【科学的根拠に基づく】腎臓結石の再発を防ぐ食事術|専門家が徹底解説
腎臓と尿路の病気

【科学的根拠に基づく】腎臓結石の再発を防ぐ食事術|専門家が徹底解説

腎臓結石は、経験した者にしかわからない激しい痛みを引き起こし、「痛みの王様(King of Pains)」とさえ呼ばれます。一度でもこの痛みを経験すると、再発への不安は計り知れないものでしょう。インターネット上には「秘伝の民間療法」や「結石を溶かす奇跡の食品」といった情報が溢れていますが、その多くは科学的根拠に乏しく、場合によっては健康を害する可能性すらあります。この記事の目的は、そうした不確かな情報から一線を画し、日本の主要な医療機関である日本泌尿器科学会(JUA)や日本腎臓学会(JSN)、そして米国国立衛生研究所(NIH)などの国際的な専門機関が示す、確固たる科学的根拠に基づいた腎臓結石の再発予防法を、網羅的かつ実践的に解説することです123。残念ながら、結石を瞬時に消し去る「魔法の治療法」は存在しません。しかし、米国泌尿器科学会(AUA)が示すように、食事や生活習慣を科学的知見に基づいて見直すことで、結石が形成される危険性を劇的に低減させることが可能です45。この記事では、結石が「なぜ」できるのかという仕組みから、「何を」管理すべきかという重要栄養素、「どのように」実践するかという具体的な食事戦略までを、専門家の視点から徹底的に掘り下げます。この記事が、皆様が自らの健康を管理し、再発の不安から解放されるための一助となることを目指します。


この記事の科学的根拠

この記事は、引用元として明示された最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示します。

  • 米国泌尿器科学会(AUA): この記事における水分摂取目標、ナトリウム、動物性タンパク質、シュウ酸、カルシウムに関する具体的な推奨事項は、AUAの診療指針に基づいています4
  • 米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK): 結石形成の要因、危険性を高める食事、DASH食の有効性に関する解説は、NIDDKが提供する情報に基づいています3
  • 複数の学術論文およびレビュー: 結石形成の根本的な仕組み(過飽和)、各結石タイプの食事療法、そして特定の食品(コーヒー、お茶など)が及ぼす影響に関する詳細な分析は、ResearchGateやPMCに掲載された査読付き学術論文に基づいています67
  • 日本泌尿器科学会(JUA)および日本腎臓学会(JSN): 日本国内における診療の参照基準として、これらの学会が発行する診療指針を参考にしています12

要点まとめ

  • 腎臓結石の再発予防で最も重要なのは、1日に2.5〜3リットルの水分を摂取し、尿量を1日2.0〜2.5リットルに保つことです4
  • シュウ酸カルシウム結石では、シュウ酸の多い食品(ほうれん草など)を制限しつつ、食事から十分なカルシウム(1日800-1200mg)を同時に摂取することが逆説的に重要です48
  • ナトリウム(塩分)、動物性タンパク質の過剰摂取は、尿中へのカルシウム排泄を増やし結石の危険性を高めるため、制限が必要です3
  • 尿酸結石では、プリン体を多く含む動物性タンパク質(特に内臓肉や赤身肉)を厳しく制限することが最優先となります8
  • DASH食は、結石予防に必要な栄養素(クエン酸、カルシウム)を増やし、危険因子(ナトリウム、動物性タンパク質)を減らすため、非常に有効な食事法です3

腎臓結石の基本 — なぜ、どのようにして作られるのか?

腎臓結石の再発を防ぐためには、まず敵の正体、つまり結石がどのようにして形成されるのかを理解することが不可欠です。その根本的な原因は、尿の性質にあります。

尿が濃くなる「過飽和」がすべての始まり

腎臓結石形成の根本的な仕組みは、尿の「過飽和」という状態にあります6。これは、尿中の水分量に対して、結石の原因となる物質(カルシウム、シュウ酸、尿酸など)が多すぎる状態を指します。この現象は、紅茶に砂糖を溶かす様子を想像すると分かりやすいでしょう。一定量の紅茶には、ある程度の量の砂糖しか溶けません。それを超えて砂糖を加え続けると、溶けきれなかった砂糖がカップの底に結晶として沈殿します。尿の中でも、これと全く同じことが起こっています。水分摂取が不足して尿が濃くなると、尿中の結石成分が溶けきれなくなり、結晶化します。この小さな結晶が核となり、時間をかけて雪だるま式に大きく成長したものが腎臓結石です。したがって、結石予防の最も基本的かつ重要な戦略が、十分な水分を摂取して尿を薄め、結石成分が結晶化しにくい環境を維持することにあるのです3

結石の主な種類と特徴

腎臓結石は一種類ではなく、その成分によっていくつかのタイプに分類されます。食事療法は結石の種類によって異なるため、自身がどのタイプの結石であったかを知ることは非常に重要です8。小児においても同様の食事指導が適用されます9

  • シュウ酸カルシウム結石 (Calcium Oxalate Stones):
    腎臓結石の中で最も一般的なタイプです10。尿中のカルシウムとシュウ酸が結合して形成されます。尿中のカルシウム濃度が高い「高カルシウム尿症」、シュウ酸濃度が高い「高シュウ酸尿症」、そして結石形成を抑制するクエン酸が少ない「低クエン酸尿症」が主な危険因子となります6
  • リン酸カルシウム結石 (Calcium Phosphate Stones):
    このタイプは、尿のpHが高い(アルカリ性に傾いている)状態や、高カルシウム尿症と関連して形成されやすい特徴があります4
  • 尿酸結石 (Uric Acid Stones):
    尿のpHが低い(酸性に傾いている)状態や、尿中の尿酸濃度が高い場合に形成されます。尿酸はプリン体という物質の最終代謝産物であるため、プリン体を多く含む動物性タンパク質の過剰摂取が大きな危険となります8
  • ストルバイト結石 (Struvite Stones):
    感染結石とも呼ばれ、プロテウス菌などの特定の細菌による尿路感染症が原因で形成されます4
  • シスチン結石 (Cystine Stones):
    シスチン尿症という、まれな遺伝性疾患によって引き起こされる結石です6

あなたの危険性は?結石ができやすい要因

結石の形成には、体質や生活習慣など、様々な要因が複雑に関与しています。再発性の結石を持つ患者を対象としたある後方視的コホート研究では、特定の臨床的危険因子が明らかにされています14

  • 水分摂取不足(脱水): すべての結石タイプに共通する最大の危険因子です3
  • 食事: ナトリウム(塩分)、動物性タンパク質、シュウ酸の過剰摂取、また果糖ブドウ糖液糖などの糖分の多い食事は、結石の危険性を高めます311
  • 病状: 肥満、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、胃バイパス手術後、副甲状腺機能亢進症、Dent病、糖尿病などの基礎疾患は、結石の危険性を増加させることが知られています10
  • 遺伝・家族歴: 家族に結石の既往がある場合、自身の危険性も高まります14
  • 薬剤・サプリメント: 特定の薬剤(てんかんや片頭痛の治療薬であるトピラマートなど)や、サプリメントの不適切な使用(特に高用量のビタミンCや、食事と同時に摂取しないカルシウムサプリメント)が危険となることがあります4

科学が示す最も重要な予防策 — 水分摂取の「質」と「量」

数ある予防策の中で、ランダム化比較試験(最も信頼性の高い研究手法の一つ)によってその有効性が証明されている唯一無二の方法が、十分な水分摂取です415。この章では、結石予防の根幹をなす水分摂取について、その「量」と「質」を科学的根拠に基づいて解説します。

目標は「1日2.5リットルの尿量」:正しい水分摂取量とは

結石予防における水分摂取の最終目標は、単に「たくさん飲む」ことではありません。米国泌尿器科学会(AUA)が強く推奨する具体的な目標は「1日に2.0〜2.5リットルの尿量を確保すること」です4。この尿量を達成するためには、一般的に1日に2.5〜3リットルの水分を摂取することが推奨されます6。夏場や運動時など、汗を多くかく状況では、失われる水分が増えるため、さらに多くの水分摂取が必要になります13。摂取量が十分であるかの簡単な目安は、尿の色です。尿の色が濃い黄色であれば水分不足のサイン、薄い麦わら色であれば十分に水分が足りている証拠です。常に尿を希釈された状態に保つことが、結石成分の結晶化を防ぐ鍵となります。

水以外に何を飲むべきか?(クエン酸、コーヒー、お茶の役割)

水分補給の基本は水ですが、他の飲み物も結石予防に役立つ可能性があります。

  • 水: 最もシンプルで優れた水分補給源です3。費用がかからず、カロリーも糖分も含まないため、日常的な水分摂取の主軸とすべきです。
  • クエン酸を含む飲料: レモンやライムなどの柑橘類に豊富に含まれる「クエン酸」は、天然の結石形成阻害物質です。クエン酸は尿中でカルシウムと結合し、シュウ酸とカルシウムが結合するのを防ぎます。また、できてしまった結晶が大きくなるのを防ぐ効果もあります11。水にレモン果汁を絞って加えることは、手軽で効果的な予防策です12
  • コーヒーとお茶: これらはシュウ酸を含むため敬遠されがちですが、複数の大規模な観察研究において、コーヒー(カフェインあり・なし両方)やお茶を習慣的に飲む人は、飲まない人に比べて結石の危険性が低いことが示されています4。この一見矛盾した結果は、これらの飲料に含まれるシュウ酸の量よりも、摂取する水分の量がはるかに多く、結果として尿を希釈する効果(利尿作用)が上回るためと考えられています。シュウ酸カルシウム結石の危険性が非常に高い場合を除き、適度な量のお茶やコーヒーは、水分補給の一環として有益である可能性が高いと言えます。
  • 適度なアルコール: ビールやワインの適度な摂取も、結石の危険性を低下させる可能性が報告されていますが、過度の飲酒は避けるべきです8

注意すべき飲み物(糖分の多い飲料、一部のジュース)

一方で、結石の危険性を高める可能性のある飲み物も存在します。

  • 糖分の多い飲料: 果糖(フルクトース)を多く含むソーダや清涼飲料水は、結石の危険性を有意に高めることが複数の研究で示されています4。これらの飲料は避けるべきです。
  • グレープフルーツジュース: 一部の研究で結石の危険性の上昇との関連が指摘されており、避けるか、摂取を控えることが推奨される場合があります6
  • 特定の野菜ジュース・スムージー: 健康的に見えるほうれん草やビーツを大量に使ったスムージーは、シュウ酸を極めて高濃度に含む「シュウ酸爆弾」となり得ます。シュウ酸カルシウム結石の既往がある方は、特に注意が必要です。

食事療法の核心 — 5つの重要栄養素のコントロール術

水分摂取と並んで重要なのが、食事内容の見直しです。ここでは、結石の形成に深く関わる5つの重要な栄養素(シュウ酸、カルシウム、塩分、動物性タンパク質、クエン酸)の管理方法について、科学的根拠に基づいた戦略を解説します。

シュウ酸 (Oxalate): 最も一般的な結石の主成分を理解する

シュウ酸カルシウム結石の既往がある方にとって、食事からのシュウ酸摂取量を管理することは重要な戦略です3。しかし、ここで重要なのは、シュウ酸を「完全に排除する」ことではない、という点です。シュウ酸は多くの健康的な野菜や果物に含まれており、完全な排除は非現実的であるだけでなく、栄養バランスを崩す原因にもなります10。したがって、目指すべきは「シュウ酸を極めて多く含む食品の摂取を制限し、賢く付き合う」ことです。特にシュウ酸含有量が突出して高い食品を把握し、それらを避けるか、食べる頻度や量を減らすことが効果的です18

表1:シュウ酸を多く含む食品と少ない食品の一覧1617
食品区分 食品例 備考
【極めて高い】
摂取は避けるか、ごく少量に
ほうれん草、ルバーブ、ビーツ、アーモンド、いんげん豆、そば粉、フダンソウ ほうれん草は最もシュウ酸が多い野菜の一つです17。アーモンドはナッツ類の中でも特に高いです。
【高い】
食べる頻度・量を減らす
じゃがいも(特に皮)、豆腐・豆乳などの大豆製品、さつまいも、ラズベリー、デーツ、小麦ふすま 大豆製品はシュウ酸含有量が高い場合があります17
【中程度】
カルシウムと一緒に摂る工夫を
にんじん、トマト、セロリ これらの食品は、後述するカルシウムと一緒に摂ることで影響を緩和できます。
【低い・極めて低い】
安心して摂取できる
ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、ケール、きゅうり、りんご、バナナ、白米、鶏肉、魚 これらの食品はシュウ酸の心配がほとんどなく、食事の主軸にできます12

注:シュウ酸含有量は調理法や検体によって変動します。この表はあくまで目安です。

カルシウム (Calcium): 「減らす」は間違い!結石予防の逆説

シュウ酸「カルシウム」結石という名前から、「カルシウムの摂取を減らすべきだ」と考えるのは、非常によくある誤解です。しかし、米国泌尿器科学会(AUA)などが示す科学的根拠はその逆です。食事から適切にカルシウムを摂取することは、結石の予防に繋がります4。この逆説的な現象の背景には、明確な仕組みがあります。食事で摂取されたカルシウムは、腸管内でシュウ酸と結合します。シュウ酸と結合したカルシウム(シュウ酸カルシウム)は、体に吸収されずにそのまま便として排泄されます。その結果、尿中に排泄されるシュウ酸の量が減り、結石が形成されにくくなるのです8。逆に、カルシウム摂取を極端に制限すると、腸管内で自由な(未結合の)シュウ酸が増え、体内に吸収されやすくなります。その結果、尿中のシュウ酸濃度が上昇し、かえって結石の危険性を高めてしまうのです4

推奨される戦略は以下の通りです。

  • 食事から十分なカルシウムを摂取する: 1日あたり800〜1200 mgを目安に、牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品や、小魚、カルシウム強化食品などから摂取することが推奨されます4
  • シュウ酸とカルシウムを同時に摂取する: ほうれん草(高シュウ酸)を食べる際には、チーズ(高カルシウム)をトッピングするなど、シュウ酸を含む食品とカルシウムを多く含む食品を同じ食事で摂ることで、腸管内での結合を促進できます10
  • サプリメントには注意: カルシウムのサプリメントは、食事と同時に摂取しない場合、結石の危険性を高める可能性が指摘されています。サプリメントの使用は、必ず医師や管理栄養士に相談の上、その指示に従ってください8

塩分(ナトリウム) (Salt/Sodium): 結石の危険性を増大させる隠れた犯人

塩分の過剰摂取は、高血圧だけでなく、腎臓結石の強力な危険因子でもあります。その理由は、ナトリウムの摂取量が増えると、腎臓が尿中に排泄するカルシウムの量も増加するためです3。尿中のカルシウム濃度が高まれば、当然ながらシュウ酸カルシウム結石やリン酸カルシウム結石の危険性は増大します。したがって、塩分摂取量を管理することは、結石予防において極めて重要です。

  • 明確な目標を設定する: 1日のナトリウム摂取量を2,300 mg未満(食塩相当量で約6g未満)に抑えることが目標です4
  • 実践的な減塩: 加工食品、インスタント食品、缶詰のスープ、ファストフード、ハムやソーセージなどの塩分が多い食品を避けることが基本です。食品を購入する際は栄養成分表示を確認し、「食塩相当量」の少ないものを選びましょう。また、調理の際は香辛料やハーブ、出汁の旨味などを活用し、塩や醤油の使用を控える工夫が有効です3

動物性タンパク質 (Animal Protein): 肉の食べ過ぎがもたらす影響

牛肉、豚肉、鶏肉などの肉類や魚介類といった動物性タンパク質の過剰摂取は、複数の仕組みを通じて結石の危険性を高めます3

  • 尿中カルシウムの増加: 動物性タンパク質は体内で代謝される過程で酸を産生し、骨からカルシウムが溶け出すのを促し、尿中へのカルシウム排泄を増加させます。
  • 尿中クエン酸の減少: 体が酸性に傾くと、結石形成を抑制するクエン酸の尿中への排泄が減少してしまいます。
  • 尿中尿酸の増加: 動物性タンパク質、特にレバーなどの内臓肉や赤身肉に多く含まれるプリン体は、体内で尿酸に代謝されます。尿酸自体が尿酸結石の原因となるほか、尿酸の結晶が核となってシュウ酸カルシウム結石の形成を助長することもあります21

推奨されるのは、動物性タンパク質の摂取量を適度に保ち、一部を豆類やレンズ豆などの植物性タンパク質に置き換えることです。ただし、豆類の中にはシュウ酸を多く含むものもあるため、その点には注意が必要です3

クエン酸 (Citrate): 結石形成を阻害する天然の守護神

クエン酸は、尿中で結石の形成を強力に阻害する「守護神」のような存在です。前述の通り、クエン酸は尿中のカルシウムと結合することで、カルシウムがシュウ酸と結合するのを防ぎます。また、結晶同士が付着して大きくなるのを阻害する働きもあります11。尿中のクエン酸濃度を高めることは、結石予防の有効な戦略です。レモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツなどの柑橘類はクエン酸の優れた供給源です12。日々の水分補給にレモン果汁を加える習慣は、この観点からも非常に推奨されます。

【種類別】あなたの結石タイプに合わせた食事ガイダンス

これまでに解説した5つの栄養素の管理法を、自身の結石タイプに合わせて最適化することが、効果的な再発予防に繋がります。この章では、主要な結石タイプ別に、食事療法の要点をまとめます。

表2:結石の種類別・食事療法の要点まとめ
結石の種類 最優先事項 制限すべきもの 積極的に摂るべきもの
シュウ酸カルシウム 水分摂取 高シュウ酸食品、ナトリウム、動物性タンパク質 水分、食事性カルシウム、クエン酸
尿酸 動物性タンパク質の制限 プリン体(内臓肉、赤身肉)、アルコール 水分、野菜・果物(尿のアルカリ化)
リン酸カルシウム ナトリウムの制限 ナトリウム、動物性タンパク質 水分、食事性カルシウム(適量)

シュウ酸カルシウム結石の食事療法

最も一般的なこのタイプの結石では、包括的なアプローチが求められます。

  • 最優先事項: 十分な水分摂取(1日2.5〜3L)で尿を希釈する。
  • 制限・管理すべきもの:
    • シュウ酸:ほうれん草、ナッツ類など、特にシュウ酸含有量が極めて高い食品を制限する10
    • ナトリウム:加工食品などを避け、1日2,300mg未満に抑える3
    • 動物性タンパク質:過剰摂取を避け、適量を心がける8
  • 積極的に摂るべきもの:
    • カルシウム:乳製品などから食事として十分に摂取し、シュウ酸を含む食品と同時に食べる10
    • クエン酸:レモン水などで積極的に補給する。

尿酸結石の食事療法

尿酸結石の予防は、尿の酸性度と尿酸値のコントロールが鍵となります。

  • 最優先事項: 動物性タンパク質、特にプリン体を多く含む食品(レバー、赤身肉、魚の干物、魚卵、甲殻類など)を厳しく制限する8
  • その他の重要事項: 水分摂取を増やし、尿酸を希釈する。野菜や果物を多く摂取し、尿をアルカリ化する。アルコール、特にビールはプリン体を多く含むため、摂取を制限する11

リン酸カルシウム結石の食事療法

このタイプの結石では、尿のアルカリ化と尿中カルシウムのコントロールが重要です。

  • 最優先事項: ナトリウム摂取を厳しく制限し、尿中へのカルシウム排泄を減らす3
  • その他の重要事項: 十分な水分を摂取する。動物性タンパク質の摂取を適度に保つ。食事からのカルシウム摂取は、不足しないように適切に管理する3。尿のpH管理については、医師の指導が必要な場合があります。

「漢方薬」や「民間療法」についての医学的見解

結石の痛みに苦しむ中で、「結石を溶かす」とされる食品や漢方薬、民間療法に惹かれる気持ちは理解できます。しかし、専門家の立場からは、これらの情報には慎重な姿勢が求められます。

「結石を溶かす」とされる食品や薬草の真実

まず、医学界の合意として明確にすべきことは、「既存の腎臓結石を食事、ハーブ(例えば、一部で言及される生姜など19)、あるいは漢方薬で溶かすことができる」という主張を裏付ける、信頼性の高い臨床試験の科学的根拠は存在しないということです6。腎臓結石は、尿中の無機物が長期間かけて結晶化し、硬く石灰化した塊です。これを食事や特定の成分で「溶かす」ことは、生物学的に見て極めて困難です。一部の薬物療法(クエン酸製剤など)は、特定の条件下でごく一部の尿酸結石を溶解させたり、結石の成長を抑制したりする可能性がありますが、これは医師の厳格な管理下で行われる医療行為であり、一般的な食品やサプリメントで達成できるものではありません。

科学的根拠の欠如と潜在的危険性

科学的根拠がない民間療法は、「効果がない」だけでなく、「有害である」可能性も秘めています。

  • 有害物質の含有: 一部のハーブや植物には、シュウ酸や腎毒性のある成分が高濃度に含まれている場合があります。良かれと思って摂取したものが、かえって結石を悪化させたり、腎機能に障害を与えたりする危険性があります。
  • 薬物相互作用: 民間療法で用いられる成分が、医師から処方されている薬剤(高血圧の薬、血液を希釈する薬など)と相互作用を起こし、予期せぬ副作用を引き起こす可能性があります。
  • 適切な治療機会の損失: 科学的根拠のない治療法に頼ることで、本来受けるべきであった効果的な医学的治療や生活指導の機会を逃してしまうことが、最も大きな問題点です。

信頼できる情報源の見分け方

健康に関する情報を得る際には、その情報源の信頼性を吟味することが極めて重要です。以下の情報源は、信頼性が高いと考えられます。

  • 公的な医学会: 日本泌ro器科学会2や日本腎臓学会1など、専門医で構成される学会が発表する診療指針や患者向け情報。
  • 政府系保健機関: 米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)3や米国腎臓財団(NKF)18など、公的機関が提供する情報。
  • 査読付き医学雑誌: 専門家による審査(査読)を経て掲載される学術論文や、複数の研究を統合・評価したシステマティックレビュー6
  • 主治医や管理栄養士: 最も重要な情報源は、自身の病状や体質を直接把握している主治医や管理栄養士です。インターネットの情報だけで自己判断せず、必ず専門家に相談してください。

よくある質問

サプリメント(ビタミンC、カルシウム)は飲んでも良いですか?

サプリメントの利用には注意が必要です。高用量のビタミンC(1日500〜1000mg以上)は、体内でシュウ酸に代謝され、尿中のシュウ酸濃度を高める可能性があるため、避けるべきです8。カルシウムサプリメントは、前述の通り、食事と同時に摂取しないと結石の危険性を高める可能性があります8。どのようなサプリメントであれ、自己判断で開始せず、必ず事前に医師や管理栄養士に相談することが不可欠です。

慢性腎臓病(CKD)も患っている場合、食事はどうすれば良いですか?

これは極めて重要かつ慎重な対応が求められる状況です。慢性腎臓病(CKD)と腎臓結石を合併している場合、食事療法の指針が互いに矛盾することがあります。例えば、CKDではタンパク質やカリウム、リンの制限が求められることがありますが、これは結石予防の食事指導と必ずしも一致しません。重要な点として、日本腎臓学会が発行する『CKD診療ガイドライン』にも、この二つの疾患を合併した場合の明確で統一された食事基準は示されていません20。これは、個々の患者の腎機能、結石の種類、その他の合併症などを総合的に判断し、完全に個別化された食事計画が必要であることを意味します。したがって、CKDと結石の両方を持つ方は、決してインターネットなどの一般的な情報に基づいて自己流の食事療法を行わないでください。必ず腎臓内科医および腎臓病療養指導の経験が豊富な管理栄養士と緊密に連携し、ご自身のためだけに作られた食事計画に従う必要があります。この点を軽視することは、健康を著しく損なう危険性があります。

ビールを飲むと結石が流れるというのは本当ですか?

これは広く信じられている俗説ですが、正確ではありません。ビールを飲むと一時的に尿量が増える「利尿作用」があります。この急激な尿量の増加によって、ごく小さな結石(砂状のものなど)が尿と共に排出されやすくなることはあり得ます。しかし、この効果はビール特有のものではなく、単に大量の水分を摂取した結果に過ぎません8。ビールを予防策として推奨できない理由は、アルコールが持つ脱水作用や、プリン体を多く含むことによる尿酸値上昇の危険性など、健康への不利益が多いためです。結石を洗い流す目的であれば、はるかに安全で効果的な「水」を大量に飲むことが最善の選択です。

DASH食とは何ですか?なぜ結石予防に有効なのですか?

DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)とは、元々は高血圧を予防・改善するために開発された食事療法ですが、複数の研究で腎臓結石の危険性を低減する効果があることが証明されています3。DASH食の原則は以下の通りです。

  • 果物、野菜、全粒穀物を豊富に摂取する。
  • 低脂肪の乳製品、魚、鶏肉、豆類を摂取する。
  • ナトリウム(塩分)、飽和脂肪酸(動物性の脂)、糖分を制限する。

この食事法が結石予防に有効な理由は、その構成が結石予防の食事原則と見事に合致しているためです。具体的には、果物や野菜を多く摂ることで尿中のクエン酸が増加し、乳製品から適切な量の食事性カルシウムが確保され、加工食品を避けることでナトリウムと動物性タンパク質の摂取量が自然に抑えられます。DASH食は、結石予防に必要な要素をバランス良く満たした、非常に優れた食事パターンと言えます。

結論

腎臓結石の再発予防は、一度きりの対策で終わるものではなく、日々の生活習慣として継続していくことが重要です。この記事で解説した科学的根拠に基づく食事戦略は、皆様が結石の不安から解放され、健やかな毎日を送るための強力な武器となります。最後に、最も重要な要点を3つにまとめます。

  1. 水分を最優先する: すべての基本です。尿の色が薄い黄色を保つことを目標に、1日2.5〜3リットルの水分をこまめに摂取しましょう。
  2. 食事はバランス良く: 特定の食品を敵視するのではなく、DASH食に代表されるような、果物、野菜、適切なカルシウム源を中心としたバランスの取れた食事を心がけましょう。
  3. 3つの「減らす」を意識する: ナトリウム(塩分)、動物性タンパク質、そして(シュウ酸カルシウム結石の方は)高シュウ酸食品の3つを意識的に減らすことが、危険性の低減に直結します。

腎臓結石は確かに辛い病気ですが、正しい知識を身につけ、日々の食事を少し見直すことで、その再発の危険性は大幅に管理することが可能です5。本記事は、科学的根拠に基づく一般的な指針を提供するものです。最終的な食事計画は、ご自身の結石の種類、体質、そして全体的な健康状態によって異なります。必ず主治医である医師や、食事の専門家である管理栄養士に相談し、あなたに最適化された個人別の予防計画を立ててください。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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