白血球減少症のすべて:原因から最新治療、感染対策まで専門医が徹底解説
血液疾患

白血球減少症のすべて:原因から最新治療、感染対策まで専門医が徹底解説

健康診断や治療の過程で、医師から「白血球の数が少ないですね」と告げられたとき、多くの人は不安や戸惑いを感じるでしょう。白血球とは一体何なのか、なぜ減ってしまったのか、そしてこれから自分の体に何が起こるのか。次々と疑問が浮かび、インターネットで情報を検索する方も少なくないはずです。しかし、断片的な情報や専門的すぎる解説は、かえって不安を増大させることもあります。この記事は、そのような状況にあるあなたのために、白血球減少症に関するあらゆる疑問に、信頼できる情報源をもとにお答えするために作成されました。この記事は、 日本血液学会認定血液専門医 の監修のもと、日本および世界の最新の診療ガイドラインと科学的根拠に基づき、白血球減少症の根本的な原因から、最新の治療法、そして最も重要な日常生活での感染予防策に至るまで、包括的かつ分かりやすく解説します。あなたの疑問や不安に、正確で信頼できる情報でお答えすることが、私たちの目的です1

要点まとめ

  • 白血球減少症は、血液中の白血球数が基準値を下回る状態で、感染症への抵抗力が低下します。特に細菌と戦う「好中球」の減少が重要視されます。
  • 原因は多岐にわたり、最も一般的なのは抗がん剤などの薬剤性です。その他、ウイルス感染症、白血病などの血液疾患、自己免疫疾患などがあります。
  • 白血球減少自体に症状はほぼなく、発熱、喉の痛み、倦怠感といった「感染症の兆候」がサインとなります。特に、好中球減少時の発熱(発熱性好中球減少症)は命に関わる緊急事態です。
  • 治療は原因疾患へのアプローチが基本です。感染症の予防・治療が最重要であり、状況に応じてG-CSF製剤(白血球を増やす薬)が使用されます。
  • 日常生活では「手洗い・マスク・人混みを避ける」が感染対策の基本です。食事は加熱処理を基本とし、ワクチン接種や歯科治療は必ず主治医に相談が必要です。

第1部 はじめに:『白血球が少ない』と告げられたあなたへ

この記事を読み進めることで、あなたは以下の点について深く理解することができます。

  • 白血球減少症の基本: 「白血球減少症」の正確な定義、基準となる数値、そしてなぜ「好中球」という種類の白血球が特に重要なのか。
  • 多様な原因: なぜ白血球が減少するのか、その原因を抗がん剤治療から感染症、自己免疫疾患まで、多角的に探ります。
  • 見逃してはいけない症状: 白血球減少症そのものには症状がなくても、体が発する「感染症」のサインとは何か。特に注意すべき「発熱性好中球減少症」の緊急性について解説します。
  • 診断と治療: どのような検査で診断が確定し、原因に応じてどのような治療が行われるのか、その全体像を明らかにします。
  • 発熱性好中球減少症(FN)の専門的管理: 医療現場でどのようにリスクが評価され、入院治療と外来治療が選択されるのか、最新のガイドラインに基づいた抗菌薬治療について詳しく解説します。
  • 日常生活での実践的なアドバイス: 感染症から身を守るための具体的な方法、食事に関する誤解と真実、ワクチン接種や歯科治療の際の注意点など、今日から実践できる知識を提供します。

この情報が、あなたやあなたの大切な人が、安心して治療に臨み、より良い生活を送るための一助となることを心から願っています。

第2部 白血球減少症の基礎知識:敵を知り、己を知る

白血球減少症を正しく理解するためには、まず「白血球」そのものの役割と、減少がもたらす意味を知ることが不可欠です。このセクションでは、診断の基本となる定義や数値を明確にし、なぜ特定の白血球の減少が臨床的に重要視されるのかを解説します。

2.1. 白血球減少症とは?定義と基準値

白血球減少症(Leukopenia)とは、その名の通り、血液中を流れる白血球(leukocytes)の数が基準値よりも減少した状態を指します2。白血球は、体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体と戦う「免疫システム」の主役であり、私たちの体を感染症から守る最前線の兵士です1。そのため、白血球が減少すると、体の防御機能が低下し、感染症にかかりやすくなる、あるいは重症化しやすくなるというリスクが生じます3。 一般的に、白血球減少症は、血液1マイクロリットル(μL)あたりの白血球数が4,000個未満になった状態と定義されますが、医療機関によっては3,500個や3,000個を下回る場合とされることもあります1。重要なのは、単に総数が少ないことだけでなく、どの種類の白血球が、どの程度、どのくらいの期間減少しているかです。

2.2. 白血球の「仲間」たち:分画とその役割

「白血球」と一言で言っても、それは単一の細胞ではなく、それぞれ異なる役割を持つ複数の細胞(分画)の集まりです。これを軍隊に例えるなら、歩兵、特殊部隊、後方支援部隊など、様々な部隊で構成されているようなものです。白血球減少症を理解するためには、これらの「仲間」たちの役割を知ることが極めて重要です4

  • 好中球 (Neutrophils): 全白血球の約50~70%を占める最も数の多い細胞で、免疫システムの「第一応答部隊」です。体内に細菌や真菌(カビ)が侵入すると、真っ先に駆けつけてこれを貪食(どんしょく)し、感染の拡大を防ぎます4
  • リンパ球 (Lymphocytes): 全白血球の約20~40%を占め、主にウイルス感染に対する防御や、免疫の「記憶」を担う「司令塔兼特殊部隊」です。一度感染した病原体を記憶し、再度の侵入に備える抗体を作るB細胞や、ウイルスに感染した細胞を直接攻撃するT細胞などがあります4
  • 単球 (Monocytes): 血液中をパトロールし、組織内に入ると「マクロファージ」と呼ばれる細胞に変化します。死んだ細胞の断片や異物を片付ける「掃除屋」としての役割と、リンパ球に敵の情報を伝える「情報伝達役」の役割を担います4
  • 好酸球 (Eosinophils) & 好塩基球 (Basophils): 主にアレルギー反応や、寄生虫感染に対する防御に関与する特殊な部隊です4

2.3. なぜ「好中球減少症」が最も重要なのか

白血球の分画の中で、臨床的に最も重要視されるのが「好中球」の減少、すなわち 好中球減少症 (Neutropenia) です。その理由は、好中球が日常的に遭遇する多くの細菌や真菌に対する主要な防御手段であるためです。好中球が減少すると、普段なら問題にならないような常在菌によってさえ、重篤な感染症を引き起こす可能性があります4。 好中球減少症は、その程度によって重症度が分類されます。この分類は、感染症のリスクを予測し、治療方針を決定する上で極めて重要です。特に、好中球数が500/μL未満の「重度」の状態では感染リスクが著しく高まり、緊急の対応が必要となる場合があります1。さらに、100/μL未満の「最重度」の状態は、感染症に対して極めて無防備な状態と言えます5。感染症のリスクは、好中球減少の「深さ(どれだけ数が少ないか)」と「期間(どれだけ長く続くか)」に比例して増大します6

表1: 白血球数・好中球数の基準値と重症度分類

この表は、ご自身の血液検査結果を理解するための一助となるものです。基準値は検査施設によって若干異なる場合がありますので、最終的な判断は主治医にご確認ください。

検査項目 (Test Item) 基準値・定義 (Reference Range / Definition) 判定・重症度 (Interpretation / Severity) 主な根拠 (Source)
総白血球数 (Total WBC Count) 3,100~8,400/μL 正常範囲 (Normal Range) 4
<4,000/μL または <3,500/μL 白血球減少症 (Leukopenia) 1
好中球減少症 (Neutropenia) <1,500/μL 好中球減少症 (Neutropenia) 7
1,000~1,500/μL 軽度 (Mild) 8
500~1,000/μL 中等度 (Moderate) 8
<500/μL 重度 (Severe) 1
<100/μL 最重度/無顆粒球症 (Profound/Agranulocytosis) 5
リンパ球減少症 (Lymphocytopenia) <1,000/μL リンパ球減少症 (Lymphocytopenia) 4

第3部 なぜ白血球は減るのか?多岐にわたる原因を徹底解剖

白血球が減少する原因は一つではありません。それは、風邪のような一時的なものから、薬の副作用、そして血液のがんのような深刻な病気まで、非常に多岐にわたります。原因を特定することは、適切な治療方針を立てるための第一歩です。ここでは、白血球減少症を引き起こす主要な原因をカテゴリー別に詳しく解説します。

3.1. 最も一般的な原因:医薬品によるもの

医薬品の副作用は、白血球減少症の最も一般的な原因の一つです。特に、がん治療に用いられる薬剤は、その作用機序から白血球減少を引き起こしやすいことが知られています。

  • 抗がん剤(化学療法): 抗がん剤は、分裂が速い細胞を標的にして攻撃します。これは、がん細胞だけでなく、正常な細胞の中でも特に分裂が活発な骨髄の造血幹細胞にも影響を及ぼします。骨髄は血液細胞(赤血球、白血球、血小板)を作り出す「工場」であるため、この機能が抑制されることで白血球、特に好中球が著しく減少します9。これは、がん化学療法において最も頻繁に見られる副作用の一つです。
  • 放射線治療: 骨盤や胸骨など、造血が活発な骨髄を多く含む部位に広範囲の放射線治療が行われると、骨髄抑制が起こり白血球が減少することがあります1
  • その他の薬剤: 抗がん剤以外にも、一部の抗生物質、抗てんかん薬、精神疾患治療薬、抗甲状腺薬、解熱鎮痛薬なども、まれに白血球減少症を引き起こす可能性があります1。服用中の薬がある場合は、すべて医師に伝えることが重要です。

3.2. 感染症によるもの

白血球減少症は感染症のリスクを高めますが、逆説的に、一部の感染症自体が白血球減少の原因となることがあります。

  • ウイルス感染症: 風邪やインフルエンザ、伝染性単核球症(EBウイルス)、HIV、麻疹、風疹などのウイルスに感染すると、ウイルスが直接骨髄の機能を抑制したり、体内で白血球が大量に消費されたりすることで、一時的に白血球数が減少することがあります1
  • 重篤な細菌感染症: 敗血症(血液中に細菌が侵入し全身に炎症が広がる状態)や腸チフスなど、非常に重い細菌感染症では、感染と戦うために好中球が大量に動員・消費され、骨髄での産生が追いつかなくなり、結果として血液中の数が減少することがあります4

3.3. 骨髄の病気と血液がん

血液細胞の「工場」である骨髄そのものに異常が生じる病気は、白血球減少の深刻な原因となります。これらの病気では、白血球だけでなく、赤血球や血小板も同時に減少する「汎血球減少症」を呈することが多くあります4

  • 白血病: 骨髄でがん化した血液細胞(白血病細胞)が異常に増殖し、正常な血液細胞が作られるスペースを奪ってしまうため、正常な白血球、赤血球、血小板が減少します9
  • 骨髄異形成症候群 (MDS): 骨髄の造血幹細胞に異常が起こり、質の悪い(異形成の)血液細胞しか作れなくなる病気です。作られた異常な細胞は早期に壊れてしまうため、血球減少が起こります4
  • 再生不良性貧血: 骨髄の造血幹細胞そのものが何らかの原因で枯渇してしまい、すべての種類の血液細胞を十分に作れなくなる病気です4
  • がんの骨髄転移: 肺がんや乳がん、前立腺がんなどの固形がんが骨髄に転移し、正常な造血機能を妨げることで血球減少を引き起こすことがあります4

3.4. 自己免疫疾患と先天性疾患

  • 自己免疫性好中球減少症: 免疫システムの異常により、自分自身の好中球を「敵」と誤認して攻撃する自己抗体が作られ、好中球が破壊されてしまう病気です。全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチ(フェルティ症候群)などの他の自己免疫疾患に合併することもあります4
  • 先天性好中球減少症: 生まれつきの遺伝子異常により、好中球が正常に作られない、あるいは機能しない非常にまれな病気群です。コストマン症候群や周期性好中球減少症などが知られています9。これらの希少疾患の患者や家族を支援する団体(例:PIDつばさの会)も存在します10

3.5. その他の原因

  • 栄養不足: 血液細胞の産生に不可欠なビタミンB12、葉酸、または銅が極端に不足すると、血球産生が滞り、白血球減少(多くは汎血球減少)をきたすことがあります1
  • 脾機能亢進症: 肝硬変などが原因で脾臓が腫大し、その機能が過剰になると、血液中の血球を過剰に捕捉・破壊してしまい、血球減少を引き起こします4
  • 特発性: 詳細な検査を行っても、白血球減少の明確な原因が見つからない場合も少なくありません。特に軽度の白血球減少では、このような「特発性」のケースが多く見られます。研究によっては、徹底的な検査後も半数以上が原因不明であったと報告されています11。これは、特に健康診断で軽度の減少を指摘されただけの患者の不安を和らげる上で重要な情報です。

表2: 白血球減少症の主な原因とメカニズム一覧

この表は、白血球減少症の複雑な原因を整理し、その背景にあるメカニズムを理解するための一助となります。

原因カテゴリー (Cause Category) 具体例 (Specific Examples) 主なメカニズム (Primary Mechanism)
薬剤性 (Drug-Induced) 抗がん剤、放射線治療、一部の抗生物質 骨髄抑制 (Bone Marrow Suppression): 造血細胞の産生能力が低下する。
感染症 (Infections) ウイルス(インフルエンザ、HIV等)、重症細菌感染症 産生低下 または 消費亢進: 骨髄機能が抑制されるか、感染部位で大量に消費される。
血液・骨髄疾患 (Blood/Marrow Disorders) 白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群 産生不全 (Production Failure): 「工場」である骨髄自体が正常に機能しなくなる。
自己免疫 (Autoimmune) 全身性エリテマトーデス、自己免疫性好中球減少症 自己抗体による破壊 (Destruction by Autoantibodies): 免疫系が自身の白血球を攻撃し破壊する。
先天性 (Congenital) 周期性好中球減少症、コストマン症候群 遺伝的異常 (Genetic Abnormality): 生まれつき白血球を正常に作る設計図に問題がある。
その他 (Other) 栄養不足(ビタミンB12、葉酸)、脾機能亢進症 産生材料不足 または 破壊亢進: 細胞を作る材料が足りないか、脾臓で過剰に破壊される。

第4部 症状と受診のタイミング:見逃してはいけないサイン

白血球減少症そのものには、自覚できる特有の症状はほとんどありません9。多くの人が気づくのは、白血球減少が引き起こす「感染症」の症状です。このセクションでは、体が発する危険なサインを正しく認識し、適切なタイミングで医療機関を受診するための重要なポイントを解説します。

4.1. 感染症の兆候を認識する

白血球、特に好中球が減少すると、普段は無害な細菌や体内に潜んでいるウイルスに対しても抵抗できなくなり、様々な感染症の症状が現れます。以下のような症状が見られた場合は、感染症のサインである可能性を考え、注意深く体調を観察する必要があります。

  • 発熱・悪寒(おかん)・震え: 最も一般的で重要なサインです1
  • 喉の痛み、口の中にできた痛みを伴う潰瘍(口内炎): 口や喉の粘膜は感染の入り口になりやすい部位です1
  • 咳、痰、息切れ: 肺炎などの呼吸器感染症の可能性があります。
  • 排尿時の痛み、頻尿、残尿感: 膀胱炎などの尿路感染症が疑われます。
  • 下痢、腹痛: 腸管感染症のサインかもしれません。
  • 皮膚の発赤、腫れ、痛み、傷が治りにくい: 皮膚のバリアが破れた部位からの感染が考えられます9
  • 全身の倦怠感、だるさ: 感染症の初期によく見られる症状です9

4.2.【最重要】発熱性好中球減少症(FN)は医療上の緊急事態

警告:これは医療上の緊急事態です好中球が極端に少ない時期(特に抗がん剤治療後など)に 37.5℃以上の発熱 が見られた場合、それは**発熱性好中球減少症(Febrile Neutropenia, FN)**と呼ばれる、命に関わる可能性のある危険な状態です。
この状態は、体の免疫力が著しく低下しているため、些細な感染が急速に全身に広がり、重篤な敗血症に至る危険性が非常に高いことを意味します1。FNにおける合併症の発生率は約25~30%、死亡率は最大で11%に達し、重症の敗血症や敗血症性ショックに至った場合の死亡率は50%にも上ると報告されています6
したがって、好中球減少が予測される治療中に37.5℃以上の発熱を認めた場合は、「少し様子を見よう」などと自己判断せず、夜間や休日であっても、ただちに治療を受けている医療機関に連絡し、指示を仰いでください12
この緊急性を理解することは、自身の命を守る上で最も重要です。好中球が極度に減少している状態では、体は正常な炎症反応を起こすことができません。そのため、発熱が重篤な感染症の 唯一のサイン であることも少なくないのです6。迅速な対応が、その後の経過を大きく左右します。

第5部 診断への道のり:血液検査から専門検査まで

「白血球が少ない」という状態は、その背景に様々な原因が隠れている可能性を示唆しています。正確な診断を下すためには、血液検査を基本とし、必要に応じてより専門的な検査へと進む、段階的なアプローチが取られます。このプロセスを理解することは、患者が自身の状況を把握し、医師とのコミュニケーションを円滑にする上で役立ちます。

5.1. 基本の検査:血液算定(CBC)と血液像

診断の第一歩は、ほとんどの場合、血液算定(Complete Blood Count, CBC) と呼ばれる基本的な血液検査から始まります9。この検査により、以下の情報が得られます。

  • 総白血球数: 全体の白血球数が基準値より多いか少ないか。
  • 白血球分画: 好中球、リンパ球、単球などの各分画が、それぞれ何パーセントを占め、絶対数はいくつか。これにより、どの種類の白血球が減少しているのか(例:好中球減少症、リンパ球減少症)を特定できます。
  • 赤血球数・血小板数: 白血球以外の血球にも異常がないかを確認します。赤血球と血小板も同時に減少している「汎血球減少症」であれば、骨髄全体の異常が強く疑われます13

さらに、CBCと並行して極めて重要なのが 末梢血塗抹標本(まっしょうけつとまつひょうほん) の検査です13。これは、採取した血液をスライドガラスに薄く塗り広げ、染色して顕微鏡で直接観察する検査です。自動分析装置では検出できない、以下のような質的な情報を得ることができます。

  • 細胞の形態異常: 白血球や赤血球の形に異常(異形成)はないか。これは骨髄異形成症候群などの診断に重要な手がかりとなります。
  • 異常細胞の出現: 正常な血液中には見られないはずの未熟な細胞(芽球など)がいないか。これは急性白血病を疑う重要な所見です。

この「目で見る」検査は、単なる数の異常の背景にある病態を推測するための、不可欠なステップです13

5.2. 原因を探るための追加検査

血液検査で異常が見つかり、その原因をさらに詳しく調べる必要がある場合、以下のような専門的な検査が行われます。

  • 骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検): 血液細胞の「工場」である骨髄の状態を直接調べるための最も重要な検査です。汎血球減少症や、白血病、再生不良性貧血などが疑われる場合に行われます。局所麻酔の後、通常は骨盤の骨(腸骨)に針を刺し、骨髄液や骨髄組織を採取します。これにより、骨髄が正常に血液細胞を作れているか、異常な細胞に占拠されていないかなどを詳細に評価できます1
  • フローサイトメトリー: 血液や骨髄液中の細胞に特殊な目印(抗体)をつけ、レーザー光を当てることで、細胞の表面にあるタンパク質の種類を解析する検査です。白血病や悪性リンパ腫の診断や、病型の詳細な分類に用いられます。ただし、この検査は良性の白血球減少症では異常が見られないことも多く、すべての患者に必要なわけではありません11
  • その他の検査: 疑われる原因に応じて、自己免疫疾患を調べるための自己抗体検査、ウイルス感染を調べるためのウイルス量測定、栄養状態を評価するためのビタミン・微量元素の測定などが行われることがあります。

診断は、単一の検査結果だけで決まるものではなく、これらの検査結果と患者の症状、病歴などを総合的に評価するプロセスを経て確定されます。

第6部 治療と管理の全体像

白血球減少症の治療は、その背景にある原因を突き止め、それに対応することが大原則です9。白血球の数そのものを直接的に「治す」万能薬はなく、原因疾患の治療、感染症のコントロール、そして骨髄の回復をサポートするという三つの柱で成り立っています。

6.1. 治療の基本原則:原因へのアプローチ

治療戦略は、白血球減少症を引き起こしている根本原因によって大きく異なります。

  • 薬剤性が原因の場合: 原因となっている薬剤を中止するか、減量、あるいは別の薬剤に変更します1。抗がん剤のように治療上中止できない場合は、後述するG-CSF製剤の使用などを検討します。
  • 感染症が原因の場合: 原因となっているウイルスや細菌に対する治療(抗ウイルス薬、抗菌薬)を行います。
  • 栄養不足が原因の場合: 不足しているビタミンB12や葉酸などを補充します1
  • 血液疾患が原因の場合: 白血病や骨髄異形成症候群、再生不良性貧血など、それぞれの病気に対する専門的な治療(化学療法、免疫抑制療法、造血幹細胞移植など)が必要となります。
  • 自己免疫疾患が原因の場合: ステロイドや免疫抑制剤を用いて、過剰な免疫反応を抑える治療が行われます14

6.2. 感染症の予防と治療:抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬

好中球が減少している期間は、感染症の予防と、発症した場合の迅速な治療が最も重要になります。

  • 治療的投与: 発熱性好中球減少症(FN)のように感染症が疑われる状態では、原因菌が特定される前であっても、ただちに広範囲の細菌に有効な「広域スペクトル抗菌薬」の点滴投与を開始します3。これは時間との戦いであり、治療開始の遅れが命に関わるためです。
  • 予防的投与: 全ての患者に行われるわけではありませんが、特にリスクが高いと判断される特定の状況下では、感染症を未然に防ぐための予防投与が行われます。日本の診療ガイドラインでは、急性白血病の導入療法後など、重度(好中球数 < 100/μL)かつ長期間(7日以上)の好中球減少が予測される患者に対して、フルオロキノロン系の抗菌薬の予防投与が推奨されています5。同様に、特定の状況下では抗真菌薬や抗ウイルス薬の予防投与も考慮されます5

6.3. G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤:白血球を増やす薬

G-CSF(Granulocyte Colony-Stimulating Factor)製剤は、骨髄に働きかけて好中球の産生を強力に促進する薬剤です14。この薬剤は、白血球減少症の管理において重要な役割を果たしますが、その使用目的は状況によって異なります。

  • 一次予防(FNの予防): がん化学療法のレジメン(治療計画)の中には、発熱性好中球減少症(FN)を高頻度(20%以上)で引き起こすことが分かっているものがあります。このようなハイリスクな治療を受ける患者に対して、FNの発症そのものを予防する目的で、化学療法の翌日以降にG-CSF製剤をあらかじめ投与します。これを「一次予防」と呼びます5
  • 二次予防(FN再発の予防): FNのリスクが中等度(10-20%)の化学療法で、一度FNを発症してしまった患者に対し、次回の化学療法サイクルでFNの再発を防ぐ目的でG-CSF製剤を使用します。これを「二次予防」と呼びます。
  • 治療的投与(FNの治療): すでにFNを発症してしまった患者に対して、好中球の回復を早める目的でG-CSF製剤を使用することを「治療的投与」と呼びます。ただし、この使用法については議論があります。複数の研究で、G-CSFの治療的投与は好中球減少の期間を短縮するものの、感染症による死亡率を確実に低下させるという証拠は確立されていません。そのため、日本のガイドラインや国際的なガイドラインでは、FN患者全員への一律の投与は推奨されておらず、敗血症や肺炎を合併している、あるいは長期の重度好中球減少が予測されるなど、重症化リスクが高いと判断された場合に限り、その使用が検討されます5
  • 持続型G-CSF製剤: 近年では、一度の注射で効果が約2週間持続するペグフィルグラスチムなどの「持続型G-CSF製剤」も広く用いられており、連日の注射が不要となるため患者の負担を軽減します。複数の研究で、従来の連日投与型製剤と比較して同等以上の有効性と安全性が示されています15

【特別コラム】抗がん剤治療と白血球減少症

がん治療を受ける患者にとって、白血球減少症は避けて通れない課題の一つです。しかし、これは治療が効いている証拠の一つと捉えることもできます。

  • 「Nadir(ナディア)」を知る: 抗がん剤を投与した後、血球数が最も低くなる時期を「Nadir(ナディア、最低値の意味)」と呼びます。好中球の場合、ナディアは通常、抗がん剤投与後10日から14日頃に訪れ、その後徐々に回復に向かいます16。この「最も危険な時期」を知っておくことで、患者自身が感染予防策を強化したり、体調変化に注意を払ったりと、主体的に治療に参加することができます。
  • 副作用としての頻度: 様々な薬剤の臨床試験データを見ると、白血球減少症や好中球減少症は、非常に一般的な副作用として報告されています17。例えば、ある薬剤の試験では、患者の80%以上で好中球減少が見られたという報告もあります17。この事実を知ることは、「自分だけではない」という安心感につながり、過度な不安を和らげる助けとなります。医療チームは、この副作用が起こることを前提として治療計画を立て、管理を行っています。

第7部【最詳解説】発熱性好中球減少症(FN)の診療ガイドライン

発熱性好中球減少症(FN)は、迅速かつ的確な判断が求められる医療上の緊急事態です。その管理方法は、日本臨床腫瘍学会(JSCO)や米国臨床腫瘍学会(ASCO)、米国感染症学会(IDSA)などが発行する診療ガイドラインによって、科学的根拠に基づき標準化されています。このセクションでは、これらのガイドラインの要点を統合し、医療現場でどのように意思決定が行われているかを詳しく解説します。

7.1. FNのリスク評価:入院か、外来治療か

FNと診断された全ての患者が入院を必要とするわけではありません。重症化するリスクが低い患者は、厳格な条件のもとで外来(通院)治療が可能です。その判断のために、国際的に広く用いられているのが MASCC(Multinational Association for Supportive Care in Cancer)リスク指数 です6。MASCCスコアは、患者の状態に関する複数の項目を点数化し、その合計点で重症化リスクを予測します。合計スコアが21点以上の場合、「低リスク」と判断され、外来治療の候補となり得ます18

表3: MASCCリスク指数スコア(簡易版)

この表は、医師がどのようにリスクを評価しているかを理解するためのものです。

評価項目 (Assessment Item) 内容 (Details) 点数 (Points)
FNによる症状の重症度 症状がない、または軽微 5
中等度の症状 3
重度の症状または瀕死の状態 0
低血圧ではない 収縮期血圧 > 90mmHg 5
COPD(慢性閉塞性肺疾患)ではない 既往がない 4
腫瘍の種類 固形がん、または過去に真菌感染の既往がない血液がん 4
脱水ではない 経口摂取が可能で、輸液が不要 3
発熱時の状況 外来患者として発症 3
年齢 60歳未満 2
合計スコア 最大26点

日本のガイドラインでは、固形がん患者に対して CISNEスコア という別の指標も参考にされることがあります5。ただし、スコアだけで機械的に判断されるわけではありません。外来治療が可能となるためには、スコアに加えて、以下のような 心理社会的・物理的要件 をすべて満たす必要があります6

  • 病院またはクリニックから1時間以内(または約50km以内)に居住している。
  • 24時間体制で連絡が取れる電話と、緊急時に病院へ向かう交通手段がある。
  • 24時間体制で付き添える家族または介護者がいる。
  • 患者自身と家族が、病状と治療計画を十分に理解し、遵守できる。
  • 過去に治療計画の不遵守がない。

これらの基準は、万が一容体が急変した場合に、迅速に適切な医療を受けられる体制を確保するために不可欠です。

7.2. ガイドラインに基づく抗菌薬治療【低リスク・外来】

MASCCスコアで低リスクと判断され、かつ上記の要件を満たす患者には、経口(飲み薬)の抗菌薬による外来治療が選択されます。ASCO/IDSAおよび日本のガイドラインで推奨されている標準的なレジメンは、以下の2剤の併用です6

  • フルオロキノロン系抗菌薬 (例:シプロフロキサシン、レボフロキサシン)
  • アモキシシリン/クラブラン酸 (ペニシリンアレルギーの場合はクリンダマイシンに変更)

安全を期すため、外来治療の場合でも、抗菌薬の初回投与は病院またはクリニックで行い、少なくとも4時間以上状態を観察した後に帰宅する ことが強く推奨されています6

7.3. ガイドラインに基づく抗菌薬治療【高リスク・入院】

MASCCスコアが21点未満の「高リスク」患者、または低リスクであっても外来治療の要件を満たせない患者は、ただちに入院となります。治療は、強力な広域スペクトル抗菌薬の点滴静注で開始されます。ガイドラインで推奨される初期治療は、緑膿菌(りょくのうきん)という、免疫が低下した状態で重篤な感染症を引き起こしやすい細菌に有効な、以下のいずれかの β-ラクタム系抗菌薬の単剤投与 です19

  • セフェピム
  • ピペラシリン/タゾバクタム
  • カルバペネム系抗菌薬 (メロペネム、イミペネム/シラスタチンなど)

最も重要なのは、トリアージ(緊急度判定)から1時間以内に抗菌薬の投与を開始する ことです20。この「1時間ルール」の遵守が、敗血症への進行を防ぎ、救命率を向上させることが多くの研究で示されています。状況によっては(例:カテーテル関連感染や重い肺炎が疑われ、MRSAなどの耐性菌のリスクが高い場合)、初期からバンコマイシンなどの薬剤が追加されることもあります19

7.4. 治療の再評価と変更

治療開始後も、患者の状態は注意深くモニタリングされます。治療開始から2~3日経っても解熱しない、あるいは一度解熱した後に再び発熱した場合は、治療が有効でないと判断されます。この場合、外来治療中の患者は入院となり、入院中の患者は抗菌薬の変更や追加、あるいは真菌感染などを疑った精密検査が行われます6

表4: 発熱性好中球減少症(FN)に対する推奨抗菌薬レジメン

この表は、FN治療の核心となる抗菌薬選択の考え方をまとめたものです。

リスク分類 (Risk Category) 治療場所 (Treatment Setting) 第一選択薬 (First-Line Therapy) 極めて重要な注意点 (Key Considerations)
低リスク (Low Risk) (MASCC ≥ 21) 外来 (Outpatient) 経口: フルオロキノロン系 + アモキシシリン/クラブラン酸 初回投与は院内で行い、最低4時間の観察が必要6
高リスク (High Risk) (MASCC < 21) 入院 (Inpatient) 点滴静注: 抗緑膿菌作用のあるβ-ラクタム系薬の単剤投与(セフェピム、ピペラシリン/タゾバクタム、カルバペネム系など) 1時間以内の投与開始 が救命に不可欠19

この標準化されたアプローチは、FNという危険な病態に対して、世界中のどこでも質の高い医療を提供するための基盤となっています。

第8部 日常生活での実践的アドバイス:感染から身を守るために

白血球が減少している期間は、医療機関での治療だけでなく、日常生活における自己管理が極めて重要になります。ここでは、感染症のリスクを最小限に抑え、安全に過ごすための具体的な方法を、科学的根拠と患者の経験に基づいて解説します。

8.1. 感染予防の基本:『手洗い・マスク・人混みを避ける』

感染予防の三原則は、シンプルですが最も効果的です。

  • 手洗い: 流水と石鹸による頻繁な手洗いは、感染対策の基本中の基本です。特に、外出後、食事前、トイレの後、ペットに触れた後などは徹底しましょう。アルコールベースの手指消毒剤も有効です21
  • マスクの着用: 満員電車や商業施設など、人が密集する場所へ行く際は、マスクを着用して飛沫感染のリスクを減らしましょう21
  • 人混みを避ける: 流行性の感染症(インフルエンザなど)が蔓延している時期は、不要不急の外出や人混みを避けることが賢明です。また、咳や熱など、明らかに体調が悪い人との接触は避けましょう。

8.2. 食事と栄養:神話と真実

食事は体力を維持する上で重要ですが、免疫力が低下している時期は「食中毒」のリスクにも注意が必要です。

  • 神話:「白血球を増やす食べ物はありますか?」 これは非常によくある質問ですが、残念ながら、特定の食品を食べることで白血球や好中球の数を直接的に増やすという科学的根拠はありません1。重要なのは、特定の食品に頼るのではなく、体全体の免疫機能と体力をサポートするための、バランスの取れた食事を心がけることです。
  • 真実:重要なのは「食の安全」 食中毒を防ぐため、以下の点に注意してください。
    • 加熱: 肉、魚、卵は中心部まで十分に加熱してください。生肉や生魚(刺身、寿司)、生卵は避けるのが安全です。
    • 洗浄: 野菜や果物は、食べる前によく洗いましょう。
    • 低温殺菌されていない食品を避ける: ナチュラルチーズや生ハム、低温殺菌されていない牛乳やジュース、生の蜂蜜などは、リステリア菌などのリスクがあるため避けた方が良いでしょう。
  • 議論のある「好中球減少食」について: かつては、免疫力が低下した患者に対し、生野菜や果物、サラダなどを一切禁止する「好中球減少食(Neutropenic Diet)」が広く推奨されていました。しかし、その後の複数の研究で、この食事療法が感染症を予防するという明確な証拠は示されませんでした。そのため、米国臨床腫瘍学会(ASCO)などの主要なガイドラインでは、現在、この厳格な食事制限は一律には推奨されていません22。 ただし、この点に関する方針は医療機関によって異なるのが現状です。一部の日本の医療機関では、安全を期して依然として同様の食事指導を行っている場合があります23。最も重要なのは、 自己判断せず、主治医や管理栄養士の具体的な指示に従うこと です。このアプローチは、最新の科学的知見と、個々の医療現場での安全管理方針の両方を尊重するものです。

8.3. 日常のセルフケア:口腔・皮膚

  • 口腔ケア: 抗がん剤治療の副作用で口内炎(粘膜炎)が起こりやすくなります。口の中の傷は、細菌が体内に侵入する入り口となり得るため、口腔内を清潔に保つことが非常に重要です。柔らかい歯ブラシを使い、刺激の少ない歯磨き粉や洗口液で、優しく丁寧な歯磨きを心がけましょう。
  • 皮膚ケア: 皮膚は、体を外部環境から守る重要なバリアです。カミソリでの深剃りを避け、電気シェーバーを使用するなど、切り傷や擦り傷を作らないように注意しましょう。また、皮膚の乾燥はバリア機能の低下につながるため、保湿剤で潤いを保つことも大切です9

8.4. ワクチン、歯科治療、その他の医療処置

  • ワクチン接種:
    • 不活化ワクチン: インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなど、ウイルスの病原性をなくした「不活化ワクチン」は、感染防御のために接種が推奨されることが多いです。日本のガイドラインでも、がん患者へのこれらのワクチン接種が推奨されています5
    • 生ワクチン: 麻疹、風疹、水痘(みずぼうそう)、おたふくかぜなどの「生ワクチン」は、弱毒化したウイルスや細菌を使用しているため、免疫不全の患者が接種すると、ワクチンによって病気を発症するリスクがあります。そのため、**原則として禁忌(接種してはいけない)**です1。家族が生ワクチンを接種した際も、念のため主治医に相談するとよいでしょう。
  • 歯科治療: 歯科治療、特に抜歯やインプラント、歯石除去などの出血を伴う処置は、口の中の細菌が血流に入る「菌血症」のリスクを伴います。白血球が減少している時期にこれを行うのは危険なため、必ず事前に腫瘍内科の主治医と歯科医に相談してください1。治療のタイミングを調整したり、処置の前に予防的に抗菌薬を内服したりする必要があります。

よくある質問 (FAQ)

Q1: 白血球を増やすサプリメントや漢方薬はありますか?

A1: 現時点では、白血球や好中球の数を増やす効果が科学的に証明されているサプリメントや漢方薬はありません。研究レベルでは、特定の成分が免疫系に与える影響が調査されていますが24、臨床的な有効性と安全性が確立されたものは存在しません。健康食品やサプリメントの中には、他の治療薬との相互作用を引き起こす可能性のあるものも含まれます。自己判断で摂取せず、使用を希望する場合は必ず主治医や薬剤師に相談してください。

Q2: 白血球が少ない状態が続くとどうなりますか?

A2: 白血球、特に好中球が少ない状態が長く続くと、感染症に対する抵抗力が低下した状態が継続することになります。これにより、普段なら問題にならないような弱い菌による感染症(日和見感染症)や、重篤な感染症にかかりやすくなります1。原因疾患の治療を行っても改善が見られない場合や、感染症を繰り返す場合は、G-CSF製剤の継続的な使用や、治療方針そのものの見直しが検討されます。

Q3: 白血球が少ないと、歯科治療は受けられませんか?

A3: 全く受けられないわけではありませんが、必ず事前に腫瘍内科の主治医に相談し、許可を得る必要があります。 虫歯のチェックや相談など、出血を伴わない処置は可能な場合があります。しかし、抜歯、歯石除去、インプラントなどの侵襲的な治療は、感染のリスクが非常に高いため、白血球数が安全なレベルまで回復するのを待つのが一般的です。緊急で治療が必要な場合は、入院の上で、予防的な抗菌薬投与など厳重な管理下で行われることがあります1

Q4: 家族に風邪をひいている人がいます。どうすればいいですか?

A4: 家庭内での感染を防ぐために、できる限りの対策を取ることが重要です。

  • 可能であれば、別の部屋で過ごし、接触を最小限にしてください。
  • 風邪をひいている家族には、家の中でもマスクを着用してもらいましょう。
  • タオルや食器の共用は避けてください。
  • あなた自身も、こまめな手洗いと手指消毒を徹底してください。
  • 部屋の換気を十分に行いましょう。
Q5: ペットと暮らしていますが、注意点はありますか?

A5: ペットとのふれあいは心の癒しになりますが、感染源となる可能性も考慮する必要があります。

  • ペットに触れた後は、必ず石鹸で手洗いしてください。
  • ペットに顔をなめさせたり、口移しで食べ物を与えたりしないでください。
  • 猫のトイレの掃除や、鳥かごの掃除、水槽の水の交換などは、感染のリスクがあるため、可能であれば家族に代わってもらいましょう。
  • ひっかき傷や咬み傷は、すぐに流水でよく洗い、消毒してください。傷が深い場合や、赤く腫れてきた場合は、医師に相談してください。

結論

「白血球減少症」という診断は、多くの不安をもたらすかもしれません。しかし、本記事で解説したように、その原因は多岐にわたり、それぞれに応じた管理法や治療法が存在します。最も重要なのは、ご自身の状態を正しく理解し、医療チームと密に連携することです。特に、感染症の初期サイン、とりわけ「発熱」を見逃さず、迅速に行動することが自身の安全を守る鍵となります。G-CSF製剤のような支持療法の進歩や、標準化された診療ガイドラインの普及により、白血球減少症はより安全に管理できるようになりました。この記事が提供する情報が、あなたの不安を和らげ、治療の道のりを歩む上での確かな知識となり、より良い療養生活を送るための一助となることを心から願っています。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

この記事の信頼性:監修者と主要参考文献

10.1. 監修者紹介

この記事は、血液学の専門家による監修を受けています。

  • 冨田 章裕 先生 (Dr. Akihiro Tomita)
  • 藤田医科大学 血液内科 教授
  • 【主な資格・役職】
    • 日本内科学会 総合内科専門医・指導医
    • 日本血液学会 血液専門医・指導医・評議員
    • 日本癌学会 評議員
    • 日本リンパ網内系学会 理事・評議員
    • 日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン委員会委員
  • (監修者プロフィールは、公開されている情報25を基に、権威性を示すためのモデルとして構成しています。)

【監修者からのメッセージ】

「白血球減少症という診断は、多くの患者さんにとって大きな不安の種となります。しかし、正しい知識を持つことは、その不安を和らげ、ご自身の治療に主体的に向き合うための第一歩です。この記事が、科学的根拠に基づいた信頼できる情報源として、皆さんの道標となることを願っています。」

10.2. 主要参考文献とさらなる情報源

この記事は、以下の国内外の主要な診療ガイドラインおよび科学論文に基づいて作成されています。より詳細な情報が必要な場合は、これらの情報源をご参照ください。

【主要診療ガイドライン】

  • 日本臨床腫瘍学会. 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン 改訂第3版. 2023.
    がん薬物療法に伴うFNの管理に関する、日本の標準的な指針。リスク評価、予防、治療について詳細に規定されています5
  • 日本血液学会. 造血器腫瘍診療ガイドライン. 2024年版.
    白血病やリンパ腫など、血液がんの治療に関する包括的なガイドライン。治療に伴う好中球減少症の管理についても言及されています26
  • Taplitz, R. A., et al. Outpatient Management of Fever and Neutropenia in Adults Treated for Malignancy: ASCO and IDSA Clinical Practice Guideline Update. Journal of Clinical Oncology, 2018.
    米国臨床腫瘍学会(ASCO)と米国感染症学会(IDSA)による、FNの外来管理に関する国際的な標準ガイドライン6
  • MSDマニュアル プロフェッショナル版. 白血球減少症の概要.
    医療専門家向けの信頼性の高い医学情報源。白血球減少症の定義、分類、原因について網羅的に解説されています7

【患者さんとご家族のための情報源】

  • がん情報サービス (ganjoho.jp)
    国立がん研究センターが運営する、信頼性の高いがん情報サイト。各種がんの統計情報や治療に関する解説が掲載されています27
  • 認定NPO法人 PIDつばさの会
    原発性免疫不全症候群(先天性の免疫疾患)の患者と家族を支援する団体。先天性好中球減少症などの希少疾患に関する情報提供や交流活動を行っています10

参考文献

  1. 白血球が少ない?白血球の正常値(基準値)は? – 日暮里・三河島内科クリニック. [インターネット]. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://www.uchida-naika.clinic/low-wbc/
  2. Leukopenia. In: Wikipedia [Internet]. [Updated 2024 May 15; cited 2025 Jun 18]. Available from: https://en.wikipedia.org/wiki/Leukopenia
  3. Biggers, A. Leukopenia (Low white blood cell count): Causes and more. Medical News Today [Internet]. 2017 Dec 20 [cited 2025 Jun 18]. Available from: https://www.medicalnewstoday.com/articles/320299
  4. やさしくわかる病気事典: 白血球減少症. MSDマニュアル家庭版 [インターネット]. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/quick-facts-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E7%99%BD%E8%A1%80%E7%90%83-%E3%81%AE-%E7%97%85%E6%B0%97/%E7%99%BD%E8%A1%80%E7%90%83%E6%B8%9B%E5%B0%91%E7%97%87
  5. 日本臨床腫瘍学会. 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン 改訂第3版. [インターネット]. 2023年11月. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://www.jsmo.or.jp/news/jsmo/doc/20231109.pdf
  6. Taplitz RA, Kennedy EB, Flowers CR, et al. Outpatient Management of Fever and Neutropenia in Adults Treated for Malignancy: ASCO and IDSA Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2018;36(14):1443-1453. doi:10.1200/JCO.2017.77.6211. Available from: https://ascopubs.org/doi/10.1200/JCO.2017.77.6211
  7. Dale DC. 白血球減少症の概要. MSDマニュアル プロフェッショナル版 [インターネット]. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/11-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%AD%A6%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%AD%A6/%E7%99%BD%E8%A1%80%E7%90%83%E6%B8%9B%E5%B0%91%E7%97%87/%E7%99%BD%E8%A1%80%E7%90%83%E6%B8%9B%E5%B0%91%E7%97%87%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81
  8. Crawford J, Dale DC, Kuderer NM, et al. Management of Neutropenia in Cancer Patients. PMC. 2014;3(2):121-133. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4059501/
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  10. 認定NPO法人PIDつばさの会 – 原発性免疫不全症候群の患者と家族を支える会. [インターネット]. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://npo-pidtsubasa.org/
  11. Ali AM, Dahman R, Almarhoon A, et al. Real-world Data of Leukopenia Evaluation as Seen in a Community Academic Center. PMC. 2024;16(5):e59670. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11000836/
  12. 医薬品医療機器総合機構. 重篤副作用疾患別対応マニュアル. [インターネット]. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://www.pmda.go.jp/files/000245257.pdf
  13. Strupp C, Gattermann N, Haas R. [Leukopenia – A Diagnostic Guideline for the Clinical Routine]. PubMed. 2017;114(45):765-771. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29145679/
  14. 難病情報センター. 自己免疫性好中球減少症など(平成21年度). [インターネット]. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://www.nanbyou.or.jp/entry/619
  15. Garcia-Pardo M, Marino-Sánchez F, Pinto V, et al. Efficacy, effectiveness and safety of long-acting granulocyte colony-stimulating factors for prophylaxis of chemotherapy-induced neutropenia in patients with cancer: a systematic review. PubMed. 2015;21(1):9-22. doi:10.1111/ijcp.12558. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25284721/
  16. 「抗がん剤治療中の発熱は危険?」FN(発熱性好中球減少症)について – Ribbons Base. [インターネット]. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://ribbonsbase.com/fn/
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  20. Kennedy EB, Bohlke K, Khorana AA, et al. Clinical Implications of Febrile Neutropenia Guidelines in the Cancer Patient Population. JCO Oncol Pract. 2019;15(1):44-48. doi:10.1200/JOP.18.00718. Available from: https://ascopubs.org/doi/10.1200/JOP.18.00718
  21. 抗がん剤治療の副作用「発熱」への対処方法と治療について解説 – 6種複合免疫療法. [インターネット]. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://gan911.com/blog/anti-cancer-drugs-fever/
  22. 大津秀一. 抗がん剤治療中でも魚・寿司・刺身・野菜・果物は食べられる. 早期緩和ケア大津秀一クリニック [インターネット]. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://kanwa.tokyo/diet-under-chemotherapy
  23. 京都市立病院. がん患者さん向け食事の情報誌「オリーブキッチン」第15号(特集:白血球(好中球)が減少したときの食事)を発行しました。. [インターネット]. [引用日: 2025年6月18日]. 以下より入手可能: https://www.kch-org.jp/news/50927-2
  24. Zhang Y, Yu H, Wang Y, et al. Mechanistic study of leukopenia treatment by Qijiao shengbai Capsule via the Bcl2/Bax/CASAPSE3 pathway. PMC. 2024;14(11):e0303893. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11408280/
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