【科学的根拠に基づく】尿路感染症は自然に治る?放置リスクと正しい治し方、再発させない科学的予防法
腎臓と尿路の病気

【科学的根拠に基づく】尿路感染症は自然に治る?放置リスクと正しい治し方、再発させない科学的予防法

トイレに行くたびに感じる、あのツーンとした痛み。何度もトイレに行きたくなるのに、すっきりしない不快な感覚。多くの女性が一度は経験する「尿路感染症」、特に「膀胱炎」は、非常に身近な病気です1。その一方で、「病院に行くのは面倒」「しばらくすれば自然に治るのでは?」と自己判断で対処してしまうケースも少なくありません。しかし、その安易な判断が、症状を悪化させ、より深刻な事態を招く危険性をはらんでいます。この記事は、尿路感染症に関する皆様の疑問や不安に、最新の科学的根拠(エビデンス)に基づいて真正面からお答えするために作成されました。JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会は、国際的な診療指針と日本の医療現場の実情を組み合わせ、尿路感染症の「すべて」を網羅した、信頼できる情報を提供することをお約束します。

本記事の科学的根拠

この記事は、ご提供いただいた研究報告書に明記されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、本文中で言及される主要な情報源とその医学的指針への関連性です。

  • 日本感染症学会 (JAID) / 日本化学療法学会 (JSC): 日本国内における尿路感染症の標準的な抗菌薬治療に関する推奨は、これらの学会が共同で発行する「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン」2に基づいています。
  • 欧州泌尿器科学会 (EAU): D-マンノースやクランベリーなど、再発予防のための非抗生物質的アプローチに関する推奨とエビデンスレベルは、世界的に権威のある「EAU泌尿器科感染症ガイドライン」3を主要な典拠としています。
  • 米国泌尿器科学会 (AUA) / カナダ泌尿器科学会 (CUA) / 泌尿器婦人科・骨盤底再建外科学会 (SUFU): 再発性尿路感染症の定義や診断プロセスについては、これらの学会が共同で策定したガイドライン4に基づいています。
  • 厚生労働省 / 国立感染症研究所 (NIID): 日本における薬剤耐性菌の深刻な現状を示すデータは、公的機関による「薬剤耐性ワンヘルス動向調査(JANIS)」5の公式報告書を引用しています。
  • 査読付き学術論文 (PubMed掲載): 特定の予防法(D-マンノース6やクランベリー7など)の有効性を示す具体的な数値は、複数の研究を統合・分析した信頼性の高いメタアナリシス研究に基づいています。

要点まとめ

  • 尿路感染症、特に膀胱炎は軽症であれば自然治癒することもありますが、安易な期待は禁物です。放置すると腎盂腎炎など重篤な状態に進行する危険性があります。
  • 日本では抗菌薬の効かない「薬剤耐性菌」が増加しており、自己判断で古い薬を飲むことは極めて危険です。治療には医療機関での適切な診断と処方が不可欠です。
  • 再発を繰り返す場合、D-マンノースの摂取や閉経後の女性への膣エストロゲン療法など、科学的根拠のある非抗生物質的な予防法が国際的に推奨されています。
  • 日本の市販薬や漢方薬は、ごく初期の症状緩和や補助的な役割を担いますが、根本的な細菌感染の治療薬ではありません。症状が続く場合は必ず専門医に相談してください。

第1部:尿路感染症の基本を正しく知る

尿路感染症を正しく理解することは、適切な対処への第一歩です。まず、この病気がどのようなもので、なぜ起こるのかを知りましょう。

尿路感染症とは?細菌はどこから来るのか

尿路感染症(Urinary Tract Infection, UTI)とは、尿の通り道である「尿路」に細菌が侵入し、増殖して炎症を起こす病気の総称です8。尿路は、腎臓、尿管、膀胱、尿道から構成されます。通常、尿道口より上流は無菌状態に保たれていますが、多くの場合、細菌は尿道口から侵入し、膀胱へと上行していきます。原因となる細菌の約8割は、私たち自身の腸内に存在する大腸菌です3。特に女性は、男性に比べて尿道が短く、尿道口が肛門や膣に近い位置にあるため、細菌が侵入しやすく、生涯のうちに2人に1人が罹患するともいわれています9

単純性尿路感染症と複雑性尿路感染症の違い

尿路感染症は、尿路に解剖学的な異常や基礎疾患がない場合に起こる「単純性尿路感染症」と、何らかの基礎疾患(前立腺肥大症、尿路結石、糖尿病、尿路カテーテルの留置など)がある場合に起こる「複雑性尿路感染症」に大別されます10。健康な女性に起こる膀胱炎のほとんどは単純性です。一方、複雑性の場合は原因菌が多岐にわたり、薬剤耐性菌の可能性も高くなるため、治療がより難しくなる傾向があります。

主な症状:これが出たら要注意

感染が起きた場所によって、症状は大きく異なります。膀胱での感染と、それがさらに上流の腎臓まで及んだ場合とでは、緊急性が全く違います。

膀胱炎の典型的な症状(頻尿、排尿痛、残尿感、尿混濁)

感染が膀胱にとどまっている場合(急性単純性膀胱炎)、主に以下のような排尿に関連する症状が現れます11

  • 頻尿:何度もトイレに行きたくなる。
  • 排尿時痛:排尿の終わり際に、ツーンとしたり、焼けるような痛みを感じる。
  • 残尿感:排尿後も尿が残っているようなすっきりしない感覚。
  • 尿混濁:尿が白く濁ったり、血が混じってピンク色(血尿)になったりする。

通常、膀胱炎だけで高熱が出ることは稀です。

腎盂腎炎の危険なサイン(発熱、悪寒、腰痛)

膀胱の細菌が尿管を逆流し、腎臓の中にある「腎盂」という部分で増殖すると、急性腎盂腎炎を発症します。これは膀胱炎とは異なり、全身に影響を及ぼす重篤な感染症です。以下の症状が見られた場合は、腎盂腎炎の可能性を強く疑う必要があります11

  • 38℃以上の高熱
  • 悪寒・震え(寒気とガタガタする震え)
  • 背中や腰の強い痛み(特に片側)
  • 吐き気・嘔吐

【危険なサイン】これらの症状があれば、夜間・休日でもすぐに医療機関へ
腎盂腎炎は、急速に悪化して「敗血症」という生命に関わる状態に進行することがあります。上記の危険なサインが一つでも当てはまる場合は、自然治癒を期待せず、直ちに医療機関(泌尿器科、内科、または救急外来)を受診してください。

第2部:「自然に治る」は本当か?科学的見解とリスク

「膀胱炎は寝ていれば治る」という話を聞いたことがあるかもしれません。それは本当なのでしょうか?科学的な見地から解説します。

軽症なら自然治癒も?免疫システムの働き

私たちの体には、侵入してきた細菌を排除するための免疫システムが備わっています。膀胱炎のごく初期段階で、体力や免疫力が十分にあれば、体の抵抗力だけで細菌の増殖が抑えられ、症状が自然に改善することは理論的にはあり得ます12。十分な水分を摂取して尿量を増やし、細菌を物理的に洗い流すことも、このプロセスを助けます。しかし、これはあくまで「可能性」の話であり、すべてのケースで期待できるわけではありません。

【重要】自然治癒を期待してはいけないケースと放置する深刻なリスク

症状が明確に出ているにもかかわらず、「自然に治るはず」と過信して医療機関の受診を遅らせることは、非常に大きな危険性を伴います。特に以下のような場合は、自然治癒は期待できず、放置は絶対に避けるべきです。

  • 症状が2〜3日以上続いている
  • 排尿時痛が強い
  • 血尿が出ている
  • 発熱や腰痛など、膀胱炎以外の症状がある
  • 妊娠中である
  • 糖尿病などの基礎疾患がある

腎盂腎炎への進行と敗血症の危険性

膀胱炎を放置した場合の最大のリスクは、細菌が腎臓へと到達し、急性腎盂腎炎に進行することです。前述の通り、腎盂腎炎は高熱や強い腰痛を伴う重い病気であり、入院治療が必要になることも少なくありません13。さらに、腎臓から細菌が血液中に侵入すると「敗血症」を引き起こす可能性があります。敗血症は、全身の臓器に障害を引き起こし、時に生命を脅かす極めて危険な状態です14。軽い膀胱炎だと思って放置した結果、命に関わる事態に陥ることは、決して稀な話ではないのです。

第3部:【症状別】尿路感染症の現代的な治し方

尿路感染症の治療は、正確な診断に基づき、適切な薬剤を選択することが鍵となります。ここでは、現代の標準的な治療法を解説します。

診断の第一歩:病院では何をする?(尿検査の重要性)

医療機関を受診すると、まず問診と尿検査が行われます。尿検査では、尿中の白血球(炎症の指標)や細菌の有無を調べます。多くの場合、試験紙を用いた迅速検査で診断がつきますが、原因菌の種類や、どの抗菌薬が効くか(薬剤感受性)を正確に調べるために、尿の培養検査を追加で行うことが重要です10

急性単純性膀胱炎の治療:短期決戦が基本

健康な女性の急性単純性膀胱炎の治療は、適切な抗菌薬を短期間服用することが基本です。通常、3〜5日間の服用で、多くの場合は速やかに症状が改善します3

日本の現状:なぜ安易な抗生物質の使用は危険なのか?

以前は膀胱炎の治療によく使われていた「フルオロキノロン系」と呼ばれる種類の抗菌薬(クラビットⓇなどが有名です)がありました。しかし、現在では状況が大きく変わっています。自己判断で過去にもらった薬を飲むことは、効果がないばかりか、さらなる危険を生む可能性があります。

驚くべき薬剤耐性率:日本の大腸菌の現実 (JANISデータ引用)

厚生労働省と国立感染症研究所が主導する調査(薬剤耐性ワンヘルス動向調査)によると、2021年には日本全国で尿路感染症の原因となる大腸菌のうち、実に40.4%がこのフルオロキノロン系薬に対して耐性(薬が効かない性質)を持っていました5。これは、10人中4人の患者さんには、この系統の薬が効かない可能性があることを意味します。この衝撃的な事実が、日本感染症学会と日本化学療法学会が共同で作成している「JAID/JSC感染症治療ガイドライン」2や、国際的な「EAUガイドライン」3で、フルオロキノロン系薬が単純性膀胱炎の第一選択薬として推奨されなくなった大きな理由です。自己判断で薬を飲む行為は、効果がないばかりか、さらに薬の効かない「耐性菌」を自分の中で育ててしまうリスクがあり、非常に危険です。

現在推奨される抗菌薬(JAID/JSCガイドライン 2023準拠)

現在の日本の診療指針では、耐性菌が比較的少ない以下の抗菌薬が第一選択として推奨されています215

  • セファレキシンまたはセファクロル(第1世代セフェム系):5日間
  • アモキシシリン/クラブラン酸(ペニシリン系):5日間
  • ホスホマイシン(ホスホマイシン系):1回の服用で完了するタイプもあります。

これらの薬は医師の処方が必要です。症状が良くなったからといって自己判断で服用を中止すると、生き残った細菌が再燃したり、耐性菌になる原因となります。必ず処方された日数分を飲み切ることが極めて重要です。

急性腎盂腎炎の治療:入院も視野に

急性腎盂腎炎の治療は、膀胱炎よりも強力な抗菌薬を、より長い期間(通常7〜14日間)使用します3。軽症であれば外来での内服治療も可能ですが、高熱や脱水、吐き気などの症状が強い場合や、重症化の危険性がある場合は、入院して点滴による抗菌薬投与が必要となります。日本における調査では、尿路感染症で入院する患者は年間約10万人にのぼり、その平均年齢は73.5歳と高齢者に多いことが報告されています13

第4部:【再発予防】科学的根拠のある非抗生物質的アプローチ

一度治っても、何度も繰り返す尿路感染症に悩まされている方は少なくありません。ここでは、抗菌薬に頼るだけでなく、科学的な根拠に基づいた予防法をご紹介します。

なぜ尿路感染症は繰り返すのか?

米国泌尿器科学会(AUA)などによると、再発性尿路感染症は「6ヶ月に2回以上、または1年に3回以上」と定義されています4。再発の主な原因は、新たに細菌が侵入・増殖することですが、生活習慣や体の変化、性交渉などが誘因となることがあります。

エビデンスレベルの高い予防法

近年、薬剤耐性問題への関心の高まりから、抗菌薬を使わない予防法の研究が世界的に進んでいます。欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインでは、以下の方法が科学的根拠に基づいて推奨されています3

1. D-マンノース:細菌の付着を防ぐ

D-マンノースは、クランベリーなどにも含まれる単糖の一種です。サプリメントとして摂取すると、尿中に高濃度で排泄され、大腸菌が膀胱の壁に付着するのを防ぐ働きがあります。これは、細菌が膀胱の壁にくっつくための「手」を、D-マンノースが先回りして塞いでしまうようなイメージです。2020年に発表された複数の研究を統合したメタアナリシスによると、D-マンノースの摂取は、何もしない場合(プラセボ)と比較して再発リスクを77%も減少させ(相対リスク 0.23)、予防的に抗菌薬を飲むのと同等の効果があることが示されました6

2. クランベリー製品:PAC(プロアントシアニジン)の力

クランベリーに含まれるAタイプのプロアントシアニジン(PAC)という成分にも、D-マンノースと同様に大腸菌の付着を阻害する作用があります。2017年のメタアナリシスでは、クランベリー製品の摂取によって再発リスクが26%減少したと報告されています7。ただし、効果を得るためには十分な量のPAC(1日36mg以上)を含む製品を選ぶことが重要であり、市販のジュースでは糖分過多になる可能性もあるため注意が必要です。

3. 閉経後の女性への膣エストロゲン療法

閉経後の女性は、女性ホルモン(エストロゲン)の減少により膣内の善玉菌(乳酸菌)が減少し、自浄作用が低下するため、尿路感染症を繰り返しやすくなります。エストロゲンを含む膣錠やクリームを局所的に使用することで、膣内環境を改善し、再発を予防する効果があることが証明されており、EAUガイドラインでも強く推奨されています3。この治療は医師の処方が必要です。

4. 免疫賦活薬(OM-89など)

OM-89(商品名:ウロバキソム)は、大腸菌の成分から作られた経口薬で、体の免疫システムを訓練して尿路感染症に対する抵抗力を高める働きがあります。EAUガイドラインでは、有効な予防法の一つとして推奨されていますが3、日本では保険適用外となる場合があります。

表1:科学的根拠のある再発予防法まとめ

予防法 対象となる人 期待される効果とエビデンス 主な注意点
D-マンノース すべての女性 細菌の膀胱壁への付着を阻害。プラセボに対し再発を有意に抑制 (相対リスク 0.23)6 副作用は少ないが、まれに下痢。製品ごとに含有量が異なる。
クランベリー製品 すべての女性 PAC(プロアントシアニジン)が細菌付着を阻害。再発リスクを26%低減7 PAC含有量が明記された製品を選ぶことが重要。ジュースは糖分に注意。
膣エストロゲン 閉経後の女性 膣内の常在菌バランスを改善。EAUガイドラインで強く推奨3 医師の処方が必要。
免疫賦活薬 (OM-89) すべての女性 細菌成分で免疫を刺激。EAUガイドラインで推奨3 医師の処方が必要。日本では保険適用外の場合がある。

日常生活でできる予防策(セルフケア)

上記のような特別な予防法に加え、日々の生活習慣を見直すことも再発予防には欠かせません。

  • 水分摂取:1日に1.5〜2リットルを目安に、水やお茶などカフェインの含まれないものを、こまめに摂取する。尿量を増やし、細菌を洗い流します。
  • 排尿習慣:トイレに行きたいのを我慢しない。細菌が膀胱内で増殖する時間を与えないことが大切です。
  • 性交後のケア:性交渉は細菌が尿道に侵入するきっかけになりやすいため、性交後は速やかに排尿することが推奨されます。
  • 排便後の清拭:トイレットペーパーで拭く際は、必ず「前から後ろ」へ拭き、肛門の細菌が尿道口に付着するのを防ぎます。
  • 体を冷やさない:体の冷えは免疫力の低下に繋がる可能性があります。下半身を温かく保つよう心がけましょう。

第5部:日本の市販薬・漢方薬との付き合い方

ドラッグストアでは、尿路感染症に関連する様々な市販薬や漢方薬が販売されています。これらはどのように活用すれば良いのでしょうか。

市販薬(ボーコレン、腎仙散など)は使える?

日本の市販薬には、漢方処方である「五淋散」を主成分とするもの(例:ボーコレン)や、複数の生薬を組み合わせたもの(例:腎仙散)があります。これらの薬は、医薬品医療機器等法に基づき、排尿痛や頻尿、残尿感といった症状を和らげる効果(効能)が認められています1617。しかし、重要なのは、これらの薬には抗菌薬のような細菌を直接殺す作用はないということです。したがって、あくまで症状がごく軽いうちの初期対応や、抗菌薬治療後の残った不快感を和らげるための補助的な役割と考えるべきです。2〜3日使用しても症状が改善しない、あるいは悪化する場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。

漢方薬(五淋散、猪苓湯)の役割と選び方

医療機関で処方される漢方薬にも、五淋散や猪苓湯(ちょれいとう)などがあります。漢方治療では、患者一人ひとりの体質や状態(「証」)に合わせて薬を使い分けます。例えば、五淋散は体力中等度の方向け、猪苓湯は喉の渇きがある方向け、といった特徴があります1819。漢方薬は、体全体のバランスを整えることで炎症を抑えたり、排尿を促したりする効果が期待されますが、やはりこれも単独で重度の細菌感染を治療するものではありません。現代医療においては、抗菌薬による根本治療を基本としつつ、体質改善や再発予防の目的で補助的に用いられることが多いです。漢方薬の使用を希望する場合は、専門の医師や薬剤師に相談することが賢明です。

表2:市販薬・漢方薬の役割比較

種類 主な製品名 期待される効果(添付文書より) 役割と限界
漢方製剤(市販) ボーコレン(五淋散) 体力中等度のものの排尿痛、頻尿、残尿感。 炎症を和らげ、排尿を促す。ごく初期の症状や、抗菌薬治療後の不快感の緩和に。殺菌作用はない。
生薬製剤(市販) 腎仙散 腎炎、膀胱炎、むくみ。抗菌・利尿・抗炎症作用17 複数の生薬の組み合わせ。症状が改善しない場合は医療機関へ。
漢方製剤(医療用) 猪苓湯 排尿異常があり、口が渇くものの排尿困難、排尿痛。 医師が「証」を判断して処方。抗菌薬が基本だが、体質改善目的に併用されることも。

よくある質問

Q1. 薬を飲み始めたらすぐに良くなりました。途中でやめてもいいですか?

A1. 絶対にやめてください。症状が改善しても、細菌が完全にいなくなったわけではありません。自己判断で服用を中止すると、生き残った少数の細菌が再び増殖して症状が再燃したり、その薬が効かない「耐性菌」に変異してしまったりする危険性が高まります。医師から指示された期間、必ずすべての薬を飲み切ることが、完治と耐性菌防止のために極めて重要です2

Q2. クランベリージュースは本当に効きますか?

A2. 一定の予防効果は期待できますが、製品選びと過度な期待は禁物です。クランベリーの予防効果は、有効成分であるプロアントシアニジン(PAC)の量に依存します。科学的研究で効果が示されているのは、十分な量のPACを含むサプリメントなどであり、市販のジュースではPAC含有量が不明確な上、糖分が多い場合があります7。また、クランベリーはあくまで「予防」が目的であり、「治療薬」ではありません。すでに発症している膀胱炎を治す力はないため、症状がある場合は医療機関を受診してください。

Q3. パートナーも治療が必要ですか?

A3. 通常、女性の単純性尿路感染症の場合、パートナーの治療は必要ありません。尿路感染症は、性感染症(STI)とは異なり、主に自身の腸内細菌が原因で起こるものです。性交渉が感染のきっかけになることはありますが、パートナーから細菌を「うつされる」わけではありません。したがって、パートナーに症状がなければ、検査や治療の対象とはなりません。

結論

尿路感染症は、決して「自然に治る」と軽視してよい病気ではありません。特に日本では、抗菌薬が効きにくい薬剤耐性菌の問題が深刻化しており、適切な診断に基づかない安易な治療は、より大きなリスクを招きます。不快な症状を感じたら、まずは専門の医療機関を受診し、正しい診断と治療を受けることが、完治への最も確実で安全な近道です。そして、もし再発に悩んでいるのであれば、抗菌薬だけに頼るのではなく、D-マンノースのように科学的根拠に裏付けられた予防法を生活に取り入れることも、現代における賢い選択肢と言えるでしょう。正しい知識を武器に、不快な症状と繰り返す不安から解放され、健やかな毎日を取り戻しましょう。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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