【科学的根拠に基づく】つらい扁桃炎の食事療法ガイド|症状緩和と再発予防のための食べ物・飲み物
耳鼻咽喉科疾患

【科学的根拠に基づく】つらい扁桃炎の食事療法ガイド|症状緩和と再発予防のための食べ物・飲み物

「まるでガラスの破片を飲み込むような痛み」「熱いものも冷たいものもしみて、食事どころではない」「高熱と倦怠感で仕事や学校を休まざるを得ない」―。扁桃炎のつらい症状に悩まされている方は少なくないでしょう。このような時、医師から処方された薬による治療はもちろん重要ですが、それと同時に「食事」を工夫することが、症状の緩和と早期回復を力強く後押しする鍵となります。適切な食事は、薬の働きを助け、体力の消耗を防ぎ、傷ついた喉の粘膜を修復するための土台となるのです。この記事は、単なる食品の羅列ではありません。JAPANESEHEALTH.ORG編集部は、日本の医療における権威である日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会1や厚生労働省2の見解、そして最新の国際的な学術研究に基づき、つらい急性期の症状を乗り切るための具体的な食事法から、多くの方が悩む「扁桃炎の再発」を防ぐための根本的な栄養戦略までを、包括的かつ科学的に解説します。


この記事の科学的根拠

本記事は、引用元として明記された、最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下は、参照された主要な情報源と、それが本記事の医学的指針にどのように関連しているかの概要です。

  • 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会: 本記事における扁桃炎の定義、診断基準、および標準治療に関する記述は、日本の耳鼻咽喉科領域を代表する本学会の診療ガイドラインに基づいています1
  • 厚生労働省 (MHLW): 特に抗菌薬の適正使用に関する指針は、同省が発行する「抗微生物薬適正使用の手引き」に準拠しており、日本の公的な医療方針を反映しています2
  • システマティック・レビュー(The Association Between Vitamin D Deficiency and Recurrent Tonsillitis): 扁桃炎を繰り返す背景にビタミンD不足が関与する可能性についての核心的な記述は、複数の研究を統合解析したこの高品質な学術論文に基づいています3
  • StatPearls (米国国立生物工学情報センター): 扁桃炎の病因、疫学、病態生理に関する専門的な医学知識は、専門家向けに査読されたレビュー記事であるStatPearlsを主要な参照元としています4
  • 英国国民保健サービス (NHS): 患者が自身の症状を理解し、適切な行動(セルフケアや受診の判断)をとるための指針は、世界で最も信頼性の高い患者向け情報源の一つであるNHSの情報を参考にしています5

要点まとめ

  • 扁桃炎の食事療法では、喉の粘膜を傷つけないよう「物理的刺激(硬さ・食感)」と「化学的刺激(味・成分)」を避けることが絶対的な原則です。
  • 症状が最もつらい急性期には、お粥、ヨーグルト、スープなど、喉ごしが良く栄養価の高い食品を選び、症状の緩和と体力の維持を目指すことが重要です。
  • 扁桃炎を何度も繰り返す体質の背景には、免疫機能の調整に不可欠な「ビタミンD」の不足が深く関わっている可能性が、最新の信頼できる研究で強く示唆されています3
  • この記事は、日本の公的な診療指針と国際的な科学的エビデンスに基づき、急性期の対症療法から、栄養状態の改善による根本的な再発予防策までを網羅的に解説する完全ガイドです。

1. そもそも扁桃炎とは?原因と症状を正しく理解する

適切な対処を行うためには、まず敵を正しく知ることが不可欠です。ここでは、扁桃炎の医学的な定義、その原因、そして症状について、専門的かつ分かりやすく解説します。この知識は、なぜ食事が重要なのか、そしてなぜ医師が特定の治療法を選択するのかを理解する上で基礎となります。

扁桃の役割と炎症のメカニズム

「扁桃」は、一般的に「扁桃腺」とも呼ばれますが、医学的にはリンパ組織の集合体であり、喉の奥、口と鼻の突き当たりに位置しています。ここは「ワルダイエル咽頭輪」と呼ばれる免疫システムの最前線基地であり、呼吸や食事によって体内に侵入しようとするウイルスや細菌といった病原体に対する最初の防御ラインとして機能しています6。疲労、ストレス、睡眠不足、あるいは他の感染症によって体の抵抗力が低下すると、この防御機能が弱まります。その隙をついて、普段は問題を起こさない常在菌が増殖したり、新たに侵入した強力な病原体が優勢になったりすることで、扁桃に急性の炎症が引き起こされるのです。これが急性扁桃炎です。

原因のほとんどはウイルス―抗菌薬(抗生物質)が効かない理由

多くの方が誤解しがちですが、急性扁桃炎の原因の大多数は、アデノウイルス、ライノウイルス、RSウイルスといった一般的な風邪の原因となるウイルスです4。細菌が原因となるケース、特にA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)によるものは、全体の15%から30%(特に小児に多い)程度とされています。ウイルスには抗菌薬(抗生物質)は全く効果がありません。この事実を理解することは、医療において極めて重要です。厚生労働省や日本感染症学会7も、ウイルス性の可能性が高い扁桃炎に対して抗菌薬を安易に使用しないよう強く警鐘を鳴らしています2。不必要な抗菌薬の使用は、効果がないばかりか、下痢などの副作用や、将来本当に抗菌薬が必要になった時に効かなくなる「薬剤耐性菌」を生み出す原因となるためです。

症状と診断の目安(Centorスコア)

扁桃炎の典型的な症状には以下のようなものがあります。

  • 38度以上の高熱
  • 強い喉の痛み(特にものを飲み込む時の嚥下痛)
  • 扁桃の赤みや腫れ、白い膿(膿栓)の付着
  • 首のリンパ節の腫れと痛み
  • 全身の倦怠感、関節痛

医師は、これらの症状に加え、細菌性の可能性がどの程度あるかを客観的に評価するために、世界的に用いられている「Centor(センター)スコア」または「McIsaac(マックアイザック)スコア」といった指標を参考にします8。これは、①38℃以上の発熱、②咳がない、③前頸部リンパ節の腫れと圧痛、④扁桃の腫大や膿栓、⑤年齢(3~14歳)といった項目を点数化するものです。このスコアが高いほど細菌性の可能性が高まり、抗菌薬の投与が検討されます。この指標の存在を知ることで、なぜ医師がすぐに抗菌薬を処方しない場合があるのか、その背景にある論理的な判断プロセスを理解することができます。

2. 急性扁桃炎の食事:覚えておきたい2つの黄金律

個別の食品リストを見る前に、まず最も重要な「原則」を理解しましょう。この2つの黄金律を覚えておけば、どのような状況でも自分で考えて適切な食事を選択できるようになります。

黄金律1:物理的な刺激を避ける(テクスチャーの原則)

炎症を起こして赤く腫れあがった喉の粘膜は、普段なら何ともない刺激に対しても極めて敏感になっています。硬いもの、乾燥してザラザラしたもの、角が尖った食品は、このデリケートな粘膜を物理的に擦過し、痛みを直接的に増悪させ、さらなる炎症を引き起こす可能性があります9。食事は栄養補給であると同時に、喉にとっては物理的な試練にもなりうるのです。

  • 避けるべき食品の具体例: ポテトチップスやナッツ類、トーストの硬い耳、せんべいやクラッカー、生のニンジンやリンゴのかけらなど。
  • 推奨される調理法: 食材を「煮る」「蒸す」「茹でる」ことで柔らかくする。ミキサーにかけてポタージュやスムージーにする。裏ごしして滑らかにする。これらの工夫で、喉への物理的負担を最小限に抑えることができます。

黄金律2:化学的な刺激を避ける(成分の原則)

物理的な形状だけでなく、食品に含まれる特定の化学成分も、炎症部位の神経を直接刺激し、激しい痛みを引き起こす原因となります10。喉の傷口に塩を塗り込むようなものだと想像してみてください。

  • 避けるべき食品の具体例:
    • 酸味の強いもの:レモンやオレンジ、グレープフルーツなどの柑橘類、梅干し、酢の物、トマトやトマトジュース。これらに含まれるクエン酸や酢酸が粘膜を刺激します。
    • 香辛料の強いもの:唐辛子(カプサイシン)、カレー、キムチ、わさび、こしょうなど。
    • 味の濃すぎるもの:極端に塩辛いものや甘いものも、浸透圧の差で粘膜を刺激することがあります。
    • アルコール飲料:アルコールそのものが粘膜を刺激し、血管を拡張させて炎症を悪化させます。また、利尿作用により脱水を招くため、絶対に避けるべきです10

3.【症状緩和】急性期におすすめの食べ物・飲み物リスト

上記の2つの黄金律を踏まえ、日本の食生活で手軽に入手でき、すぐ実践できる具体的な食べ物と飲み物を提案します。

のどごしが良く、エネルギー源となる主食

高熱が出ると体は大量のエネルギーを消耗します。まずは活動の源となる炭水化物を、喉に優しい形で補給しましょう。

  • お粥、雑炊:定番ですが、水分と栄養を同時に摂れる優れた食事です。
  • よく煮込んだうどん、そうめん:クタクタになるまで煮込むのがポイントです。
  • マカロニ、パスタ:クリームソースやポタージュと和えるのがおすすめです。
  • マッシュポテト:じゃがいもを柔らかく茹でて潰し、牛乳やバターでのばすと喉ごしが良くなります。

粘膜の修復を助けるタンパク質

タンパク質は、私たちの体を作る基本成分です。特に、炎症によって傷ついた喉の粘膜組織を修復し、再生するためには不可欠な栄養素です11。体力と免疫力を維持するためにも、消化の良いタンパク質を意識して摂取しましょう。

  • 卵:栄養価が高く、調理法も豊富です。茶碗蒸し、スクランブルエッグ、卵豆腐、温泉卵などがおすすめです。
  • 豆腐:特に絹ごし豆腐は滑らかで食べやすいです。湯豆腐や冷奴、あんかけ豆腐などが良いでしょう。
  • 鶏肉:脂肪の少ないひき肉やささみを選び、あんかけにしたり、スープで煮込んだりすると食べやすくなります。
  • 白身魚:タラやカレイなどを蒸したり煮たりして、ほぐして食べると良いでしょう。
  • 乳製品:プレーンヨーグルトや牛乳は、タンパク質と水分を同時に補給できます。ただし、痰が絡むように感じる人もいます。
  • プリン、ババロア:食欲がない時のデザート兼栄養補給として役立ちます。

温かい飲み物 vs 冷たい飲み物:科学的な結論は?

これは多くの人が悩む疑問ですが、科学的な知見は明確な答えを示しています。「どちらか一方が絶対的に正しい」のではなく、「どちらにも利点がある」のです。

  • 冷たいもの(アイスクリーム、シャーベット、冷たい飲み物):冷たさには、患部の血管を収縮させ、神経の感受性を鈍らせることで一時的に痛みを和らげる「局所麻酔」のような効果があります9, 12。特に痛みが激しい時には、心地よく感じられることが多いでしょう。
  • 温かいもの(人肌程度のスープ、ハーブティー、白湯):温かい飲み物は、直接的な治療効果よりも、主観的な「心地よさ」をもたらす効果が科学的に示されています。英国カーディフ大学の研究では、温かいフルーツドリンクを飲んだグループは、客観的な鼻の通気度は変わらなかったものの、「喉の痛み」や「悪寒」などの風邪症状が有意に改善したと報告しています13。温かさが喉の血行を促進し、潤いを与えることで、不快感が和らぐと考えられます。

結論:極端に熱すぎるものや冷たすぎるものは避け、ご自身が「心地よい」「楽になる」と感じる温度のものを選ぶのが最も合理的です。

水分補給が命綱である理由

扁桃炎の治療において、水分補給は薬物療法と同じくらい重要です。その理由は2つあります。第一に、発熱による発汗や、飲み込む際の痛みによる飲水量の低下は、容易に脱水症状を引き起こします。脱水は倦怠感を増強させ、頭痛を引き起こし、回復を遅らせる最大の要因の一つです14。第二に、喉の粘膜の乾燥は、粘膜が持つバリア機能を著しく低下させ、さらなるウイルスの増殖や二次的な細菌感染のリスクを高めてしまいます。こまめに水分を摂り、喉を常に潤しておくことが、最高の防御となるのです。

  • おすすめの飲み物:水、白湯、麦茶、カフェインの入っていないハーブティー、経口補水液、酸味の少ないスポーツドリンクなど。

高熱で食事が全く摂れない時でも、水分補給だけは絶対に怠らないでください。尿の色が濃くなったり、回数が減ったりするのは脱水のサインです。

4. 科学で読み解く日本の「おばあちゃんの知恵」

日本の家庭では、古くから喉の不調に対して様々な民間療法が伝えられてきました。ここでは、それらの「おばあちゃんの知恵」を現代科学の視点から再評価し、なぜ有効と考えられているのかを解説します。

  • はちみつ:はちみつは、単なる甘味料ではありません。2021年に行われた臨床研究では、咽頭炎の患者に標準治療と共にはちみつを与えたところ、与えなかったグループと比較して喉の痛みが緩和されるまでの期間が有意に短縮されました15。この効果は、はちみつが持つ抗菌作用、抗炎症作用、そして粘膜をコーティングして保護する効果によるものと考えられています。

    【最重要注意喚起】1歳未満の乳児には、乳児ボツリヌス症のリスクがあるため、はちみつは絶対に与えないでください。

  • 大根:大根、特に大根おろしには独特の辛味があります。この辛味成分は「アリルイソチオシアネート」と呼ばれ、大根の細胞がすりおろすことによって破壊された際に生成されます16。この成分には強力な抗菌作用や抗炎症作用があることが報告されており、伝統的な「大根あめ」の効能を科学的に裏付けています。
  • 生姜:生姜のピリッとした辛味の主成分である「ジンゲロール」や、それを加熱すると生成される「ショウガオール」には、強力な抗炎症作用と血行促進作用があります17。体を内側から温め、痛みを和らげる効果が期待できるため、温かい飲み物に加えてみるのが良いでしょう。
  • 緑茶:緑茶に含まれるポリフェノールの一種「カテキン」には、インフルエンザウイルスなどが細胞に付着するのを阻害する作用が基礎研究で示されています18。また、緑茶によるうがいが、手術後の喉の痛みを軽減したという臨床研究もあります19。飲むだけでなく、うがいに用いるのも有効な選択肢です。

5.【この記事の核心】扁桃炎を繰り返さないための栄養戦略

このセクションこそが、本記事を他のあらゆる健康情報サイトから決定的に差別化する最重要部分です。急性期の対処療法から一歩踏み込み、「なぜ自分は毎年、扁桃炎になってしまうのか?」という根本的な悩みに対し、「栄養」という観点から科学的根拠に基づいた解決策を提示します。

最重要エビデンス:ビタミンDと再発性扁桃炎の深い関係

「風邪をひくと、必ず喉から来る」「年に何度も扁桃炎で高熱を出す」といった悩みを持つ方は、その原因を単なる「体質」だと諦めていないでしょうか。しかし、近年の医学研究は、その背景に特定の栄養素の不足が深く関わっている可能性を明らかにしています。その中でも特に注目されているのが**ビタミンD**です。

2020年に耳鼻咽喉科領域の権威ある学術誌に掲載されたシステマティック・レビュー(複数の信頼できる研究を統合・解析した、科学的根拠のレベルが非常に高い研究)では、再発性扁桃炎に悩む患者は、健康な人と比較して血中のビタミンD濃度が有意に低いことが結論づけられました3。さらに、2024年に発表された最新のレビューでも同様の関連性が確認されています20。ビタミンDは、かつては骨の健康に不可欠な栄養素として知られていましたが、現在では免疫システム全体を正常に機能させるための「調整役(モジュレーター)」として、極めて重要な役割を担っていることが分かっています。ビタミンDが不足すると、病原体と戦う免疫細胞の働きが鈍くなり、感染症にかかりやすく、また治りにくくなるのです。

【実践的アドバイス:ビタミンDを増やすには?】

  • 適度な日光浴:ビタミンDは、皮膚が紫外線を浴びることで体内で生成されます。夏場なら木陰で30分、冬場なら顔や手に1時間程度の日光を浴びるのが目安とされていますが、日焼けや皮膚がんのリスクを避けるため、過度な日光浴は禁物です。
  • 食事からの摂取:ビタミンDを豊富に含む食品を積極的に食事に取り入れましょう。
    • 魚類:サケ、サンマ、イワシ、サバなどの脂肪の多い魚
    • キノコ類:特に天日干ししたキクラゲやシイタケ
    • 卵黄

免疫システムを支えるその他の必須栄養素

私たちの免疫システムは、ビタミンDだけで機能しているわけではありません。様々な栄養素がオーケストラのように協調して働くことで、初めてその力が最大限に発揮されます。

  • ビタミンA:喉や鼻の粘膜を健康に保ち、病原体の侵入を防ぐ「物理的なバリア機能」を強化します。不足すると粘膜が乾燥し、感染しやすくなります。(多く含む食品:レバー、うなぎ、緑黄色野菜など)
  • ビタミンC:免疫細胞である白血球の働きを助け、自らも抗酸化物質として病原体と戦う「戦闘部隊」の活動をサポートします。(多く含む食品:パプリカ、ブロッコリー、キウイフルーツ、柑橘類など。ただし急性期は酸味の刺激に注意)
  • 亜鉛:新しい免疫細胞を作り、その機能を正常に保つために不可欠なミネラルです。亜鉛が不足すると免疫力が低下することが広く知られています。(多く含む食品:牡蠣、赤身肉、レバー、豆類など)

扁桃炎を繰り返さないためには、これらの栄養素を特定の時期だけ摂取するのではなく、日頃からバランスの取れた食事を心がけ、免疫システムの土台をしっかりと築いておくことが何よりも重要です。

6. いつ病院へ行くべき?見逃してはいけない危険なサイン

食事療法はあくまで回復をサポートするものであり、医療機関での適切な診断と治療に取って代わるものではありません。特に、以下のような「レッドフラッグ(危険な兆候)」が見られる場合は、自己判断で様子を見るのは非常に危険です。夜間や休日であっても、ためらわずに医療機関を受診するか、救急要請を検討してください。

英国国民保健サービス(NHS)5や日本の主要な医療情報21では、以下のような症状が受診の目安として挙げられています。

  • 息苦しさ、呼吸がしづらい、ぜーぜーという音がする
  • 唾も飲み込めないほどの激しい痛み
  • 口が開きにくい、あるいは全く開かない(開口障害)
  • 声がこもる(熱いジャガイモを口に含んだような、不明瞭な声)
  • 4日以上たっても改善しない、あるいは悪化していく高熱や症状

これらの症状は、扁桃の炎症が周囲の組織に広がり、膿が溜まる「扁桃周囲膿瘍」や、さらに喉の奥深くに広がる「深頸部膿瘍」といった、緊急の切開排膿処置や入院が必要となる重篤な合併症のサインである可能性があります。これらのサインを見逃さないことが、安全を確保する上で最も重要です。

7. 結論:喉の不調は、あなたの体からの大切なサイン

つらい扁桃炎の症状を和らげるためには、食事において「物理的刺激」と「化学的刺激」という2つの黄金律を徹底し、喉に優しく栄養価の高い食事を摂ることが重要です。そして、もしあなたが扁桃炎を繰り返しているのであれば、それは単なる「体質」の問題ではなく、ビタミンD不足に代表される「栄養バランスの乱れ」という、体からの重要なシグナルなのかもしれません。

急性期の痛みと戦うことはもちろんですが、ぜひこの機会にご自身の食生活と生活習慣を見直し、免疫システムの土台を根本から強化するという長期的な視点を持ってみてください。喉の不調は、あなたの体が発する声に耳を傾け、より健康な未来への一歩を踏み出すための、またとない機会なのです。

よくある質問

Q1: 子供の扁桃炎では、食事で特に何に気をつければ良いですか?

A: 基本的な原則は大人と同じですが、子供は大人よりも脱水症状に陥りやすいため、こまめな水分補給がより一層重要になります。本人が好む、喉ごしの良いもの(ゼリー、プリン、アイスクリーム、ヨーグルトなど)を、一度にたくさんではなく、少量ずつ頻回に与えるようにしましょう。なお、はちみつは1歳未満の乳児には乳児ボツリヌス症のリスクがあるため、絶対に与えないでください。

Q2: アイスクリームは本当に喉に良いのですか?

A: アイスクリームが扁桃炎を直接「治す」という科学的根拠はありません。しかし、その冷たさが喉の神経を一時的に麻痺させ、痛みを和らげる効果(鎮痛効果)が期待できます12。また、食欲がない時には、水分とカロリーを手軽に補給できるという利点もあります。痛みが強い時に、心地よいと感じる範囲で利用するのは良い選択肢と言えるでしょう。ただし、糖分の多い製品の食べ過ぎには注意が必要です。

Q3: 扁桃炎の時、アルコールは絶対にダメですか?

A: はい、絶対に避けるべきです。アルコールは喉の粘膜を直接刺激して炎症を悪化させるだけでなく、血管を拡張させて腫れを助長します。さらに、利尿作用によって体内の水分を奪い、脱水症状を引き起こすため、体の回復を著しく妨げます10。治療中は禁酒を徹底してください。

Q4: 医師から処方された薬を飲んでいれば、食事は気にしなくても良いですか?

A: いいえ、食事は非常に重要です。薬は病原体と戦ったり、強力な炎症を抑えたりする役割を果たしますが、最終的に体が回復し、傷ついた粘膜組織を修復するためには、食事から得られる適切な栄養素(タンパク質、ビタミン、ミネラル)と十分な水分が不可欠です。薬物治療と食事療法は、回復を早めるための両輪とお考えください。

Q5: ビタミンDのサプリメントは摂った方が良いですか?

A: ビタミンD不足が再発性扁桃炎のリスクを高める可能性は、複数の質の高い研究によって指摘されています3, 20。しかし、サプリメントを自己判断で摂取することは推奨されません。ビタミンDは脂溶性ビタミンのため、過剰に摂取すると体内に蓄積し、高カルシウム血症などの健康被害を引き起こすリスクがあります。まずは食事からの摂取(青魚、キノコ類など)や適度な日光浴を心がけ、サプリメントの利用を検討する場合は、その前に必ず医師や管理栄養士に相談し、血中濃度を測定するなどして、本当に不足しているのかを確認することが重要です。

免責事項本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医学的診断や治療に代わるものではありません。ご自身の健康状態に関する懸念や、治療に関する決定を下す前には、必ず資格を有する医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会. 診療ガイドライン/手引き・マニュアル INDEX. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.jibika.or.jp/modules/guidelines/index.php
  2. 厚生労働省. 抗微生物薬適正使用の手引き. [インターネット]. 2019年. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000573722.pdf
  3. Rehman AMA, A. M., Usmani N, et al. The Association Between Vitamin D Deficiency and Recurrent Tonsillitis: A Systematic Review and Meta-analysis. Otolaryngology–Head and Neck Surgery. 2020;163(5):879-887. doi:10.1177/0194599820938739. PMID: 32689892. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32689892/
  4. Windfuhr JP, Toepfner N, Steffen G, Waldfahrer F, Berner R. Tonsillitis. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan-. [Updated 2023 May 2]. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544342/
  5. National Health Service (NHS). Tonsillitis. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.nhs.uk/conditions/tonsillitis/
  6. Smith A, DiPietro J, Al-Ghamdi S. Anatomy, Head and Neck, Tonsils. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan-. [Updated 2023 Aug 8]. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK539792/
  7. 日本感染症学会, 日本化学療法学会. 急性咽頭・扁桃炎に対する抗菌薬の適正使用の提言. [インターネット]. 2022年. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2211_teigen.pdf
  8. Cheng AG. 扁桃咽頭炎. MSDマニュアル プロフェッショナル版. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/16-%E8%80%B3%E9%BC%BB%E5%92%BD%E5%96%89%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%8F%A3%E8%85%94%E5%92%BD%E9%A0%AD%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%89%81%E6%A1%83%E5%92%BD%E9%A0%AD%E7%82%8E
  9. Gans K. What to Eat and Drink With a Sore Throat. Verywell Health. [インターネット]. 2023年. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.verywellhealth.com/what-to-eat-with-a-sore-throat-6834215
  10. Nall R. What to Eat and Drink When You Have a Sore Throat. Healthline. [インターネット]. 2023年. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.healthline.com/health/cold-flu/what-to-eat-when-you-have-a-sore-throat
  11. アリナミン製薬. のどが痛いとき、何を食べたらいい?おすすめの食べ物・飲み物. アリナミン健康ナビ. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. Available from: https://alinamin-kenko.jp/navi/navi_kizi_nodo_food.html
  12. Cha A. Is It Better to Have Hot or Cold Drinks for a Sore Throat? Verywell Health. [インターネット]. 2023年. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.verywellhealth.com/is-hot-or-cold-better-for-sore-throat-6375058
  13. Sanu A, Eccles R. The effects of a hot fruit drink on objective and subjective measures of nasal airflow and nasal symptoms. Rhinology. 2008 Dec;46(4):271-5. PMID: 19145994. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19145994/
  14. 家来るドクター. 急性扁桃炎で食事がとれない!脱水症状を防ぐために家庭でできる対処法とは. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. Available from: https://iekuru-dr.com/blog/kyuuseihentouen/
  15. El-Anwar MW, El-Sayed EAK, Ezzat MHF, et al. Role of honey as adjuvant therapy in patients with sore throat. Adv Med Educ Pract. 2021;12:55-61. doi:10.2147/AMEP.S310441. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7891823/
  16. アクアクララ. 医師監修|喉にいい飲み物!喉が痛くなる原因やNGな飲み物も解説. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.aquaclara.co.jp/lifehack/healthcare/030/
  17. Young HY, Luo YL, Cheng HY, Hsieh WC, Liao JC, Peng WH. Analgesic and anti-inflammatory activities of [6]-gingerol. J Ethnopharmacol. 2005 Jan 4;96(1-2):207-10. doi:10.1016/j.jep.2004.09.009. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15588672/
  18. 花王株式会社. 緑茶成分(カテキン)に関する研究例. [インターネット]. 2020年. [2025年6月24日引用]. Available from: https://www.kao.com/jp/innovation/research-development/hygiene-science/general/greentea/
  19. Hamishehkar H, Varshosaz J, Fathi H, Ghafourian A. The effect of green tea gargle on the prevention of postoperative sore throat and hoarseness: a randomized clinical trial. Anesth Pain Med. 2013;3(2):242-6. doi:10.5812/aapm.11438. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3821147/
  20. Sklavounos PGA, Vouloumanou EK, Korovesi M, Gkegkes ID, Rafailidis PI. Association between vitamin D deficiency and recurrent tonsillopharyngitis: A systematic review. Auris Nasus Larynx. 2024 Feb 29:S0385-8146(24)00049-3. doi:10.1016/j.anl.2024.02.008. PMID: 38453810. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38453810/
  21. 順天堂大学医学部附属順天堂医院. 急性扁桃炎. [インターネット]. [2025年6月24日引用]. Available from: https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/jibi/disease/other_diseases/other_diseases12.html
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ