【専門医が解説】尿量が少ない(乏尿)原因と危険なサイン|腎臓病や脱水、前立腺肥大症の可能性と対処法
腎臓と尿路の病気

【専門医が解説】尿量が少ない(乏尿)原因と危険なサイン|腎臓病や脱水、前立腺肥大症の可能性と対処法

「水をたくさん飲んでいるはずなのに、どうもトイレの回数が減った」「足がむくんで体もだるいが、尿はあまり出ない」。このような尿量の変化に、不安を感じていませんか。尿量の減少は、単なる水分不足から、腎臓や心臓の重篤な病気の兆候まで、体からの重要なサインである可能性があります。特に、日本における慢性腎臓病(CKD)の患者数は、厚生労働省のデータによると成人の約8人に1人にあたる約1,300万人に上ると推計されており、決して他人事ではありません1。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が、日本腎臓学会や日本泌尿器科学会などの主要な診療ガイドラインに基づき、尿量が少なくなる「乏尿」について、その医学的な定義、考えられる全ての原因、危険なサインの見分け方、病院での検査・治療、そして日常生活での予防策まで、網羅的かつ専門的に解説します。

この記事の科学的根拠

この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に、本記事で提示される医学的指導の根拠となる主要な情報源とその関連性を示します。

  • KDIGO (Kidney Disease: Improving Global Outcomes): 本記事における急性腎障害(AKI)の国際的な定義および重症度分類に関する記述は、国際的な腎臓病ガイドライン策定組織であるKDIGOの診療ガイドラインに基づいています2
  • 日本腎臓学会: 慢性腎臓病(CKD)の管理、特に水分摂取に関する推奨や、日本国内における急性腎障害(AKI)の診断・治療に関する記述は、同学会が発行する最新の診療ガイドラインを主要な根拠としています34
  • 日本泌尿器科学会: 前立腺肥大症や尿路結石症といった、尿路の閉塞によって生じる乏尿に関する病態、診断、治療法についての記述は、同学会が中心となって作成した診療ガイドラインに基づいています56
  • 厚生労働省 / 日本透析医学会: 日本国内における慢性腎臓病患者数や透析医療の現状に関する統計データは、これらの公的機関が発表した最新の公式報告書を引用しています1

要点まとめ

  • 「乏尿(ぼうにょう)」とは、医学的に1日の尿量が400mL未満に減少した状態を指し、100mL未満は「無尿」としてさらに重篤な状態とされます。
  • 原因は、脱水などで腎臓への血流が減る「腎前性」、腎臓自体の障害である「腎性」、結石などで尿路が詰まる「腎後性」の3つに大別されます。
  • 激しい痛み、高熱、呼吸困難、意識障害などを伴う場合は、緊急治療が必要な危険なサインです。直ちに医療機関を受診してください。
  • 治療は原因によって全く異なり、点滴による水分補給、原因薬剤の中止、閉塞の解除などが行われます。自己判断は非常に危険です。
  • 予防の基本は適切な水分摂取ですが、心臓や腎臓に持病がある場合は医師の指示に従うことが極めて重要です。

どのくらいからが「尿量減少(乏尿)」?医学的な定義と基準

「尿が少ない」という主観的な感覚は、一体どの程度の状態を指すのでしょうか。医学的には、尿量の減少はその程度によって明確に定義されており、自身の状態を客観的に把握するための重要な指標となります。健康な成人の1日の尿量は、摂取する水分量や発汗量によって変動しますが、おおよそ1000mLから2000mLが一般的です7。これに対し、尿量が著しく減少した状態を「乏尿」、さらに重篤な状態を「無尿」と呼びます。

また、現代の臨床現場では、急激な腎機能の低下を示す「急性腎障害(AKI: Acute Kidney Injury)」という概念が非常に重要視されています。国際的な組織であるKDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)は、このAKIの重症度を尿量の基準を用いて分類しており、世界中の医療現場で標準的な指標として用いられています2

乏尿・無尿の定義と急性腎障害(AKI)の国際基準
状態 一般的な定義 (1日あたり) 急性腎障害(AKI)の国際基準 (KDIGO)
正常 400mL以上8
乏尿 (Oliguria) 400mL未満8 ステージ2: 12時間以上、尿量が体重1kgあたり毎時0.5mL未満2
無尿 (Anuria) 100mL未満 (または50mL未満)7 ステージ3: 12時間以上、無尿2

出典: 日本腎臓学会「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」4、KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury2、MSDマニュアル7等の情報を基にJHO編集部作成。

なぜ尿は少なくなるのか?原因を3つのタイプで徹底解明

乏尿の原因は多岐にわたりますが、医学的にはその発生機序から大きく3つのタイプに分類されます。それは、(1)腎臓に流れ込む血液が減少する「腎前性」、(2)腎臓そのものに問題が生じる「腎性」、(3)腎臓で作られた尿の通り道が塞がれる「腎後性」です8。この分類を理解することは、複雑な乏尿の原因を体系的に理解し、適切な対処法を見つけるための第一歩となります。水道設備に例えるなら、「腎前性」は蛇口から出る水の量が減ること、「腎性」は浄水器自体が故障すること、「腎後性」は排水管が詰まることに相当します。

2.1. 腎前性乏尿:腎臓に血液が十分に届かない状態

これは、腎臓自体の機能は正常であるものの、腎臓に流れ込む血液の量(腎血流量)が減少するために尿が作れなくなる状態です。乏尿の原因として最も頻度が高いタイプです。

  • 脱水: 激しい下痢、嘔吐、高熱、多量の発汗などによって体内の水分が失われると、全身を循環する血液量も減少し、腎血流量が低下します。これが乏尿の最も一般的な原因です9。特に高齢者は、のどの渇きを感じにくくなったり、体内に水分を蓄える能力が低下していたりするため、脱水を起こしやすい傾向にあります。公益財団法人長寿科学振興財団の報告によれば、高齢者は知らず知らずのうちに「かくれ脱水」に陥っていることが少なくありません10
  • 心不全・ショック: 心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を担っています。心不全によってこのポンプ機能が低下すると、腎臓に十分な血液を送ることができなくなり、乏尿を引き起こします8。また、大出血や重度の感染症(敗血症)などにより血圧が急激に低下する「ショック状態」も、腎血流量を著しく減少させる重大な原因となります。

2.2. 腎性乏尿:腎臓そのものの機能障害

これは、腎臓の主要な構成要素である「糸球体(血液をろ過するフィルター)」や「尿細管(ろ過された尿から必要な水分・物質を再吸収する管)」が直接的なダメージを受け、尿を正常に生成できなくなる状態です。

  • 急性尿細管壊死 (ATN): 腎性乏尿の主要な原因の一つです。MSDマニュアルによると、重度の血圧低下(虚血)が長時間続いたり、腎臓に毒性を持つ物質(薬剤や造影剤など)に曝露されたりすることで、尿細管の上皮細胞が壊死し、腎機能が急激に低下する病態です11
  • 薬剤性腎障害 (DKI): 私たちが日常的に使用する薬剤の中にも、腎臓に負担をかけるものが数多く存在します。特に、市販もされている非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)、一部の抗生物質や降圧薬、検査で用いられる造影剤などが原因となり得ます12。もともと腎機能が低下している方や高齢者では、特に注意が必要です。
  • 慢性腎臓病 (CKD) の急性増悪: 普段から腎機能が低下している慢性腎臓病の患者さんが、脱水、感染症、薬剤の使用などをきっかけに、急激に腎機能が悪化し、乏尿をきたすことがあります。
  • 糸球体腎炎: 免疫の異常などにより、腎臓のフィルターである糸球体に炎症が起こる病気です。これによりろ過機能が障害され、乏尿の原因となることがあります。
薬剤性腎障害(DKI)の主な原因薬剤と特徴
薬剤の種類 代表的な薬剤名 主な障害機序
非ステロイド性消炎鎮痛薬 (NSAIDs) イブプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク 腎血流低下、急性間質性腎炎13
抗菌薬(抗生物質) アミノグリコシド系、バンコマイシン、ニューキノロン系 急性尿細管壊死、急性間質性腎炎13
降圧薬 ACE阻害薬、ARB 腎血流低下(特に脱水時や両側性腎動脈狭窄時)13
利尿薬 フロセミド、サイアザイド系 体液量減少による腎前性乏尿、急性間質性腎炎13
造影剤 ヨード造影剤 急性尿細管壊死(造影剤腎症)2
抗がん剤 シスプラチンなど 急性尿細管壊死13

出典: 日本腎臓学会「腎機能低下をきたす薬剤性腎障害」13、KDIGOガイドライン2等の情報を基にJHO編集部作成。ここに挙げた薬剤は一部です。服用中の薬について不安な点があれば、必ず医師や薬剤師にご相談ください。

2.3. 腎後性乏尿:尿の通り道(尿路)の閉塞

腎臓では尿が正常に作られているにもかかわらず、その通り道である尿管、膀胱、尿道のどこかが物理的に塞がれてしまうことで、尿が体外に排出できなくなる状態です。

  • 尿路結石: 腎臓内でできた結石が尿管に落下し、詰まることで尿の流れを強力に堰き止めます。通常、人間の腎臓は左右に二つあるため、片側の尿管が詰まっただけでは乏尿にはなりませんが、腎臓が一つしかない方や、ごく稀に両側の尿管が同時に詰まった場合には、完全な無尿に至ることもあります。日本泌尿器科学会のガイドラインによれば、多くの場合、背中から脇腹にかけて、転げ回るほどの激しい痛みを伴います6
  • 前立腺肥大症: 中高年以降の男性に非常に多く見られる疾患です。膀胱の出口にある前立腺が肥大することで尿道を圧迫し、「尿の勢いが弱い」「排尿に時間がかかる」といった症状を引き起こします。これが進行すると、尿が完全に出せなくなる「尿閉」という状態になり、乏尿や無尿の原因となります5
  • 腫瘍: 膀胱がんのほか、進行した子宮がんや大腸がんなどの骨盤内腫瘍が尿管を外から圧迫し、尿の流れを妨げることもあります8

これは危険?受診を急ぐべき「乏尿」のサイン

尿量の減少に気づいても、「少し様子を見よう」と自己判断してしまうのは大変危険な場合があります。特に、以下のような症状を伴う乏尿は、生命に関わる重篤な状態を示唆している可能性があり、一刻も早い医学的対応が必要です。これらの「危険なサイン」を正しく認識し、迅速に行動することが、ご自身の健康を守る上で極めて重要です。

直ちに救急受診または救急車を検討すべき症状

  • 尿が全く出ない、あるいはほぼ出ない(無尿)14
  • 転げ回るほどの、あるいは冷や汗をかくほどの激しい腰痛・腹痛・背部痛(尿路結石による閉塞の可能性6
  • 38度以上の高熱、悪寒、体の震えを伴う(尿路閉塞に感染が合併した閉塞性腎盂腎炎など、重症感染症のサイン6
  • 息切れ、呼吸が苦しい、横になると咳が出て苦しさが増す(心不全や重度の体液過剰のサイン15
  • 顔や手足に顕著なむくみ(浮腫)があり、数日で急激に体重が増加した12
  • 意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍い、話のつじつまが合わない(尿毒症や脱水による意識障害の可能性9
  • 激しい嘔吐や下痢が続き、水分が全く摂れない状態15

これらの症状が一つでも当てはまる場合は、自己判断で様子を見ることなく、ためらわずに夜間・休日であっても救急外来を受診するか、119番通報で救急車を要請してください。

病院では何をする?乏尿の診断プロセス

乏尿を主訴に医療機関を受診した場合、医師はパズルを解くように、体系的な診察と検査を通じてその根本原因を突き止めます。患者さん自身がどのような検査がなぜ行われるのかを事前に理解しておくことで、診断プロセスへの不安を和らげ、医師との円滑なコミュニケーションに繋がります。

  1. 問診: 診断の最も重要な第一歩です。医師は以下のような点を詳しく尋ねます16
    • いつから尿量が減ったか、その程度はどうか
    • 他にどんな症状があるか(痛み、発熱、むくみ、息切れなど)
    • 過去の病歴(特に糖尿病、高血圧、心臓病、腎臓病、前立腺疾患など)
    • 現在服用している全ての薬剤(処方薬、市販薬、漢方薬、サプリメントを含む)
  2. 身体診察: 血圧、脈拍、体温の測定のほか、顔や足のむくみの有無、聴診器での心音や呼吸音の確認、腹部の触診(膀胱が尿でパンパンに張っていないか)、背中を軽く叩いて痛みがないか(叩打痛、腎臓の炎症を示唆)などを調べます。
  3. 尿検査: 非常に多くの情報が得られる重要な検査です。
    • 尿沈渣(にょうちんさ): 尿を遠心分離機にかけ、沈殿した成分(赤血球、白血球、細菌、細胞、円柱など)を顕微鏡で詳細に観察します。尿沈渣は「腎臓の生検」とも言われるほど重要で、例えば「褐色顆粒円柱」が見られれば急性尿細管壊死を、「赤血球円柱」が見られれば糸球体腎炎を強く疑う手がかりとなります17
    • 尿中ナトリウム濃度 (UNa) と ナトリウム分画排泄率 (FENa): 腎臓がナトリウムを保持しようと懸命に働いているか(腎前性を示唆、FENa < 1%)、それともナトリウムを保持する能力が失われ垂れ流しの状態になっているか(腎性・急性尿細管壊死を示唆、FENa > 1%)を評価し、腎前性と腎性の鑑別に役立てます18
  4. 血液検査:
    • 腎機能の指標である血清クレアチニン(Cr)や尿素窒素(BUN)を測定し、腎機能低下の程度を客観的に評価します16
    • カリウムやナトリウムなどの電解質バランスの異常や、炎症反応(CRP、白血球数)の有無を確認し、全身の状態を把握します。
  5. 画像検査:
    • 腹部超音波(エコー)検査: 痛みや放射線被ばくがなく、ベッドサイドで簡便に行えるため、第一選択の検査となります。腎臓の大きさや形、尿路が閉塞して腎臓が腫れている状態(水腎症)の有無、膀胱の状態、前立腺の大きさなどを評価できます8
    • CTスキャン: 超音波検査で異常が疑われた場合や、尿路結石、腫瘍などの位置や大きさをより詳細に評価したい場合に行われます。

これらの検査結果を総合的に判断することで、乏尿の原因が「腎前性」「腎性」「腎後性」のいずれであるかを鑑別し、最終的な診断と治療方針の決定に繋げます。

乏尿の鑑別診断のポイント
分類 主な原因 典型的な症状 尿検査のヒント (FENa, 尿沈渣) 画像検査の所見
腎前性 脱水、心不全、ショック のどの渇き、血圧低下、頻脈、浮腫 FENa < 1% (腎臓はNaを保持しようとする)。尿は濃縮。尿沈渣は比較的正常。 特異的な異常なし。
腎性 急性尿細管壊死(ATN)、薬剤性腎障害、糸球体腎炎 原因疾患による症状、倦怠感 FENa > 1% (ATNの場合)。褐色顆粒円柱、腎尿細管上皮円柱など特徴的な円柱。 特異的な異常なし、または原因疾患を示唆する所見。
腎後性 尿路結石、前立腺肥大症、腫瘍 激しい痛み(結石)、排尿困難(前立腺) 血尿、膿尿。FENaは変動しうる。 超音波やCTで水腎症(尿路の拡張)や閉塞原因が明確に描出される。

出典: 複数の診療ガイドライン681817の情報を基にJHO編集部作成。

乏尿の治療法:原因に応じたアプローチ

乏尿の治療は、診断によって特定された根本原因に対して行われます。原因によって治療法は180度異なるため、正確な診断がいかに重要であるかがわかります。自己判断での対処は症状を悪化させるだけでなく、生命に危険を及ぼす可能性もあるため、絶対に避けるべきです。

  • 腎前性乏尿の治療: 脱水が原因であれば、治療の基本は水分と電解質の補給です。軽度であれば経口補水液などで対応可能ですが、中等症以上では医療機関での点滴(静脈内輸液)が必要となります19。ただし、同じ腎前性でも心不全が原因の場合は、安易な水分補給は心臓の負担を増やし、肺に水が溜まる(肺水腫)危険があるため、むしろ水分制限や利尿薬による体液量のコントロールが必要となります。
  • 腎性乏尿の治療: 腎臓自体に問題がある場合の治療は、その原因疾患に対して行われます。
    • 原因となっている薬剤が特定された場合は、可能な限り速やかにその薬剤を中止または変更します12
    • 腎炎などに対しては、ステロイドや免疫抑制薬を用いた専門的な治療が行われます。
    • 血圧の管理、電解質異常の補正、食事療法など、腎臓へのさらなる負担を軽減するための支持療法が中心となります。
    • 【重要な注意点】: 多くの人が「尿が出ないなら利尿薬を使えばよい」と考えがちですが、日本腎臓学会のAKI診療ガイドラインでは、体液過剰(むくみ)がない状態で、単に尿量を増やす目的だけで利尿薬を安易に使用することは推奨されていません4。不適切な使用はかえって腎機能を悪化させる可能性があるため、専門医の厳密な判断のもとで用いられます。
    • 腎機能の回復が見込めない重篤なケースでは、体内の老廃物や過剰な水分を除去し生命を維持するために、血液透析や腹膜透析といった腎代替療法が必要となります20
  • 腎後性乏尿の治療: 尿路の物理的な閉塞が原因であるため、治療の最優先事項は、その閉塞を可及的速やかに解除することです。
    • 尿管結石や腫瘍による尿管の閉塞に対しては、尿道から内視鏡を入れて尿管内に細い管(尿管ステント)を留置したり、背中から腎臓に直接管を刺して尿を体外に出す(腎瘻造設)といった緊急の尿路ドレナージ(尿の流れ道の確保)が行われます。これにより腎臓への圧力を下げ、感染のリスクを回避します6
    • 前立腺肥大症による尿閉に対しては、まずは尿道からカテーテルを挿入して膀胱に溜まった尿を排出させます。その後、薬物療法や手術(経尿道的前立腺切除術など)によって根本的な原因の治療を行います12

乏尿を予防・改善するためのセルフケアと生活習慣

全ての乏尿が予防できるわけではありませんが、日常生活における適切な水分管理と自身の健康状態への注意が、特に腎前性の乏尿を予防する上で最も効果的な対策となります。

  • 適切な水分摂取: 基本は、のどが渇いたと感じる前に、こまめに水分を摂る習慣です。1日に必要な水分量は個人の活動量や環境によって異なりますが、食事以外に1.2リットル程度が一つの目安とされています。
  • 慢性腎臓病(CKD)患者の水分摂取に関する専門的アドバイス: 腎臓に持病がある方の水分管理は、より慎重な判断が求められます。日本腎臓学会が発行した最新の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」によると、むくみ(溢水)がない限り、CKD患者さんに対して一律に水分を制限することは推奨されていません。一方で、健康な人以上に意図的に飲水量を増やすことについても、腎機能低下を抑制する明確な効果は示されておらず、推奨されていません21。自己判断で水分を過剰に摂ったり制限したりせず、必ず主治医の指示に従ってください。
  • 食事の注意: 塩分の過剰摂取は高血圧やむくみの原因となり、腎臓に大きな負担をかけます。日頃から減塩を心がけることが重要です。
  • 薬剤の確認: 薬局で購入できる市販の痛み止め(非ステロイド性消炎鎮痛薬: NSAIDs)であっても、漫然と長期に連用すると腎障害のリスクを高める可能性があります22。安易な使用は避け、使用する場合は短期間に留め、不安な点は薬剤師に相談しましょう。
  • 定期的な健康診断: 症状がない段階でも、定期的に健康診断を受けることで腎機能の異常(血液検査でのeGFR値の確認)や尿の異常(尿蛋白、尿潜血)を早期に発見できます。これが、重篤な腎臓病への進行を防ぐ最も確実な方法の一つです23

よくある質問

Q1. 水をたくさん飲んでいるのに尿が少ないのはなぜですか?

A. 単純な水分不足以外の原因が考えられます。特に、体内の水分バランスを調節する腎臓自体の機能が低下している「腎性」の原因や、尿の通り道が結石などで詰まっている「腎後性」の原因が疑われます。もし、足や顔のむくみ、息切れ、だるさといった他の症状を伴う場合は、腎臓や心臓に問題が生じている可能性があります。自己判断で様子を見ず、速やかに医療機関でご相談ください8

Q2. 高齢の家族の尿が少ないようです。何に気をつければよいですか?

A. 高齢者はのどの渇きを感じにくく脱水になりやすい上に、腎臓病、心臓病、前立腺肥大症など、乏尿の原因となる複数の病気を抱えていることが多いため、特に注意が必要です。「何となく元気がない」「食欲がない」といった普段との様子の違いも、体調不良の重要なサインです。公益財団法人長寿科学振興財団も高齢者の脱水に警鐘を鳴らしています10。普段の水分摂取量やトイレの回数、尿の色などをさりげなく確認し、明らかな変化や気になる点があれば、早めにかかりつけ医にご相談ください。

Q3. 尿の色が濃くて量も少ないのですが、大丈夫でしょうか?

A. 体内の水分が不足している場合、腎臓は水分をできるだけ体内に保持しようとして尿を濃縮します。その結果、尿の色が濃くなり、量も少なくなるのは、体の正常な生理的反応です。十分に水分を補給して尿の色が薄く、量も元に戻れば、通常は心配ありません。しかし、水分を摂ってもこの状態が何日も続く場合や、痛み、発熱、むくみといった他の症状を伴う場合は、単なる水分不足ではない可能性が考えられるため、受診をお勧めします24

Q4. 乏尿で病院に行くと、どんな治療をされますか?

A. 治療法は原因によって全く異なります。脱水であれば点滴、尿路結石による閉塞であれば痛みの治療や尿の流れを確保するための緊急処置、薬剤が原因であればその中止など、診断に基づいて最適な治療が行われます6。したがって、最も重要なのは、まず専門家による正確な原因特定です。自己判断で特定の治療法を期待するのではなく、まずは医師の診断を仰ぐことが大切です。

結論

尿量の減少、すなわち「乏尿」は、私たちの体が発する重要な健康のバロメーターです。その背後には、単純な水分不足から、迅速な対応を要する腎臓、泌尿器、心臓の病気まで、様々な原因が隠れている可能性があります。この記事を通じて、乏尿の医学的な意味、原因の分類、そして何よりも「見逃してはならない危険なサイン」についてご理解いただけたことと思います。正しい知識を持つことは、不必要な不安から自らを解放し、いざという時に冷静かつ適切な行動をとるための力となります。ご自身の体の小さな変化に気づき、もしこの記事で解説したような気になる症状があれば、決してためらうことなく、かかりつけ医や専門の医療機関(内科、腎臓内科、泌尿器科)へ相談する勇気を持ってください。それが、あなたの未来の健康を守るための、最も確実で重要な一歩です。

免責事項本記事は、医学的知識の普及・啓発を目的とした情報提供を行うものであり、専門的な医学的アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の健康状態に関する懸念や、治療に関する決定を行う際には、必ず資格を有する医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  3. 日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 2023. Available from: https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00779/
  4. 日本腎臓学会, 日本集中治療医学会, 日本透析医学会, 日本小児腎臓病学会, 日本急性血液浄化学会. AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016. 日本腎臓学会誌. 2017;59(5):419-533. Available from: https://cdn.jsn.or.jp/guideline/pdf/419-533.pdf
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