【科学的根拠に基づく】正常な外陰部とは?形・色・大きさの多様性を科学データで徹底解説
女性の健康

【科学的根拠に基づく】正常な外陰部とは?形・色・大きさの多様性を科学データで徹底解説

多くの女性が自身の身体、特にデリケートな外陰部について、疑問や不安を抱くことがあります。「私の形は普通なのだろうか?」「この色は大丈夫?」「年齢とともに変化してきたけれど、これは正常?」といった問いは、非常に個人的でありながら、多くの人が共有するものです10, 36, 45。しかし、これらの疑問に対する正確で信頼できる情報を見つけることは、しばしば困難を伴います。本稿は、産婦人科医や医学研究者の専門的知見に基づき、女性の外陰部に関する包括的かつ詳細な情報を提供することを目的としています。解剖学的な基本構造から、科学的データに裏打ちされた「正常」の広大なスペクトラム、ライフステージに伴う自然な変化、そして医療機関を受診すべき症状の見分け方までを網羅的に解説します。この記事を通じて、あなたが自身の身体に対する正確な知識を得て、不安を解消し、生涯にわたる健康管理に自信を持つための一助となることを、JAPANESEHEALTH.ORG編集部一同、心から願っています。

この記事の要点

  • 外陰部の形、大きさ、色、対称性は人それぞれであり、「典型的な」あるいは「唯一の正しい形」は存在しません。科学的データは、その驚くほどの多様性こそが「正常」であることを示しています11
  • 一般的にメディアで描かれる外陰部のイメージは、実際には最も稀なタイプの一つであり、現実の大多数の女性の姿とは異なります19
  • 外陰部は思春期、妊娠・出産、閉経といったライフステージを通じて、ホルモンの影響を受けて変化し続けるのが自然なプロセスです20
  • かゆみ、痛み、腫れ、おりものの異常などが続く、あるいは生活に支障をきたす場合は、自己判断せず婦人科を受診することが重要です38
  • 正確な知識は、不必要な不安を和らげ、自身の身体を肯定的(ボディポジティブ)に受け入れるための最も強力なツールです。

第I部:外陰部を理解する:解剖学と機能

女性の身体に関する正確な理解は、適切な語彙から始まります。この最初のセクションでは、女性の外性器である「外陰部」を構成する各部位の名称と、それぞれが担う重要な役割について、詳細かつ明快に解説します。これは、記事全体を通じて使用される基本的な知識の土台を築くものです。

【科学的根拠に基づく】正常な外陰部とは?形・色・大きさの多様性を科学データで徹底解説

1.1. 外陰部の定義:外性器

まず最も重要な点として、一般的に「膣(vagina)」という言葉が外性器全体を指して誤用されることがありますが、医学的には明確に区別されます。膣は子宮頸部から体外へと続く筋肉質の管であり、内性器の一部です1。一方で、本稿の主題である「外陰部(がいんぶ、vulva)」とは、体外から見ることができる女性の外性器全体の総称です3。ラテン語で「覆い」や「包み」を意味する言葉に由来するように、外陰部は内部の繊細な構造を保護する役割を担っています6
この解剖学的な構造と機能を正確に理解することは、感染症や嚢胞、さらには外陰がんといった疾患の診断・治療において不可欠です6。また、出産時の会陰切開や外傷の管理、そして何よりも、女性自身が自分の身体を理解し、医療者と効果的にコミュニケーションをとるための患者教育においても、その重要性は計り知れません6

1.2. 外陰部の構成要素:詳細な解説

外陰部は、それぞれが特有の機能を持つ複数の部位から構成されています。以下にその主要な構成要素を詳述します。

恥丘(ちきゅう、Mons Pubis)

恥丘は、骨盤の前面にある恥骨結合を覆う、脂肪組織からなる柔らかい丘状の隆起です2。ラテン語では「恥骨の丘」を意味し、特に女性で顕著です7。思春期以降は陰毛で覆われるようになり、その主な機能は性交時の物理的な衝撃を和らげるクッションとしての役割です2。また、恥丘には皮脂腺が存在し、性的誘引に関与する可能性のあるフェロモンを分泌するとも考えられています6

大陰唇(だいいんしん、Labia Majora)

「大きな唇」を意味する大陰唇は、外陰部の左右の境界を形成する、皮膚の顕著なひだです6。その主な役割は、より内側にある小陰唇や陰核、尿道口、膣口といった脆弱な構造を包み込み、外部の刺激から保護することです6。大陰唇の外側面は思春期以降、陰毛が生えますが、内側面は通常、毛がありません2。性的興奮が高まると、血流が増加して充血し、腫脹したように見えます8

小陰唇(しょういんしん、Labia Minora)

「小さな唇」を意味する小陰唇は、大陰唇の内側に位置する、薄く毛のない一対の皮膚のひだです2。その前端は陰核(クリトリス)から始まり、陰核を覆う陰核包皮(いんかくほうひ)を形成します。そこから後方へ伸び、膣前庭の境界を形作ります2。小陰唇の重要な機能は、膣口や尿道口を物理的に保護し、雑菌の侵入を防ぐことです9。大陰唇と同様に、性的興奮時には血流が増加して充血します6。その大きさ、形、色は個人差が非常に大きいことが特徴です2

陰核(いんかく、Clitoris)

陰核は、男性の陰茎亀頭と発生学的に相同な器官であり、極めて敏感な女性の性器です6。その唯一知られている機能は、性的快感をもたらすことです7。体外から見える部分は「陰核亀頭(いんかくきとう)」と呼ばれ、エンドウ豆ほどの大きさですが、約8,000もの神経終末が集中しており、非常に鋭敏です6。しかし、これは陰核全体のほんの一部に過ぎません。内部には「陰核体」や一対の「陰核脚」と呼ばれる部分があり、これらは海綿体という勃起性の組織でできています。性的刺激を受けると、この海綿体に血液が流れ込んで充血・勃起し、硬くなります2
この解剖学的構造を理解する上で、相同性という概念は非常に重要です。陰核と陰茎は、胎児期に「生殖結節」と呼ばれる同じ組織から分化して形成されます6。これは、女性の性器が男性のそれの「不完全な形」なのではなく、同じ出発点から異なる発達経路をたどった、等しく完成された器官であることを示しています。この生物学的な事実は、女性の身体に対する誤った認識や不安を払拭し、自己肯定感を高める上で力強い根拠となります。

膣前庭(ちつぜんてい、Vestibule)

膣前庭は、左右の小陰唇に囲まれた菱形のスペースを指します2。この領域には、生命維持と生殖に不可欠な二つの開口部が存在します。陰核のすぐ下に尿道口(にょうどうこう、外尿道口とも)があり、そのさらに下に膣口(ちつこう、膣の入り口)があります3
また、膣前庭には潤滑液を分泌するいくつかの重要な腺が開口しています。

  • 大前庭腺(だいぜんていせん、Bartholin’s Glands): バルトリン腺とも呼ばれ、膣口の左右(時計で言うと4時と8時の位置)に存在するエンドウ豆ほどの大きさの腺です2。性的興奮時に粘液を分泌し、性交を円滑にするための潤滑を助けます2。通常は外部から見えたり触れたりすることはできません2
  • スキーン腺(Paraurethral Glands): 尿道口の左右に位置する腺で、男性の前立腺と相同な器官です2

会陰(えいん、Perineum)

会陰は、外陰部の後端(後陰唇交連)から肛門までの間の領域を指します2。この領域は、骨盤の底を支える骨盤底筋群によって支持されており、出産時には大きく伸展します7

これらの各部位は、単なるパーツの集合体ではなく、保護、排泄、性的機能という複数の役割を担う、高度に統合されたシステムを形成しています。この機能的な解剖学の知識は、自身の身体を理解するための第一歩です。

表1:外陰部の解剖学的構成要素と機能4

日本語名(漢字・読み) 英語名 解剖学的記述 主な機能
恥丘(ちきゅう) Mons Pubis 恥骨結合を覆う脂肪組織の隆起。思春期以降は陰毛で覆われる。 性交時の衝撃を和らげるクッション。フェロモン分泌。
大陰唇(だいいんしん) Labia Majora 外陰部の外側を覆う、一対の大きな皮膚のひだ。 内部の繊細な構造(小陰唇、膣口など)の保護。
小陰唇(しょういんしん) Labia Minora 大陰唇の内側にある、一対の薄い皮膚のひだ。 膣口や尿道口の保護、雑菌の侵入防止。
陰核(いんかく) Clitoris 性的快感に特化した、神経終末が豊富な勃起性組織。 性的快感の享受。
膣前庭(ちつぜんてい) Vestibule 小陰唇に囲まれた領域。尿道口と膣口が存在する。 排尿、生殖、潤滑液の分泌。
大前庭腺(バルトリン腺) Bartholin’s Gland 膣口の左右に位置する腺。 性的興奮時の潤滑液の分泌。
スキーン腺 Skene’s Gland 尿道口の左右に位置する腺。 潤滑に関与する可能性。
会陰(えいん) Perineum 外陰部の後端と肛門の間の領域。 骨盤底の支持、出産時の伸展。

第II部:「正常」のスペクトラム:解剖学的多様性を受け入れる

多くの女性が抱く「私の外陰部は正常だろうか」という不安の核心に、このセクションは真正面から向き合います。科学的なデータと研究結果を用いて、「典型的」あるいは「唯一の正しい形」という神話を解体し、健康な外陰部がいかに広範で多様なものであるかという真実を明らかにします。この知識は、不安を和らげ、自己肯定感を育むための最も強力なツールです。

2.1. 「典型的な」外陰部という神話

性教育の専門家のもとには、「色が黒ずんでいて恥ずかしい」「小陰唇が人より大きすぎるのではないか」「陰核が長くて見えてしまうのは異常?」といった、外見に関する深刻な悩みが数多く寄せられます10。こうした不安感から、陰唇を「より典型的」あるいは「正常」に見せるために、陰唇形成術(labiaplasty)と呼ばれる美容整形手術を検討する女性も少なくありません11
しかし、ここで根本的な問いが浮かび上がります。「典型的」で「正常」な外陰部とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。この問いに答えるため、イギリスの研究者たちが行った研究は、画期的な結論を導き出しました。それは、「典型的な外陰部は存在しない」というものです11。健康な女性の外陰部の外観は、驚くほど多岐にわたることが科学的に証明されたのです。美容外科医が「正常な外観」を再建できると主張することがありますが、これほど広大な自然のバリエーションを前にして、その基準は「完全に主観的」であると言わざるを得ません11
この事実は、多くの女性が抱える不安が、現実の身体の異常に基づいているのではなく、しばしば非現実的な、あるいは誤った「理想像」との比較から生まれていることを示唆しています。

2.2. 大きさと形の多様性:科学的データから見る真実

外陰部の多様性は、単なる感覚的な表現ではなく、具体的な測定データによって裏付けられています。国際的な研究と日本国内の臨床データの両方を見ることで、その普遍的な多様性がより明確になります。

国際的な研究から見る多様性の範囲

2020年に発表されたイギリスの研究では、18歳から50歳までの女性50人の外陰部が詳細に測定されました11。その結果は、あらゆる部位で驚くほど広い範囲の寸法が存在することを示しています。

  • 小陰唇の長さ: 20 mm から 100 mm まで(5倍の差)
  • 陰核体の長さ: 5 mm から 35 mm まで(7倍の差)
  • 陰核亀頭の幅: 3 mm から 10 mm まで(3倍以上の差)
  • 大陰唇の長さ: 7 mm から 12 mm まで(文献では長さとされているが、文脈から幅や厚みの可能性も考慮される)
  • 膣口の長さ: 7 mm から 13 mm まで

さらに重要な発見は、これらの寸法、外観、色が、被験者の年齢、人種、性的経験の有無、出産経験、ホルモン避妊薬の使用といった要因とは何ら関連がなかったことです11。これは、外陰部の形が個人の生活様式や経験によって「悪化」するのではなく、生まれ持った個性であることを強く示唆しています。

日本人女性に関する臨床データ

日本国内でも、外陰部の形態に関するデータ収集が進んでいます。特に注目すべきは、2021年から2022年にかけて722人の日本人女性を対象に行われた臨床研究で、これは日本におけるこの種の調査としては最大規模のものです9。この研究によると、日本人女性の小陰唇の大きさの平均値は、長さが4~5 cm、幅が1~1.5 cmでした9。他の複数の情報源も、幅の平均値を1.4 cm12, 13、1.7 cm14、1.5 cm15など、類似した数値を報告しています。
しかし、これらの研究者が一様に強調するのは、これらの数値はあくまで平均であり、個人差が非常に大きいという点です9。そして、左右が完全に対称であることはむしろ稀で、非対称であることがごく普通なのです9, 16。立った状態で大陰唇から小陰唇が少しはみ出して見えるのが一般的、と説明されることもありますが9、これもまた多様な形態の一つに過ぎません。

形のバリエーション:あなたはどのタイプ?

数字だけでなく、外観のパターンを類型化することで、多様性の理解はさらに深まります。ある分類では、以下のような様々なタイプが紹介されています17

  • 非対称な小陰唇: 片方の小陰唇がもう片方より長い、厚い、または大きい。これは非常に一般的な特徴です。
  • 突き出た小陰唇: 小陰唇が大陰唇よりも長く、外側にはみ出している。これも非常に多く見られるタイプです。
  • 突き出た大陰唇: 大陰唇がふっくらとしており、下方に垂れ下がっているように見えるタイプ。
  • 長く垂れ下がった小陰唇/大陰唇: 小陰唇や大陰唇が長く、下着の外にはみ出すこともあるタイプ。
  • 小さく閉じた大陰唇: 大陰唇が小陰唇を完全に覆い隠しているタイプ。

ここで極めて重要な点を指摘しなければなりません。アダルト系のメディアで頻繁に描かれるのは、最後の「小さく閉じた大陰唇」のタイプです。しかし、実際の調査では、このタイプは全体の中で最も少ない、つまり最も稀な形態であることが示されています17。この事実は、多くの女性が抱く「理想の形」というベンチマークが、現実の大多数の女性の姿とはかけ離れた、商業的に作られた稀なイメージに基づいている可能性を浮き彫りにします。自身の身体への不安が、歪んだメディア表現によって増幅されているという構造を理解することは、その不安から解放されるための重要な一歩です。
また、小陰唇の質感も多様です。ある研究では、完全に滑らかな皮膚を持つ女性は28%に過ぎず、大多数(68%)には多少のひだやしわがあり、4%は非常にしわが多いという結果でした11。雪の結晶に同じものがないように、一人ひとりの外陰部は唯一無二の個性を持っているのです11

2.3. 色の多様性

外陰部の色もまた、大きな不安の種となりがちです。「黒ずんでいる」という悩みは非常に多く聞かれます10。しかし、これもまた科学的な根拠のない心配であることがほとんどです。
研究によれば、外陰部が周囲の腹部や太ももの皮膚よりも暗い色をしているのは正常であり、むしろ一般的です。ある研究では、参加者の実に82%がこの特徴を持っていました11。この色の違いには、明確な生理学的な理由があります。皮膚の色素を生成するメラノサイトという細胞が、身体の他のどの部位よりも性器周辺の皮膚に高密度で存在しているためです17。口の唇が顔の他の部分より色が濃いのと同じ原理です11
外陰部の色は、肌の色に応じてピンク色や紫色、赤みがかった色から茶色や黒褐色まで、幅広いスペクトラムがあります17。さらに、性的興奮時にはその領域への血流が増加するため、一時的に陰核や小陰唇の色が濃くなるのも、完全に正常な生理反応です17

表2:「正常」のスペクトラム:臨床研究で記録された外陰部の寸法18

解剖学的特徴 測定項目 国際的研究の範囲11 日本の臨床データ(平均値)9 多様性に関する要点
小陰唇 長さ 20 – 100 mm 4 – 5 cm 非常に大きな個人差があり、5倍もの開きがある。
小陰唇 (データなし) 1 – 1.5 cm 平均値は存在するが、これも個人差が大きい。
陰核亀頭 3 – 10 mm (データなし) 3倍以上の大きさのバリエーションが確認されている。
陰核体 長さ 5 – 35 mm (データなし) 見えない部分にも7倍もの長さの違いがある。
色調 周囲より同じ色(18%)、暗い色(82%) (データなし) 周囲の皮膚より色が濃いのが一般的で正常。
対称性 左右差 (記述的評価) (記述的評価) 左右非対称が一般的であり、完全な対称性は稀。

第III部:ライフステージと外陰部:生涯を通じた変化

外陰部は静的な器官ではなく、女性の生涯を通じてホルモンの波に応じてダイナミックに変化し続ける、生きた組織です。この生理学的な変化のプロセスを理解することは、「正常」とは固定された状態ではなく、時間と共に移り変わるものであるという、より深く、しなやかな視点をもたらします。

3.1. 生涯にわたる変化の概要

外陰部と膣の形態および生理機能は、生涯を通じて特徴的な、年齢に関連した変化を遂げます20。これらの変化の主な原動力は、エストロゲンをはじめとするステロイドホルモンです8。特に、誕生、思春期、性成熟期(妊娠・出産を含む)、そして閉経という、人生の大きな転換期において、顕著な変化が観察されます20。このセクションでは、それぞれのライフステージで外陰部に何が起こるのかを時系列で追っていきます。

3.2. 誕生から思春期まで

誕生時、新生児の女児の外陰部は、母親の胎内で受けたエストロゲンの影響をまだ残しており、一時的にふっくらしていることがあります20。その後、幼児期を通じて外陰部は比較的静的な、思春期前の状態にあります。
大きな変化の波が訪れるのは思春期です。日本産科婦人科学会は、思春期を「初経が始まってから月経が安定するまでの期間」、およそ8歳から18歳頃までと定義しています19。この時期、卵巣と副腎からホルモンの分泌が活発になると、外陰部は劇的な成熟を遂げます20

  • 恥丘と大陰唇の発達: 皮下脂肪が増加し、恥丘と大陰唇がふっくらと丸みを帯びてきます19
  • 陰毛の発生: 恥丘と大陰唇の外側に陰毛が生え始めます20
  • 小陰唇の変化: 小陰唇も発達し、この時期に大きさが目立つようになることが多いです9

これらの変化はすべて、身体が妊娠・出産可能な状態へと移行していくための、正常で健康的なプロセスの一部です。

3.3. 性成熟期と妊娠

性成熟期(18歳~45歳頃)に入ると、外陰部と膣の組織は、月経周期に伴うホルモンの周期的変動に敏感に反応します20。そして、妊娠はこの時期に起こりうる最もダイナミックなイベントの一つであり、外陰部にも顕著な変化をもたらします。
妊娠中は、エストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンのレベルが劇的に上昇します。これにより、性器周辺への血流が著しく増加し、以下のような変化が引き起こされます21

  • 腫れと色の変化: 血流の増加により、外陰部全体が腫れぼったく見えたり、色が濃くなったり(暗紫色を帯びるなど)することがあります21。これは「チャドウィック徴候」として知られる妊娠の兆候の一つです。
  • 外陰部静脈瘤: 増加した血流と子宮による圧迫が原因で、外陰部に静脈瘤(血管がこぶのように膨らむ状態)ができるリスクが高まります21
  • 感染症リスクの上昇: ホルモンの変化は膣内の常在菌のバランスを変化させ、カンジダ(真菌)などによる感染症(膣カンジダ症)のリスクを高める可能性があります21

出産後の変化

経膣分娩は、外陰部の外観に永続的な変化を残すことがあります。出産時に赤ちゃんの頭が通過する際、会陰部(外陰部と肛門の間)の皮膚や組織が大きく引き伸ばされ、裂傷(会陰裂傷)が生じることがあります21。また、小陰唇が以前よりも伸びたり、形が変わったりすることもあります21。これらの変化は、出産という偉大な仕事を成し遂げた証であり、機能的な問題(排尿障害、排便障害、性機能障害など)を伴わない限り、医学的に懸念する必要のない正常な結果です21

3.4. 閉経期と閉経後:閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)

45歳頃から始まる閉経期(更年期)と、その後の閉経後の期間は、女性の身体にとって再び大きな転換期となります。卵巣機能が低下し、エストロゲンの分泌が急激に減少することで、外陰部と膣には「萎縮(いしゅく)」と呼ばれる一連の変化が生じます20
かつては「萎縮性膣炎」と呼ばれていましたが、この変化が膣だけでなく外陰部や尿路系にも及ぶ広範なものであることから、現在では「閉経関連泌尿生殖器症候群(Genitourinary Syndrome of Menopause: GSM)」という、より包括的な医学用語で呼ばれています22。このGSMという概念の確立は、かつては「年のせい」と片付けられがちだった様々な不快な症状が、ホルモン低下に起因する一つの治療可能な医学的症候群であるという認識を広めました。これにより、多くの女性が自身の症状を正しく理解し、適切な治療を求める道が開かれました。
GSMに伴う具体的な変化は以下の通りです。

  • 組織の萎縮: エストロゲンの保護作用が失われることで、外陰部と膣の組織は薄く、乾燥し、弾力性を失い、傷つきやすくなります1。大陰唇の脂肪組織も減少し、ふっくら感が失われることがあります23, 24
  • 乾燥と不快症状: 膣の分泌物が減少し、乾燥感が生じます。これが、かゆみ、灼熱感、そして性交時の痛み(性交痛)の主な原因となります1, 25
  • 膣内環境の変化: 膣内は健康な状態では乳酸菌(デーデルライン桿菌)の働きで酸性に保たれています(pH 3.5~4.5)。しかし、エストロゲンが減少すると乳酸菌が減少し、膣内のpHが上昇してアルカリ性に傾きます1, 26。これにより、膣の自浄作用が弱まり、細菌性膣症などの感染症が起こりやすくなります27, 28。尿路感染症を繰り返す原因にもなります27

これらの症状は、生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性がありますが、決して我慢すべきものではありません29。日本産科婦人科学会の診療ガイドラインでは、GSMによる症状の治療として、エストロゲンを含む膣錠やクリームによる局所療法が第一選択として推奨されています22。これにより、萎縮した組織の状態を改善し、潤いを取り戻すことができます。その他、保湿剤や潤滑ゼリーの使用、そして刺激の少ない下着の着用や優しい洗浄といった生活習慣の見直しも有効です22, 30

表3:ライフステージ別・外陰部の生理的変化の概要31

ライフステージ 主なホルモンの影響 一般的な形態・生理的変化 関連する症状・懸念事項
思春期 (8~18歳頃)19 エストロゲンの分泌開始・増加 恥丘・大陰唇の発達、陰毛の発生、小陰唇の成長、初経。 月経不順、月経痛、外見の変化への戸惑い32, 33
性成熟期 (18~45歳頃)20 エストロゲンの周期的変動 月経周期に応じた膣粘膜の変化26 月経前症候群(PMS)、子宮・卵巣の疾患、性感染症。
妊娠 エストロゲン・プロゲステロンの急増 外陰部の腫脹、色の暗化、血流増加、静脈瘤のリスク21 膣カンジダ症などの感染症リスク増加21
閉経期・閉経後 (45歳頃~)27 エストロゲンの急激な減少 GSM22:外陰部・膣組織の萎縮、乾燥、弾力性の低下、膣内pHの上昇1, 23 膣の乾燥、かゆみ、灼熱感、性交痛、頻尿、尿路感染症27, 25

第IV部:外陰部の健康に関する臨床ガイド:症状を認識し、対応する

これまでのセクションで、外陰部の「正常」がいかに多様で、生涯を通じて変化するものであるかを解説してきました。この最終セクションでは、その知識を基に、どのような場合に医療的な注意が必要となるのか、つまり「異常」のサインをいかに見分けるかについて、実践的な指針を示します。日本産科婦人科学会(JSOG)の「産婦人科診療ガイドライン 2023年版」22などの権威ある情報源に基づき、症状別の具体的な対処法と受診の目安を解説します。

4.1. 医療機関を受診すべき時:基本原則

多くの女性がデリケートゾーンの悩みについて相談することをためらいがちであることが、調査からも明らかになっています36, 34。しかし、適切な診断と治療のためには、専門家である婦人科医の診察が不可欠です。以下は、受診を検討すべき一般的な原則です。

  • 症状の持続・悪化・再発: かゆみ、痛み、腫れなどの症状が数日経っても改善しない、悪化する、あるいは一旦治っても繰り返し起こる場合38
  • 日常生活への支障: 症状が原因で、仕事や学業に集中できない、睡眠が妨げられる、性交が困難であるなど、生活の質(QOL)に影響が出ている場合38
  • 市販薬で改善しない: 市販の薬を3日以上使用しても症状が良くならない場合35。自己判断での長期使用は、原因の特定を遅らせ、症状を悪化させる可能性があります。

重要なのは、これらの症状の背後にある原因が多岐にわたるという点です。例えば「かゆみ」一つをとっても、原因が真菌(カンジダ)なのか、細菌なのか、あるいはアレルギーなのかによって、治療法は全く異なります。カンジダ症に細菌性膣症の薬を使っても効果はなく、逆もまた然りです。したがって、自己判断で治療を試みるのではなく、正確な診断を受けることが、迅速かつ効果的な回復への鍵となります。婦人科医は、これらの症状を診断し、原因に応じた最適な治療法を提案する専門家です。

4.2. 症状別ガイド(JSOGガイドライン準拠)

以下に、代表的な症状とその考えられる原因、そして日本産科婦人科学会のガイドラインなどを踏まえた受診の目安を具体的に示します。

かゆみ(掻痒 – そうよう)

考えられる原因:

  • 接触皮膚炎: 下着の素材、ナプキン、石鹸、洗浄剤などが肌に合わず、刺激となってかゆみを引き起こす22
  • カンジダ外陰膣炎: 最も一般的な原因の一つ。強いかゆみと共に、カッテージチーズや酒粕のような、ポロポロとした白いおりものが特徴22。ストレスや疲労、抗生物質の使用などが誘因となることがあります。
  • 膣トリコモナス症: 強いかゆみに加え、泡状で黄緑色の悪臭を伴うおりものが見られる性感染症22
  • 皮膚疾患: 硬化性萎縮性苔癬や乾癬など、感染症以外の皮膚の病気が原因であることもあります22
  • 閉経後の萎縮(GSM): エストロゲンの減少による皮膚の乾燥と菲薄化が、かゆみの原因となります22

受診の目安:

  • かゆみが強く、日常生活に支障がある36
  • かゆみが1週間以上続く37
  • おりものの量、色、においに明らかな変化を伴う38
  • 痛みやできものなど、他の症状も現れた38

痛み(いたみ)・灼熱感(しゃくねつかん)

考えられる原因:

  • 性器ヘルペス: 突然、外陰部に強い痛みを伴う水ぶくれや潰瘍ができるウイルス感染症38。排尿時にしみるような激痛(排尿痛)を伴うことが多いです。
  • バルトリン腺炎・膿瘍: 膣口の横にあるバルトリン腺が細菌感染を起こし、赤く腫れ上がって強い痛みを引き起こす38。歩行や着席が困難になることもあります。
  • 摩擦や外傷: 潤滑が不十分な状態での性交や、激しい自慰行為などによって皮膚が擦れて傷つき、痛みやヒリヒリ感が生じる38
  • 外陰部痛症(Vulvodynia): 明らかな原因がないにもかかわらず、3ヶ月以上続く慢性的な外陰部の痛みや灼熱感39。触れられるだけで痛みを感じることもあります。
  • 閉経後の萎縮(GSM): 組織が薄く脆弱になることで、わずかな刺激でも痛みや灼熱感を感じやすくなる25

受診の目安:

  • 痛みが強く、我慢できない38
  • 性交後の痛みが1~2日以上続く38
  • タンポンの挿入や性交が痛みで困難である39
  • 明らかな原因なく、痛みが続いたり、繰り返し起こったりする39

腫れ(はれ)・しこり・できもの

考えられる原因:

  • バルトリン腺嚢胞・膿瘍: 膣口の片側がピンポン玉のように腫れる。感染を伴うと(膿瘍)、強い痛みと熱感を生じる38
  • 尖圭コンジローマ: ヒトパピローマウイルス(HPV)による性感染症。カリフラワー状やニワトリのトサカ状の、痛みを伴わないイボが多発する22
  • 性器ヘルペス: 痛みを伴う小さな水ぶくれとして現れる38
  • 毛嚢炎(もうのうえん): 毛穴に細菌が感染して、ニキビのようにおできができる。
  • 悪性腫瘍(外陰がんなど): まれではあるが、治りにくいしこりや潰瘍、色素沈着がある場合は注意が必要。JSOGガイドラインでは、このような場合に生検(組織を採取して調べる検査)を推奨しています22

受診の目安:

  • できものに痛みを伴う38
  • できものがどんどん大きくなる、数が増える38
  • イボ状のできものができた38
  • 腫れがひどく、数日経っても治まらない38

おりもの(帯下 – たいげ)の変化

考えられる原因:

  • 細菌性膣症(BV): 膣内の常在菌のバランスが崩れた状態。灰色がかった、水っぽいおりものが増え、魚が腐ったような生臭いにおいが特徴22
  • カンジダ外陰膣炎: 前述の通り、白くポロポロしたおりもの22
  • 膣トリコモナス症: 前述の通り、泡状で黄緑色、悪臭のあるおりもの22
  • 淋菌感染症・クラミジア感染症: 黄色や緑がかった膿のようなおりものが出ることがある性感染症。無症状のことも多い40

受診の目安:

  • 普段のおりものと比べて、色、量、におい、性状に明らかな変化がある38
  • おりものの変化にかゆみや痛みを伴う38

表4:一般的な外陰部の症状に関する臨床ガイド:医療機関受診の目安41

症状(日本語・英語) 一般的な原因の可能性(特徴) 推奨される対応 / 受診の目安(JSOGガイドライン等に基づく)
かゆみ (Itching) カンジダ症(白いポロポロのおりもの)、接触皮膚炎(下着・ナプキン等)、トリコモナス症(泡状・悪臭のおりもの)、GSM(閉経後の乾燥) 強いかゆみ、1週間以上続く、おりものの異常を伴う、市販薬で改善しない場合35, 36, 37
痛み・灼熱感 (Pain/Burning) 性器ヘルペス(痛みを伴う水ぶくれ)、バルトリン腺炎(膣口横の強い痛みと腫れ)、摩擦(性交後)、外陰部痛症(原因不明の慢性痛)、GSM 痛みが強い、数日以上続く、性交や日常生活に支障がある場合38, 39
腫れ・できもの (Swelling/Lumps) バルトリン腺嚢胞・膿瘍(片側の腫れ)、尖圭コンジローマ(イボ状の多発性のできもの)、性器ヘルペス(水ぶくれ) 痛みを伴う、急速に大きくなる、イボ状である、治りにくい潰瘍やしこりがある場合22, 38
おりものの変化 (Discharge Changes) 細菌性膣症(魚臭・灰色)、カンジダ症(カッテージチーズ状)、トリコモナス症(泡状・黄緑色)、その他性感染症 色・量・においの明らかな変化、特に他の症状(かゆみ、痛み)を伴う場合38
不正出血 (Abnormal Bleeding) ホルモンバランスの乱れ、子宮・膣の病変、GSMによる組織の脆弱化。 特に閉経後に少量でも出血が見られた場合は、速やかに受診が必要25

第V部:知識とボディポジティビティを育む

本稿の最終章として、外陰部に関する不安の背景にある社会心理的な側面に光を当て、知識を通じて自己肯定感を育むための道筋を探ります。臨床的な情報提供を超え、女性が自身の身体をありのままに受け入れ、祝福するためのリソースを紹介します。

5.1. 外陰部に関する不安の社会的背景

外陰部に関する悩みは、決して個人的な問題ではありません。日本で行われた複数の調査が、この問題の広がりを明らかにしています。ある調査では、女性の7割以上がデリケートゾーンについて気にしていると回答しています36。別の調査では、4,582人の女性のうち84%が何らかの悩みやトラブルを抱えていることが判明しました42。具体的な悩みとしては、「生理のときの不快感」「ムレ」「におい」36、「かゆみ・痛み」「尿もれ・頻尿」42、「ムダ毛の処理」「乾燥」43などが上位に挙げられています。
これらの悩みが非常に一般的であるにもかかわらず、多くの女性が沈黙を守っています。調査によれば、約8割の女性がデリケートゾーンの特別なケアをしておらず36、約6割がこの種の悩みを誰にも相談しないと回答しています34。ケアをしない最大の理由として挙げられるのが、「ケアの方法が分からないから」というものでした36
これらのデータは、外陰部に関する不安が、個人の身体的な異常というよりも、むしろ社会における知識不足とオープンな対話の欠如という、より大きな問題に根差していることを示唆しています。あなたが抱いているかもしれない不安や疑問は、決してあなた一人だけのものではありません。それは、多くの女性が共有しながらも、声に出せずにきた共通の経験なのです。この事実を認識することは、孤立感を和らげ、問題解決に向けた第一歩となります。

5.2. 誤った情報に打ち克つための教育

不安を煽る大きな要因の一つが、誤った情報や非現実的な理想像です。第II部で指摘したように、ポルノグラフィなどのメディアで描かれる外陰部は、現実には最も稀なタイプであることが多く、これが歪んだ「正常」の基準を作り出してしまっています17。このような非現実的なイメージは、女性たちに不必要な自己卑下を抱かせ、美容整形への関心を煽る一因ともなっています11
「性経験が豊富だと小陰唇が伸びる」といった俗説も、根強く存在します44。しかし、科学的な研究は、外陰部の形態が性的経験の有無とは関連がないことを示しており11、その形状は主に遺伝的要因と、思春期や閉経期といったホルモンの影響によって決まる、生来の個性です。
これらの神話を打ち破る最も効果的な武器は、科学的根拠に基づいた正確な知識です。本稿で提示してきたように、外陰部の形、大きさ、色には驚くほど豊かな多様性があり、そのすべてが「正常」のスペクトラムの中に含まれます。

5.3. 多様性を祝福し、力を与えるリソース

知識は不安を解消するだけでなく、自己受容とエンパワーメントへの扉を開きます。近年、この知識のギャップを埋め、ボディポジティビティを促進するための素晴らしい活動が世界中で生まれています。
その代表格が、オランダのイラストレーター、ヒルデ・アタランタ氏によって創設された「The Vulva Gallery(外陰部ギャラリー)」です45, 46。このプロジェクトの目的は、外陰部というテーマを取り巻くタブーと羞恥心を打ち破り、オープンな対話を生み出すことです46

The Vulva Galleryは、以下の方法でその目的を達成しています。

  • 多様性の可視化: 650点以上にも及ぶ、すべて実在の人物の外陰部をモデルにしたカラフルなイラストを通じて、その形の多様性を視覚的に示しています46
  • 個人的な物語の共有: 140人以上の人々が提供した、自身の外陰部のポートレートと、それにまつわる個人的な物語や経験を共有しています46。これにより、人々が同じような経験や不安を抱えていることを知り、安心感を得ることができます47
  • 教育的アプローチ: 解剖学の解説、医学専門家による神話の解体、世界中の外陰部の呼び名など、教育的なコンテンツが豊富に含まれています46
  • インクルーシブな姿勢: ジェンダーインクルーシブな言葉遣いを採用し、セクシュアリティと多様性に対して肯定的なアプローチを取っています46

The Vulva Galleryのようなリソースは、単なるアートプロジェクトではありません。それは、本稿が目指してきたこと、すなわち「正常の多様性を祝福する」というメッセージを、より個人的で、共感的で、視覚的な形で伝える教育的な介入です48。それは、臨床的な事実の提供から一歩進んで、自己の身体との関係性を再構築し、祝福するための一つのツールを提供してくれます。

よくある質問 (FAQ)

Q1: 私の小陰唇は左右非対称で、片方がはみ出しています。これは異常ですか?

いいえ、異常ではありません。左右の小陰唇が非対称であることは非常に一般的であり、むしろ完全に対称であることの方が稀です9, 16, 17。また、立った状態で小陰唇が大陰唇からはみ出して見えるのも、ごく普通の形態の一つです9。痛みや不快感などの機能的な問題がなければ、医学的に心配する必要はありません。

Q2: 外陰部が黒ずんでいるように見えて悩んでいます。病気なのでしょうか?

いいえ、病気である可能性は極めて低いです。研究によれば、外陰部が周囲の皮膚よりも色が暗いのは正常であり、大多数の女性に見られる特徴です11。これは、色素細胞であるメラノサイトが性器周辺に多く分布しているためで、生理的に自然なことです17。急激な色の変化や、かゆみ、しこりなどを伴わない限り、心配はいりません。

Q3: 性交渉の経験が多いと、小陰唇が伸びたり黒くなったりするというのは本当ですか?

いいえ、それは科学的根拠のない俗説です。複数の研究で、外陰部の形や色は性的経験の有無とは関連がないことが証明されています11, 44。外陰部の形態は、主に遺伝的要因と、思春期や閉経期など生涯を通じたホルモンの変化によって決まる、生まれつきの個性です。

Q4: 閉経後、外陰部が乾燥してヒリヒリします。年のせいだと諦めるしかないのでしょうか?

いいえ、諦める必要は全くありません。その症状は、エストロゲンの減少によって起こる「閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)」の典型的な症状です22。これは治療可能な医学的状態で、婦人科ではエストロゲンを含む局所療法(膣錠やクリーム)や、保湿剤などを用いて症状を大幅に改善することができます22。我慢せずに婦人科医に相談してください。

Q5: 外陰部のかゆみやおりものの異常を感じた時、市販薬を使っても大丈夫ですか?

市販薬で一時的に対処することも可能ですが、注意が必要です。かゆみやおりもの異常の原因はカンジダ、細菌、皮膚炎など様々で、原因によって適切な薬が異なります。間違った薬を使うと症状が悪化することもあります。市販薬を3日ほど使用しても改善しない場合や、症状を繰り返す場合は、必ず婦人科を受診して正確な診断を受けることを強くお勧めします35

結論

「正常な外陰部とは何か?」という問いへの最終的な答えは、特定の寸法や形の定義の中にはありません。それは、「多様性こそが正常である」という、視点の転換そのものにあります。
本稿を通じて明らかになったように、女性の外陰部は、解剖学的に驚くほど多様であり、その形態は生涯を通じてホルモンの影響を受けながらダイナミックに変化します。多くの女性が抱える外見への不安は、医学的な異常ではなく、しばしば非現実的なメディアのイメージや社会的な知識不足に起因しています。
真の健康とは、画一的な基準に自分を合わせることではなく、自身の身体のユニークな特徴と、その生涯にわたる変化のプロセスを理解し、受け入れることから始まります。そして、かゆみ、痛み、あるいはこれまでにない変化といった、身体からのサインを正しく認識し、必要なときにはためらわずに専門家の助けを求める勇気を持つことです。
知識は、不安を和らげ、誤った情報から自身を守り、自己肯定感を育むための最も強力な力です。この記事が、あなたが自身の身体をより深く、より肯定的に理解するための一助となり、生涯を通じて健やかで自信に満ちた日々を送るための礎となることを心から願っています。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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