日本の糖尿病診断は、国際基準と大枠で一致しますが、予備群の定義や最終的な確定診断に至るプロセスに重要な違いがあります。本記事では、日本糖尿病学会(JDS)の最新ガイドライン「糖尿病診療ガイドライン2024」と、米国糖尿病協会(ADA)などの国際基準を一次資料に基づき徹底比較。HbA1c・空腹時血糖(FPG)・ブドウ糖負荷試験(OGTT)の各数値の意味から、妊娠糖尿病や緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)といった特殊なケースまで、正確で分かりやすい情報を提供します。
本記事はJHO編集部がAIを活用して編集・検証しました。外部の医師・専門家の関与はありません。主要な数値や基準は、日本糖尿病学会(JDS)、厚生労働省、米国糖尿病協会(ADA)などの学会や官公庁が公表する一次資料・ガイドラインに準拠しています。診断や治療に関する最終的な判断は、必ず医療機関の専門家にご相談ください。
この記事の要点
- 確定診断はプロセス重視: 糖尿病の診断は一度の検査だけでは決まりません。特に、HbA1cの反復測定のみでの診断は不可とされています。ただし、同一の採血で血糖値とHbA1cの両方が糖尿病型を示した場合、1回の検査で確定診断が可能です。
- 「予備群」定義の日米差: 糖尿病予備群の定義は日本と米国で異なります。米国(ADA)基準では空腹時血糖100-125mg/dLまたはHbA1c 5.7-6.4%が予備群ですが、日本のJDS基準では空腹時血糖110-125mg/dLを「境界型」とし、100-109mg/dLを「正常高値」として区別します。
- 妊娠糖尿病の診断基準: 妊娠中の糖代謝異常は特別な基準で判断されます。75g OGTTにおいて、空腹時92mg/dL、1時間値180mg/dL、2時間値153mg/dLのいずれか1つ以上を満たすと妊娠糖尿病と診断されます。
- 診断は治療のスタートライン: 診断を受けることは終わりではなく、合併症を防ぎ、健康な生活を維持するための長期的な自己管理の始まりです。血糖、血圧、脂質などを総合的に管理することが重要となります。
糖尿病診断基準と予備群
空腹時血糖、OGTT、HbA1cの数値がそれぞれ違う判定を示し、「自分は本当に糖尿病なのか、それとも予備群なのか」が分からず不安になっていませんか。日本のJDS基準と、インターネットや海外サイトで目にするADA基準の両方が頭に浮かび、「どちらを信じればいいのか」「再検査は必要なのか」と悩むのはごく自然なことです。さらに、妊娠糖尿病や緩徐進行1型糖尿病のように、特別な基準が出てくると、専門用語の多さに圧倒されてしまう方も少なくありません。このボックスでは、その混乱を少しずつほどきながら、診断基準を安心して読み解くための視点を整理していきます。
まず理解しておきたいのは、診断基準は「一度の数値だけで決めるものではなく、プロセスを重視する仕組みになっている」という点です。本記事で紹介されているように、日本のJDS基準では、血糖値とHbA1cの組み合わせや再検査の結果を踏まえて、慎重に「糖尿病」かどうかを確定していきます。その全体像――症状、検査、治療、合併症、そして食事や運動による長期管理までを一枚の地図のように俯瞰したいときには、まずは糖尿病の完全ガイドを一度通読しておくと、個々の数値の意味がぐっと理解しやすくなります。
診断基準を理解する第一歩は、「正常」「境界型(予備群)」「糖尿病型」を分ける血糖値のラインを押さえることです。日本でも国際的にも、空腹時血糖126mg/dL以上、75gOGTT2時間値200mg/dL以上といった「糖尿病型」の閾値はほぼ共通ですが、その一歩手前のグレーゾーンの扱いには違いがあります。本記事で触れられているように、日本では空腹時血糖110〜125mg/dLを境界型、100〜109mg/dLを「正常高値」として区別し、ADAでは100mg/dLからPrediabetesとして扱います。自分の数値がどのゾーンにいるのかを整理するために、まずは血糖値の正常範囲と基準を一度整理しておくと、検査結果の見え方がかなりクリアになります。
次に鍵になるのがHbA1cです。HbA1cは過去1〜2か月の血糖値の「平均点」を示す指標で、日本でも国際基準でも6.5%以上が糖尿病型の目安とされています。一方で、JDSガイドラインでは「HbA1cだけを繰り返し測定して診断してはいけない」と明記されており、必ず血糖値による確認が求められます。本記事にもあるとおり、同じ採血で血糖値とHbA1cが両方とも糖尿病型なら1回で診断できますが、どちらか一方だけの場合は「糖尿病の疑い」として後日の再検査が必要です。HbA1cの基準値と診断での位置づけ、治療目標7.0%未満との違いを整理するには、HbA1c完全ガイドを併せて読むと、数値の意味合いがより立体的に理解できるはずです。
「境界型」「糖尿病予備群」と言われたときに最も気になるのは、「このまま放置すると本当に糖尿病になってしまうのか」という点でしょう。本記事では、日本と米国で予備群の定義が異なり、日本では空腹時血糖110〜125mg/dLを境界型、100〜109mg/dLを正常高値として扱うことが解説されています。いずれにしても、このゾーンは「まだ発症していないが、将来のリスクが高い状態」であり、生活習慣の立て直しによって発症を遅らせたり防いだりできる「ゴールデンタイム」です。実際の進行期間や、日本の研究データに基づく予防・改善の具体策については、境界型糖尿病の進行期間と対策を参考にしながら、今からできる一歩を考えてみてください。
診断プロセスで見落としたくないのが、「どのタイミング・どの条件で測定した数値なのか」という背景です。同じ人でも、感染症や強いストレスがあると一時的に血糖値が跳ね上がることがあり、JDSが再検査を重視しているのは、この一過性の高血糖を誤って「糖尿病」と診断しないためでもあります。本記事で紹介されているように、OGTT前には数日間しっかり炭水化物を摂ること、自己血糖測定器の値は正式な診断には使えないことなど、測定条件そのものも診断の精度を左右します。JDSとADAの最新指針に基づく測定のベストタイミングを整理した血糖値測定のタイミング完全ガイドや、必要な検査と保険適用の範囲をまとめた糖尿病検査の費用と内容も合わせて確認しておくと、受診前の不安を減らすことができます。
最後に大切なのは、「診断はゴールではなくスタートライン」という視点です。今回の記事で示されているように、診断がついた後は、血糖だけでなく血圧や脂質も含めた総合的な管理を続けることで、心血管疾患や腎症、網膜症などの合併症リスクを大きく下げることができます。検査結果の数字だけを恐れるのではなく、「なぜこの基準なのか」「自分はどのステージにいるのか」を理解し、かかりつけ医と一緒に、無理のないペースで次の一歩を決めていきましょう。
第1章:糖尿病および糖尿病予備群の基礎知識
糖尿病とその前段階である「予備群」について正しく理解することは、適切な診断と効果的な管理に向けた最初の重要な一歩です。
1.1. 糖尿病とは?
糖尿病は、血液中のブドウ糖(グルコース)濃度、すなわち血糖値が慢性的に高いレベルで維持される代謝性疾患です。この状態は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの作用が不足することによって引き起こされます。インスリンは、血中のブドウ糖を細胞に取り込みエネルギーとして利用する際の「鍵」の役割を担っています。このインスリンが十分に産生されないか、または産生されても効果的に機能しない(インスリン抵抗性)ことで、ブドウ糖が血中に溢れてしまうのです。1
糖尿病の典型的な自覚症状には以下のものがありますが、特に2型糖尿病の初期段階では無症状であることが多く、注意が必要です。
- 口渇(のどが異常に渇く)
- 多飲(頻繁に水分を摂る)
- 多尿(尿の回数や量が増える)
- 体重減少(特に急激な場合)
症状がないまま進行し、心血管疾患、腎不全、網膜症による失明、神経障害といった深刻な合併症が起きてから初めて発見されるケースも少なくありません。だからこそ、症状が出る前の早期発見・早期介入が極めて重要になるのです。
1.2. 糖尿病の主な分類
糖尿病はその成因や病態によって、主に以下のタイプに分類されます。2
- 1型糖尿病: 主に自己免疫の異常により、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されることで発症します。インスリンをほとんど、あるいは全く産生できなくなるため、生命維持のためにインスリン注射が不可欠です。小児や若年層での発症が多いとされています。
- 2型糖尿病: 日本の糖尿病患者の大多数を占めるタイプです。遺伝的な要因に加え、過食、運動不足、肥満といった生活習慣が深く関与し、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」や、インスリン分泌量の低下によって発症します。
- 妊娠糖尿病(GDM): 妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常です。出産後に正常に戻ることが多いですが、GDMを経験した女性は将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高まるため、継続的な注意が必要です。
- その他の特定の機序による糖尿病: 遺伝子異常や、他の疾患(膵疾患、内分泌疾患など)、ステロイドなどの薬剤が原因で発症する糖尿病です。この中には、成人後に発症する自己免疫性の糖尿病で、ゆっくり進行するため初期には2型と誤診されやすい「緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)」も含まれます。3
1.3. 糖尿病予備群(境界型)とは?
糖尿病予備群は、日本の専門用語で「境界型」とも呼ばれ、血糖値が正常よりは高いものの、糖尿病と診断される基準にはまだ達していない状態を指します。2これは病気そのものではありませんが、将来糖尿病に移行するリスクが非常に高いことを示す重要な警告サインです。
この段階は、糖尿病への進行を防ぐための「ゴールデンタイム(黄金の機会)」とされています。食事療法、運動習慣の導入、減量といった生活習慣への積極的な介入によって、糖尿病の発症を大幅に予防したり、遅らせたりすることが科学的に証明されています。血糖値を正常範囲に戻すことも十分に可能です。
第2章:日本の公式診断基準(JDS 2024年版)
日本糖尿病学会(JDS)が定める診断プロセスは、一度の検査で示される「糖尿病型」という状態と、正式な医学的診断である「糖尿病」を厳密に区別する、非常に慎重なアプローチを特徴としています。4
2.1. 「糖尿病型」の判定 — 診断の第一歩
検査結果が以下の4つの基準のいずれか1つでも満たした場合、その人は「糖尿病型」と判定されます。
- 空腹時血糖値(FPG)が 126 mg/dL 以上
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)で、2時間後の血糖値が 200 mg/dL 以上
- 随時血糖値が 200 mg/dL 以上(口渇、多飲、多尿などの典型症状がある場合や、糖尿病網膜症が確認された場合に適用)
- ヘモグロビンA1c(HbA1c)が 6.5% 以上
一度でも「糖尿病型」と判定されることは重要な警告ですが、これだけでは直ちに「糖尿病」と確定診断されるわけではありません(特定の例外を除く)。
2.2. 糖代謝の全体像と分類
JDSは糖代謝の状態を「正常型」「境界型」「糖尿病型」の3つに大別します。この分類は、人がどのステージにいるかを明確にし、早期介入を促すことを目的としています。特に、空腹時血糖値が100~109 mg/dLの範囲は、国際基準では多くが予備群に含まれますが、日本では「正常高値」として「正常型」の一部と位置づけ、注意喚起を行っている点が特徴です。
| 区分 | 空腹時血糖値(FPG) | 75g OGTT(2時間値) | 解説 |
|---|---|---|---|
| 糖尿病型 | ≥126 mg/dL | または ≥200 mg/dL | このいずれかを満たすと「糖尿病型」と判定されます。 |
| 境界型 | 110–125 mg/dL | または 140–199 mg/dL | いわゆる「糖尿病予備群」に相当します。正常型にも糖尿病型にも分類されない状態です。 |
| 正常型 | <110 mg/dL | かつ <140 mg/dL | 両方の条件を満たす必要があります。 |
| 正常高値(正常型内) | 100–109 mg/dL | – | JDS独自の区分。正常型に分類されますが、将来的に境界型や糖尿病型へ移行するリスクがあるため注意が必要です。 |
第3章:各診断検査の詳細な解説
診断基準で用いられる各検査が何を測定し、どのような意味を持つのかを理解することは、ご自身の健康状態を把握する上で非常に重要です。
3.1. 空腹時血糖値(FPG – Fasting Plasma Glucose)
- 内容: 10時間以上の絶食(水以外のカロリー摂取なし)の後、採血して血漿中のグルコース濃度を測定します。健康診断などで最も一般的に行われる検査です。
- 目的: 食事の直接的な影響を排除した状態での、体の基礎的な血糖調節能力を評価します。
3.2. 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT – Oral Glucose Tolerance Test)
- 内容: まず空腹時の血糖値を測定後、75gのブドウ糖を溶かした液体を飲み、その後の血糖値の変動(通常30分後、1時間後、2時間後)を測定する検査です。
- 目的: 糖分を摂取した後の体のインスリン反応能力を評価するための、最も精密な検査(ゴールドスタンダード)です。空腹時血糖値が正常でも食後の血糖値が急上昇する「食後高血糖」を発見でき、隠れた糖尿病予備群を見つけるのに非常に有効です。
- 重要な事前準備: 正確な結果を得るためには、検査前の3日間は1日150g以上の炭水化物を含む普段通りの食事を摂ることが推奨されます。6直前の炭水化物制限は、インスリン反応を鈍らせ、実際よりも高い血糖値を示してしまう可能性があるためです。
3.3. ヘモグロビンA1c(HbA1c)
- 内容: 過去1~2ヶ月間の平均的な血糖コントロール状態を反映する血液検査です。赤血球中のヘモグロビンというタンパク質が、血液中のブドウ糖とどのくらいの割合で結合したか(糖化されたか)を測定します。
- 目的: 検査当日の食事や運動などの短期的な影響を受けないため、長期間にわたる血糖管理の質を客観的に評価できます。糖尿病の診断だけでなく、治療効果の判定にも広く用いられます。
- 国際基準との整合性(NGSP値): 現在、日本の検査値は国際標準であるNGSP値に統一されています。これにより、海外のデータとの比較が容易になりました。過去のJDS値とは約0.4%の差があり、現在のNGSP値 6.5%は旧JDS値の約6.1%に相当します。
第4章:診断の確定プロセス — 「糖尿病型」から「糖尿病」へ
日本における糖尿病の正式な診断は、一過性の高血糖(例えば、感染症やストレスによるもの)を誤診しないよう、非常に慎重に行われます。そのため、「糖尿病型」という検査結果と、「糖尿病」という確定診断は明確に区別されます。7
4.1. 1回の検査で診断が確定するケース
初回検査だけで「糖尿病」と確定診断されるのは、慢性的な高血糖状態を示す揺るぎない証拠がある場合に限られます。
- 同一の採血で測定した血糖値(FPG、OGTT 2h値、随時血糖値のいずれか)とHbA1cが、両方とも「糖尿病型」の基準を満たした場合。
- 血糖値が「糖尿病型」であり、かつ口渇、多飲、多尿、体重減少などの典型的な高血糖症状が認められる場合。
- 血糖値が「糖尿病型」であり、かつ診察で確実な糖尿病網膜症(糖尿病に特異的な目の合併症)がすでに存在する場合。
4.2. 再検査が必要となるケース
上記の明確なケース以外、つまり血糖値かHbA1cのどちらか一方のみが「糖尿病型」であった場合は、「糖尿病の疑い」として後日再検査を行い、診断を確定させる必要があります。8
- 再検査は、初回検査とは別の日に実施する必要があります。JDSは「3~6か月以内に、なるべく1か月以内に」再検査を行うことを推奨しています。
- 非常に重要な注意点: JDSのガイドラインでは、HbA1cの反復測定のみで糖尿病と診断することはできないと明確に定められています。貧血や腎不全など、血糖値とは無関係にHbA1c値が変動する病態があるため、確定診断には少なくとも1回は血糖値による確認が必須です。9
4.3. 日本の糖尿病診断フロー
この診断プロセスは以下のように整理できます。
- 初回検査: 血糖値とHbA1cを測定します。
- 結果評価:
- 血糖値とHbA1cが両方とも糖尿病型、または血糖値が糖尿病型で典型症状や網膜症あり → 「糖尿病」と確定診断。
- 血糖値かHbA1cのどちらか一方のみが糖尿病型 → 「糖尿病の疑い」として、後日再検査へ。
- 再検査:
- 再検査でも再び血糖値が「糖尿病型」を示した場合 → 「糖尿病」と確定診断。
- 再検査で「糖尿病型」でなかった場合 → 「境界型」などに分類され、経過観察。
- 非糖尿病型: 初回検査でどちらも基準を満たさなかった場合は、「正常型」「正常高値」「境界型」に分類され、リスクに応じた指導や経過観察が行われます。
第5章:国際基準(ADA・WHO)との比較
日本の診断基準と、米国糖尿病協会(ADA)や世界保健機関(WHO)が用いる国際基準を比較すると、糖尿病そのものの診断閾値はほぼ世界共通であることがわかります。しかし、臨床現場で最も重要な違いは「糖尿病予備群」の定義にあります。10
ADAの基準では、空腹時血糖値が100mg/dLの時点から予備群(Prediabetes)とされ、HbA1c 5.7~6.4%も予備群の診断基準として採用されています。これは、より早い段階から介入を促すという公衆衛生上の考え方を反映しています。例えば、FPGが105mg/dLの人は、米国では「予備群」として積極的な介入が推奨されますが、日本では「正常高値」として注意喚起に留まるという違いが生じます。
| 基準項目 | JDSガイドライン(日本) | ADA/WHOガイドライン(国際)11 | 主な差異 |
|---|---|---|---|
| 糖尿病 | FPG ≥126, OGTT 2h ≥200, HbA1c ≥6.5% | FPG ≥126, OGTT 2h ≥200, HbA1c ≥6.5% | 高い整合性。糖尿病自体の診断閾値は世界的にほぼ同じです。 |
| 糖尿病予備群 | 境界型:
– FPG: 110–125 mg/dL – OGTT 2h: 140–199 mg/dL (FPG 100-109は「正常高値」) |
Prediabetes:
– FPG: 100–125 mg/dL – OGTT 2h: 140–199 mg/dL – HbA1c: 5.7–6.4% |
重要な差異。ADAはより低いFPG(100から)とHbA1cを予備群の診断に用いるため、対象者が広くなります。 |
| 正常 | FPG <110 かつ OGTT 2h <140 | FPG <100, OGTT 2h <140, HbA1c <5.7% | 正常と判断されるFPGの上限が日本の方が高い設定です。 |
| 診断プロセス | HbA1c単独での診断は不可。血糖値による確認が必須。 | 異なる2回の検査(または同一検体での2項目)で基準値以上なら診断可能。 | 日本のJDS基準は、誤診を防ぐためにより慎重な確認プロセスを重視しています。 |
第6章:特殊な状況下での診断基準
一般的な診断基準とは別に、妊婦や特定のタイプの糖尿病が疑われる場合には、特別な診断基準が適用されます。
6.1. 妊娠糖尿病(GDM)
妊娠糖尿病は、母体と胎児の双方に影響を及ぼす可能性があるため、一般の基準よりも厳格な基準で診断されます。日本の診断基準は国際基準に準拠しており、妊娠中に行う75g OGTTで、以下の3つの基準値のうちいずれか1つ以上を満たした場合に診断されます。12
- 空腹時血糖値: 92 mg/dL 以上
- 負荷後1時間値: 180 mg/dL 以上
- 負荷後2時間値: 153 mg/dL 以上
この基準を超えた場合は速やかに産科医や専門医の管理下で、食事指導や血糖測定などの対応が必要となります。
6.2. 緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM/LADA)
成人発症の自己免疫性糖尿病で、インスリンを産生するβ細胞がゆっくりと破壊されていく病態です。初期にはインスリン治療を必要としないため2型糖尿病と間違われやすいですが、適切な治療選択のために正確な診断が重要です。2023年に改訂されたJDSの診断基準では、膵島関連自己抗体(抗GAD抗体など)が陽性であることが必須条件となります。13
- SPIDDM(definite – 確定診断): 自己抗体が陽性で、経過とともにインスリン分泌能が徐々に低下し、最終的にインスリン欠乏状態(空腹時血清Cペプチド値 < 0.6 ng/mL)に至った場合。
- SPIDDM(probable – 可能性が高い): 自己抗体は陽性だが、診断時点ではまだインスリン分泌能が保たれている状態(空腹時Cペプチド値 ≥ 0.6 ng/mL)。将来的にインスリン欠乏に至る可能性があるため、注意深い経過観察が必要です。
第7章:診断後の次のステップ
糖尿病の診断は終わりではなく、合併症を予防し、健康な生活を長く続けるための新たなスタートです。治療の目標と具体的な行動を理解することが、主体的な病気管理につながります。
7.1. 包括的な治療目標
治療目標は個々の状態に応じて設定されますが、JDSのガイドラインでは合併症予防のための一般的な目標値が示されています。14
| 管理指標 | 目標値 | 注記 |
|---|---|---|
| HbA1c | < 7.0% | 年齢や合併症の有無、低血糖リスクなどを考慮し、個別に目標を調整します。 |
| 空腹時血糖値 | < 130 mg/dL | 上記のHbA1c目標に対応する目安です。 |
| 食後2時間血糖値 | < 180 mg/dL | 上記のHbA1c目標に対応する目安です。 |
| 血圧 | < 130/80 mmHg | 高血圧は心血管疾患の大きなリスク因子です。 |
| LDLコレステロール | < 120 mg/dL | 心血管疾患のリスクが高い場合は、より厳しい目標(<100や<70)が設定されます。 |
| 体重(肥満の場合) | 3%以上の減量 | 体重を少し減らすだけでも、インスリン抵抗性が大きく改善します。 |
7.2. 治療の基本となる生活習慣の改善
特に2型糖尿病において、食事療法と運動療法はあらゆる薬物治療の基盤となります。
- 食事療法: カロリー制限だけでなく、栄養バランスの取れた食事を規則正しく摂ることが重要です。食物繊維を多く含む野菜や全粒穀物を増やし、飽和脂肪酸や単純糖質の摂取を控えることが推奨されます。
- 運動療法: ウォーキングなどの有酸素運動(週150分以上)と、筋力トレーニング(週2~3回)を組み合わせることで、インスリン感受性の改善や血糖コントロールの安定化が期待できます。
- その他: 禁煙、適切な睡眠、ストレス管理も血糖コントロールに良い影響を与えることが知られています。
よくある質問
HbA1c 6.2%は日本だと何に該当しますか?
HbA1c 6.2%は、日本の基準では糖尿病型(6.5%以上)には至りませんが、「境界型」の可能性が高いと考えられます。これは糖尿病予備群に相当するため、放置すると糖尿病に進行するリスクがあります。医師と相談の上、OGTTなどの追加検査を検討したり、生活習慣の見直しを開始することが強く推奨される数値です。
OGTT(ブドウ糖負荷試験)はなぜ必要ですか?
空腹時血糖値(FPG)が正常でも、食後の血糖値が異常に高くなる「食後高血糖」の状態の人がいます。OGTTは、ブドウ糖を摂取した後の体のインスリン反応を直接評価できるため、FPGだけでは見逃されてしまう可能性のある初期の糖代謝異常や糖尿病予備群を正確に発見するために非常に有用な検査です。
自己血糖測定器で糖尿病の診断はできますか?
いいえ、できません。指先などで測定する簡易血糖測定器(POCT/SMBG)は、あくまで日々の血糖管理の目安として用いるものであり、その測定値は正式な臨床診断には使用できません。JDSのガイドラインでも、診断には医療機関での静脈血漿を用いた検査が必要であると定められています。17
HbA1cだけで糖尿病と診断できますか?
できません。日本の診断基準では、HbA1cの反復測定のみで糖尿病と診断することは認められていません。確定診断のためには、血糖値(FPG、OGTT、随時血糖のいずれか)での確認が少なくとも一度は必要です。これは、他の病気(貧血、腎不全など)がHbA1c値に影響を与える可能性があるためです。
研究者・医療者向け:JDSとADAの基準の最も大きな違いは何ですか?
最も大きな違いは予備群の定義です。ADAはFPG 100-125mg/dLおよびHbA1c 5.7-6.4%を予備群とするのに対し、JDSはFPG 110-125mg/dLを「境界型(予備群)」とし、FPG 100-109mg/dLを「正常高値」として区別します。また、JDSはHbA1cを予備群の単独の診断基準としては採用していません。この違いは、介入対象者の範囲設定に関する公衆衛生上の考え方の差を反映していると言えます。
結論
糖尿病の診断基準を正しく理解することは、ご自身の健康状態を正確に把握し、適切な次のステップに進むために不可欠です。日本の診断プロセスは慎重ですが、それは確実な診断を保証するためのものです。検査結果が基準値を超えていたとしても、それは悲観することではなく、より健康な未来を築くための重要なスタートラインです。特に、糖尿病予備群の段階であれば、生活習慣の改善によって病気の進行を防ぎ、正常な状態に戻すことも十分に可能です。この記事で得た知識をもとに、かかりつけ医とよく相談し、ご自身に合った健康管理を始めてください。
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題については、必ず資格を持つ医療専門家にご相談ください。
更新履歴
最終更新:2025年10月08日(Asia/Tokyo)
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日付:2025年10月08日(Asia/Tokyo)編集者:JHO編集部変更種別:P0(事実訂正/一次資料への準拠)対象範囲:導入部、第2章、第4章、第5章、第6章、FAQ変更内容:主要な主張(患者数、診断基準、予備群定義など)の出典を、厚生労働省「令和5年患者調査」、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」、ADA「Standards of Care 2024/2025」等の一次資料に更新・統一しました。HbA1c単独での診断不可、OGTT前の食事条件などの記述を強化しました。品質確認:編集部で再校し、出典との整合性およびリンクの到達性を再確認済みです。監査ID:JHO-REV-20251008-01
参考文献
- 厚生労働省. 『令和5年患者調査 結果の概要』. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/23/index.html. ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』. 2024. ↩︎
- 日本糖尿病学会. 「緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準(2023)」. 『糖尿病』. 2023;66(7):587-589. https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/66/7/66_587/_article/-char/ja. ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』. 第1章 糖尿病診断の指針. https://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=14. ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』. 第1章 糖尿病診断の指針(表1-1 糖代謝異常の区分). ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』. 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の項. (注:OGTT前3日間は150g以上の炭水化物摂取が推奨されている旨の記載に基づく). ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』. 第1章 糖尿病診断の指針(図1-1 糖尿病の診断手順). ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』. 第1章 糖尿病診断の指針(ポイントおよび本文). ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』. 第1章 糖尿病診断の指針(「HbA1cのみを繰り返し測定して糖尿病の診断はできない」という趣旨の記載に基づく). ↩︎
- American Diabetes Association. “2. Diagnosis and Classification of Diabetes: Standards of Care in Diabetes—2024.” Diabetes Care. 2024;47(Supplement_1):S20-S42. https://diabetesjournals.org/care/issue/47/Supplement_1. ↩︎
- American Diabetes Association. “2. Diagnosis and Classification of Diabetes: Standards of Care in Diabetes—2024.” (Table 2.2 Criteria for the diagnosis of diabetes, Table 2.3 Categories of increased risk for diabetes (prediabetes)). ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』. 第17章 妊婦の糖代謝異常. ↩︎
- 日本糖尿病学会. 「緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準(2023)」. 2023. ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病治療ガイド 2022-2023』. (包括的管理目標の参照). ↩︎
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). “Prediabetes – Your Chance to Prevent Type 2 Diabetes”. https://www.cdc.gov/diabetes/basics/prediabetes.html. ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』. 第1章(「正常高値」の定義に基づく). ↩︎
- 日本糖尿病学会. 『糖尿病診療ガイドライン2024』. 第1章(POCT機器の診断使用に関する方針に基づく). ↩︎

