この記事の科学的根拠
この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、本記事で提示される医学的指導の根拠となる主要な情報源とその関連性です。
- 世界保健機関(WHO): 本記事における「ポジティブな産後経験」という理念は、産後ケアが身体的回復だけでなく、心理社会的支援を含むべきであるとするWHOの勧告に基づいています。1
- 米国産科婦人科学会(ACOG): 産後ケアを1ヶ月健診で終わらせず、出産後12週間にわたる継続的なプロセス(第4の三半期)と捉えるべきだという指導は、ACOGの指針に基づいています。性生活に関する悩みもこの期間に相談することが推奨されています。2
- 国立成育医療研究センター(NCCHD): 日本の父親における産後うつの有病率が母親とほぼ同水準であるという衝撃的なデータは、産後の問題を「夫婦の課題」として捉える本記事の核となる根拠です。3
- Cureus誌掲載のメタアナリシス: 産後性交痛の有病率(約35%)に関する記述は、複数の研究を統合解析した、非常に信頼性の高い科学的証拠に基づいています。4
- 日本産科婦人科学会(JSOG): 日本の標準的な産褥期管理に関する記述は、JSOGの診療ガイドラインを基礎としています。5
要点まとめ
- 産後の性生活再開の目安は「1ヶ月健診後」ですが、これは医学的な安全確認の出発点であり、個々の回復状況が最優先されます。
- 産後の性交痛は女性の約35%が経験する一般的な現象です4。主な原因は、授乳によるホルモン変化に伴う腟の乾燥や、出産時の傷の治癒過程にあります。
- 問題は女性だけのものではありません。国立成育医療研究センターの調査によれば、日本の父親の約11%が産後うつの危険性を抱えており、これが夫婦関係に影響を及ぼすことがあります3。
- 性交痛の対策には、潤滑剤の正しい使用、骨盤底筋トレーニングが科学的に推奨されています。痛みや不安は、一人で抱え込まず専門家へ相談することが重要です。
- 「産後クライシス」を乗り越える鍵は、夫婦間の率直な対話です。互いの身体と心の状態を理解し合い、性交をゴールにしないスキンシップから始めることが推奨されます。
1. 身体の準備はいつOK? – 医学的タイムラインと1ヶ月健診の本当の意味
多くの医療機関や育児情報サイトで、「産後の性生活は1ヶ月健診で問題がなければ」という言葉を目にします。しかし、これは決して「1ヶ月経てば全員が再開しなければならない」という意味ではありません。この「1ヶ月」という期間が、なぜ医学的に重要なのかを正しく理解することが、安全な第一歩を踏み出すために不可欠です。
1.1. 「1ヶ月健診後」が一般的な目安とされる科学的理由
産後1ヶ月という期間は、母体の回復における一つの大きな節目です。医師が1ヶ月健診で確認するのは、主に以下の三つの身体的な回復状況です。
- 悪露(おろ)の状態: 悪露とは、出産後の子宮から排出される血液や分泌物のことです。胎盤が剥がれたあとの子宮内膜は大きな傷口と同じ状態であり、悪露が続いている間に性交を行うと、子宮内に細菌が侵入し、重篤な「産褥感染症」を引き起こす危険性があります6。通常、悪露は産後3〜4週間で次第に色が薄くなり、量も減少していきます。1ヶ月健診では、この悪露の状態を確認し、子宮内膜が順調に回復しているかを判断します。
- 子宮復古の進行度: 妊娠によって大きく膨らんだ子宮は、産後、驚くべき速さで元の大きさに戻ろうとします。この「子宮復古」と呼ばれるプロセスには、通常約6週間かかるとされています2。子宮がまだ完全に収縮していない段階で性的な刺激が加わると、痛みを感じたり、回復を妨げたりする可能性があります。
- 創傷治癒の進捗: 経腟分娩の際に会陰切開や会陰裂傷があった場合、あるいは帝王切開で出産した場合、その傷が十分に治癒しているかどうかが極めて重要です。外見上はふさがっているように見えても、内部の組織はまだ非常に繊細です。不完全な状態で性交を行うと、傷が再び開いたり(再離開)、強い痛みの原因となったりします。
特筆すべきは、日本の産科診療の基準となる日本産科婦人科学会(JSOG)の「産婦人科診療ガイドライン」においても、産褥期の一般的な管理方法は示されていますが、性生活再開に関する明確な日数の基準は設けられていないという事実です5。これは、回復の速度に大きな個人差があるためです。だからこそ、専門家である産婦人科医が、超音波検査などで子宮の回復状態や傷の治癒を直接診察する「1ヶ月健診」が、医学的な安全性を確認するための最低限の条件として、極めて重要な意味を持つのです。
1.2. 世界の新常識「第4の三半期」:産後ケアは継続的なプロセスである
近年、世界の周産期医療の考え方は大きく変化しています。その象徴が、米国産科婦人科学会(ACOG)が提唱する「The Fourth Trimester(第4の三半期)」という先進的な概念です2。これは、妊娠期間を三つの三半期(trimester)に分けるのと同じように、出産後の12週間を「第4の三半期」と位置づけ、この期間の母親のケアを包括的かつ継続的に行うべきだとする考え方です。ACOGの委員会意見書(Committee Opinion No. 736)では、産後ケアは1ヶ月健診という一度きりのイベントで終わるものではなく、母親の身体的・精神的健康を長期的に支援する継続的なプロセスであるべきだと強調されています7。この指針の中で、身体的回復や気分の変化、睡眠、疲労といった項目と並んで、「性生活、避妊、家族計画」についても話し合うことが明確に推奨されています7。つまり、性生活に関する悩みや不安を、1ヶ月健診が終わった後もためらうことなく専門家に相談することは、国際的な標準治療の一部なのです。
2. なぜ?産後の性交痛(ディスパレウニア)の科学
「産後の性生活は痛い」という話を聞いて、不安に感じている方は少なくないでしょう。この痛みは「ディスパレウニア(性交痛)」と呼ばれる医学的な症状であり、決して気のせいではありません。そして最も重要なことは、それが決して珍しいことではないという事実です。
2.1. 有病率:痛みに悩むのは、あなただけではない
読者の皆様の孤独感を和らげるために、まず客観的なデータをお示しします。22件の研究、合計11,457人の産後女性を対象としたデータを統合解析した「メタアナリシス」という、最も信頼性の高い研究手法によると、産後女性の約35%が性交痛を経験することが報告されています4。別の研究では、産後2〜6ヶ月の時点では、その割合は43%にものぼるとされています8。この数字は、産後の痛みが一部の特別な人だけに起こる問題ではなく、多くの女性が同じ悩みを抱える、ごく一般的な現象であることを示しています。この事実を知るだけでも、少し心が軽くなるのではないでしょうか。
2.2. 痛みの主な原因:ホルモンと物理的な変化の解剖学
では、なぜ痛みが生じるのでしょうか。その原因は、曖昧な「ホルモンバランスの乱れ」という言葉で片付けられるものではなく、科学的なメカニズムに基づいて明確に説明できます。
- 原因① 腟の乾燥(萎縮性腟炎): 痛みの最大の原因は、ホルモンの劇的な変化による腟の乾燥です。母乳育児中、脳からは母乳の分泌を促す「プロラクチン」というホルモンが大量に分泌されます。このプロラクチンは、卵巣から分泌される女性ホルモン「エストロゲン」の働きを強力に抑制します9。エストロゲンには、腟の粘膜を厚くし、潤いを保ち、柔軟性を与えるという重要な役割があります。そのため、エストロゲンが欠乏した産後の腟は、閉経後の女性と同じように粘膜が薄く乾燥した状態(萎縮性腟炎)になりがちです。この状態で性的な摩擦が加わることが、ヒリヒリとした痛みや灼熱感の直接的な原因となります。
- 原因② 創傷関連痛: 会陰切開や出産時に生じた裂傷の縫合部分は、治癒の過程で「瘢痕組織」という硬い組織に置き換わります。この瘢痕組織は、周囲の正常な組織と比べて伸縮性が乏しいため、性交時に引き伸ばされることで、引きつれるような鋭い痛みを引き起こすことがあります10。特に、縫合が不適切であったり、治癒過程で感染を起こしたりした場合に、この痛みはより強くなる傾向があります。
- 原因③ 骨盤底筋の機能不全: 骨盤の底でハンモックのように内臓を支えている「骨盤底筋群」は、出産によって大きなダメージを受けます。時に、この筋肉群が過度に緊張したままの状態(ハイパートニシティ)になってしまうことがあります。これにより、腟の入り口が締め付けられるような圧迫感や、挿入時の深い部分での痛みが生じることが、専門的な研究で指摘されています10。
2.3. 性交痛のリスクを高める要因と心理的側面
どのような人が特に痛みを経験しやすいのでしょうか。初産婦を対象とした大規模な前向きコホート研究では、産後6ヶ月時点での性交痛と関連の深い、科学的に証明された危険因子がいくつか特定されています11。それには、「授乳中であること」「産後1ヶ月の時点で会陰部に痛みが残っていたこと」「強い疲労感」「精神的なストレス」などが含まれます。
さらに、痛みは身体だけの問題ではありません。「また痛かったらどうしよう」という「痛みへの恐怖心」や、「この痛みは永遠に続くのではないか」といった「破局的思考(Pain Catastrophizing)」が、実際の痛みをさらに増強させてしまうという悪循環に陥ることが、複数の研究で示されています8。心と身体は密接に繋がっているのです。
3. 身体だけじゃない:産後の「こころ」と夫婦関係の激変
産後の性生活における課題は、身体的な痛みだけではありません。出産という大きな出来事は、女性の心、そして夫婦の関係性にも、かつてないほどの変化をもたらします。
3.1. ママのメンタルヘルス:産後うつと性欲低下の深い関係
「出産してから、まったく性的な気分になれない」。これは、愛情が冷めたからではありません。多くの場合、医学的な理由が存在します。世界保健機関(WHO)は、産後ケアにおいて精神的な健康状態の確認を普遍的に推奨しており、その重要性を強調しています12。
産後うつの主要な症状の一つに、「興味・喜びの喪失(アンヘドニア)」があります。これは、以前は楽しめていた活動に対して、全く喜びを感じられなくなる状態のことで、性的な欲求や関心の低下に直接的につながります。また、慣れない育児による極度の疲労や慢性的な睡眠不足は、思考力や判断力を低下させるだけでなく、性欲を司る脳の機能そのものを低下させる大きな要因であることが、科学的に知られています13。
3.2. 見過ごされる夫の苦しみ:「父親の産後うつ」という日本の現実
産後の問題が女性だけのものではない、という事実は、これまで驚くほど見過ごされてきました。この点に光を当てるのが、本記事の最も重要なメッセージの一つです。
国立成育医療研究センターが日本で行った画期的な全国調査によると、産後1年間に精神的な不調のリスクありと判定された父親の割合は11.0%にのぼり、これは母親の10.8%とほぼ同水準であるという衝撃的な結果が報告されました3。つまり、日本では年間約3万組もの夫婦が、産後に同時に精神的な不調で苦しんでいる可能性があるのです。
さらに、別の研究では、父親の産後うつが「夫婦関係の満足度の低下」と強く関連していることも示されています14。夫側の性欲の低下、イライラ、コミュニケーションの回避といった行動の背景には、単なる「無関心」ではなく、彼ら自身の精神的な不調が隠れている可能性を、私たちは知る必要があります。
3.3. 「産後クライシス」を乗り越えるためのコミュニケーション戦略
日本では「産後クライシス」という言葉が広く知られています15。これは、出産後に夫婦の愛情が急速に冷え込む現象を指しますが、その正体は、ホルモンバランスの変化、育児負担の偏り(ワンオペ育児)、睡眠不足による理性の低下、そして決定的なコミュニケーション不足といった要因が、複雑に絡み合って発生する構造的な問題です。
この危機を乗り越える上で、最大の障害となるのが「言わなくても察してほしい」という期待です。しかし、心身ともに極限状態にある産後期に、相手の気持ちを正確に推し量ることはほぼ不可能です。ここで重要になるのが、「私」を主語にして自分の状態を伝える「I(アイ)メッセージ」です。
例えば、「どうして私の気持ちを分かってくれないの!」と相手を責める(YOUメッセージ)のではなく、「(私は)今は身体が痛くて、とても性的な気分になれないの。少しだけ待ってほしい」(Iメッセージ)と伝えることで、相手は非難されたと感じることなく、あなたの状態を客観的に理解しやすくなります。
4. 安全で心地よい関係を再開するための具体的ステップ【実践ガイド】
では、具体的にどうすれば、安全で心地よい関係を再開できるのでしょうか。ここでは、専門家が推奨する実践的なステップをご紹介します。
4.1. 焦らず段階的に:性交をゴールにしないスキンシップ
最も重要なことは、「性交=ゴール」という考え方から一度離れることです。性交へのプレッシャーは、かえって心身を緊張させ、痛みを増強させます。まずは、挿入を伴わないスキンシップから再開しましょう。マヨクリニックなどの医療機関も、手をつなぐ、ハグをする、マッサージをし合うといった、お互いが心地よいと感じる身体的な触れ合いから始めることの重要性を強調しています16。これにより、失われていた信頼関係や親密さを、焦らずゆっくりと再構築することができます。
4.2. 痛みを和らげる最強の味方:潤滑剤(ルブリカント)の正しい知識と活用法
産後の性交痛に対する最も効果的で簡単な解決策は、潤滑剤(ルブリカント)を使用することです。これは恥ずかしいことでも、愛情が足りない証拠でもありません。ホルモンの影響による身体の変化を補うための、賢明な「医療補助具」と捉えましょう。日本家族計画協会(JFPA)などの専門機関もその使用を推奨しています17。
選び方のポイントは、産後のデリケートな腟環境を考慮することです。刺激となる可能性のあるグリセリンやパラベンを含まない、水溶性の製品が一般的に推奨されます。使い方は、十分な量を事前に腟の入り口やパートナーの性器に塗布するだけです。パートナーに切り出す際は、例えば「出産の影響で今は乾燥しやすいみたい。これを使うと、お互いもっと気持ちよくなれると思うな」というように、ポジティブな言葉で提案してみましょう。
4.3. 身体の回復を促す:骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)
自宅でできるセルフケアとして、最も科学的根拠のある方法の一つが、骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)です。世界保健機関(WHO)も、産後の尿失禁予防のためにこのトレーニングを推奨しています18。
正しいやり方は、「排尿を途中で止めるような感覚で、腟と肛門を数秒間ゆっくりと締め、その後、完全に力を抜いて緩める」という動作を繰り返すことです。この運動は、骨盤底筋の血流を改善し、出産で傷ついた神経の回復を助け、結果として性交時の感覚や快適性を高める可能性があることが示唆されています16。
4.4. 忘れてはいけない「避妊」の話:産後の家族計画
最後に、非常に重要な情報です。それは避妊についてです。「授乳中は妊娠しない」という俗説は、医学的には危険な神話です。米国産科婦人科学会(ACOG)やWHOなどの国際機関は、この誤解に対して警鐘を鳴らしています19。母乳育児中でも、排卵は個人差はありますが早ければ産後数ヶ月で再開する可能性があります。そして、多くの場合、排卵は最初の月経が来る前に起こります。つまり、「月経がまだだから大丈夫」と思っていても、妊娠する可能性があるのです。
産後の身体状態や授乳の有無によって、適した避妊法は異なります。プロゲスチン(黄体ホルモン)のみを含む「ミニピル」や、子宮内に装着する「避妊具(IUD)」など、様々な選択肢があります。意図しない次の妊娠を防ぐためにも、性生活を再開する前には、必ず産婦人科医と相談し、ご自身のライフプランに合った避妊法を選びましょう。
よくある質問
Q1. 帝王切開で出産しました。経腟分娩と注意点は違いますか?
はい、注意すべき点が少し異なります。帝王切開の場合、腟への直接的なダメージは少ないため、会陰部の傷に関する心配はありません。しかし、腹部の傷の痛みが主な懸念点となります。傷に負担がかからない、女性が体勢をコントロールしやすい体位(例えば女性上位)から試してみることが推奨されます。また、帝王切開であっても、授乳によるホルモンの影響は経腟分娩の方と同様に起こります。したがって、腟の乾燥による痛みは起こりうるため、潤滑剤の使用は同様に有効です。
Q2. セックスの後、少し出血しました。すぐに受診すべきですか?
産後の腟は、ホルモンの影響で粘膜が薄く、傷つきやすくなっています。そのため、性的な摩擦によってごく少量の出血(ティッシュに付く程度)が起こることはあり得ます。しかし、出血が鮮やかな赤色である、量が多い(月経のように続く)、強い痛みを伴うといった場合は、単なる摩擦によるものではなく、腟壁の裂傷や子宮の回復が不完全である(子宮復古不全)可能性も考えられます。このような症状がある場合は、様子を見ずに速やかに産婦人科を受診してください。
Q3. パートナーが頻繁に求めてきますが、応じる気になれません。どう断れば関係が悪化しませんか?
これは非常によくある、デリケートな問題です。重要なのは、パートナー自身を拒絶しているわけではない、ということを明確に伝えることです。「あなたを拒否しているわけではないの。ただ、今は身体が痛くて、心も本当に疲れている。もう少しだけ待ってほしい」というように、「I(アイ)メッセージ」を使って、ご自身の現在の状態を正直に、かつ穏やかに伝えましょう。そして、「でも、こうして触れ合えるのは嬉しい」と付け加え、ハグやマッサージといった、挿入を伴わない他の愛情表現を提案することも、関係悪化を防ぐ上で非常に有効です。
Q4. 夫がまったく求めてきません。女性として魅力がなくなったのでしょうか?
そのように感じてしまうお気持ちは、とてもよく分かります。しかし、どうかご自身を責めないでください。夫が求めてこない理由は、あなたに魅力がなくなったからとは限りません。むしろ、「妻の大変な出産を目の当たりにして、体を傷つけてしまうのが怖い」という気遣いや、本記事の3.2で詳しく解説した「父親の産後うつ」による性欲低下の可能性も十分に考えられます。自己否定に陥る前に、まずは「何か心配なことがある?」「疲れてる?」など、夫の心境について穏やかに対話を試みてみることが大切です。思いがけない本音が聞けるかもしれません。
結論
産後の性生活は、多くの夫婦にとって、身体的、精神的、そして関係性の面で、これまでに経験したことのない課題を突きつけます。しかし、本記事で科学的根拠と共にお伝えしてきたように、その課題の多くは、正しい知識によって理解し、具体的な方法で対処することが可能です。身体と心の回復には個人差があることを受け入れ、痛みは科学的に対処できることを知り、そして何よりも夫婦間の率直な対話がすべての鍵を握るということを、どうか忘れないでください。
そして最も重要なメッセージは、「一人で悩まないでください」ということです。あなたには、専門家とパートナーという、頼れる「チーム」がいます。身体的な痛みや不調が続く場合は、決して我慢せず、産婦人科医に相談してください。精神的な辛さや夫婦関係の悩みがある場合は、お住まいの市区町村が実施している「産後ケア事業」20や「子育て世代包括支援センター」、地域の保健センターといった公的な相談窓口が、あなたからの連絡を待っています。産後のこの時期を、夫婦が「二人で乗り越えるべき共通の課題」と捉え、新たな家族としての絆をより深く、強く育むための貴重な機会と捉え直すことができたなら、これに勝る喜びはありません。
参考文献
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