【科学的根拠に基づく】高血圧を下げる方法 完全ガイド|食事・運動療法から日本の最新治療ガイドラインまで徹底解説
心血管疾患

【科学的根拠に基づく】高血圧を下げる方法 完全ガイド|食事・運動療法から日本の最新治療ガイドラインまで徹底解説

高血圧は、自覚症状がほとんどないまま静かに進行し、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞といった命に関わる深刻な病気を引き起こすことから、世界保健機関(WHO)によって「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれています57。日本においても、その脅威は決して他人事ではありません。厚生労働省の報告によると、日本の高血圧有病者数は推定で約4,300万人に上り、これは成人のおよそ3人に1人が該当する「国民病」と言える状況です89。多くの方が「血圧が高め」と指摘されながらも、「どの情報が正しいのか分からない」「具体的に何から始めれば良いのか」といった悩みを抱えているのではないでしょうか。本記事は、そうした疑問や不安に応えるため、日本高血圧学会(JSH)や欧州心臓病学会(ESC)、米国心臓協会(AHA)といった国内外の最高権威機関が示す科学的根拠に基づき、高血圧を管理するための包括的な知識を一つの「完全ガイド」としてまとめました。食事や運動といった生活習慣の改善から、日本と世界の最新治療基準、そして科学的に検証された補完的アプローチまで、あなたが「何を信じ、何をすべきか」を明確にするための、最も信頼できる情報を提供することをお約束します。


この記事の科学的根拠

この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下に、本稿で提示される医学的指導に直接関連する実際の情報源とその役割を示します。

  • 特定非営利活動法人 日本高血圧学会 (JSH): 本記事における日本の診断基準、降圧目標、生活習慣修正、薬物療法の指針は、同学会が発行する「高血圧治療ガイドライン2019」に基づいています。これは日本国内の診療における最も重要な基準です。1
  • 厚生労働省 (MHLW): 日本人の高血圧有病率や食塩摂取量の現状に関する公式統計データは、「国民健康・栄養調査」に基づいています。これにより、ガイドラインの推奨と国民の生活実態との関連性を明らかにしています。2
  • 欧州心臓病学会 (ESC): 世界の最新動向として、より早期の介入(Elevated BP)とより低い降圧目標(120-129mmHg)の概念は、同学会の「2024年ESCガイドライン」に基づいています。これは、将来の日本の医療の方向性を考察する上で重要な比較対象となります。3
  • 米国心臓協会 (AHA): 世界の主要ガイドラインの中で早期に高血圧の診断基準を130/80mmHg以上に引き下げた「2017年ACC/AHAガイドライン」は、国際的な基準の動向を理解するための重要な情報源です。4
  • 世界保健機関 (WHO): 高血圧を世界的な公衆衛生上の脅威「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」と位置づける視点と統計は、同学会の「世界高血圧報告書」に基づいています。5
  • 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター (NCVC): 高血圧が引き起こす合併症の詳細な解説や、家庭血圧測定の正しい方法に関する情報は、同センターが提供する患者向け情報に基づいています。6

要点まとめ

  • 日本の高血圧診断基準は診察室血圧で140/90mmHg以上ですが、世界の潮流はより早期からの介入へと向かっています。
  • 治療の根幹は「減塩(1日6g未満)」「野菜・果物の摂取」「適正体重(BMI25未満)」「運動(週180分以上)」「節酒」「禁煙」の6つの生活習慣修正です10
  • GABAや胡麻ペプチドなど、一部の食品成分には血圧降下作用に関する科学的根拠が報告されており、補完的アプローチとして期待されています。
  • 家庭での血圧測定と記録は、白衣高血圧や仮面高血圧を発見し、適切な治療方針を立てる上で極めて重要です。
  • 高血圧管理は生涯にわたる取り組みです。科学的根拠に基づいた知識を持ち、主治医と相談しながら自分に合った方法を見つけることが鍵となります。

第1部:あなたの血圧は大丈夫? – 日本と世界の最新基準を知る

高血圧の管理は、まず自分自身の血圧レベルを正しく認識することから始まります。ここでは、血圧の基本的な仕組みから、日本と世界で用いられている最新の診断基準までを詳しく解説します。

1.1. 高血圧の基本:血圧とは何か、なぜ高くなるのか

血圧とは、心臓がポンプのように収縮して血液を全身に送り出す際に、血管の壁にかかる圧力のことです。この圧力は「心臓が送り出す血液の量(心拍出量)」と、「血液の流れにくさ(末梢血管の抵抗)」という二つの要因によって決まります6。高血圧の患者さんのうち90%以上は、原因を一つに特定できない「本態性高血圧」に分類されます。これには、塩分の過剰摂取、肥満、運動不足、ストレス、遺伝的要因といった複数の要素が複雑に関与していると考えられています6

1.2. 日本の公式基準:「高血圧治療ガイドライン2019」に基づく分類

現在、日本国内の医療機関で用いられている公式な基準は、日本高血圧学会(JSH)が策定した「高血圧治療ガイドライン2019」に基づいています1。このガイドラインでは、医療機関で測定する「診察室血圧」と、家庭で測定する「家庭血圧」で基準値が異なります。診察室血圧で収縮期血圧(最高血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(最低血圧)が90mmHg以上の場合に「高血圧」と診断されます1

特筆すべきは、2019年の改訂で「正常血圧」の基準が「120/80mmHg未満」とより厳格化された点です。そして、正常血圧と高血圧の中間に「正常高値血圧(120-129/80mmHg未満)」と「高値血圧(130-139/80-89mmHg)」という区分が設けられました11。これは、日本人を対象とした大規模な追跡調査により、血圧が120/80mmHgを超えた段階から脳卒中や心筋梗塞などの脳心血管病の発症危険性が明確に上昇することが判明したためです1112。つまり、「まだ高血圧ではないから安心」ではなく、注意が必要な段階であることを示しています。

日本高血圧学会(JSH2019)による血圧値の分類1

分類 診察室血圧 (mmHg) 家庭血圧 (mmHg)
正常血圧 120未満 かつ 80未満 115未満 かつ 75未満
正常高値血圧 120-129 かつ 80未満 115-124 かつ 75未満
高値血圧 130-139 かつ/または 80-89 125-134 かつ/または 75-84
I度高血圧 140-159 かつ/または 90-99 135-144 かつ/または 85-89
II度高血圧 160-179 かつ/または 100-109 145-159 かつ/または 90-99
III度高血圧 180以上 かつ/または 110以上 160以上 かつ/または 100以上

1.3. 世界の潮流:より厳しい米国(AHA)・欧州(ESC)の新基準

日本の基準を理解した上で、世界の動向に目を向けることは、ご自身の健康管理において極めて重要です。現在、世界の高血圧診療は、より早期からの介入へと大きく舵を切っており、日本の基準との間には認識の差が存在します。

この変化のきっかけとなったのが、2017年に米国心臓協会(AHA)などが発表したガイドラインです。ここでは、高血圧の診断基準が日本の140/90mmHg以上よりも厳しい「130/80mmHg以上(ステージ1高血圧)」へと引き下げられ、世界に大きな衝撃を与えました413

さらに、2024年に欧州心臓病学会(ESC)が発表した最新ガイドラインでは、新たに「Elevated BP(血圧上昇)」という概念が導入されました314。これは収縮期血圧120-139mmHg、拡張期血圧70-89mmHgの範囲を指し、特に心血管疾患の危険性が高い人々には、この段階からの治療介入を推奨しています15。これらの国際的な動向は、日本の「高値血圧」の段階から生活習慣の改善を強く推奨する根拠ともなっており、将来の医療の方向性を予測する上で重要な指標となります。

【重要】日・米・欧 最新高血圧分類・基準比較表

この表は、各国・地域の基準を一覧で比較できるようにしたもので、高血圧管理における世界的な潮流を理解する上で非常に有用です。

分類 日本高血圧学会 (JSH2019)1 米国心臓協会 (AHA2017)4 欧州心臓病学会 (ESC2024)3
正常 正常血圧 (<120/<80) Normal (<120/<80) Non-elevated (<120/<70)
注意段階 正常高値血圧 (120-129/<80)
高値血圧 (130-139/80-89)
Elevated (120-129/<80) Elevated BP (120-139/70-89)
高血圧 I度 (140-159/90-99)
II度 (160-179/100-109)
III度 (≥180/≥110)
Stage 1 (130-139/80-89)
Stage 2 (≥140/≥90)
Hypertension (≥140/≥90)
危機的状態 (III度高血圧に含む) Hypertensive Crisis (>180/>120) (Acute Hypertensionとして別途管理)

1.4. 降圧目標はどこまで?- 年齢と合併症で変わる個別化アプローチ

高血圧と診断された場合、次に重要になるのが「どこまで血圧を下げるか」という降圧目標です。JSH2019では、年齢や合併症の有無によって目標値が個別化されています。基本的な目標は以下の通りです110

  • 75歳未満の成人、脳卒中・心筋梗塞の既往がある方など: 130/80 mmHg未満
  • 75歳以上の高齢者、糖尿病や腎臓病の一部の方など: 140/90 mmHg未満

一方で、世界の最新トレンドとして、ESC2024ガイドラインでは、多くの成人において収縮期血圧(SBP)を120-129mmHgの範囲に維持することが推奨されています1516。これは日本の基準よりもさらに低い目標値であり、より厳格な血圧管理が心血管疾患の予防に有効であるという考え方を示しています。今後の日本のガイドライン改訂においても、こうした国際的な動向が考慮される可能性があります。

第2部:治療の根幹 – ガイドラインが推奨する6つの生活習慣修正

高血圧治療において、薬物療法と同等、あるいはそれ以上に重要とされるのが生活習慣の修正です。日本高血圧学会(JSH)のガイドラインでは、科学的根拠に基づき、以下の6つの項目が治療の基本として強く推奨されています1017。これらは一つ一つが降圧効果を持つだけでなく、組み合わせることでより大きな効果が期待できます。

2.1.【最重要】減塩:目標は1日6g未満

数ある生活習慣修正の中で、最も重要かつ効果的とされるのが減塩です。JSH2019では、1日の食塩摂取量を6g未満にすることを強く推奨しています10。しかし、厚生労働省の「令和5年国民健康・栄養調査」によると、日本人の1日あたりの平均食塩摂取量は男性10.7g、女性9.1gであり、目標値との間には依然として大きな隔たりがあります18。この厳しい現実を認識し、日々の食生活で意識的に塩分を減らす努力が求められます。

具体的な減塩のコツ

  • 調理の工夫: 昆布や鰹節などの出汁の旨味、香辛料(胡椒、唐辛子、カレー粉など)、香味野菜(生姜、ニンニク、しそなど)、酸味(酢、レモン)を上手に活用し、薄味でも満足できる味付けを心がけましょう19
  • 食べ方の工夫: 麺類の汁には多くの塩分が含まれています。汁を全部残すだけで、2〜3gもの減塩につながることがあります20。また、醤油やソースは料理に「かける」のではなく、小皿に入れて「つける」習慣をつけましょう21
  • 食品選びの注意: ハムやソーセージなどの加工肉、漬物、練り製品(ちくわ、かまぼこなど)は、見えない塩分が多く含まれているため、摂取頻度を減らすことが大切です2022。食品を購入する際は、栄養成分表示を確認する習慣をつけましょう。

2.2. 食事パターン:野菜・果物を増やし、脂肪を減らす(DASH食の考え方)

単に塩分を減らすだけでなく、食事全体のバランスを改善することも重要です。特に、カリウム、カルシウム、マグネシウムといったミネラルや食物繊維を豊富に含み、飽和脂肪酸やコレステロールが少ない食事パターンは、血圧を下げる効果があることが証明されています23

その代表例が「DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)」です。これは、野菜、果物、低脂肪の乳製品、魚、鶏肉、ナッツ類などを積極的に摂る食事法で、降圧効果の高さが科学的に確立されています24。特に、カリウムは体内の余分なナトリウム(塩分)を尿中に排泄するのを助ける働きがあり、血圧管理において重要な役割を担います19。ほうれん草、小松菜、アボカド、バナナ、いも類などに豊富に含まれています。

ただし、DASH食は欧米で開発されたため、乳製品の利用などが少ない伝統的な日本食にそのまま適用するには課題があるという指摘もあります25。近年では、マルハニチロなどの企業が魚を積極的に活用した「日本人向けDASH食」を開発し、その有効性を検証する研究も行われています26。魚介類や大豆製品をうまく取り入れ、日本人の食文化に合った形で実践することが成功の鍵となります。

2.3. 適正体重の維持:BMI 25未満を目指す

肥満は高血圧の確立した危険因子です。体重が増えると、心臓がより多くの血液を送り出す必要が生じ、血圧が上昇します。ガイドラインでは、体重(kg)を身長(m)の2乗で割った体格指数(BMI)を25未満に維持することが推奨されています10。研究によれば、体重を1kg減量するごとに、血圧は約1〜1.5mmHg低下すると報告されており、減量は非常に効果的な降圧策の一つです27

2.4. 運動療法:有酸素運動を中心に週180分以上

定期的な運動は、血管を広げる物質の分泌を促し、血圧を下げる効果があります28。特に推奨されるのは、ウォーキング、軽いジョギング、サイクリング、水泳といった、全身の大きな筋肉を使う有酸素運動です29

目標は、「ややきつい」と感じる程度の強度で、できれば毎日30分以上、または週に合計180分以上の運動を行うことです1030。時間が取れない場合でも、1回10分以上の運動を細切れに行い、1日の合計が40分以上になれば同等の効果が期待できるとされています30。運動により、プロスタグランディンやタウリン、一酸化窒素(NO)といった降圧作用のある物質が体内で産生されることが科学的に示されています31。ただし、III度高血圧(180/110mmHg以上)の方や、心臓病などの合併症がある方は、運動を開始する前に必ず医師に相談してください30

2.5. 節酒:エタノール量で具体的な上限を知る

アルコールの過剰摂取は血圧を上昇させます。JSH2019では、1日あたりの摂取量の上限をエタノール換算で、男性は20〜30mL以下、女性は10〜20mL以下と定めています10。これを具体的な酒類に換算すると、おおよそ以下のようになります27

  • 男性の上限: ビール(中瓶1本、500mL)、日本酒(1合、180mL)、焼酎(半合、90mL)、ワイン(グラス2杯、200mL)
  • 女性の上限: 上記の約半分〜3分の2程度

2.6. 禁煙:受動喫煙も避ける

喫煙は、それ自体が脳卒中や心筋梗塞の強力な危険因子です10。たばこを1本吸うだけで、ニコチンの作用により交感神経が刺激され、15分以上にわたって血圧が上昇することが知られています10。高血圧と診断されたら、禁煙は必須です。また、ご自身が吸わなくても、他人の煙を吸う「受動喫煙」も同様に有害であるため、避ける必要があります。

第3部:科学的根拠に基づく補完的アプローチ – 話題の食品・成分を検証する

「民間療法」という言葉には、科学的根拠が明確でないものが多く含まれます。そこで本記事では、その概念を「科学的根拠が研究されている補完的アプローチ」と再定義し、信頼性のある情報のみを厳選して紹介します。特に日本では、国の審査を経て特定の健康効果を表示できる「特定保健用食品(トクホ)」や、事業者の責任で科学的根拠を届け出る「機能性表示食品」といった制度が存在します。これらの食品成分について、どのような研究が行われているかを知ることは、玉石混交の情報の中から賢い選択をする上で非常に役立ちます。

3.1. GABA(γ-アミノ酪酸)

GABA(ギャバ)は、アミノ酸の一種で、神経伝達物質として体内に存在します。食品成分としてのGABAには、血圧が高めの方の血圧を下げる機能があることが、複数の質の高い研究(システマティックレビューやメタ解析)によって報告されています3233。この科学的根拠に基づき、日本では多くのGABA含有製品が機能性表示食品として販売されています。

3.2. 緑茶(カテキン)

緑茶に含まれるポリフェノールの一種であるカテキンには、血圧の上昇を抑制する効果がある可能性が研究で示されています34。特に、メチル化カテキンを豊富に含む「べにふうき」という品種の緑茶を用いたヒト介入試験では、正常高値血圧の被験者が8週間連続して飲用した結果、収縮期血圧が有意に低下したという報告が農研機構から発表されています35

3.3. 食酢(酢酸)

食酢の主成分である酢酸にも、血圧を穏やかに下げる作用が報告されています。あるヒトを対象とした臨床試験では、血圧が高めの方が毎日約15mL(大さじ1杯)の食酢を継続的に摂取したところ、収縮期・拡張期血圧ともに有意に低下したことが示されました3637。この作用は、酢酸が体内でアデノシンという血管拡張物質の生成を促すことによるものと考えられています38

3.4. 胡麻ペプチド(特定保健用食品)

胡麻ペプチドは、胡麻のたんぱく質を分解して得られる成分です。この成分は、体内で血圧を上昇させる酵素(アンジオテンシン変換酵素、ACE)の働きを阻害することで、血圧を下げる効果を発揮します39。その有効性と安全性は国によって評価されており、消費者庁から「血圧が高めの方に適した食品」として特定保健用食品(トクホ)の許可を得ています40。これは、紹介する成分の中でも特に信頼性の高い科学的根拠を持つものの一つです。

3.5. その他の注目成分:ココア(カカオフラバノール)、トマトジュースなど

その他にも、血圧に対して良い影響が報告されている成分があります。例えば、ココアに含まれるカカオフラバノールは、血管内皮機能を改善し血圧を低下させる可能性が研究で示唆されています41。また、GABAやリコピンを豊富に含むトマトジュースの摂取が、血圧を改善したという研究報告もあります42。これらの成分も、バランスの取れた食生活の一部として取り入れることが推奨されます。

第4部:日常生活での実践的管理法と注意点

生活習慣の修正と並行して、日々の暮らしの中で血圧を適切に管理し、リスクを避けるための実践的な方法を知ることが重要です。

4.1. 家庭血圧測定のすすめ:正しい測り方と記録の重要性

診察室での血圧は正常でも、家庭で測ると高い「仮面高血圧」や、その逆の「白衣高血圧」を見つけるためには、家庭での血圧測定が不可欠です13。家庭血圧は、普段のリラックスした状態での血圧を反映するため、治療方針を決める上で非常に重要な情報となります。国立循環器病研究センターやJSHは、以下の正しい方法での測定を推奨しています617

  • 測定のタイミング: 朝と夜の2回。朝は起床後1時間以内で、排尿後、朝食や降圧薬を飲む前。夜は就寝前。
  • 測定時の環境と姿勢: 静かで適温な部屋で、椅子に座り、1〜2分間安静にしてから測定します。腕帯(カフ)は、腕の力を抜き、心臓の高さに巻きます。
  • 記録の習慣: 測定した全ての血圧値と脈拍数を、日付・時刻とともに血圧手帳などに記録します。この記録は、診察時に医師に見せることで、最適な治療法の選択に役立ちます。

4.2. 高齢者のための注意点

日本の高血圧患者の多くは高齢者であり、特別な配慮が必要です。75歳以上の高齢者では、血圧を下げすぎること(過降圧)により、めまいやふらつき、転倒のリスクが高まることがあります643。そのため、降圧目標も若年者より少し緩やかに設定されています。急激な血圧変動を避けることが重要です。

特に注意したいのが、冬場の入浴時に起こる「ヒートショック」です。寒い脱衣所と熱い浴室との急激な温度差により血圧が大きく変動し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすことがあります。対策として、脱衣所や浴室をあらかじめ暖めておく、湯温は40℃程度のぬるめにする、長湯を避けるといった工夫が有効です6

4.3. ストレス管理:リラクゼーションの科学

精神的なストレスは、体を緊張状態にする交感神経を活性化させ、一時的および慢性的に血圧を上昇させる一因となります1944。リラックスできる時間を持つことは、心身の健康だけでなく血圧管理にもつながります。ヨガや瞑想、深呼吸といったリラクゼーション法が、心身をリラックスさせる副交感神経を優位にし、血圧を低下させる効果があることが、複数の研究レビューやメタ解析で示されています4546

4.4. 薬物療法との付き合い方

生活習慣の修正を最大限行っても血圧が目標値まで下がらない場合や、心血管疾患のリスクが非常に高い場合には、降圧薬による薬物療法が開始されます20。薬を飲み始めると、多くの場合、生涯にわたって継続する必要があります。自己判断で薬の量を減らしたり、中断したりすることは、血圧の急激な上昇(リバウンド)を招き、非常に危険です6。血圧が下がっているのは、薬によってコントロールされている状態であり、病気が治ったわけではないことを正しく理解し、必ず医師の指示に従ってください。

よくある質問

Q1: 血圧の薬は一度飲み始めたら、一生やめられないのですか?

A: 必ずしもそうとは限りません。減塩や減量といった生活習慣の改善が非常にうまくいき、血圧が長期間にわたって安定した場合、医師の慎重な判断のもとで薬を減らしたり、中止したりできる可能性はあります。しかし、これは例外的なケースであり、自己判断での中止は血圧の急上昇を招き極めて危険です。治療方針の変更は、必ず主治医と十分に相談の上で行ってください6

Q2: すぐに血圧を下げる即効性のある方法はありますか?

A: まず、収縮期血圧が180mmHg以上など、危機的な高血圧状態で頭痛やめまいなどの症状がある場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります4。そのような緊急事態以外で、「即効性」を謳う方法に科学的根拠が確立されたものはほとんどありません。深呼吸や静かな環境での休息は一時的に血圧を数mmHg下げることはありますが、持続的な管理のためには、本記事で解説した減塩や運動といった地道な生活習慣の改善が最も確実で重要な方法です。

Q3: 腎臓が悪いのですが、カリウムを多く含む野菜や果物を摂っても大丈夫ですか?

A: いいえ、これは非常に重要な注意点です。腎臓の機能が低下している方(慢性腎臓病など)は、カリウムを尿中に十分に排泄できず、血液中のカリウム濃度が異常に高くなる「高カリウム血症」を引き起こす危険があります47。高カリウム血症は、不整脈や心停止に至ることもある重篤な状態です。腎機能に問題があると指摘されている方は、カリウムを多く含む食品(生野菜、果物、いも類など)の摂取について、自己判断で増やすことは絶対に避けてください。食事療法については、必ず主治医や管理栄養士の専門的な指導に従う必要があります。

結論

高血圧の管理は、短距離走ではなく、生涯にわたるマラソンのようなものです。本記事では、日本高血圧学会をはじめとする国内外の権威ある機関の科学的根拠に基づき、日々の生活で実践できる具体的な方法を網羅的に解説しました。重要なのは、単一の方法に頼るのではなく、「減塩」「運動」「体重管理」といった複数のアプローチを組み合わせ、それを粘り強く継続することです。また、世界の基準がより早期からの介入へと向かっている現状を知り、ご自身の血圧レベルに対する意識を高めることも大切です。この記事で得た知識を武器に、ぜひ主治医と良好なパートナーシップを築き、ご自身に合った最適な管理法を見つけてください。そして、その第一歩として、今日から家庭で血圧を正しく測定し、記録することから始めてみませんか。それが、未来の健康を守るための最も確実な投資となるでしょう。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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  41. MediAge. 血圧を下げる飲み物はある?血圧が気になる方におすすめの飲み物6選!. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://mediage.lotte.co.jp/post/0006
  42. CureApp. 血圧を下げる可能性が報告されている5つの飲み物. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://cureapp.co.jp/productsite/ht/media/tips/drink.html
  43. 日本老年医学会. かかりつけ医のための 適正処方の手引き. 2021. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20211213_02_01.pdf
  44. Pro Doctors. ストレスと血圧の科学的関係:神経生理学的メカニズムとエビデンスに基づく対策. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://med-pro.jp/media/htn/?p=85
  45. GIGAZINE. 瞑想やヨガは血圧を下げ肉体的にもストレスを減らしていることが研究で示される. 2018. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://gigazine.net/news/20180823-meditation-affects-brain-stress/
  46. 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』. と 慢性疾患患者さんのための ヨガ利用ガイド. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.ejim.mhlw.go.jp/doc/pdf/y03.pdf
  47. 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会. 高血圧治療ガイドライン2019. 東京: ライフサイエンス出版; 2019. p.66. (カリウム摂取に関する注意喚起は、腎機能低下者に対する禁忌として記載されています。)
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