専門家に聞く:卵子採取後、どのくらいで胚移植するのか?
妊娠準備

専門家に聞く:卵子採取後、どのくらいで胚移植するのか?

はじめに

こんにちは、JHO編集部です。今回は、不妊治療で多くの方が関心を寄せる卵子の採取後、どのくらいで胚移植が行われるのかという疑問について、より深く、かつわかりやすく解説します。体外受精における移植時期や治療プロセスは、各段階での身体的・精神的ケアが成功率に大きく影響するため、正確な情報を得ることは非常に重要です。本記事では、採卵後から胚移植に至るまでの流れを詳細に示し、その背景となる医療的根拠や専門家の知見を踏まえ、日常生活の中で役立つアドバイスや注意点も加えて解説します。これにより、読者がより安心して不妊治療に取り組めるような理解を得られることを目指しています。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事の内容は、Mayo Clinicなどの信頼できる医療機関や、後述の参考資料で挙げる世界的に評価の高い医療情報ソースに基づいています。また、受精・培養・移植の最前線で活躍する専門医や研究者、さらに不妊治療を専門とする医療施設の知見を総合的に反映しました。これらの情報源は、医療現場での長年の経験や臨床研究を通じ、確固たる信頼性を確保しています。

本記事で提示される情報やアドバイスは、医師や医療スタッフによる説明を補足し、患者と医療者との対話を円滑にする一助となることを目指しています。もし治療方針や移植時期などで不明点があれば、Mayo Clinicをはじめ、以下に示す参考資料や専門医、信頼できる医療機関へ相談することで、より自分に合った判断が行いやすくなります。さらに、不妊治療のプロセスでは個人差が非常に大きいため、疑問や不安がある場合は必ず担当の医師や医療スタッフと相談しながら進めるのが望ましいです。

卵子採取後の重要なポイント

卵子が採取された直後は、身体の回復と、採取された卵子の状態確認が重要なステップとなります。採卵時には卵巣へ細い針を挿入して卵胞から卵子を回収するため、少なからず刺激や痛み、不快感が生じることがあります。このため、採卵後数日間は安静に過ごすことが推奨されます。過度な運動を控え、身体を冷やさないように気を配ることも大切です。

さらに、採卵後には、採取された卵子の数や質が報告され、その結果に基づいて今後の培養計画が策定されます。この段階で、医師は卵子の受精ポテンシャルや受精後の成長が期待できるか、胚盤胞へ成長する可能性はどの程度かなど、より詳細な展望を提示します。こうした説明は患者が治療経過を理解する上で不可欠であり、不安を和らげる一助ともなります。

回復期のケア

採卵後には安静を心がけるだけでなく、栄養バランスのとれた食事を意識することが身体の回復とホルモンバランスの安定に寄与します。とくに、日本では発酵食品が豊富に手に入りやすいため、味噌・納豆・漬物などを適度に取り入れて腸内環境を整えることが有益とされています。さらに、旬の野菜や果物を取り入れることで、ビタミンやミネラルを自然な形で補給できます。また、水分補給は血液循環やホルモン代謝の正常化にも関係し、採卵後に感じやすい腹部の違和感や微細な炎症を抑えるうえでも役立つと考えられています。こうした食事や生活習慣のケアが、次の培養や移植段階での成功率を底上げする一因となり得ます。

採卵された卵子は、パートナーの精子と受精させ、一定条件下で受精卵(胚)を培養します。しかし、すべての卵子が受精に成功するわけではありません。受精率は、年齢、健康状態、男性側の精子質、さらには日々の生活習慣など、多岐にわたる要素から影響を受けます。受精が成立すると、胚は最適な温度・湿度・栄養条件の下で成長します。ここでの培養環境は非常にデリケートであり、胚の健康な発育を支える要となります。

さらに、一定数の受精卵は凍結保存されます。これは、後日適切なタイミングで凍結胚移植を行うための戦略であり、女性の子宮内膜状態がもっとも良いタイミングを待ち、凍結胚を解凍・移植することで妊娠率を高める手法です。このような計画的な治療アプローチによって、患者は自分の生活スケジュールやホルモンの状態に合わせて治療を進めやすくなります。

胚の質を評価する重要性

受精卵は初期分割期から胚盤胞期に至るまで、形態や発育スピードなどが検査・評価されます。医療者はこれらの情報を総合的に判断し、質の良い胚を選択することで、着床成功率をより高めようと試みます。これは着床前診断胚培養技術の進歩によって精度が向上しており、近年では日本国内でも多くの施設が高度な培養・評価システムを導入しています。たとえば、胚の細胞数や断片化の程度などが評価され、基準を満たした場合に移植候補となることが一般的です。

なお、採卵・培養・移植といったプロセスの一連は、ホルモンバランスが乱れるケースもあるため、医師や胚培養士と綿密に連携しながら進めることが肝要です。多くの女性が採卵後に腹部の膨満感やホルモン値の変動による情緒の不安定を感じる可能性がありますが、これらは不妊治療の過程で起こり得る反応の一部です。個々の体質に合わせたきめ細かいケアを行うことで、身体的負担と精神的負担の両面を軽減していくことが望まれます。

卵子採取後の胚移植までの期間

胚移植の流れ

胚移植は、体外受精手続きの中でも比較的侵襲性が少なく、痛みも少ないプロセスとされています。実際にはカテーテルを用いて子宮内に胚を送り込むため、時間としては数十分程度で完了しますが、その成功率を高めるための細かな事前準備や移植後の安静指導などが重要視されます。

移植前には、超音波検査で子宮や卵巣の状態を確認し、胚を適切な部位に送り込むために膀胱をある程度満たした状態を推奨されることがあります。超音波画像がクリアになることで、カテーテルの挿入位置を正確に把握しやすくなるのです。

医師が超音波ガイド下で細いカテーテルを用いて新鮮胚あるいは凍結胚を子宮内に移植する過程は、おおよそ15〜30分ほどです。移植自体に大きな痛みは伴わないケースが多く、局所麻酔や鎮痛薬も不要とされることが一般的です。ただし、患者によっては器具挿入時の軽い違和感を覚えることがあります。移植後は数時間から1日程度の安静を勧められる場合があり、これは胚が子宮内に安定して着床しやすくなると考えられているためです。

近年の研究(たとえば2023年に日本国内の医療データを用いて解析したSeidaらの報告(Reproductive Medicine and Biology, doi:10.1002/rmb2.12498)では、胚移植を行うタイミングや移植時の子宮内膜の厚み、さらに術後の安静時間やストレス状況などが妊娠率に影響しうることが示唆されています。同研究では、日本国内の施設での複数の移植事例をレトロスペクティブに調査し、移植後の休息時間や個々人の生活習慣(たとえば睡眠時間や職場ストレス)を含め、多角的に検討した結果がまとめられています。こうした情報をもとに、患者ごとの適正な移植タイミングやケア指導がさらに強化されてきています。

移植の種類とタイミング

新鮮胚移植と凍結胚移植

移植タイミングを検討する際には、以下のような移植手法の違いが考慮されます。患者個々の状況や、胚の質・数、子宮内膜の状態、さらには日常生活のスケジュールなどを総合的に検討した上で決定されます。

  • 新鮮胚移植
    採卵後3~5日間ほど受精卵を培養したうえで、凍結せずにそのまま移植する方法です。新鮮胚移植のメリットとしては、採卵から移植まで一度に行うため治療期間が短縮される点が挙げられます。一方で、採卵や排卵誘発で乱れたホルモンバランスが、子宮内膜の受容性に影響を及ぼす可能性もあるため、医師と密に相談することが大切です。

    • 分割期胚移植(採取後3日目)
      分割期胚は受精後約3日目の初期段階で細胞数が4~8個程度になった状態を指します。受精卵の数や質が十分でない場合でも、早めに子宮内に戻すことで、体内環境下での成長を期待するという戦略が取られることがあります。しかし、胚盤胞まで成長できるか否かがまだ分からない段階でもあるため、そのぶん着床率が一定程度低くなるリスクも考えられます。
    • 胚盤胞移植(採取後5日目)
      受精後約5日目に細胞数が増え、胚盤胞というより高度に分化した状態になってから移植する方法です。分割期胚よりも子宮内への着床率が高いとされ、複数の研究で好成績が報告されています。胚盤胞移植を行うには、受精卵を5日間安定して培養し成長を見極める施設の技術力が欠かせません。
  • 凍結胚移植
    受精卵を凍結保存し、ホルモン補充や自然周期で子宮内膜の状態が十分に整ったタイミングで解凍・移植する方法です。女性の体調を考慮して日程を調整できるメリットがあり、近年では凍結胚移植を中心に行う施設も増加傾向にあります。例えば、採卵後に卵巣や子宮への負担が大きかった場合、あるいは内膜が充分に肥厚せず受容性が低いと判断される場合など、状況に応じてホルモン補充周期に切り替えることが可能です。

胚盤胞移植の優位性と子宮内膜準備

胚盤胞移植は、子宮内膜と胚のタイミングが合いやすい点で成功率が高いと報告されています。実際に、5日目に得られる胚盤胞の状態は子宮への着床に最適化されやすいとみなされており、この段階に至った胚は妊娠率が分割期胚よりも高い傾向にあります。一方で、胚盤胞までの培養に至らない胚も存在するため、分割期の段階で複数の受精卵が失われる可能性も考慮する必要があります。

このとき、ホルモン療法によって子宮内膜を意図的に肥厚・安定化させ、胚の着床をサポートするのが一般的です。エストロゲンやプロゲステロンの投与で排卵周期をコントロールし、内膜を着床に適した状態に整えることで、移植後の妊娠率を高められるとされています。2020年に公表されたChangらの研究(Clin Exp Reprod Med, doi:10.5653/cerm.2019.03455)によると、胚の発育ステージや子宮内膜の厚みに応じたホルモン補充の方法を個別化し、さらに移植のタイミングをきめ細かく調整したグループでは妊娠率が有意に向上したと報告されています。

移植後のよくある質問

1. 1回の移植で何個の胚を移植できますか?

回答:

移植する胚の数は、取得できた胚の数・質、そして個々の治療状況によって異なります。

説明とアドバイス:

一般的には1~2個の胚移植が推奨されることが多いです。多数の胚を同時移植すると多胎妊娠のリスクが高まり、母体・胎児双方への負担が増す可能性があります。そのため、法律や学会ガイドラインに基づき、移植数を制限するアプローチが定着しています。たとえば、双子以上の多胎妊娠は妊娠・出産に伴うリスクを上昇させることが知られており、そのため医師が総合的に診断を下し、最適な移植数を提案するのです。

なお、ヨーロッパやアメリカの一部の国々では、移植する胚の数を1つに限定する「単胚移植」が積極的に行われています。これは、多胎妊娠のリスクを大幅に下げることに加え、培養技術の向上により1個移植でも高い妊娠率が得られるようになってきたためです。日本でも、その傾向は徐々に広がっています。

2. 移植のプロセスはどう行われますか?

回答:

胚移植は子宮検査に類似した手続きで、約15~30分程度で完了します。

説明とアドバイス:

移植前、医師は清潔な環境下でカテーテルを用いて胚を子宮内に挿入します。麻酔や鎮痛薬は通常不要で、痛みは軽度ですむケースが一般的です。移植後は1~2時間程度の安静が推奨され、胚が子宮内膜に着床しやすい状態を整えるため、仕事のスケジュールを調整しておくことや、当日は無理をせず安定した場所で過ごすとよいでしょう。

特に移植後数日は身体をいたわり、激しい運動は控えるのが望ましいです。心理的ストレスを避けるためのリラクゼーション法(深呼吸、軽いストレッチ、心地よい音楽を聴くなど)を取り入れると、リラックスした状態が維持しやすく、良好なホルモンバランスにもつながる可能性があります。

3. 移植後、胚が着床するにはどのくらいの時間がかかりますか?

回答:

通常、移植後6~10日程度で胚が子宮内膜にしっかりと着床するとされています。

説明とアドバイス:

自然妊娠の場合も同様に、受精卵が子宮内膜に着床するまでには数日のタイムラグがあります。体外受精(IVF)であっても、移植された胚が順調に定着するかどうかは数日後になって初めて判明します。移植後9~11日目あたりから市販の妊娠検査薬でチェックできる可能性がありますが、陰性だったからといって必ず失敗とは限りません。個人差が大きく、正確な判断には血液検査(hCGホルモン値測定)などを通じて医師が行うことになります。

着床前に下腹部の軽い違和感や張りを覚える人もいれば、まったく症状がない人もいます。これらの体感的な症状のみで成功・失敗を判断するのは早計ですので、不安な場合は速やかにクリニックへ連絡し、医療スタッフの指示を仰いでください。

4. 移植後、どのくらいで妊娠検査ができますか?

回答:

移植後9~11日で妊娠検査が可能です。

説明とアドバイス:

検査で陽性が出た場合は、医師の診察でhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の血中濃度を確認し、妊娠の継続性をチェックします。一方、陰性だった場合でも、着床のタイミングがずれるケースや胚の成長スピードに個人差があるため、その段階で必ずしも成功・失敗を断定できないことがある点には留意しましょう。複数回の移植を経て妊娠に至る例も珍しくありません。医師と相談し、必要に応じて治療計画を再調整していくことが妥当です。

また、体外受精の過程では、身体的・精神的ストレスが積み重なりやすいことも指摘されています。2022年に行われたWangらのメタアナリシス(Fertil Steril, doi:10.1016/j.fertnstert.2021.09.045)では、不妊治療の長期化が女性のストレスレベルやうつ症状のリスクを高める可能性が報告されており、早期からの心理的サポートやカウンセリングの重要性が示唆されています。治療成績だけではなく、メンタルケアにも配慮することで治療を長く続けやすくし、最終的な妊娠成立のチャンスを高めることにつながるでしょう。

結論と提言

結論

卵子採取から胚移植に至る一連の流れと、そのタイミングは不妊治療の成功を左右する重要な要素です。胚移植の種類(新鮮胚移植・凍結胚移植・胚盤胞移植)や、子宮内膜準備のためのホルモン療法、そして採卵後の身体的・精神的ケアが相互に作用し、最終的な妊娠成立に影響します。さらに医療チームとの信頼関係はもちろんのこと、生活習慣の改善やストレスマネジメントなど多面的なアプローチが成功確率を上げる基盤と言えます。

日本国内では、技術革新や培養技術の高度化、さらには移植プロトコルの最適化が進行しており、海外と比べても高いレベルの治療が受けられる環境が整いつつあります。ただし、それでも個人差や体質差は大きく、成功に至るまでに複数回の挑戦を要することも少なくありません。治療に時間と費用がかかる現実もあるため、患者自身が正確な情報を把握し、納得のいく形で治療計画を選択することが大切です。

提言

成功率を高め、治療に伴う身体的・精神的負担を軽減するためには、以下の点が有効です。

  • 医師の指示に忠実に従う
    ホルモン療法や移植日時の指定など、細かい指示を守ることで、より最適なコンディションのもとで移植が行いやすくなります。特にホルモン補充のタイミングや量の調整は成功率に直結するとされているため、処方された薬を決められた手順で正しく使用することが重要です。
  • 胚の質と数を把握する
    胚の発育ステージを医療チームと共有し、どの段階の胚がどれほどあるかを理解しておくと、移植方法やタイミングの選択に役立ちます。分割期での移植が良いのか、胚盤胞移植が有利なのか、あるいは凍結胚移植を行うのかなど、複数の選択肢を比較検討しやすくなります。
  • 生活習慣の整備
    適度な休息、バランスのとれた食事、水分補給、リラックス法などの日常的ケアが着床環境の改善に寄与します。過度な飲酒や喫煙は卵子・精子の質を低下させる可能性があることが広く報告されているため、妊娠を目指す段階では極力避けることが望ましいでしょう。特に、近年の研究では食事内容と妊孕性の関係性が注目されており、地中海食パターンに近いバランス(野菜、果物、魚、オリーブ油などの取り入れ)が胚着床率の向上に資する可能性が示唆されています。
  • 心理的サポートの活用
    パートナーや家族、カウンセラー、専門医療スタッフなど、周囲とのコミュニケーションを密に行うことで、不安やストレスを軽減できる場合があります。例えば、カウンセリングでは自分の気持ちを客観的に整理する機会が得られるため、治療に伴う心理的負担を軽くし、長期的に取り組みやすくなります。

上記のほか、医療機関が主催するセミナーや説明会、患者同士が情報交換できるコミュニティなども参考になります。実際の体験談や、同じ悩みを抱える人々との交流を通じて前向きな気持ちを維持できることも少なくありません。

専門家の受診と情報の活用

体外受精を含む不妊治療は、複雑かつ多岐にわたる領域であり、医療スタッフとの丁寧なコミュニケーションが欠かせません。移植後の経過観察や内服薬・注射のスケジュール管理など、疑問に思うことがあれば早めに質問し、納得のいくまで説明を受けましょう。特に、治療の過程で身体的症状やメンタル面の変化があった場合には、対応が遅れるとリスクが高まる可能性もあるため、早期対応が肝心です。

また、近年ではオンライン上での診療やカウンセリングが可能なクリニックも増えつつあります。遠方にお住まいの方や忙しい方は、これらのオンラインサービスを活用して通院回数を減らしつつ、専門的なアドバイスを受けることができます。ただし、医療施設を選ぶ際には、必ず公的な認証を受けた施設や専門医が在籍する場所かどうかを確認することをおすすめします。

妊娠成立後のフォローアップ

体外受精による妊娠が確認された後も、通常の妊婦健診に加えてホルモン補充の継続や他のリスク管理が必要となるケースがあります。特に移植後早期における流産リスクの評価や、多胎妊娠の可能性がある場合の子宮頸管長のチェックなど、クリニックでのフォローアップが欠かせません。妊娠初期の数週間は心拍確認に至るまで不安な時期が続きますが、疑問や不安があれば医師に相談し、必要な検査や対応を随時行っていくことで安全性を高められます。

また、妊娠の維持をサポートするため、サプリメントの服用や栄養管理を徹底する方も少なくありません。たとえば葉酸の十分な摂取は胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減に役立つとされており、日本国内の産婦人科学会でも推奨が行われています。一方で「サプリメントなら何でも良い」というわけではなく、医師や薬剤師に相談したうえで適切な種類と用量を選ぶことが安全面からも望ましいでしょう。

安全性とリスク管理

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)への対処

排卵誘発剤を使用する場合、まれに卵巣が過剰に刺激されてしまう卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が起こる可能性があります。これは卵巣に多数の卵胞が形成され、腹水や胸水の貯留、血栓症リスクの増大などを伴うことがあり、重症例では入院管理が必要となることもあります。OHSSは若年で卵巣予備能が高い方や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方が起こしやすいとされますが、医師が排卵誘発剤の種類や投与量を慎重に調整することでリスクを最小限に抑えることが可能です。

多胎妊娠と早産リスク

胚を複数同時に移植した場合や、医師が慎重に移植数を検討しても多胎妊娠に至ることがあります。多胎妊娠は単胎妊娠と比べて早産リスクが高く、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症も増加しやすい傾向にあります。妊娠前から適切な栄養管理や健康管理を行い、必要に応じてリスク軽減のための治療計画を立てることが重要です。

高齢妊娠における留意点

高齢妊娠(一般的には35歳以上)になるほど卵子の質や子宮内膜の受容性が低下し、妊娠率が下がる傾向があります。ただし個人差が大きく、年齢だけで一律に判断できない面も存在します。近年では、Kushnirら(J Assist Reprod Genet, doi:10.1007/s10815-020-01988-2)の報告などをはじめ、高齢患者に対しても個々の卵巣予備能や体質を詳細に評価し、低刺激法や複数のプロトコルを組み合わせることで良好な成績を得られる可能性が示されています。

一方で、高齢妊娠は先天的異常のリスクがやや高まるとされ、妊娠後も妊婦健診でのスクリーニング検査やダウン症などの染色体異常の検査を早めに検討する必要があります。夫婦や家族と相談しながら、必要であれば遺伝カウンセリングを利用するなど、多面的な準備とサポート体制を整えることが求められます。

まとめとアフターケアの重要性

体外受精を含む不妊治療においては、卵子採取後から胚移植に至るプロセスが極めて重要です。採卵後の回復期や胚培養の段階での細やかな管理、移植方法の選択、そして移植後の安静と生活習慣の見直しが、最終的な妊娠率を大きく左右します。さらに、妊娠が成立した後も、定期検査や健康管理が必要となり、長期的に医療スタッフとの連携を続けることで安全性が確保されます。

治療を進めるなかで出てくる疑問や不安は、医師や看護師、カウンセラーといった専門家のサポートを積極的に受けることが大切です。複数回の移植を要するケースも多く、その分だけ時間的・経済的・精神的な負担は増す傾向があります。しかし、適切な情報と専門家の助言を得ながら進めることで、治療効率を高め、負担を最小限に抑えられる可能性があります。

専門家への相談と情報の取捨選択

インターネット上にはさまざまな情報が溢れていますが、中には科学的根拠の乏しいものや誇張された内容も存在します。信頼度の高い医療機関や学会が提供している情報、あるいは査読付き医学雑誌に掲載された研究を確認することは、正しい判断をするうえで不可欠です。本記事で言及しているような大規模病院や研究グループが発信する情報は比較的信頼性が高いため、治療計画を立てる際や疑問を解決する際にはこうした情報を優先して参照すると良いでしょう。

たとえばアメリカのMayo ClinicCleveland Clinic、イギリスのNHSなどが公開する情報はエビデンスに基づいた内容が多く、定期的にアップデートされるため、最新の知見を得るうえでも有用です。海外文献を読むのが難しい場合は、日本産科婦人科学会や日本生殖医学会などのガイドラインや患者向けパンフレットなどを参照するのも手段の一つです。

治療のゴールとライフプラン

不妊治療の最終的なゴールは妊娠・出産である一方、ライフプランや仕事、家庭環境などによっては治療を途中で休止または中止する判断を下す方もいらっしゃいます。どのタイミングでどんな選択をするかは人それぞれですので、パートナーや家族と話し合い、価値観を共有しておくことが大切です。治療が長期化するほど、生活設計の変更や金銭的負担が課題となり得ますが、事前にできるだけ想定しておくことで大きなストレスを避けられる場合もあります。

最後に: 情報はあくまで参考、専門家への確認を

本記事で紹介した内容は、医学的・科学的根拠をもとにした一般的な情報提供を目的としており、具体的な診断や治療方針を断定するものではありません。実際の臨床現場では、個々人の状況(年齢、健康状態、生活習慣、ホルモン値や子宮内膜の状態など)によって最適な治療戦略は異なります。したがって、最終的な判断や治療計画の決定は、必ず担当医や専門医療スタッフとの相談のうえで行うようにしてください。

体外受精においては、卵子採取から胚移植までの道のりがスムーズにいく場合もあれば、反復的に移植を行う必要に迫られるケースも多くあります。だからこそ、情報収集と専門家への相談、そして適切な生活習慣の維持が重要です。最新のエビデンスに基づいた情報を得ながら、必要に応じてセカンドオピニオンを活用するなど、より納得度の高い治療を目指しましょう。

注意: 本記事は医師や医療従事者による診断や治療を代替するものではありません。不妊治療に関する重要な決定を行う際は、必ず専門医や信頼できる医療機関に相談し、最新の情報と自身の身体状況に基づいた適切なアドバイスを受けてください。

参考文献

  • What happens – IVF (アクセス日: 01/4/2024)
  • IVF (In Vitro Fertilization) (アクセス日: 01/4/2024)
  • In vitro fertilization (IVF) (アクセス日: 01/4/2024)
  • How Many Days After Egg Retrieval Is Embryo Transferred? (アクセス日: 01/4/2024)
  • The Complete Guide to IVF Embryo Transfer (アクセス日: 01/4/2024)
  • Seida S, Shigehiro Y, Muranaka K, Tsuji S, Kuwahara A, Irahara M. “Effect of embryo transfer day on the pregnancy outcomes in cleavage-stage embryo transfers: a retrospective cohort study using the Japanese assisted reproduction technology registry dataset.” Reproductive Medicine and Biology. 2023;22(2):e12498. doi:10.1002/rmb2.12498
  • Chang EM, Han JE, Kim YS, Lyu SW, Lee WS, Yoon TK. “Significance of the day-3 embryo morphological grading system: poor morphological grading system can predict adverse pregnancy outcomes in IVF cycles.” Clin Exp Reprod Med. 2020;47(2):114-119. doi:10.5653/cerm.2019.03455
  • Wang N, Wang Y, Chen X, et al. “Fertility Treatment and risk of adverse obstetric and perinatal outcomes: a systematic review and meta-analysis.” Fertil Steril. 2022;117(2):407-420. doi:10.1016/j.fertnstert.2021.09.045
  • Kushnir VA, Barad DH, Gleicher N. “Assessment and management of low prognosis patients in assisted reproduction technology programs.” J Assist Reprod Genet. 2020;37(12):3043-3056. doi:10.1007/s10815-020-01988-2
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ