はじめに
精巣下垂症という言葉は、多くの男性にとって少なからず不安を伴うものかもしれません。男性のシンボルともいえる精巣は、健康上だけでなく、精神的な安心感にも大きく関わる部分です。そのため、もし陰嚢が過度にたるんでいたり、何らかの痛みや違和感を覚えたりすると、「これは加齢による自然な変化なのか、それとも病気なのか」と、つい考え込んでしまうこともあるでしょう。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
実際に、座った状態で鏡を見ながら陰嚢の状態を観察して、皮膚がたるみ、精巣が通常よりも低い位置にあると気づくことがあります。こうした状況が続いたり、左右差が大きかったりする場合には、精巣下垂症(または陰嚢弛緩症)が疑われることがあります。成長期の子供にも起こることがあり、年齢やライフステージにかかわらず正しい知識を得ることが大切です。
本記事では、精巣下垂症の原因から症状、治療法、そして生活習慣の改善までを幅広く解説しながら、男性の健康維持に役立つ情報をお伝えします。なお、ここで述べる内容はあくまで参考情報であり、個々の症状や病状に応じた最適な治療方針は人によって異なります。疑問や不安がある場合は、早めに専門医へ相談することを強くおすすめいたします。
専門家への相談
精巣や陰嚢に関する異常は、恥ずかしさから受診をためらうケースもあるようです。しかし、精巣下垂症をはじめとするさまざまな疾患は、放置すると症状が悪化し、将来的に不妊や性機能障害、さらには心理的ストレスの増大を引き起こす恐れがあります。例えば、精索静脈瘤や副睾丸炎、精巣炎などは、進行すると長期的な合併症を招く可能性もあります。気になる症状が続く場合は、男性生殖器科や泌尿器科、もしくは総合病院の専門外来に相談してください。
また、既に専門医から何らかの診断や治療方針を提案されている方は、主治医とのコミュニケーションを密に行い、わからないことは遠慮せずに質問し、不安を軽減することが大切です。本記事では、精巣下垂症を理解するうえで参考となる情報をまとめていますが、実際の治療方針は必ず担当医と協議しながら決定してください。
精巣下垂症とは
精巣下垂症(または陰嚢弛緩症)とは、精巣が通常の位置より下がり、陰嚢の皮膚が緩んだ状態を指します。陰嚢がたるんでいる程度は個人差が大きく、日常生活に支障がない軽度のものから、痛みや腹部不快感などの症状を伴う重度のものまでさまざまです。なかには明確な痛みはなくても、左右の精巣の高さが明らかに違っていて心配になるケースも見られます。
- 座ったとき、陰嚢が普段よりも明らかに垂れ下がっている
- 歩行や運動の際、陰嚢の揺れが気になる
- 陰嚢に触れたときに張りや痛みを感じる
- 長時間立っているときに、下腹部に重だるさを覚える
こういった感覚や違和感を覚えた場合は、精巣下垂症の可能性を考慮し、早期に対処するほうが安全です。
精巣下垂症の主な症状
精巣下垂症が進行している場合や、病的な原因が関係している場合には、より顕著な症状があらわれることがあります。以下の症状がみられるときには、慎重に経過を観察しながら医師の診断を受けることが望ましいでしょう。
- 陰嚢の片側が明らかに腫れたように大きくなる
- 陰嚢の痛みや下腹部の不快感(動いたときや圧迫が加わったときに痛みが強まる場合も)
- 倦怠感や食欲不振
- 吐き気や嘔吐
- 夜間の不眠や強いストレス症状
これらの症状は精巣下垂症以外の疾患でも生じるため、必ずしもイコールではありません。ただし、精巣や陰嚢に異常を感じるときは、思わぬ病気が隠れている可能性もありますので、できるだけ早めに専門医を受診することが肝要です。
精巣下垂症の原因
人間の身体は複雑で、精巣下垂症にはさまざまな要因が複合的に絡んでいる場合があります。以下に主な原因を挙げます。
老化による陰嚢弛緩
まず挙げられるのは、老化による陰嚢(皮膚含む)の弾力低下です。年齢を重ねると、皮膚や筋肉の弾性が失われていくのは自然な変化であり、陰嚢も例外ではありません。とくに重力が常にかかる部位であるため、中高年以降は少しずつたるみが進行していきます。この場合、痛みを伴わないケースが多く、見た目や感覚の違和感以外は大きな問題にならないこともあります。
温度変化による陰嚢のたるみ
男性の身体は、精巣の温度を適切に保つために精巧なメカニズムをもっています。暑い環境や入浴後などで体温が上昇すると、精巣を冷却するために陰嚢の筋肉が弛緩し、たるみが生じます。逆に寒い場所では、精巣を温かく保つために陰嚢が収縮します。
体温調節の一環としてのたるみ自体は自然現象ですが、過度に締め付けの強い衣服を着用していると、陰嚢が圧迫されやすくなり、体温調節機能に影響が出る場合もあります。結果的に皮膚がより弛緩しやすくなったり、痛みやむくみを感じやすくなることがあります。
病的要因による精巣下垂
一方で、明確な病的要因により陰嚢が下垂してしまうケースも見受けられます。これらの病気は放置すると合併症を引き起こすリスクが高くなるため注意が必要です。代表的な疾患を以下に挙げます。
- 精索静脈瘤
精巣へ向かう静脈が拡張し、血液の逆流やうっ滞が起こる状態です。特に左精巣に多く、陰嚢が垂れ下がる原因となることがあります。放置すると不妊の原因になりうるため、症状がある場合は医師の診断が推奨されます。
近年では、精索静脈瘤と男性不妊の関連についての研究が進んでおり、2020年にAndrologia誌に掲載された論文(Papadimas I, Kosmas IP, et al. 2020, 52(2): e13438, doi:10.1111/and.13438)では、精索静脈瘤の治療が精子の質や妊孕性に与える影響について複数の症例解析が行われ、改善の傾向が示唆されています。日本国内でも精索静脈瘤と不妊との関連性を検討する研究が増えていますが、個人差が大きいため、医師に相談したうえで治療を検討することが必要です。 - 精巣炎
細菌やウイルスによる感染症が原因で精巣自体が炎症を起こし、腫れや痛みを伴います。高熱や悪寒を伴うこともあり、重症化すると入院治療が必要となる場合があります。陰嚢の下垂は、炎症による腫れのために精巣が重くなることが一因となります。 - 副睾丸炎
精巣の上部にある副睾丸(精巣上体)が感染などにより炎症を起こす状態です。副睾丸は精子の貯蔵・成熟を行う部分のため、この部分が炎症を起こすと強い痛みや腫れが生じます。一般的に尿路感染症や性感染症が関連することが多く、早期診断・治療が重要です。 - 精巣捻転
精巣が捻じれて血流が途絶する緊急性の高い病態です。激しい痛みや腫れを伴い、迅速に治療しないと壊死に陥る可能性があります。下垂というよりは急性の激痛が特徴ですが、精巣の位置異常が背景にあるケースもみられます。 - 精巣がん
頻度は高くありませんが、陰嚢のしこりや下垂感をもたらす場合があります。精巣がんは進行が早いタイプもあり、何らかの異常を感じた際には早期の精密検査が推奨されます。
精巣下垂症がもたらす影響
精巣下垂症は見た目の変化だけでなく、身体的・精神的にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。
- 心理的ストレス
生殖器まわりに不快症状や痛み、たるみなどの変化があると、人知れず大きな不安を抱えてしまう男性も多いようです。不眠や気分の落ち込みが長期間続くと、生活全般に影響が及び、うつ状態を発症するリスクも高まります。 - 性機能への悪影響
陰嚢のたるみや痛みがあると、性交時に違和感や不安が増し、結果として性欲減退や性交痛を引き起こすことがあります。心理面での不安から早漏や勃起不全につながる例も報告されています。 - 生殖能力の低下
病的な原因による精巣下垂症の場合、精子の生産に影響が及ぶことがあります。精子の質が低下すると、形態異常や運動能力の低下などを招き、不妊のリスクを上昇させる可能性があります。早めに対処しないと、パートナーとの将来設計にも関わってくるため、慎重な判断が求められます。
治療法とその選択
精巣下垂症への対応は、原因や症状の程度に応じて異なります。医師による診断のもと、最適な治療方針を立てることが大切です。
- 感染症による精巣炎・副睾丸炎の場合
細菌が原因であれば抗生物質、ウイルス性であれば対症療法や抗ウイルス薬などが用いられます。痛み止めや消炎鎮痛薬の処方を受けることもありますが、自己判断で市販薬を使うのは避けるのが無難です。 - 精索静脈瘤など手術が必要なケース
症状が顕著であったり、不妊が懸念されたりする場合には、外科的介入が検討されることがあります。精索静脈瘤の場合、血管を縛る、もしくは人工的に塞栓するなどの手術方法が一般的です。
近年、男性不妊治療の一環として精索静脈瘤手術が行われるケースが増えており、2021年に発表された研究(Dabaja AA and Schlegel PN. Varicocele. The Lancet. 397(10271), 2076–2084. doi:10.1016/S0140-6736(20)32655-3)によれば、手術による改善率は一定の成果を示しており、精子濃度や活動性の向上が認められたと報告されています。ただし、症状の程度や原因によって効果は異なるため、医師の判断が重要です。 - 精巣捻転の緊急手術
激しい痛みを伴う場合、病院での緊急処置が必要です。救急外来にかかり、超音波検査などによって捻転の有無を確認し、必要に応じて緊急手術が行われます。 - 精巣がんの治療
悪性腫瘍が疑われる場合は、手術、化学療法、放射線療法など多角的な治療を検討します。治療方針はがんの進行度によって異なり、早期発見・早期治療が生命予後を大きく左右する重要な要素です。
生活習慣の改善
治療を受けながら、あるいは予防の一環として、生活習慣の見直しは欠かせません。男性の生殖機能やホルモンバランスは、日々の生活習慣と密接に結びついているからです。医師の指導のもとで行うことが望ましいですが、以下の項目を参考にしてみてください。
- 栄養バランスの良い食事
タンパク質やビタミン、ミネラルをバランスよく摂取することで、体力の維持や免疫力の強化が期待できます。新鮮な野菜や果物、魚、大豆製品などを中心に食事を組み立てるのが理想的です。 - 喫煙・過度の飲酒を控える
喫煙は血流を阻害し、飲酒は内臓への負担を高める原因になります。適度な飲酒であれば大きな問題にはなりにくいですが、過度の飲酒はホルモンバランスの乱れや免疫力の低下を招く恐れがあります。 - 水分補給の徹底
血液循環を正常に保つためにも、こまめな水分補給は大切です。喉が渇いてからではなく、定期的に水やお茶を飲む習慣をつけると良いでしょう。 - 体重管理と定期的な運動
適度な運動は血行を促進し、ホルモン分泌を整えるうえでも有効です。肥満やメタボリックシンドロームは生殖機能に悪影響を及ぼす可能性があるため、太りすぎや極端なやせには注意してください。 - 通気性の良い服装
陰嚢は体温調節を担う部位でもあるため、締め付けの強い下着やズボンは避けるのが望ましいです。通気性の高い綿素材の下着や、適度にゆとりのある服装を心がけてください。 - 陰部の衛生管理
適切な洗浄によって雑菌や汚れを洗い流し、感染症を防ぐことができます。必要以上に強く洗いすぎると肌を傷める場合があるため、清潔を保ちつつも優しくケアすることが基本です。 - 健康的な性生活の維持
パートナーとのコミュニケーションを重視し、精神的にも肉体的にも無理のない性生活を送ることが健康維持につながります。痛みや違和感があるときには性交を控えるなど、身体をいたわる意識が必要です。 - 骨盤底筋のトレーニング
ケーゲル体操など、骨盤底筋を鍛える運動を取り入れることで、骨盤周辺の血流を促進し、尿失禁や勃起機能の改善に寄与する可能性があります。
より深い知識と予防の重要性
精巣下垂症は、痛みや機能障害の有無、原因の病的要素の有無などによって対処法が異なります。しかしいずれのケースであっても、放置すると症状の悪化や不妊リスク、さらには精神的ストレスの増大につながる恐れがあります。したがって、異常を感じたらできるだけ早く医療機関を受診し、必要に応じて適切な治療を行うことが大切です。
また、毎日の生活習慣やケアが予防や再発防止に大きく貢献します。たとえば、喫煙習慣がある男性は喫煙を控えるだけでなく、禁煙外来など専門的なサポートを受けるのも選択肢の一つです。アルコールを頻繁に摂取している場合は、週あたりの飲酒量を見直すだけでも血行やホルモンバランスが改善される例があります。
さらに、健康維持には精神面のケアも重要です。仕事や家庭でのストレスを抱えている場合は、十分な休息やリラクゼーションを取り入れる、カウンセリングを活用するといった方法でストレスを軽減できるかもしれません。自分の心や身体の状態を把握し、必要に応じて専門家(医療機関やカウンセラーなど)に助けを求めることも、予防や改善の大切な一歩です。
医師への相談・診察の流れ
精巣下垂症の疑いがある場合、専門医を受診するとどのような診察や検査を受けることになるのでしょうか。主な流れを簡単に示します。
- 問診
症状の経緯、痛みの有無、生活習慣などを詳しく聞かれます。恥ずかしがらずに正確な情報を伝えることで、医師は適切なアドバイスや検査を選択できます。 - 視診・触診
陰嚢や精巣の状態、左右差、腫れや熱感の有無などを確認します。触診によって精索静脈瘤が疑われる場合もあります。 - 画像検査
超音波(エコー)を使い、精巣や副睾丸の様子、血流状態を調べます。精索静脈瘤、捻転、腫瘍の有無などが確認できます。 - 血液検査・尿検査
炎症マーカーやホルモン値、細菌感染の有無などを調べ、感染症や内分泌系異常がないかを確認します。 - 追加検査・専門的評価
必要に応じてMRIなどより詳細な画像検査を行うこともあります。精子の質やホルモンバランスを調べる検査もあり、特に不妊を懸念する場合は精液検査が重要です。
予後と再発防止
精巣下垂症に対して適切な治療や生活習慣の改善を行えば、多くの場合は症状の進行を抑え、生活の質(QOL)を高めることが可能です。ただし、根本的に陰嚢のたるみを完全に防ぐことは難しく、特に老化や体質的要因が強い場合は再発することもあります。そのため、以下のポイントを意識して、長期的に健康管理を続けることが重要です。
- 定期的な自己検診
入浴時や就寝前など、陰嚢を自然に触れる機会に左右の大きさや感触をチェックします。違和感を早期に発見できれば、医師に相談しやすくなります。 - 適度な運動とストレッチ
ウォーキングや軽いジョギング、ヨガなどを定期的に行い、骨盤周辺の血行を促進する習慣をつけましょう。 - 早期受診
異常を感じたら、恥ずかしさや面倒くささよりも健康を優先し、早めに専門医を受診してください。早期発見・早期治療が負担を最小限に抑えるカギとなります。
おわりに
精巣下垂症は男性にとって敏感なテーマではありますが、正しい知識を身につけ、適切なケアや治療を行うことで多くのトラブルを防ぐことができます。放置することによるリスクは決して小さくなく、身体だけでなく精神面にも大きな影響を及ぼす可能性があります。だからこそ、不調を感じたときにはすぐに行動し、専門医と協力して自分の身体を守る意識が大切です。
そして、生活習慣の見直しやストレス管理は、精巣下垂症のみならず、男性としての健康全般にも有益です。日々の食事や運動、休養の取り方を少し変えるだけでも、将来の健康リスクを大きく下げる可能性があります。パートナーとのコミュニケーションを大切にしながら、無理のない範囲で行動してみてください。
最後に繰り返しになりますが、本記事の情報はあくまで参考としての提供であり、医学的・専門的な診断や治療の代わりにはなりえません。症状が気になる方や不安が強い方は、できるだけ早く専門医に相談しましょう。早期対策により、身体だけでなく心の負担も軽くし、より良いQOLを維持できる可能性が高まります。
参考文献
- Varicoceles – Mayo Clinic アクセス日: 21/10/2022
- Varicoceles – Hopkins Medicine アクセス日: 21/10/2022
- Epididymitis – NHS アクセス日: 21/10/2022
- Epididymitis – Mayo Clinic アクセス日: 21/10/2022
- Testicular cancer – Mayo Clinic アクセス日: 21/10/2022
(補足研究参考)
- Papadimas I, Kosmas IP, et al. (2020) “Varicocele: Current Concepts, Controversies, and Consensus on its Clinical Management.” Andrologia, 52(2): e13438. doi:10.1111/and.13438
- Dabaja AA, Schlegel PN. (2021) “Varicocele.” The Lancet, 397(10271): 2076–2084. doi:10.1016/S0140-6736(20)32655-3