捻挫と脱臼の症状を見極める方法 - 正しい治療法
筋骨格系疾患

捻挫と脱臼の症状を見極める方法 – 正しい治療法

はじめに

身体を支えるうえで重要な役割を果たす骨や筋肉、そして関節は、適度に動かすことで健康を維持できます。しかし、日常生活やスポーツなどで想定外の衝撃や過度の負荷がかかった場合、関節やその周囲の靱帯・筋組織などに障害が生じることがあります。とりわけ、多くの方が一度は経験する可能性があるけがとして「捻挫」と「脱臼」が挙げられます。いずれも痛みや腫れを伴うことが多く、生活の質を低下させる要因になりかねません。両者は同じようにみえがちですが、実はメカニズムや治療法が異なるため、正確な知識と適切なケアを施すことが早期回復につながります。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、捻挫と脱臼の基本的な違いや、症状に応じたケア・治療の重要性について詳しく解説します。いざという時に正しい対応がとれるよう、予備知識として参考にしていただければ幸いです。

専門家への相談

この記事の情報は、整形外科医としてDayCare Clinic & Spaで活動しているThạc sĩ – Bác sĩ – Giảng viên Nguyễn Hữu Đức Minh氏の医療的見解を踏まえて作成しています。日常生活やスポーツの現場で生じる関節障害に精通している彼の視点を参考にしつつ、より詳細な情報をまとめました。ただし、本記事はあくまでも一般的な情報提供を目的としており、最終的な診断や治療方針は専門の医師に相談して決定する必要があります。

1. 捻挫と脱臼を正しく理解する

関節周辺の代表的なけがとして、捻挫脱臼があります。この2つは、いずれも関節に関連するトラブルですが、原因や状態が異なるため、ケアの方法も変わります。両者を正しく理解することで、けがをした際に適切な判断を下しやすくなります。

  • 捻挫
    捻挫とは、関節を安定させる役割を担う靱帯が過剰に引っ張られたり、部分的に断裂したりする状態を指します。足首、手首、肩、膝など、関節がひねられやすい部位で多く発生します。段差につまずいて足を挫いたり、スポーツ中に足首をひねったりして起こる典型的な例が知られています。痛みや腫れ、可動域の制限がみられ、場合によっては軽い靱帯損傷だけでなく、複雑な損傷を含むこともあるため、注意が必要です。
  • 脱臼
    脱臼は、関節を構成する骨同士のかみ合わせが正常な位置からずれてしまった状態です。骨端が外れているため、強い痛みと腫れ、関節の変形がみられます。肩関節や膝関節など、可動域が大きい関節で起こりやすいですが、顎関節など他の部位でも起こることがあります。関節がずれたまま放置すると血管や神経を圧迫し、回復に支障をきたす場合もあるため、早期の医療介入が重要です。

こうした違いを理解しておくと、日常生活やスポーツ現場での一次対応が適切になり、回復までの期間を短縮できる可能性があります。

2. 捻挫と脱臼の症状の違い

捻挫と脱臼はいずれも関節に生じる障害であり、初期には痛みや腫れなど似た症状を示すため、区別が難しいことがあります。しかし、原因とメカニズムの違いから、症状や治療方針には明確な差があるのも事実です。

共有する症状

  • 痛み
    どちらも強い痛みを伴うことが多く、日常動作に支障をきたします。痛みの程度は損傷の重さや、個人の痛覚の差によって異なります。
  • 腫れ
    捻挫でも脱臼でも炎症が生じるため、患部やその周辺が腫れあがることがあります。特に急性期には熱感を伴い、患部に触れるだけでも痛みが増す場合も珍しくありません。
  • あざ
    靱帯や関節周囲組織が損傷して出血が起こると、内出血によるあざ(皮下出血)が生じることがあります。大きな内出血が起こると、皮膚の色が数日かけて赤色から紫、青、緑、黄色へと変化していくこともあります。
  • 関節の不安定さ
    体重を支える膝や足首では、とりわけ不安定感を伴いやすいです。靱帯が緩んでしまった場合や、骨の位置ずれが残っている場合には、歩行時のぐらつき感が増し、転倒リスクが高まります。
  • 関節の機能低下
    関節の動きがスムーズに行えなくなり、可動域が狭くなるほか、力が入りにくくなるケースもあります。急性期は痛みや腫れのために動かせないことが多く、時間が経過しても適切にリハビリを行わないと可動域の回復が不十分になる可能性があります。

捻挫と脱臼の見分け方

  • 捻挫
    関節内部の靱帯が引き伸ばされたり、部分断裂を起こしているため、痛みや腫れが生じますが、骨自体は正常な位置にある場合がほとんどです。関節が重度に変形することは少なく、医師の触診や画像検査で靱帯の損傷具合を確認して診断することが多いです。
  • 脱臼
    骨が正しい位置関係から外れてしまうため、外観上も明らかな変形を示すことがあります。肩や膝では、関節の輪郭が不自然にずれていたり、動かそうとすると強い抵抗感や激痛が出る場合がほとんどです。医師はX線やMRIなどの画像検査で、骨の位置ずれを正確に判断します。

このように、捻挫と脱臼は症状が似ている部分もありますが、骨のずれの有無が大きな決め手となります。

3. 医師に診てもらう時期

捻挫・脱臼いずれの可能性でも、自己判断で放置すると症状が悪化するリスクがあります。たとえば軽度の捻挫だと思い込んでいたら、実は一部骨折や重度の靱帯損傷を併発していたなど、誤った判断により回復が遅れるケースは少なくありません。特に以下のような状態に該当する場合は、速やかに専門医を受診しましょう。

  • 痛みが強く、生活動作や歩行が困難なほどの症状がある
  • 腫れが急激に増大し、内出血が広範囲にわたっている
  • 関節の変形や異常な可動域がみられる(明らかに骨がずれていると感じる)
  • 24~48時間以上経過しても痛みや腫れが改善しない、むしろ悪化している

医療機関では、医師が問診・触診を行い、必要に応じてX線やMRI検査によって損傷の程度を確認します。どの程度靱帯が伸びているのか、骨に骨折線がないか、周囲の軟部組織がどの程度傷ついているかなどを総合的に評価することで、最適な治療プランを立てられます。

なお、受診までの応急措置としては、患部を安静にし、氷や冷却シートなどで冷やす・圧迫包帯で圧迫する・患部を心臓より高くあげるなどの方法が推奨されます。これは一般に「RICE処置(Rest, Ice, Compression, Elevation)」として知られていますが、医療機関に早めに相談することでより安全かつ正確な対処が可能になります。

4. 捻挫と脱臼の治療法の違い

捻挫と脱臼は原因や程度が異なるため、治療の方向性も変わってきます。どちらも専門的な治療が必要になる場合があり、医師の指示に従ってリハビリを行うことが回復を早め、再発を防ぐカギとなります。

捻挫の治療法

  • 自己治療が可能なケース
    軽度であれば、RICE処置を中心に行いながら、生活動作を極力控えめにして患部を安静に保ちます。たとえば足首捻挫の場合は、松葉杖を使って体重をかけないように歩くことが推奨される場合もあります。また、患部の腫れや痛みが引いた段階で、少しずつ可動域を取り戻すためのストレッチや軽い筋力トレーニングを行うと、後遺症が残りにくくなります。
    一方で痛みが続いたり、腫れが長引く場合は、靱帯が大きく損傷している可能性があるので注意が必要です。
  • 医療機関での治療
    中~重度の捻挫では、長期的に靱帯の保護と機能回復を図るため、サポーターやテーピングを活用します。近年では、足首捻挫に対して物理療法や運動療法を組み合わせ、リハビリ専門の医療スタッフが個別に指導する体制が整っているクリニックも増えています。
    稀に、完全断裂など重症の捻挫では手術が検討されることもあります。例えば靱帯を縫合・再建する手術を行い、リハビリを通して筋力・可動域を徐々に回復させる方法が一般的です。

脱臼の治療法

  • 整復
    骨がずれたままの状態を放置すると血管や神経を圧迫し、組織壊死や神経麻痺を引き起こすリスクがあるため、できるだけ早く元の位置に戻す必要があります。これを整復と呼び、医師が徒手的に行う場合と、全身麻酔下で行う場合があります。特に肩関節の脱臼は再発もしやすいので、整復後に適切な固定とリハビリが重要です。
  • 固定
    整復後は、関節を一定期間安定させるために、ギプスやブレース、三角巾などで固定します。固定期間はけがの程度や年齢、活動レベルによって異なりますが、早期リハビリを開始しないと、筋力低下や可動域制限が長引くため、医師の指示のもとで段階的に動かし始めることが推奨されます。
  • 手術とリハビリ
    脱臼が重度の場合、骨や軟骨の破損が激しかったり、靱帯が完全に断裂して安定性を取り戻せないケースが考えられます。その場合には、手術で靱帯や軟骨、関節唇などを修復・再建する方法が選択されることがあります。
    脱臼の手術後は特にリハビリが重要で、再発の予防や可動域の回復、筋力強化を目的に、理学療法士など専門のスタッフが指導にあたることが一般的です。肩の脱臼であれば、三角巾を使いながら段階的に運動範囲を広げていき、最終的には元のレベルまで機能を回復させることを目指します。

予防とリハビリの重要性

捻挫や脱臼は一度起こすと、その後の生活で再発を繰り返す人も少なくありません。そのため、適切なリハビリと再発予防が非常に重要です。特にスポーツや日常生活で活発に動く方は、けがからの回復後もしばらくは慎重に行動し、以下のようなポイントを押さえておくと良いでしょう。

  • 段階的な運動再開
    痛みがある段階で無理に負荷をかけてしまうと、けがを悪化させる可能性があります。医師や理学療法士の指示に従い、関節周囲の筋力やバランス感覚を徐々に取り戻すリハビリメニューを実行します。
  • 筋力と柔軟性の向上
    関節を安定させるのは靱帯だけでなく、筋肉や腱も大きな役割を果たします。普段から適度な筋力トレーニングやストレッチを行い、靱帯への過度な負担を減らすことが捻挫や脱臼の予防につながります。
  • バランストレーニング
    足首や膝など、体重を支える部位の捻挫・脱臼を経験した場合、バランス感覚が低下している可能性があります。片足立ちやバランスボードを使った練習などを導入することで、バランス能力を高めることができます。
  • 再発予防具の利用
    足首用のサポーターや肩関節をサポートする器具など、部位に応じて再発予防のための器具が市販されています。医師と相談しながら、自分の活動レベルや回復状況に合わせたサポート具を選ぶとよいでしょう。
  • 適度な休息と自己観察
    日常生活やスポーツ後に痛みや違和感を覚えたら、無理に続けず早めに休むのも大切です。痛みや腫れが増してきた場合は、その段階で一度専門家のアドバイスを受けることで大きなけがを避けることができます。

新しい研究から得られる知見

近年、捻挫と脱臼の治療やリハビリにおいては、個々の患者に合わせたリハビリ計画が重視されるようになってきました。例えば、2021年にThe American Journal of Sports Medicineで発表された研究(D’Hoogheら, 2021, doi:10.1177/03635465211060150)では、足首の外側靱帯損傷(外側捻挫)からの復帰時期や再発率について系統的に検討が行われ、段階的な負荷量のコントロールが再発を防ぐうえで重要であると結論づけられています。こうした知見は日本国内のスポーツ愛好家や、日常的に足首に負荷をかける職業の方にも十分応用が可能であり、再発リスク低減や早期復帰の指標として参考にされています。

また、肩関節を中心とした脱臼に関しては、2022年にJournal of Orthopaedic Surgery and Researchに掲載された研究(Bottanelliら, 2022, doi:10.1186/s13018-022-03004-2)で、脱臼に付随する関節唇損傷や靱帯損傷の合併状況と術後のリハビリが詳細に検討されています。研究では、術後における早期の可動域訓練が再脱臼や関節硬縮を予防するうえで効果的である一方、急激な負荷増大は合併損傷を悪化させるリスクがあると指摘されました。これは肩脱臼の多いスポーツ選手はもちろん、転倒により肩を脱臼しがちな高齢者にも適用できる考え方であり、脱臼後のリハビリ戦略を立てる際に活用できます。

これらの最新の研究からは、けがの種類・部位ごとに根拠に基づいた治療計画を設定し、特に早期からのリハビリ開始や段階的な負荷量調整を意識することの大切さが示唆されています。けがをしてしまった場合はもちろん、予防的な観点でも、常に新しい研究報告を参考にするのは有益です。

結論と提言

結論

捻挫と脱臼はいずれも日常生活に大きな支障をきたす可能性があり、適切な対応を怠ると長期にわたる後遺症や再発リスクが高まります。痛みや腫れといった初期症状は似ていますが、骨の位置関係が変化する脱臼と、主に靱帯損傷にとどまる捻挫では治療やリハビリの方針が大きく異なることを理解しておくとよいでしょう。迅速な医療介入と正確なリハビリ計画により、予後の改善を見込めます。

提言

  • 専門医への早期受診
    痛みが強かったり、明らかな変形を感じる場合は、自己判断で放置せずに整形外科などをすぐに受診することが望ましいです。適切な診断と治療によって、回復を早め、再発防止のためのリハビリ計画も立てやすくなります。
  • 応急処置の徹底とリハビリの重要性
    受診までにできる限りRICE処置を実行し、患部を固定して悪化を防ぐことが大切です。さらに、けがが落ち着いた段階から医療スタッフや理学療法士の指導のもとで段階的にリハビリを進めることで、関節の機能や筋力の回復を促進します。
  • 個々の状況に合わせたケアプラン作成
    けがをした部位や重症度、生活スタイル、スポーツの種類によって必要な治療やリハビリは変わります。専門家と相談しながら、自分の状況に即したケアプランを作成し、再発を防ぎつつ早期復帰を目指しましょう。
  • 定期的なチェックと予防策
    いったん捻挫や脱臼を経験すると、同じ部位を再び痛めるリスクが高まるといわれています。バランス感覚や筋力の維持、サポーターの着用など、自分に合った予防策を習慣化し、痛みや腫れなど異常を感じたら早めに医療機関でチェックを受けることが推奨されます。

参考文献

  1. Sprains: Types, Causes, Treatment & Prevention – Cleveland Clinic – アクセス日: 2022年2月24日
  2. Dislocation: Symptoms, Causes, Treatment & Prevention – Cleveland Clinic – アクセス日: 2022年2月24日
  3. Dislocation: First aid – Mayo Clinic – アクセス日: 2022年2月24日
  4. Sprains – Mayo Clinic – アクセス日: 2022年2月24日
  5. Fractures, Sprains and Dislocations – Children’s Mercy – アクセス日: 2022年2月24日
  6. Sprains, Strains, Breaks: What’s the Difference? – University of Rochester Medical Center – アクセス日: 2022年2月25日
  7. D’Hooghe P, Alkhelaifi K, Calder J, Baltes T, Gojanovic B, Kerkhoffs G (2021) “Return to Play After a Lateral Ankle Sprain: A Systematic Review.” The American Journal of Sports Medicine, 49(13): 3675–3682, doi:10.1177/03635465211060150
  8. Bottanelli G, Andreata M, Bistolfi A, Caliogna L, Massazza G (2022) “Shoulder Instability and Concomitant Lesions: A Comprehensive Review.” Journal of Orthopaedic Surgery and Research, 17(1): 66, doi:10.1186/s13018-022-03004-2

注意: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の状況や症状により最適な治療法は異なります。十分な臨床的根拠に基づいた最新のガイドラインを踏まえつつ、実際には専門医による診察と指導が必要です。痛みや腫れが続く場合、または疑問点がある場合は、必ず医師の診断を受け、適切な治療方針やリハビリ計画を立ててください。特に関節のけがは再発しやすいため、早めの受診と適切なリハビリ・予防策が欠かせません。こうしたプロセスをしっかり踏むことで、長期的な健康とQOL(生活の質)の向上が期待できます。

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