【科学的根拠に基づく】糖尿病管理における豆腐の役割のすべて:専門家による完全ガイド
糖尿病

【科学的根拠に基づく】糖尿病管理における豆腐の役割のすべて:専門家による完全ガイド

糖尿病を患う方にとって、豆腐は食事療法に取り入れても良いのでしょうか。JapaneseHealth.org編集部としての結論から言えば、豆腐は単に許容されるだけでなく、糖尿病管理において「スーパーフード」とも言えるほど強く推奨される食品です。そのユニークな栄養組成と生理活性物質は、血糖コントロール、インスリン感受性の改善、心血管系の保護、そして体重管理といった多岐にわたる側面から、糖尿病患者を力強くサポートします。本稿では、まず豆腐が持つ栄養学的特性を木綿と絹ごしの違いを含めて詳細に解説し、次に、豆腐の摂取が2型糖尿病やその合併症のリスクをいかに低減させるかについて、最新の科学的根拠を提示します。さらに、その効果をもたらす生物学的なメカニズムを解き明かし、日々の食事に賢く取り入れるための具体的な方法、そして最も重要な安全上の注意点までを網羅的に論じます。この包括的なガイドを通じて、糖尿病と向き合うすべての方が、豆腐を自身の健康管理に最大限活用するための知識を得ることを目指します。


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下の一覧には、実際に参照された情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性が含まれています。

  • Soy Connection: 本記事における糖尿病の食事療法に関する指針は、情報源として引用されているSoy Connection発行の報告に基づいています。1
  • 米国糖尿病協会 (American Diabetes Association): 糖尿病患者向けのタンパク質が豊富な食品に関する推奨事項は、米国糖尿病協会の公開情報に基づいています。2
  • 日本糖尿病学会: 食物繊維の摂取に関する推奨は、日本糖尿病学会が発行したガイドラインに基づいています。23
  • 食品安全委員会: 大豆イソフラボンの安全性に関する記述は、日本の食品安全委員会が設定した基準に基づいています。28
  • 厚生労働省: 大豆製品に関する一般的な情報や指針は、厚生労働省および農林水産省の公開資料に基づいています。293137
  • 複数のメタアナリシス研究: 豆腐の摂取と2型糖尿病および心血管疾患リスクとの関連性に関する記述は、Nutrients誌15、The American Journal of Clinical Nutrition誌16、Diabetes Research and Clinical Practice誌17に掲載された複数のメタアナリシス研究に基づいています。

要点まとめ

  • 豆腐は低グリセミック・インデックス(GI)、低炭水化物、高品質なたんぱく質を特徴とし、食後の血糖値の急上昇を抑制するため、糖尿病食事療法の基盤として極めて有効です。
  • 複数の大規模研究により、豆腐を含む大豆製品の習慣的な摂取が、2型糖尿病および心血管疾患の発症リスクを有意に低下させることが科学的に証明されています。
  • 豆腐に含まれる大豆イソフラボンはインスリン抵抗性を改善し、食物繊維は糖の吸収を穏やかにするなど、複数のメカニズムが複合的に作用して代謝をサポートします。
  • 木綿豆腐はたんぱく質やミネラルが豊富で満腹感を得やすく、絹ごし豆腐は低カロリーで腎機能への配慮が必要な場合に適しており、個々の健康状態に応じた選択が重要です。
  • 糖尿病性腎症など特定の合併症がある場合は、たんぱく質、リン、カリウムの摂取制限が必要になるため、必ず主治医や管理栄養士の指導のもとで食事プランを立てる必要があります。

第1章 豆腐の栄養設計:血糖コントロールの基盤

豆腐が糖尿病管理に非常に適している根源は、その卓越した栄養設計にあります。高品質な植物性たんぱく質が豊富である一方、血糖値を急上昇させる炭水化物の含有量が極めて少なく、グリセミック・インデックス(GI)も低いという特性を併せ持っています1。GI値とは、食後の血糖値の上昇度合いを示す指標であり、大豆のGI値は14と、白米(72)や食パン(90以上)といった主食と比較して著しく低い値です3。この低GI・低炭水化物という組み合わせが、食後の血糖値の乱高下を防ぎ、安定した血糖コントロールを実現するための強力な基盤となります。例えば、豆腐3オンス(約85g)あたりの炭水化物はわずか2g程度です1

木綿豆腐と絹ごし豆腐の詳細比較

日本で一般的に消費される豆腐には、主に「木綿」と「絹ごし」の2種類があり、その製法の違いから栄養価に明確な差が生まれます。この違いを理解することは、個々の健康目標に応じた最適な選択を行う上で不可欠です。木綿豆腐は、豆乳を固めた後に圧力をかけて水分を絞るため、栄養素が凝縮される傾向にあります。一方、絹ごし豆腐は水分を抜かずにそのまま固めるため、より滑らかな食感で水分含有量が多くなります4

表1:木綿豆腐と絹ごし豆腐の栄養成分比較(100gあたり)
栄養素 木綿豆腐 絹ごし豆腐 データソース
エネルギー (kcal) 73 56 6
たんぱく質 (g) 7.0 5.3 6
脂質 (g) 4.9 3.5 8
炭水化物 (g) 0.4 1.1 8
食物繊維 (g) 1.1 0.9 7
カルシウム (mg) 93 75 6
マグネシウム (mg) 57 54 7
鉄 (mg) 1.5 1.2 6
リン (mg) 88 68 8
カリウム (mg) 110 150 7
出典:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」に基づく各情報源より作成

この比較から、個々の健康状態や食事療法の目的に応じた戦略的な選択が可能になります。

  • 木綿豆腐が推奨される場合:たんぱく質9、カルシウム、鉄、食物繊維が豊富であるため、筋肉量の維持、骨の健康、そして満腹感を得たい場合に最適です。食べ応えがあるため、食事全体の満足感を高め、主食の量を自然に減らす助けにもなります10
  • 絹ごし豆腐が推奨される場合:カロリー、たんぱく質、リンが少ないため、厳格なカロリー制限が必要な場合や、後述する糖尿病性腎症のようにたんぱく質やリンの摂取制限が求められる場合に極めて重要となります11。また、水分とともにカリウムやビタミンB群が多く残存する特徴もあります7

豆腐の真価は、単一の栄養素ではなく、これらの要素が組み合わさった「栄養的に高密度かつ低血糖負荷」というパッケージにあります。多くの動物性たんぱく源に含まれがちな飽和脂肪酸やコレステロールを伴わずに、必須アミノ酸をすべて含む高品質なたんぱく質14と必須ミネラルを供給します13。このユニークな立ち位置こそが、豆腐を糖尿病食事療法の要とたらしめる理由です。したがって、「豆腐を食べる」という行為は、単なる食品選択にとどまらず、特に腎症などの合併症を考慮に入れる場合には、治療戦略の一環としての極めて重要な判断となるのです。

第2章 科学的根拠:糖尿病および心血管疾患への豆腐の影響

豆腐を含む大豆製品の摂取が、メタボリックヘルスに有益であることは、質の高い多数の科学的研究によって裏付けられています。特に、複数の前向きコホート研究を統合・解析したメタアナリシスは、その効果に関する信頼性の高い証拠を提供しています15

2型糖尿病(T2D)発症リスクの低減

複数の大規模研究が、大豆製品の習慣的な摂取と2型糖尿病の発症リスク低下との間に関連があることを示しています。あるメタアナリシスでは、大豆製品の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて2型糖尿病の発症リスクが17%低いことが報告されました(総相対リスク (TRR) = 0.83)15

さらに、大豆製品の種類を細かく分析した研究では、特に豆腐、大豆たんぱく、大豆イソフラボンの摂取が2型糖尿病の発症リスクと逆相関にあることが示されています。具体的には、豆腐の摂取でリスクが8%(相対リスク (RR) = 0.92)、大豆たんぱくで16%(RR = 0.84)、大豆イソフラボンで12%(RR = 0.88)低下するという結果でした16。興味深いことに、一部の研究では「総大豆摂取量」としては有意な関連が見られず、豆腐のような特定の製品で強い関連が見られることから、摂取する大豆製品の「種類」や「質」が重要である可能性が示唆されています16

心血管疾患(CVD)リスクの改善

糖尿病は心血管疾患(CVD)の強力なリスク因子であり、両者の管理は密接に関連しています19。豆腐の利点は、この極めて重要な合併症の予防にも及びます。大豆製品の高摂取は、CVD全体のリスクを13%18、特に冠状動脈性心疾患のリスクを21%低下させると報告されています15

特に注目すべきは、非常に具体的で実践的な摂取量に関する知見です。あるメタアナリシスでは、1日あたりわずか26.7gの豆腐を摂取するだけで、CVDのリスクが18%も低下する(TRR = 0.82)という結果が示されました15。これは、日常の食事に豆腐を少量加えるという、達成可能な介入が、健康に大きな利益をもたらしうることを意味します。また、豆腐の摂取は、悪玉とされるLDLコレステロールや総コレステロール値を低下させる効果も確認されており、脂質異常症の改善を通じて心血管系を保護します19

表2:大豆・豆腐摂取と健康アウトカムに関する主要メタアナリシスの概要
研究/著者 (発表年, 雑誌名) 研究タイプ 主要な発見(アウトカムとリスク低下) 特記事項/サブグループ
Zhang X, et al. (2023, Nutrients)15 メタアナリシス T2Dリスク: 17%低下 (TRR=0.83)
CVDリスク: 13%低下 (TRR=0.87)
1日26.7gの豆腐摂取でCVDリスクが18%低下
Li H, et al. (2020, Am J Clin Nutr)16 メタアナリシス T2Dリスク: 豆腐で8%低下 (RR=0.92)
大豆たんぱくで16%低下 (RR=0.84)
用量反応関係を認める。エビデンスの質は低い~中程度と評価
Li W, et al. (2018, Diabetes Res Clin Pract)17 メタアナリシス T2Dリスク: 全体で23%低下 (RR=0.77) 女性 (RR=0.65) とアジア人集団 (RR=0.73) で特に効果が顕著
Sae-tan S, et al. (2022, J Nutr Biochem)19 RCTのメタアナリシス T2D患者において、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪を有意に低下 血糖値やHbA1cへの直接的な影響は限定的だが、脂質プロファイルを改善

これらの研究結果は、単なる相関関係以上のものを示唆しています。摂取量が多いほどリスクが低下するという「用量反応関係」が見られることは、豆腐の摂取が健康改善の単なる指標ではなく、原因の一つである可能性を高めます16。また、アジア人集団でより強い保護効果が見られるという知見は17、豆腐を長年にわたり食してきた日本の食文化の健康上の利点を科学的に裏付けるものであり、日本の糖尿病患者にとって大きな意味を持つと言えるでしょう。

第3章 作用機序:豆腐はいかにして代謝をサポートするのか

豆腐が糖尿病管理に多面的に貢献する理由は、単一の成分によるものではなく、複数の有効成分が相互に作用し合う「システムズアプローチ」にあります13。その主要なメカニズムは以下の4つに大別されます。

1. 高品質なたんぱく質

豆腐に含まれるたんぱく質は、消化吸収が炭水化物よりも緩やかであるため、食後の血糖値の急激な上昇を抑制します21。また、満腹感を持続させる効果が高く、食事全体の摂取カロリーを抑えることにつながり、2型糖尿病管理の根幹である体重管理を助けます22。さらに、大豆たんぱくは必須アミノ酸をすべてバランス良く含む「完全たんぱく質」であり、肉類に代わる優れたたんぱく源となります13

2. 食物繊維

特に木綿豆腐に多く含まれる食物繊維は、消化管内での糖の吸収速度を遅らせる働きがあります21。これにより、食事由来のブドウ糖が血液中に取り込まれるスピードが緩やかになり、食後高血糖が効果的に抑制されます。日本糖尿病学会も、血糖コントロールのために食物繊維の積極的な摂取を推奨しており、豆腐はその優れた供給源の一つです23

3. 大豆イソフラボン

豆腐の機能性を語る上で最も重要な生理活性物質が、大豆イソフラボンです。この物質は、2型糖尿病の根本的な原因であるインスリン抵抗性を改善する働きがあると考えられています20。研究によれば、イソフラボンはインスリンの働きを助け、細胞へのグルコースの取り込みを促進する可能性が示唆されています20。具体的には、グルコースの取り込みを調節する重要な受容体(PPARsなど)を活性化させることで、インスリンに対する体の感受性を高める作用が期待されます13。これにより、より少ないインスリンで効率的に血糖をコントロールできるようになります。さらに、イソフラボンは抗酸化作用25や抗炎症作用も持ち合わせており、糖尿病に伴う慢性的な炎症や酸化ストレスを軽減する効果も期待できます13

4. 健康的な脂質とその他の成分

豆腐には、多価不飽和脂肪酸(リノール酸など)、レシチン、スティグマステロールといった健康に有益な脂質関連成分が含まれています。これらの成分は、糖尿病患者でしばしば問題となる血中脂質プロファイルを改善し、LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪を低下させる働きがあります5。また、一部の動物性たんぱく質と比較して、インスリン抵抗性との関連が指摘される分岐鎖アミノ酸(BCAA)の含有量が低いことも、代謝面での利点と考えられています13

これらのメカニズムが複合的に働くことで、豆腐は単に血糖値を上げにくい食品であるだけでなく、インスリン抵抗性の改善、脂質異常症の是正、体重管理、抗炎症といった、糖尿病管理における複数の課題に同時にアプローチできる包括的な治療食としての役割を果たします38。このことは、単離されたサプリメントよりも、たんぱく質、食物繊維、イソフラボン、健康的な脂質が共存する「ホールフード」としての豆腐を摂取することの重要性を示唆しています。

第4章 実践ガイド:糖尿病食事プランへの豆腐の組み込み方

科学的根拠と作用機序を理解した上で、次に重要なのは、それを日々の食生活に効果的に落とし込むことです。豆腐の価値は、それを「どのように使うか」によって最大化されます。

最適な豆腐の選択

まず、自身の健康状態に合わせて豆腐の種類を選びます。これは第1章で詳述した通りです。

  • 満腹感や栄養強化が目的の場合:たんぱく質やミネラルが豊富な木綿豆腐を選択します。
  • カロリー制限や腎機能への配慮が必要な場合:低カロリー・低たんぱく・低リンである絹ごし豆腐を選択します。

適量と頻度

研究では1日あたり約27gという少量でも心血管疾患リスクの低下が見られることから15、毎日少しずつでも継続することが重要です。一般的な目安としては、1日に半丁(約150g)程度を食事に取り入れるのが現実的で、後述する安全性の範囲内にも収まります。

賢い組み合わせ戦略

豆腐の最も効果的な使い方の一つが、「炭水化物の緩衝材」としての活用です。

  • 「炭水化物バッファー」テクニック:ご飯やパン、麺類といった炭水化物を多く含む主食と一緒に豆腐を食べることが強く推奨されます21。豆腐に含まれるたんぱく質と食物繊維が、主食由来の糖の吸収を遅らせ、食後の血糖値の上昇カーブを緩やかにする「ブレーキ」の役割を果たします39。これは非常に実践的で効果の高いテクニックです。
  • 主食との置き換え:食事の満足感を維持しつつ全体の炭水化物量を減らすために、ご飯の量を少し減らし、その分、冷奴や湯豆腐を一品加えるという方法も有効です10

健康的な調理法

調理法によって、豆腐の健康効果は大きく変わります40

  • 推奨される調理法:冷奴、湯豆腐、味噌汁の具、油を少量で済ませる炒め物26、焼き豆腐、煮物など、シンプルで低脂肪な調理法が理想的です1
  • 制限・注意が必要な調理法:揚げ出し豆腐や、砂糖やみりんを多用した甘辛いあんかけ36などは、余分な脂質や糖質を大量に加えてしまい、豆腐本来の利点を損なうため避けるべきです。

これらの戦略を駆使することで、豆腐は単なる食材から、血糖値を能動的に管理するための「食事ツール」へと昇華します。「何を食べるか」だけでなく「どう食べるか」を意識することが、糖尿病管理の質を大きく向上させる鍵となります。

第5章 重要な考慮事項と安全性のプロトコル

豆腐は非常に有益な食品ですが、安全に摂取するためにはいくつかの重要な注意点、特に合併症の有無を考慮に入れる必要があります。

大豆イソフラボンの安全性

日本の食品安全委員会は、大豆イソフラボンの安全な1日摂取目安量の上限値を、全食品からの総摂取量として70~75 mg(アグリコン換算)と設定しています28。重要なのは、この数値は通常の食事からの摂取に加えて、サプリメントや特定保健用食品から「上乗せ」する場合の安全性を考慮したものである点です。サプリメントなどから追加で摂取する場合の上限値は、1日あたり30 mgとされています2930

一般的な豆腐1丁(約300g)に含まれるイソフラボンは約60~80 mgであり、通常の食事でこの上限値を大幅に超え続けることは稀です。したがって、日常的な食事で豆腐を食べる分には過度な心配は不要ですが、高濃度にイソフラボンを含むサプリメントを併用する際には注意が必要です28

糖尿病性腎症(腎臓病)との関連

糖尿病の合併症として腎臓病(糖尿病性腎症)を発症している場合、食事療法の原則は大きく変わります。これは最も注意すべき点です。腎機能が低下すると、体内の老廃物や特定のミネラルの排泄能力が落ちるため、食事内容を厳密に調整する必要があります32

  • 制限すべき3つの栄養素:腎症の食事療法では、一般的にたんぱく質、リン、カリウムの摂取制限が求められます。
    • たんぱく質:過剰なたんぱく質は、老廃物となって腎臓にさらなる負担をかけるため、摂取量を制限する必要があります11
    • リン、カリウム:これらのミネラルは腎機能が低下すると体内に蓄積しやすく、重篤な健康問題を引き起こす可能性があります。
  • 腎症患者への具体的な推奨:この場合、栄養が凝縮された木綿豆腐は避けるべきです。たんぱく質、リン、カリウムの含有量が有意に少ない絹ごし豆腐を選択することが絶対条件となります11。豆腐に含まれるリンは植物性のため、肉類に含まれる無機リンより吸収率は低いとされていますが12、それでも摂取量の管理は不可欠です。

糖尿病性腎症と診断された場合は、自己判断で食事療法を行うことは極めて危険です。必ず主治医や管理栄養士の指導のもと、個々の病状に合わせたパーソナライズされた食事プランを立てる必要があります3334

このように、豆腐の推奨は万人に一律ではなく、個々の健康状態、特に合併症の有無によって最適解が異なります。この「状況依存性」を理解することが、安全かつ効果的な食事療法の鍵となります。

第6章 理論から実践へ:食事メニュー例とレシピのヒント

豆腐の多様性を示すため、日本の食生活に簡単に取り入れられる、糖尿病に配慮した食事のアイデアを以下に示します27

  • 朝食:絹ごし豆腐とわかめ、ネギを入れた温かい味噌汁。たんぱく質と野菜を手軽に摂取できます。
  • 昼食:玄米ご飯、焼き魚、蒸し野菜を中心とした弁当に、副菜として崩した木綿豆腐を和えたほうれん草の胡麻和えを追加。たんぱく質を補強し、満足感を高めます。
  • 夕食:
    • 豆腐ステーキ きのこあんかけ:食べ応えのある主菜です。厚めに切った木綿豆腐の表面をフライパンで香ばしく焼き、醤油、だし、少量の甘味料で作った低糖質のあんに、血糖上昇を緩やかにする舞茸などのきのこを加えてかけます35
    • 豆腐と鶏肉の雑炊:ご飯の量を控えめにし、その分、崩した豆腐をたっぷり加えることで、低糖質ながら満腹感のある一品になります27
    • ヘルシー麻婆豆腐:ひき肉を鶏むね肉や赤身の多い部位にし、油の使用を控え、野菜をたっぷり加えます。塩分や糖分に頼らず、豆板醤や山椒などの香辛料で風味豊かに仕上げます。
  • 副菜・軽食:薬味(生姜、ネギ、みょうが)を添えた冷奴や、角切りにした豆腐と海藻、野菜を和えたシンプルなサラダ。

これらのアイデアは、豆腐が単調な食材ではなく、工夫次第で様々に楽しめることを示しています。管理栄養士が監修するレシピサイトなどを参考に、レパートリーを広げることも推奨されます26。食事療法は継続が不可欠であり、そのためには「美味しさ」と「手軽さ」が重要な要素となります。

よくある質問

豆腐に含まれるイソフラボンの摂取量に上限はありますか?

はい、日本の食品安全委員会は、大豆イソフラボンの安全な1日摂取目安量の上限を70~75 mg(アグリコン換算)と定めています28。これは通常の食事からの摂取に加えて、サプリメントなどで「上乗せ」する場合を考慮した数値です。豆腐1丁(約300g)で約60~80mgのイソフラボンが含まれるため、通常の食事で豆腐を食べる分には問題ありませんが、イソフラボンを高濃度に含むサプリメントなどを併用する際は、合計摂取量に注意が必要です。

糖尿病性腎症でも豆腐を食べて良いですか?

細心の注意が必要です。糖尿病性腎症を発症している場合、たんぱく質、リン、カリウムの摂取を制限する必要があります1132。この場合、栄養素が凝縮されている木綿豆腐は避け、これらの含有量が少ない絹ごし豆腐を選択することが推奨されます。しかし、自己判断は極めて危険です。必ず主治医や管理栄養士に相談し、ご自身の病状に合わせた個別の食事指導を受けてください33

最も健康的な豆腐の食べ方は何ですか?

冷奴、湯豆腐、味噌汁の具など、シンプルで余分な油や糖質を加えない調理法が最も健康的です1。特に、ご飯などの主食と一緒に食べることで、主食由来の糖の吸収を穏やかにする「炭水化物バッファー」としての効果が期待でき、食後の血糖コントロールに役立ちます21。揚げ出し豆腐や甘辛い味付けの料理は、豆腐本来の利点を損なう可能性があるため注意が必要です。

結論

本稿で詳述した通り、豆腐は低GI・低炭水化物・高たんぱく質という特性を持ち、血糖コントロール24、インスリン感受性の改善、そして心血管疾患リスクの低減に貢献する、糖尿病患者にとって非常に価値の高い食品です。科学的根拠は、その日常的な摂取がメタボリックヘルスに多面的な利益をもたらすことを強く支持しています。

結論として、合併症のない多くの糖尿病患者にとって、豆腐は安全かつ安価で、食事療法に極めて効果的に組み込める食材であると言えます。木綿と絹ごしの栄養的な違い5を理解し、自身の健康目標に応じて選択することが推奨されます。

しかし、その効果を最大限に引き出すためには、豆腐を単体で考えるのではなく、野菜や食物繊維が豊富なバランスの取れた食事、定期的な身体活動、ストレス管理といった、包括的な生活習慣改善の一環として位置づけることが不可欠です37

そして最も重要なことは、本稿で提供された情報は、専門的な医学的アドバイスに代わるものではないという点です。特に糖尿病性腎症などの合併症がある場合や、複数の薬剤を服用している場合は、食事内容が治療に大きな影響を及ぼす可能性があります。したがって、食事プランの変更にあたっては、必ず主治医や管理栄養士に相談し、自身の健康状態に完全に適合した、個別化された指導を受けることが絶対条件です33

        免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. Soy Connection. Ready to Go Plant-Based | Diabetes Management [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.soyconnection.com/continuing-education/education-credits/newsletter-article-list/diabetes-on-a-plant-based-diet
  2. American Diabetes Association. Best Protein-Rich Foods for Diabetes [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://diabetes.org/food-nutrition/reading-food-labels/protein
  3. Mount Sinai. Diabetes diet Information [インターネット]. New York; [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.mountsinai.org/health-library/report/diabetes-diet
  4. Health2Sync. 豆腐の栄養と効能がスゴイ!~木綿・絹の違いや効果アップの食べ方も紹介 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://health2sync.com/ja/blog/tofu-nutrition/
  5. Health2Sync. 豆腐のカロリーと糖質は少ない?種類別の比較や他の栄養素について解説 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://health2sync.com/ja/blog/tofu-kcal-carbo/
  6. grape. 絹と木綿、栄養価が高いのは? 管理栄養士が教える『正解』は… [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://grapee.jp/1786146
  7. ウェザーニュース. 木綿豆腐vs絹ごし豆腐、どちら派が多い? 栄養面や適した料理に違い!? [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://weathernews.jp/s/topics/202107/090265/
  8. じんぞうの学校. 豆腐 | じんぞうの学校 | 腎臓のことをお伝えする情報サイト [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://jinzonaika.com/media/kidneyfood/recipe/tofu/
  9. 大阪ガス. 豆腐のタンパク質はどのくらい?ほかの食品との比較や栄養価を解説 – Daigasコラム [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://column.osakagas.co.jp/living/meal/article/5107/
  10. ヨガジャーナルオンライン. 豆腐が糖尿病予防に良い?管理栄養士が「豆腐」を勧めたい理由とは [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://yogajournal.jp/23815
  11. 東京新橋透析クリニック. 大豆は食べても大丈夫?透析患者さんの大豆製品の摂り方 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.toseki.tokyo/blog/redbean/
  12. 赤羽もりクリニック. 豆腐と腎臓 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://akabanejinzonaika.com/blog/kidney-school/tofu
  13. News-Medical.Net. How does soy consumption affect the risk of type 2 diabetes and cardiovascular diseases? [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.news-medical.net/news/20230315/How-does-soy-consumption-affect-the-risk-of-type-2-diabetes-and-cardiovascular-diseases.aspx
  14. Harvard T.H. Chan School of Public Health. Protein – The Nutrition Source [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://nutritionsource.hsph.harvard.edu/what-should-you-eat/protein/
  15. Zhang X, Wang Z, Tian Z, Li Y, Liu Y, Wang P. Soy Consumption and the Risk of Type 2 Diabetes and Cardiovascular Diseases: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients. 2023;15(6):1358. doi:10.3390/nu15061358. PMID: 36986086.
  16. Li H, Ruan X, Wang D, Xu J. Legume and soy intake and risk of type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies. Am J Clin Nutr. 2020;111(4):936-948. doi:10.1093/ajcn/nqaa008. PMID: 31915830.
  17. Li W, Ruan W, Peng Y, Wang D. Soy and the risk of type 2 diabetes mellitus: A systematic review and meta-analysis of observational studies. Diabetes Res Clin Pract. 2018;137:190-199. doi:10.1016/j.diabres.2018.01.010. PMID: 29407270.
  18. MDPI. Soy Consumption and the Risk of Type 2 Diabetes and Cardiovascular Diseases: A Systematic Review and Meta-Analysis [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.mdpi.com/2072-6643/15/6/1358
  19. Sae-tan S, Thongmuang P, La-ongkham O, Niyomnaitham S, Sae-tan S. The Effects of Soy Products on Cardiovascular Risk Factors in Patients with Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Meta-analysis of Clinical Trials. J Nutr Biochem. 2022;103:108967. doi:10.1016/j.jnutbio.2022.108967. PMID: 35149178.
  20. 糖尿病ネットワーク. 「大豆」が糖尿病リスクを減少 コレステロールや血糖が下がる [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://dm-net.co.jp/calendar/2019/029545.php
  21. けんびクリニック. 豆腐は食べ過ぎに注意!糖尿病の予防に良い理由と食べ過ぎによるデメリットを解説 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://kenbi-clinic.com/column/2023-10-12-1357/
  22. YouTube. Diabetes in young people: The Lancet Series on early-onset type 2 diabetes [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.youtube.com/watch?v=xUpb-SytHCc
  23. 日本糖尿病学会. 健康食スタートブック [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/kenkoshoku_startbook/kenkoshoku_startbook.pdf
  24. 日本糖尿病学会. 3 章 食事療法 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/03_1.pdf
  25. CiNii Research. 大豆製品の活性酸素消去活性について [インターネット]. 国立情報学研究所; [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001205693672064
  26. American Diabetes Association. Asian Tofu Stir-Fry [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://diabetesfoodhub.org/recipes/asian-tofu-stir-fry
  27. おいしい健康. 糖尿病 豆腐レシピ 全215品 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://oishi-kenko.com/recipes?icon_id=20&page=2&q=%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85+%E8%B1%86%E8%85%90
  28. 食品安全委員会. 大豆イソフラボン [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.fsc.go.jp/e-mailmagazine/sousyuhen.data/09.pdf
  29. 厚生労働省. 大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0202-1a.html
  30. フジッコ. イソフラボンは1日30mg(アグリコン)以上摂るべきではない? [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.fujicco.co.jp/corp/rd/isoflavone/topics/03.html
  31. 農林水産省. 大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_daizu_qa/
  32. ビースタイル. 腎臓病で食べてはいけないもの|気をつけるべき3栄養素を解説 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.b-style-msc.com/blog/?p=533
  33. 日本栄養士会. 健康増進のしおり 2014-3 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.dietitian.or.jp/assets/data/learn/marterial/teaching/2014-3.pdf
  34. 日本栄養士会. 実践・事例集 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.dietitian.or.jp/data/yorisori_case.pdf
  35. メディカルドック. 糖質オフ・ヘルシーだけど食べ応えあり! 「豆腐ステーキ・きのこガーリックのせ」【糖尿病予防レシピ】 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://medicaldoc.jp/m/column-m/202402recipe035/
  36. YouTube. 豆腐ボール甘酢あん~病院・管理栄養士監修の腎臓病・糖尿病向け [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.youtube.com/watch?v=eQWR6tuoD-I
  37. 厚生労働省eJIM. 糖尿病[各種疾患 – 医療者] [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c05/03.html
  38. YouTube. Type 2 Diabetes — Controlling the Epidemic (Episode 3 of 4) | NEJM [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.youtube.com/watch?v=FpOXalE0Ho8
  39. YouTube. 血糖値実験【豆腐】内科医が食べ比べて検証 [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://www.youtube.com/watch?v=hkMEhhR9zGo&pp=0gcJCf0Ao7VqN5tD
  40. MCクリニック. 【実践編】糖尿病の食事で気を付けるべきポイント-メニューや調理方法について [インターネット]. [引用日: 2025年6月26日]. Available from: https://mc-naika.com/news/tounyoubyou/menu/
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ