血圧の正しい測り方:日本高血圧学会ガイドラインに基づく完全ガイド
心血管疾患

血圧の正しい測り方:日本高血圧学会ガイドラインに基づく完全ガイド

日本は世界的に見ても健康意識が高い国ですが、日本高血圧学会の報告によれば、国内の推定高血圧者数は約4300万人に上ります1。しかし、その中で血圧を効果的に管理できているのは一部に過ぎないという憂慮すべき現実があります。この数字は単なる医療統計ではなく、高血圧が脳卒中や心筋梗塞といった命に関わる心血管疾患の主要な危険因子であることを考えると、深刻な公衆衛生上の課題を浮き彫りにしています2。このような状況の中、医療現場では画期的な変化が起きました。国内で最も権威ある機関の一つである日本高血圧学会は、「高血圧治療ガイドライン2019」において、一度きりの診察室での血圧測定値よりも、家庭で測定された血圧(家庭血圧)の方が心血管イベントの発生をより正確に予測できると明確に位置づけました1。これは単なる技術的な推奨ではなく、医師中心の医療から患者が主体的に関与する医療へと、健康管理の哲学が根本的に移行したことを象徴しています。もはや家庭での血圧測定は補助的な作業ではなく、自らの健康を守るための、極めて重要かつ力強い自己管理行為となったのです。数値を正しく理解するために、血圧は二つの指標で表されます。心臓が収縮して血液を送り出す際の動脈圧を示す「収縮期血圧」(上の血圧)、そして心臓が拡張して次の拍動に備える間の動脈圧を示す「拡張期血圧」(下の血圧)です4。この二つの指標を家庭で正確に追跡することは、「白衣高血圧」のような一時的な変動の影響を排し、日常生活における心血管系の真の状態を捉えた、信頼性の高い情報を医師に提供します5。本記事は、この新たな役割を担うすべての国民が、自らの健康を積極的に守るための知識と技術を習得できるよう、包括的かつ詳細な指針を提供します。

本記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的ガイダンスへの直接的な関連性を示したリストです。

  • 日本高血圧学会 (JSH): 本記事における家庭血圧測定の重要性、測定手順、血圧分類、および治療目標に関する指針は、同学会が発行した「高血圧治療ガイドライン2019」に基づいています。
  • 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」: 日本人の年代別・性別の血圧平均値に関するデータは、この国家調査から引用されており、読者が自身の数値を客観的に比較するための基準を提供します。
  • オムロンヘルスケア株式会社、シチズン・システムズ株式会社など: 血圧計の正しい使用法や具体的な注意点に関する実用的な情報は、これらの主要メーカーが提供する公開情報源に基づいています。

要点まとめ

  • 日本高血圧学会は、診察室での測定よりも家庭での血圧測定(家庭血圧)を重視しており、心血管疾患の予測に優れているとしています。
  • 測定には、国際的な精度基準を満たした「上腕式」の電子血圧計の使用が強く推奨されます。手首式は誤差が生じやすいため注意が必要です。
  • 正確な測定のため、測定前30分は喫煙、カフェイン摂取、飲酒、入浴、運動を避け、静かで快適な室温の環境を整えることが不可欠です。
  • 朝(起床後1時間以内、服薬・食事前)と夜(就寝直前)の1日2回、決まった時間に測定することで、血圧の日内変動を正確に把握できます。
  • 家庭血圧における高血圧の診断基準は135/85 mmHg以上であり、ほとんどの成人(75歳未満)の降圧目標は125/75 mmHg未満と、より厳格に設定されています。

第1部:準備編 – 正確な測定はここから始まる

カフを腕に巻く前に、周到な準備を行うことが測定結果の精度を左右する決定的な要因となります。この段階は、最も一般的な誤差の原因を未然に取り除き、記録する数値がご自身の健康状態を正しく反映することを保証するためのものです。

1.1 測定機器の選択:なぜ「上腕式」が推奨されるのか

測定機器の選択は、質の高いデータを確保するための最初の、そして最も重要な関門です。市場に数多ある医療機器の中から正しい選択をすることが、その後の全ての血圧追跡努力の基盤となります。日本高血圧学会(JSH)のガイドラインは、検証済みの「上腕式」電子血圧計を使用するよう、非常に明確かつ具体的な推奨を提示しています3。この推奨の背景には、解剖学的および生理学的な理由があります。上腕での測定は、心臓に近く、体の姿勢による影響を受けにくい太い血管である上腕動脈で行われます。これにより、手首の橈骨動脈で測定する手首式血圧計と比較して、測定結果が著しく安定し、信頼性が高まります3。手首式は利便性が高いように見えますが、手首の位置を正確に心臓の高さに保たない場合に誤差が生じやすいという欠点があります。また、医療機関や健康チェックステーションでよく見かけるアームイン式自動血圧計も存在します。このタイプは利用者が自分でカフを巻く必要がなく、巻き方の強弱による誤差を排除できるため、正確な結果が得られやすく、操作も簡単です6。しかし、一般的に大型で持ち運びには適さず、家庭での日常的な追跡には不向きです。したがって、家庭血圧のモニタリング目的においては、上腕式がJSHによって認められた「標準」と言えます。

1.2 測定前の「30分ルール」:避けるべきことリスト

血圧は一定の数値ではなく、多くの因子の影響を受けて刻一刻と変動する、極めて動的な生理学的指標です。安静時の心血管状態を正しく反映した測定結果を得るためには、身体を「標準」状態に整えることが非常に重要です。これが、一時的な影響を最小限に抑えるための標準化された手順である「30分ルール」が生まれた理由です。血圧測定の少なくとも30分前には、以下の行為を絶対に避ける必要があります。

  • 喫煙: タバコに含まれるニコチンは強力な血管収縮作用を持ち、血圧を急激かつ持続的に上昇させます。喫煙直後の測定は、人為的に高い結果をもたらします5
  • カフェイン・アルコール摂取: カフェインには覚醒作用があり、血圧を上昇させます。アルコールの影響はより複雑で、摂取直後は一時的に血管を拡張させ血圧を下げることがありますが、長期的な乱用は慢性的な高血圧の原因となります。したがって、測定は飲酒前に行うべきです4
  • 入浴: 入浴、特に熱いお風呂は血圧を大きく変動させる可能性があります。入浴後、少なくとも30分から1時間は待ってから測定を行う必要があります7
  • 食事: 消化過程では大量の血液が胃や腸に送られるため、全身の血圧測定結果に影響を及ぼす可能性があります。朝食前など、空腹時に測定するのが最も望ましいです7
  • 運動: ウォーキングのような軽い活動でさえも血圧を上昇させる可能性があります。血圧が安定した状態に戻るまで、十分な休息時間を確保することが必要です7

このルールを厳格に遵守することは、思いつきの行動としての血圧測定を、専門的な医療プロセスへと昇華させ、収集するデータが経時的に比較可能で意味のあるものになることを保証します。

1.3 環境と姿勢:測定に最適な「舞台」を整える

測定環境と姿勢の設定は、恣意的な規則ではありません。これらは、血流や動脈内圧に対する重力や筋収縮といった物理的影響を無効化するために設計されています。これらの手順を遵守することで、外的要因によるノイズではなく、身体の真の心血管シグナルを測定していることが保証されます。

  • 測定環境: 静かで、快適な温度(理想的には摂氏20〜25度程度)の部屋を選ぶ必要があります。寒すぎる環境は末梢血管を収縮させ、実際よりも高い血圧値をもたらす可能性があります4
  • 座位姿勢: これは極めて重要な要素であり、正確に実行する必要があります。
    • 背もたれのある椅子に座ります。柔らかいソファは姿勢が崩れやすいため避けてください4
    • 背中をまっすぐ背もたれにつけ、体を完全にリラックスさせます4
    • 両足を床に平らにつけ、足を組まないようにします。足を組むと、循環を妨げ、筋収縮を引き起こすため血圧が上昇する可能性があります4
    • 測定する腕をテーブルの上に置き、カフ(腕帯)が心臓の高さ(乳頭の位置)に来るようにします。テーブルが低すぎる場合は、枕や本を使って腕を支えてください。この原則は静水圧に関する物理法則に基づいています。腕が低すぎると重力によって実際より高い測定結果が、高すぎると低い結果が出ます4
  • 安静時間: 正しい姿勢で座った後、測定開始ボタンを押す前に1〜2分(JSHの推奨)あるいは5分(米国の推奨、より深いリラックス効果が期待できる)ほど静かに休息します。深呼吸を組み合わせることで、よりリラックスできます3
  • 最終確認: 測定位置につく前にトイレを済ませておきましょう。膀胱が満たされていると腹腔に圧力がかかり、血圧を上昇させる可能性があります7

第2部:実践編 – 日本高血圧学会が推奨する測定手順

ここは最も詳細な実践ガイドであり、測定行為を遂行するための明確なステップバイステップの手順を提供します。これらの手順を正確に遵守することが、信頼性の高いデータを得るための鍵となります。

2.1 カフ(腕帯)の正しい巻き方

  1. 素肌に巻く: カフは上腕の素肌に直接、あるいは非常に薄い下着一枚の上から巻く必要があります。セーターや厚手のシャツの上から血圧を測定することは絶対に避けてください。長袖を着用している場合は、袖をまくり上げるのではなく、脱いでください。袖をまくり上げると、腕に「駆血帯」のような締め付けが生じ、血流が妨げられ、不正確な測定結果につながる可能性があります5
  2. 正確な位置: カフの下縁が肘のしわから約1〜2cm上に来るように配置します。これにより、測定器のセンサーが上腕動脈の真上に正しく位置づけられます5
  3. 空気チューブの位置合わせ: カフの空気チューブが腕の内側を通り、手のひら側に向かうようにします。この位置は、カフ内部のセンサーを、脈拍信号が最も強い上腕動脈と一直線に並べるのに役立ちます8
  4. 適切な締め付け具合の確認: カフはきつすぎず、緩すぎず、ぴったりと巻く必要があります。簡単な確認方法として、カフと腕の間に指が1本か2本入る程度の余裕があるかを確認します。カフが上下に滑るほど緩くてはいけません5

2.2 測定の実行と記録

  1. リラックスして開始: 準備が整ったら、手のひらを自然に上に向けて腕をテーブルに置き、開始ボタンを押します。測定中は、静かにして動かないでください。会話をしたり、携帯電話を見たり、筋肉を緊張させたりすると、測定結果が変わる可能性があるため避けてください4
  2. 測定のリズム: JSHは、各測定セッションで1回から3回測定することを推奨しています。複数回測定する場合は、各測定の間に少なくとも1分間の間隔をあけ、その平均値を記録します。これにより、血圧の自然な微小変動が平準化され、より安定した代表的な結果が得られます4
  3. 完全な記録: 測定が完了したらすぐに、日付、時刻、収縮期血圧、拡張期血圧、および脈拍数を血圧手帳やスマートフォンのアプリに記録します。ストレスを感じていた、睡眠不足だったなど、異常な状況があった場合は忘れずにメモしておきましょう。この完全な記録は、医師が正確な診断と治療を行う上で非常に貴重な資料となります3

2.3 測定のタイミング:いつ、どのくらいの頻度で測るべきか

一貫したスケジュールに従って血圧を測定することは、恣意的なルールではありません。これは、血圧の24時間周期の生体リズムを捉え、診察室での一度の測定では得られない重要な臨床情報を提供するために設計されています。JSHは、データの一貫性と価値を保証するために、1日2回の測定スケジュールを推奨しています3

  • 朝の測定:
    • タイミング: 起床後1時間以内4
    • 手順: トイレを済ませた後、朝食前、そして降圧薬を服用する前4
    • 臨床的意義: 血圧は通常、朝の起床時に自然に急上昇します(モーニングサージ現象)。これは心血管イベントのリスクが高い時間帯です。この時間に血圧を測定することで、この急上昇の重症度を評価するのに役立ちます。同時に、薬を服用する前に測定することで、前日の薬の用量が24時間効果を持続するのに十分であったかどうかを医師が評価できます。朝の血圧が高い場合、薬の効果が早く切れすぎている可能性があります。
  • 夜の測定:
    • タイミング: 就寝直前3
    • 重要な注意点: 入浴や飲酒の直後には測定しないでください4
    • 臨床的意義: 正常な血圧は睡眠中に低下(ディップ)します。就寝直前に血圧を測定することで、医師がこの低下について推測するための基準値が得られます。夜間に血圧が低下しない状態(ノンディッパー)は、独立した重要な心血管リスク因子です。

この1日2回のスケジュールは、医師が患者の24時間の血圧パターンを評価するための家庭でできる簡単な方法であり、診察室での一度の測定よりもはるかに包括的で価値のある情報となります。

第3部:数値の解読編 – あなたの血圧はどのレベル?

正確な数値を得た後、次はその意味を理解するステップです。公式な医療基準に従って自身の測定結果を分類することは、健康管理において主体的な役割を果たすための第一歩です。

表1:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」による血圧分類
血圧分類 診察室血圧 (mmHg) 家庭血圧 (mmHg)
正常血圧 <120 かつ <80 <115 かつ <75
正常高値血圧 120−129 かつ <80 115−124 かつ <75
高値血圧 130−139 および/または 80−89 125−134 および/または 75−84
I度高血圧 140−159 および/または 90−99 135−144 および/または 85−89
II度高血圧 160−179 および/または 100−109 145−159 および/または 90−99
III度高血圧 ≥180 および/または ≥110 ≥160 および/または ≥100

出典: 日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン20199

この表は、生の数値を日本の国家基準に従って意味のある臨床カテゴリーに変換するための最も重要な参照ツールです。注意すべき重要な点は、家庭血圧の診断基準値が診察室血圧のそれよりも低く設定されていることです。例えば、家庭で測定した血圧が138/88 mmHgだった場合、上の表と照らし合わせることで、家庭血圧における「I度高血圧」のカテゴリーに該当すると判断できます。この自己分類は、時機を逸せず医療相談を求めるきっかけとなる重要な認識ステップです。

3.2 特殊なケース:白衣高血圧と仮面高血圧

これら二つの状態の存在は、家庭での血圧測定の必要性を示す最終的な論拠です。これらは、診察室での一度の測定が根本的な誤解を招き、どちらの方向にも誤診につながる可能性があることを証明しています。

  • 白衣高血圧: これは、診察室での血圧測定値は高い($ \ge 140/90 $ mmHg)ものの、家庭での血圧測定値は完全に正常である状態です。この状態はかなり一般的で、診察室で高血圧と診断された人々の約30%に影響を及ぼし、通常は医療環境にいることによる不安やストレスが原因です。これは、不必要な治療を避けるために家庭での追跡が重要である主な理由です5
  • 仮面高血圧: こちらはより危険な状態です。診察室での血圧測定値は正常($ < 140/90 $ mmHg)ですが、家庭での血圧測定値は高い状態を指します。この状態は定期的な健康診断で見逃される可能性がありますが、実際には真の高血圧と同様の心血管リスクを伴います11

家庭での血圧測定は、既に高血圧と診断されている人だけのものではありません。すべての人が、診察室での測定結果が本当に自分の健康状態を代表しているかを確認するための重要なスクリーニングツールなのです。

第4部:特別レポート – 「2024年に高血圧の基準が変わった」は本当か?

最近、2024年4月から日本の高血圧診断基準が変更されたという情報が広まりました。このような誤った情報を積極的に明確にすることは、信頼を築き、正確な医療知識を提供する上で重要な部分です。明確かつ決定的な答えは、「いいえ、基準は変わっていません」です。日本高血圧学会(JSH)の高血圧診断基準は、「高血圧治療ガイドライン2019」から変わらず、以下の通りです10

  • 診察室血圧: $ \ge 140/90 $ mmHg
  • 家庭血圧: $ \ge 135/85 $ mmHg

では、この混乱の原因は何だったのでしょうか。原因は、全く異なる二つの概念を混同したことにあります。

  1. 診断基準: これは、医師が個人を「高血圧症」と診断する際の血圧の閾値です。この基準は変更されていません。
  2. 受診勧奨基準: これは、国の特定健診プログラムで使用される血圧の閾値で、非常に高い血圧でありながら未治療の人々に対し、医師の診察を受けるよう強く促すためのものです。この閾値はより高く設定されており(例:$ \ge 160/100 $ mmHg)、最もリスクが高く、まだ医療管理下にない対象群を特定するために設計されています10

この混乱は、JSH自身が問題を明確にするための通知を発表するほど広まりました10。これら二つの数値セットの違いを明確に理解することは、私たちが自身の健康状態を正しく認識し、「受診勧奨基準」に達していなくても、血圧が140/90 mmHg(診察室)または135/85 mmHg(家庭)を超えた場合に油断しないようにするために役立ちます。

第5部:文脈で理解する – 日本人の平均値とあなたの目標値

自身の数値の意味をより深く理解するためには、それを人口統計データという文脈の中に置き、個別化された治療目標を明確に理解することが不可欠です。

表2:日本人の年代別・性別血圧平均値(降圧薬非服用者)
年代 男性 – 収縮期/拡張期 (mmHg) 女性 – 収縮期/拡張期 (mmHg)
20-29歳 115.9 / 68.1 105.7 / 63.8
30-39歳 117.2 / 73.8 108.0 / 66.4
40-49歳 125.4 / 80.6 113.7 / 70.9
50-59歳 129.7 / 81.0 121.8 / 74.5
60-69歳 134.1 / 78.3 130.6 / 76.7
70歳以上 133.9 / 74.5 133.1 / 73.9

出典: 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」14

このデータ表は、強力な参照点を提供します。これにより、あなたは自身の結果を「高血圧」という臨床的閾値だけでなく、同年代・同性の人々と比較することができます。これは、臨床的に「高い」と見なされていなくても、生活習慣を変える強力な動機付けとなり得ます。例えば、45歳の男性が家庭血圧132/85 mmHgを測定したとします。表1によれば、彼は「高値血圧」に分類されますが、まだ「I度高血圧」ではありません。彼は安心してしまうかもしれません。しかし、表2を見ると、彼の年代の男性の平均値は125.4/80.6 mmHgです。このデータは彼の状況を再定義します。彼は単に「まだ高血圧ではない」のではなく、「同年代の平均より高い」のです。この相対的な比較は、絶対的な臨床閾値よりも強力な行動喚起の心理的要因となる可能性があります。

5.2 あなたの目標値は?:個別化される降圧目標

患者が理解すべき重要な概念は、治療目標値が単に血圧を診断基準である135/85 mmHg未満に下げることではない、ということです。実際には、目標はしばしばより厳格で、各個人の年齢や健康状態に基づいて個別化されます。

  • 75歳未満のほとんどの成人: 家庭血圧の目標値は <125/75 mmHgです16
  • 75歳以上の方: 目標はより緩やかに設定され、<135/85 mmHg(家庭血圧)となります16
  • 特定の合併症(糖尿病、蛋白尿を伴う慢性腎臓病など)を持つ患者: 年齢に関わらず、基礎となる心血管リスクが高いため、目標はより厳格な <125/75 mmHgを目指します16

この目標値の違いは、複雑な臨床的判断を反映しています。80歳の人にとって、過度の降圧によるリスク(めまい、転倒など)が利益を上回る可能性があるため、目標は高く設定されます。対照的に、糖尿病を患う50歳の人にとっては、長期的な臓器障害のリスクが非常に高いため、より積極的な降圧が求められます。これは、血圧管理があなた固有の健康プロファイルに基づいた、あなたと医師との間の動的な協力プロセスであることを強調しています。

よくある質問

左右の腕、どちらで測るべきですか?

初めは両腕で測定してください。もし両腕の間に一貫して10〜15 mmHg以上の差がある場合は、末梢動脈疾患などの血管の問題の兆候である可能性があるため、医師に相談してください。差がある場合は、常に数値が高い方の腕で追跡してください。大きな差がなければ、慣例として利き腕でない方の腕(例:右利きの人は左腕)を使用することができます3

服の上から測ってもいいですか?

いいえ。詳細に説明した通り、常に素肌の上か、非常に薄い下着一枚の上から測定してください。厚手の服の袖をまくり上げると腕を締め付け、誤った結果を出す可能性があります5

測定値が毎回違うのですが…

これは全く正常なことです。血圧はストレス、活動、その他多くの要因によって絶えず変動します。これこそが、一貫した測定手順(同じ時間、同じ姿勢)を守り、複数回の測定値の平均を取ることが重要である理由です。単一の測定結果ではなく、週単位や月単位の傾向に焦点を当ててください7

ストレスや体調不良も影響しますか?

はい。感情的なストレス、不安、痛み、発熱、脱水はすべて血圧に影響を与える可能性があります。体調が悪い、あるいは特にストレスを感じている場合は、そのことを測定結果とともに血圧手帳に記録しておくと非常に役立ちます。これにより、医師がデータをより正確に解釈する助けとなります7

結論

家庭での血圧測定の最終的な目的は、医師に質の高いデータを提供することです。自己診断や自己判断での服薬調整は極めて危険であることを強調しなければなりません。あなたの血圧手帳からのデータは、適切な治療計画を構築または調整するために、医師との協力的な対話の基盤となるべきです。正確に血圧を測定し記録することは、自らの健康を管理し、脳卒中や心臓病などの深刻な疾患を予防し、医療チームと効果的に連携するためにあなたができる最も重要な一歩です。これこそが、より健康な未来への道を歩むための、主体的かつ不可欠な第一歩なのです。

表3:生活習慣の修正による降圧効果の推定値
生活習慣の修正 期待される収縮期血圧の低下
減塩(1日6gまで) 約 4-8 mmHg
体重減少(4kgごと) 約 4.5 mmHg
定期的な運動 約 2-5 mmHg
節酒 約 3 mmHg

出典: 日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン20191

上の表は、具体的で定量的な動機付けを提供します。あなたの行動が、あなたの健康に直接的かつ測定可能な影響を与えることを示しています。数キログラムの体重を減らすことが、一部の薬物療法と同等の効果をもたらし得るという認識は、非常に力強いものです。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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