この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的ガイダンスへの直接的な関連性を示したものです。
- StatPearls Publishing (米国): 本記事における匙状爪の包括的な医学的概要、鉄欠乏性貧血患者における有病率(約5.4%)、ウォータードロップテストなどの診断基準に関する記述は、同機関が発行する査読付き論文に基づいています2。
- Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology (欧州): 乾癬や扁平苔癬といった皮膚科疾患と匙状爪との関連性、および鑑別診断に関する専門的知見は、同学会誌に掲載されたレビュー論文を引用しています3。
- MSDマニュアル プロフェッショナル版: 鉄欠乏症以外の全身性疾患(腎不全、肝硬変、肺疾患など)が爪の変形に与える影響についての体系的な解説は、世界的に利用されている本医学マニュアルの情報に基づいています4。
- 公益社団法人日本皮膚科学会 (日本): 匙状爪の発生機序に関する「爪の強度 < 外力」という物理的要因と、鉄欠乏がその素因となるという日本国内の専門学会による公式見解は、同学会の公開情報を基にしています5。
- 厚生労働省 (日本): 日本の成人女性、特に20代から40代における貧血および「かくれ貧血」の有病率(約65%)に関する重要な統計データは、同省の公式発表に基づいています6。
- 日本内科学会 (日本): 日本人女性における鉄欠乏状態の実態と、匙状爪が組織鉄欠乏の兆候であるとの医学的解説は、同学会誌に掲載された論文に基づいています7。
要点まとめ
- 爪の凹み(匙状爪)は、最も一般的には鉄欠乏性貧血の兆候ですが、乾癬や甲状腺疾患、糖尿病などの全身性疾患のサインである可能性もあります。
- 原因は、鉄欠乏などにより爪が脆弱になる「内的要因」と、指先への物理的な圧力がかかる「外的要因」が組み合わさって発症すると考えられています。
- 診断には、爪に水滴を垂らす「ウォータードロップテスト」や、血液検査(特に血清フェリチン値の測定)が重要です。
- 治療は根本原因の解決が最優先です。鉄欠乏性貧血の場合は、医師の指導のもと鉄剤の服用や食事療法が行われます。
- 爪の変形に気づき、特に倦怠感や息切れなどの全身症状を伴う場合は、自己判断せず速やかに皮膚科または内科を受診することが極めて重要です。
匙状爪(Koilonychia)とは?― 正確な定義と見分け方
「爪の凹み」と一言でいっても、その形状や特徴は様々です。正確な対応のためには、まず匙状爪がどのような状態を指すのかを正しく理解し、他の爪の異常と見分けることが重要です。
匙状爪の医学的定義
匙状爪は、医学用語で「コイロニキア(Koilonychia)」と呼ばれます。この名称は、ギリシャ語の「koilos(空洞、くぼみ)」と「onikh(爪)」に由来しており、その名の通り爪がスプーンのように凹んだ状態を指します2。主な特徴として、通常は緩やかに凸状にカーブしているはずの爪甲(そうこう、爪の硬い部分)が薄く、脆くなり、その中央部が陥没して凹面を形成します。この変形は、指の爪にも足の爪にも起こり得ます2。
臨床的な診断方法:ウォータードロップテスト
匙状爪の凹みの程度を客観的に確認するために、臨床現場では「ウォータードロップテスト(Water-drop test)」と呼ばれる簡単なテストが行われることがあります。これは、爪の表面にスポイトなどで水滴を垂らし、その水滴が流れ落ちずに爪の凹みに溜まるかどうかを見るものです2。水滴が溜まるほど明らかな凹みがある場合、匙状爪と診断されます。この方法は、微妙な凹みを視覚的に捉えるのに役立ち、患者自身も状態を理解しやすくなります。
他の爪の異常との鑑別(重要)
爪に見られる「凹み」は、すべてが匙状爪というわけではありません。原因や対処法が異なるため、他の代表的な爪の異常との違いを理解しておくことが極めて重要です。
- 点状爪甲凹窩(Pitting): 針先でつついたような、非常に小さな点状の凹みが爪の表面に多数現れる状態です。これは、乾癬(かんせん)や円形脱毛症、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患でよく見られる特徴的な所見です8。匙状爪が爪全体として大きく凹むのに対し、点状爪甲凹窩は個別の小さな凹みの集合体である点が異なります。
- ボー線(Beau’s lines): 爪を横切るように現れる一本の溝または凹みです。これは、高熱を伴う疾患、重度の感染症、強い精神的ストレス、手術、抗がん剤治療などによって、爪母(爪を作る組織)の活動が一時的に停止または著しく低下した際に生じます9。爪の成長とともに先端へと移動していくのが特徴です。
- 爪甲鉤彎症(Onychogryphosis): 特に高齢者の足の親指によく見られ、爪が厚く、硬く、不透明になり、角や牡蠣の殻のように著しく湾曲・肥厚する状態です。「ラムズホーンネイル(ram’s horn nails)」とも呼ばれます8。靴による圧迫や外傷が長期間続くことが原因とされています。
- ばち指(Clubbing): 指の先端が太鼓のばちのように丸く膨らみ、爪もその形に合わせて大きく湾曲する状態です。これは爪自体の問題ではなく、指先の軟部組織の増殖によるものです。肺がん、間質性肺炎、先天性心疾患など、体内の酸素不足を引き起こす深刻な全身性疾患の兆候であることが多く、匙状爪とは全く異なる病態です810。
これらの鑑別点を理解することは、不必要な不安を避け、医師に症状を正確に伝える上で非常に有用です。
匙状爪の多岐にわたる原因 ― なぜ爪は凹むのか?
匙状爪の原因は単一ではなく、体内の健康状態を反映する「内的要因」と、物理的な影響による「外的要因」が複雑に関与しています。ここでは、科学的に報告されている主要な原因を体系的に解説します。
最も一般的な原因:鉄代謝の異常
爪の健康と鉄の代謝は密接に関連しており、そのバランスの乱れが匙状爪の最も代表的な原因とされています。
鉄欠乏性貧血 (Iron Deficiency Anemia)
匙状爪の最も古典的かつ頻度の高い原因として、鉄欠乏性貧血が挙げられます2。ある調査では、鉄欠乏性貧血患者の約5.4%に匙状爪が見られたと報告されています2。鉄は、赤血球のヘモグロビンを構成するだけでなく、全身の細胞が正常に機能するためにも不可欠なミネラルです。鉄が欠乏すると、爪を形成する爪母細胞の機能が低下し、健康で丈夫な爪を作れなくなると考えられています11。
この問題は、特に日本の女性にとって非常に身近なものです。厚生労働省の調査によれば、月経のある20代から40代の日本人女性の約65%が、貧血と診断される状態、あるいはヘモグロビン値は正常でも体内の貯蔵鉄が枯渇している「かくれ貧血(潜在性鉄欠乏)」の状態にあると指摘されています612。食事からの摂取不足、無理なダイエット、月経過多、あるいは消化管からの慢性的な出血などがその背景にあります7。
ヘモクロマトーシス (Hemochromatosis) – 鉄過剰症
興味深いことに、鉄が「不足」する鉄欠乏性貧血とは正反対に、遺伝的な要因などで体内に鉄が「過剰」に蓄積する疾患であるヘモクロマトーシスでも、匙状爪が起こることが報告されています2。これは、匙状爪の発生機序が、単に「爪の材料である鉄が足りない」という単純な問題ではなく、「鉄代謝の恒常性が破綻し、その異常が爪母細胞に悪影響を及ぼす」という、より複雑なメカニズムに基づいていることを強く示唆しています。
全身性疾患のサインとしての匙状爪
匙状爪は、鉄代謝異常以外にも、様々な全身性疾患の一症状として現れることがあります。
- 皮膚疾患: 爪母に直接炎症が及ぶことで、正常な爪の形成が妨げられます。例:乾癬2、扁平苔癬3、円形脱毛症213。
- 内分泌疾患: ホルモンバランスや代謝の異常が、末梢組織である爪の健康に影響します。例:甲状腺機能低下症/亢進症1、糖尿病9。
- 自己免疫疾患・結合組織病: 全身性エリテマトーデス(SLE)などでも報告があります2。
- 消化器・肝・腎疾患: 肝硬変、腎不全など9。
- プランマー・ビンソン症候群: 重度の鉄欠乏性貧血、嚥下障害、食道ウェブ(膜状の狭窄)を三徴とする稀な症候群で、匙状爪が特徴的な所見として知られています214。
- 心血管・呼吸器疾患: 指先への血流低下(末梢循環不全)が爪の栄養状態を悪化させます。例:心疾患、肺疾患9、レイノー現象8。
外的・物理的要因
体内の問題だけでなく、外部からの物理的な影響も匙状爪の重要な原因となります。
- 職業・外傷: 自動車整備士、美容師、農業従事者など、指先に継続的な強い圧力がかかる職業や、爪への直接的な打撲などの外傷が引き金となることがあります2。このメカニズムは、爪自体の強度と外部から加わる力のバランス、「爪の強度 < 外力」という関係で説明できます15。
- 遺伝的要因: まれに、常染色体優性遺伝形式をとる家族性の匙状爪や、爪膝蓋骨症候群(Nail-patella syndrome)のような遺伝性疾患の一部として見られることがあります16。
- 生理的要因: 乳幼児の足の爪は、もともと薄く柔らかいため、一時的にスプーン状になることがあります。これは生理的な変化であり、多くは成長とともに自然に改善します2。
複合的な原因の理解
多くの場合、後天性の匙状爪は単一の原因で発症するわけではありません。むしろ、鉄欠乏などの「内的要因」によって爪が元々薄く、脆くなっている状態(素因)に、指先への継続的な圧力といった「外的要因」(誘因)が加わることで、初めて変形が顕在化するという複合的なモデルで理解することが妥当です。日本皮膚科学会も、鉄欠乏性貧血では「爪甲が正常の場合に比べて弱いために、スプーンネイルになりやすい傾向がある」と説明しており、鉄欠乏が爪を脆弱化させ、物理的な力に対する抵抗力を低下させることを示唆しています5。この「内的要因 × 外的要因 = 発症」という視点は、ご自身の状態を理解する上で重要な鍵となります。
病態生理 ― なぜ「スプーン状」になるのか?科学的メカニズムの探求
匙状爪がなぜ特徴的なスプーン状の形になるのか、その正確な病態生理は完全には解明されていません。しかし、いくつかの有力な科学的仮説が提唱されており、これらを組み合わせることで、そのメカニズムをより深く理解することができます。
爪母(Nail Matrix)の機能不全
全ての爪の異常の根底には、爪を生成する「工場」である爪母の機能不全が存在します。鉄欠乏、血行不良、炎症などによって爪母細胞が必要な栄養や酸素を受け取れなくなると、正常なケラチン(爪の主成分)の産生が障害されます。これにより、薄く、柔らかく、物理的な力に弱い爪が作られてしまうことが、変形の第一歩と考えられます。
結合組織の支持力低下説
一つの有力な仮説は、爪の下にある皮膚、すなわち爪床(そうしょう、Nail Bed)の結合組織が弱まるというものです。特に指の先端部分の結合組織が、血流不全や鉄含有酵素の機能低下によって萎縮・脆弱化すると、その上にある爪甲をしっかりと支えることができなくなります。その結果、指先からの圧力に負けて爪の中央部が陥没し、スプーン状の凹みが生じると考えられています17。
爪の成長方向の変化説
別の仮説として、爪母の構造的な角度が変化し、爪が本来のまっすぐ前方へ伸びるのではなく、わずかに上方へ向かって成長してしまうという説もあります16。この成長方向の異常が、結果として爪の反り返りを生むという考え方です。
統合的考察
これらの仮説は互いに排他的なものではなく、相互に関連していると考えられます。最も包括的な理解は、前述の「内的要因 × 外的要因」モデルを病態生理の観点から捉え直すことです。
- 素因形成(内的要因): 鉄欠乏性貧血や全身性疾患などの内的要因が、爪母の機能不全や爪床の結合組織の脆弱化を引き起こし、爪全体の構造的な強度を低下させます5。
- 変形の顕在化(外的要因): この強度が低下した脆弱な状態の爪に対して、日常生活や職業上の動作によって指先からの物理的な圧力が継続的に加わります15。
- 陥没の完成: 構造的に最も弱い爪の中央部がその圧力に耐えきれずに陥没し、特徴的なスプーン状の変形が完成する、という一連の流れです。
このように、匙状爪は単一の事象ではなく、複数の要因が連鎖して起こる病態であると理解することが、その本質を捉える上で重要です。
診断と受診の目安 ― いつ、何科へ行くべきか?
爪の変形に気づいたとき、それが医療機関を受診すべきサインなのか、またどの診療科に行けばよいのかを判断することは、多くの人にとって難しい問題です。ここでは、その具体的な目安と手順を解説します。
セルフチェックと注意点
まず自身の爪の状態を観察してみましょう。爪の中央部が明らかに凹んでいるか、ウォータードロップテストで水滴が溜まるか、爪が薄く割れやすくなっていないか、といった点がセルフチェックのポイントです。しかし、これらはあくまで目安であり、自己判断で原因を決めつけることは非常に危険です。必ず専門家の診断を仰いでください。
医療機関を受診すべきサイン
以下のような場合は、放置せずに医療機関を受診することを強く推奨します。
- 爪の凹みが複数の指に広がっている、あるいは時間とともに悪化している。
- 爪の変形以外に、以下のような全身の症状を伴う場合:
- 爪の変形の原因に全く心当たりがない場合。
受診する診療科
- 第一選択:皮膚科
爪は皮膚の付属器であり、爪の疾患は皮膚科の専門領域です。まずは皮膚科を受診し、爪の状態を正確に診断してもらうのが最も適切なアプローチです20。皮膚科医は、匙状爪と他の爪疾患との鑑別も専門的に行います。 - 第二選択:内科(一般内科、血液内科)
疲労感や息切れなど、明らかに貧血を疑う全身症状が強い場合は、内科を受診することも有効です。内科では、全身的な視点から原因を検索するための血液検査などを速やかに行うことができます18。
医師に伝えるべき情報
受診の際には、以下の情報を整理して医師に伝えると、診察がスムーズに進み、より正確な診断につながります。
- 症状について: いつから、どの指(または足指)の爪に、どのような変化があるか。症状は進行しているか。
- 全身症状: 爪以外の自覚症状(疲労感、息切れ、皮膚症状など)。
- 背景情報:
- 既往歴(過去にかかった病気)、現在治療中の病気。
- 服用中の薬、サプリメント。
- 職業、指先をよく使う作業の有無。
- 食生活の状況(偏食、ダイエットの有無など)。
- 女性の場合、月経の量や周期、妊娠・出産の経歴。
医療機関での検査
問診と視診の後、原因を特定するために以下のような検査が行われることがあります。
- 血液検査: 匙状爪で最も疑われる鉄欠乏性貧血を調べるために不可欠です。
- その他の検査: 鉄欠乏以外の原因が疑われる場合、甲状腺機能検査、自己抗体検査(自己免疫疾患を疑う場合)、真菌検査(KOH直接鏡検法、爪白癬を疑う場合)などが追加されることがあります222。
治療とセルフケア ― 健やかな爪を取り戻すために
匙状爪の治療は、その見た目を直接治すことではなく、根本原因となっている疾患を治療することが大原則です。原因が取り除かれれば、爪は時間をかけて正常な状態に再生していきます。
治療の原則:原因疾患の治療が最優先
匙状爪は、あくまで氷山の一角、つまり「症状」に過ぎません。その下にある鉄欠乏性貧血、乾癬、甲状腺疾患などの「原因疾患」を適切に治療することが、根本的な解決への唯一の道です。医師の診断に基づいた治療計画に従うことが最も重要です。
鉄欠乏性貧血の治療
原因として最も多い鉄欠乏性貧血と診断された場合、主に食事療法と薬物療法が行われます。
- 食事療法: 日々の食事で鉄分を意識的に摂取することが基本です。
- 鉄分を多く含む食品: ヘム鉄(吸収率が高い)を含むレバー、赤身の肉、カツオやマグロなどの赤身魚、あさり、しじみ。非ヘム鉄を含むほうれん草、小松菜、ひじき、大豆製品など。
- 吸収率を高める工夫: 動物性タンパク質やビタミンCは、特に非ヘム鉄の吸収を助ける働きがあります。肉や魚、あるいはピーマンやブロッコリーなどの緑黄色野菜、果物と一緒に摂るのが効果的です23。
- 薬物療法: 食事だけで改善が難しい場合や、貧血の程度が重い場合は、医師の処方による鉄剤(経口薬)の服用が必要となります。鉄剤は胃腸障害(吐き気、便秘など)の副作用が出ることがあるため、用法・用量を守ることが大切です。自己判断で市販のサプリメントを過剰に摂取すると、副作用の危険性や、他の疾患を見逃すことにも繋がりかねません。必ず医師の指導のもとで服用してください5。
日常生活でできる爪のケア
原因疾患の治療と並行して、爪そのものを健やかに保つためのセルフケアも重要です。これにより、新しく生えてくる爪が健康に育つ環境を整えることができます。
- 保湿: 爪の乾燥は、脆さや割れやすさの原因の一つです。キューティクルオイルや保湿成分の入ったハンドクリームを、爪の生え際(甘皮部分)や爪全体にこまめに塗り、十分に保湿しましょう24。
- 保護: 食器洗いや掃除などで洗剤や水に長時間触れる際は、爪への負担を減らすためにゴム手袋を着用する習慣をつけましょう24。
- 正しい爪切り: 爪へのダメージを最小限に抑えるため、爪が柔らかくなっている入浴後に行うのが最適です。爪切りではなく、爪やすりを使うとより優しく整えられます。爪の両端を深く切り込む「バイアス切り」は避け、爪の先端が直線になるようにカットし(スクエアカット)、角だけをやすりで少し丸める「スクエアオフ」が理想的な形です。これにより、爪の強度が保たれ、物理的な力に対する抵抗力が高まります15。
- 血行促進: 指先を優しくマッサージしたり、手を温めたりすることで血行を促進し、爪母に必要な栄養素が行き渡りやすくなります25。
よくある質問
爪の凹みはどのくらいの期間で治りますか?
爪の凹みが治るまでの期間は、根本原因の治療が成功してから、新しい健康な爪が完全に生え変わるまでの時間によります。手の爪は1ヶ月に約3mm、足の爪は1ヶ月に約1.5mm伸びるとされています9。したがって、手の爪全体が生え変わるのには約6ヶ月、足の爪では12ヶ月から18ヶ月かかることもあります。原因疾患の治療を根気強く続けることが大切です。
鉄分をサプリメントで補っても良いですか?
特定の指だけが凹んでいるのはなぜですか?
特定の指だけが凹む場合、全身性の原因(例:鉄欠乏)よりも、その指への局所的な要因が強く影響している可能性があります。例えば、利き手の人差し指など、日常的によく使い、圧力がかかりやすい指に症状が現れることがあります15。また、過去の外傷が原因であることも考えられます。ただし、全身性疾患の初期症状として一指から始まる可能性も否定できないため、専門家による診断が重要です。
結論
本記事を通じて、爪の凹み、すなわち匙状爪(コイロニキア)が、単なる美容上の悩みではなく、私たちの健康状態を映し出す重要な指標であることを解説してきました。その原因は、最も一般的な鉄欠乏性貧血から、時に深刻な全身性疾患、さらには日々の生活習慣に至るまで、極めて多様です。最も重要なメッセージは、自己判断で原因を決めつけず、不安や異常を感じた場合は、決して放置せずに専門家である医師に相談するということです。特に、爪以外の全身症状を伴う場合や、症状が進行している場合は、速やかに皮膚科や内科を受診してください。早期の診断と適切な治療は、隠れた疾患の重症化を防ぎ、健やかな体と爪を取り戻すための何よりも確実な一歩となります。この記事で得た科学的根拠に基づく知識が、皆様がご自身の体と向き合い、かかりつけの医師と相談するための第一歩となることを心から願っています。
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