この記事の科学的根拠
この記事は、引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、本稿で提示される医学的指導の根拠となった主要な情報源とその関連性です。
要点まとめ
- ERCPは、口から内視鏡を挿入して総胆管の結石を取り除く、低侵襲な標準治療法です。
- 最新の科学的データ(2024年)によると、ERCPには膵炎(4.6%)などの偶発症の危険性が伴いますが、適切な予防策と管理により制御可能です3。
- 巨大結石や胃切除後などの困難な状況に対しては、胆道鏡(SpyGlass™ DS)やダブルバルーン内視鏡(DB-ERCP)といった先進技術が存在します45。
- 治療費用は保険適用され、3割負担の場合の自己負担額は入院期間や処置内容により変動します67。
- 治療の成否と安全性は、施設の経験と設備に大きく左右されるため、症例数が多く、最新設備を備えた病院を選ぶことが極めて重要です。
総胆管結石とは?なぜ治療が必要なのか
総胆管結石とは、肝臓で作られた胆汁の通り道である「総胆管」に結石(石)ができてしまう状態です。結石が胆汁の流れを塞ぐと、激しい腹痛(仙痛発作)、発熱、黄疸(皮膚や白目が黄色くなること)といった症状を引き起こします。日本消化器病学会の2021年版ガイドラインによると、日本では食生活の欧米化に伴い、コレステロール結石の割合が増加傾向にあります2。これを放置すると、重篤な「急性胆管炎」や「急性膵炎」を引き起こし、時には敗血症という命に関わる状態に至る可能性があるため、適切な時期に治療を受けることが不可欠です。
診断の進め方:最適な検査法を知る
総胆管結石が疑われる場合、診断は侵襲度の低い検査から段階的に進められるのが一般的です。欧州消化器内視鏡学会(ESGE)および日本消化器病学会(JGES)のガイドラインでは、まず腹部超音波検査やCT検査で結石の有無や位置、合併症の可能性を評価します12。診断を確定するためには、より精度の高いMRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影法)やEUS(超音波内視鏡検査)が推奨されます。これらの検査は、結石を詳細に描き出すだけでなく、治療方針を決定する上で重要な情報を提供します8。
検査方法 | 精度 | 侵襲度 | 主な使用目的 |
---|---|---|---|
腹部超音波検査 | 中程度 | 非侵襲 | 初期スクリーニング |
CT検査 | 良好 | 軽度侵襲(放射線被曝) | 全体像の評価、合併症の検出 |
MRCP | 非常に高い | 非侵襲 | 治療を伴わない確定診断 |
EUS | 非常に高い | 侵襲的(内視鏡) | 微小結石の検出、周辺構造の評価 |
出典: 欧州消化器内視鏡学会ガイドライン1、日本消化器病学会ガイドライン2、およびPMC: 104429068に基づく情報を統合。
内視鏡治療(ERCP)のすべて:手順、時間、麻酔
ERCPは、外科手術のようにお腹を切ることなく、口から内視鏡(細いカメラ)を挿入し、十二指腸にある胆管の出口(ファーター乳頭)から結石を取り出す治療法です。多くの施設では、患者の苦痛を和らげるために鎮静剤を使用し、眠っているような状態で検査・治療を行います9。
具体的な手順は以下の通りです。
- 内視鏡の挿入:口から食道、胃を経て十二指腸まで内視鏡を進めます。
- ファーター乳頭の特定:総胆管と膵管の出口であるファーター乳頭を見つけます。
- 胆管へのカニューラ挿入:乳頭から細い管(カニューラ)を胆管内に挿入し、造影剤を注入して結石の大きさや数、位置をX線で確認します。
- 乳頭の切開または拡張:結石を排出しやすくするために、電気メスで乳頭をわずかに切開する「内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)」や、風船(バルーン)で乳頭を拡張する「内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPLBD)」を行います10。
- 結石の除去:バスケット状の器具やバルーンカテーテルを用いて、結石を十二指腸内へかき出します。
処置にかかる時間は、結石の大きさや数にもよりますが、通常30分から60分程度です。
【最重要】ERCPの利益と危険性:最新データで理解する偶発症
ERCPの最大の利益は、開腹手術を避けて体への負担が少ない方法で結石を除去できる点にあります。しかし、優れた治療法である一方で、偶発症(予期せぬ有害事象)の危険性も存在します。信頼関係を築く上で、この危険性を透明性をもって理解することが極めて重要です。ここに提示するのは、2024年11月に発表された、数十万人の患者を含む最新のメタ解析から得られた、最も信頼性の高いデータです3。
偶発症 | 全体の発生率(95%信頼区間) |
---|---|
急性膵炎 | 4.6% (4.0% – 5.1%) |
出血 | 1.5% (1.2% – 1.7%) |
胆管炎 | 2.5% (1.9% – 3.3%) |
穿孔(消化管に穴があくこと) | 0.5% (0.4% – 0.6%) |
死亡 | 0.2% (0.1% – 0.3%) |
必須引用: 出典: Systematic Review and Meta-Analysis, PubMed ID: 39515394, 2024年11月発表3。
このデータが示すように、最も頻度の高い偶発症は急性膵炎です。これらの数値は決してゼロではありませんが、多くの偶発症は内科的治療や追加の内視鏡的処置で管理可能です。重要なのは、これらの危険性を最小限に抑えるための予防策が講じられ、万が一発生した場合に迅速に対応できる、経験豊富な医療チームを選択することです。この最新のデータは、医師と治療方針について話し合う際の、極めて重要な判断材料となります。
【最新技術】難しい結石や特殊な状況への挑戦
標準的なERCPでは取り除くのが難しい巨大な結石や、胃の切除手術などで解剖学的構造が変わってしまった患者さんに対しても、日本の先進的な医療施設では新たな選択肢が提供されています。
巨大結石を砕く:胆道鏡(SpyGlass™ DS)と結石破砕術
SpyGlass™ DSは、胆管内に直接挿入できる極細の内視鏡です。これにより、医師は胆管内を直接観察しながら、巨大な結石や嵌頓(かんとん:はまり込んで動かない)した結石の位置を正確に把握できます11。そして、電気水圧衝撃波(EHL)やレーザーを用いて、結石を安全かつ確実に破砕することが可能になります12。ESGEガイドラインでも、このような管腔内砕石術は困難な結石に対する有効な選択肢として推奨されています1。
胃の手術後でも可能に:ダブルバルーン内視鏡(DB-ERCP)
過去に胃切除術(ビルロートII法やルーワイ法など)を受けた患者さんでは、消化管の経路が変更されているため、通常の内視鏡では胆管の出口に到達することが困難でした。このような場合に活躍するのが、ダブルバルーン内視鏡を用いたERCP(DB-ERCP)です5。この特殊な内視鏡は、2つの風船を巧みに使いながら、長く複雑な小腸をたくし上げるように進むことで、目的の場所に到達します。これにより、以前は再手術が必要だった患者さんでも、低侵襲な内視鏡治療を受けられる可能性が広がりました。この技術は高度な専門性を要するため、一部の大学病院や専門センターで実施されています13。
入院から退院まで:期間、費用、回復の目安
入院期間の目安
ERCPのための入院期間は、処置の複雑さや偶発症の有無によって異なりますが、一般的には4泊5日から1~2週間程度が目安とされています14。合併症がなく、経過が順調であれば、より短期間で退院できる場合もあります。
費用の全体像:保険適用の仕組みと自己負担額
日本において、総胆管結石の治療目的で行われるERCPは、公的医療保険の適用対象です。ただし、自己負担割合(通常1割~3割)に応じて費用が発生します。また、高額療養費制度を利用することで、月々の自己負担額に上限を設けることができます。
処置の内容(例:ESTのみか、結石破砕術を併用したかなど)や入院日数によって総額は変動しますが、一般的なケースでの自己負担額(3割負担の場合)の目安は以下の通りです。
- 簡単な結石除去(数日間の入院): 10万円~15万円程度
- 複雑な結石除去(入院期間が長くなる場合): 20万円以上になることもあります
これらの金額はあくまで目安であり、個々の状況や施設によって異なります。正確な費用については、治療を受ける医療機関に事前に確認することが重要です67。
治療後の生活と注意点
退院後は、数日から1週間程度は消化の良い食事を心がけ、過度な運動は避けることが推奨されます。最も重要な注意点の一つは、胆嚢(たんのう)の扱いです。総胆管結石の患者さんの多くは、胆嚢内にも結石(胆嚢結石)を持っています。ESGEガイドラインでは、胆管の結石をERCPで除去した後、胆嚢炎などの将来的な胆道系の偶発症を予防するために、可能であれば2週間以内に胆嚢摘出術を受けることを強く推奨しています1。
また、総胆管結石は治療後も数%から20%程度の確率で再発する可能性があると報告されています15。腹痛や発熱などの症状が再び現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。
病院と医師の選び方:後悔しないための3つのポイント
ERCPの安全性と成功率は、術者の技術と施設の経験に大きく依存します。後悔のない選択をするために、以下の3つのポイントを参考にしてください。
- 経験と症例数:ERCPの年間症例数が多い施設は、様々な状況に対応できる経験が豊富であると考えられます。施設のウェブサイトで公開されている実績などを確認すると良いでしょう。関西医科大学の島谷昌明教授のように、この分野で評価の高い専門医が在籍する施設も一つの指標となります16。
- 最新の設備:特に巨大結石や胃切除後など、困難な状況が予想される場合は、胆道鏡(SpyGlass™ DS)やダブルバルーン内視鏡(DB-ERCP)といった先進的な設備を備えているかどうかが重要な判断材料になります。
- ガイドラインの遵守と十分な説明:信頼できる医師は、国内外の診療ガイドラインに基づいた治療を提案し、患者に対して治療の利益だけでなく、偶発症の危険性についても具体的なデータを用いて丁寧に説明してくれます。インフォームド・コンセント(説明と同意)の過程を大切にする姿勢も、良い医療チームを見分ける重要な要素です。
よくある質問
治療は痛いですか?
いいえ、通常は痛みを感じません。ERCPは鎮静剤を使用して、患者さんが眠っているか、うとうとしている状態で行われます。そのため、検査中や治療中に強い苦痛を感じることはほとんどありません。処置後に腹部の張り感や喉の違和感を覚えることはあります9。
石は再発しますか?
はい、再発の可能性はあります。日本胆道学会によると、総胆管結石は治療後も数%から最大で20%程度の患者さんで再発することが報告されています15。生活習慣の改善や、原因となる胆嚢結石がある場合は胆嚢摘出術を受けることが、再発予防につながります。
胆嚢も摘出する必要がありますか?
必ずしも必須ではありませんが、強く推奨されています。総胆管結石の原因が胆嚢内の結石であることが多いため、胆嚢を残しておくと、将来的に胆嚢炎や結石の再落下による胆管炎などを引き起こす危険性が高まります。そのため、欧州消化器内視鏡学会(ESGE)などの国際的なガイドラインでは、全身状態が許せば、ERCP後に胆嚢摘出術を行うことを推奨しています1。
結論
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は、総胆管結石に対する現代医療の標準的かつ非常に効果的な治療法です。2024年の最新データが示すように、膵炎などの偶発症の危険性は確かに存在しますが、それは管理可能な範囲内であり、治療による利益は多くの場合、その危険性を上回ります。特に、SpyGlass™ DSやDB-ERCPといった先進技術の登場により、これまで治療が困難であった患者さんにも新たな道が開かれています。最終的に、この治療の成功の鍵を握るのは、あなたの状態を正確に評価し、最新の知識と技術、そして豊富な経験を持つ医療チームを選択することです。本記事が提供する情報が、あなたが納得のいく治療を選択し、安心して一歩を踏み出すための確かな羅針盤となることを心から願っています。
参考文献
- Manes G, Paspatis G, Aabakken L, et al. Endoscopic management of common bile duct stones: European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) guideline. Endoscopy. 2019;51(5):472-491. doi:10.1055/a-0862-0346. Available from: https://www.thieme-connect.com/products/ejournals/abstract/10.1055/a-0862-0346
- 日本消化器病学会. 胆石症診療ガイドライン2021(改訂第3版). 2021. Available from: https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/tanseki_2021.pdf
- Trikudanathan G, et al. Adverse Events Associated With Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography: Systematic Review and Meta-Analysis. Gastroenterology. 2024 Nov 7:S0016-5085(24)03350-X. doi: 10.1016/j.gastro.2024.11.006. Epub ahead of print. PMID: 39515394. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39515394/
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- 東京大学医学部附属病院消化器内科 胆膵グループ. バルーン内視鏡を用いたERCP. Available from: https://todai-tansui.com/case/forefront/case04.html
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