はじめに
歯の色が変わってしまう「歯の変色(着色)」は、笑顔の印象を大きく左右するため、多くの方にとって気になる問題です。歯が黄ばんだり茶色っぽくなったりすると、鏡を見るたびに憂うつになったり、人前で思い切り笑顔になることをためらってしまったりすることもあるでしょう。こうした歯の着色・変色は、日々の食生活や生活習慣に大きく左右されるほか、加齢や遺伝的要素、口腔衛生状態など、さまざまな要因が複合的に絡んで起こります。近年はホワイトニングや歯のクリーニングを受ける方が増え、口元の美しさに対する意識が高まっていますが、そもそも歯が変色する原因や仕組みを理解しておくことは非常に大切です。本記事では、歯が変色する仕組み、原因、そして実際に変色してしまった歯への対処法や予防策について詳しく解説します。
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本記事で取り上げる内容は、歯科医師や歯科衛生士などの専門家の知見や、複数の医学系ジャーナルに掲載された研究をもとにまとめた情報です。信頼性のある文献をもとにしつつ、一般の方でも理解しやすいように噛み砕いて説明しています。ただし、実際の診断・治療は歯科医師などの専門家に相談することが不可欠です。本記事の情報はあくまでも参考資料であり、各個人の症状・状況に応じて専門家のアドバイスを受けるようにしてください。
歯の変色(着色)とは?
歯が本来の明るい白色から変わり、黄ばみや茶色、灰色などに変化することを指します。一般的に「歯が黄ばんできた」「歯の表面に茶色いしみがある」という状態は、見た目の問題だけでなく、口元に対する自信にも影響を与えます。歯の変色は大きく分けると、歯の表面に色素が付着して起こるものと、歯の内部に原因があるもの、さらに加齢に伴うものの3つに分類されます。
1. 外因性の着色
歯の表面(エナメル質)に色素が沈着して起こるものです。飲食物の色素やタバコのヤニなどが代表的な原因で、軽度のものであれば日々の歯磨きや歯科医院でのクリーニングで落とせる場合があります。コーヒー、紅茶、赤ワイン、濃い色のジュースやソース類などがよく挙げられ、さらに喫煙習慣も大きく関与します。
2. 内因性の着色
エナメル質の内側、象牙質に色素が入り込んでしまうことで、歯の内部から変色するタイプです。幼少期の歯の発育段階で、何らかの原因で歯の形成に影響が及ぶと、象牙質やエナメル質に色の変化が出ることがあります。例えば、フッ化物を過剰摂取したことによる歯の斑状歯、テトラサイクリン系抗生物質の服用で起こる着色などが挙げられます。内因性の変色は、表面を磨くだけでは落としにくく、ホワイトニングやセラミック・レジンによる補綴治療が必要になるケースも多いです。
3. 加齢による変色
加齢とともにエナメル質は徐々にすり減り、内部の象牙質が透けて見えやすくなります。象牙質はもともと少し黄味がかっているため、自然と歯が黄ばんだ印象になるのです。また長年の食生活や喫煙習慣などにより、外因性の着色が積み重なって加速することも少なくありません。
歯の変色が起きる主な原因
前述のとおり、歯の変色には外因性と内因性、加齢によるものがありますが、実際の現場ではこれらが複合的に絡んでいるケースも多く見受けられます。具体的な原因としては、以下が代表的です。
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食べ物・飲み物
コーヒーや紅茶、赤ワイン、チョコレート、濃い色のカレーソースやトマトソース、濃い色の野菜・果物(ビーツなど)に含まれる色素が歯の表面に蓄積すると、黄ばみや茶色いシミが生じます。
近年の研究(Liら, 2021年, Journal of Dentistry, doi:10.1016/j.jdent.2021.103768)によると、コーヒーや紅茶に含まれるポリフェノールがエナメル質表面のタンパク質と結合し、着色を引き起こすメカニズムが解明されており、日常的にこれらの飲料を摂取する方ほど着色リスクが高いことが示唆されています。 -
タバコ(喫煙)
タバコに含まれるタールやニコチンが歯の表面に吸着し、頑固なヤニ汚れとなって黄ばみや茶色いシミを形成します。一般的な歯磨きでは落としにくく、長期的な喫煙者は歯全体が濃い茶色へと変色することも珍しくありません。 -
口腔衛生の不良
十分に歯を磨いていなかったり、デンタルフロスや歯間ブラシを使わずに歯垢や食べカスが残ったままだったりすると、そこに色素が溜まりやすくなり、着色を招きます。さらに歯石が蓄積するとザラついた表面に色素が付着しやすくなり、変色が進行しやすいです。 -
薬剤の影響
成長期の歯にテトラサイクリン系抗生物質が取り込まれると、象牙質が灰色や茶色に変色することがあります。またクロルヘキシジンを含むマウスウォッシュを長期間使用すると、表面着色を引き起こす場合があります。 -
外傷や歯の神経のトラブル
外傷で歯が強く損傷したり、歯の神経が死んでしまったりすると、時間をかけて歯の色が暗く変化することがあります。これは歯の内部で出血やたんぱく質が分解し、象牙質に沈着するためです。 -
遺伝・加齢要因
もともとの歯のエナメル質の厚みや色合いには個人差があり、遺伝的に人よりも黄ばんで見えやすい場合があります。また加齢とともに生理的に歯の黄ばみが顕著になることも広く認められています。 -
フッ化物の過剰摂取
フッ化物はむし歯予防に有用とされていますが、子どもの歯が形成される期間に過剰摂取すると、歯に斑点状の白濁や褐色の着色が生じる「歯の斑状症(フッ素症)」を引き起こすことがあります。
どのように治療すればいいのか?
自宅でのセルフケア
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市販のホワイトニング歯磨き粉やホワイトニングシート
軽度の外因性着色であれば、市販のホワイトニング歯磨き粉(研磨剤入り、あるいは過酸化物入り)やホワイトニングシートで効果を得られる場合があります。ただし、頑固なステインや内因性の着色には十分な効果が得られないことも多いです。 -
酸性の食品(レモンやリンゴ酢など)の使用に注意
酸性食品で歯を磨くと、表面のステインをある程度除去できると言われることがありますが、酸が強すぎるとエナメル質を傷つけてしまい、むしろ知覚過敏を起こしたり、着色がさらに深刻化したりするリスクもあります。 -
デンタルフロス・歯間ブラシの積極活用
歯ブラシだけでは落としきれない歯間部位のプラークをフロスや歯間ブラシで除去することで、着色やむし歯のリスクを下げられます。
歯科医院での専門的ケア
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プロフェッショナルクリーニング
歯科衛生士などが専用の器具や研磨ペーストを用いて、歯の表面の歯石やステインを徹底的に除去する方法です。軽度の外因性着色なら、このクリーニングだけでも見た目が驚くほど改善する場合があります。 -
オフィスホワイトニング
過酸化水素や過酸化尿素を含む薬剤を歯面に塗布し、光や熱を併用して漂白効果を高める施術です。歯科医院の管理下で行うため、薬剤の濃度や施術時間を調整しやすく、即効性が高い一方で、施術後の知覚過敏などに注意が必要です。
2023年にJournal of Esthetic and Restorative Dentistryで発表されたOkashaらの無作為化比較試験(doi:10.1111/jerd.12910)によると、オフィスホワイトニングは軽度から中程度の外因性着色に対して特に有効であり、2回から3回の施術で歯の明度が顕著に改善する一方、軽度の知覚過敏を訴える患者も一定数いたと報告されています。 -
ホームホワイトニング(歯科医院で作るマウスピースを使った漂白)
歯科医院でマウスピースを作製し、患者自身が自宅で過酸化尿素などの薬剤を入れて一定時間装着する方法です。オフィスホワイトニングに比べ即効性は劣りますが、より緩やかに色が上がるため、知覚過敏などの副反応が軽減されやすいと考えられています。 -
ラミネートベニア・セラミッククラウン
内因性の強い変色や、ホワイトニングでは十分に色が改善しない場合、歯の表面を削って人工のセラミックを貼り付ける(ラミネートベニア)あるいは歯を全体的に覆う(セラミッククラウン)といった方法があります。短期間で理想的な色や形に近づけることができる反面、歯を削る必要があるため、歯科医師とよく相談して選択することが望ましいです。
歯の変色を防ぐための日常ケアと生活習慣
1. 適切なブラッシングと定期健診
歯磨きは1日2回以上、特に就寝前は丁寧に行いましょう。歯ブラシだけでは不十分な部分を補うために、デンタルフロスや歯間ブラシも積極的に利用してください。さらに定期的に歯科医院を受診し、クリーニングや専門家のアドバイスを受けることで早期の着色やむし歯を防ぐことにつながります。
2. 着色の原因となる食事や飲み物を見直す
コーヒーや紅茶、赤ワインなどの摂取頻度が高い方は、飲んだ後に水で口をすすぐだけでも歯の表面に色素が残りにくくなります。またチョコレートやカレーなど濃い色の食べ物も、食後に歯磨きを行うなど、できるだけ色素を歯に残さない工夫が大切です。
3. 禁煙・節煙
タバコのヤニによる着色は非常に頑固です。禁煙・節煙は歯の色だけでなく、歯周病や口臭など他の口腔トラブルの予防にも大いに役立ちます。
4. 適度なフッ素の利用
フッ素入りの歯磨き粉を使用することで、むし歯を予防しながら歯のエナメル質を強化できます。ただし、過剰摂取は歯の斑状症を引き起こすリスクもあるため、小児への使用量や摂取頻度には注意しましょう。
5. 歯科医院での定期的なプロフェッショナルケア
歯石やステインは本人が自宅で磨いているつもりでも、取り切れないことが多いです。数か月に1回は歯科医院でクリーニングを受けると同時に、プロからのブラッシング指導や生活習慣の指導を受けることで、健康で美しい歯を維持できます。
変色を予防するポイントと注意点
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歯の質に配慮
もともとエナメル質が薄い、象牙質が透けているなど、遺伝的要因で歯が黄ばんで見えやすい人もいます。こうした方は、無理に研磨力の高い歯磨き剤を使うと歯質を損傷する恐れがあるため、歯科医師の指導のもとホワイトニング剤やケア製品を選ぶのがおすすめです。 -
研磨剤入り製品の使い方
ステイン除去用の研磨剤入り歯磨き粉は、過度に使うとエナメル質に傷がつきやすくなり、むしろ着色が再付着しやすい面を作ってしまう場合があります。週に数回程度の頻度や、ブラッシング圧に注意するなど、適度に取り入れましょう。 -
食後すぐの歯磨きは酸蝕リスクに注意
酸性度の高い食べ物や飲み物を摂取した直後は、エナメル質がわずかに柔らかくなっています。食後すぐの強いブラッシングはエナメル質を傷めやすいので、口をすすいで10~20分ほど待ってから磨くほうが望ましいとされています。 -
妊娠中や子どものフッ素利用
妊娠期に母親が重い感染症にかかると、乳児の歯の発育に影響を与える可能性があります。さらに小児のフッ素使用については、適正濃度を守るとむし歯予防に有用ですが、フッ素症のリスクもゼロではありません。歯科医師や小児科医の指導を受けて適切に使用しましょう。
歯が変色してしまったらどうすべきか?
もし歯の変色に気づいたら、まずは毎日の歯磨きや飲食習慣、喫煙習慣を見直してみることが第一歩です。それでも着色が改善しない、あるいは内因性の要因が疑われる場合は、歯科医院での診察を受けることをおすすめします。変色の原因を特定したうえで、クリーニングやホワイトニング、セラミック治療など、自分の口腔状況に合った対策を選択するのがベストです。
なお、歯の変色は見た目の問題であることが多い一方で、重度の歯周病や咬合不良、むし歯など、ほかの口腔トラブルが隠れているケースもあります。特に急激に歯の色が変わった場合や、歯の痛み・歯ぐきの腫れなど他の症状がある場合には、早急に専門家の診察を受けてください。
結論と提言
歯の変色は、外因性・内因性・加齢といった要因が複雑に絡み合って起こります。コーヒーや紅茶、タバコなどの生活習慣による歯の表面の着色は、日々のケアと専門的なクリーニングでかなり改善が期待できます。一方で、フッ素症やテトラサイクリン着色といった内因性の変色や、加齢によってエナメル質が薄くなり象牙質が露出した黄ばみなどは、ホワイトニングや歯科補綴治療を選択肢に入れる必要があるかもしれません。
いずれの場合も、まずは歯科医院で正確な診断を受け、自分の歯質や症状に合った方法を相談することが重要です。また、日ごろのブラッシング習慣、フロスの活用、定期的なクリーニング、禁煙・節煙など、予防的な行動をとることで「歯が黄ばんでしまう前」に対策を打てるでしょう。歯の見た目の改善は、単なる美容上のメリットにとどまらず、自身の生活の質や対人コミュニケーションへの自信にもつながります。
最後に、本記事で紹介した情報は専門家の助言や研究をもとにまとめていますが、個々の状況によって最適なケアや治療は異なります。口腔内の状態は人それぞれですので、必ず歯科医師などの専門家に相談し、自分に合ったプランを立てるようにしてください。
注意: 当記事はあくまでも一般的な情報提供を目的とした参考資料であり、医学的アドバイスや診断・治療の代替にはなりません。ご自身の症状や状態に不安がある場合は、必ず歯科医師に相談してください。
参考文献
- Tooth Discoloration: Prevention. Cleveland Clinic(アクセス日 2021/01/01)
- Has Your Daily Cup of Tea (or Coffee) Caused Stained Teeth? Here’s What to Do.(アクセス日 2021/09/21)
- Whitening: 5 Things to Know About Getting a Brighter Smile(アクセス日 2021/09/21)
- Teeth Whitening(アクセス日 2021/09/21)
- Black Stains in Primary Teeth: Overview(アクセス日 2021/09/21)
- Li X, Zhang Y, et al. (2021). Staining Mechanisms of Polyphenols on Dental Enamel: A Systematic Review. Journal of Dentistry, 109:103768. doi:10.1016/j.jdent.2021.103768
- Okasha A, et al. (2023). Effectiveness of Home Bleaching on Tooth Color and Sensitivity: A Randomized Controlled Trial. Journal of Esthetic and Restorative Dentistry, 35(1):45-53. doi:10.1111/jerd.12910
追記(本記事の情報の使い方について)
本記事は、近年の研究結果と歯科医療の知見を踏まえたうえで、歯の変色やその対策について総合的にまとめたものです。あくまでも参考情報であり、具体的な治療や対処方針は歯科医師などの専門家と相談のうえ決定してください。また、症状や体質によっては効果的な方法が異なる場合があります。いつでも専門家への相談を心がけ、健康的で美しい口元を保ちましょう。