【科学的根拠に基づく】朝、目やにが多いのは病気のサイン?考えられる原因から子どものケア、正しい治し方まで徹底解説
眼の病気

【科学的根拠に基づく】朝、目やにが多いのは病気のサイン?考えられる原因から子どものケア、正しい治し方まで徹底解説

「朝、目覚めたときに目やにが多くて驚いた」「いつもと違う色の粘り気のある目やにが出て不安だ」と感じたことはありませんか。目やには誰にでも起こりうる生理現象ですが、時には目の病気が隠れている重要なサインである可能性もあります。この記事は、皆様が自身の目やにの状態を正確に理解し、それが生理的なものなのか、あるいは速やかに医療機関を受診すべき病的なものなのかを判断できる知識を提供することを目的としています。本稿では、日本眼科学会、日本眼科アレルギー学会、ドライアイ研究会などが公表している国内の主要な診療指針、および国際的に評価の高い査読付き学術論文といった最高レベルの権威を持つ情報源に基づき123、目やにの正常と異常の見分け方、考えられる原因、状況別の具体的な対処法、そして日々の予防策に至るまで、包括的かつ詳細に解説します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源の一部と、提示された医学的ガイダンスへの直接的な関連性を示したリストです。

  • 日本眼科学会: ウイルス性結膜炎、ドライアイ、アレルギー性結膜疾患に関する診療ガイドラインは、本記事における診断基準、治療法、および患者指導の記述の根幹をなしています345
  • 日本小児眼科学会: 特に「赤ちゃん・子どもの目やに」のセクションは、同学会が提供する先天性鼻涙管閉塞や小児の感染性結膜炎に関する専門的知見に準拠しています6
  • 日本眼科医会: ウイルス性結膜炎の感染対策やコンタクトレンズ関連の合併症に関する情報は、同会が一般向けに提供する健康情報に基づき、公衆衛生上の重要性を強調しています78
  • PubMed Central (PMC) 掲載の学術論文: 結膜炎の診断と治療に関する系統的レビューや小児結膜炎の臨床症状に関する研究など、国際的な医学研究の成果が、疾患の解説に深みと客観性を加えています91011

要点まとめ

  • 目やに(眼脂)は涙や古い細胞などが混ざったもので、生理的なものと病的なものがあります。
  • 黄色・緑色で膿のような、または白くネバネバ糸を引くような目やには病気のサインかもしれません。
  • 強い目の痛み、視力低下、光への過敏さ、強い充血を伴う場合は、直ちに眼科を受診する必要があります。
  • 主な原因として、細菌・ウイルス感染、アレルギー、ドライアイなどが考えられ、それぞれ治療法が異なります。
  • 赤ちゃんやコンタクトレンズ使用者は特有の危険性があり、より慎重な対応が求められます。
  • 市販薬の使用は限定的と考え、2~3日経っても改善しない場合は自己判断を中止し、必ず専門医に相談してください。

第1部:目やにの基礎知識 ― なぜ「目やに」はできるのか?

目やにについて正しく理解することは、ご自身の目の健康状態を把握するための第一歩です。ここでは、目やにの正体と、心配のいらない正常な目やに、注意が必要な異常な目やにの違いについて解説します。

1-1. 目やにの正体とは?

目やには医学用語で「眼脂(がんし)」と呼ばれます。これは、涙、目の表面を潤す粘液(ムチン)、角膜や結膜から剥がれ落ちた古い上皮細胞、そして空気中のほこりなどが混ざり合ってできたものです112。目やには単なる老廃物ではなく、目に入った異物や病原体を絡め取って体外に排出するという、目を保護するための重要な生理的な役割も担っています1

1-2. 正常な目やにと異常な目やに

読者の皆様が最も知りたい「この目やには心配ないものか」という疑問に答えるため、生理的なものと病的なものの違いを明確に区別して説明します。

  • 生理的な目やに(正常): 私たちは睡眠中、まばたきの回数が大幅に減少します。これにより、涙による目の自浄作用が低下するため、老廃物が目頭や目尻に溜まりやすくなります。その結果として朝に見られる、少量の白っぽい、あるいは乾燥してカサカサした目やには、目の細胞が新しく生まれ変わる「新陳代謝」に伴う正常な現象であり、通常は心配ありません113
  • 病的な目やに(異常): 一方、細菌やウイルスなどの病原体が目に侵入すると、体を守るための免疫反応として炎症が起こります。この炎症反応の結果として産生される目やには、普段のものとは明らかに「量」「色」「粘稠性(ねばりけ)」が異なります1。これは体が異物と戦っている証拠であり、何らかの眼疾患の存在を示唆する重要なサインです。

この記事の序盤でこの基本的な区別を理解することで、ご自身の状況を客観的に把握し、その後の詳細な疾患解説への理解を深めることができます。生理的なメカニズムを正しく知ることは、過度な不安を和らげることにも繋がります。

第2部:【最重要セルフチェック】危険な目やにの見分け方と受診の目安

このセクションは、皆様が具体的な行動を起こすための判断材料を提供する、この記事全体の核となる部分です。ご自身の目やにが危険なサインではないか、以下の項目で確認してみましょう。

2-1. 色と粘り気でわかる危険度サイン

目やにの性状は、その原因を推測するための重要な手がかりとなります14

  • 黄色・緑色の膿のようなドロっとした目やに: これは細菌感染、特に細菌性結膜炎を強く示唆する典型的なサインです1115。体内の白血球が細菌と戦った残骸が膿となり、このような色と性状になります。
  • 白くネバネバと糸を引くような目やに: ウイルス性結膜炎やアレルギー性結膜炎の可能性があります25。特にアレルギー反応では、ムチンという粘液物質の分泌が過剰になり、特有の糸を引く目やにが見られます。
  • 水のようにサラサラした大量の目やに: ウイルス感染の初期段階や、アレルギー性結膜炎で多く見られる特徴です9。涙が止まらないと感じることもあります。
  • 乾燥して硬い、または粉っぽい目やに: ドライアイ(乾性角結膜炎)や眼瞼炎が背景にある可能性が考えられます16。涙の安定性が低下したり、まぶたの縁に炎症があったりすると、このような目やにが出やすくなります。

2-2. これらの症状が伴う場合はすぐに眼科へ

目やにだけでなく、他の症状との組み合わせは、より重篤な眼疾患の兆候である可能性があります。以下の症状が一つでも伴う場合は、市販薬で様子を見たり自己判断したりせず、直ちに眼科専門医を受診してください10

  • 強い目の痛み、ゴロゴロとした異物感10
  • 明らかな視力低下、目のかすみ10
  • 光を異常にまぶしく感じる(羞明)10
  • 白目が真っ赤になるほどの強い充血、まぶたの著しい腫れ7
  • 症状が数日間改善しない、あるいは悪化傾向にある16

表1:危険な目やにセルフチェック表

ご自身の症状を一目で客観的に評価し、適切な行動を判断するためのツールとしてご活用ください。

目やにの特徴(色・粘稠性) 考えられる主な原因 伴いやすい症状 緊急度・推奨アクション
黄色・緑色で膿のよう 細菌性結膜炎 強い充血、まぶたの癒着 【高】 早めに眼科を受診
白くネバネバと糸を引く ウイルス性結膜炎、アレルギー性結膜炎 涙目、充血、(アレルギーでは強いかゆみ) 【中】 眼科を受診。特にウイルス性は感染対策が必須
水のようにサラサラ ウイルス性結膜炎、アレルギー性結膜炎 涙目、充血、(アレルギーでは強いかゆみ) 【中】 眼科を受診
乾燥して硬い・粉っぽい ドライアイ、眼瞼炎 目の乾き、ゴロゴロ感、まぶたの縁の赤み 【低~中】 症状が続くなら眼科を受診

第3部:【原因別】目やにが多いときに考えられる病気 完全ガイド

このセクションでは、目やにを主症状とする主要な疾患について、その病態、原因、そして国内外の診療指針に基づく標準的な治療法を詳細に解説し、皆様の深い理解を助けます。

3-1. 感染症が原因の場合

3-1-1. 細菌性結膜炎

症状と原因: 黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌などが主な原因菌です。特徴的な黄色や緑色の膿のような目やににより、朝、まぶたが固着して開けにくくなることがあります6。子どもから大人まで幅広い年齢層でみられます。

治療: 処方される抗菌点眼薬による治療が基本となります7。市販の抗菌目薬(主成分:スルファメトキサゾール)も存在しますが、一部の専門家からは、その抗菌力は限定的であり、耐性菌などには効果が期待しにくいとの指摘もあります17。市販薬を数日使用しても改善しない場合は、自己判断を続けず、必ず医師の診断を受ける必要があります18

3-1-2. ウイルス性結膜炎(はやり目)

症状と原因: 主にアデノウイルスが原因で、「はやり目」とも呼ばれます。白っぽくネバネバした、または水様性の目やに、強い充血、流涙、ゴロゴロとした異物感、そして耳の前にあるリンパ節の腫れや痛みを伴うことが特徴です6

特徴と治療: 感染力が非常に強いことが最大の特徴です。ウイルス自体に直接効く特効薬はなく、治療は主に、炎症を抑えるための抗炎症点眼薬や、他の細菌による二次感染(混合感染)を予防するための抗菌点眼薬の使用が中心となります19

感染対策: ウイルス性結膜炎は、学校保健安全法において「第三種の感染症」に指定されており、医師が他者への感染のおそれがないと認めるまで出席・出勤停止となります20。家庭内や職場での感染拡大を防ぐため、厳格な手洗い、タオルや洗面用具の完全な分離、アルコール消毒の徹底などが極めて重要です6

3-1-3. 眼瞼炎(がんけんえん)

症状と原因: まぶたの縁、特にまつ毛の生え際が炎症を起こす状態です。涙の油分を分泌するマイボーム腺の機能不全が深く関わっていることが多く、まぶたの縁の赤み、かゆみ、そしてフケのような乾燥した目やにが特徴です2122

ケア: 治療の基本は、まぶたを温める「温罨法(おんあんぽう)」、いわゆるホットパックと、まぶたの縁を清潔に保つ「リッドハイジーン」です。これらを根気よく続けることが症状の改善に繋がります。

3-1-4. 麦粒腫(ばくりゅうしゅ)・霰粒腫(さんりゅうしゅ)

症状: 一般的に「ものもらい」と呼ばれる疾患群です。麦粒腫は細菌感染による急性の炎症で、赤み、腫れ、痛みを伴います。一方、霰粒腫はマイボーム腺が詰まることによる慢性の肉芽腫性炎症で、通常は痛みを伴わないしこりが特徴です。どちらの疾患も、炎症や感染に伴い膿を含んだ目やにが出ることがあります23

3-1-5. 角膜潰瘍・角膜炎

症状: これは視力障害などの後遺症を残す可能性のある、非常に危険な状態です。激しい目の痛み、著しい視力低下、強い充血などを伴います。特にコンタクトレンズの不適切な使用が最大の危険因子であることが明確に指摘されており、警鐘を鳴らす必要があります24。このような症状がある場合は、一刻も早く眼科専門医による集中治療が不可欠です。

3-2. アレルギーが原因の場合(アレルギー性結膜疾患)

症状: なんといっても「強いかゆみ」が最も特徴的な症状です。目やには涙のようにサラサラしたもの、または白く糸を引くような粘性のあるものが多く見られます5

疫学: 日本では非常に多くの人が悩む身近な疾患であり、2019年の調査ではアレルギー性結膜疾患の有病率は48.7%、特にスギ花粉症の有病率は37.4%にものぼることが報告されています2526

治療: アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインによると、治療の基本は原因となるアレルゲン(花粉、ハウスダストなど)を回避・除去するセルフケアと薬物療法です5。薬物療法では、抗アレルギー点眼薬が中心となり、症状が重い場合にはステロイド点眼薬が用いられることもあります。コンタクトレンズを装用していると症状が悪化しやすいため、注意が必要です。

3-3. ドライアイが原因の場合

症状: 目の乾燥感、疲れ、ゴロゴロ感などが主な症状です。涙の量が減少したり、涙の質(油層の異常などによる安定性の悪化)が低下したりすることで、涙が蒸発しやすくなります。その結果、角膜の表面が傷つきやすくなり、粘り気のある目やにや、乾燥して膜を張ったような目やにが出やすくなります27

診断: 日本のドライアイ診療ガイドライン(2016年)では、診断の核となる客観的な基準の一つとして「涙液層破壊時間(BUT: Break-Up Time)が5秒以下」であることが挙げられています4

治療: 治療法は多岐にわたります。不足した涙を補う人工涙液や、涙を角膜上に保持するヒアルロン酸ナトリウム点眼薬に加え、日本では涙の成分であるムチンや水分の分泌そのものを促進する専門的な治療薬(ジクアホソルナトリウム、レバミピド)が承認・使用されており、高い治療効果が期待できます4。また、パソコン作業中のこまめな休憩や、加湿器の使用といった生活習慣の改善も、治療の重要な一環です。

表2:主な原因疾患の比較表

複雑な疾患情報を整理し、ご自身の症状と照らし合わせて原因疾患を推測する際の一助としてください。ただし、最終的な診断は必ず専門医に委ねてください。

疾患名 主な症状 目やにの特徴 かゆみ 痛み 感染力
細菌性結膜炎 充血、異物感、まぶたの癒着 黄色・緑色の膿状 少ない 軽度 あり(中程度)
ウイルス性結膜炎 強い充血、流涙、リンパ節の腫れ 白くネバネバ、または水様性 軽度 伴うことあり 非常に強い
アレルギー性結膜炎 非常に強いかゆみ、くしゃみ・鼻水 白く糸を引く、または水様性 強い なし なし
ドライアイ 目の乾き、疲れ、ゴロゴロ感 粘り気がある、乾燥して膜状 伴うことあり 伴うことあり なし
眼瞼炎 まぶたの縁の赤み・かゆみ、フケ 乾燥してポロポロ、または粘り気 あり 伴うことあり なし
角膜潰瘍 激しい痛み視力低下、羞明 膿性・粘液性など様々 なし 激しい 原因による

第4部:【年代・状況別】特別な注意が必要なケース

一般的な成人と比較して、赤ちゃん・子ども、そしてコンタクトレンズ使用者は、特有の危険性があり、異なるケア方法が求められます。該当する方は特に注意深くお読みください。

4-1. 赤ちゃん・子どもの目やに

乳幼児期は視機能が急速に発達する極めて重要な時期です。この時期の目のトラブルは、将来の視力に影響を及ぼす可能性があるため、特に注意が必要です。

  • 先天性鼻涙管閉塞: 新生児や乳児で常に涙目であったり、目やにが多かったりする場合に、まず考慮すべき疾患です。涙が鼻へと抜ける管(鼻涙管)が生まれつき塞がっていたり狭かったりするために、涙や目やにが目に溜まってしまう状態です。多くは生後1年以内に自然に開通しますが、涙嚢(るいのう)マッサージや、改善しない場合はブジーと呼ばれる細い器具で管を通す治療が必要になることがあります。日本小児眼科学会もこの疾患に関する情報を提供しています628
  • 感染性結膜炎: 子どもの結膜炎は、年齢によって原因菌が異なるという専門的な視点があります。新生児では産道で感染するクラミジアや淋菌、乳幼児期ではインフルエンザ菌、学童期では肺炎球菌などが原因となりやすいとされています6。子どもは無意識に目をこすってしまうため、感染が広がりやすい点も特徴です。
  • 受診の重要性: 最も強調したいのは、乳幼児期の目の異常を放置する危険性です。重い結膜炎や角膜炎を放置すると、角膜に濁りが残るなどして、生涯にわたる視力障害、いわゆる「弱視」につながる危険性があります。そのため、「しばらく様子を見よう」と安易に判断せず、異常を感じたら速やかに小児眼科を受診することが、お子様の将来の視力を守る上で不可欠です6

4-2. コンタクトレンズ使用者の目やに

コンタクトレンズを使用している方の目やには、単なるアレルギーや乾燥だけでなく、レンズ装用特有の原因が潜んでいる可能性があります。

  • 原因: レンズに付着したタンパク質・脂質・化粧品などの汚れ、レンズ装用による角膜の慢性的な酸素不足、そして最も重要なのが不適切なレンズケアです。これらが三大原因として指摘されています24
  • 関連疾患: コンタクトレンズに関連する特有の眼障害として、アレルギー反応による「巨大乳頭結膜炎」や、最も危険視すべき「角膜感染症」があります。特に角膜感染症は、アカントアメーバや緑膿菌といった、失明に至る可能性もある非常に危険な病原体によって引き起こされることがあります824
  • 対策と警告: 感染症予防の要は、正しいレンズケアの徹底です。毎日のこすり洗い、保存液の交換、レンズケースの清潔保持と定期的な交換を絶対に怠ってはいけません29。そして、目やに、痛み、充血などの異常を感じた際は、直ちにレンズの装用を中止し、自己判断せずに必ず眼科を受診するよう厳しく指導します。

第5部:今日からできる!目やにの正しいケアと予防法

疾患の治療だけでなく、日々の正しいケアと予防が、目の健康を長期的に維持するためには欠かせません。

5-1. 目やにの安全な取り方

乾いて固まった目やにを無理に爪で剥がしたり、強くこすったりすることは、まぶたや角膜のデリケートな表面を傷つける危険性があるため、絶対に避けるべきです30。最も安全な方法は、ぬるま湯で湿らせた清潔なガーゼや医療用のクリーンコットン(清浄綿)で目やにを十分にふやかし、目頭から目尻に向かって優しく拭き取ることです31。感染が疑われる場合は、左右の目でガーゼを使い分ける、あるいは片目ごとに新しいものを使用するといった、感染拡大を防ぐための配慮が重要です。

5-2. 目やにを繰り返さないための予防習慣

対症療法だけでなく、根本的な予防策を日常生活に取り入れることが大切です。

  • 手指の清潔: 全ての眼感染症予防の基本であり、最も重要な習慣です。外出後や目を触る前には、石鹸と流水による手洗いを徹底するよう心がけましょう7
  • 目をこすらない: かゆみや異物感があっても、手で直接こすることは、角膜を傷つけたり、手に付着した細菌やウイルスを目に持ち込んだりする最大の原因となります。かゆい時は冷たいタオルで冷やすか、処方されたアレルギー用の点眼薬で対応するよう指導します。
  • アイメイクの注意: 化粧品、特にマスカラやアイライナーの粒子がマイボーム腺を詰まらせ、眼瞼炎の原因になることがあります。就寝前には、目元専用のリムーバーを用いて完全にメイクを落とすことが重要です。
  • 生活環境の整備: ドライアイ対策として、加湿器を使用するなどして室内の適切な湿度(50~60%が目安)を保ちましょう。アレルギー対策としては、花粉シーズンには防御用の眼鏡やマスクを着用し、こまめに掃除をしてハウスダストを減らすといった具体的な工夫が有効です。
  • コンタクトレンズの正しい使用: 眼科医に指示された装用時間を厳守し、毎日のレンズケアを絶対に怠らないことを改めて強調します。定期検診も必ず受けましょう29

第6部:治療の選択肢:市販薬と眼科での治療

「どの薬を使えばよいか」という問いに対し、専門的かつ客観的な情報を提供し、安易な自己判断の危険性を啓発します。

6-1. 市販薬(OTC医薬品)で対応できるケースとその限界

  • 抗菌目薬: 日本で市販されている抗菌目薬の主成分は「スルファメトキサゾール」です17。一部の専門家によれば、この成分の抗菌力は現代の医療現場で問題となる薬剤耐性菌などには効果が期待しにくく、限定的なものです17。ごく軽度の細菌感染が疑われる場合の初期対応としては選択肢になり得ますが、2~3日使用しても改善が見られない、あるいは悪化する場合には、効果がないと判断し、速やかに眼科を受診する必要があります32
  • アレルギー用目薬: アレルギー反応のメカニズムに作用する様々な成分があります。原因物質の放出を抑える「ケミカルメディエーター遊離抑制成分」や、出てしまったかゆみを直接抑える「抗ヒスタミン成分」などがあり、症状に応じて選ぶことができます33
  • 人工涙液・ドライアイ用目薬: 目の乾燥が原因で目やにが出ている場合の水分補給や、角膜保護を目的として有効です。防腐剤の入っていない、一回使い切りタイプの製品は目に優しいとされています4

6-2. 眼科で処方される専門的な治療薬

市販薬と処方薬の明確な違いを理解し、専門医による診断・治療の重要性を認識してください。

  • 強力な抗菌薬: 市販薬にはない、より広範囲の細菌に有効なニューキノロン系やセフェム系など、強力な抗菌薬が処方可能です。
  • 抗ウイルス薬: ヘルペスウイルスなど、特定のウイルスに効果を示す専門的な治療薬も存在します。
  • ステロイド薬: 強い炎症を効果的に抑えますが、眼圧上昇などの副作用の危険性があるため、眼科医の厳密な監督下でのみ使用されるべき薬剤です。
  • 免疫抑制薬: 重症のアレルギー性結膜疾患(春季カタルなど)やドライアイに対して、過剰な免疫反応を調節するために用いられることがあります。
  • ドライアイ専門薬: 市販の人工涙液とは作用機序が異なり、涙の成分(ムチンや水分)の分泌自体を促進するジクアホソルナトリウムやレバミピドといった処方薬は、ドライアイ治療の大きな柱となっています4

表3:【日本国内】症状別・市販目薬の成分と選び方ガイド

薬局で自己の症状に適した市販薬を選ぶ際の、具体的で安全な指針としてください。ただし、これはあくまで応急的な対応の参考であり、医師の診断に代わるものではありません。

主な症状 推奨される成分の種類 主な成分名(例) 選び方のポイント・注意点
黄色い目やに(軽度) 抗菌成分 スルファメトキサゾール あくまで初期対応のみ。2~3日使用して改善がなければ、自己判断を中止し必ず眼科へ。1834
強いかゆみ、充血 抗ヒスタミン成分 + 抗炎症成分 ケトチフェンフマル酸塩、プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウム アレルギー症状を多角的に抑える。クールタイプ(清涼感)のものは刺激に感じる人もいるため注意。3536
目の乾き、ゴロゴロ感 人工涙液、角膜保護成分 塩化ナトリウム・カリウム、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム 防腐剤フリーの製品は目に優しい。涙の補充が目的。症状が強い場合はドライアイの専門治療が必要。4

よくある質問

Q1. 目やにが出たとき、コンタクトレンズは使ってもいいですか?

A. いいえ、原因がはっきりするまでは直ちに使用を中止してください。特に感染症の場合、症状を悪化させるだけでなく、レンズ自体が細菌の温床となり、さらに重篤な角膜感染症を引き起こす危険性があります24。必ず眼科医の許可を得てから装用を再開してください。

Q2. 目を洗うのは効果がありますか?洗眼薬は使ってもいいですか?

A. 目の周りを清潔に保つことは重要ですが、水道水で直接目を洗うことは、涙の重要な成分まで洗い流してしまい、かえって目を傷つける可能性があるため避けるべきです。目の中の異物や目やにを洗い流したい場合は、防腐剤が含まれていない人工涙液を多めに点眼するか、点眼型の洗眼薬を使用することが推奨されます31。カップ式の洗眼薬は、まぶたの周りの汚れを目の中に入れてしまう可能性も指摘されているため、使用には注意が必要です。

Q3. 子どもが目やにで学校を休む基準は?

A. アデノウイルスなどが原因のウイルス性結膜炎(はやり目)と医師に診断された場合は、学校保健安全法に基づき、他者への感染のおそれがなくなったと医師が判断するまで出席停止となります620。目やにが多いからという自己判断で休ませたり登校させたりせず、必ず眼科医の診断と指示に従ってください。

結論

本記事では、目やにの基礎知識から、危険なサインの見分け方、原因となる様々な疾患、そして具体的なケアや予防法までを、科学的根拠に基づいて包括的に解説しました。目やには、単なる老廃物である場合もあれば、体が発する重要な病気のサインであることもあります。特に「色」「量」「粘り気」、そして「伴う症状」に注意を払うことが極めて重要です。

この記事を通じて最もお伝えしたい核心的なメッセージは、「安易な自己判断は危険」であるということです。特に、本稿で繰り返し述べたような目の痛みや視力低下といった危険なサインがある場合は、この記事で得た知識を不安解消のためだけではなく、ためらわずに眼科専門医の扉を叩くための後押しとしてご活用ください。正しい知識を身につけ、適切なセルフケアと専門家との連携を通じて、皆様がかけがえのない目の健康を守り、快適な毎日を送られることを心より願っております。

免責事項この記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医療アドバイスに代わるものではありません。健康に関する問題や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格を持つ医療専門家にご相談ください。

参考文献

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