歯茎のしこり：原因特定でスムーズな治療へ

はじめに

皆さん、こんにちは。JHO編集部です。日常生活の中で健康に関するさまざまな疑問が生じることは決して珍しくありませんが、その中でも特に「歯茎にできるしこり」は、多くの方が一度は経験するかもしれない症状の一つです。実際に鏡で口の中を確認したとき、歯茎に何かしこりのような膨らみを見つけると、思わず不安になることもあるでしょう。

しこりの大部分は深刻な病気とは関係がない場合が多いとされていますが、まれに重大な疾患の初期症状が隠れていることもあります。そのため、歯茎にしこりを見つけたときには、まずは原因を正しく見極めるための知識を身につけることが大切です。本記事では、歯茎にしこりができる代表的な原因と、その対策・予防方法について詳しく解説します。さらに、普段の口腔ケアで気をつけるべきポイントや、症状が出た際の具体的な対処法についても紹介します。しこりの性質を正しく理解し、必要に応じて適切な専門医療を受けることで、より安心して健康的な生活を送ることができます。

専門家への相談

本記事で取り上げる情報は、HealthlineやNHSなどの公的または医療専門サイトを中心に収集され、最新の医学的知識を踏まえてまとめた内容です。また、American Academy of Family Physicians (AAFP)やUniversity of Michigan Healthの資料も参照し、それらの専門家の意見や知見を加味することで、記事全体の正確性と信頼性を高めています。ただし、ここで提供する情報はあくまでも一般的な内容に基づいた参考情報です。具体的な症状や治療方針については個人差が大きいため、必ず歯科医師や医師など、口腔領域に精通した専門家の診断とアドバイスを受けるようにしてください。

歯茎にしこりができる原因

歯茎にできるしこりは、実際に触ってみると柔らかかったり硬かったり、痛みがあったりなかったりと、その特徴はさまざまです。また、しこりの大きさや色の変化、膿の有無といった症状によって考えられる原因も異なります。以下では代表的な原因と症状を順番に紹介しながら、それぞれについて詳しく解説していきます。

1. 嚢胞

嚢胞とは、空気や液体、または組織由来の物質などを内部に含んだ袋状の構造のことです。歯茎や歯根部、あるいは埋伏歯（歯茎の中に埋まったままの歯）の周囲などに形成されることがあり、主に以下のような特徴があります。

• 成長がゆっくりであるため、初期の段階では自覚症状がほとんどないことが多い
• 感染が起きない限り痛みを感じにくいケースが多い
• 大きくなると周囲の歯に圧力をかけ、さらには顎の骨を変形させることがある

初期段階で嚢胞が小さいうちは、定期健診などでたまたま見つかる場合も少なくありません。感染を起こして炎症が生じたり、嚢胞が大きくなって周囲の組織を圧迫したりすると、顔貌が変化したり、顎を動かすときに違和感を覚えることもあります。

嚢胞の早期発見・対処
嚢胞は無症状のまま進行しやすいため、歯科医院での定期検診が早期発見のカギです。もし、嚢胞が見つかった場合、歯科医が必要に応じて嚢胞を外科的に除去したり、根管治療（歯の根の治療）を行ったりすることがあります。近年では、歯科用CTを用いた検査が普及しており、立体的な画像で嚢胞の正確な位置や大きさを把握しやすくなりました。

また、2022年に公表されたDentistry Journal（DOI: 10.3390/dj10050089）の総説では、口腔内の嚢胞は比較的良性であるものの、放置すると外科的処置の範囲が拡大することが指摘されています。特に、顎骨内に発生する嚢胞は骨吸収を伴う場合があり、抜歯などの大きな処置につながることもあるため、定期健診により早期発見することが推奨されています。

2. 歯根膿瘍

歯根膿瘍は歯の根元（歯根）に細菌が感染し、膿が溜まることで起こる病変です。しこりのように膨らんで見えることがあり、以下のような特徴があります。

• 熱をもった柔らかい腫れ
• 激しい痛みを伴うことが多く、痛みの度合いは短期間で急激に増す場合がある
• 顔の片側に集中した痛みが、耳や顎、首筋にまで広がることがある
• 横になると痛みが一層ひどく感じられる

放置すると感染が歯根周囲の骨や隣接する組織、さらには全身へ波及することもあるため、早急な診断・治療が必要です。痛みを一時的に抑えるための鎮痛薬の使用は緊急手段としては有効ですが、根本的な治療には抗生物質の投与や膿の排出処置、さらに必要に応じて根管治療などが行われます。

歯根膿瘍に対する専門家の見解
歯根膿瘍は適切な処置を行わないと再発率が高いと指摘されています。2021年にClinical Oral Investigationsで報告された研究（著者複数名、DOI: 10.1007/s00784-020-03659-2）によれば、歯根膿瘍の治療後も口腔ケアが不十分だと再感染のリスクが高まるとのデータが示されています。特に歯周病が進行している場合や喫煙者では、歯根膿瘍の再発可能性が高まるため、歯科医の指導に従ったアフターケアが重要です。

3. 口内炎

口内炎は、口内や歯茎に小さな潰瘍（かいよう）ができる状態を指します。単純性口内炎やアフタ性口内炎など種類はさまざまですが、基本的には以下のような症状が特徴的です。

• 白や黄色っぽい縁取りを持つ赤い潰瘍ができる
• 強い痛みを伴うことが多く、食事や会話に支障を来す場合がある
• しこりというよりは潰瘍状の見た目だが、炎症が深部に及ぶと触ったときに盛り上がって感じられることもある

一般的には1〜2週間程度で自然治癒することが多いですが、繰り返し発症したり痛みが非常に強い場合には、ビタミン不足やストレス、免疫低下などの要因が隠れている可能性があります。また、口内炎が頻繁にできることで十分な栄養摂取が難しくなるリスクも指摘されているため、何度も繰り返す方は一度専門家に相談するのが無難です。

口内炎に対するケアと予防

• 歯磨きやうがいなどの基本的な口腔ケアをしっかり行う
• 十分な睡眠と栄養バランスのとれた食事を心がける
• ストレスを溜めない生活習慣（適度な運動や休息）を取り入れる

口内炎があまりにも頻繁に再発する場合は、自己免疫疾患や胃腸障害などの全身的な病気の可能性も考えられるため、早めに医療機関で相談することが望ましいでしょう。

4. 繊維腫

繊維腫は良性の腫瘍であり、歯茎をはじめ口腔内の軟組織に発生することがあります。義歯や矯正器具などの「物理的な刺激」が繰り返されることで組織が増殖し、硬いしこりとして触知される場合があります。

• 痛みをほとんど伴わない
• 緩やかに大きくなることがあるが、基本的には良性
• しこりが大きくなりすぎると会話や咀嚼のときに違和感を生じることもある

繊維腫が小さいままで、痛みなどの明確な症状を示さない場合は必ずしも治療が必要ではありません。しかし、見た目に気になるほど大きくなったり、歯科治療や口腔内の器具があたることでさらに刺激されやすい場合は、外科的に除去することが検討されます。

繊維腫の原因と予防
繊維腫は「慢性的な刺激」が主原因となることが多いため、適切な噛み合わせや義歯の調整が重要です。定期的に歯科を受診し、使用中の義歯や矯正器具などが歯茎に余計な負担をかけていないかを確認してもらいましょう。歯科医師が定期的に調整を行うことで、不要な摩擦や圧迫を減らし、繊維腫の発生リスクを下げることが期待できます。

5. 細菌感染による肉芽腫

肉芽腫は、軽度の損傷や慢性的な刺激に細菌などが加わり、組織が炎症反応として増殖したものと考えられています。歯茎が赤く腫れる場合もあれば、しこりのように盛り上がって見えることもあります。特に妊娠中はホルモンバランスの変化から歯茎が炎症を起こしやすく、肉芽腫ができやすいとされています。

• 柔らかく、触ると出血しやすい腫れ
• 濃い赤や紫色になることも多く、一見すると悪性病変と紛らわしい場合もある

妊娠中にできた歯茎の肉芽腫は「妊娠性エプリス」と呼ばれることもあります。多くは出産後に自然に治癒する傾向があるものの、痛みや出血が続く、サイズが大きく日常生活に支障が出る場合などは、歯科医師の判断で外科的切除を行います。

肉芽腫と再発防止
肉芽腫は一度切除しても、炎症や刺激の原因が残っていれば再発しやすい特徴があります。2020年にInternational Dental Journalで報告された研究（著者複数名、DOI: 10.1111/idj.12556）によると、口腔内衛生状態を改善することで肉芽腫の再発率が有意に低下するとのデータが示されています。特にブラッシング指導や歯石除去、フッ素塗布などを継続的に行うことで歯茎への刺激や細菌の繁殖を抑制し、再発リスクを下げられる可能性が指摘されています。

6. 骨隆起

骨隆起は、顎の骨が局所的に盛り上がることで生じる硬いしこりです。歯茎というよりも骨自体の突出が原因のため、触るとカチカチとした感触があります。日本人を含むアジア系の一部の人においては特に下顎の内側（舌側）に多く、歯と歯の間あたりに盛り上がりを確認できることがあります。

• 通常は痛みがなく、加齢とともに少しずつ進行する
• 入れ歯を装着する際に支障が出る場合や、口腔ケア時に違和感を覚える場合がある

骨隆起そのものは良性であり、病変とはみなされないことが多いですが、極端に大きくなって嚥下や発話に影響を与えるときには、歯科医の判断によって削除・整形する場合があります。

7. 口腔がん

口腔がんは、舌や歯茎、頬粘膜など口腔内のあらゆる部位に発生する可能性があります。早期発見が極めて重要で、以下のような症状が続いている場合は速やかに専門医の診察を受けることが推奨されます。

• 治りにくい潰瘍やしこり
• 赤や白の斑点が長期間消えない
• 出血を伴う潰瘍、激しい痛み
• 舌や顎、口腔周辺の違和感や麻痺

口腔がんはタバコや過度な飲酒、あるいはヒトパピローマウイルス（HPV）との関連も指摘されています。生活習慣の見直しと定期的な歯科検診は、口腔がんのリスク低減に大いに寄与するとされています。

口腔がんに関する最新情報
口腔がんは、他のがんと同様に早期発見・早期治療が予後に大きく影響します。2021年にOral Oncology（著者複数名、DOI: 10.1016/j.oraloncology.2020.105420）に掲載された調査によれば、定期検診やセルフチェックの普及によって早期発見率が向上している一方で、喫煙・飲酒習慣のある方では進行がんとして見つかる例もまだ多いと報告されています。特に歯茎に長期間消えない潰瘍やしこりがある場合には、自己判断で放置せず専門医へ相談することが最善の方法です。

歯茎の健康を保つ方法

歯茎にしこりができたときは、早めに歯科医師の診断を受けることが第一です。しかし、すぐに受診できない事情がある場合や、軽度の腫れ・しこりの場合には、以下のような家庭でのケアが補助的に役立つことがあります。

• 塩水でのうがい
  塩水には抗菌作用が期待でき、腫れや炎症を緩和することができます。コップ1杯のぬるま湯に小さじ1杯ほどの塩を溶かし、1日数回うがいをすると歯茎の炎症が多少和らぐとされています。
• にんにく水で患部を洗う
  にんにくに含まれる抗菌成分が口腔内の細菌を抑制すると考えられています。ただし、刺激が強いので、直接擦り込むのではなく薄めたにんにく水を使うなど、自己流で過度に行わないように注意が必要です。
• クローブオイルやティーツリーオイルを塗布する
  これらのオイルには抗炎症作用や軽度の抗菌効果があると言われ、海外では古くから歯痛などの緩和に利用されています。ただし、口腔内は粘膜が敏感な部位のため、使用する際には歯科医師の助言を仰ぐことが望ましいです。
• 適切なブラッシングとフロスの使用
  歯並びや歯茎の形状によっては、食べかすや歯垢が溜まりやすい箇所が存在します。歯科衛生士や歯科医師によるブラッシング指導を受け、フロスや歯間ブラシを使ってしっかりと清掃しましょう。歯周ポケットに潜んだ細菌が歯茎のトラブルを引き起こすケースも少なくありません。
• バランスのよい食事と十分な休息
  ビタミンやミネラルを適切に摂取すること、そして睡眠を含む休養をしっかりとることは、免疫力を高めるうえで非常に重要です。口腔内トラブルの回復力や感染予防力も高まると考えられます。
• 歯科医院での定期検診
  軽いしこりであっても、原因によっては重症化するリスクがあります。定期的に歯科検診を受けることで、虫歯や歯周病、歯肉炎などの早期発見はもちろん、しこりの原因を特定して適切な処置をとることができます。

結論と提言

今回の記事では、歯茎にしこりができる代表的な原因（嚢胞、歯根膿瘍、口内炎、繊維腫、細菌感染による肉芽腫、骨隆起、口腔がんなど）について、それぞれの特徴や対処法を詳しく解説してきました。しこりの大部分は良性で深刻ではないものの、まれに深刻な疾患が隠れている可能性は否定できません。早期に歯科医院を受診し、専門の医師や歯科医師に相談することがトラブル回避の近道です。

また、しこりができた原因や症状の度合いにかかわらず、日頃のケアや生活習慣を見直すことは非常に重要です。適切なブラッシングやフロスの使用、抗菌効果が期待できるうがいなどのセルフケアを徹底することで、口腔内の衛生状態を良好に保ち、再発予防にもつなげることができます。さらに、不必要な刺激を与えないよう、合わない義歯や口腔内装置を長期間使い続けないようにしましょう。

最終的なアドバイスとしては、自己判断で放置せず、疑わしい症状や違和感が続く場合は早めに専門家の診断を仰ぐことです。 口腔領域は他の臓器と比べて直接目視や触診で確認しやすい分、早期発見・早期治療のチャンスも大きいと言われています。軽度なものでも放置することで後から深刻化するケースもあるため、「気づいたらすぐ診察」という姿勢がトラブルを回避するうえで最も大切なポイントです。

専門家への相談の重要性

前述のように、本記事で紹介した情報はあくまで一般的な口腔ケアや疾患知識を提供するためのものです。個々の症状や体質、生活習慣などによって最適な治療法は異なりますので、気になる点がある場合は必ず専門家の診断を受けてください。特に歯茎に強い痛みや腫れ、出血、長期間治らない潰瘍などがあるときは、口腔がんを含む重大な疾患の可能性も否定できないため、医療機関での受診が推奨されます。

参考文献

• A Bump on the Gum アクセス日: 27/02/2022
• Mouth cancer アクセス日: 27/02/2022
• Toothache and Gum Problems アクセス日: 27/02/2022
• What’s Causing This Bump on My Gums? アクセス日: 27/02/2022
• Why Do You Have a Bump on Your Gums? アクセス日: 27/02/2022

• Dentistry Journal. 2022;10(5):89. DOI: 10.3390/dj10050089
• Clinical Oral Investigations. 2021;25(3):1129-1138. DOI: 10.1007/s00784-020-03659-2
• International Dental Journal. 2020;70(3):177-184. DOI: 10.1111/idj.12556
• Oral Oncology. 2021;115:105420. DOI: 10.1016/j.oraloncology.2020.105420

免責事項: 本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、専門家による医療アドバイスの代替ではありません。文中で言及した情報や対処法はあくまで参考レベルであり、個々の症状には個人差があります。実際の診断・治療にあたっては必ず歯科医師や医師などの専門家にご相談ください。

以上のように歯茎のしこりに関する知識を深め、早期発見と適切な対処を行うことで、大きなトラブルを未然に防ぎ、健康な口腔内環境を保つことができます。特に日本では定期的に健康診断を受ける文化が根付いており、歯科検診もこれに含まれます。こうした機会を活用し、しこりや痛みがなくても定期的に口腔内をチェックする習慣を身につけてみてください。歯と歯茎が健康であることは、食事やコミュニケーションをより快適にし、全身の健康にも貢献すると考えられています。ぜひ本記事を日々のケアや知識の確認に役立てていただき、快適な生活を送る一助にしていただければ幸いです。