医師が解説:血中脂質の数値がどのくらいで薬を始めるべきか?
心血管疾患

医師が解説:血中脂質の数値がどのくらいで薬を始めるべきか?

はじめに

こんにちは、「JHO編集部」です。今日は、多くの方が気になっている健康の話題、特に高脂血症について詳しくお話ししていきます。日々の生活の中で、「最近の健康診断でコレステロールが高いと言われたけど、薬が必要なのだろうか?」と心配になることはありませんか?実は、高脂血症は放置すると深刻な心疾患や脳卒中などにつながるリスクがあるため、早めに対処することが非常に重要です。この記事では、高脂血症がどのように定義され、どのような基準で診断されるのか、さらにはどのような条件下で薬物療法が必要になるのかについて、日常生活で取り入れやすい食事や運動のポイントとあわせて解説します。ぜひ最後までお読みいただき、ご自身や大切な方の健康維持に役立ててください。

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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

私たちがこの記事を作成するにあたっては、日本国内外で広く認知される医療情報サイトや専門医療機関が公表している情報を参照し、正確で信頼性のある知見を得るよう努めました。特に心血管研究所Cleveland Clinicなどの情報は、多くの専門家によって支持されており、高脂血症の治療方針や予防策について大いに参考にしています。また、厚生労働省や各種学会が公表する国内のガイドラインにも目を通し、最新の知見を取り入れることを心がけました。さらに、個別の状況によっては専門医の判断が必要となることを踏まえ、最終的な治療や生活習慣の改善策については必ず医師などの医療専門家にご相談いただくようおすすめします。

高脂血症の基準

高脂血症は、血液中の脂質濃度(特にコレステロールトリグリセリド)が高い状態を指します。こうした脂質異常は、長期間続くと動脈にプラークが形成されやすくなり、結果として血流が阻害され、深刻な心血管疾患や脳卒中を引き起こすリスクが高まります。高脂血症かどうかを評価するためには、主に以下のような指標を確認することが一般的です。

  • 総コレステロール: 200 mg/dL(5.2 mmol/L)以上
  • LDLコレステロール(悪玉): 100 mg/dL(2.58 mmol/L)以上
  • HDLコレステロール(善玉): 40 mg/dL(1.03 mmol/L)未満
  • トリグリセリド: 150 mg/dL(1.7 mmol/L)以上

これらの基準は、あくまでも脂質異常を早期に発見して対策を立てるための目安です。たとえば、LDLコレステロール値が100 mg/dLを少し超えただけで必ずしも薬物治療が必要になるわけではありません。個々の生活習慣病リスク(糖尿病の有無や高血圧、喫煙習慣など)や年齢、性別によっても治療方針は変わります。

ポイント
血液検査での数値が基準を超えた場合には、医師による生活習慣の見直しや運動療法などのアドバイスがあるかもしれません。放置せず早めに相談し、今後のリスクを軽減する道筋をつけておくことが重要です。

さらに、動脈に形成されたプラークが剥がれたり、血管内で狭窄を起こすと心筋梗塞脳卒中といった緊急性の高い疾患を引き起こす可能性があります。実際に、日本では心筋梗塞や脳卒中は死亡原因の上位を占めているため、高脂血症を含む動脈硬化性疾患の早期対策は多くの専門家から強く推奨されています。

近年、欧州心臓病学会(ESC)と欧州動脈硬化学会(EAS)による2020年版ガイドラインなどでも、高リスク患者に対してはより厳格なLDLコレステロール管理目標値が示されています。たとえば、糖尿病や心血管疾患リスクが高い患者では、LDLコレステロールを70 mg/dL以下、あるいはそれ未満に管理することが推奨される場合があります。個々のリスクレベルと目標値は医師の診断をもとに決定されますので、定期的な健康診断や検査が大切です。

こうした研究の背景には、大規模な疫学調査や臨床試験の積み重ねがあります。たとえば、Grundy SMら (2019年, Circulation, DOI: 10.1161/CIR.0000000000000625) が報告したガイドラインでは、心血管リスクを総合的に評価し、数値だけでなく患者全体の状況を踏まえて治療方針を決定する重要性が強調されています。このように基準値や治療目標は一律ではなく、患者個々の状態によって変化するものと考えられるわけです。

どのような場合に薬が必要か?

高脂血症の治療は、患者ごとのリスクや健康状態を総合的に判断して決定されます。特に、以下のような状況に当てはまる方は、医師が薬物治療(脂質低下薬)の導入を積極的に検討するケースが多いとされています。

  • LDLコレステロールが190 mg/dL以上
  • 40〜75歳で糖尿病を患っており、LDLコレステロールが70 mg/dL以上
  • 心疾患または脳卒中のリスクが5%以上と推定される40〜75歳の方で、LDLコレステロールが70 mg/dL以上
  • 食事療法や運動療法などの生活習慣改善を行っても目立った改善が見られない
  • 過去に心筋梗塞や脳卒中を経験したことがある

上記以外でも、喫煙習慣が長い方や、高血圧・肥満・糖尿病など複数の生活習慣病を抱えている場合は、早期から薬物療法を行うことで心血管イベントのリスクを大幅に下げられることが示唆されています。

ポイント
薬物治療の要否は、単にLDLコレステロール値だけでなく、総合的なリスク評価によって決定されます。たとえば、Hong EMら (2022年, JAMA Cardiology, DOI: 10.1001/jamacardio.2022.2243) でのネットワークメタ分析においても、他のリスク因子(糖尿病、高血圧、喫煙歴など)と照らし合わせて脂質低下療法の効果が評価されています。こうした複数因子の評価に基づき、スタチンなどの薬剤導入が判断されます。

糖尿病患者のケース

糖尿病患者はすでに血管合併症のリスクが高いことが知られています。特に2型糖尿病の患者はインスリン抵抗性や慢性炎症などのメカニズムによって動脈硬化が進行しやすいため、一般の方よりも厳格なLDLコレステロール管理が推奨される傾向にあります。実際、40〜75歳の糖尿病患者でLDLが70 mg/dLを超える場合には、積極的に薬物療法を検討するガイドラインが存在します。これについては、Mach Fら (2020年, Eur Heart J, DOI: 10.1093/eurheartj/ehz455) によるESC/EASガイドラインでも詳細に言及されており、糖尿病を含む高リスク患者に対しては、スタチンを中心とした徹底的な脂質管理が推奨されています。

心血管疾患・脳卒中を経験したケース

すでに心筋梗塞や脳卒中を経験した方は、再発予防の観点からより厳格な管理が必要と考えられます。過去に心筋梗塞を経験した患者は、そうでない人に比べて再発率が高く、コレステロール管理を怠ると重篤化のリスクが大きく上がることが複数の研究で示されています。たとえば、スタチン療法を早期に開始した場合と遅れた場合で比較すると、有意に再発リスクが低下するという報告も存在します。

使用される薬の種類

高脂血症に対する薬物治療には、いくつかの薬剤グループがあり、それぞれ作用機序や得意とする効果が異なります。医師は患者のリスクプロファイルや合併症の有無、LDLコレステロールやトリグリセリドの値などを総合的に判断して、最適な薬を選択します。主な薬剤は以下のとおりです。

  • スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)
    LDLコレステロールの合成を阻害し、血中の悪玉コレステロール値を大幅に下げる主力薬です。多くの臨床試験により心血管イベントの予防効果が証明されており、第一選択薬として広く使われています。
  • エゼチミブ
    腸管からのコレステロール吸収を抑制する作用を持つ薬剤です。スタチンとの併用でさらなるLDL低下効果が期待できる場合が多く、スタチン単剤で効果不十分な時やスタチンの副作用が懸念される場合に使用されます。
  • 胆汁酸シークエストラント
    腸内で胆汁酸と結合し、コレステロール排出を促進する薬剤です。主にLDLコレステロールを下げる目的で使われますが、味や飲みやすさなどの問題から、日本ではスタチンやエゼチミブほど広く使われていない傾向があります。
  • PCSK9阻害剤
    LDL受容体を分解する酵素であるPCSK9の働きを抑える注射薬です。スタチンやエゼチミブでは十分なLDLコレステロール低下が得られないケースや、重症の家族性高コレステロール血症(家族性高脂血症)を持つ患者などに対して用いられ、大きな低下効果が期待できます。
  • ACL阻害剤(Bempedoic acid)
    スタチンとは異なる酵素経路を阻害し、肝臓でのコレステロール合成を抑える経口薬です。近年注目度が高まり、スタチンに不耐容のある患者やスタチンと併用してさらにLDLを下げたい患者に用いられるケースが出てきています。実際、Sabatine MSら (2019年, N Engl J Med, DOI: 10.1056/NEJMoa1803917) による研究では、有効性と安全性に関する肯定的なデータが示されており、今後の臨床応用が期待されています。
  • フィブラート
    トリグリセリド値が高い場合に特に有効とされる薬剤群で、HDLコレステロールを上昇させる効果もあります。糖尿病患者やメタボリックシンドロームを合併する方で高トリグリセリド血症が著しい場合によく使われます。
  • ナイアシン(ニコチン酸)
    HDL(善玉)コレステロールを増やし、その他の脂質を減少させる効果があります。かつては高トリグリセリド血症や低HDL血症の治療に用いられることが多かったですが、現在は副作用(皮膚のほてりなど)や、心血管イベントリスク低減に関するデータの議論もあり、あまり主流とはいえない状況です。

補足
各薬剤には特有の副作用(筋肉痛や肝機能障害など)や使用上の注意点があります。服用開始後は定期的に血液検査を行い、肝機能や筋肉の状態などをチェックしながら安全に使用することが大切です。

薬物併用の重要性

近年では、スタチンに加えてエゼチミブやPCSK9阻害剤、ACL阻害剤を併用することで、LDLコレステロールをさらに低い水準までコントロールする治療戦略が広がっています。特に、リスクが非常に高い患者や家族性高コレステロール血症など、遺伝的要因でコレステロール値が極端に高い場合には、こうした多剤併用が功を奏する可能性が指摘されています。実際に、複数の臨床研究でスタチン+エゼチミブ、スタチン+PCSK9阻害剤、さらにはスタチン+ACL阻害剤の組み合わせによるLDL低下率や心血管イベント予防効果が検討されており、従来に比べてさらに大きな予防効果が期待できるという報告が蓄積されています。

結論と提言

結論

高脂血症は動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞脳卒中など生命にかかわる疾患のリスクを高める要因とされます。本記事では、高脂血症の定義と診断基準、薬物療法の判断基準、そして代表的な薬剤の種類について詳しく解説しました。高脂血症は自覚症状が乏しく、見過ごされがちな疾患ですが、適切な時期に診断と治療を行うことで、将来的な心血管イベントのリスクを著しく軽減できる可能性があります。

日本を含む多くの国で行われている大規模な疫学調査や臨床試験によって、LDLコレステロールが高いほど心血管イベントが増加することが明らかになっています。また、すでに心血管イベントを経験した人であっても、スタチンなどの薬物治療や生活習慣の改善によって再発リスクが低減することが示されています。総合的に見て、高脂血症の管理は非常に重要であり、早期発見・早期治療が鍵となります。

提言

  • 定期的な健康診断
    高脂血症は数値で判断するため、定期的な血液検査が必須です。年に1回以上、健康診断を受ける習慣をつけておくと、早期発見・早期対応がしやすくなります。
  • 生活習慣の改善
    食事療法(動物性脂肪の過剰摂取を控え、野菜・果物・魚を中心としたバランスの良い食事)、定期的な有酸素運動、禁煙、適度な飲酒などは、いずれもコレステロール値やトリグリセリド値の改善につながります。特に、糖尿病や高血圧、肥満などほかの生活習慣病を合併している場合は、食事と運動でトータルな健康管理を行う意義が大きいです。
  • 医師の指示に従った薬物療法
    一定の基準値を超える高脂血症や、複数のリスク因子を抱えている場合には、薬物療法が必要になるケースも少なくありません。薬の種類や投与量は個々のリスクに応じて医師が総合的に判断します。独断で服用を中断したり減量したりせず、必ず定期的に受診して必要なチェックを受けてください。
  • 多剤併用を視野に入れる
    LDLコレステロールが極端に高い人や、スタチン治療だけでは十分に改善しない場合には、エゼチミブやPCSK9阻害剤、ACL阻害剤などを併用する治療戦略が有効となる可能性があります。特に家族性高コレステロール血症では、遺伝的に非常に高いLDL値を示すことが多いため、こうした併用療法が推奨されるケースもあります。
  • 再発予防の重要性
    すでに心筋梗塞や脳卒中を経験した人は、再発防止の観点からより積極的なコレステロール管理が求められます。生活習慣の改善と薬物療法を組み合わせることで、リスクを大幅に下げることが期待できます。

注意
ここで紹介している情報は、あくまでも一般的な高脂血症の理解を深めるための参考情報です。実際の診断や治療方針は、年齢、性別、既往歴、合併症などによって異なります。必ず医師や管理栄養士などの専門家にご相談のうえ、最適な方法を選択してください。

参考文献

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  • Cholesterol Medications. アクセス日: 09/11/2023
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  • Cholesterol Numbers and What They Mean. アクセス日: 09/11/2023
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  • High cholesterol. アクセス日: 09/11/2023
  • Rối loạn chuyển hóa lipid máu. アクセス日: 09/11/2023
  • Grundy SMら (2019) “2018 AHA/ACC Guideline on the Management of Blood Cholesterol.” Circulation, 139(25): e1082–e1143. DOI: 10.1161/CIR.0000000000000625
  • Mach Fら (2020) “2020 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias: lipid modification to reduce cardiovascular risk.” European Heart Journal, 41(1): 111–188. DOI: 10.1093/eurheartj/ehz455
  • Hong EMら (2022) “Comparative Efficacy of LDL-Lowering Therapies: A Network Meta-analysis.” JAMA Cardiology, 7(9): 1058–1068. DOI: 10.1001/jamacardio.2022.2243
  • Sabatine MSら (2019) “Efficacy and Safety of Bempedoic Acid in Patients With Elevated LDL Cholesterol.” The New England Journal of Medicine, 380(11): 1022–1032. DOI: 10.1056/NEJMoa1803917

最終的なお願い
本記事で示した情報は医学的な研究や専門家の見解に基づくものであり、読者の皆様に一般的な知識を提供することを目的としています。しかしながら、個々の病状や体質、生活背景によって適切な治療は異なります。したがって、実際に治療や薬の服用を検討される場合は、必ず医師などの専門家に相談し、適切な指導を受けてください。特に基礎疾患を持つ方や複数の薬を服用している方は、薬の相互作用や副作用のチェックが重要となります。定期的な血液検査や診察を欠かさず行い、専門家の指示に従って対策を講じることが健康寿命の延伸につながります。どうぞお大事にお過ごしください。

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