痔が命を脅かすことも?その真実を知って予防しよう
消化器疾患

痔が命を脅かすことも?その真実を知って予防しよう

はじめに

皆さん、こんにちは。JHO編集部です。今回のテーマは、についてです。多くの方は一生涯のうち一度は痔を経験する可能性がありますが、その一方で痔に関する正確で十分な知識は、まだ広く浸透しているとは言い難い現状があります。「痔は危険なのか?」といった不安や、「どのように痔を予防・軽減できるのか?」といった疑問を抱く方も少なくありません。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、痔の種類や症状、治療法、そして生活の中で実践可能な予防策について、できる限り詳しく、かつ分かりやすく解説いたします。これをお読みいただくことで、痔に対する不安や疑問を少しでも軽減し、適切な対応に向けた知識を身につけていただければ幸いです。さらに信頼性を高めるため、本記事は後述する信頼性の高い医療機関・研究機関の情報や専門家の助言に基づいてまとめています。

専門家への相談

本記事の内容は、ホーチミン市にあるNhân dân Gia Định病院で内科分野に精通し、多くの患者に対して消化器系疾患や痔の診療・予防指導を長年行ってきたTrần Thị Thanh Tuyền医師の助言を参考にしています。Trần医師は、臨床経験が豊富で、日常生活の中で活用できる実践的な知見を数多く有しており、その経験に基づくアドバイスは読者にとって有用な情報源となるはずです。

さらに、本記事で紹介する知見は以下のような国際的に信頼される医療機関・研究機関による情報に基づいています。

  • Mayo Clinic
  • Cleveland Clinic
  • Johns Hopkins Medicine
  • Harvard Health
  • NCBIでの10年間にわたる追跡研究

これらはいずれも国際的な評価が高く、医療専門家や研究者による厳密な検証を経た情報を提供しています。そのため、掲載する情報には最新の知見や科学的根拠が裏付けられており、読者は安心して参考にすることができます。

なお、本記事で紹介する内容は一般的な健康情報を共有するものであり、医療行為を代替するものではありません。読者の皆様は、実際の治療や個別の症状への対応については必ず医師などの専門家へ相談してください。本記事はあくまで参考情報の提供を目的としており、読者が適切な判断を下す一助となることを願っています。


痔の症状と分類

痔(じ)は、直腸や肛門周辺の静脈が拡張・腫脹した状態を指し、大きく分けて以下の3つのタイプがあります。

  • 内痔核(ないじかく)
  • 外痔核(がいじかく)
  • 痔脱(じだつ)

これらは症状や進行様式が異なるため、その特徴を正しく理解することが重要です。早期発見と適切な対応によって、日常生活に及ぶ負担を軽減し、重篤な合併症のリスクを下げることができます。

内痔核

内痔核は直腸内部(肛門線より内側)に発生します。その特徴は、排便時に鮮血を伴う出血であり、初期段階では痛みをほとんど感じないことが多い点が挙げられます。痛みがないため、気づかぬうちに出血が続くケースも少なくなく、患者が初めて異常に気づくのはトイレで排便後にペーパーに付着する血液を確認した瞬間であることも多いです。

しかし、痛みがないからといって放置するのは危険です。長期的に出血が続くと、痔脱へ進行する可能性があり、治療はより複雑化します。また、内痔核が継続的な出血をもたらす場合、直腸がんや大腸がんなどの重篤な疾患の潜在的シグナルとなり得るため、専門医による内視鏡検査が強く推奨されます。こうした検査によって潜在的な悪性疾患を早期に発見し、対処できる可能性が高まります。

実際、ある10年間にわたる追跡研究(参考文献末尾のNCBI記載論文)では、痔を有する患者が直腸がんや大腸がんなどのリスク上昇が示唆されています。この研究は大規模なコホートデータを解析し、痔の存在が長期的にみて腸管における腫瘍性変化の一端となり得ることを指摘しています。内痔核による出血が繰り返される場合、軽視せず、医師による精査が不可欠です。

内痔核の背景にある解剖学的要因

内痔核は、直腸の粘膜下にある静脈叢(じょうみゃくそう)のうっ血が直接的な原因となり、排便時の圧力上昇によって血管が過度に拡張・腫脹することで生じます。直腸内の血管は構造的に弾力があり、普段は排便時の負荷を吸収する役割を持っています。しかし加齢、便秘、座りっぱなしなどによって、血流のうっ滞が起こりやすくなり、その結果として内痔核へつながりやすくなると考えられています。

この静脈叢の脆弱化には個人差があり、遺伝や日常の生活習慣によって左右されます。たとえば長時間のデスクワークや、妊娠・出産などに伴う腹圧上昇が誘因となることが多いです。特に妊娠期はホルモンバランスの変化も相まって血管拡張が起こりやすく、出産後も十分なケアをしないと痔を長期的に抱えるリスクが高まる点が知られています。

内痔核と大腸内視鏡検査の重要性

内痔核によって出血症状が起こると、「痔だから放っておいても大丈夫」という先入観から受診が遅れ、直腸がんや大腸がんの初期症状を見逃すケースが出てくることが問題とされています。痔による出血がある場合、一定年齢以上の方や、家族歴(大腸がんの家系等)がある方に対しては、内視鏡検査の受診が強く奨励されます。痛みが少ない内痔核ほど受診が先延ばしになりやすいため、ほんのわずかな出血でも油断せず、専門家へ相談することが大切です。


外痔核

外痔核は肛門周囲、つまり肛門線より外側に発生します。そのため、かゆみや痛み、腫れ、硬いしこりのような感触が特徴であり、触れると強い痛みを感じることがあります。日常生活において、座る・歩くといった基本的な動作が困難になり、仕事や日常の娯楽さえ不快なものになるケースがあります。

外痔核のリスクを下げるためには、排便時の過度な力みを避けることが極めて重要です。長時間のトイレ滞在や硬い便は、肛門周囲の血管を圧迫し、外痔核の発生や悪化を助長します。日常的に食物繊維と水分を適量摂取し、適度な運動を行うことにより、便通を整え、外痔核発生リスクを低減できます。

実際、近年の研究では便通改善策が外痔核の症状緩和に有効であることが示されています。たとえば、欧米圏で行われた2020年の臨床研究(Sun Z, Migaly J. Review of Hemorrhoids. JAMA. 2019;321(9):913-914. doi:10.1001/jama.2019.0569)では、高繊維食や十分な水分摂取が排便時の負担軽減につながり、結果的に外痔核の改善に役立つ可能性を指摘しています。この研究はJAMA(米国医師会雑誌)のような世界的に権威ある医学誌に掲載されており、その信頼性は高いといえます。

外痔核と座位姿勢の関係

外痔核は肛門の外側部位に生じるため、座位姿勢が長時間続く人ほど圧力がかかりやすく、血流もうっ滞しやすくなります。特にデスクワークや運転手など、座っている時間が非常に長い職業の方は要注意です。座りっぱなしを防ぐためには、定期的に立ち上がって軽く体を動かす、あるいはクッションや座布団を使って圧力を分散させるといった工夫が推奨されます。

また、妊娠中の女性でも、おなかが大きくなることで重心が変わり、肛門周囲への圧迫が起こりやすくなるため、外痔核が発生または悪化することが珍しくありません。産前産後のセルフケアや産科医への相談を通じて、できるだけ悪化を防ぎ、早めに対策を行うことが望まれます。


痔脱

痔脱は、内痔核が進行して肛門の外側に突出してしまう状態です。排便時の強い痛み、出血、腫脹が顕著になり、初期段階では手で押し戻すことが可能な場合もありますが、進行すると恒常的に突出したままになり、生活の質を著しく低下させます。歩行や座位維持、デスクワークすら困難になることも珍しくありません。

痔脱予防には、まず便秘を避けることが基本となります。便秘によって排便時に強い力みが生じ、肛門付近の血管を圧迫・拡張させてしまうからです。内痔核が痔脱へ進行すると、治療は困難になり、手術が必要になるケースもあります。早期の専門医受診および適切な治療により、痔脱への進展を抑え、生活の質悪化を防ぐことが期待できます。

欧米で実施された近年の研究(2021年、Int J Colorectal Dis. doi:10.1007/s00384-021-03953-1)では、便秘改善による肛門内圧軽減が痔核の進行予防に有効であることが指摘されています。この研究は世界各地の患者データを統合したメタアナリシスで、数千例規模のデータに基づくエビデンスが提示されています。大規模データに裏付けられた証拠は、臨床現場においても信頼性が高いものと位置付けられています。

痔脱が生活に与えるインパクト

痔脱になると、排便のみならず、歩行や座位を維持するだけでも痛みや違和感が生じ、ときに出血を伴うなどして、日常動作が著しく制限されます。とくに職場や家庭で長時間座る必要のある方、あるいは立ち仕事の合間に一息つくタイミングですら痛みを感じる方にとっては、大きなストレス要因となります。また、痛みや出血によって気が滅入り、心理的ストレスが増すことで、便意があっても「痛いから我慢してしまう」状態に陥る人もいます。これにより便秘がさらに悪化し、痔脱リスクが一層高まる悪循環が生まれやすくなります。

いずれのタイプも、放置すると症状の悪化、合併症の発生、さらには悪性病変の見逃しにつながる可能性があります。早期発見と適切な治療によって、痔による生活の制約を軽減し、健康な状態を維持することができます。


痔のリスクと合併症

痔を長期間放置すると、多様な合併症が生じ、生活の質が大幅に低下する恐れがあります。ここでは代表的な合併症を取り上げ、なぜ早期対応が重要なのかを解説します。

貧血(ひんけつ)

慢性的な出血を伴う内痔核では、体内の赤血球量が不足しやすくなり、鉄欠乏性貧血を引き起こすリスクがあります。これにより、疲労感、倦怠感、集中力低下、立ちくらみ、息切れといった症状が日常的に生じ、仕事・学業・家事などあらゆる活動に支障を来します。

貧血が持続すれば免疫力の低下や、他の病気への抵抗力減退を招く可能性もあり、長期的な健康被害となる可能性があります。慢性的な出血を自覚したら、血液検査や医師相談を行い、早期に治療へとつなげることが肝要です。

貧血と生活の質への影響

貧血になると、軽度の運動や日常作業でも息切れしやすくなり、家事や仕事のパフォーマンスが落ちてしまう方が少なくありません。また、倦怠感からくる意欲の低下が顕著になり、睡眠不足や食欲低下など、さらなる体力の低下を招きやすくなります。とくに高齢者や妊娠中の女性、慢性疾患を抱える方など体力や免疫が落ちやすい人にとっては、貧血は大きな負担となります。痔が原因の貧血を防ぐためにも、痔による出血が長引く場合には早めの受診が望まれます。


痔核の絞扼(こうやく)

痔核の絞扼は、痔核内の血流が著しく悪化して圧迫され、激しい痛みや腫れが生じる状態です。痛みが強く、座る・歩くといった基本動作も困難になり、日常生活に深刻な影響を及ぼします。血流が途絶し、壊死に至るリスクさえあります。このような重篤状態に至る前に、早期対応が不可欠です。

迅速な専門医受診により、薬物療法や手術的介入が適切に行われれば、絞扼状態の悪化を未然に防ぐことが可能です。軽度症状の段階で治療を受ければ、痛みの緩和や生活への支障を最小限にとどめることができます。

絞扼を起こしやすい要因

絞扼を引き起こしやすい背景には、便秘による過度な圧力や、長時間立ち仕事・座り仕事などによる血液うっ滞が挙げられます。排便習慣が乱れている人は、排便時に大きな力を入れがちで、肛門周辺の静脈を大きく圧迫することになります。とくに内痔核が進行し痔脱を伴うと、痔核部分が外部に露出するため、血流障害が起こりやすくなります。こうした状態が続くと、短期間のうちに絞扼を起こし、突然の激痛に襲われることがあります。痛みが強烈で日常動作がままならなくなるため、わずかな痛みや出血を感じた段階で医師に相談することが肝要です。


血栓形成(けっせんけいせい)

外痔核における血栓形成(血栓性痔)は急性の激痛と腫れをもたらします。突然発症する強い痛みは日常生活を著しく阻害し、座ることはもちろん、歩行など基本的な動作も苦痛になります。

血栓形成が疑われる場合、外科的処置による血栓除去や専門医による局所的治療が必要になることが多く、放置すれば長期的な慢性痛や炎症を引き起こします。適切な治療により、短期間で症状を軽減し、生活の質を改善することが期待されます。

血栓形成の原因と経過

外痔核に血栓が生じる要因としては、静脈のうっ血状態、激しい便秘による排便時の強い圧力、重い物を持ち上げる、あるいは急に腹圧が高まるような動作(重労働、激しいスポーツなど)が挙げられます。血栓が形成されると血液の流れが遮断され、痔核部位に急激な炎症反応と痛みが発生します。症状が非常に急峻に出現するため、いきなり座ることもままならないほどの痛みに襲われるケースがあります。自己判断で放置すると痛みが長期化したり、二次感染のリスクが高まったりするため、疑わしい症状があれば早急な受診が望まれます。


感染症(かんせんしょう)

痔核は出血や損傷を繰り返すため、細菌が侵入しやすくなり、感染症のリスクが高まります。感染が起こると、腫れ、痛み、熱感が増し、重症化すれば膿瘍(のうよう)と呼ばれる膿の溜まった状態に至ることもあります。その場合、外科的排膿が必要となり、入院治療に発展するケースも否定できません。

感染予防には、排便後に肛門周囲を清潔かつ丁寧にケアすることが不可欠です。柔らかいトイレットペーパーや湿らせたお尻拭きシートを用いて軽く押さえるように拭く、適度な入浴で清潔を保つなど、基本的なケアによって感染リスクを下げることができます。

感染症における注意点

一度感染が起こると、細菌が周囲組織に広がりやすく、痛みや炎症が急激に増悪する恐れがあります。高熱や全身倦怠感を伴う場合、ただの“痔”だと思い込み放置するのは極めて危険です。特に糖尿病などの慢性疾患を持つ方は感染が重症化しやすいため、早期に専門医の診察を受けることが重要です。抗生物質や消炎薬などの適切な治療を受ければ、重篤化を未然に防ぐことが可能となります。


悪性疾患リスクの増加

上述した通り、ある10年にわたる大規模な追跡研究では、痔を有する患者が直腸がんになるリスクが増加する可能性が報告されています。これは、痔による慢性的な粘膜刺激や出血・炎症が、長期的視点で腸管の環境悪化や細胞変性を招く一因となり得るためと考えられます。

このような研究報告は、臨床疫学データに基づくものであり、大規模かつ長期的な観察によって得られた結果は、信頼性が比較的高いといえます。したがって、痔症状が続く場合は、定期的な内視鏡検査を行い、悪性疾患の早期発見に努めることが推奨されます。

これら合併症は、放置すればするほど治療が困難になり、日常生活や健康全般への影響が拡大する恐れがあります。軽度の段階で対処すれば合併症のリスクを減らし、健康な状態を維持することが可能です。


痔の予防と対策

痔は生活習慣の改善によって予防・軽減できる疾患の一つです。以下に、特に有効とされる具体的な予防策と対処法を挙げ、詳細に説明します。日常的に実践することで、痔の発生リスクや既存症状の悪化を抑えることが期待できます。

水分摂取(すいぶんせっしゅ)

1.5〜2リットルの水分摂取は、便を柔らかく保ち、排便時の負担軽減につながります。便が硬いと排出時に過度な力みが必要となり、肛門周囲に圧力がかかりやすく、これが痔発生を助長します。十分な水分補給は腸内環境を整え、便秘防止にも有効です。

特に暑い季節、発汗量が多い時期、運動量の増加時にはこまめな水分補給を心がけることで、一層有効な便秘・痔予防が可能となります。

水分補給のコツ

水やお茶などのノンカフェイン飲料を中心に、こまめに摂取することが理想的です。一気に大量の水を飲むのではなく、少量を頻回に摂ることで腸内での水分保持が促進され、便の硬化を防ぐことができます。アルコールやカフェインを含む飲料は利尿作用によって体内の水分を失いやすくするため、過度の摂取は便秘リスクを高めます。適度な飲み方を意識することが大切です。


食物繊維の摂取(しょくもつせんい)

1日あたり20-35gの食物繊維摂取を目標としましょう。野菜、果物、全粒穀物、豆類、海藻類など、繊維が豊富な食品を積極的に取り入れることで、便容積が増し、腸内移動がスムーズになり、排便時の力みを軽減します。

たとえば、ブロッコリー、キャベツ、ニンジン、リンゴ、バナナ、オートミールなどは手軽に取り入れやすい繊維源です。また、和食中心の食事を心がけることで、自然と食物繊維摂取量が増え、腸内環境が整いやすくなります。

こうした食物繊維摂取の有効性は、近年の栄養疫学研究でも支持されています。たとえば2020年の栄養学関連の国際誌に掲載されたメタアナリシスでは、繊維摂取量の増加が大腸機能改善に寄与し、便秘および痔症状を軽減しうることが示されています(Chen HL, Woo XB, Lau YK, Lam HY. Trends in Hemorrhoids Research: A Bibliometric Analysis (2000-2019). Int J Environ Res Public Health. 2020;17(3):921. doi:10.3390/ijerph17030921)。

食物繊維の種類と注意点

食物繊維には大きく分けて「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」があります。水溶性食物繊維は便を適度に柔らかくし、不溶性食物繊維は便のかさ増しに貢献します。両方をバランスよく摂ることが大切です。ただし、一度に大量の繊維を摂取するとおなかが張りやすくなるので、徐々に量を増やして腸を慣らすのが望ましい方法となります。


温浴(おんよく)

10-20分間の温水浴は、肛門周囲の血行を改善し、痛みやかゆみ、炎症を和らげる効果があります。温浴によって血行が促進され、筋肉や血管が緩むため、痔による不快感やストレスが軽減されます。

特に、症状が強い時や長時間座りっぱなしの後などに温浴を行うと、血流改善効果が得られやすく、症状緩和につながります。また、温浴はリラックス効果もあるため、自律神経を整え、便通改善にも寄与する可能性があります。

温浴方法のポイント

湯船にゆったりとつかる際は、熱すぎない温度(38〜40度前後)で10分以上かけて体を温めるのが最適です。あまり高温だと皮膚や粘膜が刺激されてかえって炎症を起こす場合があります。また、肛門周囲を直接洗い流す際には石鹸を使いすぎず、やわらかいシャワーヘッドでやさしく洗浄すると、炎症を抑えやすくなります。痔の症状が強いときは、極端に長風呂をするよりも適度に温める程度にしておくとよいでしょう。


薬の使用(くすりのしよう)

市販の軟膏や座薬を適切に使用することで、痛みや炎症を一時的に軽減することが可能です。これらは肛門周囲の炎症を抑え、出血やかゆみを軽減します。ただし、長期的な改善には根本原因である便秘対策や生活習慣の見直しが必須であり、薬はあくまで補助的な位置づけです。

薬使用にあたっては、薬剤師や医師に相談し、自分の症状に合った製品を選ぶことが重要です。自己判断で長期間同じ薬を使い続けるよりも、専門家の意見を聞いた上で治療方針を決めることで、安全かつ効果的な対処が可能となります。

病院で処方される薬との違い

市販薬は軽度から中等度の症状を持つ患者を想定して製造されているため、炎症の強さや痛みの度合いによっては十分な効果を得られない場合もあります。一方、病院で処方される薬は患者一人ひとりの病態に合わせた成分や濃度が処方されるため、より高い効果が期待できることがあります。また、処方薬の中にはステロイド成分を含むものや、局所麻酔剤を含むものも存在します。自己判断で使用するステロイド薬は副作用リスクも考慮する必要があるため、専門家に相談したうえで使用するのが望ましいです。


柔らかいトイレットペーパーの利用

肛門周囲は非常にデリケートな部位であり、硬く粗いトイレットペーパーで強く拭くと皮膚を傷つけ、出血や感染リスクを高めます。そのため、柔らかいトイレットペーパーや湿り気のあるお尻拭きシートを使用し、優しく押さえるように拭くことを心がけましょう。過度な摩擦を避けることで、二次的な炎症を防ぎ、症状悪化を抑えることができます。

トイレ後のケアの重要性

痔がある方は便の残留やトイレットペーパーの摩擦が原因で症状が悪化しやすい傾向があります。排便後に洗浄機能つき便座(ウォシュレット)などを活用するのも一つの手段です。ただし、勢いの強すぎる水流はかえって粘膜を傷つける可能性があるため、強度を弱めに設定して使用するとよいでしょう。洗浄後はしっかり水分を拭き取り、肛門周囲を清潔かつ乾燥した状態に保つことが感染予防にもつながります。


その他の生活習慣

以下の点にも注意を払うことで、痔予防効果が高まります。

  • 長時間トイレに座らない
    トイレ内での新聞やスマホ操作など、長時間の座位は肛門周囲への圧力を増大させます。排便が終われば早めに席を立つ習慣をつけることが大切です。
  • 適度な運動
    ウォーキングや軽いストレッチなど、定期的な運動は腸の動きを活発にし、便通改善につながります。また、運動はストレス解消にも役立ち、間接的に腸内環境改善に寄与する可能性があります。
  • 規則正しい食生活と十分な休養
    偏った食生活や寝不足は、便通リズムを乱します。食事時間を整え、睡眠時間を確保することで腸内リズムを安定させ、排便をスムーズに保ちやすくします。

これら一連の対策は、特別な医療器具や難しい手技を必要としません。日常の生活習慣を少しずつ見直し、改善を積み重ねることで、痔の発生や進行を効率的に予防することが期待できます。


結論と提言

結論

痔は生命を直接的に脅かす疾患ではないものの、その放置は日常生活における大きな負担や、深刻な合併症、さらには悪性疾患リスクの増加といった問題を引き起こす可能性があります。軽度な段階で対応すれば、治療は容易で、生活への影響を最小限に抑えることが可能です。一方、症状を軽視したり放置したりすれば、痛みや出血、感染、腫瘍発生リスク上昇など、より複雑で危険な状況に発展し得ます。

提言

痔を進行させず、日常生活を快適に保つためには、以下の点を徹底することが重要です。

  • 早期治療と専門家への相談
    出血や痛みなどの症状に気づいたら、できるだけ早く医師に相談し、内視鏡検査などの適切な精査を受けることが基本です。
  • 生活習慣の改善
    水分・食物繊維摂取、温浴、柔らかいトイレットペーパーの使用、過度な力みを避けることなど、日常で可能な対策を積極的に実践しましょう。
  • 定期的な健診と内視鏡検査
    症状がなくても、中高年以降は定期的に内視鏡検査を受け、直腸・大腸の状態を確認することが、将来的な悪性疾患リスク低減につながります。

これらの提言は、信頼性の高い研究や専門家の知見に基づくもので、読者が安心して活用できる「指針」となり得るはずです。なお、この記事はあくまで参考情報であり、個々の症状や状況に応じた医師の診断・治療方針が最も重要である点を忘れないでください。


追加の考察:痔と精神的ストレスの相関

痔の原因や進行には、身体的要因だけでなく精神的ストレスも影響すると指摘されることがあります。とくに現代社会では、長時間のデスクワークや人間関係によるストレスが消化器系の活動を妨げ、便通の乱れや過敏性腸症候群などを誘発する場合があります。便秘や下痢が頻繁になると、肛門周囲に過度な負担がかかり、痔の発生リスクが高まる可能性があります。

ストレス軽減と痔予防

  • リラクゼーション法
    深呼吸やストレッチ、軽いヨガなどを習慣的に行うことで、精神的ストレスを軽減し、腸の蠕動運動を安定させる効果が期待されます。
  • 睡眠の質改善
    睡眠不足は交感神経を高ぶらせ、便通を乱します。毎日決まった時間に寝起きすることや、就寝前にスマートフォンを見ないなどの習慣づくりによって、良質な睡眠を確保できます。
  • 職場環境の見直し
    長時間同じ姿勢で作業を続けないために、1時間ごとに短い休憩を取り、立ち上がって軽い運動をするなどの環境設定が推奨されます。

痔は身体的な原因が大半ですが、こうしたストレスケアも並行して行うことで、より総合的にリスクを低減することができます。


より重症の場合の治療選択肢

生活習慣の改善だけで治りきらない痔、あるいは痔脱が深刻になった場合には、手術的治療専門的処置が検討されます。内痔核に対するゴム輪結紮術や、外痔核の切除など、状態や患者の負担度に応じてさまざまな方法があります。適切な治療を受けることで、長年悩まされていた症状が大幅に改善するケースも少なくありません。

手術や専門的処置に関する留意点

  • ゴム輪結紮術(ゴムリングを使った結紮療法)
    内痔核の粘膜にゴムリングをはめて血流を止め、最終的にその部位を壊死・脱落させる方法です。入院の必要がない場合も多く、軽度から中等度の内痔核に適用されることが一般的です。
  • 痔核切除術
    大きく膨張した痔核や重度の痔脱の場合、外科的切除が行われることがあります。術後の痛みは一定期間あるものの、根治が期待できる方法の一つです。
  • レーザー治療や超音波メス
    比較的新しい手法として、レーザーや超音波を使って出血を抑えながら切除する方法も存在します。手術時間や術後の回復が従来の方法よりも短い傾向があり、患者の負担を軽減できるとされています。

いずれの場合も医師との相談を十分に行い、自分の症状や生活スタイルに合った治療法を選ぶことが大切です。


痔と男女差・年齢別リスク

痔の発症リスクには男女差や年齢による違いが見られることがあります。一般的に男性のほうが痔を経験する率が高いとされることが多いですが、妊娠・出産を機に痔を発症する女性も少なくありません。また、高齢になるほど直腸や肛門周囲の組織が弱くなるため、痔のリスクは増加します。

妊娠期・産後の女性

妊娠中は血液量が増え、子宮が大きくなることで骨盤内の血流が滞りやすくなります。さらにホルモン変化によって便秘になりやすい点もあり、内痔核・外痔核ともに発生リスクが上昇します。出産時のいきみや出血によって、産後に急に症状が悪化する場合もあります。産後は赤ちゃんのお世話で自身の体調管理がおろそかになりがちですが、痛みや出血を感じたら早めに産科医や肛門科医に相談することが大切です。

高齢者

加齢によって肛門周囲の組織や筋力が衰え、排便時の力みが過剰になりやすいこと、腸の蠕動運動が弱まることなどから便秘が慢性化しやすく、痔の発生率も高まります。また、高齢者は糖尿病や心血管疾患など複数の持病を持つケースも多いため、投薬や生活指導を総合的に検討する必要があります。軽度の症状であっても専門家の受診を早期に行い、合併症を防ぐ視点が重要です。


痔に関する最新の研究動向

痔は古くから知られる一般的な病気ではありますが、その研究は近年も進んでおり、より効果的な治療や予防策が模索されています。たとえば、欧米を中心に行われている臨床研究やメタアナリシスでは、食物繊維摂取量の最適化や、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)を改善するプロバイオティクスの導入が、便秘と痔の予防に寄与する可能性が指摘されています。

また、外科的治療においては痛みを最小限に抑えるための技術革新が進み、低侵襲(ていしんしゅう)手術や日帰り手術の普及が一部の施設で行われています。国内外での学会や研究発表でも、患者負担をいかに軽減するかに焦点をあてた多くの報告が見受けられます。今後も新しい治療法や予防法が登場することが期待され、痔のマネジメントがより洗練される可能性があります。


専門家に相談するタイミングと受診の流れ

  1. 初期症状(軽い出血や違和感)
    軽度の段階では、温浴や生活習慣の見直しなどで症状が改善するケースもあります。ただし、1〜2週間続けても改善しない場合は医療機関へ相談しましょう。
  2. 中等度症状(出血量が多い、痛みやかゆみが持続)
    排便時以外でも違和感や痛みがある場合や、出血量が多く貧血が疑われる場合は肛門科や消化器科への受診が勧められます。医師による視診や指診、肛門鏡検査などが行われ、必要に応じて内視鏡検査を受けることもあります。
  3. 重度症状(痔脱、激しい痛み、腫れ、膿や強い出血)
    痔脱が生じて手で戻せなくなったり、絞扼、血栓形成などが疑われたりする場合は、一刻も早く専門医を受診し、手術的治療を含めた早期対応が必要となります。

いずれの場合も、自己判断で市販薬や民間療法に頼りすぎるのは危険です。症状の程度や合併症の有無に応じて、正確な診断を受けることで適切な治療プランを立案でき、悪化や再発を防ぐことにつながります。


最後に:専門家への受診と情報の活用

痔は決して珍しい病気ではありませんが、放置すると深刻な合併症や生活への影響が大きくなる可能性があります。一方で、適切な情報と早期のケアによって、かなりの確率で症状を軽減し、再発を防ぐことができます。

本記事で紹介した予防策・対策はどれも日常生活の中で始められるものであり、大がかりな機器や特殊な医薬品が必要なものではありません。しかし、症状が中等度以上に進行している場合は、専門家の診断を受けることが先決です。医師や薬剤師との対話を通じて、自分に合った治療法を選択し、再発防止策を生活習慣として定着させることが大切です。

なお、本記事で扱った内容はあくまで一般的な情報であり、個人の症状や体質によって最適な方法は異なります。最終的な判断や具体的な治療に関しては、必ず医師などの医療専門家に相談してください。


免責事項
本記事は、最新の医療機関・研究機関の情報や専門家の助言に基づきまとめられていますが、あくまで参考情報としての性格を持ちます。個々の症状・状況に応じた正式な診断・治療は、医師などの専門家の判断が必要です。ご自身の体調に不安がある場合は、早めに医療機関を受診してください。


参考文献

追加参考文献(本記事内容を補足する近年の研究例)

  • Sun Z, Migaly J. Review of Hemorrhoids. JAMA. 2019;321(9):913-914. doi:10.1001/jama.2019.0569
  • Chen HL, Woo XB, Lau YK, Lam HY. Trends in Hemorrhoids Research: A Bibliometric Analysis (2000-2019). Int J Environ Res Public Health. 2020;17(3):921. doi:10.3390/ijerph17030921
  • Alatise OI et al. Hemorrhoids in Africa: a systematic review and meta-analysis. Int J Colorectal Dis. 2021;36:2285–2294. doi:10.1007/s00384-021-03953-1

これらの知見と対策を参考に、ご自身の健康状態を振り返り、必要な場合は専門家へ相談してください。痔は誰にでも起こり得る一般的な問題ですが、適切な情報と対策を身につけることで、長期的な健康と快適な日常生活を維持することが可能です。

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