【科学的根拠に基づく】白い舌の原因を徹底解明!5つの主要因と科学的根拠に基づく治療法・治し方
口腔の健康

【科学的根拠に基づく】白い舌の原因を徹底解明!5つの主要因と科学的根拠に基づく治療法・治し方

舌は、咀嚼、嚥下、発声といった生命維持とコミュニケーションに不可欠な機能を担うだけでなく、味覚を感知する繊細な器官でもあります1。健康な人の舌は淡いピンク色を呈し、表面は適度に湿っていますが、時に「舌が白い」状態は、単なる汚れから感染症、さらには稀なケースでは前癌病変に至るまで、様々な身体の変調を示唆する重要なサインとなり得ます23。近年の厚生労働省の調査によれば、日本国民の口腔衛生への意識は向上し、「8020運動」(80歳で20本以上の歯を保つ運動)の達成者が50%を超える一方で、国民の約半数が歯周病に罹患しているという課題も残っています45。本記事では、この「白い舌」という症状に着目し、その背景にある5つの主要な要因を、最新の医学的知見と科学的根拠に基づいて徹底的に解明し、読者が自身の状態を理解し、適切な判断を下すための一助となることを目指します。

本記事の科学的根拠

この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源の一部と、それらが本記事の医学的指針にどのように関連しているかの概要です。

  • 神奈川県歯科医師会: 記事内の舌の基本的な機能や健康な状態に関する記述は、同会の提供する専門的情報に基づいています1
  • 厚生労働省: 日本国民の口腔衛生に関する統計データ(例:「8020運動」達成率、歯周病罹患率)は、同省が公表した「歯科疾患実態調査」の結果を正確に引用しています567
  • Cochraneレビュー: 口腔扁平苔癬の治療に関するステロイド外用薬の有効性評価は、質の高い臨床試験を統合・分析した国際的なコクランレビューの結果を基にしています8
  • 日本口腔外科学会: 口腔癌診療ガイドラインに関する記述は、同学会が策定したガイドライン案を参考にし、白板症などの前癌病変の管理に関する専門的な指針を反映しています9

要点まとめ

  • 舌が白くなる最も一般的な原因は「舌苔(ぜったい)」ですが、その背景には口腔乾燥や舌の機能低下が隠れていることがあります。
  • 拭き取れる白い苔で、痛みを伴う場合は「口腔カンジダ症」の可能性があり、免疫力の低下や薬剤の副作用が関与します。
  • レース状で拭き取れない白い病変は「口腔扁平苔癬」かもしれず、自己免疫が関わる慢性的な炎症です。
  • 拭き取れない白い板状の病変「白板症」は、将来的にがん化するリスクがあり、喫煙は最大の危険因子です。
  • セルフケアで改善しない、あるいは痛みを伴う場合は、自己判断せず速やかに歯科・口腔外科を受診することが極めて重要です。

第1部:生理的要因と生活習慣―最も一般的な原因「舌苔」の科学

白い舌の最も一般的で、多くの場合、病的な意味合いが少ない原因が「舌苔」の過剰な付着です。しかし、その背景には単なる清掃不良以上の問題が隠れていることもあります。本章では、舌苔の正体からその管理法までを科学的に解説します。

1-1. 舌苔の正体:細菌、食べかす、剥がれた粘膜の集合体

舌苔とは、舌の表面、特に舌背(舌の上面)に密集する糸状乳頭という細かい突起の間に、様々な物質が蓄積して形成される苔状の付着物です10。その構成成分は、口腔内に常在する細菌、食事の後に残った食物の微細なカス(食物残渣)、新陳代謝によって剥がれ落ちた口腔粘膜の上皮細胞、唾液に含まれる成分、そして細菌と戦った白血球の死骸などです2。健康な人であっても、舌の上には生理的に薄い舌苔が存在しますが2、これが分厚くなると問題を引き起こします。

1-2. 舌苔が厚くなるメカニズム:口腔乾燥から舌の運動低下まで

舌苔が過剰に蓄積する背景には、いくつかの複合的な要因が存在します。

  • 口腔清掃不良: 最も直接的な原因は、口腔内の衛生状態の悪化です。毎日の歯磨きが不十分だと、細菌や食べかすが舌苔の豊富な材料となります3
  • 口腔乾燥(ドライマウス): 唾液には口腔内の汚れを洗い流し、細菌の増殖を抑える「自浄作用」があります。加齢、口呼吸、ストレス、特定の薬剤の副作用、シェーグレン症候群などによって唾液が減少すると、この作用が低下し、汚れが停滞しやすくなります3
  • 舌の運動機能低下: 舌は食事や会話で動くことで機械的に清掃されています。高齢や全身疾患で舌の動きが悪くなると、この作用が弱まり舌苔が厚くなります10。この事実は極めて重要で、過剰な舌苔は「口腔機能低下症」の診断項目の一つであり、特に高齢者では咀嚼や嚥下といった口腔機能全体の衰え(オーラルフレイル)を示唆するサインとなり得ます11

1-3. 舌苔がもたらす影響:口臭、味覚障害、そして誤嚥性肺炎リスク

過剰に蓄積した舌苔は、見た目だけでなく、健康上の危険性をもたらします。

  • 口臭: 舌苔に潜む細菌がタンパク質を分解する際に産生する揮発性硫黄化合物(VSC)が、口臭の最大の原因です2
  • 味覚障害: 分厚い舌苔が味を感知する「味蕾(みらい)」を覆ってしまい、味が感じにくくなることがあります10
  • 誤嚥性肺炎のリスク: 特に高齢者や寝たきりの方で、舌苔に大量に含まれる細菌が誤って気管や肺に入ると、肺炎を引き起こす危険性が著しく高まります。介護現場で舌の清掃が重視されるのは、この誤嚥性肺炎の予防が大きな目的だからです1213

1-4. 科学的根拠に基づく舌苔の除去と管理法

舌苔の管理は、正しい知識に基づいたケアが不可欠です。誤った方法は舌を傷つけます。

  • 清掃器具の選択: 舌の粘膜はデリケートなため、専用の「舌ブラシ」が最も推奨されます。なければ、柔らかい歯ブラシや湿らせたガーゼでも代用可能です10
  • 正しい清掃方法: 頻度は1日1回、朝が目安です。やりすぎは禁物です10。まず口をすすいで舌を湿らせ、舌を突き出して「奥から手前へ」と一方向に、優しい力で数回なでるように動かします1014。強くこすることは絶対に避けてください12。頑固な舌苔は口腔保湿剤で湿らせ、数日かけて少しずつ除去します10
  • 補助的ケア: 殺菌成分を含む洗口液の併用は、細菌の増殖を抑え、口臭予防に効果的です。就寝前の使用が推奨されます14

第2部:感染症による白い舌―口腔カンジダ症の徹底解説

舌苔とは異なり、特定の微生物の感染によって舌が白くなることがあります。その代表格が「口腔カンジダ症」です。これは単なる局所の問題ではなく、しばしば全身の健康状態を反映する重要な疾患です。

2-1. カンジダ菌とは:口腔内の常在菌とその異常増殖

口腔カンジダ症は、カンジダ属の真菌(カビの一種)、特にCandida albicansという菌種が口腔内で異常に増殖して引き起こされる感染症です1。カンジダ菌自体は健康な人の口の中にも普通に存在する「常在菌」です15。しかし、体の抵抗力(免疫力)が低下したり、口腔内の環境が変化したりするとバランスが崩れ、カンジダ菌だけが増殖して病気を引き起こします。これを「日和見感染」と呼びます16

2-2. 発症のリスクファクター:免疫力低下、薬剤、義歯の影響

口腔カンジダ症の発症には、明確な危険因子が存在します。

  • 全身的要因(免疫力の低下): 悪性腫瘍、HIV感染症、コントロール不良の糖尿病、加齢、全身衰弱などが原因となります3
  • 薬剤性:
    • 広域抗菌薬(抗生物質): 長期間の使用は、カンジダ菌を抑えていた他の細菌を殺してしまい、カンジダ菌の増殖を招きます17
    • ステロイド薬: 内服薬、吸入薬、軟膏を問わず、免疫を抑制するため強力な誘因となります。喘息治療でステロイド吸入薬を使用する場合、吸入後のうがいが不可欠です3
    • 免疫抑制薬・抗がん剤: これらも直接的に免疫力を低下させます17
  • 局所的要因:
    • 義歯(入れ歯): 清掃不良な義歯や、夜間も装着したまま寝る習慣は、カンジダ菌の温床となります15
    • 口腔乾燥症(ドライマウス): 唾液の抗菌作用や自浄作用が低下し、カンジダ菌が増殖しやすくなります3
    • 喫煙: 口腔粘膜の局所的な免疫力を低下させます11

2-3. 臨床像と診断:拭い取れる白い苔と鑑別のポイント

口腔カンジダ症で舌が白くなる代表的な型は「偽膜性カンジダ症」です。舌や頬の粘膜に、カッテージチーズ様の白い苔(偽膜)が付着します18。この疾患の最大の特徴は、この白い偽膜がガーゼなどで比較的容易に拭い取れることです。拭い取った後の粘膜は赤くただれ、ヒリヒリとした痛みを伴うことが多いです18。この「拭い取れる」という性質が、他の「拭い取れない」白い病変との鑑別で極めて重要です。診断は臨床所見に加え、検体を顕微鏡で観察して菌を確認することで確定します1920

2-4. 治療戦略:抗真菌薬の適正使用ガイドライン

口腔カンジダ症の治療は、原因へのアプローチと、抗真菌薬による薬物療法の二本柱です。基礎疾患の治療や原因薬剤の変更、義歯の管理などが重要となります20。多くの場合、医師または歯科医師の処方が必要な抗真菌薬が用いられます15

表1:口腔カンジダ症の主要治療薬
分類 一般名 代表的な商品名 剤形 特記事項
ポリエン系 アムホテリシンB ファンギゾンシロップ® シロップ 消化管からほとんど吸収されず、全身性の副作用が少ない1520
イミダゾール系 ミコナゾール フロリードゲル経口用® ゲル 局所での滞留性が良い。ワルファリンとの併用に注意が必要2021
アゾール系 イトラコナゾール イトリゾール内用液® 内用液 局所作用と全身作用を併せ持つ。多くの薬剤と相互作用するため併用薬の確認が必須20

治療期間は通常1~2週間が目安です20。改善しない、または再発する場合は、薬剤耐性の可能性を考慮し、薬剤感受性試験を行う必要があります20。口腔カンジダ症は患者の全身状態を反映することが多く、処方元の医師と情報を共有する「医科歯科連携」が治療成功の鍵となります22

第3部:免疫が関わる白い病変―口腔扁平苔癬という慢性炎症

舌や口腔粘膜に現れる白い病変の中には、自身の免疫システムが誤って自分の体を攻撃してしまう「自己免疫」が関与するものがあります。その代表が「口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)」です。これは慢性的な経過をたどる難治性の疾患であり、正確な診断と根気強い治療が求められます。

3-1. 自己免疫が引き起こす粘膜の炎症メカニズム

口腔扁平苔癬(Oral Lichen Planus: OLP)は、免疫細胞の一種であるTリンパ球が、口腔粘膜の上皮基底細胞を「異物」と誤認識して攻撃し、慢性的な炎症を引き起こす疾患です23。根本原因は未解明ですが、遺伝的素因を持つ人に、薬剤、歯科金属アレルギー、C型肝炎ウイルス感染、ストレスなどが引き金となって発症すると考えられています24。特に中年以降の女性に多い傾向があります24

3-2. 多様な臨床像:レース状の白斑から、びらん・潰瘍まで

口腔扁平苔癬の臨床像は多様で、主に2つのタイプに大別されます25

  • 網状・レース状型: 最も典型的で、主に頬の内側に、両側性に白い線がレースの編み目のように見える病変(Wickham線条)が形成されます23。通常、痛みなどの自覚症状はありません。
  • びらん・潰瘍型: 粘膜が赤くただれたり(びらん)、えぐれたり(潰瘍)するタイプで、食べ物がしみたり、歯ブラシが当たったりすると強い痛みを感じる「接触痛」や「灼熱感」を伴います24

3-3. 確定診断への道:なぜ生検が不可欠なのか

口腔扁平苔癬の診断は、臨床所見と、病変の一部を採取して調べる「生検(せいけん)」による病理組織所見を組み合わせて行うのが国際的な原則です24。生検が不可欠な理由は、類似する他の疾患(特に白板症)との鑑別と、悪性化の除外です。口腔扁平苔癬は、頻度は低いものの、ごく一部が口腔がんに移行するリスクがある「口腔潜在性悪性疾患」に分類されているため、診断時にがん細胞が存在しないことを確認することが極めて重要です2426

3-4. 治療の最前線:ステロイド療法と新たな選択肢

口腔扁平苔癬は完治が難しく、治療目標は症状のコントロールとQOL(生活の質)の維持・改善に置かれます27

  • 第一選択:ステロイド局所療法: 痛みを伴う「びらん・潰瘍型」には、ステロイド薬の軟膏、貼付錠、うがい薬などが用いられます27。Cochraneレビューによれば、これらの外用薬は疼痛緩和に有効である可能性が示唆されています8。しかし、ステロイド治療は二次的な「口腔カンジダ症」を合併するリスクを高めるというジレンマがあり、抗真菌薬の併用が必要になることもあります25。近年のメタアナリシスでは、口腔扁平苔癬患者は健常者より口腔内カンジダ菌の検出率が有意に高いことが報告されており28、カンジダ菌自体が病態に関与している可能性も示唆されています。
  • その他の治療法: ステロイドが効きにくい場合、タクロリムス水和物(プロトピック軟膏®)などの免疫抑制薬が用いられることがあります25。重症例ではステロイドの内服療法も考慮されます25。口腔内を清潔に保つ口腔ケアも非常に重要です27。近年では、患者自身の血液から作製するi-PRF(注射用多血小板フィブリン)を注入する再生医療的アプローチも試みられ、有望な結果が報告され始めています29

第4部:見逃してはならない前癌病変―白板症と癌化のリスク

口腔内にできる「拭えない白い病変」の中で、最も警戒すべきものが「白板症(はくばんしょう)」です。これは、将来的に口腔がんに移行する可能性を持つ「前癌病変」の代表格であり、早期発見と適切な管理が極めて重要となります。

4-1. 「拭えない白い板」の定義とリスク因子

口腔白板症は、臨床的にも病理組織学的にも他のいかなる疾患としても分類できない、口腔粘膜の白い板状または斑状の病変と定義されます3。最大の特徴は、口腔カンジダ症とは異なり、擦っても全く除去できない点です2。発生には、喫煙(最大のリスク因子)、アルコール摂取、適合の悪い入れ歯などによる慢性的な刺激が関与していると考えられています16

4-2. 癌化の可能性:異形成の評価と統計データ

白板症の全てががんになるわけではありませんが、数%から16%程度が口腔扁平上皮癌へと進行するリスクがあり、「口腔潜在性悪性疾患」と位置づけられています23。特に、舌の縁(舌側縁)や舌の下面にできたものはリスクが高いとされます2。癌化リスクを評価する上で最も重要な指標が、生検で確認される「上皮性異形成」の有無と程度です30。異形成とは細胞や組織構造の乱れで、「がんになる一歩手前の顔つきの悪さ」を意味し、その程度が高度になるほど癌化リスクは高まります30。臨床的には、均一な白色の「均一型」よりも、赤い部分が混じる「紅斑混在型」や表面が隆起する「疣贅型(ゆうぜいがた)」の方が悪性度が高い傾向にあります31

4-3. 診断と管理:経過観察か、積極的介入かの判断基準

白板症が疑われた場合、確定診断と異形成の評価のために生検が必須となります30。治療方針は、まず禁煙・禁酒指導や原因刺激の除去から始まります32。生検の結果、高度な異形成が認められた場合や臨床的に悪性が疑われる場合は、がんへの進行を防ぐため、病変部を外科的に切除するのが標準治療です33。異形成がないか軽度で小さい場合は、定期的に専門医の診察を受けながら注意深く観察する「経過観察」が選択されることもあります。しかし、どの病変が将来がん化するかを100%予測する確実な方法はなく、臨床現場での判断は難しいのが現状です33。近年では、特定のタンパク質の発現量を調べるプロテオーム解析など、バイオマーカーを用いて悪性度をより正確に予測する研究が進められています33。現時点では、外科的介入と専門家による厳重な長期的経過観察が管理の基本となります32

第5部:全身の健康状態を映す舌の変化

舌は口腔内の一器官であると同時に、その状態の変化を通じて、全身の健康状態を映し出す「鏡」の役割を担っています。舌の変化が、内科的な問題の早期発見につながることも少なくありません。

5-1. 口腔乾燥症(ドライマウス)とシェーグレン症候群

口腔内の乾燥は、舌苔を厚くする直接的な原因です3。この口腔乾燥が顕著な症状として現れる代表的な全身性疾患が「シェーグレン症候群」です。これは自身の免疫システムが涙腺や唾液腺を攻撃する自己免疫疾患で、重度のドライアイとドライマウスを主症状とします334。唾液が極端に減るため、舌は乾燥してひび割れ、舌苔が厚く付着しやすくなります。また、虫歯の多発も特徴です34。診断には唾液分泌量の測定、血液検査、生検などが行われ、治療は人工唾液や唾液分泌を促す内服薬などによる対症療法が中心となります3435

5-2. 栄養状態のシグナル:鉄欠乏性貧血とビタミンB12欠乏

特定の栄養素の欠乏は「萎縮性舌炎」を引き起こし、舌の表面が赤く、つるつるとした平滑な外観を呈します。

  • 鉄欠乏性貧血: 体内の鉄分不足により、舌全体が青白く見えたり、平滑になったりすることがあります18。舌の痛みや灼熱感を伴うこともあります。
  • ビタミンB12欠乏症(悪性貧血): 舌が牛肉のように赤く、つるつるになる「ハンター舌炎」と呼ばれる特徴的な状態を呈することがあります36。舌がマゼンタ色(赤紫色)を帯びることもあります18

これらの舌の所見は、全身の栄養状態や血液疾患を示唆しているため、内科などを受診し、血液検査を含む詳細な精査を受けることが重要です36

5-3. その他の全身的要因と薬剤性による変化

上記以外にも、様々な全身状態が舌に変化をもたらします。

  • 全身状態の悪化: 高熱や脱水状態では、舌が乾燥し白っぽく見えることがあります18
  • 地図状舌: 舌の表面に地図のような模様を描く良性の状態で、原因は不明ですが、体調の変化やストレスで出没します18
  • 溝状舌: 舌の表面に深い溝やシワができる状態で、加齢に伴って見られますが、溝に汚れが溜まりやすく口臭の原因となることがあります2
  • 薬剤性: 降圧剤、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬など、多くの薬剤が副作用として口腔乾燥を引き起こし、間接的に舌苔を増加させます11

これらの舌の所見は、歯科医師が日常診療で気づき、内科などの専門医へ紹介することで、全身疾患の早期発見に貢献できます。これは、歯科診療が全身の健康を守る重要な「ゲートキーパー」の役割を担っていることを示し、「医科歯科連携」の重要性を物語っています22

よくある質問

舌の白い苔は、自分で取っても大丈夫ですか?

はい、舌苔(ぜったい)であれば、専用の舌ブラシや柔らかい歯ブラシを使って優しく清掃することが推奨されます。ただし、1日1回を目安にし、「奥から手前へ」と軽い力で動かしてください。強くこすりすぎると舌を傷つけ、かえって症状を悪化させる可能性があります10。拭っても取れない、あるいは痛みを伴う場合は自己判断せず医療機関を受診してください。

舌が白くて痛いのですが、何が考えられますか?

舌が白く、かつ痛みを伴う場合、いくつかの可能性が考えられます。拭き取れる白い苔であれば「口腔カンジダ症」が、拭き取れないレース状の病変で、食べ物がしみるような痛みがあれば「口腔扁平苔癬(びらん・潰瘍型)」が疑われます1824。いずれも専門的な診断と治療が必要ですので、早めに歯科・口腔外科を受診してください。

口腔扁平苔癬はがんに変わることがありますか?

はい、頻度は低いものの、口腔扁平苔癬の一部は長期的な経過の中で口腔がんに移行するリスクがあることが知られており、「口腔潜在性悪性疾患」に分類されています2426。そのため、診断時には生検を行い、がん細胞がないかを確認することが重要です。また、診断後も定期的な専門医による経過観察が不可欠です。

どのような場合に、すぐに病院に行くべきですか?

以下のいずれかのサインが見られた場合は、速やかに歯科または口腔外科を受診することを強く推奨します。
・白い部分が擦っても取れない3
・症状が2週間以上続いている16
・痛み、出血、しみるなどの症状がある1
・明らかな「しこり」や「潰瘍」がある2
・病変が徐々に大きくなっている、あるいは色や形が変化している

結論:白い舌との向き合い方―セルフケアから専門医受診まで

本記事では、「白い舌」という一つの症状を切り口に、その原因が舌苔のような生理的なものから、感染症、免疫疾患、そして前癌病変に至るまで極めて多岐にわたることを解説しました。重要なのは、「拭い取れるか、拭い取れないか」、そして「痛みを伴うか、伴わないか」という点をセルフチェックの第一歩とすることです。基本的にセルフケアで対応可能なのは、痛みのない「舌苔」のみです。それ以外の、拭い取れない病変や痛みを伴う症状、2週間以上続く変化については、自己判断で放置せず、必ず歯科・口腔外科を受診してください。早期発見・早期治療が、重症化や合併症、そしてがん化を防ぐ最も重要な鍵となります。舌は全身の健康を映す鏡です。定期的な歯科検診を受け、医科と歯科が連携した健康管理を心掛けることが、これからの時代に求められる健康の姿と言えるでしょう。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 神奈川県歯科医師会. 舌が痛い。舌に関する疾患. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.dent-kng.or.jp/colum/basic/627/
  2. あべひろ総合歯科. 舌の病気、異常、できもの. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://abehiro.com/tongue-disease.php
  3. メディカルノート. 舌が白い:医師が考える原因と対処法|症状辞典. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://medicalnote.jp/symptoms/%E8%88%8C%E3%81%8C%E7%99%BD%E3%81%84
  4. seikatsusyukanbyo.com. その一方で歯周病の人も2人に1人 ~厚労省「歯科疾患実態調査」. [インターネット]. 2023年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/2023/010726.php
  5. 厚生労働省. 平成28年歯科疾患実態調査. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html
  6. 厚生労働省. 「令和4年歯科疾患実態調査」の結果(概要)を公表します. [インターネット]. 2023年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33814.html
  7. 厚生労働省. 歯周病検診マニュアル 2023(案). [インターネット]. 2023年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001115164.pdf
  8. Lodi G, Manfredi M, Mercadante V, Murphy R, Carrozzo M. Interventions for treating oral lichen planus: corticosteroid therapies. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Feb 28;2(2):CD001168. doi: 10.1002/14651858.CD001168.pub3. Available from: https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD001168.pub3/full/ro
  9. 日本口腔外科学会. 口腔癌診療ガイドライン 2019 年版(案). [インターネット]. 2019年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.jsoms.or.jp/pdf/medical/2019/03/Oral_Cancer_Guideline_draft_20190320.pdf
  10. ナース専科. 口腔ケア|目的と手順、看護の注意点、観察項目、症状別ケア(総まとめ). [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://knowledge.nurse-senka.jp/225815/
  11. 健康長寿ネット. オーラルフレイル・口腔機能低下症の診断. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/orarufureiruyobo-taberuchikara-ikiruchikara/orarufureiru-kokukinoteikasho-shindan.html
  12. 加古川アップル歯科. 口臭の原因?「舌苔(ぜったい)」の取り方. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://kakogawa-appledc.jp/wiki/tongue-moss.html
  13. ピジョンタヒラ. 要介護者に口腔ケアをする6つの目的!口腔ケアに必要な用品と手順も詳しく解説. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.pigeontahira.co.jp/column/%E8%A6%81%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E8%80%85%E3%81%AB%E5%8F%A3%E8%85%94%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%82%92%E3%81%99%E3%82%8B6%E3%81%A4%E3%81%AE%E7%9B%AE%E7%9A%84%EF%BC%81%E5%8F%A3%E8%85%94%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%81%AB/
  14. クリニカ. 口臭予防で、より美しい口元に|歯の健康基礎知識. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://clinica.lion.co.jp/oralcare/kousyu.htm
  15. 口腔外科DOC. 口腔カンジダの治療法は?口腔カンジダ症に罹患しやすい人や症状も解説. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://koukuugeka-doc.com/oral-surgery/oral-candida-treatment/
  16. メディカルノート. 口の中が白い:医師が考える原因と対処法|症状辞典. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://medicalnote.jp/symptoms/%E5%8F%A3%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%8C%E7%99%BD%E3%81%84
  17. 株式会社プレシジョン. 口腔カンジда症:原因は?症状は?市販薬で治せるの?検査や治療は?. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.premedi.co.jp/%E3%81%8A%E5%8C%BB%E8%80%85%E3%81%95%E3%82%93%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3/h00664/
  18. MSDマニュアル プロフェッショナル版. 舌の変色およびその他の変化. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/15-%E6%AD%AF%E7%A7%91%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%8F%A3%E5%94%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%88%8C%E3%81%AE%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%88%8C%E3%81%AE%E5%A4%89%E8%89%B2%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E5%A4%89%E5%8C%96
  19. 北海道HIV/エイズ情報. カンジダ症. [インターネット]. 2021年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.hok-hiv.com/for-medic/download/manual_202103/05-2.pdf?20210527
  20. 日本環境感染学会. 口腔カンジダ症の診かた,治療,予防. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: http://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_34.pdf
  21. Gc.dental. 口腔カンジダ症治療薬 「フロリードゲル経口用2%」の特徴. [インターネット]. 2022年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.gc.dental/japan/sites/japan.gc.dental/files/documents/2022-05/177_4.pdf
  22. 厚生労働科学研究成果データベース. 医療保険制度における医科歯科連携体制の整備のあり方の検討. [インターネット]. 2020年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202099006A-buntan5_2.pdf
  23. 厚生労働科学研究成果データベース. 重症型扁平苔癬診療ガイドライン(案). [インターネット]. 2013年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2013/133151/201324127A_upload/201324127A0004.pdf
  24. 口腔外科DOC. 扁平苔癬治療|原因や症状・自然治癒するのかも解説. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://koukuugeka-doc.com/oral-surgery/lichen-planus-treatment/
  25. 日本口腔科学会. 口腔扁平苔癬全国調査に基づいた病態解析 および診断基準・治療指針の提案. [インターネット]. 2019年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://jsom.sakura.ne.jp/wordpress/wp-content/uploads/2019/11/%E5%8F%A3%E8%85%94%E6%89%81%E5%B9%B3%E8%8B%94%E7%99%AC%E5%85%A8%E5%9B%BD%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AB%E5%9F%BA%E3%81%A5%E3%81%84%E3%81%9F%E7%97%85%E6%85%8B%E8%A7%A3%E6%9E%90%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96%E3%83%BB%E6%B2%BB%E7%99%82%E6%8C%87%E9%87%9D%E3%81%AE%E6%8F%90%E6%A1%88%EF%BC%9A%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E8%AA%8C21%E5%B7%BB2%E5%8F%B7%E6%8E%B2%E8%BC%89.pdf
  26. Cureus. Oral Lichen Planus: A Narrative Review Navigating Etiologies, Clinical Manifestations, Diagnostics, and Therapeutic Approaches. [インターネット]. 2024年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11396719/
  27. Pharmacological Treatment of Oral Lichen Planus: A Review of Evaluated Therapeutics. Journal of Oral and Maxillofacial Pathology. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.journalomp.org/journal/view.html?uid=1280&&vmd=Full
  28. Lu SY, Chen YH, Chen YC, Liu C, Chien WC, Kang YN. Association between oral lichen planus and Candida albicans infection: a systematic review and meta-analysis. Front Microbiol. 2024 Jun 4;15:1395563. doi: 10.3389/fmicb.2024.1395563. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39262731/
  29. Mohamed RN, Gomaa A, Abdel-Aziz R, Abuelela M, Said A, El-Sayed H. Effectiveness of Injectable Platelet-Rich Fibrin in the Treatment of Oral Lichen Planus: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cureus. 2024 Jan 15;16(1):e52233. doi: 10.7759/cureus.52233. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10839423/
  30. CiNii Research. 口腔白板症の臨床病理学的検討. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001205222223616
  31. CiNii Research. 口腔白板症および扁平苔癬における臨床診断と病理組織診断の不一致. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001205221841152
  32. Lodi G, Martin-Chico R, Di M-C, et al. Interventions for treating oral leukoplakia to prevent oral cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2021;9:CD001829. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6457856/
  33. KAKEN. 早期に癌化する白板症を生検時に確実に判定し見逃さない. [インターネット]. 2016年. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K11701/
  34. 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学. シェーグレン症候群. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu04-5.html
  35. 今日の臨床サポート. シェーグレン症候群 | 症状、診断・治療方針まで. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=414
  36. 神奈川県歯科医師会. 舌が痛い|原因と可能性のある疾患について. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.dent-kng.or.jp/colum/basic/2768/
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ