、学校の健康診断で聴力低下を指摘されて受診するケースは非常に多く、その後のフォローアップが重要となります14。
薬物療法:効果が限定的な理由
滲出性中耳炎に対して、抗菌薬、ステロイド薬、抗ヒスタミン薬などは、長期的な有効性が証明されておらず、副作用のリスクが利益を上回る可能性があるため、治療目的での使用は推奨されていません5。唯一、粘液調整薬である「カルボシステイン」が選択肢となることがありますが、その効果も限定的と考えられています15。
鼓膜換気チューブ留置術:長期化した場合の最終手段
経過観察を続けても改善が見られない場合や、難聴の程度が重い場合には、手術的治療が検討されます。鼓膜換気チューブ留置術は、鼓膜に小さなチューブを留置し、中耳の換気を強制的に行う治療法です。日本のガイドラインでは、以下のような場合に適応が考慮されます13。
- 3ヶ月以上滲出性中耳炎が改善しない場合
- 聴力検査で30dB以上の難聴が認められる場合
- 鼓膜が著しく内側に引き込まれるなど、病的変化が見られる場合
- 言語発達の遅れが懸念される場合
チューブは通常、半年から2年程度で自然に脱落します。チューブ留置中の生活については、以前は水泳などが厳しく制限されていましたが、現在のガイドラインでは、汚水でなければ耳栓の常時使用は必ずしも必要ではないとされています。ただし、主治医の指示に従うことが最も重要です。
大人のための中耳炎ガイド
中耳炎は子供の病気というイメージが強いですが、大人も罹患します。大人の場合、子供に比べて重症化しやすかったり、背景に別の病気が隠れていたりすることがあるため注意が必要です。大人の耳管は子供より細菌が侵入しにくい構造ですが、疲労、ストレス、飲酒、喫煙などが引き金となり、体の抵抗力が落ちた時に発症しやすくなります11。また、鼻や副鼻腔の病気、稀には上咽頭の腫瘍などが原因となっている可能性もあるため、症状が長引く場合は必ず専門医の診察を受けるようにしてください。
中耳炎の合併症と後遺症 – 見過ごしてはいけないリスク
適切に治療されれば、ほとんどの中耳炎は問題なく治癒します。しかし、治療が不十分であったり、放置したりすると、以下のような合併症や後遺症を引き起こす可能性があります。
- 難聴と言語発達への影響: 特に滲出性中耳炎による持続的な難聴は、子供の言葉の聞き取りや発音に影響を与え、学習の遅れにつながる可能性があります8。
- 慢性化: 急性中耳炎を繰り返したり、治療が不十分だったりすると、鼓膜に穴が開いたままになる慢性中耳炎に移行することがあります。
- 頭蓋内合併症: 極めて稀ですが、中耳の感染が周囲の骨(乳突蜂巣)や、さらに奥の脳を包む膜(髄膜)に広がり、乳突洞炎や髄膜炎といった重篤な状態を引き起こすことがあります。激しい頭痛、嘔吐、意識障害などの兆候が見られた場合は、直ちに救急医療機関を受診する必要があります。
家庭でできる中耳炎の予防法 – 科学的根拠に基づくアプローチ
中耳炎を完全に防ぐことは困難ですが、リスクを減らすために家庭でできる科学的根拠のあるアプローチがあります。
- 感染症対策: 中耳炎の最大の原因は風邪などの感染症です。手洗いやうがい、人混みを避けるといった基本的な感染対策が、結果的に中耳炎の予防に繋がります8。
- 鼻のケア: 鼻水は中耳炎の直接的な原因となります。鼻を強くすすらず、片方ずつ優しくかむように指導しましょう。まだ自分で鼻をかめない乳幼児の場合は、市販の鼻水吸引器でこまめに吸引してあげることが非常に有効です。
- 予防接種: 小児用肺炎球菌ワクチン(PCV)とインフルエンザワクチンの接種は、それぞれの病原体による重篤な感染症を防ぐだけでなく、中耳炎の発症を減らす効果があることが証明されています216。特にPCVの定期接種化により、重症化しやすいタイプの肺炎球菌による中耳炎は劇的に減少しました17。
- 生活環境の見直し: 受動喫煙は中耳炎の明らかなリスク因子です。家族の禁煙は、子供の健康を守る上で非常に重要です。
健康に関する注意事項
この記事で解説した症状の中には、緊急の対応を要するものがあります。特に、激しい耳の痛みや頭痛、高熱が続く、耳の後ろが赤く腫れて痛む、めまいや顔の動きの異常、意識がおかしいなどの症状が見られる場合は、夜間や休日であっても直ちに医療機関を受診してください。
よくある質問 (FAQ)
Q1: 中耳炎は自然に治りますか?
Q2: プールやお風呂は入ってもいいですか?
A2: 状況によります。急性中耳炎で痛みや熱がある急性期は、体力を消耗させるため避けるべきです。熱や痛みがなく、鼓膜に穴が開いていない状態であれば、お風呂は通常問題ありません。滲出性中耳炎の場合も同様です。鼓膜換気チューブを留置している場合、以前は水泳時の耳栓が必須とされていましたが、現在のガイドラインでは清潔なプールであれば必ずしも必要ではないとされています。ただし、これはあくまで一般的な見解であり、最終的には主治医の指示に必ず従ってください。
Q3: 処方された抗菌薬(抗生物質)は、症状が良くなったらやめてもいいですか?
A3: 絶対にやめてください。これは中耳炎治療において最も重要な注意点の一つです。症状が改善しても、原因となった菌が完全に死滅したわけではありません。自己判断で服用を中止すると、生き残った少数の菌が再び増殖して再発したり、その薬が効かない「薬剤耐性菌」に変異してしまったりする危険性が非常に高くなります11。耐性菌を生み出さないためにも、必ず医師から処方された日数分を最後まで飲み切ってください。
結論
中耳炎は非常にありふれた病気ですが、その背後には「急性」と「滲出性」という異なる病態があり、治療法も大きく異なります。この記事を通じて、最新の科学的根拠に基づいた中耳炎の全体像をご理解いただけたことと思います。最も大切なことは、①急な痛みがある「急性中耳炎」は重症度に応じた慎重な治療が必要であること、②気づきにくい「滲出性中耳炎」は焦らずに専門医と共に見守ることが基本であること、そして③どのような場合でも自己判断で治療を中断せず、専門医の診断と指示に従うことです。正しい知識は、あなたとあなたの大切な家族を不要な不安や不適切な治療から守る最大の力となります。耳に関する心配事があれば、ためらわずに耳鼻咽喉科専門医にご相談ください。
参考文献
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- 日本耳科学会, 日本小児耳鼻咽喉科学会. 小児滲出性中耳炎診療ガイドライン 2022年版. 金原出版; 2022.
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