この記事の科学的根拠
この記事は、ご提供いただいた研究報告書に明記された、最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、本記事で提示される医学的指針に直接関連する、実際に参照された情報源のリストです。
- 長崎クリニック: 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の患者が高麗人参を摂取した場合に症状が悪化する危険性があるという、本記事の最も重要な警告は、この専門医療機関の具体的な臨床的見解に基づいています1。
- The effect of red ginseng and ginseng leaves on the substance and energy metabolism in hypothyroidism rats (Wang J, et al. 著の論文): 甲状腺機能低下症モデルラットにおいて紅参がエネルギー代謝を改善したという報告は、低下症に対する限定的な可能性を議論する上での直接的な科学的根拠となっています2。
- 日本甲状腺学会: バセドウ病や橋本病の治療に関する国内の標準的な方針や診断基準は、日本甲状腺学会が発行する公式ガイドラインに基づいています34。これにより、記事の推奨事項が日本の臨床現場のコンセンサスに準拠していることが保証されます。
- 伊藤病院: 甲状腺ホルモン薬(チラーヂンS)とサプリメントを併用する際に4時間以上の間隔を空けるべきという実践的な指導は、この日本有数の甲状腺専門病院の公開情報に基づいています5。
- 厚生労働省: 健康食品による健康被害への注意喚起や、医薬品の副作用に関する公式な見解は、厚生労働省の公開文書を典拠としています6。
要点まとめ
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)の方にとって、高麗人参の摂取は症状を悪化させる危険性があるため、原則として禁忌です。
- 甲状腺機能低下症(橋本病など)に対する高麗人参の有効性は科学的に確立されておらず、摂取を検討する場合は必ず事前に主治医への相談が必要です。
- 亢進症で危険な理由は、高麗人参の交感神経刺激作用が、過剰な甲状腺ホルモンの働きと合わさり、動悸などを悪化させるためです1。
- 治療薬のチラーヂンSを服用している場合、サプリメントの摂取は薬の吸収を妨げないよう4時間以上あけることが専門病院から推奨されています5。
- 自己判断でのサプリメント摂取は避け、治療方針は必ず専門医の指示に従うことが最も重要です。
甲状腺疾患と高麗人参を安全に使うために
甲状腺の病気を抱えながら、「高麗人参を飲んでも大丈夫なのだろうか」「サプリを自己判断で続けていて本当に安全なのか」と不安になっている方も多いかもしれません。特に、バセドウ病などで動悸や息切れがつらいとき、少しでも体力を補いたい気持ちは自然なことです。一方で、橋本病などで強い倦怠感や冷えに悩んでいると、「滋養強壮」「代謝アップ」と書かれた健康食品に惹かれてしまう場面もあるでしょう。こうした迷いや不安を一人で抱え込んでいると、かえって自己判断のリスクが高まってしまいます。
この記事が強調しているように、高麗人参の扱い方は「甲状腺機能亢進症」と「甲状腺機能低下症」とで全く異なり、同じ甲状腺疾患でも安全域が大きく変わります。まずはご自身の診断名と現在のホルモン状態を正しく理解し、そのうえでサプリの是非を考えることが重要です。その際、女性の一生を通じたホルモンと健康の関係を整理している女性の健康ガイドを併せて読むと、甲状腺ホルモンと女性ホルモンのつながりもイメージしやすくなるはずです。
特に注意すべきなのは、バセドウ病など甲状腺機能亢進症の方が高麗人参を摂取するケースです。記事でも示されているように、高麗人参に含まれるジンセノサイドは交感神経を刺激し、心拍数や代謝を高める方向に働きます。すでに甲状腺ホルモンが過剰で「代謝のアクセルが踏み込まれすぎている」状態の体に、さらに同じ方向の刺激を加えることは、燃え盛る火に油を注ぐようなものです。動悸、不眠、多汗といった症状が悪化し、専門クリニックも「原則禁忌」と警告しているのはこのためです。このように全身のホルモンネットワークを理解するには、エストロゲンなどの役割を整理した女性ホルモンの基礎解説も参考になります。
一方、橋本病など甲状腺機能低下症では、動物実験レベルで紅参がエネルギー代謝を改善したという報告もあり、「もしかすると疲れが楽になるかも」と期待したくなるかもしれません。しかし、記事が繰り返し強調している通り、人での有効性や安全性はまだ確立されておらず、標準治療ではありません。まず最初のステップは、「自分が亢進症なのか低下症なのか」「ホルモン値はいま安定しているのか」を主治医と一緒に整理し、そのうえでサプリの可否を相談することです。月経の乱れや基礎体温の変化など、ホルモン異常のサインを読み解くには、月経周期の基本を押さえておくことも役立ちます。
次に大切なのは、治療薬との飲み合わせとタイミングの管理です。甲状腺機能低下症でチラーヂンS(レボチロキシン)を服用している場合、高麗人参を含むサプリが薬の吸収を妨げる可能性があるとして、専門病院は「4時間以上間隔をあける」ことを勧めています。また、サプリを始めた後に動悸や体重変化、月経不順などが強くなったら、いったん中止して必ず医師に相談することが重要です。生理の遅れが出たときに妊娠だけでなく病気のサインも見逃さないためには、生理が来ないときの考え方も合わせて確認しておくと安心です。
さらに重要なのは、「インターネット情報だけで治療方針を変えない」という姿勢です。記事でも触れられているように、厚生労働省や学会のガイドラインは、まず科学的に有効性と安全性が確立された薬物療法で甲状腺疾患をコントロールすることを前提としています。そのうえで、高麗人参を含む健康食品を試すかどうかは、持病、併用薬、血栓症リスクなどを総合的に評価して、主治医と一緒に決めるべきテーマです。定期的な血液検査や婦人科検診を受けながら全身状態をチェックするためにも、婦人科検診の受け方も確認しておくとよいでしょう。
甲状腺疾患と高麗人参の関係は、「亢進症では原則禁忌」「低下症でも自己判断は避け、医師と相談が必須」というシンプルでありながら重要なポイントに集約されます。この記事のチェックリストを活用しながら、自分の診断名・治療薬・症状の変化を書き出し、次回の診察で率直に相談してみてください。あなたの身体のことを一番よく知っている主治医と協力することで、高麗人参を含む健康食品とも、より安全な距離感で付き合っていくことができるはずです。
大前提:あなたの甲状腺はどっち?亢進症と低下症の決定的違い
高麗人参について考える前に、ご自身の状態を正確に理解することが不可欠です。甲状腺疾患は、その機能によって大きく二つのタイプに分けられます。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など):代謝のアクセルが踏まれすぎている状態
甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝が異常に活発になる状態です。日本での患者数は人口1,000人あたり0.2人から3.2人と推定されています7。主な症状には、動悸、息切れ、多汗、体重減少、手の震え、イライラ感などがあります。その代表的な疾患が「バセドウ病」です4。
甲状腺機能低下症(橋本病など):代謝のアクセルが効かない状態
甲状腺ホルモンの分泌が不足し、全身の代謝が低下する状態です。主な症状として、強い倦怠感、無気力、冷え、むくみ、体重増加、便秘などが挙げられます。この中で最も頻度が高いのが「橋本病(慢性甲状腺炎)」です46。日本には、バセドウ病や橋本病をはじめとする甲状腺疾患の患者さんが推定500万人以上いるとされていますが8、実際に治療を受けている方はその一部と言われています。
【ポイント】 この二つの正反対の状態を混同することが、健康食品やサプリメントを自己判断で利用する際の最大のリスクとなります。
【結論】病状別:高麗人参を摂取して良い?悪い?
甲状腺の病状によって、高麗人参摂取の推奨度は全く異なります。以下の表に結論をまとめました。
| 病状 | 摂取の可否と理由 |
|---|---|
| 甲状腺機能亢進症(バセドウ病) | 原則禁忌(摂取してはいけません) 理由:症状を著しく悪化させる危険性が専門家から指摘されています1。 |
| 甲状腺機能低下症(橋本病) | 医師との相談が絶対条件 理由:限定的な有益性を示唆する基礎研究はありますが2、安全性や有効性は確立されておらず、標準治療ではありません。 |
なぜ亢進症(バセドウ病)に高麗人参は危険なのか?【科学的根拠】
「体に良さそう」という一般的なイメージとは裏腹に、甲状腺機能亢進症の方にとって高麗人参は危険な選択となり得ます。その理由は科学的に説明できます。
燃え盛る火に油を注ぐ「交感神経刺激作用」
高麗人参の有効成分であるジンセノサイド類には、交感神経を興奮させる作用が知られています9。これは、体内の代謝を亢進させる甲状腺ホルモンの作用と方向性が同じです。甲状腺ホルモンが既に過剰な状態の方が高麗人参を摂取することは、「燃え盛る火に油を注ぐ」ようなもので、動悸、不眠、発汗といった苦しい症状をさらに悪化させる可能性があるのです1。
日本の専門医からの明確な警告
この危険性について、日本の甲状腺専門クリニックはウェブサイトで以下のように明確に警告しています。
「未治療・治療開始後数か月以内で甲状腺ホルモンが高い状態なのに、甲状腺ホルモンと似た作用を持つ高麗人参(ニンジン)を摂ると、甲状腺機能亢進症/バセドウ病症状が悪化すさる危険があります。」1
これは、実際の患者を診ている臨床現場における専門家のコンセンサスを反映した、極めて重要な見解です。一方で、ラットを用いたある研究では、レボチロキシン(甲状腺ホルモン薬)を過剰投与して人工的に甲状腺機能亢進症を誘発した後に韓国紅参エキスを与えたところ、甲状腺ホルモンの産生を抑制し保護的に作用したという報告もあります10。これは高麗人参の影響の複雑さを示唆しますが、人間での効果は不明であり、安易に安全と判断することはできません。
低下症(橋本病)への効果は?研究段階の可能性と厳しい現実
一方で、機能低下症に対しては、異なる側面から研究が進められていますが、あくまで基礎研究の段階であり、安易な期待は禁物です。
動物実験で示された「代謝改善」の可能性
プロピルチオウラシルという薬剤で人工的に甲状腺機能低下症にしたラットを用いた中国の研究では、紅参(高麗人参を蒸して乾燥させたもの)の投与が、低下していたエネルギー消費量を増加させ、物質・エネルギー代謝を改善する可能性が報告されました2。しかし、これはあくまで動物実験の結果であり、人間での効果や安全性を保証するものではありません。
橋本病の背景にある「自己免疫」へのアプローチ
橋本病は、免疫システムが誤って自身の甲状腺を攻撃してしまう自己免疫疾患です。高麗人参の成分であるジンセノサイドには、抗酸化作用や免疫バランスを調節する作用があることが多くの基礎研究で報告されており911、理論的には病態に有益に働く可能性が考えられます。しかし、橋本病患者を対象とした質の高い臨床試験はほとんどなく、有効性を示す確固たる科学的根拠は存在しないのが現状です。
【重要】治療薬チラーヂンSとの飲み合わせ
甲状腺機能低下症の標準治療は、不足している甲状腺ホルモンを薬で補充することです。この薬(レボチロキシンナトリウム、商品名:チラーヂンSなど)の吸収を、高麗人参を含むサプリメントが妨げる可能性は否定できません。日本有数の甲状腺専門病院である伊藤病院は、サプリメントと甲状腺ホルモン薬を併用する場合、薬の効果を確実に得るために服用時間を4時間以上あけることを推奨しています5。これは非常に重要な注意点です。
公的機関・専門学会は、どう考えているのか?
個別の研究だけでなく、国や学会といった公的機関の見解を知ることは、信頼できる判断を下す上で不可欠です。
厚生労働省 (MHLW) のスタンス
厚生労働省は、医薬品や健康食品による健康被害について広く注意喚起を行っています12。特に、成分が不明確な海外製品や、医学的根拠の乏しいサプリメントの安易な利用には警鐘を鳴らしており、体調に異変を感じた際は速やかに医療機関を受診するよう強く呼びかけています。甲状腺機能低下症に関しても、重篤副作用疾患別対応マニュアルを作成し、医薬品による副作用への注意を促しています6。
日本甲状腺学会の治療方針
日本甲状腺学会が策定する「バセドウ病治療ガイドライン」3や「甲状腺疾患診断ガイドライン」4では、甲状腺疾患の治療は、科学的に有効性と安全性が確立された医薬品(抗甲状腺薬や甲状腺ホルモン薬)で行うことが基本とされています。高麗人参のような健康食品やサプリメントは、これらのガイドラインにおいて標準治療として推奨されていません。
よくある質問
Q1. 漢方薬として処方される「人参」も同じですか?
Q2. 甲状腺がんの場合はどうですか?
甲状腺がんの治療に対して、高麗人参が有効であるという質の高い科学的エビデンスはありません。日本における甲状腺がんの統計情報15を見ても、治療の基本は標準治療(手術、放射性ヨウ素治療など)です。標準治療の妨げになる可能性も否定できないため、自己判断での摂取は絶対に避けるべきです。治療方針については、必ず主治医とご相談ください。
結論
甲状腺疾患と高麗人参の関係は、その病状によって大きく異なります。甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では、症状悪化の危険性から摂取は禁忌です。一方で、甲状腺機能低下症(橋本病)では、一部の基礎研究で代謝改善などの可能性が示唆されていますが、人での有効性や安全性は全く確立されていません。高麗人参は、日本の伝統医学である漢方でも用いられる重要な生薬ですが、それは専門家による厳密な診断のもとで処方されるからこそ安全性が保たれるのです。
あなたの健康に関する最も重要な決定は、インターネットの情報だけに基づいて行うべきではありません。この記事はあくまで、あなたの主治医と相談するための「予備知識」です。安全な健康管理のために、以下のチェックリストを確認し、必ず、対面であなたを診察してくれる医師の指導に従ってください。
安全な健康管理のための最終チェックリスト
- [ ] あなたの診断名は「甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)」ですか、それとも「甲状腺機能低下症(橋本病など)」ですか?
- [ ] 亢進症の場合、症状悪化のリスクが非常に高いため、高麗人参は摂取しません。
- [ ] 低下症の場合でも、摂取を始める前に必ず主治医に「高麗人参を試したいが、私の状態で問題ないか」と相談しましたか?
- [ ] 治療薬(特にチラーヂンS)を服用している場合、その服用時間と4時間以上あけていますか?5
免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、または健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
参考文献
- 長崎クリニック. 甲状腺と茶,コーヒー,高麗人参 [インターネット]. [参照日: 2025年7月19日]. 入手先: https://www.nagasaki-clinic.com/_m/tea/
- Wang J, Li L, Wang Z, Chen J, Li S, Zhang Y. The effect of red ginseng and ginseng leaves on the substance and energy metabolism in hypothyroidism rats. Pharm Biol. 2017;55(1):1835-1843. doi:10.1080/13880209.2017.1337968. PMID: 28636979
- 日本甲状腺学会. バセドウ病治療ガイドライン2019. 東京: 南江堂; 2019. 入手先: https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524246229/
- 日本甲状腺学会. 甲状腺疾患診断ガイドライン [インターネット]. [参照日: 2025年7月19日]. 入手先: https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html
- 伊藤病院. よくあるご質問 [インターネット]. [参照日: 2025年7月19日]. 入手先: https://www.ito-hospital.jp/23_faq/faq.html
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- 滝野川循環器内科クリニック. バセドウ病 [インターネット]. [参照日: 2025年7月19日]. 入手先: https://www.c-takinogawa.jp/outpatient/department-list/endocrinology/basedow.html
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