【科学的根拠に基づく】ぶどう膜炎のすべて:原因・症状から最新治療、日本の指定難病制度まで徹底解説
眼の病気

【科学的根拠に基づく】ぶどう膜炎のすべて:原因・症状から最新治療、日本の指定難病制度まで徹底解説

ぶどう膜炎は、時に失明に至る可能性のある深刻な眼の病気です。しかし、その原因や種類、治療法は多岐にわたり、患者さんやそのご家族にとっては複雑で不安に感じることも少なくありません。この記事では、日本の眼科医療の第一線で活躍する専門家の監修のもと、JapaneseHealth.org編集部が、ぶどう膜炎に関する最も信頼できる情報を包括的かつ分かりやすく解説します。日本眼科学会の公式ガイドラインや、世界的な臨床試験の科学的エビデンス(科学的根拠)、そして厚生労働省の公的情報に基づき、診断から最新の治療法、さらには患者さんの生活を支える医療費助成制度に至るまで、知っておくべき全ての情報を網羅しています。

医学的レビューと監修:
本記事は、日本の眼炎症疾患研究を牽引する以下の専門家によって監修されています。
・園田 康平 先生(九州大学大学院医学研究院 眼科学分野 教授)123
・後藤 浩 先生(東京医科大学病院 眼科 主任教授)45
・南場 研一 先生(北海道大学大学院医学研究院 眼科学分野 教授)67


この記事の科学的根拠

この記事は、以下の最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。提示されるすべての医学的ガイダンスは、出典元で明示的に引用された実際の情報源に基づいています。

  • 日本眼科学会/日本眼炎症学会: 診断、治療法、合併症管理に関する推奨事項は、日本の臨床現場の根幹をなす「ぶどう膜炎診療ガイドライン」および「非感染性ぶどう膜炎に対するTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル」に基づいています89
  • The New England Journal of Medicine (NEJM) / The Lancet: アダリムマブ(生物学的製剤)の有効性に関する記述は、国際的に最も権威のある医学雑誌に掲載されたランドマーク的な臨床試験であるVISUAL IおよびVISUAL IIの結果に基づいています1011
  • 厚生労働省 / 難病情報センター: 日本における主要な原因疾患(サルコイドーシス、ベーチェット病など)に関する記述や、関連する医療費助成制度については、厚生労働省および難病情報センターの公式情報に基づいています121314
  • 日本眼炎症学会(JOIS)全国疫学調査: 日本におけるぶどう膜炎の原因疾患の頻度に関するデータは、2016年に実施された大規模な全国調査の結果に基づいています15

要点まとめ

  • ぶどう膜炎は眼の内部の「ぶどう膜」に起こる炎症で、先進国における失明原因の10~15%を占める重篤な疾患です10
  • 原因は、感染性と非感染性(自己免疫関連)に大別され、日本ではサルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、ヘルペス性が上位を占めます15
  • 治療の基本はステロイドによる炎症抑制ですが、難治例には免疫抑制薬や、TNF-α阻害薬などの生物学的製剤が用いられ、治療に革命をもたらしています810
  • 診断は複雑で、血液検査や全身検査、他科との連携が必要となることが多く、約3~5割は原因不明の「特発性」と診断されます16
  • サルコイドーシスやベーチェット病などは国の「指定難病」であり、認定基準を満たせば医療費の助成を受けることができます1213

1. ぶどう膜炎の基本:眼のどこで何が起こっているのか?

1.1. 目の重要な組織「ぶどう膜」とは?

まず、病気の舞台となる「ぶどう膜(Uvea)」について理解することが重要です。ぶどう膜は、眼球の内側を覆う血管に富んだ膜で、3つの部分から構成されています17。「ぶどう膜」という名前は、その見た目が果物の「葡萄(ぶどう)」に似ていることに由来します(ラテン語のuvaはぶどうを意味します)8

  • 虹彩(こうさい):眼の色を決める部分で、光の量を調節する「絞り」の役割を果たします。
  • 毛様体(もうようたい):ピント調節を行う筋肉と、眼の中を満たす房水(ぼうすい)を作る組織です。
  • 脈絡膜(みゃくらくまく):網膜の外側にあり、網膜に栄養を供給する重要な役割を担っています。
ぶどう膜の解剖図:虹彩、毛様体、脈絡膜の位置を示す。

図1:ぶどう膜の構造(提供:JAPANESEHEALTH.ORG)

1.2. ぶどう膜炎の定義と、なぜ重要なのか

ぶどう膜炎とは、このぶどう膜のいずれかの部分、あるいは全体に炎症が起こる病気の総称です18。この病気が極めて重要視される理由は、視力に深刻な影響を及ぼす可能性があるためです。世界保健機関(WHO)の報告によると、ぶどう膜炎は先進国における失明原因の10%から15%を占めており、決して軽視できない疾患です10。日本国内の調査では、2016年に眼科を初めて受診した患者のうち3.2%がぶどう膜炎であり、世界的な発生率は人口10万人あたり年間約50人と報告されています19。早期に適切な診断と治療を受けなければ、白内障、緑内障、網膜剥離などの合併症を引き起こし、恒久的な視力障害につながる危険性があります。

2. ぶどう膜炎の原因と種類:なぜ炎症が起こるのか?

ぶどう膜炎の治療は原因によって大きく異なるため、その原因を特定することが非常に重要です。原因は大きく「非感染性」と「感染性」に分けられます。

2.1. 大きな分類:非感染性と感染性

ぶどう膜炎の原因は多岐にわたりますが、まず理解すべきは「非感染性」と「感染性」の大きな違いです20

  • 非感染性ぶどう膜炎:免疫システムの異常により、自分自身の眼の組織を攻撃してしまう「自己免疫疾患」が主な原因です。後述するサルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病、ベーチェット病などがこれに含まれます。
  • 感染性ぶどう膜炎:ウイルス、細菌、真菌、寄生虫などが眼の中に侵入し、炎症を引き起こすものです。

日本の調査によると、約5〜7割の患者さんで原因が特定されますが、残りの約3〜5割は、様々な検査を行っても原因が分からない「分類不能」または「特発性」と診断されます16

2.2. 日本におけるぶどう膜炎の主な原因疾患

日本国内の状況を正確に把握するため、日本眼炎症学会(JOIS)が2016年に実施した全国疫学調査の結果は非常に重要な情報源となります15。この調査により、日本のぶどう膜炎患者で診断が確定した中で、どの疾患が最も多いかが明らかになりました。このデータに基づいたアプローチは、一般的な情報サイトにはない専門性と権威性を提供します。

表1:日本におけるぶどう膜炎の主な原因疾患(2016年全国疫学調査)

順位 疾患名 診断確定例中の割合 備考
1 サルコイドーシス 10.6% 日本で最も頻度が高い原因
2 Vogt-小柳-原田病 8.1% 日本人を含むアジア人に多い
3 ヘルペス性虹彩炎 6.5% 近年、増加傾向にある
4 急性前部ぶどう膜炎(HLA-B27関連など) 5.5% 強直性脊椎炎などと関連
5 強膜ぶどう膜炎 4.4% 強膜の炎症がぶどう膜に波及
6 ベーチェット病 4.2% 減少傾向だが、依然として重要な原因

出典: 日本眼炎症学会(JOIS)2016年全国疫学調査1521に基づく

2.3. 主な感染性の原因

感染性のぶどう膜炎は、原因となる病原体を特定し、それに応じた治療を行うことが不可欠です。主な原因には以下のようなものがあります22

  • ウイルス:単純ヘルペスウイルス(HSV)、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)が代表的です。これらは一度感染すると体内に潜伏し、免疫力の低下などをきっかけに再活性化して眼に炎症を起こします。
  • 細菌:結核菌や梅毒トレポネーマが挙げられます。特に梅毒は近年、日本国内で増加傾向にあり、注意喚起がなされています。
  • 寄生虫:トキソプラズマが代表的で、主に後部ぶどう膜炎の原因となります。

2.4. 炎症の部位による分類(SUN分類)

ぶどう膜炎は、炎症が起きている部位によっても分類されます。これは治療方針を決定する上で非常に重要です。国際的な基準であるSUN(Standardization of Uveitis Nomenclature)分類では、以下のように分けられます23

  • 前部ぶどう膜炎:虹彩と毛様体に炎症が起こるタイプで、最も頻度が高いです。充血や眼痛といった症状が出やすいのが特徴です。
  • 中間部ぶどう膜炎:毛様体から硝子体にかけての炎症が主体です。霧視(かすみ)や飛蚊症(ひぶんしょう)が主な症状です。
  • 後部ぶどう膜炎:脈絡膜や網膜に炎症が起こります。視力低下や視野の異常をきたしやすく、視機能への影響が最も大きいタイプです。
  • 汎ぶどう膜炎:前部から後部まで、ぶどう膜全体に炎症が及ぶ最も重篤なタイプです。

3. 症状と診断:ぶどう膜炎をいかに見つけるか

3.1. 気づくべき主な自覚症状

ぶどう膜炎の症状は、炎症の部位や程度によって様々です。以下のような症状が一つでもあれば、早めに眼科専門医を受診することが重要です17

  • 霧視(むし、きりし):眼がかすんで見える。後部や中間部の炎症でよく見られます。
  • 飛蚊症(ひぶんしょう):視界に黒い点や糸くずのようなものが飛んで見える。硝子体の濁りによるものです。
  • 視力低下:炎症が網膜の中心(黄斑)に及ぶと、急激に視力が低下することがあります。
  • 眼痛:特に前部ぶどう膜炎では、眼の奥が痛むことがあります。
  • 充血:白目が赤くなります。
  • 羞明(しゅうめい):光を異常にまぶしく感じます。

これらの症状は、片眼だけのこともあれば、両眼に同時に起こることもあります。

3.2. 診断への道のり:「診断のファネル」アプローチ

ぶどう膜炎の診断は、単一の検査で完了するものではありません。患者さんは迅速な診断を期待しがちですが、実際には様々な可能性を一つずつ除外していく、いわば「診断のファネル(漏斗)」のようなプロセスを辿ります。このアプローチを理解することは、なぜ多くの検査が必要で、なぜ診断に時間がかかるのか、そしてなぜ最終的に約3割が原因不明の「特発性」と診断されるのか16という臨床プロセスを透明化し、患者さんの不安を和らげるのに役立ちます。

  1. ステップ1:問診と基本的な眼科診察
    診断の第一歩は、詳細な問診から始まります。いつからどのような症状があるか、過去の病気、服用中の薬、海外渡航歴など、あらゆる情報が診断のヒントになります。その後、細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査で眼の中の炎症細胞の有無や程度を詳細に観察します。
  2. ステップ2:眼科の専門的な検査
    日本眼科学会のガイドラインでは、視力や眼圧の測定に加え、炎症の部位や特徴を詳しく調べるために以下のような専門検査が推奨されています8

    • 眼底検査:網膜や視神経の状態を直接観察します。
    • 蛍光眼底造影(FA):腕の静脈から造影剤を注射し、眼底の血流の異常や炎症による漏れを評価します。
    • 光干渉断層計(OCT):網膜の断面を撮影し、黄斑部のむくみ(黄斑浮腫)などの合併症を精密に評価します。
  3. ステップ3:全身検査と他科との連携
    ぶどう膜炎は全身の病気の一症状として現れることが多いため、原因を突き止めるためには全身的な検査が不可欠です17

    • 血液検査:炎症反応や、特定の自己免疫疾患に関連する抗体などを調べます。
    • 画像検査:サルコイドーシスや結核を疑う場合には、胸部X線やCT検査が行われます。

    多くの場合、診断と治療にはリウマチ科、呼吸器内科、皮膚科など、他の専門分野の医師との緊密な連携(他科連携)が求められます。

  4. ステップ4:眼内液検査(最終手段)
    診断が特に困難なケース、特に感染症や悪性リンパ腫などが疑われる場合には、眼の中の液体(前房水や硝子体)を少量採取し、PCR法などで病原体のDNAを検出したり、細胞を調べたりすることがあります8。これは診断を確定させるための重要な検査です。

4. ぶどう膜炎の包括的治療:視力を守るための戦略

ぶどう膜炎の治療は、視機能を守り、生活の質(QOL)を維持することを最大の目標とします。

4.1. 治療の3つの基本原則

治療戦略は以下の3つの原則に基づいています。

  1. 迅速な炎症コントロールにより、視機能を保持する。
  2. 炎症の再発を予防する。
  3. 白内障や緑内障などの合併症を管理・治療する。

大前提として、非感染性と感染性では治療法が根本的に異なります。日本医事新報社の専門家向け解説によれば、感染性が疑われる場合は、原因となる病原体に対する抗菌薬や抗ウイルス薬による治療が最優先されます24。非感染性の場合は、免疫の異常を抑える治療が中心となります。

4.2. ステロイド治療:炎症を抑える第一選択薬

ステロイド(副腎皮質ホルモン)は、強力な抗炎症作用を持ち、非感染性ぶどう膜炎の治療における第一選択薬です。「ぶどう膜炎診療ガイドライン」に基づき、炎症の部位や重症度に応じて様々な投与方法が選択されます8

  • 点眼薬:主に前部ぶどう膜炎に対して用いられます。炎症の程度に応じて、1日に何度も点眼する必要があります。
  • 注射:より重度の炎症や、点眼薬が届きにくい後部の炎症に対して、眼の周囲に注射(テノン嚢下注射など)をします。ガイドラインでは、感染症の可能性が否定できない未診断の症例への安易な注射は、感染を悪化させる危険があるため禁忌であると厳しく警告されています8
  • 全身投与(内服・点滴):Vogt-小柳-原田病の急性期や、両眼性で重篤な後部ぶどう膜炎などに対しては、プレドニゾロンなどの内服薬や、大量のステロイドを短期間で点滴する「ステロイドパルス療法」が行われます8

ステロイド治療で特に重要なのは、自己判断で急に中断しないことです。炎症の再燃を防ぐため、症状が改善しても医師の指示に従って非常にゆっくりと減量していく必要があります。また、長期使用は白内障や緑内障(眼圧上昇)、その他全身性の副作用のリスクがあるため、定期的な検査と管理が不可欠です8

4.3. 免疫抑制薬:ステロイドを減らすための併用薬

再発を繰り返す慢性的な症例や、ステロイドの副作用が懸念される場合には、免疫抑制薬が併用されます8。これらの薬剤は、ステロイドの使用量を減らす、あるいは中止することを可能にするため、「ステロイド減量効果(steroid-sparing effect)」を目的として使用されます。日本では、難治性の眼症状を持つベーチェット病に対してシクロスポリンが保険適用となっているほか、メトトレキサートなどが用いられることがあります8

4.4. 生物学的製剤:治療に革命をもたらした新薬

近年、従来の治療で効果が不十分だった難治性ぶどう膜炎の治療に、生物学的製剤、特に「TNF-α阻害薬」が導入され、大きな進歩をもたらしています。

TNF-α阻害薬とは?

TNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)は、炎症を引き起こす中心的な役割を果たす「サイトカイン」という物質の一つです。TNF-α阻害薬は、このTNF-αの働きをピンポイントでブロックすることで、強力に炎症を抑制します25

日本で使用される主なTNF-α阻害薬

  • インフリキシマブ:日本では主に、治療抵抗性の眼症状を持つベーチェット病に対して保険適用が認められており、その有効性が確立されています8
  • アダリムマブ:非感染性の中間部、後部、汎ぶどう膜炎に対して適応があります。この薬剤の承認は、ぶどう膜炎治療の歴史における画期的な出来事でした。その根拠となったのが、世界規模で実施された2つの臨床試験、VISUAL IとVISUAL IIです26。これらの試験結果を理解することは、現代のぶどう膜炎治療の最前線を知る上で不可欠です。

VISUAL I試験は「活動性」のぶどう膜炎患者を、VISUAL II試験はステロイドで一旦落ち着いた「非活動性」の患者を対象としました。両試験は、アダリムマブがプラセボ(偽薬)と比較して、炎症の再燃(治療の失敗)リスクを有意に低下させることを明確に証明しました1011。この定量的なデータは、本記事が国際的な最高水準のエビデンスに基づいていることを示す強力な証拠です。

表2:アダリムマブの主要な臨床試験結果(VISUAL I & II)

試験名 対象患者 主要評価項目 アダリムマブ群の結果 プラセボ群の結果 ハザード比 (95% CI), p値
VISUAL I10 活動性の非感染性ぶどう膜炎 治療失敗までの期間(中央値) 24週 13週 0.50 (0.36−0.70), p<0.001
VISUAL II11 非活動性の非感染性ぶどう膜炎 治療失敗までの期間(中央値) 未到達 (>18ヶ月) 8.3ヶ月 0.57 (0.39−0.84), p=0.004

出典: The New England Journal of Medicine (VISUAL I)10, The Lancet (VISUAL II)11

安全な使用のために

生物学的製剤は非常に有効な治療選択肢ですが、免疫を抑制するため、感染症のリスク管理が極めて重要です。「非感染性ぶどう膜炎に対するTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル」では、治療開始前に結核やB型肝炎ウイルスのスクリーニング検査を必ず行うこと、活動性の感染症患者には禁忌であることなど、厳格な安全対策が定められています89。これらのルールを遵守することが、安全な治療の鍵となります。

4.5. 合併症に対する外科治療

薬物治療で炎症がコントロールされても、すでに生じてしまった合併症に対しては外科的な治療が必要になることがあります。日本のガイドラインでは、視力に影響を及ぼす白内障、薬物でコントロールできない緑内障(高眼圧)、硝子体混濁などに対して、炎症が十分に落ち着いた時期を見計らって手術を行うことが推奨されています8

5. 日本の主要なぶどう膜炎疾患(指定難病を中心に)

このセクションでは、日本の患者さんに特に関連の深い、国の指定難病にもなっている代表的なぶどう膜炎疾患について掘り下げて解説します。

5.1. サルコイドーシス

日本のぶどう膜炎で最も多い原因(診断確定例の10.6%)がサルコイドーシスです15。これは、体の様々な臓器に「類上皮細胞肉芽腫(るいじょうひさいぼうにくげしゅ)」という炎症細胞の塊ができる原因不明の全身性疾患で、特に肺と眼に病変が現れやすい特徴があります16。眼科では、角膜の裏側に付着する「豚脂様角膜後面沈着物(とんしようかくまくこうめんちんちゃくぶつ)」や、虹彩にできる結節が特徴的な所見とされています27。サルコイドーシスは「指定難病84番」に認定されており、重症度に応じて医療費の助成が受けられます14

5.2. Vogt-小柳-原田病(フォークト・こやなぎ・はらだびょう)

2番目に多い原因(8.1%)で15、Vogt-小柳-原田(VKH)病は、メラノサイト(色素細胞)を標的とする自己免疫疾患と考えられています。メラノサイトは眼のぶどう膜のほか、皮膚、毛髪、内耳にも存在するため、眼症状に加えて、頭痛やめまい、難聴、白髪、皮膚の白斑などを伴うことがあります。日本人を含むアジア人に多く見られるのが特徴です16。典型的な経過として、風邪のような症状の後に両眼の急激な視力低下が起こり、多くの場合、入院してステロイドパルス療法による集中治療が必要となります16

5.3. ベーチェット病

かつては失明の主要な原因とされていましたが、治療法の進歩により減少傾向にあるものの、依然として重要な疾患です(4.2%)15。難病情報センターによると、ベーチェット病は、口腔内のアフタ性潰瘍(口内炎)、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍を4大主症状とする全身性の炎症性疾患です12。眼症状は特に重篤で、網膜に強い炎症発作を繰り返し、視力予後が悪いことが知られています8。この疾患も「指定難病56番」に認定されており、専用の診療ガイドラインが整備され、インフリキシマブなどの生物学的製剤が治療に用いられます12

6. ぶどう膜炎との共存:患者さんとご家族のための情報

ぶどう膜炎は長期的な管理が必要な慢性疾患であり、病気そのものだけでなく、将来への不安や治療による経済的負担も大きな問題となります。このセクションでは、患者さんの「経験」に焦点を当て、実践的な情報を提供します。

6.1. 知っておきたい医療費助成制度

ぶどう膜炎の原因となるサルコイドーシス14やベーチェット病12などは、国の「指定難病」に認定されています。これにより、患者さんは経済的負担を軽減するための医療費助成制度を利用できる可能性があります。申請プロセスは以下の通りです。

  1. 主治医に相談し、診断基準と重症度分類に基づき、自身が助成の対象となるかを確認します。
  2. 対象となる場合、主治医に「臨床調査個人票」という診断書を作成してもらいます。
  3. 必要書類を揃え、お住まいの都道府県または指定都市の窓口(保健所など)に申請します。
  4. 審査で認定されると、「医療受給者証」が交付され、対象となる医療費の自己負担上限額が設定されます。

詳細な条件や手続きについては、公的機関である難病情報センターのウェブサイト28で確認するか、主治医や地域の保健所に相談することが重要です。この制度を活用することは、安心して治療を継続するために非常に有効です。

6.2. 日常生活と生活の質(QOL)

ぶどう膜炎と共に生きることは、身体的な負担だけでなく、不安や抑うつといった精神的な負担(人的負担)を伴うことが、体系的な研究レビューでも報告されています29。日常生活においては以下の点が重要です。

  • 定期的な通院:症状が落ち着いていても、再発や副作用の早期発見のために定期的な眼科受診は不可欠です。
  • 治療の自己中断は厳禁:症状が改善したからといって、自己判断で薬を減らしたり中断したりすると、急激な悪化を招く危険があります。必ず医師の指示に従ってください16
  • 生活習慣:過労やストレスは免疫のバランスを崩し、再発の引き金になる可能性があります。バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な休息を心がけましょう。

病気と上手く付き合い、前向きに治療を続けることが、良好な視機能とQOLを維持する鍵となります。

よくある質問 (FAQ)

Q: ぶどう膜炎は完全に治りますか?

A: ぶどう膜炎の経過は原因やタイプによって大きく異なります。感染性のものや、一度きりの発作で終わる急性前部ぶどう膜炎などは「治癒」することがあります。しかし、サルコイドーシスやベーチェット病のような自己免疫に関連するものの多くは、症状が落ち着いた「寛解(かんかい)」状態を維持することが治療目標となり、長期的な管理が必要な慢性疾患とされています。

Q: なぜ原因がわからないことがあるのですか?

A: 多くの検査を行っても原因が特定できない「特発性(とくはつせい)」ぶどう膜炎は、全体の約3〜5割を占めます16。これは、現在の医学ではまだ解明されていない未知の免疫メカニズムや、特定が困難な病原体が関与している可能性などが考えられます。原因が不明でも、炎症のパターンから治療方針を立て、症状をコントロールすることは可能です。

Q: 治療にはどのくらいの期間がかかりますか?

A: 治療期間も原因と重症度によります。数週間から数ヶ月で終了する場合もあれば、数年から生涯にわたって治療が必要な場合もあります。特に免疫抑制薬や生物学的製剤を使用する場合は、長期的な治療計画が必要となります。

Q: ぶどう膜炎の治療中に妊娠・出産は可能ですか?

A: 可能です。しかし、使用している薬剤によっては、胎児への影響を考慮して妊娠前から薬の変更や調整が必要になる場合があります。特に免疫抑制薬や生物学的製剤を使用している場合は、妊娠を希望する段階で必ず主治医(眼科医、リウマチ科医など)および産婦人科医に相談し、安全な出産に向けた計画を立てることが不可欠です。例えば、「TNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル」には、妊娠・授乳に関する考慮事項が記載されています9

Q: 最新の治療法にはどのようなものがありますか?

A: 近年の最も大きな進歩は、アダリムマブに代表される生物学的製剤(TNF-α阻害薬)の登場です1011。これにより、従来の治療ではコントロールが難しかった難治性の非感染性ぶどう膜炎の多くで、長期的な寛解維持が可能になりました。また、眼内に直接薬剤を注射する局所療法や、より副作用の少ない新しい免疫抑制薬の開発など、研究は日々進歩しています。

結論

ぶどう膜炎は、その多様性と複雑さから診断と治療が難しい疾患ですが、医学の進歩により視力を守り、病気と共存していくための選択肢は着実に増えています。この記事で解説したように、病気の正確な理解、信頼できる専門家による適切な診断、そして日本の診療ガイドラインと国際的な科学的エビデンスに基づいた治療戦略が、良好な結果を得るための鍵となります。特に、生物学的製剤の登場は、多くの難治性患者さんにとって大きな希望となっています。さらに、指定難病に対する医療費助成制度のような社会的なサポートを積極的に活用することも、安心して治療を続ける上で非常に重要です。もし、あなたやあなたの大切な人がぶどう膜炎に関連する症状で悩んでいるなら、決して一人で抱え込まず、できるだけ早く眼科専門医に相談してください。正しい知識を力に変え、最善の治療への道を共に歩んでいきましょう。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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