この記事の科学的根拠
この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストは、本稿で提示される医学的指導に直接関連する、実際に参照された情報源のみを含みます。
- 厚生労働省・国立感染症研究所: 日本国内におけるA群レンサ球菌感染症および劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の最新の疫学動向、公衆衛生上の警鐘に関する記述は、これらの国内最高位の権威機関が公開する報告書に基づいています3410。
- 日本感染症学会・日本小児科学会: 日本における診断アプローチ、治療薬の選択、抗菌薬の適正使用に関する提言やガイドラインは、これらの国内の主要な学術団体の見解を根拠としています7122325。
- 米国疾病対策センター(CDC)・米国感染症学会(IDSA): 検査戦略(Test and Treat方針)、推奨される治療薬、合併症予防を最優先する米国の標準的な診療ガイドラインに関する記述は、これらの国際的権威機関の指針に基づいています6817。
- 英国国立医療技術評価機構(NICE): 抗菌薬の適正使用を重視し、臨床スコア(FeverPAIN)の活用やバックアップ処方を推奨する英国の診療ガイドラインに関する記述は、NICEの指針を根拠としています530。
要点まとめ
- 扁桃炎は扁桃が炎症を起こした「状態」を指し、その原因はウイルスが大多数です。一方、溶連菌感染症は「A群レンサ球菌」という特定の細菌による「病気」であり、扁桃炎の主要な原因の一つです110。
- 咳や鼻水を伴わず、突然の高熱、激しい喉の痛み、苺舌などが見られる場合は溶連菌感染症の可能性が高まります。咳や鼻水など風邪症状が主体の場合はウイルス性の可能性が高いです26。
- 病院では迅速検査が主流ですが、結果が陽性でも症状の原因とは限らない「無症候性保菌者」の存在に注意が必要です。診断は医師による総合的な判断が不可欠です2。
- 溶連菌感染症には、リウマチ熱などの重い合併症を防ぐために抗菌薬治療が必須です。症状が改善しても、処方された日数を必ず飲み切ることが極めて重要です17。
- 日本では2023年以降、溶連菌感染症が記録的に流行しており、致死率の高い「劇症型溶連菌感染症(STSS)」も増加傾向にあります。これは社会全体で警戒すべき公衆衛生上の脅威です34。
- お子様が溶連菌感染症にかかった場合、学校保健安全法に基づき、適切な抗菌薬治療開始後24時間を経過し、全身状態が良好になれば登校可能です31。
結論:扁桃炎と溶連菌感染症の決定的な違い
まず結論から。扁桃炎は「のどの扁桃が炎症を起こしている状態」、溶連菌感染症は「A群レンサ球菌という細菌が原因の病気」です。つまり、溶連菌感染症は扁桃炎の主要な原因の一つですが、全ての扁桃炎が溶連菌が原因というわけではありません。この根本的な関係性を理解することが、適切な対応への第一歩となります。以下の表で、その違いをひと目で確認しましょう。
項目 | 急性扁桃炎 (Tonsillitis) | A群レンサ球菌咽頭炎 (溶連菌感染症) |
---|---|---|
定義 | 扁桃という組織の「炎症状態」1 | Streptococcus pyogenesによる「感染症」10 |
原因 | ウイルスが最多。その他、細菌など様々12 | A群レンサ球菌という特定の細菌11 |
主な症状 | のどの痛み、発熱、嚥下痛 | 突然の高熱、激しい咽頭痛、苺舌、発疹など10 |
咳・鼻水の有無 | ウイルス性の場合、伴うことが多い17 | 伴わないことが多い13 |
治療法 | 原因による。ウイルス性なら対症療法、細菌性なら抗菌薬1 | 抗菌薬治療が必須(合併症予防のため)7 |
感染力 | 原因による。ウイルス、細菌ともに感染力あり | 感染力は強い(飛沫・接触感染)10 |
出席停止の要否 | 原因による。溶連菌やアデノウイルス等の場合は必要 | 必要(抗菌薬開始後24時間経過し全身状態が良くなるまで)31 |
「扁桃炎」とは?― のどの炎症状態を理解する
扁桃腺の場所と免疫における役割
一般的に「扁桃腺」と呼ばれるのは、口を大きく開けたときに喉の奥の両側に見える「口蓋扁桃」のことです。これはリンパ組織の集合体であり、鼻や口から侵入してくる細菌やウイルスに対する最初の防御ラインとして、体の免疫システムにおいて重要な役割を担っています。この扁桃に炎症が起きている状態そのものが「扁桃炎」です1。扁桃炎という言葉は、あくまで解剖学的な部位の病態を示しており、それ自体が原因を特定するものではありません。
扁桃炎の原因は一つじゃない:大半はウイルス、一部が細菌
急性扁桃炎を含む急性咽頭炎(のどの痛み)は、多岐にわたる微生物によって引き起こされます。その原因のスペクトラムを理解することは、適切な対処法を考える上で不可欠です。
- ウイルス:急性咽頭炎の最も一般的な原因であり、全体の大多数を占めます12。ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルスといった一般的な風邪のウイルスから、アデノウイルスやEBウイルス(エプスタイン・バー・ウイルス)のように、特に高熱や強い扁桃の腫れを引き起こすものまで様々です2。ウイルス感染が原因の場合、抗菌薬(抗生物質)は効果がなく、治療は症状を和らげる対症療法が中心となります5。
- 細菌:細菌が原因となる中で最も重要視されるのが、後述する「A群レンサ球菌」です。しかし、特に成人においては、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、あるいはC群やG群のレンサ球菌などが原因となるケースも少なくないと、日本の臨床医から指摘されています9。これは「のどの痛み=ウイルスか溶連菌か」という単純な二元論では捉えきれない、臨床の現実を反映しています。
「溶連菌感染症」とは?― 特定の細菌が起こす病気
原因菌は「A群レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)」
A群レンサ球菌咽頭炎、一般的に「溶連菌感染症」として広く知られるこの病気は、Streptococcus pyogenes(化膿レンサ球菌)という特定の細菌による感染症です10。この疾患は咽頭全体に炎症を引き起こし、しばしば強い扁桃炎を伴います。疫学的には、小児の急性咽頭炎の約15~30%、成人の約5~15%を占めるとされています13。
この菌が臨床的に極めて重要視されるのは、放置するとリウマチ熱や急性糸球体腎炎といった重篤な合併症を引き起こす危険性があるためです7。これらの合併症を予防する目的で、抗菌薬による治療が強く推奨されます。
なぜ「溶血性」レンサ球菌と呼ばれるのか?
レンサ球菌はその名の通り、顕微鏡で見ると球菌が鎖(チェーン)のようにつながって見えます。「溶血性」とは、この菌が血液を溶かす性質(溶血毒素を産生する能力)を持つことを意味します。特にA群レンサ球菌は、血液寒天培地という検査用の培地上で菌の周囲の血液を完全に溶かす「β溶血」という現象を示すため、医学的に「A群β溶血性レンサ球菌」とも呼ばれます11。
感染経路と潜伏期間
溶連菌の主な感染経路は、咳やくしゃみによって飛び散る飛沫を吸い込むことによる「飛沫感染」と、菌が付着した手で口や鼻に触れることによる「接触感染」です10。感染力が強く、特に幼稚園や学校といった集団生活の場で流行しやすいため注意が必要です。感染してから症状が出るまでの潜伏期間は、およそ2~5日とされています10。
症状から見分ける:これはウイルス?それとも溶連菌?
臨床現場では、まず症状や身体所見から原因微生物を推測します。典型的な溶連菌感染症は、ウイルス性の風邪とは異なる特徴を持つことが多いため、ご自身の症状をチェックする際の参考にしてください。
溶連菌感染症を強く疑うサイン(チェックリスト形式)
米国疾病対策センター(CDC)などが示す典型的な所見に基づくと、以下の症状が多く当てはまるほど、溶連菌感染症の可能性が高まります21013。
- 突然始まった38℃以上の高熱
- 咳や鼻水はほとんどない
- 喉が真っ赤に腫れ、扁桃に白い膿(滲出物)がついている
- 飲み込むのが辛いほどの強い喉の痛み
- 舌が赤くブツブツしている(苺舌)
- 体に細かい赤い発疹が出ている(猩紅熱)
- 首のリンパ節が腫れて痛む
- (年少児では)原因不明の腹痛や吐き気、嘔吐
ウイルス性を疑うサイン
一方で、以下のような、いわゆる「風邪」の症状が顕著である場合は、ウイルス感染の可能性が高くなります6。
- 咳、鼻水、くしゃみ
- 声がれ(嗄声)
- 目の充血(結膜炎)を伴う(特にアデノウイルスの特徴)
- 口の中に口内炎や潰瘍ができている
診断の進め方:病院では何をされる?
自己判断は危険です。溶連菌感染症が疑われる場合は、必ず医療機関を受診してください。医師は、診断が単純な検査結果の「陽性/陰性」だけで決まるものではなく、症状、身体所見、検査結果を総合的に評価する専門的なプロセスを経て診断を下します。
問診と視診(のどの所見の重要性)
まず、どのような症状がいつから始まったか、周囲での流行状況などを詳しく問診します。その後、喉を直接観察し、扁桃の発赤や腫れの程度、滲出物(白苔)の有無、口蓋の点状出血、苺舌といった溶連菌感染症に特徴的な所見がないかを確認します。
検査の必要性を判断する「臨床スコア」とは?
症状や所見だけでは診断が不確実な場合、客観的な指標として臨床スコアが用いられることがあります。例えば「Centor(センター)スコア」は、「38℃以上の発熱」「咳がない」「前頸部リンパ節の圧痛・腫脹」「扁桃の腫脹・滲出物」の4項目で評価し、溶連菌感染症である確率を予測します2。英国では「FeverPAINスコア」という別の基準も用いられます5。これらのスコアは、不要な検査や抗菌薬の使用を減らす目的で、検査の要否を判断する助けとなります24。
主流の「迅速抗原検査(RADT)」で何がわかるのか
現在、日本の多くのクリニックで主流となっているのが、迅速抗原検出検査(RADT)です。喉の奥を綿棒で拭い、5~10分程度で溶連菌の抗原(菌の成分)の有無を判定できます2。この検査は特異度(溶連菌でないものを正しく陰性と判定する確率)が非常に高いため、陽性と出た場合はほぼ確実に溶連菌がいることを意味します。しかし、感度(溶連菌であるものを正しく陽性と判定する確率)には限界があり、偽陰性(本当は感染しているのに陰性と出る)の可能性があります8。
【重要】知っておきたい「無症候性保菌者」の問題:陽性でも原因じゃない?
診断プロセスを複雑にする最も重要な要因が、この「無症候性保菌者」の存在です。特に学童期の小児の約5~20%は、症状が全くない健康な状態でも、咽頭にA群レンサ球菌を常在させている(保菌している)と報告されています2。このため、例えばアデノウイルスによるウイルス性咽頭炎にかかった保菌者の子供が迅速検査を受けると、検査結果は「陽性」と出てしまうことがあります。しかし、この場合の症状の本当の原因はウイルスであり、溶連菌ではありません。したがって、医師は検査結果の陽性・陰性だけで機械的に診断するのではなく、患者の症状(咳や鼻水の有無など)、臨床所見、地域の流行状況などを総合的に判断し、真の溶連菌感染症なのか、それとも単なる保菌者のウイルス感染なのかを慎重に見極める必要があるのです。これは、質の高い医療情報を提供する上で不可欠な、専門的な判断のニュアンスです。
より確実な検査(培養検査、核酸増幅検査)が必要な場合
迅速検査で陰性でも、症状から強く溶連菌感染症が疑われる場合などには、より感度の高い検査が検討されます。
- 培養検査:咽頭から採取した検体を培地で培養し、菌の増殖を確認する検査です。診断の「ゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)」とされ、感度が高いですが、結果判明までに1~2日かかります614。米国感染症学会(IDSA)は、小児や青年において迅速検査が陰性であった場合、培養検査による確認を推奨しています6。
- 核酸増幅検査(NAAT):PCR法などがこれにあたります。菌の遺伝子を増幅して検出するため、培養検査に匹敵する高い感度を持ちながら、より迅速に結果を得られます。日本感染症学会は、迅速検査の感度不足を補い、不適切な抗菌薬使用を減らす上で、この検査の有効活用を提言しています25。
治療法のすべて:抗生物質は本当に必要?
治療法は、扁桃炎の原因がウイルスなのか細菌なのかによって根本的に異なります。
ウイルス性扁桃炎の治療:安静と対症療法が中心
原因がウイルスの場合、抗菌薬は全く効果がありません。治療の基本は、症状を和らげる対症療法です。具体的には、十分な休息と水分補給、そして喉の痛みや発熱に対しては解熱鎮痛剤(アセトアミノフェンやイブプロフェンなど)を使用します37。ほとんどの場合、自身の免疫力で1週間以内に回復します。
溶連菌感染症の治療:なぜ抗菌薬(抗生物質)が必須なのか
一方、溶連菌感染症と診断された場合は、抗菌薬による治療が絶対的に必要です。その目的は以下の3つです8。
- 症状(発熱や喉の痛み)を速やかに改善させる。
- 家族や学校など、他者への感染拡大を防ぐ。
- 最も重要な目的として、後述するリウマチ熱などの重篤な合併症を予防する。
国際比較:抗菌薬に対する考え方は世界で違う?
溶連菌が疑われる場合の対応は、国や地域の医療文化によって考え方に違いがあります。これは、どのリスクを最も重く見るかという思想的差異を反映しています。
- 米国(IDSA/CDC) – 「合併症予防」最優先:リウマチ熱という重篤な合併症の予防を最重要視し、「検査して治療(Test and Treat)」を基本方針とします27。臨床的に疑わしい場合は積極的に検査を行い、陽性であれば抗菌薬を処方します。
- 英国(NICE) – 「抗菌薬適正使用」最優先:世界的な課題である薬剤耐性(AMR)対策を重視し、臨床スコア(FeverPAIN)で重症度を判断します5。スコアが低い患者には抗菌薬を処方せず、中等度の患者には「症状が悪化したら服用する」という条件付きの「バックアップ処方」を提案します。NICEは、抗菌薬による症状短縮効果は限定的であり、ほとんどの患者は自然に回復すると強調しています5。
- 日本(学会ガイドライン) – 米国に近いアプローチ:日本の学会ガイドラインは、概して米国と同様に「合併症予防」を重視する傾向にあります7。迅速検査で陽性と判定された患者には、抗菌薬治療を行うのが一般的です。
項目 | 日本 (学会GL) | 米国 (IDSA/CDC) | 英国 (NICE) |
---|---|---|---|
基本方針 | 合併症予防を重視7 | 合併症(リウマチ熱)予防を最優先8 | 抗菌薬適正使用を最優先30 |
臨床スコアの役割 | 診断の補助として参考2 | 検査の要否を判断するリスク層別化ツール24 | 抗菌薬処方の要否を判断する主要ツール (FeverPAIN)5 |
検査戦略 | 疑わしければRADTを積極的に実施23 | 臨床的に疑わしい場合、RADTを実施。小児・青年でRADT陰性なら培養で確認6 | 高スコアの場合に検査を検討。低スコアでは検査不要5 |
抗菌薬処方の閾値 | RADT陽性で原則処方 | RADTまたは培養陽性で処方 | 高スコア(4-5点)で即時処方を検討。中スコアではバックアップ処方を考慮5 |
処方される主な抗菌薬の種類と正しい服用期間(10日間が世界の基本)
溶連菌感染症と診断された場合、ペニシリン系の抗菌薬(日本ではアモキシシリンが広く用いられる)が国際的な第一選択薬です6。その理由は、有効性が高く、かつ標的とする菌の範囲が狭いため、不必要な耐性菌を誘導しにくいからです。標準的な投与期間は10日間です6。ペニシリンアレルギーがある場合は、セフェム系やマクロライド系の抗菌薬などが代替薬として用いられます6。
【最重要】症状が消えても薬を飲み切るべき理由
抗菌薬を服用し始めると、通常1~3日で熱が下がり、喉の痛みも劇的に改善します。しかし、ここで自己判断で服用を中止してしまうことは絶対に避けてください。症状が改善しても、喉の奥にはまだ菌が残っています。処方された10日間の抗菌薬を最後まで飲み切ることは、症状の再発を防ぐだけでなく、咽頭から菌を完全に除去し、後述するリウマチ熱という最も恐ろしい合併症を予防するために不可欠なのです1。
放置は危険!溶連菌感染症の合併症
抗菌薬治療が強く推奨される最大の理由は、重篤な合併症を予防することにあります。
心臓に後遺症を残す「リウマチ熱」
リウマチ熱は、治療が不十分だった場合に、溶連菌感染から数週間後に発症しうる免疫系の異常反応です。関節炎、心炎、舞踏病などの症状を呈し、特に心臓の弁に永続的な障害(リウマチ性心疾患)を残す可能性がある、最も警戒すべき合併症です34。適切な抗菌薬治療(10日間)により、その発症はほぼ確実に予防できることが証明されており、これが抗菌薬治療の最大の根拠となっています7。
腎臓に影響を及ぼす「急性糸球体腎炎」
急性糸球体腎炎(PSGN)は、感染から1~3週間後に血尿、蛋白尿、むくみ(浮腫)、高血圧などを引き起こす腎臓の炎症です。溶連菌咽頭炎だけでなく、皮膚の溶連菌感染の後にも起こりえます7。リウマチ熱とは異なり、抗菌薬治療が発症を確実に予防するというエビデンスは確立されていませんが、原因菌の除去や他者への伝播を防ぐ上で治療は重要です31。
【最新情報】命に関わる「劇症型溶連菌感染症(STSS)」との関連
近年、日本国内で特に注意喚起されているのが、溶連菌感染症の流行との関連が指摘される「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」です。これは「人食いバクテリア」とも呼ばれ、急速に組織壊死や多臓器不全が進行し、致死率が約30%にも達する極めて危険な病態です。国立感染症研究所の報告によると、COVID-19パンデミック後の2023年後半から、通常のA群レンサ球菌咽頭炎の報告数が記録的に急増すると同時に、このSTSSの報告数も顕著に増加しています3。厚生労働省も、STSS増加の要因の一つとして、咽頭炎患者の増加を挙げています4。この憂慮すべき状況は、ありふれた喉の痛みであっても、その背景にある溶連菌感染症を軽視してはならないという、現代社会への強力な警鐘と言えるでしょう。
子どもと大人のためのQ&A
Q1: 子供が溶連菌に感染しました。学校や保育園は何日休ませればよいですか?
Q2: 大人も溶連菌に感染しますか?子供からうつる場合の注意点は?
Q3: 家族にうつさないために、家庭内でできる予防策はありますか?
A3: 溶連菌は飛沫感染と接触感染で広がるため、家庭内での基本的な感染対策が重要です。具体的には、手洗い・うがいの徹底、患者が使った食器やタオルの共用を避けること、患者の咳エチケット(マスク着用)などが挙げられます。兄弟がいる場合は特に注意が必要です。症状が出た場合は、早めに医療機関を受診することが感染拡大を防ぐ上で最も効果的です。
Q4: 扁桃炎を何度も繰り返すのですが、手術(扁桃摘出術)を考えた方がよいですか?
A4: 年に何度も高熱を伴う扁桃炎を繰り返す場合、「習慣性扁桃炎」と診断され、扁桃を摘出する手術が選択肢となることがあります。手術を検討する一般的な目安としては、「1年に4回以上、2年間で年に3回以上、3年間で年に2回以上」の扁桃炎を繰り返す場合などが挙げられますが、これはあくまで目安です36。手術のメリット(扁桃炎の再発がなくなる)とデメリット(全身麻酔のリスクや術後の痛みなど)をよく理解した上で、耳鼻咽喉科の専門医と十分に相談することが重要です。
結論
「扁桃炎」と「溶連菌感染症」は、似て非なるものです。扁桃炎は喉の「状態」であり、その原因の多くはウイルスですが、溶連菌という特定の「細菌」が原因となることもあります。咳や鼻水がなく、突然の高熱と激しい喉の痛みがあれば溶連菌を疑い、早期の受診が重要です。特に溶連菌感染症は、リウマチ熱という重い心臓の合併症や、近年増加が懸念される劇症型溶連菌感染症(STSS)との関連も指摘されており、決して軽視できません。診断には迅速検査が有用ですが、結果の解釈には「無症候性保菌者」の存在など専門的な判断が必要です。溶連菌と診断された場合は、症状が改善しても必ず処方された抗菌薬を飲み切ることが、あなた自身と社会全体を合併症のリスクから守るために不可欠です。この記事が、皆様の正確な知識と適切な行動の一助となることを願っています。
参考文献
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