【科学的根拠に基づく】ドライアイ症状管理のための栄養学的アプローチ:症状緩和のための完全ガイド
眼の病気

【科学的根拠に基づく】ドライアイ症状管理のための栄養学的アプローチ:症状緩和のための完全ガイド

ドライアイは、単なる目の不快感にとどまらず、世界中の数百万人の生活の質に影響を及ぼす複雑な疾患です。多くの人々が点眼薬による対症療法に頼りがちですが、最新の科学的研究は、日々の食事がこの慢性的な状態の管理において極めて重要な役割を果たすことを明らかにしています。問題の本質が眼表面の「慢性炎症」と「酸化ストレス」にあることを理解すれば、食事を通じて体の中からこれらの根本原因に働きかけることの重要性が見えてきます。本稿では、JapaneseHealth.org編集委員会が、信頼性の高い科学的エビデンスのみに基づき、ドライアイの症状を緩和し、目の健康を長期的に維持するための包括的な栄養戦略を、日本の皆様の食生活に合わせて分かりやすく解説します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下の一覧には、実際に参照された情報源のみを、提示された医学的指導との直接的な関連性と共に記載しています。

  • 涙液膜および眼表面学会(TFOS): 本記事におけるドライアイの定義、病態生理(悪循環)、および栄養が眼表面に与える影響に関する包括的な記述は、同学会が発表したTFOS DEWS II報告書およびTFOS Lifestyle報告書に基づいています。
  • 日本眼科学会: 日本におけるドライアイの危険因子(例:オメガ6対オメガ3の比率)や治療の選択肢に関する記述は、同学会が策定したドライアイ診療ガイドラインに準拠しています。
  • 韓国国民健康栄養調査(KNHANES)に基づく研究: ドライアイのリスクと特定の栄養素(ビタミンA、C、炭水化物、脂肪、ナトリウム、亜鉛など)の摂取量との関連性に関する具体的な統計データ(調整済みオッズ比)は、この大規模疫学調査の結果を引用しています。
  • 複数のランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシス: オメガ3脂肪酸の摂取がドライアイの自覚症状および客観的指標を改善するという核心的な推奨事項は、複数の質の高い臨床試験を統合解析した複数のメタアナリシスによって裏付けられています。

要点まとめ

  • ドライアイは単なる乾燥ではなく、涙液の恒常性喪失と眼表面の「慢性炎症」を本態とする多因子性の疾患です1
  • 科学的根拠が最も豊富な対策は、サバやイワシなどの青魚に含まれる「オメガ3脂肪酸」の摂取です。これは体内の炎症を抑制し、涙の質を改善する効果が複数のメタアナリシスで確認されています2
  • ニンジンやホウレンソウに含まれるビタミンA、ピーマンや柑橘類に含まれるビタミンCなどの抗酸化ビタミンは、眼表面の粘膜を保護し、酸化ストレスから守るために重要です34
  • 一方で、精製炭水化物、糖類、不健康な脂肪(オメガ6脂肪酸)、過剰な塩分の摂取は、体内の炎症を促進し、ドライアイの強力な危険因子となることが大規模研究で示されています3
  • 特定の栄養素のサプリメントに頼るよりも、魚、多彩な野菜や果物、全粒穀物を中心とした「地中海食」や「伝統的な和食」のようなバランスの取れた食事パターン全体が、最も安全かつ効果的なアプローチです5

第1章 ドライアイの理解:現代の健康課題

ドライアイは、単なる目の不快感にとどまらず、世界中の数百万人の生活の質に影響を与える複雑な疾患です。この疾患の管理において栄養が果たす役割を理解するためには、まずドライアイが科学的にどのように定義され、どのようなメカニズムで発症するのかを正確に把握することが不可欠です。本章では、最新の国際的なコンセンサスに基づき、ドライアイの定義、病態生理、そして特に日本における特徴について詳述します。

1.1 ドライアイの定義:国際的コンセンサス

ドライアイ(Dry Eye Disease: DED)に関する現在の最も権威ある定義は、国際的な専門家集団である涙液膜および眼表面学会(Tear Film & Ocular Surface Society)が発表した第2回ドライアイワークショップ(TFOS DEWS II)報告書によって示されています1。この報告書では、ドライアイは「涙液膜の恒常性(ホメオスタシス)の喪失を特徴とする多因子性の眼表面疾患」と定義されています1。この定義には、疾患の核心をなすいくつかの重要な要素が含まれています。

  • 涙液膜の不安定性と高浸透圧:健康な目では、涙は安定した膜(涙液膜)を形成し、眼表面を保護・保湿しています6。ドライアイでは、この涙液膜が容易に破壊される「不安定性」が生じます。これにより涙の蒸発が亢進し、涙中の塩分濃度が高まる「高浸透圧」状態に陥ります。この高浸透圧こそが、眼表面にダメージを与える主要な引き金となります1
  • 眼表面の炎症と障害:高浸透圧状態は、眼表面の細胞に炎症反応を引き起こし、物理的な障害をもたらします3。この炎症は、ドライアイの症状を悪化させ、疾患を慢性化させる中心的な役割を担っています。
  • 神経感覚異常:近年の研究では、ドライアイが眼表面の神経機能に異常をもたらすことが明らかにされています1。これにより、実際の眼表面の乾燥度や障害の程度以上に、強い痛みや不快感(異物感、灼熱感など)を感じることがあります。

1.2 ドライアイの悪循環:自己増殖するサイクル

ドライアイの病態生理は、「悪循環(Vicious Circle)」という概念で説明されます1。これは、一度始まった病態が次々と新たな問題を引き起こし、自己増殖的に症状を悪化させていくプロセスです。

  1. 何らかの原因(加齢、環境、生活習慣など)で涙液膜が不安定になる。
  2. 涙の蒸発が亢進し、涙液が高浸透圧になる。
  3. 高浸透圧が眼表面の細胞に炎症と障害を引き起こす。
  4. 炎症と障害は、涙の質をさらに低下させ、涙液膜の不安定性を助長する。

このサイクルが繰り返されることで、ドライアイは慢性化し、重症化していくのです。この悪循環の概念を理解することは、栄養学的アプローチの重要性を認識する上で極めて重要です。なぜなら、特定の栄養素が持つ抗炎症作用などは、この悪循環の鎖を断ち切るための有効な手段となり得るからです。

1.3 日本における状況:有病率と独自の特徴

ドライアイは日本においても極めて一般的な疾患です。日本眼科学会が策定したドライアイ診療ガイドラインによると、40歳以上の住民を対象とした大規模な疫学調査では、男性の12.5%、女性の21.6%がドライアイに罹患していると報告されています7。特に40代以上の女性で有病率が高い傾向は、隣国の韓国で行われた研究結果とも一致しており、加齢やホルモンバランスの変化が関与している可能性が示唆されています3

さらに、日本のドライアイ診療において特筆すべきは、「BUT短縮型ドライアイ」という病型の存在です8。これは、涙の分泌量(量)は正常範囲内であるにもかかわらず、涙液膜の安定性が低下している(涙の質が悪い)ためにドライアイ症状を呈するタイプです。涙液膜破壊時間(Tear Film Break-up Time: BUT)が短縮していることからこの名がついており、日本のドライアイ患者の多くがこのタイプに分類されると考えられています8。この事実は、単に涙の量を増やすだけでなく、涙の「質」、特に涙の蒸発を防ぐ油層の安定性を改善することの重要性を示唆しており、後述する脂質などの栄養素の役割を考える上で重要な背景となります。

1.4 本質的な問題の理解:「なぜ」を掘り下げる

多くの人々はドライアイを「目が乾くこと」と単純に捉えがちですが、科学的な知見はより深い本質を明らかにしています。TFOS DEWS IIの定義や数多くの臨床研究が一貫して指摘しているのは、ドライアイが単なる水分不足ではなく、眼表面における「慢性的な炎症性疾患」であるという事実です1

この視点の転換は、治療戦略を考える上で決定的な意味を持ちます。問題が単なる「乾燥」であれば、人工涙液で水分を補うことが主な対策となるでしょう。しかし、根本原因が「炎症」と「酸化ストレス」にあるならば、対策の焦点はそれらを抑制することに移ります。日本のドライアイで主流とされるBUT短縮型ドライアイも、その多くが涙の油層を分泌するマイボーム腺の機能不全に関連しており、この機能不全の根底には炎症が深く関わっています8

したがって、ドライアイに対する最も賢明な栄養学的アプローチとは、単に水分補給を心がけること以上に、体の中から炎症を抑え、酸化ストレスから目を守る力を持つ栄養素を積極的に摂取することであると言えます。この理解こそが、本稿で詳述する具体的な食材選びの論理的基盤となるのです。

第2章 栄養学的介入の礎:オメガ3脂肪酸

ドライアイの栄養管理において、最も広範かつ詳細に研究され、その有効性が数多くの科学的エビデンスによって裏付けられているのがオメガ3脂肪酸です。その抗炎症作用は、ドライアイの悪循環を断ち切る上で中心的な役割を果たすと考えられています。本章では、オメガ3脂肪酸がドライアイに効くメカニズム、臨床試験の結果、そして実践的な摂取方法について深く掘り下げます。

2.1 作用機序:炎症の根源に働きかける

オメガ3脂肪酸の主な効果は、体内の炎症プロセスを制御することにあります。そのメカニズムは、炎症を引き起こす「オメガ6脂肪酸」との競合関係によって説明できます。

体内で炎症反応が起きる際、シクロオキシゲナーゼ(COX)やリポキシゲナーゼ(LOX)といった酵素が働きます。これらの酵素は、細胞膜の脂質からアラキドン酸(オメガ6脂肪酸の一種)を取り込み、炎症を促進するプロスタグランジンやロイコトリエンといった物質を産生します2。ここで、食事からオメガ3脂肪酸(特にエイコサペンタエン酸:EPAやドコサヘキサエン酸:DHA)を十分に摂取すると、これらのオメガ3脂肪酸がアラキドン酸と競合し、酵素に取り込まれるようになります。オメガ3脂肪酸から作られる代謝物は、炎症作用が非常に弱いか、あるいは積極的に炎症を抑制する働きを持ちます9。つまり、オメガ3脂肪酸が豊富な食事は、体内の炎症反応の経路を「炎症促進」から「炎症抑制」へとシフトさせる効果があるのです。

さらに、オメガ3脂肪酸は涙の質を直接的に改善する効果も報告されています。涙の最も外側にある油層は、涙の蒸発を防ぎ、安定性を保つために不可欠です。この油層は、まぶたにあるマイボーム腺から分泌されますが、オメガ3脂肪酸はこのマイボーム腺の機能を改善し、より質の良い油を分泌させることで、涙の安定性を高め、蒸発を抑制します10。この作用は、涙の質が問題となる「BUT短縮型ドライアイ」が主流である日本の患者にとって、特に重要な意味を持ちます8

2.2 エビデンスの統合:臨床試験が示すもの

オメガ3脂肪酸の有効性は、多数の質の高い臨床試験によって検証されています。特に、複数の試験結果を統合して分析する「メタアナリシス」は、最も信頼性の高いエビデンスとされています。

2023年に発表された最新のメタアナリシスでは、19のランダム化比較試験(RCT)に参加した合計4,246人のデータを解析した結果、オメガ3脂肪酸の摂取がドライアイに対して顕著な改善効果をもたらすことが示されました2。具体的には、プラセボ(偽薬)群と比較して、オメガ3摂取群では以下の項目で統計的に有意な改善が見られました。

  • 自覚症状の改善(p<0.001)
  • 涙液膜破壊時間(TBUT)の延長(p<0.001)
  • シルマー試験値(涙液分泌量)の増加(p<0.001)
  • 涙液浸透圧の低下(p<0.001)

これらの結果は、オメガ3脂肪酸が患者の感じる不快感を和らげるだけでなく、涙の「質」と「量」の両方を客観的に改善することを示しています。他のメタアナリシスでも、TBUTやシルマー試験の改善が確認されています11。また、3つのRCTをレビューした研究では、毎日のオメガ3サプリメント摂取がドライアイの重症度を有意に軽減したと結論付けています10

さらに重要な発見は、その効果が摂取条件によって変わるという「用量反応関係」が示されたことです。前述の2023年のメタアナリシスでは、以下の傾向が明らかになりました2

  • 摂取量が多いほど
  • 摂取期間が長いほど
  • EPAの含有率が高いほど

ドライアイの自覚症状および客観的指標の改善効果が高まることが確認されました。これは、「どのオメガ3を、どれくらいの期間、どれくらいの量で摂取するか」という「賢い選択」が、効果を実感する上で重要であることを科学的に裏付けています。

2.3 オメガ6とオメガ3の比率:国際的な共通認識

オメガ3脂肪酸の摂取と同時に、炎症を促進するオメガ6脂肪酸の過剰摂取を避けることも重要です。この「オメガ6対オメガ3の比率」のバランスが、ドライアイのリスクに影響を与えることは、国際的な共通認識となっています。

日本のドライアイ診療ガイドラインでは、「オメガ3脂肪酸に対してオメガ6脂肪酸の摂取量が多いこと」がドライアイ発症の危険因子であると明確に指摘されています7。この見解は、TFOS DEWS IIの栄養に関する報告書でも支持されており、現代の食生活で多用される多くの植物油(コーン油、大豆油、サフラワー油など)がオメガ6脂肪酸を豊富に含むことが指摘されています5。また、韓国で行われた大規模研究でも、総脂肪摂取量が多いほどドライアイのリスクが高まることが示されており3、脂質の「種類」と「バランス」がいかに重要であるかを物語っています。

2.4 食材からの摂取:オメガ3を食卓へ

オメガ3脂肪酸は体内で合成できない必須脂肪酸であるため、食事から摂取する必要があります。主な供給源は以下の通りです。

  • 魚介類(長鎖脂肪酸 EPA/DHA):最も効率的な供給源です。特に、サケ、サバ、イワシ、マグロ、ニシン、サンマなどの脂肪分の多い青魚に豊富に含まれています2。日本のガイドライン作成の根拠となった研究では、マグロの摂取量が多い女性でドライアイの発症率が低いことが報告されており、日本の食文化との親和性も高いと言えます7
  • 植物性食品(短鎖脂肪酸 ALA):亜麻仁(フラックスシード)、チアシード、くるみ、大豆などに含まれるα-リノレン酸(ALA)もオメガ3脂肪酸の一種です2。ただし、体内でALAからEPAやDHAに変換される効率はあまり高くないため、より直接的な効果を期待する場合は魚介類からの摂取が推奨されます。

2.5 研究のニュアンスを読み解く:DREAM研究のパラドックス

オメガ3脂肪酸に関する情報を調べると、一見矛盾した結果に遭遇することがあります。特に、米国で行われた大規模臨床試験であるDREAM研究では、「オメガ3サプリメントはドライアイに有効ではなかった」と結論付けられました12。一方で、これまで述べてきたように、数多くのメタアナリシスでは明確な有効性が示されています2。この矛盾は科学の不確かさを示すものではなく、臨床試験の設計の細部を理解することで解決できます。

この謎を解く鍵は、DREAM研究で「プラセボ(偽薬)」として使用された物質にあります。この研究では、プラセボとしてオリーブオイルが用いられました5。オリーブオイルは単なる不活性な油ではなく、それ自体が抗炎症作用を持つことが知られています。つまり、DREAM研究では、オメガ3サプリメントを摂取する群と、「軽度の抗炎症作用を持つ油」を摂取する群とを比較していたことになります。対照群がすでに有効な治療を受けていたため、両群間の差が検出しにくくなった可能性が非常に高いのです。この試験デザインの特性を考慮せずに、「オメガ3は効かない」と結論付けるのは早計です。

さらに、2023年のメタアナリシスが示したように、オメガ3の効果は摂取量、期間、そしてEPAの含有率に依存します2。DREAM研究は、ある特定の用量と製剤を用いた一つの試験に過ぎません。

これらの事実を総合すると、科学的エビデンスの全体像は、オメガ3脂肪酸がドライアイ管理に有効な役割を果たすことを強く支持しています。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、「どのような種類のオメガ3を(特にEPAの比率)」「どれくらいの量」「どれくらいの期間」摂取するかが重要であるという、より洗練された結論が導き出されます。この理解は、単なる情報の羅列を超え、実践的な「賢い選択」を可能にするための重要な知見です。

第3章 眼表面の完全性を保つ必須ビタミン

オメガ3脂肪酸が炎症という根本原因に働きかける一方で、眼表面の組織そのものを健康に保ち、涙液の質を維持するためには、様々なビタミンが不可欠な役割を果たします。本章では、ドライアイ管理において特に重要とされるビタミンA、D、C、E、そしてB群について、その機能と科学的根拠、豊富な食材を解説します。

3.1 ビタミンA:眼表面の守護神

ビタミンAは、目の健康、特に眼表面の構造と機能の維持に不可欠な栄養素です。その役割は多岐にわたります。

  • 機能:ビタミンAは、目の最も外側にある角膜と結膜の上皮細胞が正常に機能するために必須です5。特に、涙液膜の最も内側にあるムチン層を産生する「杯細胞(ゴブレット細胞)」の健康を維持する上で重要な役割を担います5。ムチン層は涙を眼表面に均一に広げ、涙液膜を安定させる働きがあるため、ビタミンAが不足すると涙の質が低下し、涙液膜が不安定になります。これは、BUT短縮型ドライアイの病態に直接関わります8。実際に、韓国の研究ではビタミンAの摂取量が多いほどドライアイのリスクが低いという逆相関の関係が報告されています3
  • 食材:ビタミンAは2つの形で摂取されます。
    • レチノール(動物性食品):動物のレバー、卵、乳製品などに含まれる、すぐに利用できる形のビタミンAです13。ただし、レチノールは脂溶性で体内に蓄積しやすいため、サプリメントやレバーの過剰摂取は頭痛や皮膚の乾燥、肝障害などの過剰症を引き起こすリスクがあるため注意が必要です14
    • β-カロテン(植物性食品):ニンジン、サツマイモ、ホウレンソウ、ケールなど、色の濃い緑黄色野菜に含まれるプロビタミンAです4。β-カロテンは体内で必要な分だけビタミンAに変換されるため、過剰症の心配がほとんどなく、安全な供給源と言えます14
  • 実践的なヒント:ビタミンAは脂溶性ビタミンであるため、油と一緒に摂取することで吸収率が高まります15。ニンジンやホウレンソウをオリーブオイルで炒めるなど、調理法を工夫すると効果的です。

3.2 ビタミンD:注目の抗炎症ビタミン

近年、ビタミンDの欠乏とドライアイとの関連性を示唆する研究が増えています。

  • 機能:ビタミンDは、骨の健康に重要であることで知られていますが、免疫系の調節にも深く関与しています。ドライアイとの関連では、ビタミンDが眼表面の炎症を抑制し、涙液の質を改善する可能性が指摘されています5。ビタミンD欠乏症の患者に補充療法を行ったところ、ドライアイの症状と客観的所見が改善したという報告もあります5
  • 食材:ビタミンDを多く含む食品は限られていますが、サケやサバなどの脂肪分の多い魚、強化牛乳、そしてキノコ類(特に天日干ししたもの)が挙げられます14。主な供給源は日光を浴びることで皮膚で合成されるため、適度な日光浴も重要です。

3.3 抗酸化ビタミン(C・E):細胞の保護者

ドライアイの病態には、活性酸素による「酸化ストレス」が関与していることが示されています16。ビタミンCとビタミンEは、強力な抗酸化物質として、活性酸素によるダメージから眼組織を守る働きをします。

  • 機能:これらのビタミンは、眼表面の細胞が酸化ストレスによって傷つくのを防ぎ、炎症を軽減する効果が期待されます17。特にビタミンCについては、韓国の研究で摂取量が多いほどドライアイのリスクが有意に低下することが示されています(調整済みオッズ比:0.85)3
  • 食材(ビタミンC):柑橘類(オレンジ、グレープフルーツ)、ピーマン、ブロッコリー、イチゴ、キウイなどに豊富です3
  • 食材(ビタミンE):アーモンドなどのナッツ類、ひまわりの種、ホウレンソウ、アボカドなどに多く含まれます18

3.4 ビタミンB群(B6・B12):神経機能のサポーター

ビタミンB群、特にビタミンB6とB12は、神経系の健康維持に重要な役割を果たします13

  • 機能:ドライアイは、眼表面の「神経感覚異常」を伴うことが知られています1。ビタミンB12には神経を保護・修復する作用があり、ドライアイに伴う痛みや不快感を和らげる効果が期待されています5。実際に、ビタミンB12の点眼薬がドライアイ症状を改善するという報告もあります。
  • 食材:肉類、魚介類、卵、乳製品、豆類、全粒穀物など、幅広い食品に含まれています13

3.5 総合的な視点:相乗効果と安全性

これまでに挙げたビタミンは、それぞれが重要な役割を担っていますが、その効果は単独で摂取するよりも、バランスの取れた食事を通じて複合的に摂取することで最大限に発揮されると考えられます。例えば、ホウレンソウにはビタミンA(β-カロテン)、C、Eがすべて含まれており、自然な形で相乗効果が期待できます18

TFOS DEWS IIの報告書も、個別のサプリメントに関する質の高いエビデンスは限定的であるとしつつ、地中海食のような健康的な食事パターンの有効性を支持しています5。また、ビタミンAのように、サプリメントによる高用量の摂取が過剰症のリスクを伴う栄養素も存在します14。この危険性は、β-カロテンとして野菜から摂取するなど、食品から摂ることで大幅に低減できます。

したがって、最も賢明で安全なアプローチは、特定のビタミンサプリメントに頼るのではなく、多彩な色の野菜や果物、ナッツ、良質なたんぱく質を豊富に含む食事を構築することです。これにより、体が必要とする多様な保護的栄養素をバランス良く、かつ安全に摂取することが可能になります。

第4章 涙液膜の健康を支えるミネラルと水分

オメガ3脂肪酸やビタミンといった特定の栄養素が注目されがちですが、目の健康を維持するための土台として、ミネラルや適切な水分補給もまた不可欠な要素です。これらの基本的な要素が、涙液の恒常性を保ち、眼表面の健康を支えています。本章では、ドライアイ管理において重要な役割を果たすミネラルと、全ての生命活動の基本である水分補給の重要性について解説します。

4.1 眼を支える主要ミネラル

いくつかのミネラルは、直接的または間接的に目の機能に関与しています。

  • 亜鉛:亜鉛は、肝臓に蓄えられたビタミンAを網膜へ運搬する過程で重要な役割を果たします4。また、目を紫外線から守る色素であるメラニンの生成にも関与しています。そのため、多くの眼科関連の情報源で亜鉛の重要性が指摘されています4。しかし、ここで注目すべきは、韓国で行われた大規模な疫学調査の結果です。この研究では、意外にも亜鉛の摂取量が多いほど、ドライアイのリスクが高くなるという相関関係が示されました(調整済みオッズ比:1.26)3。この結果は、後述するように栄養摂取における「バランス」の重要性を示唆するものです。
  • カリウム、カルシウム、マグネシウム:前述の韓国の研究では、これらのミネラルの摂取量が多いことが、ドライアイリスクの低下と関連していることが示されました3。カリウム(調整済みオッズ比:0.88)、カルシウム(同0.82)、マグネシウム(同0.87)は、いずれも統計的に有意な保護因子として報告されています。また、カリウムの欠乏がドライアイの一因となる可能性も指摘されています19

食材:

  • 亜鉛:豆類、種子類、ナッツ類、乳製品、肉類、魚介類(特に牡蠣)20
  • カリウム:バナナ、アボカド、アーモンド、レーズン19
  • マグネシウム:緑葉野菜、ナッツ類、海藻類、納豆21

4.2 水分補給:最も基本的な要件

涙の約98%は水分で構成されています。したがって、体全体の水分が不足する脱水状態は、涙の分泌量を直接的に減少させ、ドライアイの症状を悪化させる可能性があります。

適切な水分補給は、涙液の量を維持し、体全体の細胞機能を正常に保つための最も基本的かつ重要な要件です3。多くの専門機関は、ドライアイの症状を持つ人々に対して、1日に8〜10杯(約1.5〜2.0リットル)の水を飲むことを推奨しています18。特に、空気が乾燥する季節や、空調の効いた室内で長時間過ごす際には、意識的な水分補給が重要となります。

4.3 バランスの原則:多ければ良いとは限らない

ミネラル、特に亜鉛に関するデータは、栄養学における極めて重要な原則を浮き彫りにします。それは、「多ければ多いほど良い」という考え方が必ずしも正しくないということです。

亜鉛が目の健康に必要であることは事実ですが、大規模研究で高摂取が危険性と関連付けられたという事実は3、単純な比例関係ではないことを示唆しています。この矛盾は、いくつかの可能性によって説明できます。一つは、栄養素の効果が「U字型カーブ」を描く可能性です。つまり、欠乏症も過剰症も共に問題となり、至適な摂取範囲が存在するということです。もう一つは、亜鉛の高摂取が、他の不健康な食習慣(例えば、亜鉛を多く含む加工肉の多食など)の代理指標となっている可能性です。実際に同研究では、総脂肪やコレステロールの摂取も危険因子として同定されています3

この亜鉛の事例は、「特定の栄養素を最大化する」というサプリメント中心のアプローチの潜在的な危険性に対する強力な警鐘となります。それは、本稿が一貫して提唱する核心的なメッセージ、すなわち「多様なホールフード(未加工の食品)を通じて栄養のバランスを達成することが、個別の栄養素を大量に摂取するよりも優れており、かつ安全である」という考えを裏付けるものです。栄養管理の目標は、欠乏を避け、体全体の調和(ホメオスタシス)を保つことにあり、個々の栄養素の数値を最大化することではありません。この洗練された理解は、読者がより賢明で持続可能な食生活を築く上で、非常に価値のある指針となります。

第5章 個別栄養素を超えて:食事パターン全体の影響

これまで個別の栄養素がドライアイに与える影響を見てきましたが、実際の食事はこれらの栄養素の複雑な組み合わせです。近年の栄養学では、単一の栄養素を分析するだけでなく、食事全体を一つの「パターン」として捉え、その健康への影響を評価するアプローチが重視されています。本章では、食事パターンがドライアイに与える影響と、近年注目されている「腸-眼相関」という新しい概念について解説します。

5.1 腸-眼相関:新たなフロンティア

最新の研究領域として、「腸-眼相関(Gut-Eye Axis)」という概念が注目を集めています。これは、腸内細菌叢(腸内フローラ)の健康状態が、遠く離れた器官である目の炎症状態に影響を与えるという考え方です5

腸内には数兆個もの細菌が生息し、免疫系の調節に重要な役割を果たしています。高脂肪・高糖質な欧米型の食事などは、腸内細菌叢のバランスを崩し(ディスバイオーシス)、悪玉菌を増やすことが知られています。この腸内環境の悪化が、体全体の軽度な慢性炎症(全身性炎症)を引き起こし、その影響が眼表面にまで及んでドライアイの病態を悪化させるのではないか、と考えられています5。動物実験では、高脂肪食を与えたマウスで腸内環境の悪化とドライアイ様の症状が同時に観察されたという報告もあります。

この概念はまだ研究の初期段階にありますが、将来的にはプロバイオティクス(善玉菌)やプレバイオティクス(善玉菌の餌)の摂取が、ドライアイの新たな治療戦略となる可能性を秘めています。ヨーグルト、キムチ、納豆といった発酵食品は、腸内環境を整える上で有益な食品として挙げられます13

5.2 有益な食事モデル:健康的な食習慣からの学び

特定の食事パターンが、ドライアイを含む多くの慢性疾患の危険性を低減させることが示されています。これらの食事モデルは、これまで述べてきた有益な栄養素を自然な形で、かつバランス良く摂取するための優れた実践的枠組みとなります。

  • 地中海食:地中海食は、その健康効果について最も多くの科学的エビデンスがある食事パターンの一つです。その特徴は以下の通りです20
    • 野菜、果物、全粒穀物、豆類といった植物性食品を豊富に摂取する。
    • 脂肪の主な供給源として、バターの代わりにオリーブオイルを使用する。
    • タンパク源として、赤身肉よりも魚介類を優先する。
    • 乳製品や赤身肉、甘いものの摂取は控えめにする。

    この食事パターンは、抗炎症作用のあるオメガ3脂肪酸(魚、オリーブオイル)、抗酸化ビタミン(野菜、果物)、食物繊維を豊富に含んでおり、ドライアイの予防・管理に理想的であると言えます5。加齢黄斑変性といった他の眼疾患の危険性を低減させる効果も報告されています20

  • 伝統的な和食:伝統的な日本の食事もまた、目の健康に非常に有益な要素を多く含んでいます。魚を多く食べる文化は、豊富なオメガ3脂肪酸の摂取につながります。また、大豆製品(豆腐、味噌、納豆など)や、多様な野菜、海藻類を日常的に摂取することも、抗酸化物質やミネラル、食物繊維の優れた供給源となります。現代の日本の食生活は欧米化が進んでいますが、伝統的な和食の原則に立ち返ることは、ドライアイに悩む人々にとって、文化的にも受け入れやすく、実践的な健康戦略となり得ます。

これらの食事パターンに共通するのは、特定の栄養素を単独で追求するのではなく、加工度の低いホールフードを中心に、多様な食材をバランス良く組み合わせるという点です。これが、体全体の炎症を抑え、眼表面の健康を維持するための最も確実な道筋であると言えるでしょう。

第6章 控えるべき食品と習慣:目への食事性ストレス要因

健康的な栄養素を積極的に摂取することと同じくらい重要なのが、眼表面にストレスを与え、ドライアイの症状を悪化させる可能性のある食品や習慣を避けることです。大規模な疫学調査により、特定の食習慣がドライアイの危険性を有意に高めることが科学的に示されています。本章では、これらの「避けるべき」要素について、具体的なデータと共に解説します。

6.1 炎症を促進する食事:危険因子を特定する

ドライアイの危険性を高める食事内容については、40歳以上の韓国人女性を対象とした大規模な研究が非常に明確なエビデンスを提供しています3。この研究では、特定の栄養素の摂取量とドライアイの有病率との関連が、オッズ比(危険性の高さを示す指標。1より大きいと危険性が高いことを意味する)を用いて示されました。

  • 精製炭水化物と糖類:白米、パン、麺類などの精製された炭水化物や、砂糖を多く含む飲料・菓子の摂取量が多いと、ドライアイの危険性が有意に高まることが示されました。
    • 炭水化物:調整済みオッズ比 1.23 (p<0.0001)
    • 糖類:調整済みオッズ比 1.30 (p<0.0001)

    これらの食品は血糖値を急激に上昇させ、体内で「糖化」という反応を引き起こします。これが全身性の炎症を促進し、また高血糖状態が続くと神経や血管に損傷を与え、涙の分泌機能や質の低下につながる可能性があります18

  • 不健康な脂肪とコレステロール:総脂肪摂取量およびコレステロール摂取量が多いことも、ドライアイの危険性増加と強く関連していました。
    • 総脂肪:調整済みオッズ比 1.25 (p<0.0001)
    • コレステロール:調整済みオッズ比 1.32 (p<0.0001)

    これは、第2章で述べたオメガ6とオメガ3のバランスの重要性を裏付けるものです。現代の食生活では、揚げ物や加工食品を通じて炎症を促進するオメガ6脂肪酸や飽和脂肪酸を過剰に摂取しがちであり、これがドライアイの危険性を高めていると考えられます3

  • ナトリウムと加工食品:食塩(ナトリウム)の摂取量が多いことも、危険因子として同定されました。
    • ナトリウム:調整済みオッズ比 1.18 (p<0.0001)

    ナトリウム摂取量の多さは、一般的に加工食品や外食、ファストフードの利用頻度が高いことを反映しています18。これらの食品は、不健康な脂肪や糖類も多く含む傾向があり、複合的にドライアイの危険性を高めている可能性があります。

6.2 生活習慣因子:アルコール

食事内容だけでなく、特定の生活習慣もドライアイに影響を与えます。

  • アルコール:アルコールの摂取は、ドライアイの症状を悪化させることが複数の研究で示唆されています。アルコールには利尿作用があり、体全体の脱水を引き起こします。また、直接的に涙液の浸透圧を上昇させ、涙液膜の安定性を低下させることが報告されています5。日常的にアルコールを摂取する習慣がある場合は、量を控えるか、飲酒時には通常以上に水分補給を心がけることが推奨されます。

これらの知見は、ドライアイの管理が「何を食べるか」だけでなく、「何を食べないか」にもかかっていることを明確に示しています。糖類、不健康な脂肪、過剰な塩分を多く含む加工度の高い食品を避け、ホールフードを中心とした食生活に切り替えることが、目への食事性ストレスを軽減し、症状緩和への重要な一歩となります。

第7章 エビデンスの統合:実践的な眼の健康食事ガイド

これまで、ドライアイに関連する様々な栄養素、食事パターン、そして避けるべき食品について、科学的エビデンスを基に詳述してきました。本章では、これらの膨大な情報を統合し、日常生活で実践可能な、具体的で分かりやすいガイドラインとして提示します。日々の食事選びに役立つ「眼の健康プレート」の考え方、主要栄養素をまとめた一覧表、そしてサプリメントとの賢い付き合い方について解説します。

7.1 眼の健康プレート:視覚的な食事ガイド

日々の食事を組み立てる際に役立つ、シンプルな視覚的ガイドが「眼の健康プレート」です。これは、一食の皿の上を以下のように構成することを目指す考え方です。

  • 皿の半分(50%):多彩な色の野菜と果物
    ホウレンソウやケールなどの濃い緑の葉物野菜、ニンジンやパプリカなどの緑黄色野菜、そしてベリー類や柑橘類をふんだんに取り入れます。これにより、ビタミンA、C、E、ルテイン、ゼアキサンチンといった多様な抗酸化物質とビタミンを確実に摂取できます。
  • 皿の4分の1(25%):良質なたんぱく質
    特に、サケ、サバ、イワシなどの脂肪分の多い魚を週に2回以上取り入れることを目指します。これにより、最も重要な抗炎症栄養素であるオメガ3脂肪酸(EPA/DHA)を効率的に摂取できます。その他の日には、鶏肉、卵、豆類、豆腐などを選びます。
  • 皿の4分の1(25%):全粒穀物
    白米や白いパンの代わりに、玄米、全粒粉パン、オートミールなどを選びます。これらは精製炭水化物よりも血糖値の上昇が緩やかで、ビタミンB群や食物繊維も豊富です。
  • 調理には:健康的な脂肪
    調理油には、抗炎症作用のあるオリーブオイル(エキストラバージン)や、オメガ3を補給できる亜麻仁油などを使用します。

このプレートを意識することで、自然とドライアイの予防・管理に有益な栄養バランスが整います。

7.2 表:ドライアイ管理のための主要栄養素

以下の表は、本稿で解説した主要な栄養素とその役割、豊富な食材を一覧にまとめたものです。日々の買い物や献立作りの際の参考にしてください。

栄養素・成分 眼の健康における役割 積極的に摂りたい食品 / 控えるべき食品 主要なエビデンス・注記
オメガ3脂肪酸 (EPA/DHA) 炎症を抑制し、マイボーム腺の機能を改善する。涙の質を向上させる。 摂りたい: サケ、サバ、イワシ、サンマ、マグロ、亜麻仁、チアシード、くるみ 複数のメタアナリシスで自覚症状、TBUT、シルマー試験の改善が示されている2。用量、期間、EPA比率が重要。
オメガ6脂肪酸 過剰摂取は体内の炎症を促進する。 控えるべき: コーン油、大豆油、サフラワー油などを使用した揚げ物、スナック菓子、加工食品 オメガ3とのバランスが重要。日本のガイドラインでも高比率が危険因子と指摘7
ビタミンA (β-カロテン) 角膜と結膜の粘膜を保護し、杯細胞の健康を維持する。涙液膜を安定させる。 摂りたい: ニンジン、サツマイモ、カボチャ、ホウレンソウ、ケール、動物性レバー(適量) 摂取量とドライアイリスクに逆相関3。脂溶性のため油と摂ると吸収率が向上15
ビタミンC 強力な抗酸化作用で、眼組織を酸化ストレスから守る。 摂りたい: ピーマン、ブロッコリー、キウイ、イチゴ、柑橘類 摂取量とドライアイリスクに逆相関3
ビタミンD 免疫を調節し、眼表面の炎症を抑制する可能性がある。 摂りたい: サケ、サバ、キノコ類、強化牛乳。日光浴も重要。 ビタミンD欠乏とドライアイの関連が示唆されている5
ビタミンE 抗酸化作用により、細胞の損傷を防ぐ。 摂りたい: アーモンド、ひまわりの種、アボカド、ホウレンソウ ビタミンCと共に働く抗酸化物質。
亜鉛 ビタミンAの代謝を助け、網膜を保護する。 摂りたい: 牡蠣、赤身肉、豆類、ナッツ類 バランスが重要。高摂取が危険性と関連した報告もあり、サプリメントでの過剰摂取には注意が必要3
カリウム、カルシウム、マグネシウム ドライアイリスクの低下と関連。 摂りたい: バナナ、アボカド、ナッツ類、緑葉野菜、乳製品、海藻類 大規模研究で保護因子として報告されている3
水分 涙の主成分であり、十分な涙量を維持するために不可欠。 摂りたい: 水、お茶(無糖) 1日あたり8〜10杯(約1.5〜2.0L)が推奨される18
精製炭水化物・糖類 全身性の炎症を促進し、ドライアイの危険性を高める。 控えるべき: 菓子類、加糖飲料、白いパン、白米 ドライアイの強力な危険因子(オッズ比 1.23-1.30)3
不健康な脂肪・コレステロール 体内の炎症バランスを悪化させ、ドライアイの危険性を高める。 控えるべき: 揚げ物、加工肉、ファストフード、洋菓子 ドライアイの強力な危険因子(オッズ比 1.25-1.32)3

7.3 サプリメントとの付き合い方:補助具であり、万能薬ではない

理想は食事から全ての栄養素を摂取することですが、現代の生活様式では、特定の栄養素、特に質の高いオメガ3脂肪酸を十分に確保することが難しい場合もあります。そのような状況では、サプリメントが有効な補助手段となり得ます10

ただし、サプリメントを利用する際には以下の点を心に留めておく必要があります。

  • 医療専門家への相談:サプリメントの摂取を開始する前には、必ず眼科医や主治医に相談してください22。特にオメガ3脂肪酸は、高用量で血液を希釈する作用があるため、他の薬剤との相互作用や、個人の健康状態によっては注意が必要です。適切な種類や摂取量について、専門的な助言を受けることが安全への鍵となります。
  • 日本の医療制度における位置づけ:日本のドライアイ診療ガイドラインでは、オメガ3脂肪酸などのサプリメントは有効性が示唆されているものの、保険適用のない自由診療の選択肢として位置づけられています7。治療の基本は、保険診療で認められた点眼薬などであることを理解しておく必要があります。

サプリメントはあくまで食事を補うための「補助具」であり、不健康な食生活を帳消しにする「万能薬」ではありません。ホールフードを中心とした健康的な食事という土台の上に、必要に応じて賢く活用することが重要です。

よくある質問

一番効果が期待できる栄養素は何ですか?

現時点で最も多くの質の高い科学的エビデンスがあるのは「オメガ3脂肪酸」です。複数の臨床試験を統合したメタアナリシスにより、自覚症状の改善、涙の質の向上(涙液膜破壊時間の延長)、涙の量の増加(シルマー試験値の改善)といった客観的な指標の両方で、統計的に有意な効果が示されています2。特にサバ、イワシ、サケなどの脂肪分の多い魚からの摂取が推奨されます。

食事を変えたら、どのくらいの期間で効果が出ますか?

効果が現れるまでの期間は、個人の体質や食事の変更度合いによって異なります。しかし、オメガ3脂肪酸に関する臨床試験のメタアナリシスでは、摂取期間が長いほど改善効果が高まる傾向が報告されています2。数週間で変化を感じる人もいれば、数ヶ月かかる場合もあります。栄養改善は即効性のある薬とは異なり、体質を根本から変えていく長期的な取り組みと捉えることが重要です。

サプリメントだけでドライアイは治りますか?

いいえ、サプリメントだけでドライアイが「治る」と考えるべきではありません。日本のドライアイ診療ガイドラインにおいても、サプリメントは治療の補助的な選択肢とされています7。治療の基本は、眼科医の診断に基づいた点眼薬などです。サプリメントは、不健康な食事を補うものではなく、あくまでバランスの取れた食事という土台を補助するものです。摂取を検討する場合は、必ず事前に眼科医に相談してください22

コーヒーやアルコールはドライアイに悪いですか?

アルコールは、体内の脱水を引き起こし、涙液の安定性を低下させることが報告されており、ドライアイの症状を悪化させる可能性があります5。摂取は控えるか、飲む際には十分な水分補給を心がけるべきです。コーヒーに含まれるカフェインも利尿作用がありますが、ドライアイへの直接的な影響については、アルコールほど明確なエビデンスはありません。ただし、いずれにせよ水分補給の基本は、水やお茶(無糖)と考えるのが賢明です。

和食はドライアイに良いですか?

はい、伝統的な和食はドライアイの管理に非常に有益であると考えられます。魚を多く食べる文化は、抗炎症作用のあるオメガ3脂肪酸の優れた供給源です。また、豆腐や納豆などの大豆製品、多様な野菜、海藻類を日常的に摂取することは、抗酸化物質、ミネラル、食物繊維をバランス良く摂ることに繋がります。これは、健康的な食事パターンとして推奨される「地中海食」の原則とも多くの点で共通しています5

結論

本稿では、ドライアイという複雑な疾患に対して、栄養学的なアプローチがいかに強力な管理戦略となり得るかを、最新の科学的エビデンスに基づいて多角的に検証してきました。ドライアイは単なる目の乾燥ではなく、炎症と酸化ストレスを中核とする慢性疾患であり、その管理には体の中からアプローチする食生活の改善が不可欠です。

8.1 主要な推奨事項の要約

本稿で詳述した知見から導き出される、ドライアイ症状を緩和するための最も重要な推奨事項は以下の通りです。

  • オメガ3脂肪酸を最優先し、オメガ6脂肪酸を減らす:食事の主軸を、抗炎症作用のあるオメガ3脂肪酸が豊富な青魚などに置き、炎症を促進するオメガ6脂肪酸が多い加工食品や一部の植物油を減らすことが、最も効果的な戦略です。
  • 多彩な色の野菜と果物を豊富に摂取する:多様な抗酸化物質(ビタミンA, C, Eなど)を摂取することで、眼表面を酸化ストレスから守り、粘膜の健康を維持します。
  • 十分な水分を補給する:涙の量を維持し、体全体の健康を保つための基本として、意識的な水分補給を習慣化します。
  • 加工食品、糖類、不健康な脂肪を制限する:ドライアイの強力な危険因子となるこれらの食品を避けることは、有益な栄養素を摂ることと同じくらい重要です。

これらの原則は、特定の食品に固執するのではなく、地中海食や伝統的な和食のような、全体としてバランスの取れた食事パターンを構築することで、最も効果的かつ持続的に実践できます。

8.2 今後の展望:新たな研究の方向性

ドライアイの栄養管理に関する研究は、現在も活発に進められています。今後の研究は、以下のような新しい領域に焦点を当てることで、さらに個別化された、効果的な治療法の開発につながることが期待されます。

  • 腸-眼相関の解明:腸内細菌叢が眼の健康に与える影響についての研究は、プロバイオティクスやプレバイオティクスを用いた全く新しい治療アプローチの可能性を開きます5
  • 新規栄養素の探求:ラクトフェリンやL-カルニチン、コエンザイムQ10といった他の栄養素についても、ドライアイへの有効性を探る初期研究が始まっています13
  • 個別化栄養学の進展:将来的には、個人の遺伝的背景や栄養状態、ドライアイの病型に応じて、最適な栄養指導が行われるようになるかもしれません。

結論として、食事内容の変更は、ドライアイの症状を管理し、眼の健康を長期的に維持するための、患者自身が主体的に取り組める強力な戦略です。本稿で提供されたエビデンスに基づく知識が、読者の皆様が自身の眼科医と協力し、より快適な生活への道を歩むための一助となることを願っています。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、または健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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