この記事の科学的根拠
この記事は、引用されている信頼性の高い医学的根拠にのみ基づいて作成されています。本稿で提示される医学的指導は、以下の主要な情報源に基づいています。
- 日本眼科アレルギー学会「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」: アレルギー性結膜炎の診断と治療に関する日本の標準的な指針として、関連する記述の基盤となっています4。
- 厚生労働省「国民健康・栄養調査」: 日本人の塩分摂取量や睡眠時間に関する客観的なデータとして引用し、生活習慣とむくみの関連性を分析しています28。
- 資生堂・徳島大学による共同研究: 目元の皮膚の加齢変化に関する先進的な科学的知見として、老化と目元の関係性を深く解説するために参照しています6。
- 医学教科書および学術論文: 体内の水分動態やカフェインの効果など、生理学的なメカニズムを説明するための基礎的な科学的根拠としています17。
要点まとめ
- 朝の目の腫れの主な原因は、睡眠中に顔へ水分が移動することによる一時的な「むくみ」です。
- 緊急時には、温冷タオルの交互使用や優しいマッサージが血行を促進し、むくみ解消に効果的です。
- 塩分の過剰摂取、アルコール、睡眠不足はむくみを引き起こす三大生活習慣であり、特に日本人は注意が必要です。
- 「痛み・強いかゆみ・赤み・片目だけの腫れ」は病的な「腫れ」のサインかもしれず、速やかな眼科受診が推奨されます。
- 根本的な予防には、減塩、適切な水分補給、質の良い睡眠環境の確保など、生活習慣の改善が最も重要です。
朝の緊急対策:医学的に正しい「腫れぼったい目」の速攻解消法
急いでいる朝に目が腫れていると、焦りを感じるものです。ここでは、医学的な観点から効果が期待でき、安全に実践できる即効性のある対処法を具体的に紹介します。これらの方法の多くは、目元の滞った血流やリンパの流れを促進すること(血行促進)を目的としており、余分な水分や老廃物の排出を助けます。
温冷タオルによる血行促進法
温かいタオルと冷たいタオルを交互に使う「温冷療法」は、血管の収縮と拡張を促し、血行を促進するための非常に効果的な方法です。この血管のポンプ作用により、滞留した水分や老廃物の排出が加速されます。
具体的な手順:
- 準備: 清潔なタオルを2枚用意します。
- 温タオルの作成: 1枚のタオルを水で濡らして軽く絞り、電子レンジ(500Wで30秒~1分程度)で温めます。【最重要注意点】 電子レンジから取り出した直後は非常に熱い場合があります。やけどを防ぐため、必ず手で触れて「心地よい温かさ」であることを確認してから目元に乗せてください。
- 冷タオルの作成: もう1枚のタオルを冷水に浸して軽く絞るか、冷蔵庫で冷やしておきます。
- 交互に適用:
- まず、温タオルを目元に約1分間当て、じっくりと温めます。これにより血管が拡張し、血流が増加します。
- 次に、冷タオルに持ち替え、同様に約1分間目元を冷やします。これにより血管が収縮します。
- 繰り返し: この温→冷のサイクルを3~5回繰り返します。
この簡単なプロセスにより、目元の循環が劇的に改善され、むくみの解消が期待できます。
3分でできる血行促進マッサージ
マッサージは、物理的にリンパ液の流れを促し、むくみを解消するのに有効です。ただし、目元の皮膚は非常に薄くデリケートなため、正しい方法で優しく行うことが不可欠です。
準備:
マッサージを行う前には、必ず目元用のクリームやオイルを塗り、指の滑りを良くしてください。これにより、皮膚への摩擦による負担を最小限に抑えることができます。
マッサージの手順:
- リンパの通り道を開く(首): まず、顔の老廃物が流れ着く先のリンパ節を活性化させます。耳の後ろから首筋を通り、鎖骨のくぼみに向かって、指の腹で優しくなで下ろします。これを数回繰り返します。
- 目元のマッサージ:
- 中指の腹を使います。目元の骨に沿って、優しく圧をかけるようにマッサージします。眼球自体は絶対に押さないでください。
- 「目頭 → 眉下の骨 → こめかみ → 目の下の骨 → 目頭」の順で、ゆっくりと円を描くように指を滑らせます。この周回を3回ほど繰り返します。
- 頭皮と耳のマッサージ: 目元だけでなく、頭部全体の血行を促進することもむくみ解消に繋がります。
- 頭皮: 両手の指の腹で、頭皮全体を気持ち良いと感じる強さで揉みほぐします。
- 耳: 左右の耳を軽くつまみ、前回し・後ろ回しに各5回ほど優しく回します。その後、上下や外側にも軽く引っ張ります。
この一連のマッサージは、リンパの流れを体系的に改善し、顔全体のむくみを効果的に軽減します。
即効性を高めるツボ押し
東洋医学の観点から、特定のツボ(経穴)を刺激することは、気血の流れを改善し、むくみや眼精疲労の緩和に役立つとされています。
主要なツボと押し方:
- 睛明(せいめい): 目頭と鼻の付け根の間にあるくぼみ。親指の腹で、心地よい強さで3~5秒間、優しく押し上げます。
- 魚腰(ぎょよう): 眉毛の真ん中あたりにあるくぼみ。指の腹で優しく回すように刺激します。
- 瞳子髎(どうしりょう): 目尻から指1本分外側にある骨のくぼみ。中指の腹で優しく押します。
- 四白(しはく): 瞳孔の真下、目の下の骨の上にあるくぼみ。人差し指で軽く押します。
これらのツボ押しは、マッサージの合間やデスクワークの休憩中にも手軽に行え、目の疲れを感じた時にもおすすめです。
目元を覚醒させる簡単ストレッチ
目の周りの筋肉(眼輪筋)を動かすことで、局所的なポンプ作用が働き、血行が促進されます。
ストレッチの方法:
- 眼球運動: 顔は正面を向いたまま、眼球だけをゆっくりと「上→下→右→左」と動かします。その後、時計回り、反時計回りに大きく回します。
- まばたき運動: 目をぎゅっと閉じ(力を入れすぎないように注意)、2~3秒キープします。その後、パッと大きく見開きます。この動作を数回繰り返します。
これらのストレッチは、筋肉の緊張をほぐし、目元に新鮮な血液を送り込むのに役立ちます。
「むくみ」の科学:なぜ朝、あなたの目は腫れるのか?原因を深掘り
朝の目の腫れ、専門的には「眼窩周囲浮腫(がんかしゅういふしゅ)」とも呼ばれるこの現象は、多くの場合、一過性の「むくみ(浮腫)」が原因です。なぜ特に朝、そして目元に現れやすいのでしょうか。その科学的なメカニズムと、私たちの生活習慣との深い関わりを解き明かしていきます。
根本的なメカニズム:体内の水分動態と重力
私たちの体内の水分は、常に血管内と血管外(細胞間質)を行き来しています。このバランスは、主に2つの力によって調整されています。
- 静水圧(Hydrostatic Pressure): 血管内から血管外へ水分を押し出す力。
- 膠質浸透圧(Oncotic Pressure): 主に血液中のアルブミンなどのタンパク質によって、血管内に水分を引き留める力1。
健康な状態では、これらの力のバランスが保たれています。しかし、何らかの要因でこのバランスが崩れ、血管外の水分が過剰になると「むくみ」として現れます。ではなぜ朝、目元にむくみが出るのでしょうか。その最大の理由は重力です。日中、立ったり座ったりしている間、重力によって体内の水分は下半身、特に脚に溜まりがちです。しかし、夜間に横になると、この重力の影響が全身に均等にかかるようになり、下半身に溜まっていた水分が体の上部、つまり頭部や顔へと再分配されます。目元の皮膚は体の中で最も薄く、皮下組織も非常に柔らかいため、わずかな水分の増加でも顕著に「腫れぼったさ」として現れるのです。さらに、体内の余分な水分や老廃物を回収するリンパ系の機能が低下していると、この水分はうまく排出されず、むくみが悪化します。
生活習慣に潜む「3大原因」
多くの人にとって、朝の目のむくみは、前日の生活習慣に起因します。特に以下の3つの要素は、日本人の生活背景と深く関連しており、注意が必要です。
1. 塩分(食塩)の過剰摂取
メカニズム: 体は、体内の塩分濃度を一定に保つという重要な機能を持っています。食事から過剰に塩分を摂取すると、体は塩分濃度を薄めるために、水分を体内に溜め込もうとします。この反応が、全身的なむくみ、特に目元のような敏感な部分での顕著なむくみを引き起こすのです1。
日本人の食生活との関連: 和食は健康的というイメージがありますが、醤油、味噌、漬物、干物など、塩分を多く含む伝統的な食材や調味料も少なくありません。また、ラーメンやうどんの汁、加工食品の利用増加も、現代日本人の塩分摂取量を押し上げる一因となっています。ここで、日本の公式な統計データと国際的な推奨値を比較してみましょう。ご自身の食生活を客観的に見つめ直すきっかけになるはずです。
表1:日本人の食塩摂取量と健康目標値の比較
カテゴリ | 1日の食塩摂取量 |
---|---|
日本人男性の平均 (2022年)8 | 10.5 g |
日本人女性の平均 (2022年)8 | 9.0 g |
厚生労働省の目標値(男性) | 7.5 g 未満 |
厚生労働省の目標値(女性) | 6.5 g 未満 |
世界保健機関(WHO)の目標値 | 5.0 g 未満 |
高血圧の方向けの目標値 | 6.0 g 未満 |
出典: 厚生労働省「令和4年 国民健康・栄養調査」8、その他関連資料に基づきJHO編集委員会作成。
この表が示すように、日本人の平均的な塩分摂取量は、国の目標値すら大幅に上回っており、世界保健機関(WHO)が推奨する理想的なレベルとは大きな隔たりがあります。この「隠れ塩分過多」が、多くの人の朝のむくみの根本原因となっている可能性は非常に高いと言えます。
2. アルコールの摂取
メカニズム: アルコールはむくみに対して二重の影響を及ぼします。まず、アルコールには利尿作用がありますが、それによって体は脱水状態に陥ります。すると、体は危険を察知し、抗利尿ホルモンを分泌して水分を必死に溜め込もうとします。さらに、アルコールは血管を拡張させる作用(血管拡張)があるため、毛細血管から水分が漏れ出しやすくなり、むくみを助長します。
3. 睡眠の問題
物理的な要因:
- 低い枕: 枕が低すぎると、心臓より頭の位置が低くなり、頭部に水分が集まりやすくなります。
- うつぶせ寝: 顔面が下を向くため、重力によって最も水分が溜まりやすい姿勢です。
生理学的な要因(睡眠不足): 睡眠不足は、単に休息が足りないというだけでなく、体に多大なストレスを与えます。このストレスにより、「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌されます。近年の研究では、このコルチゾールが血管やリンパ管の細胞同士の結合を弱め、結果として水分が漏れ出しやすくなる、つまりむくみを引き起こす可能性が示唆されています。また、睡眠不足は体内の水分バランスを調整するホルモンのリズムを乱し、むくみに繋がりやすい状態を作り出します。
日本社会と睡眠: この睡眠不足は、単なる個人の問題ではなく、日本社会全体が抱える深刻な課題です。厚生労働省の「令和5年 国民健康・栄養調査」によると、睡眠時間が6時間未満の人の割合は、30代から50代の男性で4割を超え、40代から60代の女性でも同様に4割を超えるなど、多くの日本人が慢性的な睡眠不足の状態にあることが示されています2。こうした社会的な背景が、朝の目の腫れの一因となっている可能性があります。
その他の寄与因子
上記の3大原因に加えて、以下の要因もむくみに関与します。
- 体の冷え: 体が冷えると全身の血行が悪化し、水分代謝が滞り、むくみやすくなります。
- ホルモンバランスの変動: 特に女性の場合、月経前はホルモンの影響で体に水分を溜め込みやすくなり、目元だけでなく全身がむくむことがあります。
- 物理的な刺激: 目を強くこする(花粉症のかゆみ、メイク落としなど)、合わない化粧品の使用、不潔なコンタクトレンズの装用などは、デリケートな目元の皮膚に直接的な炎症や刺激を与え、腫れの原因となります。
「むくみ」と「腫れ」は違う:眼科受診が必要な危険なサイン
朝の目の腫れぼったさのほとんどは、前述したような生活習慣に起因する一過性の「むくみ(浮腫)」です。しかし、中には病的な「腫れ(炎症・腫脹)」が隠れている場合があり、両者を正しく見分けることは、ご自身の健康を守る上で極めて重要です。このセクションでは、その決定的な違いと、速やかに眼科を受診すべき「危険なサイン」について解説します。
あなたの健康のための重要な区別
まず、「むくみ」と「腫れ」の典型的な特徴を理解しましょう。
- むくみ (Mukumi / Edema):
- 原因: 一時的な水分の滞留。
- 特徴: 通常、両目に左右対称に現れる。痛みや強いかゆみを伴わない。指で押すとへこみ、跡が残ることがある。朝に最もひどく、日中の活動とともに改善することが多い。
- 腫れ (Hare / Swelling):
- 原因: 炎症、感染、アレルギー反応、外傷、腫瘍など。
- 特徴: 片目だけに現れることが多い。痛み、熱感、強いかゆみ、赤みなどの炎症兆候を伴うことがある3。目やに、涙が止まらないなどの症状を伴うことがある。時間が経っても改善しない、あるいは悪化する。
レッドフラッグ・チェックリスト:これらの症状を見逃さないでください
以下の症状が一つでも当てはまる場合は、セルフケアで様子を見るのではなく、速やかに眼科を受診してください。自己判断は危険を伴う可能性があります。
- [ ] 痛みや圧痛がある3
- [ ] 我慢できないほどの強いかゆみがある
- [ ] 明らかな赤みや強い充血がある
- [ ] 黄色や緑色、粘り気のある目やにが出る
- [ ] まぶたにしこりや明らかなできもの(ものもらい等)がある
- [ ] 視界がかすむ、光がまぶしく感じるなどの視力変化がある
- [ ] 腫れが片目だけに限局している
- [ ] 1~2日経っても腫れが引かない、または悪化している
- [ ] 発熱や息苦しさなど、目以外の全身症状を伴う
目の腫れとして現れる代表的な病気
眼科医が診察する、目の腫れを伴う一般的な疾患について紹介します。これは自己診断のためではなく、なぜ専門医の診察が重要なのかを理解していただくための情報です。
アレルギー性結膜炎 (Allergic Conjunctivitis)
これは、目の腫れの最も一般的な病的原因の一つです。花粉やハウスダストなどのアレルゲンが目の粘膜に付着すると、体の免疫システムがこれを異物と認識します。その結果、マスト細胞(肥満細胞)からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、強いかゆみ、充血、そしてまぶたの腫れ(結膜浮腫)といったアレルギー反応を引き起こします。本項で解説する内容は、日本眼科学会が策定した「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第3版)」に基づいています4。これは、日本の眼科診療における標準的な指針です。
主なタイプには、スギやヒノキなどの花粉が原因で特定の季節に症状が現れる季節性アレルギー性結膜炎と、ダニやハウスダストなどが原因で一年を通して症状が見られる通年性アレルギー性結膜炎があります5。
【専門家コラム】日本の国民病・花粉症と目の腫れ
日本において、春先の目の腫れの主な原因としてスギ花粉症は無視できません。2019年に行われた最新の全国調査によると、日本人のスギ花粉症の有病率は38.8%にも上り、特に10代から50代では45%を超えるというデータもあります。この有病率は過去数十年で増加傾向にあり、まさに「国民病」と言えます。花粉が目の粘膜に付着することで直接的にアレルギー反応が起こり、強いかゆみと腫れを引き起こすのです。
治療法としては、ガイドラインでは抗アレルギー点眼薬が第一選択とされています。症状が強い場合には、ステロイド点眼薬が併用されることもあります。最も重要なのは、原因となるアレルゲンを避けることです(例:花粉対策メガネの使用、室内の清掃)。
感染症 (Infections)
- 麦粒腫(ばくりゅうしゅ)/ ものもらい: まぶたの縁にある汗腺や脂腺に細菌が感染して起こる、急性の化膿性炎症です。赤く腫れ、痛みを伴います。
- 霰粒腫(さんりゅうしゅ): まぶたの縁にあるマイボーム腺という脂腺が詰まることで、肉芽腫という塊ができる病気です。通常、痛みは伴いませんが、しこりとして触れます。
- 眼瞼炎(がんけんえん): まぶたの皮膚や縁に起こる炎症の総称で、細菌感染やアレルギー、皮脂の過剰分泌などが原因となります。
これらの感染症や炎症性疾患は、抗菌薬の点眼や内服など、適切な医療的治療が必要です。
全身疾患のサイン (Sign of Systemic Disease)
まれに、目のむくみが全身の病気の初期症状として現れることがあります。特に、目だけでなく顔全体や手足などにもむくみが見られる場合は注意が必要です。
- 腎臓病(ネフローゼ症候群など): 腎臓の機能が低下すると、体内のタンパク質(アルブミン)が尿中に大量に漏れ出てしまい、血液の膠質浸透圧が低下します。これにより、水分が血管内に留まれなくなり、全身に強いむくみが生じます。顔、特にまぶたは組織が柔らかいため、初期にむくみが現れやすい部位です。
- 心不全: 心臓のポンプ機能が低下すると、血液がうまく循環せず、体内に水分が溜まりやすくなります。
- 甲状腺機能低下症: 甲状腺ホルモンの不足により、体の新陳代謝が低下し、粘液水腫と呼ばれる特有のむくみが顔や手足に現れることがあります。
これらの可能性が考えられる場合、眼科医は内科など他科の専門医と連携して診断を進めます。目の症状が、より大きな健康問題への入り口となることもあるのです。
もう繰り返さないための完全ガイド:目の「むくみ」を予防する生活習慣
目のむくみを一時的に解消することも大切ですが、より重要なのは、むくみにくい体質と生活習慣を築き、悩みを根本から断ち切ることです。ここでは、日々の生活の中で実践できる、科学的根拠に基づいた長期的な予防策を網羅的にご紹介します。
むくみ予防の食生活
体内の水分バランスは、日々の食事内容に大きく影響されます。
- 塩分(ナトリウム)の管理: むくみ予防の最も重要な鍵は、塩分摂取量のコントロールです。醤油や塩の代わりに、「だし」の旨味や香辛料、ハーブなどを活用しましょう。ラーメンの汁を飲み干さない、加工食品の栄養成分表示を確認するなど、具体的な工夫が有効です。
- カリウムの積極的な摂取: カリウムは、体内の余分なナトリウムを尿として排出するのを助ける働きを持つミネラルです。バナナ、かぼちゃ、ほうれん草、アボカドなどに豊富に含まれています。
- 水分補給のバランス: 「むくむのが怖いから水分を控える」のは逆効果です。水分不足は、かえって体を水分を溜め込むモードにさせてしまいます。一日を通してこまめに、常温の水や白湯を飲むのが理想的です。
睡眠環境の最適化
一日の3分の1を過ごす睡眠中の環境は、翌朝の顔に直接影響します。
- 枕の高さ: 心臓よりも頭が少し高くなる程度の高さの枕を選び、顔や頭部に水分が溜まるのを防ぎましょう。
- 睡眠時の姿勢: 最もむくみやすい「うつぶせ寝」を避け、「仰向け」で寝ることを心がけましょう。
- 就寝前の習慣: 就寝前のスマートフォン操作は、下を向く姿勢による血行不良や、ブルーライトによる睡眠の質の低下を招き、むくみの原因となり得ます。
目元に優しいスキンケア・メイク習慣
目元の皮膚は非常にデリケートです。日々のケアで無意識に負担をかけているかもしれません。
- 優しい洗顔と拭き方: メイク落としや洗顔時にゴシゴシこするのは厳禁です。優しくなじませるように洗い、タオルで押さえるように水分を拭き取ります。
- 低刺激性製品の選択: 目元に使う化粧品は、低アレルギー性で香料の少ない製品を選び、新しい製品はパッチテストを行うとより安全です。
- コンタクトレンズの衛生管理: レンズの汚れは炎症やアレルギーの原因になります。洗浄・消毒を徹底し、必要であれば1日使い捨てタイプへの変更も検討しましょう。
これらの予防策は、一つひとつは小さな習慣ですが、継続することで体質そのものを改善し、むくみの悩みから解放されるための確実な一歩となります。
専門家による深掘り解説:目元の健康に関する最新科学
ここまでは、目のむくみに関する確立された知識と対策について解説してきました。このセクションでは、さらに一歩踏み込み、なぜ目元が老化の影響を受けやすいのか、そして最新の科学がこの問題にどのようにアプローチしているのか、専門的な視点から深掘りします。
老化の要因:なぜ目は最初に年齢を示すのか
「年齢は目元に現れる」とよく言われますが、これには科学的な根拠があります。資生堂と徳島大学による共同研究は、先進的な顕微鏡技術を用いて、目元の皮膚内部で起こる特有の加齢変化を明らかにしました6。この研究によると、目元の皮膚の真皮は、コラーゲン線維がランダムに走る柔らかい上層と、一方向に密に走る硬い下層の二層構造をしています。加齢に伴い、この上層の「クッション」となるコラーゲンのみが顕著に減少し、皮膚のたるみやシワの固定化に繋がることが発見されました。この目元特有の構造変化が、たるみや深いシワの根本的な原因の一つであると考えられています6。
スキンケア製品の真実:本当に効果のある成分とは?
多くのアイクリームに配合されている成分として「カフェイン」が挙げられます。科学的な文献において、外用(塗布)されたカフェインには血管収縮作用があると報告されています。これにより、皮膚の毛細血管が一時的に収縮し、血管から漏れ出す水分量が抑えられるため、むくみや赤みの軽減に繋がる可能性があります。ある臨床試験では、3%のカフェインと1%のビタミンKを含有する製品を4週間使用したところ、目の下のクマやシワの深さが減少したと報告されており、カフェインが見た目の問題を改善する可能性を示唆しています7。ただし、効果には個人差があります。
グリンパティック・システム:睡眠が持つ、脳の老廃物除去機能
近年、医学界で注目されているのが「グリンパティック・システム」です。これは、脳内の老廃物を洗い流すための、いわば「脳のリンパ系」とも言えるシステムで、特に深い睡眠中に最も活発に機能することが分かっています。まだ研究途上の分野ではありますが、このシステムが脳全体の体液浄化に関わっていることから、将来的には、睡眠の質が顔や目元の体液循環、ひいてはむくみにどう関与するかの詳細なメカニズム解明に繋がる可能性があります。
よくある質問
泣いた次の日に目が腫れるのはなぜですか?
泣くと、涙の産生が増えるだけでなく、目をこすることで物理的な刺激が加わります。この刺激がまぶたの毛細血管を傷つけ、炎症反応を引き起こすことで水分が漏れ出し、腫れの原因となります。また、涙には塩分が含まれているため、皮膚の浸透圧が変化し、むくみを助長することもあります。
市販のアイマッサージャーはむくみに効果がありますか?
適切に使用すれば、効果が期待できる場合があります。多くのアイマッサージャーは、温熱機能や振動によって目元の血行を促進し、リンパの流れを助けることを目的としています。ただし、強すぎる刺激は逆効果になる可能性があるため、必ず製品の指示に従い、心地よいと感じる範囲で使用してください。もし使用後に痛みや赤みが出る場合は、すぐに使用を中止し、専門医に相談してください。
むくみ解消に特に良い食べ物や飲み物は何ですか?
体内の余分な塩分を排出する「カリウム」を多く含む食品がおすすめです。具体的には、バナナ、アボカド、ほうれん草、かぼちゃ、海藻類(ひじき、昆布)などが挙げられます。飲み物では、体を温め代謝を促進する白湯や、利尿作用のあるハーブティー(例:ダンデライオンティー)なども良いでしょう。ただし、特定の食品に頼るのではなく、バランスの取れた食生活全体で塩分をコントロールすることが最も重要です。
結論
本稿では、朝の目の腫れという多くの人が抱える悩みについて、眼科専門医の視点から多角的に解説してきました。この身近な現象の裏には、体内の水分動態という科学的な原理と、私たちの生活習慣が密接に絡み合っています。健康でクリアな目元を維持するための重要なポイントは、緊急時の即効ケアをマスターすること、危険な「腫れ」を見分ける知識を持つこと、そして何よりも予防こそが最善の策であると心得ることに尽きます。塩分の管理、睡眠の質の確保、目元への物理的刺激を避けるといった生活習慣の改善が、むくみにくい体質を作るための最も確実な道です。朝の目の腫れは、単なる美容上の問題ではなく、あなたの体が発している生活習慣へのメッセージです。この記事で得た知識を活かし、ご自身の体と向き合うことで、この悩みは必ず克服できます。皆様が毎日、自信に満ちた晴れやかな表情で一日を始められることを、心より願っています。
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