この記事の科学的根拠と信頼性
この記事で提供される情報は、引用元として明記された、最高品質かつ最新の医学的根拠にのみ基づいています。読者の皆様が安心して情報を活用できるよう、本記事の主要な根拠となる情報源を以下に示します。
- KDIGO (Kidney Disease: Improving Global Outcomes): 急性腎障害(AKI)の国際的な定義や重症度分類に関する記述は、世界的な腎臓病ガイドライン策定組織であるKDIGOの最新診療ガイドラインに準拠しています(2)。
- 日本腎臓学会: 慢性腎臓病(CKD)の管理、日本国内における急性腎障害(AKI)の診断・治療に関する記述は、同学会が発行する最新の診療ガイドラインを主要な根拠としています(3)(4)。
- 日本泌尿器科学会 / 日本尿路結石症学会: 前立腺肥大症や尿路結石症など、尿路の閉塞が原因で生じる乏尿の病態、診断、治療法については、同学会が中心となり作成した最新の診療ガイドラインに基づいています(5)(6)。
- 厚生労働省 / AMED: 日本国内の慢性腎臓病患者数に関する統計データは、これらの公的機関が発表した最新の公式報告書(2025年版)を引用しています(1)。
この記事の要点まとめ
- 数値の基準: 乏尿(ぼうにょう)は1日の尿量が400~500mL未満、無尿は100mL未満の状態です。国際基準では12時間以上、体重1kgあたり毎時0.5mL未満の尿量減少も危険なサインとされます(7)。
- 3つの原因: 原因は、脱水などで腎臓への血流が減る「腎前性」、腎臓自体の障害である「腎性」、結石などで尿路が詰まる「腎後性」に大別されます(8)。
- 危険なサイン: 尿が全く出ない、激しい痛み、高熱、呼吸困難、意識がもうろうとする等の症状は、緊急治療が必要な兆候です。直ちに医療機関を受診してください(6)。
- 治療方針: 治療は原因によって全く異なり、点滴、原因薬剤の中止、閉塞の解除などが行われます。自己判断での利尿薬の使用は非常に危険です(4)。
- 予防の基本: 適切な水分摂取が基本ですが、心臓や腎臓に持病がある場合は、自己判断での水分調整は避け、必ず医師の指示に従うことが極めて重要です(3)。
どのくらいからが「尿量減少(乏尿)」?医学的な定義と基準
「おしっこが少ない」という主観的な感覚は、医学的にどの程度の状態を指すのでしょうか。尿量の減少は、その程度によって明確に定義されており、ご自身の状態を客観的に評価する上で重要な指標となります。健康な成人の1日の尿量は、摂取する水分量や発汗量によって変動しますが、通常は約500mLから2,000mLの範囲です(7)。これに対し、尿量が著しく減少した状態を「乏尿」、さらに深刻な状態を「無尿」と呼びます。
さらに現代の臨床現場では、急激に腎機能が低下する「急性腎障害(AKI: Acute Kidney Injury)」という概念が極めて重要です。国際的なガイドライン作成組織であるKDIGOは、このAKIの重症度を尿量の基準を用いて分類しており、世界中の医療現場で標準的な指標として採用されています(2)。
状態 | 一般的な定義 (1日あたり) | 急性腎障害(AKI)の国際基準 (KDIGO) |
---|---|---|
通常 | 500–2,000 mL/日7 | – |
乏尿 (Oliguria) | 400–500 mL/日 未満78 | 12時間以上、尿量が体重1kgあたり毎時0.5mL未満の状態(2) |
無尿 (Anuria) | 100 mL/日 未満7 | 12時間以上、尿が全く出ない状態(2) |
出典: MSDマニュアル プロフェッショナル版7、KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury2等の情報を基にJapaneseHealth編集部作成。
なぜ尿は少なくなるのか?原因を3つのタイプで徹底解明
乏尿を引き起こす原因は多岐にわたりますが、医学的にはその発生メカニズムから大きく3つのタイプに分類されます。それは、(1)腎臓に流れ込む血液量が減少する「腎前性」、(2)腎臓そのものに問題が生じる「腎性」、(3)腎臓で作られた尿の通り道が塞がれる「腎後性」です(8)。この分類は、複雑な原因を体系的に理解し、適切な対処法を見つけるための重要な第一歩です。水道設備に例えるなら、「腎前性」は元栓が絞られて蛇口から出る水の量が減ること、「腎性」は浄水フィルター自体が故障すること、「腎後性」は排水管が詰まることに相当します。
2.1. 腎前性乏尿:腎臓に血液が十分に届かない状態
これは、腎臓自体の機能は保たれているものの、腎臓に流れ込む血液の量(腎血流量)が減少するために、尿を十分に作れなくなる状態です。乏尿の原因としては、最も頻度が高いタイプとされています。
- 脱水: 激しい下痢や嘔吐、高熱、多量の発汗などにより体内の水分が失われると、全身を循環する血液量も減少し、腎血流量が低下します。これが乏尿の最も一般的な原因の一つです(9)。特に高齢者は、喉の渇きを感じにくくなる、体内に水分を保持する能力が低下するなど、脱水を起こしやすい傾向があります。公益財団法人長寿科学振興財団も、高齢者は自覚のないまま「かくれ脱水」に陥りやすいと警鐘を鳴らしています(10)。
- 心不全・ショック: 心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を担っています。心不全によりこのポンプ機能が著しく低下すると、腎臓へ十分な血液を送れなくなり、乏尿を引き起こすことがあります(8)。また、大出血や重い感染症(敗血症)などで血圧が急激に低下する「ショック状態」も、腎血流量を著しく減少させる重大な原因となります。
2.2. 腎性乏尿:腎臓そのものの機能障害
これは、腎臓の主要な構成要素である「糸球体(しきゅうたい、血液をろ過するフィルター)」や「尿細管(にょうさいかん、ろ過された尿から必要な成分を再吸収する管)」が直接的なダメージを受け、尿を正常に生成できなくなる状態を指します。
- 急性尿細管壊死 (ATN): 腎性乏尿の主要な原因の一つです。MSDマニュアルによると、重度の血圧低下(虚血)が長時間続いた場合や、腎臓に毒性を持つ物質(特定の薬剤や造影剤など)に曝露されることで、尿細管の細胞が壊死し、腎機能が急激に低下する病態です(11)。
- 薬剤性腎障害 (DKI): 私たちが日常的に使用する薬剤の中にも、腎臓に負担をかけるものが存在します。特に、市販されている非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)、一部の抗生物質や降圧薬、そしてCT検査などで用いられる造影剤が原因となり得ます(12)。もともと腎機能が低下している方や高齢者では、特に慎重な使用が求められます。
- 慢性腎臓病 (CKD) の急性増悪: 普段から腎機能が低下している慢性腎臓病の患者さんが、脱水、感染症、薬剤の使用などをきっかけとして、急激に腎機能が悪化し、乏尿をきたすことがあります。
- 糸球体腎炎: 免疫の異常などが原因で、腎臓のフィルターである糸球体に炎症が起こる病気の総称です。これにより血液のろ過機能が障害され、乏尿の原因となることがあります。
薬剤の種類 | 代表的な薬剤名 | 主な障害機序 |
---|---|---|
非ステロイド性消炎鎮痛薬 (NSAIDs) | イブプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク | 腎血流低下、急性間質性腎炎(13) |
抗菌薬(抗生物質) | アミノグリコシド系、バンコマイシン、ニューキノロン系 | 急性尿細管壊死、急性間質性腎炎(13) |
降圧薬 | ACE阻害薬、ARB | 腎血流低下(特に脱水時や腎動脈狭窄がある場合)(13) |
利尿薬 | フロセミド、サイアザイド系 | 体液量減少による腎前性乏尿、急性間質性腎炎(13) |
造影剤 | ヨード造影剤 | 急性尿細管壊死(造影剤腎症)(2) |
抗がん剤 | シスプラチンなど | 急性尿細管壊死(13) |
出典: 日本腎臓学会「腎機能低下をきたす薬剤性腎障害」13、KDIGOガイドライン2等の情報を基にJapaneseHealth編集部作成。ここに挙げた薬剤は一部です。服用中の薬について不安な点があれば、必ず医師や薬剤師にご相談ください。
2.3. 腎後性乏尿:尿の通り道(尿路)の閉塞
腎臓では尿が正常に作られているにもかかわらず、その通り道である尿管、膀胱、尿道のどこかが物理的に塞がれてしまうことで、尿が体外に排出できなくなる状態です。
- 尿路結石: 腎臓内で形成された結石が尿管に落下し、詰まることで尿の流れを強力に堰き止めます。通常、腎臓は左右に二つあるため、片側の尿管閉塞だけでは乏尿に至りませんが、腎臓が一つしかない方や、両側の尿管が同時に詰まった稀なケースでは、完全な無尿に至ることもあります。日本泌尿器科学会のガイドラインによれば、多くの場合、背中から脇腹にかけて転げ回るほどの激痛を伴うのが特徴です(6)。
- 前立腺肥大症: 中高年以降の男性に非常に多く見られる疾患です。膀胱の出口に位置する前立腺が肥大し、尿道を圧迫することで、「尿の勢いが弱い」「排尿に時間がかかる」といった症状を引き起こします。これが進行すると、尿を全く出せなくなる「尿閉(にょうへい)」という状態になり、乏尿や無尿の直接的な原因となります(5)。
- 腫瘍: 膀胱がんのほか、進行した子宮がんや大腸がんなどの骨盤内腫瘍が、尿管を外側から圧迫し、尿の流れを物理的に妨げることもあります(8)。
これは危険?受診を急ぐべき「乏尿」のサイン
尿量の減少に気づいても、「少し水分を摂って様子を見よう」と自己判断してしまうことは、時に大変危険です。特に、以下に示すような症状を伴う乏尿は、生命に関わる重篤な状態を示唆している可能性があり、一刻も早い医学的介入が求められます。これらの「危険なサイン」を正しく認識し、迅速に行動することが、ご自身の健康を守る上で極めて重要です。
直ちに救急受診または救急車を検討すべき症状(受診の目安)
- 尿が全く出ない、あるいは1日数回しか出ない(無尿・高度の乏尿)(14)
- 転げ回るほどの、または冷や汗をかくほどの激しい腰痛・腹痛・背部痛(尿路結石による閉塞の可能性が高い)(6)
- 38度以上の高熱、悪寒、体の震え(戦慄)を伴う(尿路閉塞に感染が合併した敗血症のサイン)(6)
- 息切れ、呼吸が苦しい、横になると咳き込んでさらに苦しくなる(心不全や重度の体液過剰のサイン)(15)
- 顔や手足に顕著なむくみ(浮腫)があり、数日で急激に体重が増加した(12)
- 意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍い、話のつじつまが合わない(尿毒症や重度脱水による意識障害の可能性)(9)
- 激しい嘔吐や下痢が続き、水分補給が全くできない状態(15)
これらの症状が一つでも当てはまる場合は、自己判断で様子を見ることは絶対に避けてください。ためらわずに夜間・休日であっても救急外来を受診するか、119番通報で救急車を要請することが重要です。
病院では何をする?乏尿の診断プロセス
乏尿を主訴に医療機関を受診した場合、医師は体系的な診察と検査を通じて、その根本原因を突き止めます。患者さん自身が、どのような検査がなぜ行われるのかを事前に理解しておくことで、診断プロセスへの不安を和らげ、医師との円滑なコミュニケーションに繋がります。
- 問診: 診断における最も重要な第一歩です。医師は以下のような点を詳しく尋ねます(16)。
- いつから尿量が減ったか、その程度はどうか
- 他にどのような症状があるか(痛み、発熱、むくみ、息切れなど)
- 過去の病歴(特に糖尿病、高血圧、心臓病、腎臓病、前立腺疾患など)
- 現在服用している全ての薬剤(処方薬、市販薬、漢方薬、サプリメントを含む)の確認
- 身体診察: 血圧、脈拍、体温の測定に加え、顔や足のむくみの有無、聴診器による心音や呼吸音の確認、腹部の触診(膀胱が尿で張っていないか)、背部叩打痛(腎臓の炎症を示唆)の有無などを慎重に調べます。
- 尿検査: 非常に多くの情報が得られる、極めて重要な検査です。
- 血液検査:
- 腎機能の指標である血清クレアチニン(Cr)や尿素窒素(BUN)を測定し、腎機能低下の程度を客観的に評価します(16)。
- カリウムやナトリウムといった電解質バランスの異常や、炎症反応(CRP、白血球数)の有無を確認し、全身の状態を正確に把握します。
- 画像検査:
- 腹部超音波(エコー)検査: 侵襲性がなく(痛みや放射線被ばくがない)、ベッドサイドで迅速に行えるため、第一選択の検査となります。腎臓の大きさや形態、尿路閉塞による腎臓の腫れ(水腎症)の有無、膀胱の状態、前立腺の大きさなどをリアルタイムで評価できます(8)。
- CTスキャン: 超音波検査で異常が疑われた場合や、尿路結石、腫瘍などの位置や大きさをより詳細に評価する必要がある場合に行われます。
これらの検査結果を総合的に判断することで、乏尿の原因が「腎前性」「腎性」「腎後性」のいずれであるかを鑑別し、最終的な診断と治療方針の決定に繋げていきます。
分類 | 主な原因 | 典型的な症状 | 尿検査のヒント (FENa, 尿沈渣) | 画像検査の所見 |
---|---|---|---|---|
腎前性 | 脱水、心不全、ショック | のどの渇き、血圧低下、頻脈、浮腫 | FENa < 1% (腎臓はNaを保持しようと機能)。尿は濃縮され、尿沈渣は比較的正常。 | 特異的な異常は認められない。 |
腎性 | 急性尿細管壊死(ATN)、薬剤性腎障害、糸球体腎炎 | 原因疾患による症状、倦怠感 | FENa > 1% (ATNの場合)。褐色顆粒円柱、腎尿細管上皮円柱など特徴的な円柱を認める。 | 特異的な異常はないか、原因疾患を示唆する所見。 |
腎後性 | 尿路結石、前立腺肥大症、腫瘍 | 激しい痛み(結石)、排尿困難(前立腺) | 血尿、膿尿。FENaは変動しうる。 | 超音波やCTで水腎症(尿路の拡張)や閉塞原因が明確に描出される。 |
出典: 複数の診療ガイドライン(6)(8)(18)(17)の情報を基にJapaneseHealth編集部作成。
乏尿の治療法:原因に応じたアプローチ
乏尿の治療は、診断によって特定された根本原因に対して行われます。原因によって治療法は180度異なるため、正確な診断がいかに重要であるかがわかります。自己判断での対処は症状を悪化させるだけでなく、生命に危険を及ぼす可能性もあるため、絶対に避けるべきです。
- 腎前性乏尿の治療: 脱水が原因であれば、治療の基本は水分と電解質の迅速な補給です。軽度であれば経口補水液などで対応可能ですが、中等症以上では医療機関での点滴(静脈内輸液)が必要不可欠です(19)。ただし、同じ腎前性でも心不全が原因の場合、安易な水分補給は心臓の負担を増やし、肺に水が溜まる(肺水腫)危険があるため、むしろ水分制限や利尿薬による体液量の厳密な管理が求められます。
- 腎性乏尿の治療: 腎臓自体に問題がある場合の治療は、その原因疾患に対して行われます。
- 原因となっている薬剤が特定された場合は、可能な限り速やかにその薬剤を中止または変更します(12)。
- 腎炎などに対しては、ステロイドや免疫抑制薬を用いた専門的な治療が行われることがあります。
- 血圧の管理、電解質異常の補正、食事療法など、腎臓へのさらなる負担を軽減するための支持療法が中心となります。
- 【重要な注意点】: 「尿が出ないなら利尿薬を使えば良い」と安易に考えがちですが、日本腎臓学会のAKI診療ガイドラインでは、体液過剰(むくみ)がない状態で、単に尿量を増やす目的だけで利尿薬を使用することは推奨されていません(4)。不適切な使用はかえって腎機能を悪化させるリスクがあるため、専門医の厳密な判断のもとで用いられます。
- 腎機能の回復が見込めない重篤なケースでは、体内の老廃物や過剰な水分を除去し生命を維持するために、血液透析などの腎代替療法が必要となります(20)。
- 腎後性乏尿の治療: 尿路の物理的な閉塞が原因であるため、治療の最優先事項は、その閉塞を可及的速やかに解除することです。
乏尿を予防・改善するためのセルフケアと生活習慣
すべての乏尿が予防できるわけではありませんが、日常生活における適切な水分管理と自身の健康状態への注意が、特に腎前性の乏尿を予防する上で最も効果的な対策となります。
- 適切な水分摂取: 基本は、のどが渇いたと感じる前に、こまめに水分を摂る習慣を身につけることです。1日に必要な水分量は個人の活動量や環境によって異なりますが、食事以外に1.2リットル程度が一般的な目安とされています。
- 慢性腎臓病(CKD)患者の水分摂取に関する専門的アドバイス: 腎臓に持病がある方の水分管理は、より慎重な判断が求められます。日本腎臓学会発行の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」によると、むくみ(体液過剰)がない限り、CKD患者さんに対して一律に水分摂取を制限することは推奨されていません。一方で、健康な人以上に意図的に飲水量を増やすことについても、腎機能低下を抑制する明確な科学的根拠は示されておらず、推奨されていません(21)。自己判断で水分量を極端に増減させることは避け、必ず主治医の指示に従ってください。
- 食事の注意点: 塩分の過剰摂取は高血圧やむくみの原因となり、腎臓に大きな負担をかけます。日頃から減塩を心がけることが腎臓を守る上で重要です。
- 薬剤の確認: 薬局で購入できる市販の痛み止め(非ステロイド性消炎鎮痛薬: NSAIDs)であっても、漫然と長期に連用すると腎障害のリスクを高める可能性があります(22)。安易な使用は避け、使用する場合は短期間に留め、不安な点は薬剤師に相談しましょう。
- 定期的な健康診断: 症状がない段階でも、定期的に健康診断を受けることで、腎機能の異常(血液検査でのeGFR値の確認)や尿の異常(尿蛋白、尿潜血)を早期に発見できます。これが、重篤な腎臓病への進行を防ぐ最も確実な方法の一つです(23)。
よくある質問 (FAQ)
Q1. 水をたくさん飲んでいるのに尿が少ないのはなぜですか?
A. はい、それは単純な水分不足以外の原因が潜んでいるサインかもしれません。体内の水分バランスを調節する腎臓自体の機能が低下している「腎性」の原因や、尿の通り道が結石などで詰まっている「腎後性」の原因が疑われます。もし、足や顔のむくみ、息切れ、だるさといった他の症状を伴う場合は、腎臓や心臓に問題が生じている可能性が考えられます。自己判断で様子を見ず、速やかに医療機関でご相談ください(8)。
Q2. 高齢の家族の尿が少ないようです。何に気をつければよいですか?
A. 高齢者は喉の渇きを感じにくく脱水になりやすい上に、腎臓病、心臓病、前立腺肥大症など、乏尿の原因となる複数の病気を抱えていることが多いため、特に注意が必要です。「何となく元気がない」「食欲がない」といった普段との様子の違いも、体調不良の重要なサインです。公益財団法人長寿科学振興財団も高齢者の脱水に警鐘を鳴らしています(10)。普段の水分摂取量やトイレの回数、尿の色などをさりげなく確認し、明らかな変化や気になる点があれば、早めにかかりつけ医にご相談ください。
Q3. 尿の色が濃くて量も少ないのですが、大丈夫でしょうか?
A. はい、多くの場合、それは体の正常な生理的反応です。体内の水分が不足している場合、腎臓は水分をできるだけ体内に保持しようとして尿を濃縮します。その結果、尿の色が濃くなり、量も少なくなります。十分に水分を補給して尿の色が薄くなり、量も元に戻れば、通常は心配ありません。しかし、水分を摂ってもこの状態が何日も続く場合や、痛み、発熱、むくみといった他の症状を伴う場合は、単なる水分不足ではない可能性が考えられるため、受診をお勧めします(24)。
Q4. FENa(尿中ナトリウム分画排泄率)は利尿薬を服用中の患者でも信頼できますか?
A. いいえ、利尿薬を服用している患者さんでは、FENaの信頼性は低下します。利尿薬は尿中へのナトリウム排泄を促進するため、腎前性乏尿であってもFENaが1%を超えてしまう偽高値を示すことがあります。このようなケースでは、代わりにFEUrea(尿中尿素分画排泄率)を測定したり、身体所見や他の検査結果と合わせて総合的に判断することが重要です(18)。
Q5. 乏尿が原因で集中治療室(ICU)に入室する基準は何ですか?
A. 乏尿だけでICU入室が決まるわけではなく、全身状態によって総合的に判断されます。しかし、KDIGO分類でステージ3のAKI(無尿など)、重篤な電解質異常(特に高カリウム血症)、体液過剰による呼吸不全(肺水腫)、重度の代謝性アシドーシス、尿毒症による意識障害、あるいは尿路閉塞に敗血症を合併した場合などは、緊急透析や厳密な全身管理が必要となるため、ICU入室の強い適応となります(4)。
結論
尿量の減少、すなわち「乏尿」は、私たちの体が発する重要な健康のバロメーターです。その背後には、単純な水分不足から、迅速な対応を要する腎臓、泌尿器、心臓の病気まで、様々な原因が隠れている可能性があります。この記事を通じて、乏尿の医学的な意味、原因の分類、そして何よりも「見逃してはならない危険なサイン」についてご理解いただけたことと思います。正しい知識を持つことは、不必要な不安から自らを解放し、いざという時に冷静かつ適切な行動をとるための力となります。ご自身の体の小さな変化に気づき、もしこの記事で解説したような気になる症状があれば、決してためらうことなく、かかりつけ医や専門の医療機関(内科、腎臓内科、泌尿器科)へ相談する勇気を持ってください。それが、あなたの未来の健康を守るための、最も確実で重要な一歩です。
免責事項: 本記事は、医学的知識の普及・啓発を目的とした情報提供を行うものであり、専門的な医学的アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の健康状態に関する懸念や、治療に関する決定を行う際には、必ず資格を有する医療専門家にご相談ください。
参考文献
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