【産婦人科専門医監修】子宮のすべて:精密な構造図解から子宮筋腫・内膜症、妊娠・更年期までの完全ガイド
女性の健康

【産婦人科専門医監修】子宮のすべて:精密な構造図解から子宮筋腫・内膜症、妊娠・更年期までの完全ガイド

月経痛、不正出血、不妊、あるいは更年期の症状。多くの女性が自身のキャリアやライフプランの中で、こうした身体の変化や悩みに直面します。その原因が、女性の健康の根幹をなす「子宮」にある可能性について、深く考える機会は少ないかもしれません。日本医療政策機構(HGPI)の調査では、日本の女性が月経困難症や更年期症状で悩んでいながらも、受診をためらう傾向があることが指摘されています1。この背景には、健康に関する情報を得る機会の不足や、婦人科受診への心理的なハードルが存在します。この記事は、科学的根拠に基づき、子宮に関する正確で包括的な知識を提供することで、すべての女性が自身の身体を深く理解し、健康に関するより良い決定を下すための、信頼できるパートナーとなることを約束します。

重要な注意: 本記事は信頼できる医学的情報を提供するものですが、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。ご自身の健康に関する懸念については、必ず資格を持つ医療専門家にご相談ください。

要点まとめ

  • 子宮は単なる臓器ではなく、月経周期の制御、妊娠・出産、さらには女性の健康全体を司る重要な司令塔です。
  • 子宮は主に「子宮体部」と「子宮頸部」から成り、壁は「子宮内膜」「子宮筋層」「子宮漿膜」の3層構造という精密な設計になっています。
  • 子宮筋腫や子宮内膜症は非常に一般的な良性疾患ですが、症状は生活の質(QOL)を大きく低下させる可能性があります。治療法は、将来の妊娠希望(妊孕性温存)の有無によって大きく異なります。
  • 子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウイルス)感染が主な原因であり、HPVワクチンと定期的な検診によって予防・早期発見が可能な疾患です。
  • 不正出血や激しい月経痛など、普段と違う症状に気づいた場合は、自己判断せず、産婦人科専門医に相談することが極めて重要です。

子宮とは?生命の源泉としての全体像

子宮(しきゅう)は、女性の骨盤内に位置する、厚い筋肉でできた西洋梨のような形をした袋状の臓器です2。具体的には、前方に膀胱、後方に直腸があり、それらの間に守られるように存在しています。成人女性の非妊娠時の子宮は、長さ約7cm、重さ約60~70gほどですが3、これはあくまで目安であり、年齢や出産歴によって大きさは変化します。子宮は単に解剖学的な一つの臓器というだけではありません。それは「新たな生命の揺りかご」であり、ホルモンの影響を受けて周期的に変化し、女性の健康状態を映し出す「鏡」のような役割も担っています。

女性骨盤の矢状断面図:子宮と周辺臓器(膀胱、直腸、卵巣、膣)の位置関係を示す
図1:女性骨盤の矢状断面図

子宮の解剖学的構造:生命を育む精密な設計

子宮の構造は、生命を育み、月経周期を整えるという重要な役割を果たすために、非常に精密に設計されています。

子宮の主要な構成要素

子宮は大きく4つの部分に分けられ、それぞれが異なる機能を持っています3, 4

  • 子宮底(しきゅうてい, Fundus): 子宮の上部にある、丸くドーム状に膨らんだ部分です。卵巣から排出された卵子を運ぶ卵管が、この子宮底の両脇に開口しています5
  • 子宮体部(しきゅうたいぶ, Corpus): 子宮の中心を占める最も広い空間で、子宮全体の約3分の2を占めます。受精卵が着床し、妊娠中に胎児が育つ主要な場所です。
  • 子宮峡部(しきゅうきょうぶ, Isthmus): 子宮体部と次に述べる子宮頸部を繋ぐ、くびれた狭い部分です。妊娠中は長く閉じていますが、分娩時には伸びて産道の一部となります6
  • 子宮頸部(しきゅうけいぶ, Cervix): 子宮の下方に位置し、膣へと続く入り口部分です。普段は固く閉じており、細菌などが子宮内に侵入するのを防ぐバリアの役割を果たしています。分娩時には、この部分が柔らかくなり大きく開くことで、赤ちゃんが通過する道となります2
子宮の構造(正面図):子宮底、子宮体部、子宮頸部の各部位を指し示す
図2:子宮の構造(正面図)

子宮壁の3層構造

子宮の壁は、内側から外側に向かって、それぞれ機能の異なる3つの層で構成されています3, 4

  • 子宮内膜(しきゅうないまく, Endometrium): 子宮体部の内腔を覆う粘膜組織で、女性ホルモンの影響を最も強く受ける部分です。この内膜はさらに2つの層に分かれています。一つは、月経周期に伴って厚くなり、妊娠しなかった場合には剥がれ落ちて月経血となる「機能層」。もう一つは、その下にあって機能層を再生させる役割を持つ「基底層」です7。受精卵はこの子宮内膜に着床して、胎盤を形成し始めます。
  • 子宮筋層(しきゅうきんそう, Myometrium): 子宮壁の大部分を占める厚い平滑筋の層です。妊娠中は胎児の成長に合わせて大きく引き伸ばされますが、分娩時には規則的かつ強力に収縮(陣痛)し、胎児を体外へ娩出する原動力となります。また、月経時には、剥がれ落ちた内膜(経血)を体外に排出する役割も担っています。
  • 子宮漿膜(しきゅうしょうまく, Perimetrium): 子宮の外側全体を覆う、最も薄い膜です。腹膜の一部であり、子宮を保護しています。

子宮の多岐にわたる機能:妊娠だけではない、女性の健康の司令塔

子宮の役割は妊娠と出産に限定されるものではありません。女性の生涯にわたる健康と深く関わっています。

  • 月経周期の制御: 卵巣から分泌される2つの女性ホルモン、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の周期的な変動に呼応して、子宮内膜は増殖・肥厚し、受精卵の着床に備えます。妊娠が成立しない場合、これらのホルモン分泌が低下し、不要になった内膜は剥がれ落ちて体外に排出されます。これが月経です5
  • 受精・着床・妊娠維持: 膣内に射精された精子は子宮頸管を通り、子宮内を通って卵管へと向かいます。卵管で卵子と受精した後、受精卵は子宮へと戻り、着床の準備が整った子宮内膜にもぐり込みます。着床後、子宮は胎盤の形成を助け、約10ヶ月間にわたって胎児を外部の衝撃や感染から守り、栄養を送りながら育む「揺りかご」としての重要な役割を果たします8
  • 分娩: 妊娠期間が満了すると、子宮筋層はホルモンの指令を受けて強力な収縮を開始します。この陣痛によって子宮口が全開大し、胎児と胎盤を母体の外へと娩出します。これは人体における最大級の筋肉運動の一つです。
  • 性機能への関与: あまり知られていませんが、子宮は女性の性的快感にも関与しています。オーガズムの際には、子宮がリズミカルに収縮することが観察されており、これが快感の一部を構成していると考えられています。

ライフステージによる子宮の変化

子宮は、女性のライフステージに応じてその姿をダイナミックに変化させる臓器です。非妊娠時の標準的なサイズは前述の通り長さ約7cmですが3、これは一生を通じて一定ではありません。

  • 妊娠中の劇的な変化: 妊娠すると、子宮は胎児の成長に合わせて驚異的に大きくなります。妊娠末期には、その容積は非妊娠時の数百倍にも達し、重さも1kgを超えます。子宮底はおへその高さを超え、みぞおちの近くまで達することもあります。この子宮の増大により、母体には頻尿、便秘、胸やけ、息切れといった様々な症状が現れます。
  • 出産後の子宮復古: 出産を終えると、子宮は急速に収縮を始め、元の大きさに戻ろうとします。この過程を子宮復古と呼び、産後約6~8週間かけて完了します。この収縮の際に感じる痛みが「後陣痛(こうじんつう)」で、特に経産婦で強く感じられる傾向があります。
  • 更年期以降の変化: 閉経期を迎え、卵巣からのエストロゲン分泌が停止すると、子宮はその刺激を受けなくなり、徐々に小さく萎縮していきます。これは正常な加齢による変化です。

子宮に関連する代表的な疾患:症状・診断・最新治療の完全ガイド

このセクションで解説する治療法は、日本産科婦人科学会(JSOG)および日本産婦人科医会(JAOG)が発行する「産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2023」9や、その他の主要な医学的エビデンスに基づいています。治療法の選択は、症状の程度、年齢、そして将来の妊娠を希望するかどうか(妊孕性温存)によって大きく異なることを理解することが重要です。

子宮筋腫 (Uterine Fibroids)

子宮筋腫は、子宮の筋層にできる良性の腫瘍(こぶ)で、成人女性では非常にありふれた疾患です。生命を脅かすことは稀ですが、その大きさやできた場所によって、様々な症状を引き起こし、生活の質(QOL)を著しく低下させることがあります。

  • 症状: 最も多い症状は月経血の量が増える「過多月経」と、それに伴う「貧血」です。月経痛(月経困難症)がひどくなることもあります。筋腫が大きくなると、膀胱を圧迫して頻尿になったり、直腸を圧迫して便秘になったり、腰痛の原因となることもあります。不妊や流産の原因となる場合もあります10
  • 診断: 主に内診と超音波(エコー)検査で行われます。より詳しく筋腫の位置や数、大きさを調べるためにMRI検査が行われることもあります11
  • 治療: 治療法は、症状の程度、年齢、そして妊孕性温存の希望の有無を総合的に判断して決定されます。
    • 妊孕性温存を希望する場合:
      • 薬物療法: 痛みに対しては鎮痛剤、過多月経に対しては止血剤や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製剤、いわゆる低用量ピル)などが用いられます。GnRHアゴニスト/アンタゴニストといったホルモン療法は、筋腫を一時的に小さくする効果がありますが、閉経に近い状態にするため更年期様の副作用があり、根本治療ではないため中止すると筋腫は元の大きさに戻ります。長期間の使用は骨密度低下のリスクもあるため、手術前の補助療法などに限定して使われるのが一般的です12
      • 手術/インターベンション: 筋腫のみを摘出する「子宮筋腫核出術」が標準的な手術です。開腹手術、腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術など、筋腫の場所や大きさに応じて最適な方法が選択されます。核出術後に妊娠した場合、子宮破裂のリスクを避けるために帝王切開での分娩が必要になることがあります12。その他、カテーテルを用いて筋腫への血流を止める「子宮動脈塞栓術(UAE)」や、針を刺して熱で筋腫を焼灼する「高周波アブレーション(RFA)」といった選択肢もあります13
    • 妊孕性温存を希望しない場合:
      • 子宮全摘術: 症状が重く、他の治療法が困難な場合の根治的な治療法です。現在では、体の負担が少ない腹腔鏡下や腟式での手術が主流となっています。

子宮内膜症 (Endometriosis)

子宮内膜症は、本来は子宮の内側にあるはずの子宮内膜またはそれに似た組織が、子宮以外の場所(卵巣、腹膜、腸など)で増殖し、月経のたびに出血を繰り返す疾患です。世界保健機関(WHO)によると、世界で生殖年齢にある女性のおよそ10%(約1億9千万人)が罹患していると推定されており14、激しい痛みや不妊によりQOLを著しく損なう慢性疾患です。

  • 症状: 最も特徴的な症状は、日常生活に支障をきたすほどの激しい月経痛です。その他、月経時以外の下腹部痛や腰痛(慢性骨盤痛)、性交時痛、排便痛、そして不妊症の原因となることが知られています。
  • 診断: 内診や超音波検査で病変が疑われますが、確定診断のためには腹腔鏡検査(お腹に小さな穴を開けてカメラで直接観察する手術)が必要となる場合があります15
  • 治療: 子宮内膜症は閉経まで長く付き合っていく必要のある疾患であり、治療の目標は「痛みのコントロール」と「妊孕性の改善・維持」に置かれます。
    • 薬物療法(第一選択): 痛みを抑えるための鎮痛薬(NSAIDs)や、病気の進行を抑えるためのホルモン療法が中心となります。ホルモン療法には、低用量ピル(LEP製剤)や、黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト)などが使われ、排卵を抑制し、病巣の増殖を抑えます9
    • 手術療法: 薬物療法で痛みがコントロールできない場合や、卵巣にできた内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)が大きい場合、不妊の原因となっている場合に検討されます。腹腔鏡下で病巣を摘出・焼灼しますが、術後も再発予防のために薬物療法を続けることが非常に重要です9, 16
  • 日本のサポート体制: 日本には、日本子宮内膜症協会(JEMA)17や、子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ18といった患者会が存在し、電話相談や情報交換の場を提供しています。一人で悩まず、こうした支援団体を活用することも大切です。

子宮頸がん (Cervical Cancer)

子宮頸がんは、子宮の入り口である子宮頸部にできるがんで、予防と早期発見が極めて重要な疾患です。

  • 原因: 主な原因は、性交渉によって感染するヒトパピローマウイルス(HPV)の持続的な感染であることがわかっています2。HPVは非常にありふれたウイルスで、多くの人が一生に一度は感染しますが、ほとんどの場合は免疫力によって自然に排除されます。しかし、一部で感染が長期化(持続感染)すると、数年から十数年かけて「異形成」という前がん病変を経て、がんに進行することがあります。
  • 日本の現状: 国立がん研究センターの最新統計によると、日本では年間約1万1千人(2019年)が子宮頸がんに罹患し、約2,900人(2020年)が死亡しています19。特に、20代から30代の若年層での罹患が増加しており、妊娠・出産といったライフイベントと重なる世代の女性にとって深刻な問題となっています。
  • 予防(HPVワクチン): 子宮頸がんの原因となるハイリスク型のHPV感染を防ぐHPVワクチンが開発されています。現在の公費接種制度では、小学校6年生から高校1年生相当の女子を対象に接種が推奨されており、キャッチアップ接種の機会も設けられています。ワクチンの有効性と安全性については、世界保健機関(WHO)をはじめとする多くの公的機関が認めています。
  • 検診(スクリーニング): 子宮頸がんは、自覚症状のない早期の段階で発見し、治療することが生命を守り、子宮を温存する上で不可欠です。
    • 検診方法: 日本のガイドラインでは、20歳以上の女性を対象に2年に1回の細胞診(子宮頸部の細胞をブラシなどでこすり取り、顕微鏡で異常な細胞がないか調べる検査)が推奨されています9, 20。近年では、HPVに感染しているかどうかを調べるHPV検査も普及しており、米国予防医学専門委員会(USPSTF)などは、30歳以上では細胞診とHPV検査の併用や、HPV単独検査を推奨しています21
    • 重要性: 検診で前がん病変の段階で発見できれば、子宮頸部の一部を円錐状に切除する「円錐切除術」などの、子宮を温存できる低侵襲な治療で根治が可能です。

子宮体がん (Endometrial Cancer)

子宮体がんは、胎児が育つ子宮体部の内側にある子宮内膜から発生するがんで、「子宮内膜がん」とも呼ばれます。主に閉経期以降の50代から60代に多く見られ、子宮頸がんとは原因も好発年齢も異なります。

  • 日本の現状: 国立がん研究センターの統計では、子宮体がんは増加傾向にあり、年間約1万8千人(2019年)が罹患しています22。食生活の欧米化による肥満や、出産歴のない女性の増加などが背景にあると考えられています。
  • 重要なサイン: 最も重要なサインは「不正出血」です。特に、閉経後に少量でも出血があった場合は、絶対に放置せず、速やかに婦人科を受診する必要があります。閉経前であっても、月経不順や長引く不正出血がある場合は注意が必要です。

骨盤内炎症性疾患 (Pelvic Inflammatory Disease – PID)

骨盤内炎症性疾患(PID)は、子宮頸管から侵入した細菌が、子宮、卵管、卵巣、そして骨盤内の腹膜にまで広がり炎症を引き起こす感染症の総称です。治療が遅れると、卵管の癒着や閉塞を引き起こし、不妊症や異所性妊娠(子宮外妊娠)の重大な原因となり得ます。

  • 原因: 主な原因菌は、クラミジア・トラコマチスや淋菌といった性感染症(STI)の病原体です23。これらの感染を放置することで、上行性に感染が広がります。
  • 治療: 診断されたら、速やかに抗菌薬による治療を開始する必要があります。米国疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインなどでは、複数の菌に効果のある抗菌薬(例:セフトリアキソン+ドキシサイクリン+メトロニダゾール)の併用が推奨されています24。症状が重い場合は入院治療が必要です。また、再感染を防ぐために、パートナーも同時に検査・治療を受けることが極めて重要です。

子宮の健康を生涯にわたって維持するために

子宮の健康を守るためには、特別なことよりも、日々の生活習慣と身体への意識が大切です。科学的根拠に基づいたセルフケアを実践しましょう。

  • 定期的な婦人科検診: 何よりも重要なのは、症状がなくても定期的に婦人科検診を受ける習慣です。日本医師会も、子宮頸がん検診をはじめとする婦人科検診の重要性を啓発しています25。検診は、病気の早期発見だけでなく、専門家である医師に日頃の小さな不安を相談できる貴重な機会でもあります。
  • バランスの取れた食事と適正体重の維持: 肥満は子宮体がんのリスクを高めることが知られています。バランスの取れた食事を心がけ、適正な体重を維持することが大切です。
  • 適度な運動: 定期的な運動は血行を促進し、ホルモンバランスを整える助けになります。骨盤周りの血流を良くするストレッチや、骨盤底筋トレーニングも有効です。
  • ストレス管理: 過度なストレスはホルモンバランスの乱れにつながります。自分に合ったリラクゼーション法を見つけ、心身の健康を保ちましょう。
  • 信頼できる医療情報の見極め方: インターネットには様々な健康情報が溢れていますが、そのすべてが正しいとは限りません。情報を参照する際は、公的機関(厚生労働省、国立がん研究センターなど)や医療専門学会、医師が監修している信頼できるサイトを選ぶようにしましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1: 子宮後屈は病気ですか?治療は必要ですか?

A: 子宮後屈(子宮が後ろ側に傾いている状態)は、多くの女性に見られる位置のバリエーションの一つであり、それ自体が病気というわけではありません。ほとんどの場合、症状はなく、治療も不要です3。ただし、子宮内膜症などによる強い癒着が原因で後屈し、激しい月経痛や性交痛、不妊の原因となっている場合は、その原因疾患に対する専門医の診断と治療が必要です。

Q2: 先天的な子宮の形の異常(子宮奇形)にはどんなものがありますか?

A: 生まれつき子宮の形が通常と異なる状態を子宮奇形と呼びます。代表的なものに、子宮が二つに分かれている「双角子宮」や、子宮の内部に壁(中隔)がある「中隔子宮」などがあります。多くの場合は無症状ですが、不妊や、習慣性流産、早産のリスクを高めることがあります。超音波検査やMRIで診断され、流産を繰り返す場合などには、形を整えるための手術(子宮形成術)が検討されることがあります。

Q3: 子宮筋腫や子宮内膜症があると、がんにかかりやすくなりますか?

A: 子宮筋腫は良性の腫瘍であり、これが悪性化(がん化)して「子宮肉腫」になることは極めて稀(0.5%未満)とされています。一方、子宮内膜症、特に卵巣にできるチョコレート嚢胞は、長期間存在すると、稀ですが卵巣がん(明細胞がん、類内膜がん)の発生リスクをわずかに高めることが知られています9。そのため、これらの疾患があると診断された場合は、症状がなくても定期的に専門医の診察を受け、経過観察を続けることが非常に重要です。

結論:自身の体を知り、専門家と共に歩む

本記事では、子宮の精密な構造から、ライフステージごとの変化、そして代表的な疾患に至るまで、包括的な情報を提供してきました。子宮の構造と機能を正しく理解することは、ご自身の健康を守り、様々なライフイベントに対してより良い選択をするための力強い第一歩です。しかし、最も重要なメッセージは、この記事が個々の医学的診断や治療に代わるものではないということです。もし、あなたが不正出血、これまでにない激しい痛み、あるいは何か普段と違う「異常」を感じた際には、決して一人で悩んだり、インターネットの情報だけで自己判断したりせず、信頼できる産婦人科専門医に相談するという具体的な行動を起こしてください。あなたの健康は、あなた自身と専門家が手を取り合って守っていく、何よりも大切な宝物なのです。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 日本医療政策機構(HGPI). 「社会経済的要因と女性の健康に関する調査提言」. 2023. https://hgpi.org/research/wh-20230306.html.
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  3. 日本医事新報社. 子宮は厚い平滑筋の袋で,体部は腹腔に,頚部は腟内に突出する. 2025年6月18日閲覧. https://www.jmedj.co.jp/files/item/books%20PDF/978-4-7849-3223-8.pdf.
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  8. ヘルシーパス. 子宮と卵巣について. 2025年6月18日閲覧. https://www.healthy-pass.co.jp/blog/20140818-2/.
  9. 日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2023. 2023. https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2023.pdf.
  10. 日本産婦人科医会. (3)Leiomyoma:子宮筋腫. 2025年6月18日閲覧. https://www.jaog.or.jp/note/%EF%BC%883%EF%BC%89leiomyoma%EF%BC%9A%E5%AD%90%E5%AE%AE%E7%AD%8B%E8%85%AB/.
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  12. American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG). Management of Symptomatic Uterine Leiomyomas: ACOG Practice Bulletin, Number 228. Obstet Gynecol. 2021;137(6):e100-e115. doi:10.1097/AOG.0000000000004401. PMID: 34011887.
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