間質性肺炎:原因、症状、診断、そして最新治療法のすべて【2025年版・医師監修】
呼吸器疾患

間質性肺炎:原因、症状、診断、そして最新治療法のすべて【2025年版・医師監修】

「間質性肺炎」という診断名は、多くの患者様とそのご家族にとって、戸惑いや不安を引き起こすかもしれません。「肺炎」という言葉から、細菌やウイルスによる一般的な感染症を想像しがちですが、間質性肺炎は全く異なる性質を持つ、肺の慢性的な疾患群です。この記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、最新の科学的根拠に基づき、間質性肺炎という複雑な病気について、その基本的な知識から、日本における最新の診断・治療法、そして公的な医療費助成制度に至るまで、包括的かつ分かりやすく解説します。読者の皆様が抱える疑問や不安を解消し、ご自身の健康状態をより深く理解し、前向きに治療に取り組むための一助となることを目指しています。

この記事の科学的根拠

本記事は、明示的に引用された最高品質の医学的エビデンスのみに基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を含むリストです。

  • 米国胸部学会(ATS)/欧州呼吸器学会(ERS)/日本呼吸器学会(JRS)/ラテンアメリカ胸部医学会(ALAT): 本記事における特発性肺線維症(IPF)の診断基準、高分解能CT(HRCT)の役割、および学際的検討(MDD)の重要性に関する指針は、これらの主要な国際呼吸器学会が共同で発表した2018年および2022年の臨床実践ガイドラインに基づいています1517
  • 日本呼吸器学会 (JRS): 特発性間質性肺炎の各病型に対する詳細な治療法、ならびに日本国内における専門医と一般医との連携体制に関する記述は、同学会が発行した「特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022(改訂第4版)」を主要な典拠としています7
  • 厚生労働省 (MHLW): 日本の患者様にとって極めて重要な「指定難病」制度、特に医療費助成の対象となる重症度分類や「軽症高額該当」の規定に関する具体的な情報は、厚生労働省が公開している公式文書に基づいています2829
  • 主要な臨床試験および医学論文: 抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)の有効性や、進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PPF)という新しい概念、新薬(ネラミドミラストなど)に関する記述は、The New England Journal of Medicine (NEJM)やThe Lancet Respiratory Medicineなどの査読付き医学雑誌に掲載された大規模臨床試験の結果を引用しています9101423

要点まとめ

  • 間質性肺炎は感染症ではなく、肺の組織が硬くなる「線維化」が特徴の慢性疾患群です。
  • 主な症状は、治りにくい乾いた咳(空咳)と、体を動かした時の息切れです。
  • 正確な診断が極めて重要であり、高分解能CT(HRCT)検査と複数の専門家による検討(MDD)が中心となります。
  • 治療の目標は病気の進行を「遅らせる」ことであり、抗線維化薬という新しいタイプの薬が治療の柱となっています。
  • 日本では、特発性間質性肺炎は「指定難病」の対象であり、重症度に応じて医療費の助成が受けられます。

第1部:間質性肺炎を理解する – 広範な概念から特定の病型まで

間質性肺炎(ILD)とは何か?

間質性肺炎(Interstitial Lung Disease、略してILD)を理解するためには、まず肺の「間質」という部分を知る必要があります。肺は、酸素と二酸化炭素を交換する小さな袋状の「肺胞」がブドウの房のように集まってできています。この肺胞を支え、壁を形成している組織が「間質」です1。健康な肺では、この間質は薄くしなやかで、肺の伸縮を助けています。しかし、間質性肺炎では、この間質に炎症や損傷が起こり、体を修復しようとする働きが異常をきたし、結果として大量の硬い組織、いわゆる「瘢痕(はんこん)」が作られてしまいます。この過程を「線維化」と呼びます2

線維化が進むと、肺は硬く、弾力性を失ってしまいます。風船が硬くなると膨らみにくくなるように、肺も十分に膨らむことができなくなり、呼吸が苦しくなります。また、間質の壁が厚くなることで、酸素が血液中に取り込まれにくくなり、息切れの原因となります1。ここで最も重要な点は、間質性肺炎は細菌やウイルスによる感染症ではないということです。そのため、抗生物質は効果がなく、治療法も全く異なります3

間質性肺炎の種類

間質性肺炎は単一の病気ではなく、200種類以上もの病気の総称です1。これらは原因によって大きく二つに分類されます。

  • 原因が明らかな間質性肺炎:環境や職場で吸い込む粉塵(アスベスト、シリコンなど)、関節リウマチや強皮症といった自己免疫疾患(膠原病)、特定の薬剤の副作用、放射線治療などが原因で発症するものです1
  • 特発性間質性肺炎(IIPs):詳細な検査を行っても原因が特定できないものを指します。「特発性」とは「原因不明」という意味です7

特に重要な病型:特発性肺線維症(IPF)と進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PPF)

特発性間質性肺炎(IIPs)の中でも、最も頻度が高く、重篤なのが特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis、略してIPF)です8。IPFは、原因不明のまま肺の線維化が慢性的に進行する病気で、主に50歳以上の高齢者に発症します9。日本の疫学調査によると、IPFの新規発生率は年間10万人あたり2.23人、有病率は10万人あたり10.0人と報告されていますが、高齢化社会を背景に、この数は増加傾向にあると考えられています811

近年、治療方針を大きく変える重要な概念として「進行性線維化を伴う間質性肺疾患(Progressive Pulmonary Fibrosis、略してPPF)」が登場しました13。これはIPF以外の間質性肺炎(例えば、膠原病に伴うILDや慢性過敏性肺炎など)であっても、治療にもかかわらず肺の線維化が進行し続ける状態を指します。これは、異なる原因から始まった病気でも、最終的には「自己増殖する線維化」という共通の経路を辿る場合があることを示唆しています。この概念の確立により、これまでIPFにしか使えなかった抗線維化薬が、PPFという共通の病態を持つより広い患者群に使える道が開かれました14

第2部:間質性肺炎の症状と受診のタイミング

一般的な兆候と症状

間質性肺炎の初期症状は非常にゆっくりと現れるため、見過ごされがちです。最も特徴的な症状は以下の二つです1

  • 乾性咳嗽(空咳):痰を伴わない、コンコンという乾いた咳が長く続きます。風邪と間違われることも多いですが、数ヶ月以上続く場合は注意が必要です。
  • 労作時呼吸困難:階段の上り下りや坂道など、体を動かした時に息切れを感じるようになります。病気が進行すると、着替えや入浴といった日常のわずかな動作でも息苦しさを感じるようになります。

その他の症状としては、原因不明の体重減少、強い疲労感、そして指先が太鼓のばちのように丸くなる「ばち指」などがみられることもあります5

危険なサイン:急性増悪

間質性肺炎の経過中に、病状が数日から数週間の単位で急速に悪化することがあり、これを「急性増悪(きゅうせいぞうあく)」と呼びます5。急性増悪は生命に関わる非常に危険な状態です。急激な息苦しさの悪化、発熱、咳の増加などの症状が現れた場合は、ためらわずに救急医療機関を受診する必要があります。急性増悪の引き金として、ウイルス感染などが知られており、日頃からの感染予防が非常に重要です。

第3部:診断プロセス – 協力的な調査の道のり

間質性肺炎の診断は、単一の検査で決まるものではなく、複数の専門家が協力して行う「調査」のようなプロセスです。最新の国際ガイドラインは、精度を高めつつ、患者様の負担を軽減する方向に進んでいます13

間質性肺炎はどのように診断されるのか?

診断は、以下のステップを組み合わせることで、総合的に判断されます。

  1. 問診と身体診察:職業歴、生活環境、喫煙歴、薬剤の使用歴、家族歴などを詳しくお聞きします。診察では、聴診器を胸にあて、「パチパチ」「バリバリ」といった特徴的な肺の音(捻髪音、ねんぱつおん)がないかを確認します。
  2. 呼吸機能検査:スパイロメトリーという検査で、肺活量(肺が取り込める空気の量)などを測定します。線維化により肺が硬くなると、肺活量(特に努力肺活量 – FVC)が低下します。
  3. 画像診断(HRCT):診断において最も重要なのが、高分解能CT(HRCT)です10。HRCTは、肺の断面を非常に詳細に撮影し、線維化の存在やその分布パターンを評価します。特にIPFに典型的な所見として、「蜂巣肺(ほうそうはい)」と呼ばれる、蜂の巣のような多数の嚢胞(のうほう)が見られることがあります16
  4. 血液検査:関節リウマチなどの膠原病を除外するため、また、KL-6やSP-Dといった間質性肺炎で上昇することがあるマーカーを測定するために行います。ただし、これらのマーカーはIPFに特異的ではないため、診断を確定するためではなく、補助的な情報として用いられます17
  5. 肺生検:HRCT画像だけでは診断が確定できない場合に、肺の組織を採取して顕微鏡で調べる検査です。従来は外科的に行う「外科的肺生検(SLB)」が主流でしたが、最近では気管支鏡を用いて行う、より侵襲の少ない「経気管支肺クライオバイオプシー(TBLC)」が選択肢として推奨されるようになっています1013

学際的検討(MDD)の重要性

診断が難しいケースでは、学際的検討(Multidisciplinary Discussion、略してMDD)が極めて重要になります17。MDDとは、呼吸器専門医、放射線科医、病理医など、異なる専門分野の医師が一堂に会し、患者様の臨床情報、画像所見、病理所見(生検を行った場合)をすべて突き合わせ、最も確からしい診断を導き出すための会議です。これは、複雑な間質性肺炎の診断における「世界標準(ゴールドスタンダード)」と位置づけられています。

特に重要なのは、HRCTでIPFに典型的な蜂巣肺が認められる古典的なケースでは、最新の国際ガイドラインは、リスクを伴う肺生検を「行わないこと」を強く推奨している点です17。これは、画像所見が非常に典型的であれば、侵襲的な検査の利益よりもリスクが上回るという、証拠に基づいた判断です。

表1:IPFが疑われる非典型的なHRCT所見を持つ患者に対する診断的アプローチの変遷

診断手技 2011年ガイドラインの推奨 2018/2022年ガイドラインの推奨
気管支肺胞洗浄(BAL) 大部分の患者には不要とされた 実施を提案(条件付き推奨、エビデンスの質は非常に低い)
外科的肺生検(SLB) 典型的なHRCT所見があれば不要 実施を提案(条件付き推奨、エビデンスの質は非常に低い)
経気管支肺クライオバイオプシー(TBLC) 言及なし SLBの代替として実施を提案(条件付き推奨)

出典:13のデータを基にJHO編集委員会が作成

第4部:管理と治療 – 包括的なアプローチ

間質性肺炎治療の目標とは?

現在の医学では、残念ながら一度線維化してしまった肺を元に戻すことはできません。そのため、治療の目標は「完治」ではなく、①病気の進行をできる限り遅らせること、②症状を和らげること、③生活の質(QOL)を維持・向上させること、の三点に集約されます22

薬物療法の選択肢

IPFの治療は、この10年で劇的に変化しました。かつては炎症を抑えるステロイドなどの免疫抑制薬が使われていましたが、大規模な臨床試験により、これらの薬剤はIPFに対して効果がないばかりか、かえって有害である可能性が示されました9。この発見は、IPFが「慢性的な炎症」ではなく、「異常な創傷治癒と線維化」の病気であるという理解への転換を促し、新しい治療薬の開発につながりました。

  • 抗線維化薬:現在のIPF治療の根幹をなす薬剤です。
    • ピルフェニドン(製品名:ピレスパ):線維化を促進する物質を抑えるなど、複数の作用を持つと考えられている飲み薬です9
    • ニンテダニブ(製品名:オフェブ):線維芽細胞の増殖に関わる信号をブロックする分子標的薬です10

    これら二つの薬剤は、どちらもIPF患者の呼吸機能の低下速度(努力肺活量-FVCの減少率)を有意に遅らせることが証明されています13。「進行を遅らせる」ことは、この厳しい病気において大きな成功であり、より質の高い時間を長く過ごし、将来の新しい治療法を待つための「架け橋」となります。また、ニンテダニブは、前述の進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PPF)や、膠原病の一種である強皮症に伴う間質性肺炎(SSc-ILD)にも適応が拡大されています14

  • 免疫抑制薬:ステロイドやその他の免疫抑制薬は、IPFには通常使用されませんが、特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)や膠原病に伴うILDなど、炎症が病気の主体である一部の間質性肺炎に対しては依然として有効な治療選択肢です20
  • 将来の治療法:現在、ネラミドミラストという新しい作用機序の薬剤が第3相臨床試験で有望な結果を示し、世界中で承認申請が進められており、新たな希望となっています23

表2:IPFおよびPPFに対する主要な薬物療法の選択肢

薬剤 主な適応 作用機序(推定) IPFに対する推奨度
ピルフェニドン(ピレスパ) 特発性肺線維症(IPF) 抗線維化、抗炎症作用 治療に用いることを条件付きで推奨
ニンテダニブ(オフェブ) IPF, 進行性線維化を伴う間質性肺疾患 (PPF), 強皮症に伴うILD (SSc-ILD) 線維芽細胞増殖因子受容体などを標的とするチロシンキナーゼ阻害剤 治療に用いることを条件付きで推奨
コルチコステロイド(例:プレドニゾロン) 炎症が主体のILD(例:iNSIP、膠原病に伴うILD) 抗炎症、免疫抑制作用 IPFに対する単剤治療は強く推奨しない
制酸薬(例:PPI) 胃食道逆流症(GERD)を合併するIPF患者 胃酸分泌を抑制 GERD合併が確認された患者への使用を提案(呼吸器予後改善目的ではない)
ネラミドミラスト IPFおよびPPFに対し承認審査中 ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤 研究段階(ガイドライン未収載)

出典:918のデータを基にJHO編集委員会が作成

薬物以外の治療と支持療法

間質性肺炎の管理は、薬を飲むだけでは完結しません。包括的なアプローチが不可欠です。

  • 呼吸リハビリテーション:監視下での運動療法、呼吸法訓練、栄養指導、精神的サポートを組み合わせたプログラムです。体力と生活の質を向上させる効果が証明されています18
  • 在宅酸素療法:血液中の酸素濃度が低下した患者様(安静時SpO2≦88%など)に処方されます。酸素療法は肺の損傷を止めるものではありませんが、息切れを和らげ、心臓などへの負担を減らし、活動性を維持するのに役立ちます21
  • ワクチン接種:インフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチン接種は、重篤な感染症や急性増悪を予防するために極めて重要です19
  • 併存疾患の管理:特に胃食道逆流症(GERD)はIPF患者に多く見られ、肺の状態を悪化させる可能性があるため、制酸薬による治療が推奨されます18
  • 肺移植と緩和ケア:肺移植は、この病気を治癒させうる唯一の治療法であり、適格な患者様については早期に検討されるべきです。また、緩和ケアは終末期だけでなく、診断早期から導入し、息苦しさや咳などの辛い症状を和らげ、患者様とご家族の心身の負担を軽減するために重要です21

第5部:日本で間質性肺炎と共に生きる – 実践的ガイド

医療費助成:指定難病制度について

日本において、特発性間質性肺炎(IIPs)は国が定める「指定難病」の一つです29。これは、一定の基準を満たす患者様が、治療にかかる医療費の自己負担分について公的な助成を受けられる制度です。長期にわたる治療の経済的負担を軽減するための重要な仕組みです。

助成の対象となるかどうかは、主に安静時の動脈血酸素分圧(PaO₂)に基づいた重症度分類によって決まります。厚生労働省の基準では、重症度分類がⅢ度以上の患者様が助成の対象となります28

表3:IIPsに対する日本の指定難病制度:重症度分類と助成要件

重症度 主な基準(安静時PaO₂) 追加条件(6分間歩行試験 – 6MWT) 助成対象
I度 80 Torr 以上 重症度では非該当(軽症高額を検討)
II度 70 〜 80 Torr 未満 歩行時SpO₂<90%ならIII度に分類 重症度では非該当(軽症高額を検討)
III度 60 〜 70 Torr 未満 歩行時SpO₂<90%ならIV度に分類 該当
IV度 60 Torr 未満 実施不要 該当

出典:28のデータを基にJHO編集委員会が作成

「軽症高額該当」という重要な規定:たとえ重症度がI度やII度であっても、医療費が高額になる場合があります。特に抗線維化薬は高価です。そのため、「軽症高額該当」という制度があります。これは、重症度基準を満たさなくても、IIPsの治療にかかった医療費の総額(保険適用分)が、1ヶ月に33,330円を超える月が、申請前の1年間で3回以上ある場合に、助成の対象となるというものです31。この制度は、高額な薬剤を使用している多くの患者様にとって、非常に重要な情報です。

専門医と治療施設を探す

間質性肺炎の診断と治療には、高度な専門知識が必要です。日本呼吸器学会のウェブサイトや、間質性肺炎の専門外来を設けている大学病院などの情報を参考に、主治医と相談しながら適切な専門医や医療機関を見つけることが大切です38

よくある質問

間質性肺炎は完治しますか?

残念ながら、現在の医学では一度線維化した肺を元に戻し、完治させることはできません。しかし、これは治療法がないという意味ではありません。近年の治療の進歩は目覚ましく、抗線維化薬などの治療によって、病気の進行を大幅に遅らせることが可能になっています。治療の目標は「完治」ではなく、病気と「共存」し、できるだけ長く、より良い生活の質を保つことです。

この病気の予後(余命)はどうなりますか?

これは患者様が最も不安に感じる質問の一つです。特発性肺線維症(IPF)の診断後の平均生存期間は3〜5年というデータがありますが10、これはあくまで平均値であり、抗線維化薬が登場する前のデータも含まれています。病気の進行速度は患者様一人ひとり大きく異なり、新しい治療法によって予後は改善しつつあります。予後について一概に語ることはできず、個々の病状については主治医とよく話し合うことが重要です。希望を失わず、現在の治療に前向きに取り組むことが何よりも大切です。

この病気は遺伝しますか?

ほとんどの間質性肺炎は遺伝しません。しかし、ごく稀に、血縁者の中に複数の間質性肺炎患者様がいる「家族性間質性肺炎」というケースがあります。ご家族に同じ病気の方がいる場合は、その情報を医師に伝えることが重要です。

つらい空咳を抑えるにはどうすればいいですか?

咳は体力を消耗させ、生活の質を大きく低下させます。まずは、禁煙、室内の加湿、のど飴の使用、刺激の少ない食事などを試みることが推奨されます。それでも改善しない場合は、医師が咳止めを処方することがあります。咳の原因となっている胃食道逆流症(GERD)の治療が有効な場合もあります。辛い咳については我慢せず、主治医に相談してください。

特別な食事療法は必要ですか?

間質性肺炎そのものに特化した食事療法はありません。しかし、健康的な体重を維持し、十分な栄養を摂ることは、体力を保ち、感染症と戦う上で非常に重要です。バランスの取れた食事を心がけ、息切れのために一度にたくさん食べられない場合は、少量ずつ、回数を分けて食事をするとよいでしょう36。胃食道逆流症を合併している場合は、脂肪の多い食事やカフェイン、アルコールなどを控えることが症状の改善につながることがあります。

運動や旅行はできますか?

息切れがあるからといって、安静にしすぎるのは逆効果です。無理のない範囲での運動は、体力の維持や気分のリフレッシュに繋がります。呼吸リハビリテーションの専門家と相談し、自分に合った運動計画を立てることが理想的です。旅行についても、病状が安定していれば可能です。特に飛行機を利用する場合は、機内の気圧低下で酸素濃度が下がるため、事前に主治医に相談し、必要であれば携帯用酸素濃縮器の準備などを検討する必要があります。

ストレスは病気に影響しますか?

慢性的な病気と共に生きることは、大きな精神的ストレスを伴います。ストレスが直接的に肺の線維化を悪化させるという直接的な証拠は多くありませんが、ストレスは免疫機能の低下や睡眠障害、うつ状態などを引き起こし、全体的な健康状態に悪影響を与える可能性があります。趣味やリラクゼーション、家族や友人との対話、必要であれば専門のカウンセラーや患者会33などを通じて、ストレスを上手に管理していくことが大切です。

結論

間質性肺炎、特に特発性肺線維症は、かつては有効な治療法がほとんどない厳しい病気でした。しかし、この10年で研究は飛躍的に進歩し、病気のメカニズムの解明が進み、進行を遅らせる薬が登場しました。診断技術も向上し、より正確で、より患者様の負担が少ない方法が確立されつつあります。未来は決して暗いものではありません。

この記事が提供する情報が、患者様とご家族が病気を正しく理解し、治療の選択肢について主治医と話し合い、そして日本の医療制度を最大限に活用するための一助となることを心から願っています。最も重要なことは、希望を持ち、信頼できる医療チームと手を取り合って、一歩一歩前進していくことです。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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