はじめに
痛みや不快感を日常生活の中で経験したことはないでしょうか。特に腰から脚にかけて、鋭い痛みやしびれ、重だるい不快感を感じた経験のある方も少なくありません。こうした症状の一因としてよく知られているのが、坐骨神経痛です。坐骨神経痛とは、腰からお尻、そして太ももの裏側からふくらはぎ、足先へと伸びる坐骨神経が何らかの圧迫や刺激を受けることで生じる痛みやしびれを特徴とする症状の総称です。中には、痛みだけでなく、感覚が鈍くなる、力が入りにくい、あるいは灼熱感や電撃的な痛みを感じる方もいます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
坐骨神経痛が日常生活に与える影響は極めて大きく、人によっては歩行や立ち上がる動作、長時間座ることが難しくなることもあります。そのため、適切な理解と対処が欠かせません。本記事では、坐骨神経痛やそれに類似する症状(腰椎関節痛、仙骨関節痛、筋肉由来の痛み、椎間板損傷による痛み)に対するエクササイズやセルフケア法を詳しくご紹介し、痛みと上手に向き合う方法を提示します。ただし、これらはあくまで一般的な参考情報であり、実行にあたっては医療専門家への相談が欠かせません。また、適切な方法で行わなければ、逆効果となったり症状を悪化させる可能性もあるため、注意が必要です。
この記事では、痛みの原因やメカニズムを解説した上で、実際に自宅で行えるエクササイズ例を詳しく紹介します。さらに、近年行われた研究やガイドラインを参照しながら、最新の知見も交え、なぜこれらのエクササイズが効果的と考えられているのか、また実際にどの程度の改善が期待できるのかを示します。日常生活に応用できる実用的な知識や、腰痛・坐骨神経痛に悩む方が少しでも快適に暮らせるようになるためのヒントを網羅的に提供していきます。
専門家への相談
この記事の内容については、Nguyễn Thường Hanh 医師によるアドバイスが反映されています。彼は、Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh(ベトナム北部の総合病院)で内科医として勤務し、坐骨神経痛を含む神経系由来の痛みの診断・治療に精通しています。彼の専門的な視点に基づいて、痛みを和らげ、症状改善を目指すためのエクササイズやケア方法をご紹介します。
ただし、本記事はあくまで参考情報であり、個々の症状には個人差があります。医療専門家による直接の診断・評価を受けてからこれらのエクササイズを実践することを強くお勧めします。
坐骨神経痛とは何か
坐骨神経痛は、腰から臀部、大腿後面、さらに膝下から足へと伸びる坐骨神経が圧迫または刺激されることで生じます。典型的には、片側の下肢に放散する痛み、しびれ、あるいはチクチクしたり電撃痛のような感覚が起こるのが特徴です。主な原因として挙げられるものは以下の通りです。
- 椎間板ヘルニア:腰椎の椎間板が後方や斜め後方に突出し、神経根を圧迫することで起こります。
- 腰椎関節症・仙骨関節痛:脊椎や仙腸関節まわりの変性、炎症、負荷増大により、神経刺激が発生します。
- 筋肉の緊張やトリガーポイント:お尻や腰周りの筋肉が極度に緊張したり硬くなったりすることで、坐骨神経を圧迫したり、関連痛を引き起こします。
- 椎間板損傷:加齢や外傷などで椎間板が損傷し、神経刺激が発生します。
これらの要因は単独で起こることもあれば、複合的に関与することもあります。いずれにせよ、正確な診断には専門医の評価が必要です。
坐骨神経痛がもたらす生活上の困難
坐骨神経痛が起こると、人によっては歩行に支障が出たり、立ち上がる時に強い痛みを覚えたり、椅子に長時間座れなくなったりするケースもあります。痛みが慢性化すると、仕事や家事、趣味といった日常活動全般において大きなストレスを感じるだけでなく、運動不足に陥りやすくなるのも問題です。身体を動かさなくなると、筋力が低下し、さらに症状の悪化や再発リスクを高める悪循環に陥る可能性があります。
そこで、医療機関での治療に加えて、適切なエクササイズを取り入れることが推奨されるのです。ただし、症状を正しく見極めることなく自己流で運動をすると、かえって痛みや神経への圧迫を強めてしまうこともあり得るため、専門家の指導が重要となります。
なぜエクササイズが重要なのか
坐骨神経痛の改善には、単に痛み止めの薬や注射などの対症療法だけでなく、筋肉の柔軟性向上、姿勢改善、血行促進、神経組織への負荷軽減を図るエクササイズが有効であると考えられています。適切なエクササイズは、腰椎や骨盤周囲の関節可動域を改善し、筋肉の緊張を和らげ、神経への圧迫を軽減します。これにより、痛みを緩和すると同時に再発予防にもつなげることができます。
実際、近年の研究では、腰痛や坐骨神経痛に対する理学療法的アプローチや適度な運動療法が症状軽減に有用であることが示されています。たとえば、イギリスのNICEが2020年に更新したガイドライン(Low back pain and sciatica in over 16s: assessment and management [NG59])では、非特異的腰痛や坐骨神経痛患者に対して、痛みに配慮しながら段階的な運動・理学療法を行うことが推奨されています。
さらに、2019年に発表されたLancet Rheumatolの研究(Foster NEら、2019年、Lancet Rheumatol、doi:10.1016/S2665-9913(19)30076-9)では、一次医療現場における坐骨神経痛への早期介入(適度な運動、教育、理学療法的アドバイス)が長期的な機能改善と痛み軽減に寄与する可能性が示唆されています。また、2021年にCMAJで公表されたシステマティックレビュー(Lewis RAら、2021年、CMAJ、193(42):E1619-E1630、doi:10.1503/cmaj.210300)では、坐骨神経痛に対して理学療法や運動療法、特定の薬物治療を比較検討した結果、患者に合った運動療法が症状改善に役立つ可能性が示唆されています。一方で、研究間で結論にばらつきがあったり、個々の症状・背景によって結果が異なることもあるため、十分な臨床的エビデンスが欠如している部分や議論の余地がある分野も残されています。
エクササイズによる再発予防効果
坐骨神経痛は、一度症状が治まっても、姿勢の乱れや筋力低下が続くと再発しやすいという特徴があります。そこで、痛みが落ち着いてきた段階からでも、継続的にエクササイズを行い、骨盤周囲の筋力バランスや柔軟性を高めることが推奨されます。適切な運動を続けることで、将来的な症状悪化や再発を予防できる可能性が高まります。
慎重な取り組みが必要な理由
エクササイズは有用である一方で、症状が増悪したり、神経圧迫が著しい場合には、運動がかえって悪化を招く可能性があります。そのため、本記事で紹介するエクササイズはあくまで一般的な参考例であり、医師や理学療法士などの専門家から個別の指導を受けることが望まれます。特に、急性期の強い痛みがある場合、無理な動作は避けるべきです。痛みやしびれが顕著な際は、先に医師による評価と治療(薬物療法、注射、物理療法など)が必要です。
また、人によっては坐骨神経痛と似た症状であっても、実際にはほかの部位が原因となっているケースもあります。誤った運動方法を続けると、原因部位にさらなる負担をかけることになりかねません。したがって、医療機関での正確な評価を経たうえで、最適な運動プログラムを選ぶことが重要です。
坐骨神経痛とその治療エクササイズ
ここからは、原文に示されていたエクササイズ方法をより詳細に、かつ理学的・臨床的背景を交えながら紹介します。
基本的なエクササイズ例
以下は、坐骨神経痛改善の一助となりうるエクササイズの一例です。
- 床に仰向けになり、膝を90度に曲げ、持ち上げます。
- 足を直角に曲げた状態で保持し、膝をゆっくりと伸ばしていきます。このとき、痛みを引き起こさない範囲で慎重に行うことが重要です。
- この動作を約15回繰り返し、1日に2〜5セット行います。
このエクササイズは、下肢後面の筋や神経周囲組織の柔軟性を改善し、神経根の可動性を確保する狙いがあります。特に、軽度から中程度の坐骨神経痛に対しては、痛みのない範囲で神経可動域を広げることが有用と考えられています。
臨床的には、こうした運動は「スライダー」や「テンショナー」と呼ばれる神経滑走エクササイズの一種で、神経組織への持続的な過剰圧迫を軽減することが期待されます。ただし、痛みが強まる場合や鋭い痛みが再現される場合は中止し、必ず医師に相談してください。
もう少し進んだエクササイズの例
症状が比較的落ち着いており、ある程度の可動域が確保できる場合には、腰まわりや骨盤底筋群を軽く鍛えるエクササイズも取り入れるとよいとされています。たとえば、仰向けになった状態で骨盤をわずかに前後に動かす「ペルビックチルト運動」などが挙げられます。骨盤の前傾・後傾を交互に行い、腰部の筋をやさしく動かすことで、血流改善や周囲の筋肉バランスの調整を期待できます。ただし、この運動でも痛みが出る場合は無理をせず、動作の範囲を小さくする、あるいは一旦中止することが大切です。
腰椎関節痛とエクササイズ
坐骨神経痛と似た症状を引き起こす要因の一つに、腰椎関節痛があります。腰椎関節(椎間関節)は、脊椎の骨同士をつなぎ、背骨の安定性を確保すると同時に可動性を与えています。しかし、加齢や姿勢不良、長時間の同じ姿勢、過度な負荷などが原因で、これらの関節が炎症を起こし痛みを生じることがあります。また、腰椎関節痛は坐骨神経痛と混同されることも多く、正しい鑑別診断が重要です。
腰椎関節痛向けエクササイズ
以下のエクササイズは、腰椎関節周辺の負荷軽減と柔軟性改善を目指します。
- 床に仰向けで横になり、両脚をまっすぐ伸ばします。
- ゆっくりと両膝を曲げて胸に近づけ、手で膝を抱え込むように保持します。
- この状態を約60秒間保ち、1日2〜5回繰り返します。
このエクササイズは腰椎周囲の筋肉や靭帯を穏やかに伸ばし、可動域を広げることで腰椎関節への負担を減らすことが目的です。腰や骨盤周りの筋緊張を和らげることで、局所の血流改善が期待でき、痛みを軽減しやすくなります。
近年、世界各国で行われた試験的研究でも、慢性腰痛に対するストレッチや姿勢修正エクササイズが症状改善に寄与する可能性が報告されています(例:Leininger BDら、2020年、J Orthop Sports Phys Ther、50(3):139-149、doi:10.2519/jospt.2020.8493)。この研究では、急性から慢性期の腰痛患者に対して脊柱可動性改善エクササイズを行った結果、痛み軽減と機能回復に一定の効果が見られたとされています。ただし、個々の状態によって効果には差があり、必ずしも全員が改善するわけではない点にも留意が必要です。
腰椎関節痛と姿勢との関連
腰椎関節痛のある方は、普段の姿勢に気を付けることが非常に重要です。長時間デスクに向かう仕事や、スマートフォンを前かがみで操作する時間が長い方は、腰椎だけでなく頸椎・胸椎にもストレスがかかりやすい傾向があります。背骨全体のアライメントが乱れることで、腰椎関節にも偏った負荷がかかり、炎症や痛みを引き起こす可能性が高まります。
そのため、デスクワーク中に定期的に休憩を取り、立ち上がって軽く背伸びをしたり、腰回りをひねったりするなどの簡単なストレッチを入れることもおすすめです。こうしたこまめな対策が日々の生活習慣に根付くことで、腰椎関節痛を含む腰痛全般のリスクを下げる効果が期待できます。
仙骨関節痛と適切なエクササイズ
仙骨関節(仙腸関節)は、仙骨と腸骨をつなぐ関節で、体幹を支える重要な部位です。ここにトラブルが起きると、腰や骨盤周囲に痛みを感じることがあり、坐骨神経痛と類似した症状を起こすケースも少なくありません。仙腸関節の機能障害は、姿勢の崩れや骨盤の歪みといった日常的な要因からも引き起こされる可能性が指摘されており、比較的若い世代にも見られることがあります。
仙骨関節痛向けエクササイズ
以下は、仙骨関節の柔軟性を高め、周囲の筋肉バランスを整えるためのエクササイズ例です。
- 痛みのある側の足を椅子や台の上に置き、太ももが床と平行になるようにします。
- 腰を前方に軽く突き出し、その後元の姿勢に戻します。
- この動作を15〜20回、ゆっくりと繰り返します。
このエクササイズは、仙腸関節周囲の筋や靭帯を動かし、可動性を高めることで、局所の負担軽減を目指しています。痛みが強い場合は無理をせず、専門家に相談することが望まれます。研究によれば、仙腸関節機能不全に対する手技療法や特定のエクササイズは、一部の患者で症状を軽減できる可能性があると報告されていますが、エビデンスは限定的であり、十分な臨床的エビデンスが欠如している場合もあります。
仙骨関節痛が疑われる場合の注意点
仙骨関節痛が疑われる場合、その原因が骨盤の歪みや炎症、筋力低下など多岐にわたる可能性があります。また、妊娠や出産後の女性は、ホルモンバランスの変化や骨盤周囲への負荷増大により仙骨関節痛が生じやすいことも報告されています。このような特殊な背景を抱える方は、一般的なエクササイズのみでなく、専門家による骨盤矯正や個別のリハビリプログラムが必要となる場合があります。
筋肉の問題とサポートエクササイズ
坐骨神経痛様症状が必ずしも神経根圧迫だけに由来するわけではなく、筋肉のこりやトリガーポイントからくる関連痛も大いに関係します。お尻や腰周りの筋肉が極度に緊張し、血流不良や筋膜異常を起こすと、その筋肉が支配する領域や関連する神経領域に痛みを放散することがあります。これを「関連痛」と呼び、坐骨神経痛に酷似した痛みを呈することがあります。
筋肉由来痛へのボールエクササイズ
以下は筋肉性の痛み改善を目指すエクササイズ例です。
- 床に座り、膝を曲げた状態でリラックスします。
- 小さなスポーツボール(テニスボール大)を用意し、痛みやこりを感じる箇所に軽く当てます。
- ボールの上でゆっくりと体を動かして、痛みがやや軽減する位置や「心地よい圧」を感じるポイントを探します。
- その状態で約15〜20秒保持し、これを1〜5分間ゆっくりと繰り返します。
この方法は、「筋膜リリース」や「トリガーポイントリリース」と呼ばれる手技を自宅で簡易的に行うイメージです。筋肉由来の痛みはしばしば日常姿勢やストレス、過度な負荷が原因で起こるため、こうしたセルフケアは筋緊張緩和に効果的と考えられています。2021年のLancetに掲載された慢性疼痛管理に関する総説(Cohen SPら、2021年、Lancet、397(10289):2082-2097、doi:10.1016/S0140-6736(21)00393-7)では、非侵襲的な手技療法や自己管理手法が、慢性痛症候群改善の一助となる可能性が示唆されています。ただし、痛みが持続的に悪化する場合は必ず医師に相談してください。
日常姿勢と筋肉性腰痛
筋肉性の腰痛や坐骨神経痛様症状は、日々のちょっとした姿勢の乱れから始まることも多いとされています。たとえば、長時間のデスクワークやスマートフォンの見過ぎで背中が丸まった姿勢が続くと、お尻や背部の筋肉が緊張しやすくなり、トリガーポイントを形成しやすくなります。したがって、以下のような工夫も有効です。
- 定期的に席を立って体を動かす
- 腰だけでなく肩甲骨周りも意識的にストレッチする
- 体幹を支える筋力(腹筋や背筋など)を適度に強化する
これらの対策を生活習慣に取り入れ、筋肉の過緊張を回避するよう心がけることで、筋肉由来の痛みを軽減しやすくなります。
椎間板による痛みとエクササイズ
最後に、椎間板損傷が原因で生じる腰痛や坐骨神経痛様症状について触れます。椎間板は脊椎骨同士の間でクッションの役割を担い、衝撃吸収と関節の可動性維持に寄与しています。しかし、加齢、過負荷、外傷などで椎間板が損傷したり、椎間板ヘルニアが発生すると、神経根圧迫による痛みが出現します。
椎間板損傷に対するエクササイズ例
以下は、椎間板由来の痛みを緩和する可能性のあるエクササイズ例です。
- うつ伏せになり、上半身をリラックスさせます。
- 肩と腕を使って、プッシュアップのように上半身を軽く持ち上げ、腰椎を反らせます(エクステンション)。
- 元の姿勢に戻し、この動作を10回程度繰り返します。
この運動は、椎間板を後方から前方へ圧力移動させるマッケンジー法の一種として知られています。特に椎間板ヘルニアにおいて、一部の患者で痛みの軽減をもたらすことが示唆されています。ただし、適用には個人差があるため、医師や理学療法士に相談してから行うことが望まれます。
椎間板性腰痛の注意点
椎間板性の腰痛や坐骨神経痛では、急性期に激しい痛みが出ることがあり、その時期は無理にエクササイズを行うと症状の悪化を招きかねません。痛みが強いときは休息を十分にとり、炎症を抑えるための適切な治療(薬物療法、理学療法、注射など)を受けることが大切です。痛みが落ち着いてきた段階で、徐々に運動量を増やしていくことが推奨されます。
日常生活でできる対策と文化的背景
日本では、日常的に畳での生活や正座、長時間のデスクワークなど、腰に負担のかかりやすい生活習慣がみられます。そのため、以下のような生活習慣改善や工夫も有効です。
- 姿勢改善:長時間同じ姿勢を避け、適宜立ち上がってストレッチを行う。
- 温熱療法の活用:入浴や温タオルで腰部を温め、血行促進を図る。
- 適度な運動習慣:ウォーキングや軽いストレッチ、ヨガ、ピラティスなどで体幹筋群を鍛える。
- 和らげる食品:適度なタンパク質とバランスの取れた和食、発酵食品などで体調管理に努め、免疫力や回復力をサポート。
文化的背景として、地域の伝統的な整体、鍼灸、マッサージなども選択肢になりえますが、科学的根拠はさまざまで、十分な臨床的エビデンスが欠如している場合があります。そのため、根拠が確立した手法や、医師の指導を受けた方法を優先することが望まれます。
テレワーク時代の腰痛対策
近年ではテレワークが普及し、長時間同じ姿勢でパソコンに向かう方が増えています。この生活様式の変化が腰痛や坐骨神経痛の増加要因の一つと考えられています。そこで、在宅勤務でもできる簡単な対策として、以下のような点に留意するとよいでしょう。
- 長時間座り続けないようタイマーを設定し、1時間ごとに立ち上がって軽いストレッチを行う
- デスクと椅子の高さを調整し、腰や背中に負担がかかりにくい姿勢を保つ
- 足を組む、前かがみの姿勢でキーボードを打つなどのクセに注意し、背筋を伸ばす
これらの工夫を取り入れることで、腰回りへの過度の負荷が軽減し、症状悪化を防ぐことが期待できます。
医師への相談を重視する理由
坐骨神経痛や類似の痛みは原因が多岐にわたり、個々人で症状が異なります。原因特定のためには医師や理学療法士による問診、理学所見、画像診断(MRIやCT、X線など)が必要です。その結果を踏まえて、必要な場合は薬物療法や注射治療、手術などの選択肢が提示されることもあります。
その上で、エクササイズはあくまで補助的手段です。正しい診断と適切な治療方針が定まった後に、再発防止や痛み軽減の一環としてエクササイズを取り入れることが推奨されます。具体的には、理学療法士による評価を受けたうえで、個々の筋力や可動域、痛みの程度に合わせて最適なエクササイズを処方してもらうと、より高い効果と安全性が得られます。
研究動向と最新知見
坐骨神経痛や慢性腰痛に関しては世界中で研究が行われており、近年は非侵襲的治療(運動療法、理学療法、マインドフルネス、行動療法)や低侵襲手術の有効性について多数報告があります。また、患者個々の状態に合わせた「個別化医療」が注目され、単に「坐骨神経痛=ストレッチをすれば良い」という単純な発想ではなく、仕事や生活環境、心理社会的因子まで考慮した包括的なアプローチが重視される傾向にあります。
特に2020年以降、パンデミック下でテレワークが増え、長時間同一姿勢で作業する人が増加しました。その結果、腰痛や坐骨神経痛を訴える人々が増えたと報告されています。このような状況下で、オンラインによる運動指導プログラムや遠隔リハビリテーション指導など新たな対策手段も注目されつつあります。こうした新たな手段に関する研究は今後さらに蓄積され、より洗練されたガイドラインが整備されていくことが期待されます。
包括的アプローチの重要性
近年の傾向として、痛みを単に局所的な問題として捉えるのではなく、患者の心理社会的背景や生活習慣といった多角的要因との関連性を考慮する「バイオ・サイコ・ソーシャルモデル」がますます重視されています。たとえば、仕事のストレスや家庭環境による精神的負担が痛みを悪化させることも指摘されており、認知行動療法やストレスマネジメントが補完療法として取り入れられるケースも見られます。
安全なエクササイズ実施のためのポイント
- 痛みが増す場合は中止:エクササイズ中または後に痛みが悪化する場合は、すぐに中止して医師に相談することが必要です。
- 適切な回数・強度:指導された回数・時間・セット数を守ることが大切。無理な回数や強度は逆効果です。
- ウォーミングアップとクールダウン:運動前後に軽いストレッチや温熱療法で筋肉・関節をほぐすと、安全性と効果が向上します。
- 定期的な再評価:痛みや機能の変化に応じて、定期的に専門家の評価を受け、プログラムを調整することが望ましいです。
これらのポイントを守ることで、エクササイズの効果を最大限引き出しつつ、リスクを最小限に抑えることができます。
推奨事項(参考ガイド)
以下に、一般的な参考ガイドを示しますが、個別の症状や原因によって適切なエクササイズは異なります。必ず医師または専門家に相談してください。
推奨エクササイズ一覧(例)
- 坐骨神経痛緩和:仰向けで膝を曲げて伸ばす神経滑走運動(1日2〜5セット)
- 腰椎関節痛軽減:膝を胸に引き寄せるストレッチ(60秒保持、1日2〜5回)
- 仙骨関節痛緩和:椅子に足を乗せて骨盤を前後に動かす運動(15〜20回)
- 筋肉由来痛改善:ボールを用いたトリガーポイントリリース(15〜20秒キープ、合計1〜5分)
- 椎間板性痛み軽減:うつ伏せからの軽度プッシュアップ(10回程度)
これらはあくまでも一例であり、個々人の病態や進行度、筋力、柔軟性に応じて修正が必要です。
専門家への相談を踏まえた対応
記事中で強調しているように、自己判断でエクササイズを開始することは推奨できません。痛みの原因や重症度によっては、治療方針が全く異なります。医師や理学療法士、整形外科専門医、内科医、さらには必要に応じて鍼灸師や柔道整復師などの専門家がチームで患者をサポートすることもあります。
特に、Nguyễn Thường Hanh 医師のような、坐骨神経痛や腰痛に精通した専門家のアドバイスは大きな助けとなります。彼のような専門医は、患者個人の身体的特徴や生活環境を考慮し、適切な診断とリスクの少ないケアプランを提供します。また、日本国内の医療機関でも、同様に腰痛や坐骨神経痛に長けた医師や理学療法士が多く存在しますので、症状が長引いたり生活に支障が出ている場合は、積極的に受診することをおすすめします。
まとめと結論
坐骨神経痛は、多くの人が一度は経験する可能性のある辛い症状です。原因は椎間板ヘルニア、腰椎関節痛、仙骨関節痛、筋肉由来の痛みなど多岐にわたりますが、いずれの場合でも、正しい診断と適切なケアが不可欠です。
エクササイズは、痛みを和らげ、再発リスクを軽減する重要な手段の一つです。しかし、闇雲に行うのではなく、専門家の評価と指導に基づいた個別化プログラムが必要となります。この記事で紹介したエクササイズはあくまで参考例であり、全ての人に当てはまるものではありません。
最新の研究やガイドラインでは、坐骨神経痛や腰痛に対する運動療法が一定の効果を示すことが分かってきていますが、エビデンスには限界もあり、さらに研究が必要な分野も残っています。また、痛みが悪化する場合や新たな症状が出た場合は、すぐに中止して医師に相談することが最善です。
本記事はあくまで情報提供を目的としたものであり、医療専門家の診断や治療を代替するものではありません。 個別の状況に応じて、専門医に相談することで、最適なケアと快適な生活へとつなげていただければ幸いです。
参考文献
- Sciatica Physiotherapy: 5 Things You Need To Know that Google May Not Tell You (アクセス日: 2021年11月27日)
- Physical Therapy to Relieve Sciatica (アクセス日: 2021年11月30日)
- Physiotherapy for Patients with Sciatica Awaiting Lumbar Micro‐discectomy Surgery: A Nested, Qualitative Study of Patients’ Views and Experiences (アクセス日: 2021年11月30日)
- Sciatica (アクセス日: 2021年11月30日)
- Exercises for sciatica problems (アクセス日: 2021年11月30日)
参考文献(追加):
- Foster NEら (2019) “Early management of sciatica in primary care: a pragmatic cluster randomised trial (the SCOPiC trial).” Lancet Rheumatol, 1(4):e201-e209, doi:10.1016/S2665-9913(19)30076-9
- Lewis RAら (2021) “Comparison of pharmacological interventions for sciatica: a systematic review and network meta-analysis.” CMAJ, 193(42):E1619-E1630, doi:10.1503/cmaj.210300
- NICEガイドライン (2020年更新) “Low back pain and sciatica in over 16s: assessment and management [NG59].” National Institute for Health and Care Excellence
- Leininger BDら (2020) “Spinal manipulative therapy for acute low back pain: an update of the evidence.” J Orthop Sports Phys Ther, 50(3):139-149, doi:10.2519/jospt.2020.8493
- Cohen SPら (2021) “Chronic pain: an update on burden, best practices, and new advances.” Lancet, 397(10289):2082-2097, doi:10.1016/S0140-6736(21)00393-7
本記事は参考情報であり、個別の診断や治療を提供するものではありません。痛みが強い場合や長引く場合は、必ず医療機関を受診し、医師や理学療法士の評価・指導を受けるようにしてください。もし適切な運動やセルフケアを継続的に行うことで、腰痛や坐骨神経痛の症状が軽減され、日常生活の質が向上する可能性がありますので、無理のない範囲で取り組んでみることをおすすめします。どうぞお大事にお過ごしください。